≪体調悪い?≫
「へっくしょん!」
鼻のむずむずが全然止まらん。ティッシュで鼻をかんでもあとからあとから垂れてくるし、風邪ひいたかもしれない。
「もう夜の10時か……」
今から薬飲んでぐっすり寝て、明日の朝に治っているのを祈ろう。1回授業を休むと面倒なんだよな。
「……っくしゅん!」
ああ、また出た。このままだとティッシュ1箱使い切ってしまいそうな勢いだ。
早く風邪薬飲まなきゃな。えーと、確か奥の棚に置いてあったはず……ああ、鼻が詰まって呼吸が辛い。
「一夏、いるか」
腰を上げようとしたちょうどその時、誰かが部屋を訪ねてきた。この声は多分箒だ。
「開いてるから入ってくれ」
長話はできないけど、少しくらいなら大丈夫か。せきは出てないけど、念のためマスクを着けておこう。
「夜分にすまないな。話したいことがあって……む?」
箱から紙マスクを取り出したのと、箒がドアを開けて入って来たのはほぼ同時だった。
俺の様子や部屋の中を眺めて、彼女は少しの間動きを止める。
「いや、実は」
「床に置かれたティッシュの箱、ゴミ箱いっぱいの使用済みティッシュ、やけに大きな息遣い。これらの要素から導かれる答えはただひとつ! オ」
「風邪だよ」
容易に言葉が予想できるから先にツッコんでおいた。
≪お前のせいだ≫
「一夏さん。少しお尋ねしてもよろしいでしょうか」
「ん?」
休み時間にセシリアが声をかけてきた。これだけなら別によくあることなのだが、加えて彼女の後ろにはクラスメイトが4人控えていた。えらく大所帯だ。
「箒さんの好みなどを教えていただきたいのですわ」
「箒の好み?」
「もうすぐ誕生日だそうですから、何か贈り物でもと考えていますの」
なるほど、そういうことか。あいつの誕生日は7月7日だから、確かにあと1週間くらいでやって来る。
本人に聞くといろいろ勘づかれそうだから、箒と付き合いが長い俺に尋ねたってわけか。
「他のみんなも同じ質問か?」
セシリアの後ろの4人に確認すると、全員首を縦に振った。
「そうか。あいつも人気者だな」
「箒ちゃんは基本的に誰とでも仲いいからね」
「他のクラスにも友達たくさんいるみたいだし」
「へえ」
いろんな人と話している印象はあったけど、やっぱり交友関係広いんだな。
「なんだかうれしそうですわね」
「え? ああいや、人間変われば変わるもんだなと思ってさ。あいつ、昔は積極的に友達作るタイプじゃなかったから」
「そうなんですの?」
驚く一同。まあ今の箒しか知らなければそういう反応になるよな。
「小学校低学年の頃の話だけどな。最初に会った時は――」
「なんの話をしているのだ?」
「うおっ、箒!?」
ちょっとばかし昔話を始めようとしたら、ひょっこり本人が姿を現した。さっきまでは教室にいなかったのに、いつの間にか戻ってきていたらしい。
「例の話、また今度な」
「わかりました」
箒の目の前でプレゼントの話はできないので、放課後にでも時間を作ることにした。
「どうしたコソコソと。もしかして内緒話か」
「いや、別にそういうわけじゃない。ちょうど昔のお前の話をしてたところだったんだ」
「昔というと、ひょっとして『友達いなかった時代』か」
鈴と違って、箒は過去の自分を語られることを嫌っていない。なのでこっちも話のネタにしやすいのである。
「箒ちゃん、本当に友達いなかったの?」
「なんか想像できないんだけど」
「はは、まあ昔の私はひねくれていたからな。今思えば馬鹿なことをしていたものだ。友達は多い方が楽しいし面白いのにな」
笑顔で答える彼女を見ていると、こいつ人生楽しんでるなーと素直に感じる。
「箒は面白いことを見つけて楽しむのが上手だよな。ちょっと羨ましいくらいだ」
思いついたままのことを言うと、なぜか箒は目を丸くして俺を見た。
「おかしなことを言うのだな。そもそも私をこうしたのは一夏ではないか」
「え?」
「……覚えていないのか、それとも自覚がないだけか。とにかく、私にいろいろな『初めて』を教えてくれたのはお前だ」
そんなすごいことをした覚えはないんだけど、箒にとっては違うらしい。確かに彼女の最初の友達は俺だったはずだけど、そのことを言っているのだろうか。
「な、なんてことですの。一夏さんは箒さんの初めてを奪っておいて、そのことを忘れてしまっているなんて」
「誰もそんな話はしていない」
セシリア、妄想抑えて抑えて。
≪沖縄≫
「もうすぐ臨海学校だね」
「そうだな。楽しみだ」
シャルロットと教室で談笑中、来週行われる校外研修のことに話題が移った。海辺の広い空間でISを動かすというのが目的なのだが、旅館で2泊3日なうえに初日は丸々自由時間なので、俺を含めて生徒達の多くはすでにウキウキである。
「水着、どうしようかな。実はまだ用意してないんだよね」
「そうなのか?」
「うん。だから、週末に箒達と一緒に買いに行くことになってるんだ」
よくよく考えると、俺は唯一の男として女子の水着姿をひとり堪能できるわけだよな。弾あたりに話したら羨ましがられそうだ。
「やっぱりこういう遠出はテンションあがるよな」
「そうだね。今回は海に行くだけだけど、秋には修学旅行もあるから楽しみだよ」
そうだった。この学園は1年生で修学旅行に行くんだよな。
「行先はどこになるんだろうな。京都とか沖縄とか、いろいろ思いつくけど」
「僕は日本についてよく知らないから、どこに行っても楽しめるかな。京都には寺院が多いんだっけ」
「そうそう。日本の古きよき文化が詰まってるんだ」
俺にはあんまりわからないけど。中学の時も行ったから、今度は別の場所がいいとは思う。
「沖縄は南国だよね。独特の文化があるって聞いたけど」
「ああ、建物とかも結構違うらしいぞ。シーサーっていう獣の像が置いてあったりするんだ」
「へえ、見てみたいな」
「あとは……オスプレイとか見られるかもしれないな」
沖縄には米軍基地があるから、空を飛んでいる姿が目に入る可能性もある。俺はミリオタってやつじゃないからよくわからないけど、まったく興味がないというわけでもない。
「そ、それは本当なのっ!?」
「うわ、どうした急に」
突然目を輝かせてぐいぐい顔を寄せてくるシャルロット。そんなにオスプレイが見たいのか?
「お、雄プレイが見られるって、沖縄は同性愛者が多い地域なのかな!」
「イントネーション!!」
≪革命?≫
「やっぱりBは欲しかったなあ」
「癒子はCだったんだっけ?」
「私はDだからCでも十分羨ましいけどなー。整備科行こうと思ってるから別にいいけど」
「Aの人とかはまさにレベルが違うって感じね」
「持って生まれたものの違いってやつだよね。いいなあ……」
「でもまあ、頑張り次第である程度はなんとかなるでしょ!」
「だね」
「どうした鈴。血相変えて」
「た、大変よ一夏。あたしの知らないうちに貧乳ブームが到来してるわ!」
「幸せそうなところ悪いが、谷本さん達がしてるのはIS適性の話だと思うぞ」
≪水着の魅力≫
「ボーデヴィッヒさんはもう水着用意した?」
「水着? ああ、確か荷物の中にあったはずだ」
寮の部屋で本を読んでいると、デュノアがそんなことを尋ねてきた。そういえば、もうすぐ臨海学校だったか。さして特別な準備は必要ないと思うが、一応近いうちに確認しておかなければ。
「どんなタイプ? 意外と大胆なビキニだったりするのかな」
「タイプも何も、学園指定の物を買っただけだが。お前は違うのか?」
「えっ、じゃあスクール水着で行くつもりなの?」
私としては当然のことを言ったつもりだったのだが、デュノアにとってはそうではなかったらしく、かなり驚かれた。
「何か問題があるのか?」
「そういうわけじゃないんだけど、うーん……」
「サイズは合っているのだぞ。この通りだ」
本国から持ってきた荷物の中に水着を発見したので、取り出してデュノアの前で広げる。
「む」
紺色の水着の胸の部分に、どういうわけか白い布が張り付けられている。こんなもの、最初はなかったはずだが。
布には大きく私の名が書かれているので、どうやら名札のようだ。
「クラリッサの仕業か」
荷造りを手伝ったのはあいつしかいないし、その時に仕込んだのだろう。まったく、こんな大きく名前を書かなくとも紛失したりしないというのに。
「……どうした、そんなに目を見開いて」
どういうわけか、先ほど以上に驚いた様子のデュノア。何か変なことをしただろうか。
「こ、これはすごいよ……!」
「なに?」
「おぼつかない筆跡、わざわざひらがなで『らうら』と書いたこと。名札の大きさも計算し尽くされている……これは萌えのプロの業だよ」
「ま、待て。毎度のことだが話についていけん」
興奮したデュノアを落ち着かせようとするが、なかなか静まってくれない。
「これ、ボーデヴィッヒさんの知り合いが作ったの?」
「知り合いというか、部下だが……」
「ぜひ紹介してくれないかな! きっと仲良くなれると思うんだ」
く、クラリッサとデュノアが……?
確かに馬は合いそうだが、このふたりを会わせてはならないと私の本能が告げている。
「僕もスク水にしようかな……ああでも、こういうものの二番煎じはやっぱり駄目だよね。とすると――」
この時感じた直感が正しかったことを、私は夏季休暇中に知ることになる……。
≪思春期あるある その2≫
「司会の篠ノ之箒だ」
「審査員の更識楯無よ」
「思春期あるある第2回、今回は一夏に答えてもらおう」
「え、俺?」
なんかわからんけど無茶振りをされてしまった。というかあれ、続いてたんだ。
「いきなり言われても簡単に出てこないですよ」
「そんなに難しく考えなくていいのよ? 自分や友達が体験した、思春期らしい出来事を語ればいいだけなんだから」
「些細なことでも構わないからな」
「うーん」
少し考えてみる。小学校高学年や中学の時、何かそういうネタになりそうなことを経験しただろうか……
「あ、ひとつ思い出しました」
おお! とがっついてくるふたりに、俺は中学時代の思い出を語る。
「数学の授業で、正三角形4つをタイル張りした図形が出てきませんでした?」
「正三角形を4つ?」
「タイル張り?」
「いきなり言われてもぴんと来ないか。紙に書くとこんな感じです」
「これがトライフォースに見えたっていうのは」
「……むぅ」
「なんか普通ね。インパクトに欠けるから55点」
「えー……」
あるあるネタなんだから普通でいいと思うんだが。俺達の世代ならあの形みたらほぼ全員がトライフォース連想するだろ、多分。
「じゃあどんなのがいいんですか」
「そうね、たとえば図形というジャンルなら」
そう言って、楯無さんは俺のトライフォースの横に新しく何かを書き始める。
「こんな感じの図形があったとします」
なんだこれ。テーブルランプか? それとも郵便受け?
「これが三角○馬に見えてついつい興奮してしまう」
「ああ! わかります師匠、これはいいあるあるです」
「でしょう?」
「さすがです!」
「もうやだこのコンビ」
章はじめのサブタイトルはなんとなく統一性を持たせています。
挿絵は初めてにしてはなかなかうまく描けたと思います。え、あんなの挿絵じゃない? 挿絵機能を使ったら全部挿絵ですよ?
いよいよあと3話、終わりが見えてきました。次はあの人が再登場です。
感想等あれば、気軽に送ってもらえるとうれしいです。
では、次回もよろしくお願いします。