新年一発目は鬼提督シリーズの番外編を一話ずつ、計五話ほど更新します♪
鬼と姫の結婚式
本日は晴天なり。
雲一つなく、そよ風が吹いて海の波も穏やか。
この天候に恵まれた日に、鬼月仁と豊島沙羅の結婚式が執り行われる。
会場は彼ららしく鎮守府。鬼月提督の鎮守府であり、結婚後は沙羅がここの長官官舎へと移り住むのだ。
招待客は互いの親族と友人たち。勿論、互いの艦娘たちもいる。
しかし艦娘たちの場合は会場警備と近海警備、それ以外にも会場設営や食事の提供とやることが盛りだくさんだ。
それでも彼女たちの表情は明るい。誰一人として暗い顔を浮かべる者がいない。寧ろこんなめでたい日に役目があることが誇らしく、既に多くの艦娘たちは目頭を熱くさせている。
中でも大役を貰った者たちは戦場にいる時よりも浮足立っていた。
「沙羅提督、とてもお綺麗です」
「ありがとう、高雄」
沙羅はこの度めでたく提督の座を寿引退した。
ただ本格的な引退ではなく今後は鬼月提督の補佐提督となるので、みんなは変わらず「沙羅提督」と呼ぶし、しっかりと名前は軍の名簿にある。そもそも鬼月夫人艦隊の提督なのだから。お偉方としても沙羅は非常に優秀な人材であるため、こういう形で残ってくれるのならありがたいと感謝したくらい。
当の沙羅に至っては「寿」と言いたかったが故に寿引退と言い出しただけである。
「鈴谷と衣笠でバッチリメイクしたからねー! めっちゃキレイだよ、提督っ!」
「ふふ、本当にありがとう」
新婦、沙羅に割り当てられた控室(本館の一階予備室)では沙羅の元にいた艦娘たちが彼女のメイクアップを担当していた。
沙羅は両肩を露出させたスレンダーなドレス。そのドレスの膝下あたりから、人魚の尾ひれのように広がったシルエットのマーメイドラインの純白ウェディングドレスを着用。これは仁が特注で贈った物。ドレスアップは沙羅の元にいたウォースパイトと隼鷹が担当した。
自慢の黒髪は沙羅の妙高が結上げ、シニヨンスタイルに。
メイクアップは沙羅の衣笠と鈴谷が担当し、最後に赤い紅を引いてより艶やかなものへと。
最後に総監督である元秘書艦高雄が肩に掛かるまでのベールを纏わせ、沙羅の準備は完了した。
しかし――
「あ、あのご、ごすずん……ご主人様……漣、緊張がガチヤバのヤバ子はんなんですがががが……」
「い、電も緊張で転けちゃいそうなのです……」
――沙羅の漣と仁の電は血の気が引いて生きている心地がしていない。
二人はフラワーガールとリングガールを担当するため、結婚式に相応しい純白のドレスを着用している。
因みにフラワーガールは新婦とその父親がバージンロードを歩く前に花びらを撒く子どもで、リングガールは指輪の交換の時に使う指輪をリングピローに乗せて運んでくれる子どもだ。
普段からしないメイクと沙羅と揃えたドレス。しかしあくまでも主役は沙羅であるので、スカート部分は膝下丈の可愛らしい仕上がりになっている。
「ふふふ、漣も電さんもとても愛らしいわ。緊張しないで、いつも通りで大丈夫よ」
沙羅がニッコリと笑みを浮かべて二人の緊張を解きほぐすように言葉をかけるが、実はビビリな漣と元々引っ込み思案の電にとっては無理な話であった。
今回の結婚式は鎮守府の埠頭前広場が会場で、桟橋に台を設置し、そこで新郎新婦が大海原を前に愛を誓い合う。
バージンロードの長さは20メートル。これは沙羅の歩幅掛ける年齢で出した数値。
そもそもこのバージンロードとは和製英語であり英語ではウェディング・アイル(wedding aisle)と言う。そのまま訳せば結婚通路という意味で、何だか味気ない感じもすることからバージンロードと呼ぶようになった。
このアイルの始まりは魔除けの意味があり、幸せそうな花嫁に悪魔が嫉妬し、さらってしまうという言い伝えから、その花嫁を守るために清めをしたり、布を敷いたりして、その上を歩かせたことが由来である。
バージンロードを歩く意味については花嫁の生まれてから今までの人生を表している。
今回の場合スタートラインは「誕生」、そこから一歩一歩、それまでの人生を思い返しながら歩き、新郎のいる長いバージンロードの終点は、未来が始まる転換点。
退場する時にはそこから新しい人生が始まるという意味が込められている。
そのバージンロードに漣と電は最初に花びらを撒くのであるが、緊張が最大限であるため不安がっている。
因みにバージンロードを花嫁が歩く際にドレスの裾を持つトレーンガールは沙羅の朧、曙、潮が担当。花嫁が来ることを知らせるフラッグガールは仁の暁、響、雷が担当する。
「二人共、ちょっとこっちへいらっしゃい」
沙羅の手招きに二人が素直に側へ寄ると、沙羅は椅子に腰掛けたまま、二人をそっと両手の中に収めた。
「聞こえるかしら、私の胸の鼓動が……」
「凄く早いですね」
「なのです……」
「何度もリハーサルをしたけれど、本番になってこの様なのよ? だから二人が護衛して。私を仁様のところまで」
そのお願いに、二人は先程までの緊張感が吹っ飛んだ。駆逐艦魂に火がついたのだ。
結果、二人は見事にフラワーガールの任務を勤め上げることとなった。勿論、リングガールも完璧に。
――――――
結婚式のメインである新郎新婦の誓い、指輪交換、誓いのキス、そして新郎新婦がバージンロードを歩く。
参列した者たちからの大きな拍手と祝いの声、そして藤堂が連れてきた艦隊からの祝砲。
ブーケトスで大乱闘ブーケトスシスターズを披露した両陣営の艦娘たち。(怪我人0でブーケは藤堂の双子の娘たちの手に)
結婚式のあとはみんな食堂へ移動して食事会。
お色直しを経て鬼月夫婦は各テーブルを回って挨拶をし、最後の最後まで来てくれた人たちをもてなした。ただ沙羅の父と仁の父と兄は大号泣で新郎新婦を盛大に困らせた。
参列者たちが鎮守府をあとにしてから、艦娘たちが片付けをしてくれるとのことで夫婦はやっと一息つく。
やってきたのは桟橋。結婚式が終わってすぐに台は片付けられているが、月が浮かぶ海が幻想的に夫婦を出迎えてくれていた。
「……本当に結婚したんだな。こう言っては何だが、本当にあっと言う間だった」
「一生の思い出、とはこういうことを言うのでしょうね」
自然と肩と肩が触れ合う夫婦。
「沙羅」
「はい、仁様」
「愛している」
「……今日はたくさん言ってくださいますね。いつもは私からお願いしないと言ってくださらないのに」
「む……いつもは言わないだけで、あの日からずっと沙羅のことは愛している」
いつになく拗ねた表情で言う仁を見て、沙羅は胸の奥がキューンと悲鳴をあげた。
本当に自分がこの人の妻になったのだ、と今の表情を見てやっと実感が湧いてきたから。
「……私、幸せですわ」
「何を言う」
「へ?」
「これで終わりじゃない。これからもっと幸せになるんだ。二人で……」
駄目だった。夫への愛は例え夫であっても誰にも負けていないと自負していたが、相手が悪過ぎた。
鬼の愛がこんなにも強大なことに、沙羅は今更になって思い知る。
思い知って、このまま死んでもいいとすら脳裏に浮かび、すぐにそれは駄目だと頭を振った。
そうやって何やら百面相する姫を鬼は愛おしく眺め、目で堪能したあとで自分の胸の中にそっと仕舞い込んでしまう。
「仁様、お化粧が制服についてしまいますわ……」
「構うもんか。それより今の沙羅を独り占めすることの方が大切だ」
「……仁様ぁ、耳元でそんなことを囁かないで……」
「こんな時だからこそだ。普段からあれだけ沙羅にいいようにされているんだからな。仕返しはしないと気が済まない」
「こんな素敵な仕返しでしたら是非とも毎日……」
「……それは無理だ」
「もう、いけずですわねっ」
変なところで一歩退いてしまう鬼。そんな鬼の頬に姫は真っ赤な月を刻み込む。
「ふふ……鬼さんに仕返しされるよう、私がこれからもたくさん攻めて差し上げますわ!」
「本当に頼もしいお姫様だよ……」
そして鬼と姫は艦娘たちが呼びに来るまで身を寄せ合い、愛を語り合うのだった――。
ということで最初はやはり甘い物語からスタートです!
読んで頂き本当にありがとうございました!