クラスメイトは全員思春期   作:キラ

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番外編、そのいちです。


番外編
男装少女は悩める少女


≪お電話タイム≫

 

『何の用だ』

 

 10秒ほどコール音が鳴り続けた後、その人の抑揚のない声が聞こえてきた。

 ごくりと息をのんで、僕は何度もシミュレートしたセリフを口にする。

 

「お久しぶりです。お父様」

『前置きはいい、用件を話せ。私も忙しいんだ』

 

 考えていた挨拶の言葉は、全部言う前にばっさり切り捨てられてしまう。でも仕方ない。彼はデュノア社のトップに立つ人間なのだから、多忙なのは事実のはず。

 

「いきなり電話してしまい申し訳ありません。実は、今月からの夏季休暇についてなのですが」

『夏季休暇? 学園に残っていてかまわないと、転入前に伝えたはずだが』

「はい、それは覚えています。でも、その……少しだけでいいので、お父様に会いたい、と」

 

 緊張で声が震えているのが、自分でもわかる。電話越しでも、この人と会話をするのは怖い。

 

『そんなことを言うためにかけてきたのか』

「は、はい」

『お前のためにとれる時間はない。話は終わりだ』

「っ……わかりました。失礼します」

 

 悩む様子すらなく、父さんは僕の要求を断った。何を言っても無駄だと感じたので、そのまま通話を切る。

 

「まあ、予想はできてたけどね」

 

 あの人は忙しい身だ。それに、僕のことを娘として見てくれてはいない。ずっと愛人が育てていた子供なのだから、当然なのかな。

 とにかく、フランスにいた時から優しい態度をとってもらった覚えもないし、今回の頼みも聞いてもらえない可能性が高いとわかっていた。

 わかっていたけど、やっぱりへこんでしまう。

 

「ひどい顔だ」

 

 ちょうど近くにあった鏡を見て、思わず笑ってしまう。今ルームメイトのラウラが戻ってきたら、いったいどんな反応をされるだろうか。

 

「諦めた方がいいのかな」

 

 正直、心が折れかけている。

 でも、あの人は僕のたったひとりの父親で、その事実だけは変わりようがない。

 だからやっぱり、諦めきれない。

 

 

≪シャルロット、凹み中≫

 

「織斑くん、おはよー」

「おっす」

 

 教室に入って、いつものように朝の挨拶をかわす。

 

「おはようシャルロット」

 

 俺の隣の席には、すでに男装姿の女友達が座っていた。今日はあっちの方が先に来ていたようだ。

 

「……あ、一夏。おはよう」

「ん? どうした、元気ないみたいだけど」

「ちょっとね」

 

 いつも明るいシャルロットにしては珍しく、朝から暗い表情だ。何かあったのだろうか。

 

「具合悪いのか?」

「ううん、そういうのじゃなくて」

 

 苦笑いを浮かべるシャルロット。どうにも態度が煮え切らない。

 

「どうかしたのか、ふたりとも」

「箒」

 

 とそこで、登校してきた箒が会話に入ってきた。

 

「シャルロットの様子が変なんだ。元気ないみたいでさ」

「ふむ」

 

 俺の説明を聞きながら、シャルロットの顔をまじまじと見つめる箒。

 そして数秒後、納得したようにポンと手を叩いた。

 

「わかったぞシャルロット。今日は重い日なのだな。その辛さは私にもわかる」

「……ごめん、そうじゃないんだ。心配してくれてありがとう」

「………」

 

 無言で俺の方を振り向く箒。

 

「大変だ一夏。シャルロットの様子がおかしい!」

「普通の切り返しされただけで動揺しすぎ」

 

 お前の判断基準どうなってるんだ。

 

 

≪正しい仲直りのやり方≫

 

「父親と喧嘩した?」

「あはは……喧嘩というか、うまくいってないというか」

 

 シャルロットがお父さんと喧嘩か。普段の感じからじゃ想像しづらいな。

 

「それで落ち込んでいたのだな」

「うん。どうしたらいいかなって」

 

 困った顔でうつむく彼女を見ていると、友達としてはなんとかしてやりたくなる。

 俺は早くに両親に捨てられたせいで、父親と喧嘩した記憶というものが残っていない。けど、要は家族とぎくしゃくした時の対処法を考えればいいってことだろう。それなら千冬姉との経験を参考にできる。

 

「父親ではないが、私は姉さんと戦って仲直りしたぞ」

「戦うっていうのはさすがに特殊な例だろうけど、まあ正面から顔を見て話し合うっていうのは定番だな」

 

 ちゃんとお互いの意見をぶつけ合うことが、仲直りの第一歩だ。

 そう考えて提案したのだが、シャルロットの表情は暗いままで変わらない。

 

「直接会うっていうのは難しいかな。父さん、今月も来月もずっと忙しいみたいだし」

「そうか……」

 

 もうすぐ夏休みだし、里帰りのついでに行けばいいのでは、と思っていたのだが、そううまくはいかないらしい。

 

「直接会えないなら、手紙とかどうだ」

「手紙?」

「電話とか、声に出してだと言いにくいことってあるだろ? 手紙なら、じっくり時間をかけて言葉を選べるからな」

「プレゼントもいいな。真心をこめた手紙に添えれば効果てきめんだ」

 

 俺と箒で案を出し合っていると、シャルロットがぴくりと反応した。

 

「そういえば、今月末は父さんの誕生日だ」

「おっ、ならちょうどいいじゃないか。誕生日プレゼントと一緒に仲直りの手紙を送れば」

「う、うん。……あ、でもどんな物をあげればいいかわからないや」

「そこは私達に任せろ」

 

 かまわないな? と箒が視線を送ってくる。彼女が何を言いたいのかはわかっていたので、すぐに頷きかえした。

 

「期末試験は今週中に終わるし、問題ないだろ」

「というわけでシャルロット、週末に買い物に行こう。一緒にプレゼント選びだ」

 

 そう言ってニッコリ笑う箒。名案だと思ってテンションが上がっているのだろう。

 その明るさが、今のシャルロットにとってはありがたかったのか。

 

「……うん。ありがとう、ふたりとも」

 

 箒につられるように笑みを浮かべると、その後はいつもの彼女だった。

 元気になってくれたみたいで、俺もほっと一息つく。

 週末のプレゼント選び、頑張りますか。

 

 

≪みんなでお出かけ≫

 

 そして日曜日。期末試験を終えた俺達は、市街地のショッピングモールへ向かっていた。

 

「ちなみに試験の結果も終わっていた」

「勝手にセリフを捏造するな」

 

 失礼なことを言ってきた箒の頭に軽くチョップを入れる。

 

「で、実際大丈夫なのだろうな?」

「多分な。昨日も言ったけど、少なくとも補習はないと思う」

「お前が補習を食らうと一緒に遊ぶ時間が減ってしまうからな……デートもしたいし、頼んだぞ」

「お、おう。ま、今となっては天に祈るしかないけどな」

 

 デート、か。

 その単語は前にも聞いたことがあるはずなのに、今はなんだか照れくさい。

 原因はやっぱり、先日箒から受けた告白に違いないだろう。『今はまだ女の子としてどう思っているのかわからない』と断ったのだが、それであいつとの関係がこじれることもなかった。

 

『もともと勢いで言ってしまっただけだからな。いい返事がもらえるとは思っていなかった。なに、これから惚れさせればいい』

 

 というのが、その時の箒の発言。以来、俺も少しずつ幼なじみのことをひとりの異性として認識し始めているのかもしれない。

 

「どうしたのよ一夏。ぼーっとして」

 

 物思いにふけっていると、いつの間にか隣を歩く人間が鈴に変わっていた。箒は……今はラウラと話している。

 

「いや、ちょっと考え事してただけだ」

「ふーん……なんか顔が赤いけど、いやらしいこと考えてないでしょうね」

「ばっ、違う違う! なんで俺がそんなこと」

「だってこれだけの美少女に囲まれてるわけだし」

「自分で美少女って言うなよ」

 

 事実だからなんとも言えんが。

 今日一緒に外出したメンバーは、俺、箒、シャルロットの3人に加えて、鈴、セシリア、そしてラウラで計6人。みんなプレゼント選びを手伝ってくれるそうだ。

 

「うーん」

 

 男ひとりにかわいい女の子5人。いまさらだが、傍から見るとかなり羨ましい状況ではないだろうか。

 

「一夏」

「ん? ……うおっ」

 

 名前を呼ばれたと思ったら、いきなりシャルロットが腕をからめてきた。

 

「ちょ、いきなりなんだよ」

「いいじゃない別に。西洋風のスキンシップだよ」

「ほんとかよ……」

 

 というか往来の中でこんなことしたら、周囲の視線が! 休日だから人多いし!

 

「おいおい、あいつら男同士でいちゃついてるぜ」

「あんだけ美人はべらせといて男色家かよ」

「もーほー」

 

 シャルロットが男装していることをすっかり忘れていた。

 

「って、余計にダメージがでかい!」

 

 

≪選べ!≫

 

 なんかいろいろあったが、無事ショッピングモールに到着。

 

「じゃあ早速始めるか」

 

 現在時刻は午前11時。今からプレゼントを選んで、終わった後で昼食をとるくらいでちょうどいいだろう。

 

「まずはシャルロット本人の意見を聞こう。どんなプレゼントがいいと思う?」

「うん。僕の父さん、確かワインが好きだったから、そっち方向で攻めようかなって」

 

 なるほど。相手の好きな物を選んでいくスタイルか。

 

「良いのではないか? 好みの品をもらえれば誰でもうれしいものだ」

「甘いなラウラ。私に言わせれば、それはプレゼントを選ぶ人間が陥りやすい罠だ」

 

 賛成するラウラと対照的に、箒は首を横に振る。何かまずい点でもあったか?

 

「相手の好きなジャンルの商品を贈るということは、すなわち相手の土俵に立って勝負するのと同じなのだ」

 

 そう言うと、箒はなぜかセシリアの隣に立って肩に手を置いた。

 

「セシリア。牛肉は好きか?」

「え? ええ、まあ」

「そうか、ならちょうどいい。牛肉もワインも種類が多いのは同じだ。具体例を見せてやろう」

「はい?」

 

 

≪具体例、開始≫

 

「セシリア、シャルロットから新鮮な牛肉をもらったぞ」

「牛肉ですの? 産地は?」

「ええとだな、○×産の……なぜため息をつく」

「わたくしの好みではありませんわ。味が舌に合わないので」

「では庭で寝ている犬のポチにでも食わせるか」

「そうですわね。捨てるのももったいないのでそうしてしまいましょうか。おーっほっほっほ!」

 

 突如としてショッピングモール1階で繰り広げられる寸劇。

 

「とまあ、こうなるわけだ」

「おっほっほ……って、何言わせますの!?」

 

 我に返ったセシリアが箒に食ってかかる。長いノリツッコミだったな。

 

「なんだ、ノリノリで演技していたくせに」

「そ、それはなんというか、その場の雰囲気に流されて……とにかく違いますから! わたくし頂いたお肉はきちんと自分で食べますから! だいたいポチなんて犬飼ってませんわ!」

 

 顔を真っ赤にして俺達に弁明するセシリア。慌てふためいている様子が、相変わらずかわいらしかった。

 

「やっぱセシリアってかわいいわね」

「だな」

 

 鈴と意見の合致を確認し、お互いに頷き合う。本人からの抗議の声が聞こえたが、気にしないことにした。

 

 

≪大事なことは≫

 

 その後、気を取り直してあちこちフロアをまわった。その道中で、それぞれが思いついたアドバイスをシャルロットに示していく。

 

「相手の得意分野が駄目なら、自分の得意分野で勝負すればいいのではないか?」

 

 とラウラが言うと。

 

「お父様があまり知らない物を差し上げるというのも、確かに新鮮味を感じさせることができるかもしれません」

 

 セシリアがこんな意見を出して。

 

「デュノア社の社長って、この前写真で見たけどイケメンよね。ああいう顔の人が身に着けて似合う物でもプレゼントすれば?」

 

 鈴は衣服や装飾品系統を勧め。

 

「せっかく日本にいるのだから、日本らしさを感じさせるものがいいのではないか?」

 

 箒はお国柄方面から切り込んできた。

 

「うーん……うーん」

 

 しかし、どれも決定打にはならなかったらしく、シャルロットは今もうんうんと悩み続けていた。

 

「大丈夫か。頭がオーバーヒートしそうに見えるけど」

「あはは、やっぱりわかっちゃう? なんだかどんどんドツボにはまっていく感じで」

 

 俺達は今、時計屋で男性用の腕時計を物色している。みんなバラバラに散らばって商品を眺めている最中だ。

 

「別に、全員の意見を採用しようとする必要はないんだぞ」

 

 絶対正しいとは言えないけど、俺も自分なりのアドバイスをすることにした。

 

「相手のことを考えて、一生懸命時間をかけてプレゼントを選ぶ。その過程とか、こめた気持ちが一番大事なんだ。月並みな意見だけどな」

「……うん」

「だからもっと自信を持て。これじゃ喜んでもらえないかもとか、あんまり考えすぎるなよ」

「ありがとう、一夏。なんだか元気が出てきたよ」

 

 シャルロットが笑う。これで俺も少しは役に立てたかな。

 

「でも、みんなの意見は全部取り入れるつもりだよ。せっかく僕のために考えてくれたんだから。その上で、僕が自分で選ぶ」

「おう」

 

 どういう経緯で喧嘩したのかとか、そのあたりの事情を俺は知らない。シャルロット自身が語りたくなさそうにしていたから、誰も聞こうとしなかったのだ。

 でも、きっとうまくいくだろう。これだけ頑張ってるんだ、仲直りできると信じたい。

 

 

≪プレゼント≫

 

「社長。シャルロット様から荷物が届いています」

「荷物だと?」

「こちらです」

 

 秘書が社長室まで運んできたのは、日本語で店の名前らしきものが書かれている、大きな紙袋だった。

 

「では、私は失礼します」

「ああ。ご苦労」

 

 秘書が立ち去り、部屋には私と紙袋が残された。

 中身を取り出すと、綺麗に包装された何かと、便箋がひとつ出てきた。

 

「なんのつもりだ……?」

 

 あの娘がこんなことをする理由が見つからない。それを確かめるためにも、まずは手紙の方を手に取った。

 

『お父様、お誕生日おめでとうございます。当日まで待とうと思ったのですが、我慢できずに早めに送ってしまいました』

 

 私の誕生日まではまだ3日ある。我慢ができなかったとはどういうことなのか。

 

『同封しているのは、私が友人と一緒に選んだプレゼントです』

 

 包装紙を破る。

 出てきたのは……ここではあまり馴染みのない衣服だった。

 

『ご存知かとは思いますが、服の方は作務衣といって、日本で生まれたものです。和服に詳しい友人にいろいろと教えてもらったので、きっとお父様によく似合うと思います。室内着にご利用ください』

 

 サムエというものを間近で見るのは初めてだったが、なるほど確かに良いセンスをしているように感じられる。

 

「友人か」

 

 どうやら、それなりに楽しい学園生活を送っているらしい。

 

『IS学園の人達は、とても私によくしてくれています。友人も数多くできて、私は幸せ者です。ここに転入させてくださったお父様には、感謝しています』

 

 ……驚いた。あの娘は、私に感謝しているというのか。

 転入させてくださったなどと書いてあるが、私は当初あれを男として送りこむつもりだったのだ。そんな無茶な命令をされたこともあるというのに、感謝だと?

 

『お父様にとっては、私はただの愛人の娘にしかすぎないのかもしれません』

 

 手紙を読み進める。どうしてかはわからないが、食い入るように次の行、次の行と勝手に視線が移っていく。

 

『ですが、私にとっては、あなたはたったひとりの父親なのです。代わりのいない、大切な存在なのです。これだけは、はっきりと伝えたい』

「………」

『お体に気をつけてください。私も、お父様に貢献できるよう努力します』

 

 手紙は、その一文で締められていた。

 

「……父親、か」

 

 生き残るために、利用できるものはすべて利用するつもりだった。

かつて愛し合った女には未練も残っているかもしれないが、その娘には何も特別な感情はない。

 だからこそ、あの娘に身寄りがいなくなったと知った時、私の手で引き取って道具として使おうと考えたのだ。

 

「随分と懐かれたものだな」

 

 会話した時間もそう長くはない。もちろん、私が育てたわけでもない。

 だというのに、たったひとりの父親だと思われているらしい。

 

「……サムエ」

 

 着かたの書かれた紙が一緒に入っていたので、それを真似て身に着けてみた。

 鏡を見ると、確かに良く似合っている。渡す相手のことを考えていなければ、おそらくここまで私に合った服を選ぶことはできなかったはずだ。

 

「ただの道具のはずだったのだがな」

 

 素直にうれしいと、そう思ってしまった。

 

「思えば、母親に顔立ちがよく似ている」

 

 自然と笑みがこぼれる。自分の中に渦巻くこの感情は、いったい何を意味しているのか。

 おそらくは――

 

「……ん?」

 

 と、そこで私は、紙袋の中にまだ何か残っていることに気づいた。ラッピングされた箱のようだ。

 

「プレゼントはひとつではなかったのか」

 

 今度は何が入っているのだろう。少しだけ期待している自分がいることに驚きつつ、紙袋から箱を取り出した。

 

 

 ヴイイイイイィン……

 

「………」

 

 中で何かがうごめいている。

 

「そういえば、お前の母親もその手の玩具を好んでいたな……はあ」

 

 何かを台無しにされた気分だが……なるほど。間違いなくあいつの……私との間に生まれた娘だ。

 




というわけでシャルロット回でした。次はラウラ回です。

鈴、箒の意見を取り入れた結果→作務衣
セシリア、ラウラの意見を取り入れた結果→もうひとつのプレゼント
一夏の言葉はどっちのプレゼント選びにも役立っているとして、ちゃんと全員分のアドバイスを取り入れたシャルロットさんでした。

感想や評価等あれば、気軽に送ってもらえるとうれしいです。
では、次回もよろしくお願いします。
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