クラスメイトは全員思春期   作:キラ

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イギリス代表候補生は男嫌い

≪周囲の視線≫

 

「ですから、ISの運用にまず必要なものは――」

 

 1時間目はホームルームだけで終わったが、2時間目からはすでに教科書に沿った授業が開始されていた。

 一応入学前に渡された参考書には目を通したけど、とても1ヶ月弱で理解できる代物ではなかった。他の生徒はもっと前からISの勉強をしてるはずだから可能なのかもしれないが、突然IS学園に入学が決まった俺には土台無理な話だ。

 なので、今も先生の話について行くのが精いっぱい。ところどころ出てきたわからない部分は、あとで箒に聞くことにしよう。

 

「………」

 

 しかし、周りからの視線が気になるなあ。こっちは教科書と壇上の山田先生を見るだけでいっぱいいっぱいなのに、クラスメイトたちはチラチラと俺の方に目を向けている。その余裕がうらやましい。

 ……そういえば、箒のやつはどうなんだ? IS開発者の妹となれば、俺と同じように注目されてもおかしくないけど。

 ふとそんなことを考え、ちらりと窓際の席に目をやる。

 

「~~~~っ♡」

 

 見られるには見られていたが、なぜか恍惚とした表情を浮かべていた。

 

一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、あいつの性癖がうらやましいと思ってしまった……

 

 

≪イギリス代表候補生≫

 

「ちょっとよろしくて?」

 

 そう声をかけられたのは、2時間目が終わって机に突っ伏そうとした矢先のことだった。

 

「えっと、なに?」

「あなた、織斑先生の弟で間違いないのですわよね」

 

 白い肌にふわっとした金髪。とりあえず、欧米の人っぽい。しかも言葉遣い的にいいところの生まれなのかもしれない。

 

「そ、そうだけど」

「あの方の親族の割には覇気がありませんわね。だいたいなんですのそのボソボソした話し方は。もっとハキハキしゃべりなさいな」

 

 そして、初対面で厳しいことをずけずけと言ってくる遠慮のない性格らしい。

 ……で、この人名前なんだっけ。

 

「それは悪かったな。気をつける」

「わかればいいですわ」

 

 適当に当たり障りのない返事をして時間を稼ぐも、思い出せる気がまったくしない。頭文字すら出てこない。

 ここで『ところで君はだれ?』なんて言ったら絶対怒るよな。なんかプライド高そうだし、かりにもさっき自己紹介したところなんだし。

 

「おお、これはイギリス代表候補生にして入試主席、かの名家オルコット家の生まれで正真正銘の貴族、セシリア・オルコットではないか」

「……な、なんですの篠ノ之さん。その説明口調は」

「他意はない。気にするな」

 

 おう、さすが幼なじみ。華麗に参上して俺の知りたいことを多すぎるほど教えてくれた。

 

「ふっ、私のことはホウキペディアと呼ぶがいい」

「語呂悪いなオイ」

 

 ネーミングセンスはさておき、ホウキペディアさんのおかげで助かった。

 

「まったく、ISを動かせる男性と聞いて、どんな方なのかと期待しておりましたのに……そこらの男と同レベルですわね」

「………」

「どうしましたの、急に黙り込んで。文句があるならはっきり言わないとわかりませんわ」

「………」

「これだから男は――」

「あのさ、ちょっといいか?」

 

 いやまあ確かにオルコットの物言いに少々カチンと来てるのは事実なんだが、それ以上にさっきからずっと疑問に思っていることがある。

 

「なんでお前、俺からそんなに距離とって話しかけてきてるんだ?」

「……気のせいでなくって?」

「5メートルくらい離れてて気のせいってことはないだろ」

 

 そう。俺の位置(自分の席)とオルコットが立っている位置、普通に机数列分の隔たりがある。おかげで声を張らないとお互い何言ってるのかわからない状況だ。

 

「そ、それは……あなたみたいな凡庸な男のためにわざわざ移動するのが面倒だから」

「いちいち大声出す方が疲れないか」

「わ、わたくしにとってはそうじゃありませんの!」

 

 むきになる当たり、自分でも苦しい言い訳なのは自覚している様子。さて、こうなるともう少し攻めてみたくなる。

 とりあえず、隣に立っている箒の意見を聞いてみよう。

 

「なあ、オルコットがあんなことやってる理由ってなんだと思う」

「その質問を待っていた。このシャーロック・ホーキズの名推理を聞かせてやろう」

「もう語呂悪いとかそういうレベルじゃなくなってるな」

 

 全然うまいこと言えてないからそのドヤ顔はやめてほしい。

 

「な、何をふたりでこそこそ話していますの」

「大したことじゃないから心配しなくていいぞ」

 

 不機嫌顔のオルコットに適当に合わせつつ、箒の意見を耳に入れる。

 

「なるほど」

 

 確かにそういうことかもしれないな。とにかく試してみるか。

 

「このわたくしを前にして内緒話だなんて、男というのは本当に」

「オルコット」

 

 名前を呼んで、彼女の意識をしっかりと俺の言葉に集中させる。そうしておいて、

 

「わっ!!」

 

 と軽く椅子から体を乗り出しながら大声を出すと、

 

「ひううっ!?」

 

 オルコットは小さな悲鳴とともに過剰にのけぞった。

 ……これは間違いないな。

 

「どうだワンサマ君。私の推理は完璧だったろう」

「もう突っ込まないからな」

 

 本当にネーミングセンスはどうかと思うが、名探偵ホーキズの言い分は当たっていたようだ。

 

「セシリア・オルコットは男性恐怖症」

「っ!? ち、違いますわ! 今のはただ、その」

 

 しどろもどろになりながら、なんとか弁明しようとするオルコット。

 

「わっ!!」

「ひうううっ!?」

 

 ……なんかかわいい。

 

「なんだか面白いな、一夏」

 

 

≪クラス代表決めましょう≫

 

 3時間目は千冬姉の授業……の前に、クラス代表を決めることになった。

 自薦他薦を問わないとのことで、とにかく名前さえ挙がれば候補になる。

 

「織斑くんがいいと思いまーす!」

「私も!」

 

 候補その1、俺。まあ予想はしてたし驚きはない。受け入れたくはないが。

 

「わたしは篠ノ之さんを推薦します」

 

 候補その2、篠ノ之箒。こっちも注目されていたので妥当なところか。

 

「篠ノ之さんもいいよね」

「あの篠ノ之博士の妹だし」

「あんな大声で『童貞』って言えるんだから、きっとすごく強靭な精神の持ち主だよ」

 

 授業中だけどすごくツッコみたい。

 

 そして、候補者その3。

 は、いなかった。

 

「他にはいないのか? それなら投票に移るが」

「待ってください!」

 

 千冬姉が推薦を締め切ろうとしたところで、ひとりの生徒が勢いよく立ち上がった。オルコットだ。

 

「どうして織斑さんが推薦されてわたくしの名が挙がらないのですか! 納得いきませんわ!」

 

 キッと俺を睨みながら声を張るオルコット。どうやら自分を差し置いて俺が候補に挙がったことが癪に触ったらしい。貴族のプライドってやつだろうか。こっちは今すぐにでも推薦票なんて譲ってやりたいくらいなのに。

 ……でも確かに、誰もあいつを推薦しないのはちょっと変かもしれない。イギリスの代表候補生で入試主席って話が本当なら実力は確かだろうし、注目を集めてもおかしくないはずなんだけど。

 

「ねえセシリア、ちょっといい?」

 

 とそこで、彼女の隣に座っていた女子が手を挙げた。

 

「さっきの休み時間、織斑くんと大声で話してたでしょ」

「ええ。それがどうかしまして?」

「多分、あれでみんな思っちゃったんだよね」

 

 休み時間の会話と言えば、オルコットが男性恐怖症だというのが発覚したときのことか。

 

「ああ、この子代表って言うよりは守ってあげたくなるタイプだなって」

「……はい?」

「だって、男の子がちょっと驚かせただけであんなに怖がるんだもん。かわいい! って思っちゃうのが普通だよ」

 

 目を点にするセシリア。しかし対照的に、クラスの大半の女子はその言い分に頷いていた。

 

「そうそう、あの時のセシリアやばかったよねー」

「同性でもキュンと来ちゃったもん」

「なんていうかな、マスコット的かわいさを感じたわ」

「涙目マジたまんなかったッス」

 

 なるほど、あれにときめいたのは俺だけじゃなかったってことか。納得した。

 

「な、な、な……納得いきませんわーーー!!」

 

 

≪勝負です勝負!≫

 

「こうなったら決闘ですわ!」

 

 ビシッと俺を指さし、オルコットは高らかに宣言した。

 

「いや、こうなったらってどうなったらだよ」

「黙りなさい! ここまでわたくしを辱めておいて今さら引き下がれると思って!」

 

 かわいい発言がよほどこたえたのか、完全に頭に血が上ってしまっている様子。本人的にはCuteではなくCoolでありたいんだろう。今はCoolどころかPassionが前面に出ているが。

 

「わかったわかった。勝負くらいなら受けてやるから」

 

 決闘といっても命を賭けるわけではないだろうし、別にいいか。

 

「言いましたわね。では負けた方は勝った方の奴隷になるということで」

「っておいちょっと待て。勝手にルール付け足すな」

「決闘なのですから、リスクがあるのは当然でしょう?」

 

 ……いかん、目が据わってる。感情が昂ぶり過ぎて暴走してるぞ。

 

「で、でもなあ、さすがに奴隷は」

「そうだぞオルコット」

 

 俺の反論を支えるように、箒が助け舟を出してくれた。

 

「奴隷プレイなんてマゾの一夏にとってはご褒美じゃないか」

「もうお前黙っとけ」

 

 

≪結局決闘決まりました≫

 

 午後の授業まで消化し、放課後になった。

 

「なんとか説得して負けた方が奴隷というルールはなしにできたけど……」

 

 さて、これからどうするか。別に絶対勝たなきゃならないわけでもないが、あんまり無様な負け方をするのは嫌だ。オルコットに散々馬鹿にされるだろうし、それ以前に俺にも意地というものがある。

 

「とりあえず、箒にいろいろ聞いてみるか」

 

 わからないことは教えてもらうしかない。あいつが了解してくれれば、訓練にも付き合ってもらおう。

 とりあえず、今はさっさと寮に行って休みたい。

 

「えっと、俺の部屋は1025か」

 

 寮監の千冬姉からもらった鍵の番号を見て、自分に割り当てられた部屋を探す。

 

「お、ここか」

 

 ドアに鍵を差し込んで回す。さて、どんな部屋なのかな。

 

「おかえり一夏。遅かったな」

「………」

 

 開けたドアを閉める。

 

「部屋を間違えたか」

 

 でなきゃ俺の部屋のど真ん中で箒が正座しているわけがない。

 いや、でも鍵はちゃんと合ってたよな……?

 

「もう一度」

 

 ガチャ。

 

「おかえり一夏。遅かったな」

「なんで女豹のポーズになってんだ!?」

 

 部屋の中に入ると、四つん這いになって背中を反らした箒がこっちを見ていた。

 

「え? セクシーポーズで出迎えてほしいから入り直したんじゃないのか?」

「どんだけ脳内桃色ならそんな考えに至れるんだ。単純に、なんで俺の部屋にお前がいるんだって驚いただけだよ」

「む、ひょっとして先生から何も聞いていないのか」

「へ?」

「お前と私、同じ部屋だぞ」

「え」

 

 聞いてないぞ、そんなこと。てっきり一人部屋だと思ってたのに。

 

「マジかよ……幼なじみとはいえ、もうお互い15歳だぞ」

「部屋の都合がつかないらしいから仕方ないだろう」

 

 そうはいってもなあ。年頃の男女が同じ部屋で生活するなんて、俺の貞操観念的には結構大事件だ。

 

「……私と一緒は、そんなに嫌か」

 

 気づけば箒の表情は暗くなり、不安そうな瞳でこちらを見上げていた。

 

「いや、そういうわけじゃない。……というか、よく考えたらうれしいくらいだ。女の子の誰かと相部屋にならなきゃいけないのなら、箒が一番いいからな」

「っ! そ、そうか! よかった」

 

 一転して笑顔になる箒。やっぱりこいつにはこういう顔の方が似合ってる。

 

「じゃあルームメイトとして、改めてよろしくな」

「ああ、こちらこそ」

「ところで、いつまでそのポーズ続けるつもりだ?」

「それがだな。初めてやってみたのだが、制服でこの姿勢をとると尻がスース―して気持ち」

「そんな情報は必要としていない!」

 

 

≪幼き日のおもひで≫

 

 あれは確か、俺たちがまだ小学3年生くらいだったころのこと。

 

「298……299……300。ふう……あれ、箒?」

 

 道場で素振り300回を終えた俺は、さっきまで一緒に竹刀を振っていたはずの幼なじみが姿を消していることに気づいた。

 

「ほら一夏、冷たいお茶だ」

 

「うおっ」

 

 いきなり背後から声をかけられて飛び退くと、そこにはお盆を持った箒がうれしそうに立っていた。

 

「ったく、おどかすなよな」

「悪いな、ついイタズラしたくなってしまった」

「おわびにこの麦茶は2つとも俺がもらう」

「ああっ、待て」

 

 お盆からコップ2つを奪い取り、一気にのどに流し込む。

 

「それ片方はからしたっぷりのハズレなのに」

 

 ぶーーーーーーっ!!

 

「か、かかか、からっ、からっ」

 

 ベロが、ベロがっ……!!

 

「ほら、普通のお茶だ。からしを流してしまえ」

 

 ハズレじゃない方の麦茶をがぶ飲みして、なんとか辛さを消すことができた。

 

「な、なんでからしなんか入れたんだ……」

「面白そうだったから?」

「ふざけんな! というかよく見たらお茶の色全然違うじゃねーか!」

「すまないすまない。まさかなんのためらいもなく飲むとは思わなかった」

 

 ハズレの方は茶色と赤色が混ざって大変なことになっていた。なんでこんなあからさまに怪しいものを飲んだんだ俺は……

 

「一夏一夏」

「なんだよ、反省したのか」

「見ろ、胴着の中にひざを突っ込んで座ると巨乳のようだ」

「お・ま・え・なあ~~!」

 

 まったく、初めて会ったころはもっと真面目なやつだったのに、いつからこうなってしまったのか。

 

「ふふっ、そう怒るな一夏。あとでアイスをおごってやろう」

 

 ……でも、こうして騒がしい方がいいのかもな。

 

 

≪そんなことを思い出して≫

 

「しかしまあ」

 

 荷物を片付け、ふたりでのんびりしている最中。俺は箒の体のある部位にばれないよう視線を送っていた。

 

 ボヨン!

 

 デカい。服の上からでもはっきりわかる胸の大きさ。昔はひざを使って巨乳ごっこやってたやつが、久しぶりに会ったら冗談抜きの巨乳に成長していた。

 

「なあ箒」

「うん?」

「お前、デカくなったよな」

 

 わざと胸をガン見しながらそんなことを言ってみる。今日一日さんざん下ネタをぶつけられたから、一度くらいはこっちから仕掛けてみてもいいだろう。

 

「月日が経てば身長も伸びる。一夏こそ、昔は私の方が背が高かったのにすごく伸びてるではないか。顔も男前だ」

「………」

「どうした? 急に黙って」

「いや、なんでもない」

 

 なぜこんな時に限って純粋無垢な返しがくるんだ……なんだよ男前って。照れるだろ。

 




セシリアさんが出てきたけど箒さんの自己主張が激しすぎてあんまり目立っていない痛恨のミス。

いったいどうして箒は真面目キャラから下ネタキャラに変化してしまったのか。そこには実は壮大な理由があるのかもしれない。ないのかもしれない。

感想等あれば気軽に送ってもらえるとうれしいです。
では、次回もよろしくお願いします。
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