≪対戦前会話≫
「逃げずに来ましたのね」
「そんなことしたら明日から何言われるかわからないからな」
アリーナのステージには、すでに青いISに包まれたオルコットの姿があった。白式を展開した俺が出てくると、不敵な笑みを浮かべてこちらに体を向ける。
……その前に一瞬びくっと震えていたことは触れないでおこう。
「この勝負、ずいぶんと注目を集めているようですわね」
アリーナの観客席の方を見つめるオルコット。そこには俺達のクラスメイト以外にも、他のクラスや学年の生徒達が数多く見物に来ていた。誰かが言いふらしでもしたのだろうか。
「わたくしの不名誉な評判を払拭するには十分な舞台ですわ」
「いや、でもあれは事実だし」
「だ、黙りなさい! あれは事故のようなもので……ああもう、それもこれもあなたのせいですわ。覚悟しなさいな!」
そこまで俺の責任にされてもな。とにかく、オルコットはやる気満々のようだ。
「あんまり俺を見下すなよ? たとえ弱くたって油断してると噛みつかれるかもしれないぞ」
ちょっと挑発気味に返してみる。これは自分を奮い立たせるためと、あわよくばあっちが怒って冷静な判断を失ってくれればという願望が混ざり合った結果の行動だ。
さて、オルコットはどんな反応をするか。
「か、噛みつく……は、破廉恥ですわ! いったいどこを甘噛みするつもりですの!? ああ、そのまま襲われてしまいますわ!」
「頼むから普通に話進めてくれない?」
≪今度こそ試合始まるよ≫
「お前、そんなんで本当に男と戦えるのか?」
俺が近距離に入ったら卒倒するんじゃなかろうか。わりと心配になってきた。
「……馬鹿にしないでいただきたいですわね」
対してオルコットは、さっきまでとは全然違う表情で落ち着いた声を返してきた。
それと同時に、試合開始のブザーが場内に響き渡る。
「あなたをわたくしに近寄らせなければいいだけのお話、ですわ!」
直後、ライフルからビームが俺めがけて撃ち出された。それも一発じゃない、いきなりクライマックスかと見紛うくらいに派手に撃ちまくっている。
「うおっ、ちょっと待てっておい!」
思わず情けない声が出てしまうが、当然向こうが聞き入れるはずもない。かろうじて直撃は避けたものの、何発か掠ってしまった。
くそ、最初は様子見とかしてくれればまだ楽だったのに。これじゃ作戦考えるほどの悠長な時間もなさそうだ。
「あら、今のをかわしましたのね。思ったよりはISの操作に慣れている……それとも、単純にその専用機の性能の問題かしら」
「さあな」
多分十中八九白式の高い基礎能力のおかげです。
「……いいでしょう。それならわたくしも、気兼ねなくこれを使えますわ」
「なに?」
オルコットの背中から、小さな物体が4つ飛び出す。それらはまるで生きているかのように宙を舞い、俺の周囲に陣取った。
「さあ、ここからが本番ですわ!」
何をするのかと思えば、なんと浮遊物からビームが飛び出して来た。完全に虚を突かれた俺は被弾を許してしまい、白式のシールドエネルギーを減少させてしまう。これがゼロになると負けで、つまりゲームにおけるHPのようなものだ。
「嘘だろおい」
俺のISは近接専用で、ブレード1本しか武器がついていない。だから攻撃するためには相手の懐にもぐりこむ必要があるのだが、ああも手数が多いとそれも楽じゃない。
「逃げ回っているだけでは勝負になりませんわよ!」
こうして思考を巡らせている間にも、ビームの雨が俺めがけて降りそそいでくる。防御と回避に精一杯で、とても攻撃なんてできる隙は見当たらない。
「くそっ」
わりと本気で最悪と言っていい事態だ。一度近寄りさえできればワンチャンスあるが、そもそもオルコットは俺を近づけないことを最重要に考えているはず。
普通にやれば、手の打ちようがない状態だ。
普通にやれば、の話だが。
「そううまくいくとも思えねえけど」
昨日の特訓中、箒に言われたことを思い出す。
『どういう風に戦えばいいかだと? そんなこと聞かれてもわからないとしか言えないぞ。正攻法ではまず間違いなくオルコットには勝てないだろうしな。……そういう時にどうすればいいかは、お前の方がよく知っているはずだ』
ま、確かにその通りだ。
「やるだけやってみるか」
確率がゼロじゃない以上、試す価値はあるだろう。オルコットが攻撃的な性格であることを願うばかりだ。
……なにより、このまま逃げてても面白くない。
≪オチはないよ≫
試合開始から15分。状況は依然としてこちらの劣勢。
「しまった!」
右肩に浮遊物――ビットから放たれたビームが直撃する。これでこの部分の装甲は完全に剥がれてしまった。そろそろシールドエネルギーの残量もきつい。
「そろそろ終わりにしましょうか」
オルコットもこっちがギリギリなのは理解しているらしく、フィニッシュの段階に移ろうとしている。そのためか、先ほどから攻撃がより積極的になっていた。
「そう簡単にやられてたまるか! 限界まで粘ってやる!」
抵抗の声をあげながら、俺は速度を増して下降する。向こうの攻撃範囲から逃れるための行動だ。
「くっ……往生際が悪いですわね」
追いかけてくるのはビット2機。オルコットはさほど動かず、ライフルの狙いを定めている。残りの2機のビットは、完全に動きを止めていた。
「これで終わりですわ!」
若干苛立ちを含んだ声とともに、ビットとライフルからビームが撃ちだされた。今まで以上に意識を集中させ、俺はすんでのところでそれを避ける。
……その瞬間、思わずにやついてしまった。
俺に攻撃を加えているビット2機、オルコット、そして彼女の背後の待機中のビット。全部がほぼ一直線上に重なった。
それを確認したのと同時に、俺は白式の速度を爆発させる。
「なっ……!?」
終わりが見えたことで、オルコットは勝負を焦っていた。加えて、試合開始から俺は一度も攻撃の意思を見せていなかった。だから、俺が攻めてくるという展開が多少なりとも頭の隅に追いやられてしまっていたはずだ。
それによって、ようやくあいつの防御に隙ができた。わざわざ限界まで攻撃を食らった甲斐があるってもんだ。
「うおおおっ!!」
瞬時加速。ISはそんな技が使えるようになっている。直線的にしか動けないかわりに、一瞬のうちに爆発的な速度に達するそれは、まさしく俺好みのハイリスクハイリターンな技だ。箒に教わってすぐに習得しようとした甲斐あって、今日に間に合わせることができた。
「真っ直ぐ突っ込んでくるなんて愚の骨頂ですわ!」
ビットから飛び出すビーム。不意を突いたはずだが、さすがは代表候補生。狙いはしっかり俺に向かっている。
だが、俺はそれでも速度を緩めず、唯一の武器であるブレード・雪片弐型を構えた。同時にその刀身が白く輝く。
「………っ!?」
オルコットの表情が驚愕に歪む。無理もない。自ら撃ったビームが雪片に触れた瞬間、跡形もなく消え失せたのだから。
零落白夜。白式が持つ、対象のエネルギーをすべて打ち消す能力。発動中はシールドエネルギーを消費し続ける弱点つきだが、その分ISのシールドさえ無効化できる技だ。
「まだですわ!」
オルコットに肉迫しようかというところで、彼女のISの腰のアーマーが開き、ミサイルが2機飛び出してきた。
一瞬面食らうが、隠し玉があるくらいは予想していた。だから、とどまることなくそれらを左から右に切り裂く。
そして、ついに近接戦の間合いに持ち込んだ。至近距離でオルコットと視線がかち合う。
「インターセプター!」
銃撃は間に合わないと判断したらしく、彼女は短剣を出現させてそれを構えた。
だが俺のやることは変わらない。一度振り切った雪片弐型を、体をねじって今度は右から左へ。
バギン、と金属同士がぶつかり合う音。俺の渾身の一太刀に、オルコットはしっかり剣を合わせてきた。
「うおおおっ!」
だが、近接戦での馬力ならこっちが上だ。つばぜり合いの時間も短く、彼女の短剣を弾き飛ばす。
これで防御の手段はなくなった。あとは、零落白夜の一撃を本体にぶつけるだけ。
「っ……!」
打つ手が尽きても、彼女の目から力強さは消えない。ただ真っ直ぐに、俺のことを睨みつけていた。
「なんだ」
雪片の刃が、今まさに機体の装甲に触れようかという瞬間。
「……時間切れか」
ブレードを包んでいた白い光が、輝きを失った。シールドエネルギー残量ゼロ。
俺の、負けだ。
「な、何が起こりましたの……?」
自らの勝利を告げるアナウンスが流れ、事態を把握できていないオルコットは困惑している。彼女は俺の武器が燃料食いだって知らないから無理もない。
「ふう」
一方俺はというと、惜しいところで負けたにもかかわらず不思議と心は晴れやかだった。
手放しで喜べる内容じゃないけど、いろいろつかめた気がする。
≪試合終わって≫
「残念だったな、一夏」
「チャンスは作れたんだけどな」
試合を終えて出てきた俺を、箒が穏やかな顔で出迎えてくれた。
「次はお前の番だな」
「ああ。やれるだけはやってくる」
インターバルを挟んだ後、今度は箒VSオルコットの模擬戦が行われる。俺とは違って、特に緊張した様子は見受けられない。
「改めて、ありがとうな。お前が喝入れてくれたおかげで、まともに戦うことができた。おかげで今はスッキリしてる。何か新しいものが見えてきそうだ」
「む……そ、そうか。なに、礼を言われるほどのことはしていない」
「お前も頑張れよ」
「任せておけ」
会話を終えて、箒は俺に背を向けて戦いの場へ歩きはじめる。
その去り際に、彼女の独り言が耳に入ってきた。
「あれだけ撃たれてスッキリした、新しいものが見えてきたって……ま、まさか本格的にMに目覚めたのでは」
「はいはい試合に集中しようねー」
≪箒戦はカットです≫
夜になった。
試合は結局どちらもオルコットの勝利。箒も頑張ったけど、機体の性能差などが大きかったと思う。
「むう……」
「どうした一夏、さっきから考え事をしているようだが」
夕飯を終えてテレビを見ているのだが、内容が頭に入ってこない。やるべきかやらざるべきか、悩んでいることがあるからだ。
「いや、オルコットと話したいことがあるんだけどな」
「だったら話せばいいではないか」
「でもプライベートな話だから誰にも聞かれないようにしたいんだ」
「ならふたりきりになれるところで静かに……ああ、そういうことか」
納得したようにうなずく箒。そうなんだよ、あいつ俺に近づけないから話すときは大声にならざるを得ないんだよな。
「だったらこれを使うといい」
そう言って箒が取り出したのは、先端が丸みを帯びている棒状の物体。
カチッ。
ヴイイイイン……
「このバ○ブのスイッチを入れておけば、誰かが通りかかってもそっちの音が気になって会話の内容は耳に入ってこないぞ」
「………」
「……あの、ここはそんなわけないだろーとかツッコんでほしいのだが」
「あ、そうなのか」
普段が普段だから本気で言ってんのかと疑ってしまった……
≪真面目な解決策≫
「まあ今のは冗談として、本当はこっちだ」
次に出てきたのは……携帯電話だった。
「電話ならそばに行かなくても声をひそめられるだろう」
「でも俺あいつの番号知らないぞ」
「私の携帯には登録してある。貸してやるから使うといい」
おお、いつの間にか番号交換してたのか。さすが女子同士はコミュニティ形成が速い。
「私は癒子の部屋に行ってくる」
「ありがとうな。助かった」
そう言い残して廊下に出ていく箒。癒子って谷本さんの下の名前だったっけ。仲良くしてるんだな。
自然に席を外してくれるところまで含めて、まさしくできる女の対応だった。最初のバ○ブさえなければ。
さて、じゃあ俺は早速電話をかけることにしよう。
Prrrrr
『はい』
「もしもし、オルコットか? 俺、織斑だけど」
プツッ。
「……切られた」
今までの対応からして、話すくらいは拒まれないと思ったんだが。
なんて考えてたら、すぐに向こうから着信が来た。
「もしもし」
『……織斑さん、ですわよね』
「ああ。ちょっとお前と話したくてさ、箒の携帯からかけさせてもらってる」
『そうでしたか』
「さっきはどうして切ったんだ?」
『……通話をするとき、携帯を耳に当てるでしょう? そのせいで、なんだか男性に耳元でささやかれているような気分になってしまい』
重症だな、これは。
≪男嫌いの秘密≫
『それで、用件のほうは』
ともあれ、話はちゃんと聞いてくれるみたいだ。……というか、電話越しだと心なしか物腰が柔らかい気がする。
「まずは今日の勝負のことなんだけどさ。楽しかったぜ」
『え、ええ……わたくしも、最後は冷や汗をかきましたわ』
流れで乗った決闘だったけど、終わってみれば久しぶりにスポーツで白熱できて満足だ。機会をくれたこいつには感謝してもいいのかもしれない。
『もう少しあなたのISのエネルギー切れが遅ければ……わたくしもまだまだ未熟ですわね』
「でも、あの勝ちはお前が自分でつかんだものだ」
『どういうことですの』
「俺はもともと、シールドエネルギーをギリギリまで減らしてから勝負をかけるつもりだった。でも本当にギリギリのところで攻めに転じたから、そっちに少しでも抵抗されたら間に合わない計算だったんだ」
ならもっと余裕持って動けという話かもしれないが、オルコットの防御がなかなか緩まなかったんだからしょうがない。それに初めての実戦だったこともあり、タイミングをうまく見極められなかった。
「正直ちょっとだけ、お前が怖がって反撃してこないのを期待してたんだけど……男相手にも、ちゃんとああいう顔できるんじゃないか」
至近距離でも全然ビビッてなかったし。
『あ、あれは勝負の最中でしたから』
「でもできたことに変わりはないだろ」
多分、意識次第でどうにかなるんだと思う。少なくとも、男に寄られただけで過剰反応しないようになれるくらいは目指せそうだ。
「なあ、聞いてもいいか」
『なんですの?』
「どうして男を怖がるんだ?」
前にも一度、同じ質問をしたことがある。そのときは何も教えてもらえなかった。
でも今日の試合の結果で、ほんの少しくらいは彼女に認めてもらえたかもしれない。だから尋ねた。これで駄目なら、もう今後は無理に干渉したりしないつもりだ。
『………あ』
「あ?」
『あなたは……今日、わたくしの想像を上回る実力を見せました。わたくしが思うよりずっと強い方でした。そんなあなたに、入学式の日に失礼な物言いをしてしまったこと。まずはそれを謝らせてください』
「お、おう。別にそんなかしこまらなくても」
やっぱり直接会ってる時と電話越しじゃ印象ががらっと変わるな。しゃべり方がすごく落ち着いてる。
『謝罪の意味も込めて、お話しします。わたくしが男嫌いである理由を』
≪男性恐怖症誕生秘話≫
あるところに、セシリア・オルコットというお嬢様がいました。
彼女の母は仕事のできる人で、若いころから様々な分野で成功を収めてきました。逆に父はオルコット家に婿入りした男で、他人の顔色をうかがってばかりの腰の低い人間でした。
娘のセシリアは母を慕い、父のことをあまり好んでいませんでした。なので、父と会話することもあまり多くありませんでした。
そして3年前、彼女の両親は列車事故でこの世を去りました。ひとりっ子だった彼女には、遺産がまるごと残されました。
さて、ここである問題が生まれました。セシリアは『男性』を知らなかったのです。学園も女子校、そばに使える使用人も女性ばかり。もっとも近い場所にいた父親にはもう会えず、そもそもコミュニケーションをとってこなかったために彼の内面を碌に知らずにいたのです。
そんな折、彼女はとあるメイドの部屋でたまたまある雑誌を見つけました。薄い本でしたが、どうやら漫画のようです。日本語で書かれていましたが、博識な彼女は読むのに苦労はしませんでした。
――タイトル『気になるあの娘に突っ込んじゃおう♪』。
その本では、女性が男性にアレやコレやのエッチなことをされていました。それも強引に。
メイドの部屋には似たような内容の漫画がまだまだたくさんありました。その日から、セシリアは隙を見て部屋に忍び込み、それらを読み漁るようになりました。
「は、破廉恥な……男性っていつもこんなこと考えてますの?」
そうしているうちに、記憶力のいい彼女の頭にはその漫画の絵がすぐに浮かぶようになってしまいました。男というものを考えると、すぐにそういうことを連想してしまうのです。
こうして、セシリア・オルコットの男性観は歪められてしまったのでした。
≪感想≫
「ツッコませろ! いろいろとツッコませろ!!」
なぜ話が全部終わるまでツッコミの権利が与えられなかったんだ! おかげで言いたいことが山ほど溜まってるぞ!
『つ、突っ込むってナニを突っ込むおつもりですの!?』
ほら、こうしてるうちにもどんどんツッコむべきポイントが増えていく!
≪落ち着きました≫
「結構ショッキングな話だったけど……まとめると、エロ同人の読み過ぎで男が近づくと妄想が爆発するようになってしまったと」
『はい……そうですわ』
なんたることだ。イギリス生まれのお嬢様が超ムッツリスケベだったなんて。というかなんでこいつのメイドさんは日本のエロ同人持ってたんだ。しかもハード系ばっかり。
『初日にあなたに話しかけた時も、本当はもっと普通にするつもりだったんです。でもいろいろ変な考えが出てきてしまって、それでつい突き放すような言い方になって』
……でも、これはオルコットにとって大きな問題なんだろう。ツッコむ部分は多いものの、根本にある要素は十分重い。
こいつだって、男のみんながみんな下劣なことしか考えていないなんて信じちゃいないだろう。だけど変に歪んだ感性が邪魔してしまう。
「話はわかった」
ここまで妄想の影響がひどくなってしまったのは、現実での経験が少なすぎるからだ。本物の男を全然知らないから、頭の中で考えたことがそのまま肥大化してしまう。
人間は男と女にわかれてる。その理由は子孫を残すのに都合がいいからとか、そういうところにあるのかもしれない。でも大事なのはそこじゃない。
男と女は違う。見た目も嗜好も、もちろん個人差はあるけど全体的に異なっている。別の生き物だなんて言う人もいるが、確かにその通りだ。
そして、その片方しか知らないというのは。
「お前は損をしている」
多分、面白くない。
『損、ですか?』
「そうだ。同性と遊ぶのも楽しいけど、たまに異性と接するといろいろ新鮮なことがある。その可能性を、お前は最初から持ってないことになる」
『……そう言われると、なんだかもったいないような』
面白いとか面白くないという基準で話してるあたり、俺も箒に毒されてきてるのかもしれない。
「俺も過剰に避けられるのは嫌だからな。どうだ、これから一緒に克服していかないか」
『一緒に……というと』
「普段から男と接してれば、そのうち妄想癖もおとなしくなるだろ」
『そ、それはつまり、織斑さんが男を教えてくださるということですの?』
「なんか言い方がエロいけどその通りだ」
どうだろうか。あっちにとっても悪い提案じゃないと思うんだが……
『織斑さんがよろしいのなら、ぜひお願いしたいですわ』
「よし、なら決まりだな。改めてよろしくな、オルコット」
『……あの、よろしければファーストネームで呼んでいただけませんか? そこも慣れていきたいと思うので』
「そうか? じゃあ、セシリア」
『………』
「セシリア?」
おかしい、返事がかえってこない。
「セシリア? おーい、セシリアー」
『……は、はずかし……ですわ』
プツッ。
切られてしまった。
「今の小声、かわいすぎるだろ……」
あれは守りたくなるタイプだな、間違いなく。クラスのみんなもうなずいてくれることだろう。
≪クラス代表決まりました≫
「というわけで、1組の代表はオルコットさんに決まりました。頑張ってくださいね」
翌日の朝のホームルームで、山田先生がクラス代表の正式決定を報告した。それを聞いて、教室からはぱちぱちと拍手が起きる。
「あの、今さら言うのも問題なのですが……皆さん本当にわたくしでよろしいんですの? 反対が多ければ織斑さんか篠ノ之さんのどちらかに譲ろうと考えているのですが」
「勝負で決めたんだし誰も文句言わないよ」
「セシリアは強いし、代表候補生だから話題性もあるし」
「それに、セシリアみたいな子をみんなで支えるっていうのもありかなって」
クラスメイトも異議はない模様。そもそもセシリアへの推薦がなかったのは彼女の守ってあげたいオーラが原因だし、そこさえ納得できれば文句なんて出ないわけだ。
「頑張れセシリア!」
「私達がついてるよ!」
「……やっぱり納得いきませんわ」
≪生徒会長≫
「今日も疲れたな」
夜。なんとなく外の風に当たりたくなったので、寮から出てぼーっと空を眺める。
……ここに来て、もう1週間か。いろいろと濃い時間だった。
「こんな時間に何してるの?」
「え?」
背後から声をかけられたので振り返ると、青い髪の女子生徒が俺をじっと見つめていた。えっと、どこかで見た覚えがあるんだが……
「その顔、私が入学式で挨拶したの忘れてるでしょう」
「入学式? ……ああ、生徒会長!」
思い出した。暗い気分で出席した入学式で、壇上で新入生へのメッセージを語っていた人だ。確かやたらと難しい名前だったような。
「更識楯無よ。よろしくね、織斑一夏くん」
「は、はい。よろしくお願いします」
さすが生徒会長というべきか、なんだか気品とともに威圧的なオーラを感じる。この人には逆らっちゃいけないとか、そういう類のやつだ。
「ふーん、間近で見ると結構イケメンね」
「は、はあ」
「ところで、ひとつ聞いてもいいかしら」
「なんでしょう」
何か生徒会に目をつけられるようなことをしただろうか。風紀を乱してるとかは俺の幼なじみの方がよっぽど問題だし、まったく心当たりが――
「キミ、童貞?」
「………」
今さっきまで感じていたオーラが消え失せた気がする。
「あれ、驚かないんだ」
「その質問ここに入ってから2回目なんで」
「なんですって? じゃあ一夏くん、後ろの穴は処女のまま?」
「それも2回目です」
「む、誰だか知らないけどやるわね。その子」
なんの争いだ、なんの。
「今度紹介してもらえる?」
「はあ。別にいいですけど」
「よろしい。では次の質問です。学園生活は楽しい?」
今度は普通の話題だった。これなら素直に答えられる。
「まあ、嫌じゃないですよ。覚えなきゃいけないことは多いけど、先生やクラスメイトはいい人ばかりだし。ただ、あんまり振り回されるのは勘弁してほしいですね」
もう少しだけ俺の周りが落ち着いてくれれば、これ以上望むことはない。
「ふうん、なるほどね。でもそれは無理だと思うけど?」
「どうしてですか?」
聞き返すと、会長は俺の方へゆっくりと歩み寄り、額を指で軽くつついてきた。
「この学園、思春期真っ盛りの子が多いから」
≪問題解決?≫
「織斑さん、おはようございます」
「おうセシリア、おはよう」
教室に入ると、入り口付近にいたセシリアがこっちに近づいてきて挨拶をしてくれた。
「お、近寄っても平気になったのか」
「まだ触れるくらいの距離は無理ですけれど、このくらいなら」
「へえ、すごい進歩じゃないか」
「実は篠ノ之さんのおかげなんです」
「箒の?」
あいつ、何かアドバイスでもしたんだろうか。だとしたらあとでお礼言っておかないとな。
「彼女の言う通り、貞操帯をつけたら襲われる妄想への不安がいくらか軽減されたのですわ!」
「これ、あいつ褒めるべきなの?」
今回で原作1巻前半まで終わらせようとしたらいつもの倍近くの量になりました。しかも真面目な話ばっかりだったので書いてて感覚が狂いました。
楯無さんはとりあえず顔見せだけしておきました。中身的には箒と同レベルですね。妹の出番はもうちょっと後になりそうです。
次回からはついにセカンド幼なじみが登場します。
書きためも切れたので、今後は更新ペースが落ちるかと思われます。少なくとも毎日更新は無理です。申し訳ありません。
感想等あれば気軽に送ってもらえるとうれしいです。
では、次回もよろしくお願いします。