『完結』(番外あり)ロクでなし魔術講師と帝国軍魔導騎士長エルレイ 作:エクソダス
騎士長と室長サマの憂鬱
「特務分室の、人員増加?」
「ええ、そうよ」
突然のイヴの発言に、エルレイは動揺した声を出す。
突然特務分室に呼び出されたと思えば、まさかの人員増加の手伝いとは……。
「すまんのぉエルレイちゃんや、儂としてはちゃ~んと君と優雅に茶会でもと思っていたんじゃが」
そう言いながら、バーナードはからからとジョークのように笑う。
「ん……」
「人員は多いほうがいいのよ。もちろん手伝うわよね?リィエル」
「……ん、断る理由なし」
実際、エルレイには断る理由が存在しない。
特務分室は万年人員不足なので、イヴの気持ちはとてもわかるからだ。
「レイちゃん、ごめんね?」
「すいません。エルレイ…さん」
セラ、クリストフが申し訳なさそうに謝罪してくる。
実際、エルレイの同僚のエザリーを雇ってくれているので、どこかで恩返しは果たしたいと思っていたが、好都合だ。
「……ふん」
アルベルトは何も言わず、ただ無表情でエルレイに書類を渡した。
エルレイがもらったのは、今回の希望者だ。
「………」
ぺら……ぺらと、エルレイはゆっくりと希望者のステータスを見始める。
「………ん」
「ふん。エルレイ。ちゃんと見分けなさいよ」
わざわざ毒を吐いて、イヴはその場から出て行った。
「それじゃあ、私たちも向こうにいるからね」
「エルレイちゃんや。あとでおじちゃんとたのしいティ──」
「やめてください。それではエルレイ……さん、よろしくお願いします」
「……」
「ん…まかせて」
全員が席に着き、しばらくの間、室内に紙をめくる音だけが響き続ける。
みんなが一様に淡々と、次から次へとチェックしていた。
「…はぁ~」
イヴがあからさまにため息をつく。
「イヴ。大丈夫?」
エルレイは手を止めはしないが、一度イヴのほうに耳を傾ける。
「……全部無能ばっか」
「だね」
この言葉には、エルレイも同意せざる負えない。
「希望者、みんな普通に優秀な程度…。逸材がいない」
「…エルレイ、アンタの方の進捗は?きちんとやってるんでしょうね」
「正直、やる気がなくなりかけてる」
そう言って、エルレイは大きくため息をついた。
「ざっと見、とりあえずこの数人」
エルレイがイヴに見せたのは、エルレイが見ていた100人以上の参加者から、1、2人ほど。
「…こいつらを選んだ理由は?」
「磨けば優秀になる可能性あり、5軍程度なら勧める」
「5軍…」
未来のリィエルとはいえ、中々にきつい評価だ。
エルレイがきちんと確認している証拠だろう。
「そもそも、普通のひとじゃ、ここの仕事はできないよ。あんまり期待しないほうがいい」
「……そうね」
イヴは書類を見ながら頭をかいた。
「………いつも思うんだけど、あんた本当にリィエル?人形でもここまで成長するのね」
「成長はしてない、私の技術はほとんど盗んだ技術ばっかり、人形として生き抜くための知恵ってやつだね」
「…あっそ」
少し俯いたイヴは、どこか悲しそうに見えた。
「…ところで、アンタが選んだの奴、女性ばっかなのはなんでなの?」
「イヴの弟による『姉さまを殺して俺も死ぬ!』阻止」
「助かる」
───────
─────
───
「ふんふんふ~ん♪」
エルレイとイヴ少し話をしていると、ルンルン気分でセラがイヴに近寄ってきた。
「いい人みつけてきたよ~」
「セラ、結構早かったわね」
「ふふんっ!」
「見せてみなさい」
ひょいっとセラの持っていた応募の書類をイヴがとった。
エルレイもイヴと一緒に見始める。
「「……ん?」」
少し見始めると、ある違和感に二人とも気づいた。恐る恐るエルレイが口を開けた。
「……ねえ」
「ん?なにレイちゃん?」
「一見…特務分室に入れる……程の実力が…ない」
そう、明らかにないのだ。技術もばらばらで、セラの持ってきたものにはこれといって惹かれる要素がない。
「セラ。アンタちゃんと選んだの?」
「選んだよ?ほら、この子なんて」
そう言いながら、セラは紙を一枚取り上げた。
「伸びしろありそうでしょ?」
「「………」」
ぺらぺらぺらぺら……。
エルレイは、どこか嫌な予感がし、もう一度セラの持ってきた書類に目を通すが、まさかの予想的中。
「……もしかして、選抜理由全部…『20代くらいで伸びしろありそうだから』?」
「うん」
「「…………………」」
これには、イヴもエルレイも声が出ない。
伸びしろを期待するのも結構だが、そんな簡単な考えでこの特務分室の仕事を任せれるのだろうか…いや否。
「イヴ」
「…なによ」
「これ、ダメ。こっち5~6軍」
ドサっと、いつの間にかエルレイがセラの持ってきていた書類を仕分けていたようだ。『不採用』と『5~6軍に賛成』にきれいに分かれていた。
「助かる」
「ちょ!!私の採用になにか文句あるのレイちゃん!!」
「 大 あ り よ っっ!
普通に考えて伸びしろでここの仕事をまかせられるわけないでしょうが!!!」
エルレイの言葉を代弁するかのように、イヴは怒鳴り声をあげた。
「姉様姉様」
そこで、くいくいっとイヴの服を誰かが引っ張った。どうやらシュウのようだ。(現在名はハル)
「ハル?あんたも終わったの?」
「うん。とりあえずね。姉様確認してもらえる?」
イヴはシュウの紙を取り、確認をし始めた。
「…いいんじゃない?さすがハルだわ」
「えへへっ…ありがとうイヴ姉様」
シュウは恥ずかしそうに微笑みを浮かべた。イヴもそれにつられるようにして、静かな笑みを浮かべる。
(……相変わらず。仲いいな)
その光景を、のほほんとエルレイは見ていると、突然シュウの目はイヴの机に向いた。
「ところで、その男の志望の紙はなに?」
「……あ」
イヴはさっと、その紙を隠した。そう、さっきセラの持ってきた物には、男の希望者も混じっていたのだ。まあ、当たり前といえば当たり前だが。
「え……とね…」
「はい」
「つまり……ね?」
「はい」
シュウは先ほどと同じように笑顔だが、目がやばい。明らかに笑っていない。
エルレイはその状況を見かね、助け船を出した。
「それは、セラが持ってきたやつだよ。大丈夫、失格者だから」
「…そっか」
シュウはそれを聞くと、先ほどの恐怖の面影はなく、ただ笑顔でほほえんだ。
イヴは少し苦笑いを浮かべている。
「イヴの死因。ヤンデレ弟による監禁」
「ジョークに聞こえないからマジでやめなさい」
エルレイの世界でも、イヴとシュウはかなり仲がいい…、というか。どこか依存しあっている傾向にあったので、割とマジでシャレにならない。
「???なに?姉様、リィエル」
「「…………いや別に」」
シュウのその笑顔がなんとなく怖く、イヴとエルレイは目をそっとそらした。
すると………
こんこん…。
突如、ドアがノックされる音が部屋内に響いた。
「室長、エザリーです。入ってもよろしいでしょうか?」
「え、ええ。いいわよ。入って」
「失礼します」
ゆっくりと開かれるドアの先には、片手に本の束を持ったエザリーがゆっくりと入ってきた。
「シュウ君、頼まれてた仕事。片づけてきたよ」
「あ、お疲れ様。エルザ」
シュウは微笑んで、エザリーの頭を撫でる。
「ぁ……ぅ…!もう!子供扱いしないでって!」
少し気恥ずかしそうに、エザリーは声を荒げた。しかし嫌がってはいないようだ。
「僕にかかれば、エルザはまだまだ子供なのだよ?」
「もう、実際シュウ君、身長私より低いでしょ?ほらっ、ぎゅ~」
そう言って、エザリーはシュウをやさしく抱きしめる。
「わっ…!やめてよ…!」
「「…………」」
エルレイとイヴは何を見せられてるのだろう、シュウとエザリーがどこかオネショタっっぽくいちゃついてる。
いや、あの二人が仲がいいのは今に始まったことではないのだが………。
「………なんだろ、殺意が目覚めそう」
「……奇遇ねエルレイ…、私もちょうどそう思ったわ。
───────
─────
───
「…ん……ふぁ……」
あれからどれだけの時間がたったであろう。
配属希望者はすべて外れ、しかも。その審査をする特務分室の者たちも酷いものだ。
リィエルは飽きて紙飛行機作り始めるし…、バーナードはミスコン始めるし…。
アルベルトは基準が高すぎだし…、クリストフに任せたらイヴのお見合いになり、シュウが殺意を出す…と。
「後始末…、なんで私が」
そんなわけで、エルレイは現在進行形でその後始末の書類を片づけている真っ最中なのだ。
「………はかどってる?」
突然話しかけられたので、その方向を向くと、そこにいたのはイヴだった。
その手にはお茶の入ったカップを手に持っている。
………少し、罪悪感でも感じてるのだろう。
「ん、まあまあ」
「…あっそ」
イヴは鼻を鳴らし、カップをエルレイの机に置いた。
「…………のめ……、そういう事?」
「……勝手になさい」
「ん、勝手にする」
エルレイは少し微笑んで、一口イヴの入れてくれたであろうお茶を飲む。
うん
く っ そ ま ず い
「………」
「……どうなのよ?」
「……なにが?」
「味の感想くらい言いなさいよ」
「イヴの味」
エルレイはもう一口飲んでから、後始末を再開した。
「…貶してるでしょ」
「ごめ、私は。もう夫に胃袋つかまれてるから。普通の食べ物じゃ、おいしいって言わない」
「……たしか、アンタとハルが婚約してるんだっけ。あの女子力∞と一緒にしないで頂戴」
「女子力∞はくさ」
イヴは大きくため息をつく、それを見てエルレイはくすくすと笑う。
「……エルレ……、いえ、リィエル。きちんと答えて頂戴」
「?」
突然リィエルと呼ばれ、エルレイは少し首を傾げた。
「あんたさ、なんで私に協力してくれるのよ。あんたにとって私ってなに?」
真剣な表情で、イヴはエルレイに聞いてきた。
「ん……そうだね………」
イヴだから。
実際、エルレイにとってはそれ以上でもそれ以下でもないのだが、おそらく。それではだめだ。
私が依存しているという状況がイヴにとって重りになる可能性がある。
ならばここは……。
「イヴはさ、憎悪って、何かわかる」
「………どういう意味よ?」
突然意味不明なことをエルレイに言われ、イヴは間抜けな声を上げた。
「憎悪って…、
「………は?」
予想道理の反応が返ってきたが、エルレイはそのまま話をつづけた。
「……ん。それじゃ。イヴに少し変わった話、してあげる」
「私の信仰する、黄色の女神の話」