鬼提督は今日も艦娘らを泣かす《完結》   作:室賀小史郎

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鬼月夫人の優雅なティータイム

 

「さぁさ、皆様、日頃の任務に訓練と本当にお疲れ様。皆様は常に気を張っていないといけないお立場ではありますが、この時間に限っては何も気にすることなく、ごゆるりとお過ごしくださいましね」

 

 そう言って食堂のすぐ横にあるテラス席で艦娘たちに挨拶するのは、あの鬼月仁提督と結婚し、その妻となった豊島沙羅……改め鬼月沙羅である。

 沙羅は鎮守府内で仁の次に権限を持つ第二提督。

 寿引退なんて言葉だけで、二つの大きな艦隊が一つに統合されたことで生じるはずの混乱も事前に沙羅が周到に準備していたのもあって、何から何までスムーズに事が運んでいる。

 

 結婚した当初は共に生活するための準備等もあってそちらの業務は休んでいたものの、結婚して半年となって観艦式も終えてしまえば、落ち着いて今では休暇の艦娘たちをもてなすまでの余裕が生まれているのだ。

 

 沙羅は結婚する前から仁の下にいる艦娘たちから、ここの鎮守府の仕組みを細かく聞いていた。

 中でも驚き、同時に感嘆したのが有給休暇制度。そしてその制度に対して艦娘たちが死んだ魚のような目をして迎えることだ。

 

 沙羅も有給休暇はとても嬉しかった。しかしここの艦娘たちは仁に尽くせない有給休暇が大の苦手。寧ろ苦手どころか大嫌いに分類される。

 その理由が理由なので沙羅も気持ちは理解するが、夫である仁の考えも理解していた。

 ならばと沙羅が始めたのが有給休暇で打ち上げられた魚の如く干からびる彼女たちを助ける、『有給休暇を楽しくさせる作戦』だ。

 具体的に何をするかと言うと――

 

「では、仁様の良いところを今回も列挙致しましょう!」

 

 ――鬼月仁の礼賛である。

 ここはどこの共産圏なのか?と思われる人もいるだろう。しかし安心してほしい。ここはちゃんとした民主主義国家日本である。

 ただ彼女たちをまとめる長、鬼月仁があまりにも慕われているために起こっている局地的な現象なのだ。

 

 それに沙羅のこの提案によって有給休暇を恨めしく思っていた艦娘たちも、有給休暇中のこの時だけは目に光りが戻るので成功していると言われれば成功している。

 

「はいはいはいっ! でもその前に罪人に罰を与える方が先だと思いますっ!」

 

 そんな中、いち早く挙手して訴えたのは仁の時津風。

 時津風が言う罪人とは――

 

『…………何卒、寛大な処置を……』

 

 ――先程から地べたへ揃って正座し、また揃って『私は鬼月提督を悲しませました』と書かれたプラカードを首から下げている両陣営の秋雲こと……アーティスト・アキグモーズである。

 秋雲らがどんなことをして仁を泣かせてしまったかというと、簡単に言えば趣味に没頭し過ぎて寝る間も惜しみ、倒れたせい。

 彼女らの趣味は絵や漫画を描くこと。最近では沙羅のところから来た艦娘たちも仁の虜となり、加えて秋雲も二名に増えたことで創作意欲が倍になり、前にも増して彼女らの作品を待ち望む者が多い。

 それ故に創作活動に割く時間が増し、本人たちも筆が乗っているのあって徹夜を七日間もしてしまった。

 

 無理が祟って二人が倒れると、仁はそれはもう後悔の念に苛まれ涙を流した。

 全ては部下の健康管理を怠った自分の責任だ、と。秋雲らを含めた全員が仁のせいではないと訴えたことで、彼も少し気持ちを持ち直したものの、近頃は徹底的に健康管理をするようになったため、故に有給休暇が増えた。その上この二人に至っては罰として一ヶ月間夫婦と一緒に寝ることが義務付けられている。

 そう、あの地獄の有給休暇が秋雲らの失態により増え、それなのに当の罪人らは天国にいるかのような扱いなのだ。これを罪と言わず何と言う。ここの艦娘たちにとって、今の秋雲らは最愛の鬼を泣かせ憎き有給休暇を増やしそんな鬼夫婦と同じオフトゥンで寝る大罪人なのである。

 それに加えて倒れたことで仁から蝶よ花よの如く付きっきりで看病された秋雲らは、みんなからの嫉妬の対象なのだ。

 

「…………そうねぇ」

 

 沙羅は地べたへ額を付けて沙汰を待つ秋雲らをじっくりと眺める。

 実のところ沙羅は特に秋雲らへ罰を与えようなんて全く考えていない。既に仁があの手この手で秋雲に世話を焼くことで秋雲らは狼狽し、とろとろに甘やかされたせいである意味鬼からの罰は受けたのだ。それに鬼からの許しが出ないと創作活動の復帰が出来ない。

 甘やかされ、その上趣味を没収され、仲間たちからは嫉妬され、秋雲らはそれはそれはもう脳髄にまで今回自分がやらかした罪を分かっている。

 ただ沙羅としては夫を悲しませた点にだけは罰を与えようと思い至り、口を開いた。

 

「……では二人共、私の膝の上に乗りなさい」

 

 唐突なことに全員が揃って首を傾げる。

 それでも沙羅から「早く言う通りになさい」と言われれば、秋雲らは従う他ない。

 言われた通りに秋雲らが沙羅の左右の膝上へ横抱きになる形で座ると――

 

「(仁様ってね、実は――――)」

『っ!!!!!?』

 

 ――秋雲にだけ聞こえるように、濃厚な夫婦の営みを聞かせ始めたのだ。

 秋雲らもその行為そのものは知っていても未経験。その上創作活動で自身たちが手掛ける漫画は純愛物語や正義が悪を討つといった王道な内容。

 よって沙羅から聞かされるその濃厚な甘い夜の話に、秋雲らは脳内が蕩け、顔や耳、指の先やらつま先まで全身が真っ赤になってしまった。

 何せ逐一「(自分に置き換えて想像してご覧なさい)」なんて言われるせいで、秋雲らの脳内は鬼との激甘ファンタジー夜戦が繰り広げられるのだから……。

 

『〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!』

 

 そしてとうとうオーバーヒートして気絶してしまった。

 沙羅はそんな秋雲らをクスクスと可笑しそうに眺め、すぐさまドック妖精たちを呼んで二人をドックへと搬送させるのだった。

 

「こんなところかしら。皆様、これで秋雲さんたちを許してくださいましね」

 

 淑やかに沙羅がそう告げれば、誰も文句無く『はーい』と揃った声が返ってくる。

 内容は分からないが、あの二人があんなことになったのだからそれはもう凄い罰だろう、とみんな考えたからだ。

 

「では皆様、当初の話題に戻しますわよ」

 

 パチンと手を叩いて沙羅がそう言えば、今度はみんな嬉々として仁の礼賛を始める。

 こうして今日の有給休暇という地獄にひと時の安寧が訪れるのであった。

 

 ――――――――

 

 その一方で――

 

「…………沙羅たちはまたあんな訳の分からんことをしているのか……」

 

 ――たまたま工廠に用があった仁は、その帰りに自身を礼賛する集いに出くわして、その恥ずかしさに耐えられずに両手で顔を覆ってその場に膝を突いてしゃがみ込んでいた。

 

(提督のこんなお姿はレアね……かわいい♪)

(シャッター音がしないカメラを青葉から借りといて正解だったな!)

(沙羅さんと結婚して提督がかわいくなった気がするわね♪)

 

 その横で秘書艦の高雄と手伝いの利根と妙高はホクホク気分になるのだった――――。

 




今日も鎮守府は平和です♪

読んで頂き本当にありがとうございました!
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