『完結』(番外あり)ロクでなし魔術講師と帝国軍魔導騎士長エルレイ 作:エクソダス
本日はついに社交舞踏会、当日。
午後七時からの開催は目前まで迫っており、放課後の学院内は、すでに浮足立った生徒であふれていた。
そしてエルレイは現在進行形で会場に到着し、男子用の正装に身を包み、開始を今か今かと待っていた。
「…」
『リィエル、大丈夫?』
「ん、大丈夫」
通信魔導器から聞こえてくるハルの言葉に軽く答える。
エルレイは特に動くことも無く周りを見渡している。
「シュウ、ロクサスはまだ、見当たらない」
『了解、…って、《魔の右手》の事も探してよ?』
「ん、分かってる」
そう言いながら、エルレイは近くにあったサンドイッチを頬ばった。
「でも、そのあたりはグレンたちが、何とかするでしょ、あんまり心配してない」
『リィエルが信頼してて何よりだよ。とりあえず楽しんでね』
そういうとハルはそのまま通信を一旦終了した。楽しんでね…か。
「こんな状況で、どう楽しめばいいんだろうね」
「レイちゃ~ん」
「エルレイ!」
そんなことを考えていると、小走りに走ってきたセラとグレンがエルレイに話しかけてきた。
「今日は頑張ろうねっ!」
「ん、がんばろ」
「お前ら頑張るのはいいけど、ちゃんと作戦内容覚えてんだろうな」
「……」
「おい!!」
黙り込むエルレイに、グレンは容赦なくチョップをかます。
「レイちゃんは基本的に自由に動いていいってイヴ言ってたよね。やっぱり基本的にグレン君のサポート?」
「ん…まあ、そんなとこ」
そう言いながらエルレイはあたりを見渡した。
まるで何かを必死に探しているように。
「・・・?」
するとシスティーナと踊っている青髪のパートナーに目が留まる・
背丈から見ておそらく男装した女子だろう、エルレイは少し気になり、グレンとセラに顔を向けて聞いてみた。
「ねえ、システィーナと踊ってる子って、誰?」
「ああ、リィエルだぞ、ってお前、昔の自分なのに気付いてなかったのかよ」
「わた…し」
そうだ、そういえば思い出した。
システィーナに男装させられたんだった。今までなんで思い出せなかったんだろう、この黒歴史を、エルレイはその場でうずくまった。
「れ、レイちゃん、大丈夫?」
「死にたい」
黒歴史を目の前で見せられて、エルレイは生まれて初めて、恥ずかしさで死にそうになった。こうしてエルレイはセラと共に予選のダンスを懸命に行った。
★★★
「予選通過はいいものの…」
エルレイはそう誰にも聞こえないように呟いた。
「エルレイ先生!!次私と踊ってください!!」
「えるれいせんせっ!!今宵はとても凛々しくて…かっこいいです!!」
「えるれいねえね!!その姿イイッ!!素晴らしすぎる!!!!」
予想以上に男装のウケがよかったらしい。女性の生徒からかなり集中砲火を食らっていた。
「ねえね、楽しそう」
「流石エルレイ先生っ!何をやってもお見事ですっ」
「あははっ、未来のリィエルとはいっても、やっぱりエルレイ先生は憧れます」
「三人は……とりあえず助けて?」
呑気に見てくる仲良し三人組を見ながら、苦笑いした後にエルレイはやっとの思いで女子の集中砲火から抜け出し、システィーナたちと、セラとグレンの元へ向かった。
「セラ、練習し──」
「あ、レイちゃん、ちょうどいいところに!」
エルレイは声が出なかった。
セラとグレンの隣にドレスを着た金髪のロングヘアーの女性がいる、そしてその顔は間違いなく。
(ル、ルミア!?)
エルレイの世界のルミアに他ならなかった。
「ええっと…貴女は?」
こちらのルミアが女性に聞いた。
「こんにちわ、私はしがない一般人ですよ。エルレイ先生、貴女様のダンス、拝見させていただきました。差し支えなければ少々私とのダンスに手伝っていただいても?一緒に来ていた旦那様とはぐれてしまいまして♪」
「どうしてもお前とダンスしてみたいらしいんだ、いや~、人気だな~あっはっはっは!!」
「モッテモテ〜!」
「……」
「ちょっとお二人とも!!エルレイ先生を茶化さないでください!大体お二人はいつもいつも──」
セラもグレンも茶化しているようだが、エルレイはその茶化しに反応せず、その女性の手を取った。
「ねえね?」
「では、あちらのほうで」
エルレイは人気のないところに金髪の女性を案内して、そこで女性にいちごタルトを渡す。
「何故ここに?エルミアナ様」
「今の私はその名じゃないよリィエル…いやエルレイ、私はミアル。それが私の今の名前」
ミアルはそう言うと、エルレイの渡してきたいちごタルトをサクサクと頬張った。
「じゃあミアル、いつこの世界に?」
「詳しくは覚えてないんだけどね。気付いたら研究所で捕まっててね」
「…なるほど」
未来のルミアが研究所にいた。
これでやっと理解できた。ロクサスがあそこを破壊した理由、そして抹消したはずのコピーが生成されたのか。
「ロクサスは?」
「ふふ、さあ?この世界の私のお母さんに会いに行ってからくる。って言ってたから、そろそろじゃないかな?」
「陛下に会う…ね、指名手配されても助けないよ?」
「あはは、何を今更」
ミアルはそう言いながら楽しそうにほほ笑んだ。エルレイは少しため息をつく。
「ルミア、ロクサスと何か企んでる?」
「さあね、ただ今日は二人で、アンサンブルをしようって約束してる位だよ?」
「アンサンブル…ねえ」
エルレイはそういうとミアルの髪を触った。
「リィエルが色々考えてるのは見てわかるよ。でもね…最終的にはロクサスの手の中だよ?」
「……」
エルレイはミアルの髪を優しく触りながら睨みつけた。
「ルミアはそれでいいの?またロクサスが手を汚そうとしてるかもしれないんだよ?」
「それがロクサスの望みなら…。私は見守るだけだよ」
「…っ」
エルレイはその言葉を聞き、悔しそうな顔をした。
「そんな顔しないで、大丈夫だよ。リィエル」
ミアルはエルレイの頭を優しくなでた。
心地いい、心地いいが、怖い、ルミアまで手を汚すかもと考えると…。すごく怖い。
「私は…助けたい、二人がまた手を汚す前に」
「リィエルが手を汚すのはダメだよ、あの人の気分を害しちゃう。確かに私も、もうシュウ君とロクサスが手を汚すのは見たくないけど…、それでも自由に生きさせてあげたいの」
「…」
「たとえ自分の手を汚す結果になっても、あの人といたい」
じゃあルミアは手を汚していると知ってても、ロクサスと一緒にいたいのか……でも私はそんなに器用じゃない、そんな事は出来そうにない…そして
もう手を汚すのは自分だけでいい。
★★★
「ようやく尻尾を顕わしたわね」
「思ったより時間かかったね、姉様」
「な──ッ!」
エルレイが話している時間から数十分ほど経過し、ハルとイヴは敵の尻尾を掴み、今まさにこの別次元にできた空間を突き破り、今回の王女暗殺計画を目論んだとされる、ザイードとローレンス=タルタロス教授と対面していた。
「お初にお目にかかるわ、以後お見知りおき…」
「……」
「と言いたいところだけどやっぱいいわ、覚えなくていい」
ハルの少し冷たい目を見てイヴは即座に言葉を変えた。
「な、何故だ!何故分かったんじゃ!この場所が──!」
「僕、異次元的な空間はすぐにわかるものでして」
ハルはそういうと微笑んだ。
勿論目の前の虫けら(2人)に向けてではなく、イヴ・イグナイトに向けてだが。
「悪いわね、うちの弟は、少しばかり規格外なのよ」
「くっ…。ザイード!!」
「…はっ!!」
ローレンスの指示を受けて、ザイードが床を蹴ってイヴに魔の右手を伸ばすが──。
「姉様に触れるな下等外道生物」
ハルがザイードの目の前に出てきて、魔の右手を掴んだ。
「くっ…!」
「姉様。死なない程度に、仕留めていいんだよね」
「ええ、すべてはハルの望むままに」
「おっけー、《武装展開》行こうファイさん」
『yes my master』
イヴのその言葉を聞いたハルはどこからか紫の片手剣を取り出して持ち、そして容赦なく───
「っ!ぐぁああぁぁぁああああ───っ!!!!」
ザイードの右手を切り落とした。ザイードは悲痛の声をあげる。
「姉様の指示だから即死はさせないけど…出血多量で死んだら僕の責任じゃないからね」
「く、クソっ…小癪な帝国の犬めがぁ!!」
その言葉を発した瞬間…無残にもローレンスの両腕はハルによって切り落とされていた───。
★★★
「ま、こんな所だね」
「ふふっ、私はここにはいらなかったかしら?」
そう言いながらイヴはハルに微笑みかけた。
「そんなことない、姉様がいるだけでやる気が出る」
ハルはそう言いながらイヴに微笑みを返した。そしてハルは通信魔導器を取り出す。
「エルザ、どう?そっちは」
『うん、逃げられたけど片付いたよ、‘‘万物切断可能な刀‘‘を貸してくれてありがとね。かなり楽に戦えた』
「そっか、それは良かった」
『…ストックのほうは大丈夫なの?』
「まあまあ、かな」
ハルはそんなことを言いながら苦笑いした。イヴが不思議そうな顔をする。
「いつも思うんだけど、アンタの言う‘‘ストック‘‘って何?マナの貯蔵でもあるの?」
「姉様には秘密」
「何よそれ」
そう言いながら二人は笑いあった。まるで勝利を確信したかのように。
「……」
「何?ハル、どうしたの?」
可笑しい、確実におかしい。
ロクサスが面白いもの、と言っていたのに、何も起こらない。あれはブラフだった?それにしては。
「…?」
そうハルが考えていると突然音楽が微かに流れているのを理解した。
どうやら放送で、ダンスの演奏が流れているようだ。
「あら、放送で演奏流れてたのね」
「う、うん、そうだね」
ハルはなんとなくこの音に聞き覚えがある気がした、一体いつ聞いたのだろう…い…った…い……演奏?
「でも変ね、ダンスの曲には似合わない曲調…。聞いてるだけでダンスの感覚が狂いそうだわ」
そう言いながらイヴは笑った。
「感覚が…狂う?」
《
「!!!」
気付いた。
ようやく気付いた、意識が奪われる前に気付いた。これがロクサスの‘‘洗脳精霊術‘‘であることを。
「姉様!!!耳をふさいで!!」
そう言った頃にはもう遅かった。ハルの意識は朦朧とし…やがて意識が無くなった。
★★★
『エル‥‥リィエル……リィエル!!!』
「…!!」
姫の声でエルレイが意識が戻るとそこは会場だった。
さっきまでセラとフリー時間でダンスをしていたはずなのに。
「ひめ、私は今まで…」
『洗脳されてたよ、魔の右手じゃなくて、《
《
ロクサスが所有する力の一つで洗脳能力だ、演奏を通して他の人間の身体に入り込み、人形のように自在にコントロールできる。
「…やられた」
周りを見てみるとみんな普通にダンスをしているがどこか目に光がない。
「リィエル、どうかな?私とロクサスの同時《
「…ルミア」
隣りにミアルがいた。
エルレイは拳を握り締める。同時《
「…ザイードは?」
「ああ、あそこ」
指をさされた場所を見てみると、そこには身動き一つしない今まで演奏の指揮者をしていたもの、本物のザイードがいた。
「あとで、‘‘イザナミ‘‘様が回収してくれるってさ」
「…っ、ルミアも接続経路‘‘イザナミ・マキナ‘‘を使って──」
「ふふ、どうだろうね」
そういうとミアルは無邪気にほほ笑んだ──。
「誤魔化さないで、あれに接続したってことはルミアは…」
「私は、ちょっと力を借りてるだけだよ?ストックも心もとないしね」
「…一つ聞かせて、ロクサスはどこに?」
「今外だよ。王女暗殺計画の奴らを皆殺しにするんだって」
「……」
おそらく、エザリー達が殺しあった奴らを殺しに行ったのであろう。
またか…。またロクサスの意思で手を血に染めたのか。
「ルミア、昔のルミアならロクサスとシュウが手を汚すのを嫌ってたはず…。なのになんで…っ!!」
「ロクサスが望むから、ただそれだけだよ?」
「っ!!」
「リィエルだって人の事言えないでしょ?シュウ君が傷つくのを見たくないから自分が肩代わりする、ロクサスとやってることが一緒だよね?シュウ君がそれを知ったら悲しむよ?」
「うるさいっ!!!私は自分の手を汚してでもみんなを……っ!!」
エルレイはミアルに向けて怒鳴りつけた。
許せないのだ、自分がまた何もできないかもしれないのが───。
「私は…2人を斬ってでも2人を守るっ!!!」
そしてエルレイは詠唱を開始した。
「《万象よ二つの腕手に・剛毅なる刃を》──っ!!!」
即座に大剣を2つ生成した。
ハズだった。
「…ごめんね」
「──!《銀の鍵》っ!」
エルレイの大剣は生成されなかった。何故ならばルミアが生成しようとした瞬間その空間を‘‘止めた‘‘のだ。
「リィエルとは戦いたくないんだ」
「っ!!《我目覚めるは・デウスと赤龍帝の力を信じし・殺戮人形なり・人を憎み・狂気を望む・我が力を糧として・我に大いなる力を与えたまえ》──っ!!」
詠唱すると、エルレイの近くから熱が発生し、なくなると思ったら突如、何もない空間からチャックのようなものが出てくる、その中は深淵で何があるのかわからない、エルレイはそこから、2枚のカードを取り出す。
「《展開》ハルカ・アクエリア──っ!!」
そう叫びながら、エルレイがカードを投げるとエルレイの周りに水が塊となり浮遊しだして、エルレイの手には、金色の光が宿った水で生成されたであろう大剣を握り締めていた。
「……仕方ないね《我目覚めるは・赤龍帝とデウスの力を許容する・名無しなり・異端を愛し・慈悲を捨てる・我が力を糧として・我に大いなる力を与えたまえ》」
ミアルが詠唱すると、エルレイと同様、熱が発生し、なくなると思ったら突如、何もない空間が裂け、そのヒビから大きな鍵のようなものが出てくる、その中は深淵で何があるのかわからない、ミアルはその大きな鍵を手に持つ。
「《
その大きな鍵は、鍵から戟へと形状が変化する。
「……《
「リィエルの気持ちももちろん痛いほど分かるよ…でも…それでも私は、ロクサス達を自由に生きさせてあげたいの」
ミアルは少し悲しそうにそう呟いた───
──────────
公開可能情報
接続経路『デウス・エクス・マキナ』
使用者 シュウ(ハル)
シュウ・イグナイトの力が収納されている空間、剣や盾、雷竜など様々、接続はシュウしかできず接続には詠唱は必要とせず、即座に使用可能。
接続経路『イザナミ』
使用者 ロクサス
ロクサス・ティンジェルの力が収納されている空間 古式な拳銃や大剣、赤い竜など様々、接続はロクサスしかできず接続には詠唱は必要とせず、即座に使用可能。
接続経路『イザナミ・マキナ』
使用者 エルレイ ミアル
使用者の二人が強引に上記2つの接続経路を使用できるように編み出した接続法、しかし接続には詠唱が必要でかなりの時間を必要とする。
上記に記載した接続経路はマナを必要としない代わりに接続経路問わず使用者は
人間の魂を十体以上生贄としなければ使用することができない。