鬼提督は今日も艦娘らを泣かす《完結》   作:室賀小史郎

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沙羅提督視点です。


豊島一族

 

 艦娘を率いる提督である私は常に鎮守府にいなくてはいけません。

 そうでないと敵の強襲や夜襲に対応が出来ないからです。

 

 でも私も他の提督の方々も人間であり、休息は必要。

 よって本日、私は休暇を頂いて実家に戻ってきました。

 留守中、鎮守府の方は艦娘の皆さんがそれぞれローテーションしながら警備しています。それ以外は彼女たちも休暇となりますので、各々羽を伸ばしていると思いますわ。

 私の実家も鎮守府からそう遠くはありませんので何かあればすぐに帰ることが出来ますし、連絡もすぐ付くようになっています。

 

 ただ今回は別の問題があります。

 それは―――

 

「どうだね、沙羅より五つ程年上ではあるが、周りからの評価も高く、私から見ても彼はとても良い人物だと思うんだが?」

 

 ―――お父様からの縁談攻撃ですわ。

 

 昼に実家へ戻ってきて、両親と共に穏やかなランチを過ごしたあとで私に合わせて、家に仕事を持ち帰ってきたお父様は私を書斎に呼んでお見合い写真を渡してきました。別にこれが初めてではないので驚きませんでしたし、縁談のことだとも察しが付いていましたもの。だってお父様が家にいれば御手洗い以外側を離れようとしないお母様がこの場にいませんから。

 お母様は私に『私と同じように貴女も貴女の好きなように生きなさい』と一貫して言ってくださっていて、お父様のようにお見合いのお話を断れずに持ってくることは過去に一度もありませんの。お母様は和服の似合う大和撫子で、過去に複数の男性らから言い寄られ、また親からいくつもの縁談を勧められてきて、そのせいで縁談のお話をする時の空気が嫌になったそうです。

 

 ただ、お父様も無理矢理に私を結婚させようとは思ってません。豊島家は軍の中でもかなりの権力がありますから、そんな家と結び付きを作りたいと思う家もあるのです。

 お母様はお淑やかですが、肝が座っていますので縁談を持ち込まれても即座に口調は穏やかなままキッパリとお断りするのですが、お父様は元から揉め事を嫌うので私に一度話してから、というスタンスを取っているのです。

 でも今回はお父様から見ても私に勧めたい方がいたご様子。まあ誰を出されても私の心は決まってますが―――

 

「私もこの方は存じています。総合部の方で何度かお会いしましたから」

「おぉ、なら―――」

「―――ですが、私はこんなポンコツと残りの人生を共に歩みたくはありませんわ」

 

 ―――そもそもお父様に紹介された方は生理的に無理ですわ。

 

 私が言ったようにお父様が勧めてらした私のお見合い相手は、私と同じ提督で何度か総合部でお会いしました。はじめの印象は温厚で人が良さそうだとは思いましたわ。

 向こうはその際に何故か私に惚れ込んだらしいのですが、一方で私の好感度はハッキリ言って0です。寧ろマイナスと言ってもいいかと。

 何せ顔を合わせた全ての機会で仁様を『君が優しいのは分かるが、鬼の相手はしなくてもいいじゃないか』等と言ってきやがりましたからね。私その都度しっかり『鬼月様は鬼ではありません。噂なんて信じずにご自分の目で鬼月様を見られては?』と反論していましたのに。

 

「……そうか。すまないね、また何も父親らしいことが出来ないで」

「あら、私はそんなこと思ったことありませんわ」

「それは沙羅が割り切ることが出来る頭の良い子だからだ」

「でも、お父様は私が無理をしないでと言うまで、朝までには必ず帰って来てくださいました。そして必ず朝食を共に過ごしてくれました。私はそんなお父様みたいな家族を思いやることの出来る方と結婚したいですわ」

 

 私が感じてきたままの言葉を返すと、お父様は急いで書斎から出て行かれました。

 お怒りになられたということではなく―――

 

『お前ー! 沙羅を産んでくれて、あんなに心優しく育ててくれてありがとう! 愛しているぞー!』

『もう、あなた。沙羅に聞こえてしまいますよ?』

 

 ―――泣き顔を娘の私に見られたくないだけです。

 まあお二人の会話は筒抜けですし、お母様も聞こえてしまうと言いながらお父様に抱きつかれたことで声が弾んでいます。本当にどうしようもなく愛らしい両親ですわ。

 

 ―――

 

 あれから目を真っ赤にしてお戻りになったお父様からお見合いの件は断る旨を聞き、お話は終わりました。

 しかし今度はお母様もご一緒でしたので、今度は私から両親へお話があります。

 

「お父様、お母様。お話したいことがあります」

 

 私の言葉にお父様は涙ぐみながら「なんだ?」と言い、お母様は何かを悟っているかのように微笑みを返してきました。

 だから―――

 

「私、運命の人を見つけました」

 

 ―――素直に胸を張って伝えることが出来ました。

 

 私が両親を真っ直ぐに見てそう言うと、お父様はまた書斎から出て行かれます。お母様はというとお父様のあとを追うかと思ったのですが、そのまま私の前に鎮座していました。

 

「貴女にもようやっと見つかったのね。母として寂しく思う反面、喜ばしい限りよ」

「ありがとうございます、お母様。その方は―――」

「―――貴女が決めたのだから、確かな方なのよね? そこらにいるゴミ屑に惚れるような娘に育てた覚えはないもの」

「まあ、お母様ったら、ふふふっ。ええ、確かに……仁様は本当に素敵な方ですわ」

「あら、もう親しい仲なのね? 流石私の娘。それで、婚約の日取りはいつ頃?」

「………………」

「沙羅?」

 

 全く婚約の『こ』の字も出していませんわ。そもそも私の気持ちを仁様にお伝えすらしていません!

 

「…………沙羅、貴女まさか……」

「…………はい、そのまさか、です……」

 

 私が申し訳無く思いながらそう返すと、お母様は小さくため息を吐かれました。

 ああ、このため息は呆れられていますわ。

 

「そういうところはあの人(父)譲りなのね。ヘタレの子はやはりヘタレなのね。私のこれまでの努力は何だったのかしら」

「……で、ですが、ちゃんとお友達にはなれました」

「でもどうせあとのことは妄想が先走ってるだけで、進展していないのよね? 思いにふけ、肝心なところはおざなり……そういうところはとことんあの人とそっくりだもの貴女」

「うぐ……」

「でも多少は私の気があるのも事実。でないとお友達になんてなれなかったでしょ」

「………………」

「私の言いたいことは分かってるわね?」

「……『必ずもぎ取れ』ですよね?」

 

 私が答えるとお母様は満足そうに笑みを零します。良かったですわ。ここで間違えていたら余計に呆れられていました。

 

「好きだと思ったらとことんその方を好きになり、相手に自分の愛が世界一だと思い知らせなさい。恋敵がいるなら全力で徹底的に敵を叩き潰す。いないならとことん愛の海に溺れさせなさい」

 

 ふふふ……と笑うお母様の背後が黒と桃色でカオスに見えますわ。

 私はそれになんとか笑みを返すだけにします。お母様の思いは理解しますが、やはり私は仁様と一歩ずつ距離を縮めたいですから。

 

 そこへ書斎の扉がガチャリと響きました。

 

「やぁ、沙羅。久しぶり。父さんが廊下の隅で泣き崩れてるのはやっぱり、沙羅のせいか?」

「沙羅さん、お久しぶりです」

 

 現れたのはお兄様とお義姉様でした。

 お兄様たちは今も両親と共に住んでいますし、お兄様に至っては同じ職場にいるお父様から今回私が帰ってくることを聞いているのも当たり前なのですが、ご夫婦揃ってとは思いませんでしたわ。

 

「お兄様、お義姉様、お久しぶりですわ。お父様は……まあ多分私のせいかと」

 

 挨拶をしつつ、苦笑いでお兄様の質問に答えるとお兄様は「ほぉ」と顎に手をやり、お義姉様は「まあ!」と両手を合わせて少女のように表情を輝かせます。

 

「では沙羅さんにもとうとう!? ああ素敵! 沙羅さんは提督という過酷な職をしているんですから、そういう方こそ幸せになるべきだわ! 結婚式の衣装はドレスにするか着物にするか……どちらにしても一緒に仕立てに行きましょうね!」

 

 相変わらずお義姉様は気が早いというか……色恋に目が無いですですわね。恋愛小説の巨匠とまで言われている作家だからなのかしら?

 いえ、ただ単にいつも私がお義姉様の惚気話を聞いていたから、聞ける側になれることが嬉しいとか? まあ仁様は世界一ですから惚気対決で負ける気はしませんけど。

 でもですね―――

 

「それがこの子ったら、まだ婚約の日取りも取り付けてないのよ」

 

 ―――お母様の言う通りですわ。トホホ……。

 すると途端にお義姉様はしょんぼりしてしまわれましたわ。まるで玩具を没収された小型犬のように。

 お兄様に至っては「なぁんだ」とつまらなさそう。悪かったですわね! お父様譲りのヘタレな妹で!

 

「何にしても、沙羅にもようやくそういう人が見つかったのなら幸いだろう。これで周りから妹を紹介しろとせっつかれなくなって、研究に専念出来る」

「ご迷惑をお掛けしました……」

「全くだ。中学から今までずっと沙羅に惚れる奴らは先ず兄であるこちらに接触してくるからな」

 

 すっごくいい笑顔ですが、その笑顔も黒いですわお兄様。そんなにもご迷惑をお掛けしていたのですね……。

 

「まあまあ、いいじゃないの。貴方だってそんな妹が可愛いから率先してゴミ屑は掃いて捨てて来たのですから」

「母さん、沙羅のいる前で止めてよ。それじゃまるで僕がシスコンみたいじゃないか」

『あら、違うの?』

 

 お母様とお義姉様が声を揃えるとお兄様は「シスコンではないけど、妹を可愛がってはいますよ」とだけ素っ気無く返してお父様の元へと行かれました。

 シスコンでツンデレなお兄様? 何それ可愛い。

 そんなお兄様をお母様は可笑しそうに手で口元を隠しながら笑って見送り、お義姉様は「可愛い♪」とつぶやきながらあとを追って行かれました。

 

 一方、私はというと、そんな家族がとても愛おしく、心の奥が温かくなっていましたわ。

 

 ―――――――――

 

 お父様が立ち直り、書斎でお仕事をするとのことで、私は書斎をあとにします。

 しかしすぐにお母様から声が掛かり、私はお母様のお仕事の部屋へと連れられました。

 

 お母様は表向きは専業主婦ですが、実は日本でも限られた要人しか知らない諜報機関『花』の長なのです。

 

 諜報機関『花』とは、一代目豊島家当主が当初は国にも内密で作り上げた組織。

 豊島家は江戸後期から代々国防機関の一翼を担い、深海棲艦の出現まで兵器の開発や改良、改修、修復等を行ってきました。

 その一方、輸出した自国の兵器が悪用されないように、悪用した者が言い逃れ出来ないように徹底的にウォッチしたのです。

 大東亜戦争中に当時の豊島家当主は国難とあって限られた要人にのみ花の存在を教え、敵の情報を纏めた資料を政府にも大本営にも提出しました。しかしそれは高学歴エリートたちには不服だったようで、活用されることはありませんでした。

 敗戦後、花を知る要人たちの中で裏切り者が出ましたが、日本人を甘く見ていたアメリカがそんな優秀な諜報機関があるのはおかしいと一蹴してバレずに済んだようです。

 そして今に至るまで花は陰の存在でも今日まで活躍しているということですわ。

 

 組織が出来上がった当時は主に人を遣って諜報活動をしていましたが、今ではインターネットの発達に伴ってネットを使った諜報活動もしており、ハイテク化されています。

 深海棲艦が現れた今では、艤装の違法転売や艤装システムが他国へ流出または漏洩するを防ぐための徹底監視を大本営からお願いされる形で引き受けていますわね。案外屑な提督がいる現実が悲しいですが……。

 

 さて、この花を受け継ぐのは豊島家の後継者のみ。豊島家は昔から男女関係無く家督を継いでおり、花の存在は親族でも知られていません。

 なのに何故後継者ではない私が花を知っているのか……それはお母様が『貴女も後継者になる場合があるから』と教えてもらえたのです。

 私がまだ幼かった頃はお兄様が前線に立つような軍人になると聞かなかったので、そうなるといつ死んでもおかしくないということで私も後継者候補となり、お兄様と共に諜報活動の内容や指揮のやり方を習ってきたのです。

 今では私は正式に後継者候補から外されたのですが、口外なんてする気も無いということで幽閉されずに済んでいます。そもそも口外しても国益に繋がりませんからね。

 

「ここならゆっくりと話が出来るわ」

 

 正面側に取り付けられた大きなコンピューター画面を囲むように、その周りには無数の小型画面がひしめき合う異質な部屋。

 私としては懐かしい部屋です。

 

「お母様、お話とはなんでしょうか?」

「あら母親に対して惚けるつもり? 貴女のお相手の話以外に何があるというの?」

 

 上質なソファーの背もたれに身を預けながら言うお母様に、私は思わず目を見開いた。

 まさか仁様に何か……私でも見逃していた点があるとでも?

 でもお母様は小さく笑みを作り、「心配しなくてもいいわ」と言うので心底ホッとしました。

 

「元特殊部隊の隊長であるから彼が提督になってから一定期間だけこちらが監視をしていたけれど、それだけよ。特殊部隊は国家機密情報を持っているから、元とは言っても怪しい行動や怪しい人間関係の構築をしないか監視するのが義務なの」

 

 貴女も知っているわね、と付け加えるお母様に私は静かに頷き、お母様の言葉を待ちます。

 

「その結果、彼は花の長である私から見ても安全な人物だと判断して、監視は予定通りに止めたわ。安全な人間を監視を続けてもこちらも費用の無駄だから」

「仁様は立派な方ですもの」

「そうね。ただ……」

「ただ?」

「この私の網も容易く潜り抜けられる者が彼を監視しているわ」

 

 お母様の言葉に私は聞き間違いかと思ってしまいました。

 だって仁様が何者かに監視されているだなんて……。

 

「ごめんなさい。不安にさせてしまって。でも知っていた方がいいでしょう?」

「はい。ありがとうございます。それで、仁様を監視している人物の目的は何なのでしょうか?」

「それが分からないのよ。どんな網を張ってもすり抜けられるし、どんな餌にも引っ掛からないから」

 

 あのお母様がここまで手こずるだなんて。相手は只者ではないでしょう。もしかしたら仁様が特殊部隊で指揮していた頃に敵対した敵国の誰かだったり、知能の高い深海棲艦がサイバー攻撃をする可能性もありますわ。

 

「仁様本人が心から平穏を望んでいますのに……」

 

 許せない。平和をこよなく愛している仁様を監視するその者が。

 

「最悪のケースを考えるよう教えてきたのは私ではあるけれど、今のところそういった類が相手ではないでしょう」

 

 私の考えていることが分かるかのように言うお母様に、私は思わず疑問の目を返してしまいました。

 

「隠れるのは上手いけれど、食べかすは残す時があるのよ。その食べかすは全て国内サーバーから見つかってる。つまりは日本人よ」

 

 なるほど。深海棲艦の出現によって在日外国人の殆どは帰化か帰国しました。加えて仁様をどんな経歴があるのか知るのは要人のみで、そもそも国防軍に入れるのは純粋な日本人のみ。(帰化の場合、その一世と二世は入れないが帰化三世から入軍資格が与えられる)

 あ、因みに花の諜報部員は世界各国にいて多国籍です。現地人じゃないと仕入れられない情報もあるので。

 

「では仁様の敵は……」

「日本の軍人か政府機関の人間ということよ」

「……どうして仁様を……」

「それは分からないわ。でも彼を元特殊部隊の人間だと知り得る人間は限られてくるし、数も多くない」

「お母様―――」

「―――大丈夫よ。数人にまで絞り込んで、もう既に監視させてるから」

「ありがとうございます」

 

 良かった……これで少しでも早く仁様に平和な時間が訪れて欲しいです。自分の手で仁様に出来ることが無いのが虚しいところですが。

 

「それにしても、まさか貴女が選んだ人がその御仁だったとはね。彼には悪いけれど、何から何まで調べ尽くしてあるわよ?」

「……複雑ですわ」

「娘だからとその全てを見せてはあげられないけれど、アドバイスくらいはしてあげられるわよ?」

「…………す、好きな女性の好みを……」

「しっかりしている人に好意的だから、貴女も彼の守備範囲内でしょう。整理整頓が苦手でもそれくらいは許容範囲内でしょうし」

「……ぬふふ……」

「その不気味に笑うのはおよし」

「はっ、こほん……失礼しましたわ」

 

 だって仁様の好みのタイプに私も入っているとなれば喜ぶしかないではありませんか! ああ、お母様に憧れて清く正しく、生きてきた甲斐がありますわ!

 

「でゅふふふ……」

「はあ、普段ならば鈴の音のように美しい笑い声なのに、困った娘ね……」

 

 お母様が嘆かわしく私を見ていたことも私は気にせず、より仁様のタイプに合うように努力しようと思いを馳せるのでした。

 あとは何があっても仁様を信じて、一番の味方であろうと誓いましたわ。

 

 それからの私はお義姉様とお茶の席を過ごし、ディナーはお兄様夫婦もご一緒に過ごし、充実した休暇を過ごしました―――。




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