『完結』(番外あり)ロクでなし魔術講師と帝国軍魔導騎士長エルレイ 作:エクソダス
「ぅ……はな…れて」
「うにゅ……」
エルレイは、まず上に乗っかっているリィエルをひっぺがす。
「あー………」
「あー、じゃない」
リィエルは力ない声を上げながら、コロコロと地面を転がる。その光景に、エルレイは苦笑いしか出ない。
「さて…、とりま」
「すぅ……すぅ…」
「んぅ……すぅ……」
エルレイは、一度リィエルをベッドに戻し、自分だけ布団から出て、台所に向かう。
─────
───
「……ん」
エルレイが朝ごはんを作っいると、どうやらシスティーナが起きたようだ。
「あ、おはよ?」
「……ぁ、おはようございますエルレイ先せ…うぇええええ!!!」
驚いた表情を見せ、システィーナは5、6歩後ずさる。
「あっ!」
その瞬間、システィーナはバランスを崩してしまい、倒れそうになる。
「お……っと」
しかし、即座に反応したエルレイがシスティーナの肩を抱き寄せる。
「大丈夫?」
「は…はい、だ、大丈夫です」
システィーナは少し顔を赤らめながら、エルレイの腕から離れた。
「えっと、ありがとうございました」
「ん、大丈夫、ところで。なんで私の布団に?」
「え、えっと……」
その問いに、システィーナは言いよどむ。
「……システィーナ、口開けて」
「え?」
ひょい。
「んむっ!」
その瞬間、システィーナの口の中にさわやかなやさしい甘味が広がる。
「卵焼き、お味はいかが?」
「んむっ……んっ…あっはい…おいしいです」
「そ、なら、食べながら、何があったか聞かせて」
「…………はい」
システィーナは、少しくらい表情の中、椅子に座る。
あとの二人は……、後でいいか。
「昨日…、シスナ先生………エルレイ先生にとっての私と、ルミアと…、話したんです」
「…………続けて」
─────
────
──
「さて、システィ、そろそろ帰るよ」
「ん、もうかえるの?」
シスナはミアルの言葉に首をかしげる。
「ちょっと面倒なことは、ロクサスが終わらせてくれたっぽい」
「さすがルミア専用鬼神」
からからと笑うシスナをよそに、ミアルは少しだけくすっと笑った。
「ふふ、でも。その前に」
ミアルは、近くの木に微笑みながら目を向けた。
「そうね、さすがに
その瞬間、見られていた木がビクンと跳ねる。
「あんたら、出てきなさい」
そして、出てきたのはこちらの世界のシスティーナ。ルミア。リィエルだ。
「……ど、どうも」
ルミアが軽くお辞儀をする。
「全く、盗み聞きするにしても、もっとばれないようにやんなきゃ駄目ですよ?」
くすくすと笑うミアル。やはり、どこかルミアに似ている笑い方だ。
「あ、あの……シスナ先生」
「何?」
恐る恐るといった表情のシスティーナに、シスナは木に背中を預けながら聞く。
「貴方と、この金髪の人って……もしかして」
「その解釈で間違いと思うけど、今はただの一人の講師よ」
シスナは、片手間に本を読み始める。
「ん……」
リィエルはただぼーっとするだけで、何も言う気配はない。
「それで、盗み聞きしてた理由は何かしら?」
「え、ええと……」
システィーナが気まずそうに口をもごもごさせる。
「ねえね、いなかったから、心配だった」
「……なるほどね」
ミアルはリィエルの頭を撫でながら、髪をいじる。
「それで、私たちの話声が聞こえたって訳ね。耳年増だこと」
「な、余計なお世話です!!」
嫌味のようなシスナの発言に、システィーナは顔を真っ赤にして起こり始める。
「し、システィ、どうどう」
ルミアがやさしくシスティーナをなだめる。
「あの………、一つだけいいですか」
「言ってみて下さい」
「エルレイ先生……、リィエルは、どうしてあんな性格になっちゃったんですか?」
「「…………」」
ルミアの問いに、ミアルもシスナも黙り込む。
当然といえば当然の質問だ。エルレイをリィエルとするならば、いくら何でも性格がかけ離れすぎている。何処か凶器的なまでに冷静で、手段をいとわない。それはエルレイの感情とは別のものだ。
それは、エルレイの退職騒動の事件が物語っている。
「あいつは……ああなるしかなかったのよ。あの子の望む償いのためには…ね」
シスナはそうつぶやく。
シスナはどれだけつらくても、エルレイのやっていることや。エルレイを止めようとするミアルは絶対に止めない。なぜなら、
どちらも正しいって信じてるから。
「貴方達がリィエル…、エルレイの生徒だというのなら…
そう、エルレイはこの世界の人々と接し、自分が狂人だと心の底から知った。だからこそ、自分のようになってほしくないと心の底から思っているはずだ。
─────
────
──
「…なる」
エルレイは、その言葉をただ聞き、そしてシティーナの頭を撫でた。
「……エルレイ………せんせい………」
「大丈夫、今はただの講師…、大丈夫…」
「私……、怖いんです…、もし、リィエルがエルレイ先生みたいになったら…」
システィーナはエルレイ先生の事は大好きだ。いや、システィーナだけじゃない。ルミアもリィエルも。みんな大好きだ。
だが、それはエルレイとしてであって、
誰もが無意識に、エルレイがリィエルだと知っているにも関わらず、別物として頭の中で分けてしまう。
この世界は…、エルレイを一人のリィエル=レイフォードとして、見られていない。
この
(……ここが潮時か)
エルレイは、ルミアやシスティーナ、リィエルの頭を撫でながら、悲しい表情を浮かべた。
(そろそろ、ここにいるのも限界だね)
─────
────
──
「えー、今日は見学者が来てるわ、みんな。きちんと勉強するように」
「こんにちわ♪どんな授業をしてるのか楽しみですっ」
教室でシスナが親指でミアルを指さす。(超めんどくさそうに)
はーい、と元気なリリィ学院の生徒の声が響いた後、ミアルは教室の後ろでニコニコしている。
(((………どうしてこうなった???)))
エルレイ、システィーナ、ルミアの思考が完全に一致した。
本当にどうしてこうなったのだろう、たまにミアルのやっていることがわからなくなる。
「本日はよろしくお願いしますね?エルレイ…ねえね」
「っ〜!」
ミアルに耳元で囁かれ、一瞬エルレイは取り乱すが、それ以上の反応は見せなかった。
「姉御〜、今日はどっちがやんの?授業」
「うーん、そうね…」
コレットの言葉に、シスナは腕を組んで考える。
「よしっ、今日は私が稽古をつけてやるわ。覚悟しなさい」
「ぅ…、シスナ先生の稽古ですか…」
エルザが苦い顔を見せる。どうやら全員シスナにしごかれているようだ。目が死んでる。
「うぃーっす。ま、お手柔らかに」
ジニーがゆるーく答える。
「アルザーノの方々はどうしますの?」
「勿論、そいつら込みの稽古よ。大丈夫、優しめにしてあげるから」
そう言いながら、フランシーヌに笑みを返すシスナ。
「最初は『ショックボルト』1000発ね」
「「「「きついぜシスナの姉御ぉ──!!」」」」
リリィの生徒の楽しそうな悲鳴が全体に木霊する。
「あははっ、草」
「えと…、いま笑う所ですか?」
呑気に笑うミアルを横目で見て、少し引き気味に言うルミア。
「はぁ…」
この状況に、エルレイはため息しか出ない。最近本当にため息多い気がする。
「……むっ」
「あれ?どうしました?」
突然不思議そうな顔をするミアルに気づき、システィーナがミアルに目を向けて、話しかける。
「システィ…、シスナ先生。エルレイ先生。授業は始めれないかもしれませんよ」
「そうね」
「ん」
突然のミアルの問に、シスナ、エルレイは軽く答える。
「えっ?一体どういう…。」
一人の生徒がその理由を聞こうとした────次の瞬間。
バンッっ!!!
突如、黒服のコートを着て、フードで顔を隠した男が約数人。
「なっ!なに?!」
咄嗟のことで、エルザは反射的に刀を手に取ろうとする。だが、シスナに腕をつかまれ静止した。
「エルザ、待ちなさい。あんた達、何のよう?」
シスナが威圧するかの様に睨みつけると、ボスであろう者が話しかけてくる。
「我々は、ルミア=ティンジェルにようがある」
「なるほど」
エルレイは、その言葉を聞き呆れる。ルミアの力を欲するやつ多すぎだろ……。
「……」
「私が行く、
ミアルは、ポンポンとシスティーナ、ルミア。リィエルの頭を撫でてから、男たちの目の前に立つ。
「私です。私がルミアです」
「は?はっはっは!!!まだ幼いらしいぞ、正義の味方気取りはやめるんだな」
ルミアを狙う者たちは、ゲラゲラと大きな声で笑い出す。
「金髪のねーちゃん。ホントのことを教えてくれないかなー?さもない───」
その瞬間、その男は一人動かなくなった。
「お、おい。どうした?」
男の仲間が、動かなくなった者に近づく。
「き、気絶してる!」
「「「「っつ?!?!」」」」
ミアルの実力を知っているエルレイとシスナ以外は、声にならない驚愕をひねり出す。
いったいなにが…?
「それで…、私はなにをされちゃうんでしょう」
そのからかうような顔は何処かの狂気的で、最悪トラウマになってしまいそうな顔だ。
「ったく、相変わらず《強引ね》」
刹那───
突然、どこからともなくゲイルブロウが気絶した男を軽々しくふわり…、と動かし、他の男へ直撃。
「ぐっぅ!!!」
「やっ」
間髪を入れず、早くも錬成を完成させていたエルレイは、男たちを的確に、気絶させるように仕向ける。
「……ったく、コイツらといると、いつもいつも…」
シスナは『めんどくせ…』と心の中で思いながら、軽々と戦闘を開始する。
「こ、こいつら…」
「や、やべえぞ…!」
「に、にげ…!」
次の瞬間。学院が光だし、魔法陣が展開される。
「なっ?!」
これをやったのはミアルだ。怪しい者たちを隔離に成功…。後は…。
「「潰すだけ」」
考えることは同じなエルレイとミアル。その顔は何処か恐怖を駆り立て、クラスの人間でさえも恐れてしまう。
「…………はぁ」
シスナはまるでいつもの事かのように、ため息をついた。
───
──
─
その後。なんやかんやあって、結局退学を回避できたリィエル。
というわけで、全員揃ってリィエル達の『お帰りパーティー』が学院の図書室で行われていた。
「「「「「おつかねえねイェェアァァ!!!!」」」」」
「か、乾杯の掛け声が………変」
変な掛け声をする自分の生徒たちに、少し苦笑いで、しかしどこか恥ずかし気な表情を見せるエルレイ。
「レイちゃんお疲れ様!リィエルとシスティーナちゃん、ルミアちゃんもよく頑張ったね!」
セラは三人の頭をよしよしと撫でまくる。
「ん」
「せ、セラ先生!子供扱いしないでください!」
「えー、だって子供だよ?」
セラはそう言いながら微笑みを浮かべる。このような天然はセラの専売特許だろう。
「エルレイ、お疲れ」
「………ん」
グレンの言葉に、エルレイは軽く返す。
「おい、どうした?」
「………別に」
エルレイはグレンにそっぽを向いて、あたりのみんなを見渡す。
ワイワイガヤガヤと、そんな音が聞こえてきそうなほどはしゃいでいる。
(…………やはり潮時、これ以上は)
「グレン」
「あ?」
「いつもありがと」
「なんだそりゃ、成長したお前にさ。感謝なんて言われる筋合いはねえよ。すべてお前の努力だ」
「ん……………あり……がと」
────
───
─
「……………揃った」
真っ暗な夜中の倉庫、エルレイは全員が来るのを待ってから呟いた。
今ここにいるのは、エザリー、シュウ、ミアル、ロクサス、シスナの未来組が勢ぞろいだ。
「騎士長、全員揃いました」
「ん」
エザリーの言葉に、エルレイは頷く。
「さて、呼んだ理由、わかる?」
「当然だよ。そろそろ
エルレイの問いに、チョコレートを頬張りながら答えるシュウ。
「よろし、エルザ」
「はっ」
エザリーは地図を広げ、一つの場所に小石を置いた。
「調べた結果、ここに我々の倒すべき敵がいます」
「その敵って、何か聞いていいかな?」
「Project:Revive lifeの
ミアルの問いに、エザリーは淡々と答える。
「リィエル、仕留めそこなったのか」
「違う」
エルレイはロクサスの言葉を否定する。
「このライネルは、こっちの世界じゃなく、私たち
「あー、そういえばあいつ生かしてたな」
すっかり忘れていた。と言わんばかりにロクサスはため息をついた。
「シュウ、手紙の送り主は、私…、この世界のリィエルの未来、でいいんだよね」
「うん。どうにか心を開かせて教えてもらった。この世界の成長したリィエルにね」
エルザにチョコレートを渡しながら言うシュウ。
「手紙の送り主が俺たちをここに呼んだ理由は、『未来で知り合ったねえねが悲しそうで、それを変えたいと願った』らしい」
「ライネルの目的は、多分ルミアでしょうね」
シスナはボソッとため息をつく。
「なら、ライネルを殺してから。そのままこの世界とはおさらばしようぜ」
「ん……」
エルレイは少し悲しそうに頷く。
エルレイはこの世界に良すぎた。だからこそ『この世界の未来リィエル』が、その依存から私を呼び出し、どうやってかライネルがそのあとをつけてきた。
だから、エルレイ=レイフォードがとれる最善策は。
これ以上、ここには居座らないで、さっさと帰ることだ。
さて、突然だと思われるかもしれませんが、このシリーズは9巻には突入せず、次回からの最終章で実質的に終わりを迎えます。
この作品を閲覧、本当にありがとうございます。
よろしければ後数話だけ、お付き合いください。