クラスメイトは全員思春期   作:キラ

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天才科学者は意外と○○

≪クラス代表への期待≫

 

 今日はいよいよクラス代表によるクラス対抗戦本番。朝のホームルームが始まる前に、俺達は早めに登校して決起集会を行っていた。

 

「頑張ってねセシリア! 応援してるよ!」

「1組に勝利の栄光を!」

「そしてデザートフリーパスを!」

 

 優勝したクラスには学食のデザートのフリーパス(半年分)が賞品として与えられるらしい。なのでみんなわりと血走った目でセシリアにエールを送っていた。

 

「心配なさらずともわたくしは勝ちますわ。イギリス代表候補生として、こんなところでつまづくわけにはいきませんもの」

「でも心配なものは心配だよ」

「かわいいセシリアがボロボロになっちゃわないかと」

「……今日こそ、今日こそそのイメージを払拭してさしあげますわ」

 

 自信満々に答えるセシリア。でも試合前にそういうこと言ってると逆に負けそうで不安になるのは漫画の読み過ぎだろうか。

 

「お前達、そうプレッシャーを与えてやるな」

「あ、箒ちゃん。おはよー」

「遅刻だよ。今までどこ行ってたの?」

「すまない。電話がかかってきてな」

 

 遅れて教室に入ってきた箒が小さく頭を下げる。こんな朝早くに電話って、いったい誰からだったんだろう。

 

「箒さん。おはようございます」

「おはようセシリア。私からも一言応援の言葉を送っておこう」

 

 生徒の輪の中心にいたセシリアの前までやってきた箒は、彼女の両肩にぽん、と手を置く。

 

「緊張せず楽しんでくればいい。お前がこの学園で最初に戦った相手を思い出してみろ」

「最初に、というと」

 

 ……俺だよな。

 

「そう、一夏だ。お前の体に触れようと一心不乱に襲いかかってきた飢えた獣。その眼光に耐え切ったお前からすれば、今日の相手など恐れるに足りん」

「なるほど、確かにそうですわね。あの野獣の眼光に比べれば、何も怖くはありませんわ!」

「盛り上がってるところ悪いんだけど、俺が女に襲いかかる変態みたいに聞こえるからやめてくれない?」

 

 その後、セシリアは危なげなく他クラス代表に勝利し、対抗戦を制したのだった。

 

 

≪一緒にお出かけ≫

 

 クラス対抗戦も終わり、学園の空気も少し落ち着いたころのとある休日。

 

「こうして一夏とふたりで出かけるのは久しぶりだ」

「IS学園に入学してからは初めてだからな」

 

 今日は箒と一緒に街に出ていた。彼女の買い物に付き合ってほしいと頼まれたためだ。

 

「だいたい5年ぶりのデートだな」

「もうそんなに経つのか……って、これデートだったのか?」

「何を言う。私は昔からそのつもりでお前を誘っていたのだぞ」

「マジか」

 

 全然気づかなかった。普通に遊びの一環としてとらえていたから。

 

「小学生の頃は仕方ないとしても、今日のこれもデートと認識していなかったとはな。女心のわからんやつめ」

 

 じとーっと睨まれる。しかし、普段からろくでもない発言繰り返してるやつに女心がどうとか言われたくないとも思う。

 

「箒はデートする相手とかそういう対象で見てなかったからなあ」

 

 小さい頃から距離が近すぎたせいで、改めて異性として認識するのはなかなか難しい。

 

「まあいい。私もそんなに深い意味でデートという言葉を使ったわけではない。単純に、仲のいい男女で外出するというだけのことだ」

「若い世代の言葉の定義だな」

「若いからな」

 

 話し方はちょっと古めかしいけど。

 

「ちなみに今時の若者の言葉遣いもちゃんとできるぞ」

「本当か、それ?」

「疑うのか。ならここで実践してやろう」

 

 そう言うと箒は立ち止まり、びしっと伸ばした背筋をくねくねさせ始めた。

 

「てゆーかー、疑うとかマジありえないんですけどー! こんな激カワの幼なじみのこと信じられないなんてー! ぶっちゃけおかしいでしょー! チョベリバー」

「とりあえず語尾伸ばせばいいと思ってるだろ」

 

 今時そんなコテコテのギャルみたいなやつ見つける方が難しいぞ。

 

「あはは、マジウケるー」

「どこに笑う要素があったんだよ!」

 

 ありえないんですけどーとか言ってたろうが。

 

「むう……一夏は審査が厳しいぞ。ツッコミに容赦がない」

 

 普段から誰かさんに鍛えられてるからな……

 

 

≪懐かしい思い出≫

 

「しかし本当に久々だ。こうして歩いているだけでなんだか面白いな」

「そりゃよかった」

 

 俺としても、こうして箒と出かけるのは楽しい。他愛のない会話を交わすだけならいつもやっているのだが、周囲の環境が変わるだけでなんとなく新鮮な気分になる。

 

「確か、ひとつ前のデートも買い物が目的だったな」

「よく覚えてるな。俺はいろいろ記憶がごっちゃになってて思い出せん」

「おもちゃを探しに行ったのだ。覚えていないか」

「うーん」

 

 やっぱり記憶が鮮明じゃない。もう何年も前のことだし、仕方ないか。

 でも、おもちゃか。小学生らしい買い物だな。昔は変身ベルトとか欲しがったもんだ。

 

「なんのおもちゃを探してたんだ?」

「ローターとかだな」

「大人のおもちゃかよ!」

 

 全然小学生らしくなかった。

 

 

≪お姉ちゃん登場≫

 

「これで買いたい物は全部だな」

 

 午後3時頃、箒の両手は紙袋ですっかり塞がってしまっていた。洋服やら日用品やら、結構な数の物を購入済みだ。

 

「最後まで付き合ってくれてありがとう。帰りに喫茶店で何かおごろう」

「気にすることないぞ。俺もいい買い物ができたしな」

 

 当初は特に何も買う予定はなかったのだが、行きの会話で久しぶりにおもちゃが欲しくなり、安売りしていたロボットアニメのプラモデルをひとつ購入したのだ。どこかで見覚えのあるデザインだったので、多分小さい頃にこのロボットが出てくるアニメを見たんだと思う。

 

「それはそうと、紙袋ひとつ渡してくれ。両方持つとさすがに重いだろ」

「いや、平気だ。それにこれは私が買ったのだから、私が責任を持って持ち帰るべきだ」

 

 相変わらず妙なところで真面目なやつ。

 

「ほいっと」

「うわっ」

 

 持たせてくれそうにないので、左手の袋を少し強引に奪い取った。

 

「な、何をする」

「男の意地ってやつだ。持たせてくれ」

 

 世間じゃ女尊男卑の風潮が広まっているが、生身では基本的に男の方が力が強いのに変わりはない。

 

「……仕方のないやつだな。それなら、ありがたく持ってもらおう」

「ああ。任せとけ」

 

 お互いに笑って、再び歩き出そうとしたその時。

 

「っと、電話だ」

 

 誰からかと思って携帯を取り出すと、見覚えのない番号が表示されていた。不審に思いながらも、とりあえず通話ボタンを押してみる。

 

「はい」

『やっほーいっくん! 久しぶりだね』

「え?」

 

 電話越しだけど聞き覚えのある声。それに、俺をいっくんと呼ぶ人には心当たりがある。

 

「もしかして、束さん?」

『覚えてくれててうれしいよ~。その通り、天才科学者篠ノ之束とは私のことだ! なんてね』

 

 驚いた。電話の相手は箒の姉にしてISの開発者、篠ノ之束さん。こうして言葉を交わすのは随分久しぶりだし、そもそも今行方不明とか言われてたような。

 

「えっと、とりあえず聞きたいんですけど。どうして俺の携帯の番号を?」

『んっふふ~、天才の束さんにかかれば個人の電話番号を調べるくらい余裕だよ』

 

 ……ああ、そういえばこの人は昔からこんな感じだった。ものすごく頭がよくて、理解できないことを平気でやってのけてしまうんだ。

 

『ま、箒ちゃんに聞いただけなんだけどね』

「思った以上に普通の手段だった」

 

 天才まったく関係ないじゃん。

 箒の様子をうかがうと、会話の内容が聞こえているのか、申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「すまない。以前に朝からしつこく尋ねられてしまってな」

「いや、別に束さんにならかまわないけど」

 

 そうか。クラス対抗戦の日の朝に電話していた相手って束さんだったのか。

 

『なになに? そばに箒ちゃんいるの?』

「ええ。今ふたりで買い物に出ていたところで」

『そっかー、相変わらず仲いいねー。でも外に出てるならちょうどいいね。今から携帯にマップデータ送るから、私の指示した場所に来てくれるかな?』

「え? 今からですか」

『そんなに遠い場所じゃないから大丈夫大丈夫! できれば箒ちゃんも連れてきてくれると束さん喜ぶよ! じゃーね、待ってるよ~』

 

 返事をしないうちに切られてしまった。直後、携帯に地図データがメールで送られてくる。

 

「確かにここから近いな」

 

 十分歩いて行ける距離だ。数年ぶりに顔を見たいというのもあるし、ここは素直に従うことにした。

 

「箒。今から束さんに会いに行くんだが、お前も来るか? できればお前も連れてきてほしいって言われたんだが」

 

 隣を見ると、箒はなんとも微妙な表情をしていた。

 

「私は遠慮しておく」

「そうか? 束さんも顔見たがってると思うけど」

「前にも言ったろう? 私と姉さんは合わないんだ。それに、荷物もたくさんあるしな」

 

 さらに表情を暗くする箒。やっぱり束さんとうまくいってないみたいだ。

 荷物が多いのは事実だし、さすがに無理に連れて行くわけにもいかないだろう。

 

「わかった。じゃあ俺だけで行ってくる」

「すまない。さっき渡した紙袋とお前のプラモデルは、私が持って帰っておくから」

「持てるか?」

「プラモデルを袋に一緒に入れれば問題ない。そこまで重くもないしな」

「そうか。じゃあ頼むよ。サンキュー」

「気にするな」

 

 俺から荷物を受け取り、箒は足早に立ち去って行った。

 

「……やっぱ、仲悪いのかな」

 

 

≪たばねーさん≫

 

「うわ、本当に隠し通路がある」

 

 地図に従い歩くこと20分。俺は何の変哲もない廃ビルの中に入り、地下へと続く階段を進んでいた。

 

「この扉の先だな」

 

 ロックがかかっていたので、メールに書いてあった番号を数字盤に打ちこむ。

 すると勝手に扉がスライドし、広い部屋が目の前に現れた。

 

「ようこそ束さんラボ137号室へ! 歓迎するよー、いっくん!」

「どうも、お久しぶりです」

 

 相変わらずテンションの高い人だ。でもそれは親しい人間に対してだけで、他人に対しては興味のひとかけらすら抱かない。俺の記憶の中の束さんはそういう性格だった。

 

「あれあれ、箒ちゃんは?」

「えーっとですね……荷物が多いので今日はやめておくって」

 

 思い切って姉妹仲について尋ねてみようかとも思ったが、安易に深入りするのもためらわれたので結局何も言い出せなかった。

 まあ、尋ねるにしても箒に聞く方がやりやすいだろうし。

 

「そっか~、残念だねー。でもいいや、会おうと思えばすぐに会えるんだし」

 

 座り心地のよさそうな椅子からひょいっと腰を上げ、束さんは部屋の奥の方へ移動する。

 

「いっくんもこっちにおいで。今日は白式の状態をチェックしたいと思って呼んだのだよー」

「白式の?」

「あれは私が廃品処分されかかってた機体をぱぱぱっと改造したものなのだ、ぶい! だから経過が気になるんだよね」

「そうだったんですか」

 

 全然知らなかった。俺の白式は倉持技研というところから支給されたとだけ聞いていたけど、まさか開発に束さんが関わっていたとは。

 

「状態によってはこの場でアップデートファイルも作ってあげるからね」

「アップデート?」

「白式をよりいっくんに適した機体に改良……もとい、調教? するってことだよ」

「なんで今無理に言い直したんですか」

「え? だってこういう風に言った方がいっくんは喜ぶんじゃ」

「それはあんたの妹!」

 

 

≪あーゆーはっぴー?≫

 

 白式を展開し、いろいろとデータを採られてから待つこと1時間。

 

「できたよいっくーん! 白式ver1.01!」

 

 椅子に座って地下部屋に設置されていたテレビのチャンネルを回していると、束さんがうれしそうに俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「もうできたんですか?」

「束さんは天才だよ? むしろ1時間はかかりすぎなくらいだよ」

 

 さすがというかなんというか。ISの改造なんてひとりで簡単にできる作業じゃないと思うんだけどな。

 

「具体的にどの辺が変わったんですか?」

「一部ステータスの変更をしてから、それに適した武器もつけておいたからね。詳しくは学園に戻って試してみてのお楽しみ!」

 

 実際に動かして体感してみろということらしい。でも束さんが手を加えたわけだから、間違いなく改良されているんだろう。

 

「ありがとうございます。じゃあ、俺はそろそろ」

「うんうん。私の用事は済んだから帰っても大丈夫だよ~」

 

 許可も出たし、そろそろ学園に帰るとしよう。

 でもその前に、少し聞いておきたいことがある。

 

「束さん。どうしてISのコア作るのやめたんですか?」

 

 ISのコアを作る技術は公表されておらず、つまり作成可能なのは束さんただひとり。そんな彼女がいきなり作るのやーめたと言って行方知れずになったもんだから、当時は世界中が大騒ぎだった。

 今でも各国政府はこの人の居場所を探しており、見つければすぐにコアの製作を依頼するだろう。それが面倒だから束さんは失踪状態を今日まで続けているんだと思う。

 

「それはいっくんにも秘密だよ」

「そうですか」

 

 食い下がっても結果は同じだろう。俺はそこで質問を打ち切った。

 

「私からもひとつ聞いていい?」

「なんですか?」

 

 その瞬間だった。

今までにこにこ笑っていた束さんは、急に無表情になって俺に尋ねてきた。

 

「ねえ、いっくん。今の世界は楽しい?」

 

 予想していない内容の質問だったので、少し面食らってしまう。

 今の世界が楽しいか、か。束さんは真面目に聞いてるみたいだし、俺も真剣に答えるべきのようだ。

 ……いつもの日常を思い浮かべる。

 

「楽しいと思いますよ」

 

 思い浮かべただけで、俺の口は自然と動いていた。

 

「ふーん、そうなんだ」

 

 俺の返事を聞いても、束さんの顔つきはちっとも変わらなかった。

 

 

≪お引越し≫

 

「ただいま」

 

 寮の自分の部屋に戻ると、箒がなぜか自分の荷物をまとめているところだった。

 

「ああ、おかえり」

「何してるんだ?」

「引っ越しの準備だ」

 

 聞けば、先ほど山田先生がやって来て、篠ノ之さんの住む部屋の都合がついたので今晩にでも移動してくださいと伝えられたとのこと。

 

「私は別にお前と同じ部屋でもいいのだがな。公序良俗を大事にしてくださいと言われればそれまでだ」

「そうか……確かに、男女がひとつの部屋で暮らすのは問題だよな」

 

 何日も過ごすうちにすっかり箒と一緒の生活に慣れてしまっていたけど、入寮当初は俺もそう考えていたわけだし。

 

「よし、これで荷造り終了だ」

 

 パン、と手を叩く箒。どうやら引っ越しの準備が完了したらしい。

 

「そうだ。姉さんに会って何をしてきたのだ?」

「なんか白式を改良してくれた。今日はもう遅いし、明日にでも動かして確認してみるつもりだ」

「改良か、よかったじゃないか。あの人は性格はともかく科学者としては天才だからな」

「そうだな」

 

 先ほどの暗い表情はどこかへ消え、今の箒はいつも通りの様子に戻っている。これなら無理に掘り返さない方がいいか。

 

「では私はそろそろ行く。今まで世話になった」

「こちらこそ」

「……いろいろと、迷惑をかけてしまったな」

「何言ってんだ。むしろ寝坊しそうな時に何度か起こしてもらって感謝しているくらいだ」

 

 他にも勉強を教えてもらったりと、助けてもらうことはあっても迷惑をかけられたおぼえはない。

 

「そんなことはない!」

 

 なぜか声を大きくして否定する箒。なんだ、何をそんなに必死になって――

 

「私がいたせいで自家発電すらままならなかっただろう? もうそんな思いはしなくてすむのだ、喜べ」

「おう出てけ、今すぐ」

 

 別に自家発電はしないけど。

 




箒以外のヒロインがほとんど出ていませんが、これにて原作1巻の内容は終了です。ギャグ少なくて申し訳ないです。
次から本編中の時系列は6月に突入し、あのふたりも出てきます。原作では薄幸少女と軍人少女でしたが……

チョベリバとかいう死語。大学生の僕がギリギリ知ってるくらいなので、それ以下の世代の人は意味がわからないかもしれませんね。

1章終了時点でお気に入り800件越え。正直想像をはるかに上回っています。無理だとは思いますが、最終的にはキリよく1919件までイってほしいです。

感想等あれば気軽に送ってもらえるとうれしいです。
では、次回もよろしくお願いします。
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