『完結』(番外あり)ロクでなし魔術講師と帝国軍魔導騎士長エルレイ 作:エクソダス
魔術師の決闘。それは古来より連綿と続く魔術儀礼の一つである。
現在…エルレイ審判の元、システィーナ=フィーベルとグレン=レーダスの決闘が始まろうとしていた。
等間隔に植えられた針葉樹が囲み、敷き詰められた芝生が広がる学院の中庭にて、両者睨みあっていた。
「確認、使用可能魔術はショックボルトのみ、それ以外を使用した場合、敗北とみなす」
「はい、それで構いません」
「へいへい」
エルレイの確認に、二人とも同意したのを聞いてから、エルレイは話を続ける。
「あと、ほかの生徒に攻撃、禁止、それしたらすぐに止めるから」
「わーってるよ、信用ねえな」
「人を簡単に信用出来たら、魔術師いらない」
エルレイはグレンを見ながらため息をついた。
そして観戦している生徒たちに、もっと下がるように手で仕草をする。
「グレンく~~ん!大丈夫~~~?システィーナちゃ~ん危なくなったらさがるんだよ~~~!!」
セラが大きな声で叫ぶ。
相変わらず優しいなと心の中で思った後…エルレイは互いの賭ける物の確認をした。
「賭ける物の確認、システィーナが勝利した場合、グレンの授業態度の見直し…。グレンが勝利した場合、生徒からの説教を禁止…。相違ない?」
「問題ありません!」
「おう」
互いの同意を確認したのち、エルレイは生徒が集まっているところまで下がる。
下がるや否や、エルレイの隣に足早に歩いてきたシスティーナの親友…そしてリィエルの親友でもあるルミアが恐る恐る話しかけてくる。
「あの…すいません、エルレイ先生、お願いが…」
「怪我しそうになったら止めてください、かな」
「!……はい」
「ん、わかってる」
近づいてきたルミアの頭を優しく ポンポンッ、と撫でる。
「危なくなったら、すぐ止める」
「…ありがとうございます」
そういうとルミアはエルレイに頭を下げた。
「エルレイ先生はどちらが勝つと思ってるんですか?」
メガネをかけた少年、ギイブルがそう聞いてきた。
「正直、始まってないからわからない……カッシュはどう見る?」
「おれっすか?!そうですね…流石に先生ですかね、あのアルフォネア教授のお墨付きだし…」
「そ」
クラスの生徒達や教師と生徒が魔術決闘を行う。という噂を聞きつけて集まった野次馬たちが、どちらが勝つかの考察をざわざわ……としていた。
「いつでもいいぜ?」
グレンは指を鳴らして余裕の表情だ。
システィーナは緊張しているのだろう、額に汗が流れている…。エルレイは眠そうな顔で2人を見た。
内心、多分システィーナが勝つから止めなくて大丈夫だろう…。と思いながら、自分の胸ポケットからコインを取り出す。
「開始の合図は、これが地面に落ちた音」
二人が頷いたのを確認したエルレイは、コインを指に乗せ…親指ではじく。その瞬間全員に緊張感が漂う……。
そしてくるくると高速で回転していたコインは数秒後。
チャリン…!
地面のコンクリートに落ち、決闘開始の合図の音が鳴り響く。
その瞬間──!システィーナはグレンに手を向け、呪文を唱えた!
「《雷精の紫電よ》──ッ!」
刹那──。
システィーナの指から放たれた電撃は、得意げに立っているグレンのほうに飛んでいった!!しかし早すぎる詠唱のグレン先生によって相殺された──!
「・・・て考えると思うよ、普通は」
呆れたようにエルレイが呟いた。そりゃあ呆れもするであろう…。なんといってもあの男グレン=レーダスは───。
「ぎゃああああああああ━━━っ!?」
バチンと電気がはじける音…。そしてグレンは体を痙攣させ、あっさり倒れ伏した。
「グレン君……だから言ったのに」
セラも手で顔を覆っている。
生徒全員口を開け、システィーナに至ってはルールを間違えたんじゃないかと、挙動不審になっている。エルレイはため息をついた。
彼女は知っていたのだ…、グレン=レーダスが一節詠唱が点でダメな事を。落ちていたコインを拾い上げ、片手をシスティーナのほうへ向ける。
「ショックボルト直撃、よって勝者、システィー
「ちょっとまてええええええええぇぇぇ━━━━」
痙攣していたグレンが、エルレイに待ったをかける。エルレイはとりあえず手を下した。
「何?」
「これは三本勝負だ…1本くらいくれてやる…いいハンデだろ?」
「三本勝負でしたっけ?!」
システィーナが声を荒げる。
苦しい言い訳だが、確かにルール決めの時に何回やるかは決めてなかったので、その要求を飲むことにした。
「…分かった。システィーナ、納得出来ないと思うけど、3回勝負ということで」
「あ…はい、わかりました」
割とすんなり理解してくれたシスティーナに感謝しつつ、もう一度コインをはじいた。
チャリン…!
「おい!見ろあれ!!」
グレンはコインが落ちた瞬間、明後日の方向を指さした。
「え?!」
瞬間的にシスティーナはそちらのほうを向いてしまう。
「かかったなあほが!!《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃━》」
「《雷精の紫電よ》───ッ!」
「ぎゃああああああああああ!!!」
グレンの魔術が完成する前に、システィーナの魔術が完成し、グレンに当たった。
もう一度コインを拾い上げ、システィーナに片手を向ける。
「ショックボルトの直撃を確認、よって勝者、システィーナ」
「ちょおおおおおおとまてえええぇぇぇぇぇ!!」
流石に少しムカついた。
エルレイはそう心の中で思いながらコインをバリン!と握りつぶす。
それを見ていた生徒は少しおびえた表情を見せた。
「なに?」
「・・・ほほう、マーサカマサカこれほどとは!!5本勝負だからってちょっと遊びすぎたかな?!反省反せ」
「システィーナ、三点先取により、この決闘決着、勝者システィー」
「待てっていてるだろうがあああああああああああああ?!」
問答無用で勝者コールをしようとするエルレイに、グレンがツッコミを入れる。
「なに?」
「7本勝負だって言ってんだろうが!3本程度で魔術師の力量を見れると思うなよ!」
そんな怒りも何のその…グレンは構わずに食い掛ってくる。
「増えてるし…ダメ、約束道理グレンは真面目に授業をする、私もセラも、手伝うから」
少しグダグダになってしまったが…グレンが自分の知っているグレンに戻るならば別にいいだろう。
ホッ、とエルレイは一息ついた。
「あっれ~何か約束したっけ~~?」
『えっ?』
その場にいる全員が声をシンクロした。
セラは相変わらず顔を手で覆っている。もう見ていたくない…とひしひしと伝わってくる。
エルレイも耐え切れず顔を上にあげて手をかぶせた。
「それよりも!なかなかやるなお前!今日のところは超ギリギリ紙一重で引き分けということで勘弁してやる!はああああああああああああっはっはっはっはっはっはっは!!!!」
「ええと…エルレイ先生…」
「これ以上私に…何も求めないで、疲れた」
ルミアの言葉を聞きながらも、もう動く気力すらなくなったエルレイは、顔を上にあげたまま、制止した。
「心底、見損なったわ」
決闘をあやふやにし、その後足早に立ち去ったのだ。こんな反応にもなるだろう…どうにかフォローしようと、口をもごもごさせているセラをエルレイは手で止めた。
「セラ、だめ」
「……むぅ」
「むぅ…じゃない、今何か言っても、油を注ぐだけ」
「そりゃあそうかも……しんないけど」
「必ず……。必ず私がどうにかする、安心して」
エルレイは最後の言葉を強く強調した。
★★★
グレンの学院内における評判を地におとしめた決闘騒動から3日がたった。グレンのやる気のなさは相変わらずで、学院内の生徒達の評価はすこぶる悪い。
だが当のグレンはどこ吹く風、のんびりだらだら過ごしていた。最近はエルレイのネタもつき、ほとんどセラが授業を進行していた。
「よし」
そう言いながらエルレイはトントンと書類をたたいた。
今日は小テストを作ったので、今日も時間稼ぎにはなるだろう。作ったプリントをファイルに入れて、足早にクラスへ向かう。
「最近…慣れてきた気がする、いろいろと」
最近は、ごくごく普通にこの世界になじんでしまっている。
早く帰りたいなと思いながらも、エルレイにとって、ここは居ていて…気分が良い所ではあった。グレンもルミアもシスティーナもいる……多少の問題はあるが。
「ん…。帰る方法分からない、ので仕方ない」
ガラっ、とエルレイは扉を開けた。
「ごめん、また遅れた」
「━━━、魔術は、この世界の真理を追究する学問よ」
エルレイが入ると、システィーナとその隣で立ち尽くしているリン。そしてシスティーナの言葉を聞いて、少し顔が暗くなったセラ。そして教卓に膝をついているグレンが目の前にいた。
「エルレイ先生!エルレイ先生からもグレン先生に言ってくださいよ」
システィーナは胸を張りながら話を続けた。
「この世界の起源と構造、この世界を支配する法則、魔術はそれらを解き明かし自分と世界が何のために存在するのかという永遠の疑問に答えを導き出し、そして、人がより高次元の存在へと至る道を探す手段、だからこそ魔術は崇高で偉大な者ものだということを」
「ん…」
エルレイは眠たそうな目で、しかし何かを見下すような目で、システィーナを見つめた。
グレンは自分の知っている以上のロクでなしだし、自分の親友の一人が、お高く留まって魔術は偉大だと言うし…そんなこと、システィーナの口から聞きたくなかった。
「なあ、魔術は崇高で偉大だとしてそれはどういうことだ?何の役に立つんだ教えてくれ」
「そ…それは…」
グレンの言葉にシスティーナが黙り込む。
するとグレンは手のひらを返したように言った。
「わかった悪かったよ、魔術はすげー人の役に立ってる……人殺しにな」
酷薄に細められた暗い瞳、薄ら寒く歪められた口から紡がれたその言葉は、クラスの中の生徒たちを心胆から凍てつかせた。
「実際、魔術ほど人殺しに優れた術は他にないんだぜ?剣術が一人殺してる間に魔術は何百人殺せると思う?」
「グレン君いい加減にして!この子たちはまだ力を持つ意味もそれがもたらす責任もわからない子たちなんだよ?!魔術の暗い部分を教えても意味なんてないよ!!」
ついに我慢できなくなったのだろう、セラは大きな声でグレンを怒鳴りつけた。
エルレイは唇をかんだ。彼女自身も責任や意味を、嫌というほど小さなころから覚えてきた。
魔術が人殺しの力だとは思いたくないが……。エルレイは多くの人間を、この手で殺めている。
だから否定することができないのだ。
ぱぁんっ!!!
「!」
乾いた音が教室に響いた。
慌てて視線を動かすと、システィーナがグレンを引っぱたいたようだった。システィーナの目からは……涙がぽたぽたと流れていた。
「…大嫌い、あなたなんか」
そう言い残し、システィーナは走り去っていった。
「ちっ……あー、やる気でねぇから今日の全部の授業は自習な~」
舌打ちした後にがりがりと頭をかいたグレンが、そのまま教室から出て行ってしまう。
「グレン!……~~~~~~!!セラ、システィーナお願い」
「わ、分かった!」
何とも言えない怒りを耐えて、そう言い残すとエルレイは急いでグレンを追った。
★★★
エルレイが学院を走り回ること数時間、なかなか見つからずにチャイムが鳴っていた。
ようやく見つけたのが、3人で会議した学院東館の屋上バルコニーだった…。エルレイは乱れた息を整えてから話しかけた。
「ここに、居たんだ」
「ん?ああ、お前か」
手すりにもたれ掛かっているグレンの隣に陣取り、壁に背中を向ける形でもたれ掛かる。
「何だよ、説教にでも来たのか?女の子をなかせるなー!ってか」
「しないよ、そんなこと」
グレンは意外そうな表情でこちらを見た。
「確かに決闘の時は、少しイラっとした、けど魔術が人殺しに適してるのは…否定しない、だからグレンは悪く無い」
「……」
「私…基本的に、好きな人の味方するから」
「変わった奴」
グレンが軽く噴き出した。
グレンが笑うと私もうれしい、エルレイも笑顔で返す。するとグレンがとても小さな声で。
「やっぱ似てんだよなぁ雰囲気と言い……」
そうつぶやいた。
エルレイは聞かなかった事にして、ポケットからいちごタルトを二枚取り出し、1枚グレンに差し出した。
「おつかれいちごタルト」
「お前何枚いちごタルト持ってんだよ……ま、サンキュ」
「ん、これを食べた時の効能は………その人の給料ボーナスが無くなる」
ぶ-っ!!!!!
その言葉を聞いた途端、グレンが噴き出した…汚い。エルレイは自分のハンカチでかかってしまった手すりの辺りを拭く。
「バカじゃねえの?!馬鹿じゃねえの?!」
「冗談、なに本気にしてるの」
「俺にとっては笑えねえんだよおおぉぉおぉぉ!!!!」
その瞬間エルレイはグレンに頭をグリグリされた。
昔の感覚を楽しみつつ、進展があればいいなと思うエルレイだった。
「でも、痛い」
★★★
それから数日後、どうにかやる気を取り戻したグレンが、システィーナに謝ってから授業をはじめ、それがとても分かりやすく、連日他のクラスからも立ち見の生徒が出るほどに人気が上がった。
エルレイが話した後にルミアが話したらしく、何を話したのかエルレイがルミアに聞いてみると…「内緒です」と笑顔で答えられた。
「いや~、どうにかなりそうだね~。一時はどうなることかと思ったけど」
「ん、何とかなった」
現在エルレイは朝の登校中、同居しているセラと共に、今日も今日とて学院まで徒歩で通っていた。
「レイちゃん……ありがとね。手伝ってれて、本当に助かったよ」
「私は難しいことはしてない、場つなぎしただけ」
「それでもレイちゃんが居なきゃ切り抜けられなかったよ、ありがとね!」
エルレイは素直に感謝されるという、宮廷魔導士特務分室にいたころでは、まずありえない状況に歯がゆさを感じながらも足早に向かった……そして。
「そろそろ、出てきてくれると、ありがたい」
「!……レイちゃん、気付いてたんだ」
エルレイは、物陰を睨みつけながら言葉を発すると、物陰から黒いローブを羽織った男が現れた。
「即席の人払いの結界でしたが、臨時教師とはいえやりますね」
セラはすぐに構えた、エルレイもすぐに詠唱できるように準備をする。
「貴方は誰?目的は?」
「単刀直入に言わせていただきますと、ルミアという子をさらいに来ました」
その言葉を聞いたセラはむっと顔をしかめた。
一方エルレイは無表情のままだが、目には怒りが宿っている。
「やっぱり……ルミアちゃんの正体いろんな人に知られちゃってるんだ」
セラは唇をかみながら悔しそうに言った。
ここでルミアを渡すわけにはいかない、ならやるべきことは一つだった。
「しかし、先生がいるとやりずらいので貴方達から潰そうと」
「《万象に希う・我が腕手に・剛毅なる刃を》」
ドンっ!!
エルレイは詠唱した後───。
地面を殴って辺り一帯に紫電が走る。
次の瞬間。
「レイちゃん!、それは……!」
エルレイの手に大きなクロス・クレイモアの大剣が出現し、そのまま構える。
これこそエルレイ、いや、リィエル=レイフォードの真骨頂…。錬金術による武器の高速生成だ。
「くっ……、錬金がこれほどに早いとは」
「セラは、急いでクラスのところにお願い、こいつは私が……仕留める」
「わ、分かった!気を付けてね」
エルレイの高速錬金に何か言いたそうなセラだったが、そのままクラスを優先して走っていった。
「…始めよう」
「ふっ、《ズドン》」
男の指が一瞬光ったと思えば、そのまま射出された。
軍用魔術のライトニングピアスのようだ。
エルレイは冷静に弾を見きり、大剣をサッと払い…。その弾丸を無効化した。
「な?!」
「ん、この程度だよね」
「な、なめるな!!《ズドン》《ズドン》《ズドン》!!」
怒りに身を任せた男は、ライトニングピアスを連打する。
面倒になったので大剣を盾にして突撃する。
「あぐぁ!」
男の足を払い、男の首元に大剣を突き付ける。戦意喪失したのか、肩の力が下りて動かなくなった。
そうなったのを確認してから両手両足をヒモで縛る。
「ん、これで、大丈夫、かな」
「お前……いったい何者──」
「ん…。ただのエルミアナ様の護衛だよ」
エルレイは髪を後ろに払いながら一度大剣をしまい、ものすごい速度でクラスの教室があるところまで走っていった。
★★★
一旦物陰に隠れたエルレイは、その場にしゃがみ、地面に五芒星方陣を展開させて索敵に入る。
教室に生徒数人、セラもいる。魔術実験室にシスティーナとグレン…。セラの方もグレンの方も問題は無さそう。
「……問題は」
ルミアだけ別のところにいる…ということだ。
最上階の大広間───。
エルレイは直ちにここに行くことに決め、瞬即召喚を開始する。
1秒も立たないうちに刀が生成され、エルレイは自分の腰にセットした。
「考えても仕方ない、突っ込む!!!」
物陰から飛び出したエルレイは、勢いよくドアを開け…そのまま最上階へ向けてダッシュする。エルレイは難しいことを考えるのが苦手だ。
だから難しいことはグレンに任せ、エルレイはいつも道理倒せる敵を倒す。それだけだった。
階建を上がっている途中、エルレイの足が止まった。
「ボーン・ゴーレム、しかも見たところ竜の牙での生成、お金持ちか」
目の前に飛び出してきたのはまさに骸骨、しかもぱっと見、20はいる。
「うちはお金事情、厳しいのに」
こんなものを ポンっ、と使える組織に若干の怒りを感じながらも…。
瞬間──。
エルレイは霞むように動いた。鞘を収めたままゴーレムの大群の中心まで入り込む。その早すぎる動きは、ゴーレムは愚か、大抵の人間は視認できないだろう。
「いいいいぃぃぃやあああああああ!!!!!!」
エルレイは縦横無尽に戦った。
『天つ風』『旋風』『暴風』『東風』『霜風』
ありとあらゆる親友から教わった抜刀術を使い、ゴーレムを翻弄する。
「りゃあああぁぁぁぁぁ!!!」
ルミアやシスティーナ、クラスのみんなが捕まっているのは、エルレイ……。いやリィエルにとっては容認できない屈辱なのである。
数秒後、そこにはバラバラになった骨だけが散りばめられていた。
★★★
最上階の大広間についたエルレイは、容赦なくドアを蹴り飛ばし侵入する。
「ルミアっ!!!」
「エルレイ先生!無事だったんですね!よかった…」
こんな時でも他人の心配、人がいいというか何というか。ルミアの安否を確認できたエルレイは、次は隣の男を睨みつける。
彼は二十代くらいで金髪、見た目は優男。でも何を考えてるかわからないから気味が悪い…。それがエルレイの印象だった。
「ヒューイ先生、だっけ?」
「おや、私の名前をご存知でしたか」
「昔聞いたから、ルミアが金髪の優男に狙われたって」
エルレイは冷たい目でそう言った。
だがその目は、怒りや殺意を宿らせている。その場の空気がピリピリと変わっていく。
「でも、遅いです…私の勝ちですよ」
「なぜ?」
「あと十分で構築が完了し、ルミアさんは私達の組織に送られます」
「そして…サクリファイスも発動している、と?」
「察しがいいようで助かります」
青い魔法陣があるからそうだとは思ったが、おそらくこの男が死んだら時間経過でなくとも、サクリファイスが発動されるのだろう。
「エルレイ先生!あなただけでも逃げてください!」
「………」
「そうですよ、あなたは臨時講師、あなたがここで命を落とす必要は無いでしょう」
ルミアやヒューイの言葉に耳を傾け、エルレイはぼそっとつぶやいた。
「見逃して、くれるの?」
怯えたような口調で、目をうるうるさせながら小さな声でつぶやいた。
「ええ、あなたを殺す理由はありませんから、なので今すぐここから」
「だが断る。」
「「…え?」」
突然のエルレイの発言に、ヒューイとルミアは目を見開き、驚きの声をあげる。
「このエルレイ、最も好きなことの一つ、自分が絶対的有利だと思っている奴に、NOと断ってあげること」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
エルエイは妙な立ち方をして、決まったと言わんばかりに眠そうな顔で胸を張る。
「ま、まあいいです、どのみちあなたには何も──」
「聞いておきたい」
エルレイがヒューイの言葉を遮り、冷たい目で見ながら質問した。
「このサクリファイス、何重にもなってるよね」
「よく見ただけでわかりましたね、ええ、ご明察です。このサクリファイスは5階層に分かれています。臨時教師の解除スピードでは無理ですよ」
「ん、5層…。思ったより少ない」
「…なんですって?」
ヒューイが、エルレイを軽く睨み付ける。
そんなヒューイをなんのその、エルレイは小瓶を取り出した。そこには赤黒い何かが入っていて気味が悪い。
「もし、一回で複数解ける触媒があったら……無理じゃない」
「なっ?!そんなものどこで?!」
ヒューイが驚きの声を上げる。
エルレイがこんなものを持っている理由は簡単で、自分を作り出したある計画の処分中に大量の触媒になりそうなものがあり、そこからより強力なものを調合して作り出した…ただそれだけの話だ。
「ルミアは、私が守る…。これは私の使命」
「えっ、私を助けることが使命?」
「すぐに終わるから、すこし待ってて、ルミア」
★★★
ルミアを助けたエルレイは、ヒューイを一発ひっぱたいた後にみんなと合流した。
みんな怪我はないようなので良かったと、胸をなでおろす。そしてゴーレムとエルレイが戦っているところを助けに行こうとしたセラ含む数人に見られていたため、多少うるさかった。
そんなこんなでルミアちゃん誘拐騒動はこれにておしまい……。
「お前、リィエル=レイフォードか?」
「イチゴタルトハオイシイナ」
と思うのが普通だろう、現在夕暮れ時にグレンとセラに呼び出しをくらった。どうやら大剣の生成が全く同じものだそう……。反射的にいつもの詠唱をした自分を心から呪った。
「どうしよう、ホントに」
良ければ評価、感想をお願いいたします、励みになります。
エルレイ「私はエルレイって言え、って作者に強要された」
え?