鬼提督は今日も艦娘らを泣かす《完結》   作:室賀小史郎

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まだ序盤しか書いてないのにお気に入り登録者数が400超えててビビってます((((;゚Д゚))))

でも、変わらず私は私が書きたいように書きます!
面白いと思ってもらえるように、無理しないで頑張ります(*´ω`*)


鬼の強大な力

 

「…………俺はお前たちに深い悲しみを感じている」

 

 時刻は有に零時を回っている。

 真っ暗な部屋の中、男、鬼月提督は重々しく、目の前に寝間着のまま正座して頭を垂れる三人の艦娘たちへ告げた。

 

「申し訳、ございません……」

「ごめんなさい……」

「ごめんなさい、提督……」

 

 神通が畳に額をつけたまま謝ると、姉の川内も妹の那珂も口々に謝罪する。

 そんな三人を見て、鬼は小さく息を吐いた。

 

「謝るくらいならば、初めからしなければ良かったのではないか?」

 

 鬼の冷たい正論に川内たちは口をつぐむ。何も言い返せないからだ。

 

「……まあそんなことはこの際どうでもいい。言って聞かないのであれば身体に直接叩き込めばいいだけのことだ」

 

 暗い部屋の中で鬼の顔にニヤリと白い下弦の月が浮かぶ。

 その刹那、ゾクリと川内たちの背筋に電気が走るような感覚がした。

 

「も、もうしない! もうしないから! 提督、ごめんなさい! だから許して!」

「な、那珂ちゃんも! もうしないって約束するから!」

 

 だからそれだけは、どうかそれだけは、と続けたかったが―――

 

「先に約束を破った者共が言えた立場ではないだろう?」

 

 ―――鬼は決して耳を貸さなかった。

 

「大丈夫だ。お前たちがどんなに叫ぼうが、どんなに喚こうが……この部屋にいる限り外には一切漏れないし聞こえない。安心してその身に教え込んでやる。二度と忘れられないようにな」

 

 鬼はそれを聞く誰もの背筋が凍りつくような冷たい言葉で、川内たちを殴りつける。

 慈悲などない。そもそも約束を破った者に罰を与えるだけなのだ。そこにどうして慈悲なんて優しいものを持ち合わす必要があるのか。

 そもそも―――

 

 

 

 

 

 鬼に慈悲などない

 

 

 

 

 ―――のだから。

 

「嫌……嫌ぁ! ごめんなさい、提督!」

「ごめんばばいっ、ごめんばばいっ!」

「……っ……うっ……!」

 

 もう自分たちの訴えは届かない。

 しかしそう確信しても川内たちは尚も助けを乞う。

 怖い微笑みを目の当たりにし、川内たちはその瞳から大粒の涙を流し始める。那珂に至っては泣き過ぎて呂律も回っていない。

 

 嫌だ……もうあんなのは嫌だ

 どうしてこうなる前に止められなかったのか

 どうして同じ過ちを繰り返してしまったのか

 

 今になって自分たちの愚かさを猛省する川内たちだったが―――

 

「では始めるぞ……お前たちがまた愚かな行動に走らぬよう、しっかりと脳髄に再び刻み込んでやるっ!」

 

 ―――残酷にも鬼は準備を終えて、罰を与える。

 

 鬼はゆらりと先ずは姉妹の長である川内の前まで歩み寄った。

 川内は腹の底からガタガタと震え出すが、身体が言うことを聞かずに逃げたくても逃げられない。

 迫りくる大きな鬼の手を拒もうと払ってはみたものの、力ない抵抗に何の意味もなかった。

 手首を取られ、胸ぐらを捕まれ、そして―――

 

「……泣け……川内っ!」

 

 ―――鬼は怖いくらいの笑顔で、川内を苦しい程に両腕で締め上げ、そう告げる。

 

「うっ……うあぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 途端に川内は堰を切ったように泣き叫んだ。

 それを鬼は受け止め、更に川内の顔を己の硬い胸に押し付ける。

 もっと泣け……と。

 

 艦娘とは個体差はあれど、その全員が前世……つまり自身が艦だった頃の記憶を持ったまま生まれてくる。

 そのお陰と言うのは皮肉かもしれないが、艦娘たちの記憶によって正しい大東亜戦争当時の現場のエピソードがいくつも紐解かれ、謎のままだった事柄や誤った歴史観を正すことが出来た。

 しかし、誰しも轟沈……自分が死ぬ瞬間を憶えているというのは、想像を絶するものである。

 

 己の中に流れ込む冷たい海水

 己の体に撃ち込まれた砲弾や爆弾

 その時の痛みや艦内が引き裂かれる感覚

 己の体が内から爆発する感覚

 乗組員たちの悲痛な叫び声

 

 その全てが記憶として、脳裏に刻み込まれているのだ。

 

 それに加えて、乗組員たちの決死のやり取りや作業の様子、平時の穏やかな話し声や笑い声、自分に向けてくれた優しさや真心も全て……しっかりと憶えている。

 

 自分が沈み行く瞬間、出せたのであれば、喉から血が出るくらい―――

 

『早く退艦して!』

『一人でも多く生き延びて!』

『一緒になんて思わないで!』

『ちゃんと家族の元へ帰ってあげて!』

 

 ―――と叫びたかった。

 しかし出来なかった。

 

 その当時の自分は、ただ操られるだけの(くろがね)だったのだから。

 

「えぅっ……えぐっ……私ぃ……私は……っ……あの人たちをっ……!」

 

 ―――救えなかった

 

「忘れるな。決して忘れてはいけない、尊き武士たちだ」

「でも……でもぉ……!」

 

 ―――思い出すと胸が張り裂けそう

 ―――こんなに憶えてるのに

 ―――こんなに温かい気持ちもあるのに

 

「でもではない! お前が英霊たちを忘れた時が、本当にその英霊たちが死ぬ時だ!」

 

 鬼はまた川内の顔を苦しい程に力づくで己の胸に収める。

 自分が本当に鬼のような人ではないモノであったなら、彼女たちの辛い記憶だけを消してやりたい。しかし自分に出来ることは、こうして溜まった情を吐露させてやることだけだ。

 

 川内、神通、那珂……姉妹だからこそ姉妹のこうしたフラッシュバックがきっかけで三人が同時にして、当時の自分の記憶が脳裏に浮かぶ。敏感な者だと仲間のそうしたことでも機微に察して、己の過去がフラッシュバックしてしまう。

 耐えられる者もいる。受け入れ、そして泣く者もいる。

 ただ心が綺麗過ぎる艦娘たちのその多くは、当時何も出来なかった自分に責任を感じて、負の念に取り込まれてしまうのだ。

 艦娘たちの心が綺麗な理由は純粋な愛国心を持って生まれてくるからであり、その愛国心の理由は『国を守るために産まれた軍艦』だからだ。

 

 よって鬼はもしも負の念に包まれそうになった時、昼夜問わず自分の所へ来いと艦娘たちに言ってきた。

 なのに今回川内たちは、普段から多忙な提督に頼るのはいけないと、隠れて宿舎の部屋で固まってすすり泣いて、耐えていた。

 しかしそうしていれば壁が薄い宿舎では筒抜け。よって隣の部屋にいる艦娘たちから報告を受けた鬼が、高雄に断りを入れて乙女たちの部屋に上がり込み、三人纏めて毛布に包み、己のみがいる静かなこの長官官舎へと連行したのだ。

 

 最初から自分を頼って来てさえいれば、何もこんなことはしなかった。

 落ち着くまで頭を撫で、過ごし慣れたあの部屋で一晩中看てやれたのだ。

 なのに川内たちが鬼を拒んだために、提督はこのような強攻策を取るしかなくなってしまった。

 

 抱きしめ、声をかけ、存分に泣かせる。

 長女が落ち着けば、次は次女、そして三女、と誰も余程のことでもない限り訪れることのない部屋で泣かせるのだ。

 

 ―――――――――

 

 あれからどれだけ時間が経ったかは、窓の外が教えてくれた。

 カーテンの隙間から見える空は白みはじめている。

 

「…………また提督に迷惑掛けちゃった」

「全くだ。次もこうならまた容赦はせんぞ」

「しないよ……絶対」

 

「申し訳ございませんでした、本当に……」

「謝るのであれば次からは俺の元へ来い、馬鹿者が」

「はい、分かりました」

 

「那珂ちゃん、今度は我慢しない……」

「端から我慢する必要はないと言っていただろう」

「うん……えへへ♪」

 

 一晩中泣いた川内たち。

 泣き腫らした赤い目の奥にはハートマークを浮かべ、川内は提督の背中に抱きつくようにもたれ、神通は提督の左肩に自身の頭を預けるように身を寄せ、那珂はあぐらをかく提督を真正面からうつ伏せになって腰に手を回して甘えながら足をパタつかせている。

 こうなるから……鬼から離れたくなくなるから、川内たちは頼るに頼れなかったのかもしれない。

 しかし鬼の強大な(愛の)力の前には、自分たちの意思なんてものは植物プランクトン並みに非力であった。

 

「……提督は私たちを甘やかす天才ですね♡」

 

 神通は提督の左腕に己の両手を絡めてつぶやく。

 しかし鬼の口からは―――

 

「甘やかしてなどいない。罰を与えた、それだけだ」

 

 ―――厳しい言葉だけが返ってきた。

 

 それでもその厳しい言葉は神通の胸をまた温かくさせ、自分に言ったはずではないのに川内も那珂も胸の奥がトクンと甘く揺れた。

 

「お前たちに罰は与えたが、これが初めてではないからな。よって前回よりも重い罰を科すぞ」

『え♡』

 

 鬼の追加の罰に思わず声が(期待で)上擦る三姉妹。

 

「これより1週間。俺は毎晩お前たちの部屋でお前たちが眠りに就くまで監視する」

 

「え、ダメだよ、そんなの!」

(そんなことしたらもっと提督のこと好きになっちゃうじゃん♡)

「駄目とはこちらの台詞だ、馬鹿者。それに拒否権はない」

 

「待ってください提督、今回は姉さんの言う通りです! それに提督の睡眠時間を私たちが削る訳には……」

(ダメです……1週間もだなんて、愛しさが今以上に募ってしまいます♡)

「既に散々削っておいて阿呆吐かすな」

 

「で、でもでも! 那珂ちゃんたちはもう大丈夫だ……しそれにほら、他の子も那珂ちゃんたちみたいになっちゃうかもだし!」

(もう提督がいないと生きていけない体になっちゃってるのに……余計に提督依存症になっちゃうぅ♡)

「その時は纏めて面倒を見る。そんなことも出来ぬ奴に提督なんて務まらんのだからな」

 

 んあぁぁぁぁぁ! ケッコンして♡

 

 鬼の前に三姉妹は揃って悶え苦しんだ。

 鬼は怖い。怖いくらい愛をばら撒いて、その荒れた地にハートマークしか生まれぬ地に変えてしまう。

 愛の化身とは提督だった。

 

 

 

 

 

 こんなにも愛されてしまったら

 

 

 

 

 

 こんなにも甘い蜜を吸わされたら

 

 

 

 

 

 元の生活になんて戻れない。

 そう川内たちは乙女の勘が空襲警報を鳴らした。

 キュン……トクン……トゥンク……と、提督の愛の爆撃機が総攻撃を仕掛けてくる。

 そう―――

 

 

 

 

 

 鬼からは逃げられない

 

 

 

 

 ―――のだ。

 

「お前たちは……俺のことより己と国のことだけを案じろ。お前たちが俺のことをどう思おうが、俺にとってお前たちは大切な存在なのだからな」

『っ!!!!?♡』

 

 やられた。完膚なきまでに蹂躙されてしまった。圧倒的な(愛の)力で。

 ゴツゴツした優しい手で順に撫でられ、那珂に至っては顎クイまでされて……三姉妹は愛の絨毯爆撃にその身を焦がす。

 もうゴール(提督を愛)してもいいよね? 愛が心という器に注がれ、その器から溢れ出た愛は、注いでくれた本人に返すのが普通なのだから。

 

「提督、朝ご飯作ってあげようか?♡」

(これくらいさせてくれないと今夜にでも夜戦(意味深)仕掛けちゃうからね♡)

「お言葉には甘えよう。冷蔵庫に甘鮭の切り身があるから、それを使え」

「はぁい♡」

(甘鮭かぁ……今の私だったら砂糖まぶしたみたいに甘く感じちゃうんだろうなぁ♡)

 

 川内はそう考えながら、ルンルン気分で官舎の台所へと向かう。

 

「では、神通は僭越ながら提督のワイシャツにアイロン掛けさせてください♡」

(私が触れた服を提督が着てくださる……この上ない誉れです♡ それを断るなんて提督ならしませんよね?♡)

「それはありがたい。何しろよれたワイシャツを着ていると、皆に怒られて脱げと言われるからな」

「ふふっ、ではその任、承りさせて頂きますね♡」

(やった♡ 襟元にこっそり口づけしちゃいましょう♡ そうすれば今日はずっと、神通が提督の首筋を独り占めです♡)

 

 神通はニコニコしてスキップでもし出しそうな勢いで提督の衣装部屋へと向かった。

 

「那珂ちゃんだけ余ったぁ……提督ぅ、何か命令してぇ♡」

(どうせ提督は何もないって言うに決まってるから、お姉ちゃんたちが戻ってくるまで那珂ちゃんが提督独り占め♡)

「なら自分たちの部屋に戻って制服を取ってこい」

「んにゃあ!?」

「? 制服がないと困るだろ。お前も川内たちも」

「はぁい……取ってきまぁす」

「ああ、気をつけてな」

「っ♡」

 

 那珂は最初こそ不満たらたらだったが、最終的に提督から飼い主が愛犬の顔をワシャワシャするように撫でられたので、一番被害が大きかったという。

 

 ―――――――――

 

「夜戦パイセンたちばっかりズルい!」

「そうだぜ! 司令と一晩中一緒とか!」

「しかも1週間も添い寝付きなんて!」

「本当はこうなるって分かってて黙ってたんじゃないんですかぁ?」

「次からは提督の手を煩わせてはいけませんよ?」

 

 執務室の窓の外から、川内たちへの非難の声が聞こえてくる。

 事情が事情なので、非難と言ってもみんなほぼ嫉妬して口撃しているのみ。現に仲間たちから集中砲火を浴びている川内たちの表情はキラキラのツヤツヤだ。

 だから余計にみんなは羨ましくて、自分もされたくて、わーきゃーと文句を言う。

 でも、言われれば言われるだけ、川内たちの優越感は増していく。それだけみんなが想っている相手を、自分たちは一晩中独占し且つ罰として1週間も添い寝(そこまでは言ってない)してもらえるのだから。

 

 しかし―――

 

「はぁ〜〜…………ゴンサレスくん、俺は駄目な提督だ。また艦娘たちを泣かせてしまったぁ。でも仕方ないじゃないか、嗚呼でもしないとみんないい子だから我慢してしまうんだ」

 

 ―――鬼はそんなことも知らずに、ぬいぐるみを抱えて泣き言を吐かす。

 高雄はこんな状況は既に慣れた。でもこんな提督を独り占め出来てこの上ない幸福感があるが、提督はみんなの提督なのでこの様子は高雄の戦闘用ライブカメラで食堂のスクリーンに垂れ流されている。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

『みんな辛い過去を持っている……それを受け止めて、日々をあんなに明るく過ごしている。いい子どころの話ではない。なのに俺に出来ることなんて側にいることしか出来ないじゃないか……こんな低能……いや無能提督なのに、なんてみんな健気なんだぁ。もっと大切にしないといけないじゃないかぁ。なのに泣かせてばっかりの自分が嫌になる……ゴンサレスくぅん』

 

 鬼は決して涙を流さない。でもぬいぐるみを抱きかかえて泣き言は垂れる。

 当然、このことが筒抜けだなんて思ってもいないし、艦娘がここまで強かとは考えてすらいない。

 

「提督って本当に可愛いですね……ね、武蔵もそう思うでしょ?」

「可愛いを通り越して尊いんだが……いかん、鼻血が……」

 

「陸奥よ、私は初めて生まれ変わったら提督のあのぬいぐるみになりたいと思ったよ」

「いやいや、長門姉さん。前から言ってたじゃない。気持ちは凄く分かるけど」

 

「空母として運用してくれるだけでも嬉しいのに、こんなにも愛されてしまうと涙が出るのよね……」

「分かります、雲龍姉様。天城たちは本当に恵まれた艦娘ですね」

「あ〜あ、こんなに愛されたらこっちだって頑張るしかないじゃんね……へへへ♡」

 

「アトミラールさん……可愛い、尊い……いっぱいしゅき♡」

「プリンツさん、語彙力低下してますよ……まあ、気持ちはとても理解出来ますけど……ね、ガリィ?」

「ああ、うん……ぬいぐるみじゃなくてアタシらを抱けばいいのになぁ、ったく♡」

 

「姉貴、そんなに釘付けになってるなら直接見に行くかい?」

「な、何言ってるのよ、松風っ! 執務の邪魔になっちゃうでしょ!?」

「しかし、朝風さんと旗風さんは向かってしまわれましたよ?」

「そうなの!? 止めなきゃ!」

「という名目で会いに行くんだね……OK、姉妹みんなで行こうじゃないか♪ 僕も彼に会いたい♡」

「うるさ〜いっ」

 

 まさに食堂は提督観賞会でみんなして鬼への愛を募らせている。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

「提督、(無駄な)懺悔中大変申し訳ありませんが、赤城さんから戦闘海域に入るとの報告がありましたよ」

「…(キリッ)…うむ、回線を繋げ」

 

 こうして鬼は自責の念は横に置いて艦娘たちを勝利へと導くのであった―――。




鬼提督の強大な(抱擁)力ってことで!←

読んで頂き本当にありがとうございました!

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