暁型駆逐艦・四番艦・電
それが電です。
これまで多くの電が建造されていて、初めて司令官(提督)になられる方へ寄贈される初期艦の一人なのです。
みんな同じ姿形をしていても、寄贈された先の生活環境等で細かい性格が違ってきます。
私はどんな司令官さんに選んでもらえるのだろう。
出来れば優しい人がいいのです。
電は駆逐艦でも軍艦なので、甘えたことは言えませんけど。
そしてついにその時がやってきました。
電の司令官さんは鬼月さんという方で、元特殊部隊の方らしく、軍人の中の軍人らしいです。
片目を失っても頑張ってお国のために尽くそうとしている方だそうです。
その見た目や資料から厳しい人なのだろうと思いましたが、立派な方の初めての艦娘になれるというのは嬉しいことでした。
―――――――――
でも―――
「電です……よろしく、お願いします」
「ああ、これからよろしく頼む」
―――最初の挨拶はこれで終わりました。
というかとっても怖いのです。睨まれてるのです。
やっぱり駆逐艦の小娘が最初にやって来るのは嫌なのですね。
で、でも電は挫けないのです! 先ずは初期艦としてのお役目を果たさないと!
「……あ、あの、では先ず電たち、艦娘についてのご説明を―――」
「要らん、不要だ。そんなことはこの役職に就くと決まった時点で既に把握した。加えて鎮守府の機能や各所の説明も既に頭に入っているから必要ない」
「そ、そうですか……」
初期艦としての役目すら必要とされてないのです!
電なんかでごめんなさいなのです!
実直な吹雪ちゃんや叢雲ちゃん、または場の空気を和ませてくれる五月雨ちゃんか漣ちゃんの方が良かったと思います!
でも、初期艦はあくまでもその人の選択制。その中から電を選んでくれたのはこの司令官さんなのです。
どうして電を選んでくれたのかな……?
「いつまでそこに突っ立っている気だ?」
「あ、あぅ、えっと……何かお手伝いすることはありませんか?」
「今日は俺も着任したばかりで、本格的に任務の通達が来るのは明日以降だ。今日は何もない」
「……で、ですよね」
うぅっ、どうしたらいいのです!?
工廠の機能とか各所の施設も知ってるのなら、電はもう要らない娘なのです!
「もし暇しているなら、長官官舎にこれから来てもらおうか」
「へ?」
な、何をするのです?
も、もしかして暇だからって着任早々電を司令官さんのお部屋でズマズマしちゃうのです?
怖過ぎるのです! 嫌なのです! 会った初日からだなんて間違ってるのです!
でも拒んでしまったりしたら、きっと今ここでズマズマしちゃうのです! それならちゃんとお布団の上でされた方がまだマシなのです!
―――――――――
うぅっ、とうとう着いちゃったのです。
そういう司令官さんが稀にいることは知ってましたが、まさか自分がそんな司令官さんの下へ寄贈されるだなんて……。
怖いよぉ……。
「何をしている。さっさと入ってこい」
「あ、はい……」
は、入っちゃったのです……もう逃げられません。
司令官さん、出来れば優しくしてください。
電は司令官さんが満足するまで大人しくしてますから……あ、一応それらしく声は出した方がいいのかな?
でもその前に―――
「あ、あの司令官さん……」
「……どうした?」
「司令官さんは(これまでお相手を頼んだ人数)いくつなのです?」
―――こういうのは確認しておかないと。でないと上の方に通報出来ないのです。
「? 29(歳)だが、それがどうかしたのか?」
「っ……い、いえっ! もっと低いかと思ったので!」
「???」
にににに、29人もヤッてきたのです!?
てっきり2、3人だと思ってましたけど、常習犯なのです! 敢えて格好良く言えばレジェンドなのです!
あ、でもそれならもたつかずに手際良く(レ〇プ)してくれるかもなのです?
「正確に言えば、明日で30(歳)になる」
「!!!!?」
そ、そうですよね。電を入れたら30(人目)ですよね。
あぅぅ、嫌なのです。百歩譲って、そういうことをするのは司令官さんも男性なので手近な異性で済ませようとしても仕方ないのですが、強引に今からしなくても、もっと仲良くなってからなら電だって……。
※駆逐艦などの見た目が幼い艦娘にそうした行為をするのはどうかと思われるかもしれないが、艦娘は進水日から現代まで普通の人間と同じ年齢換算なので、しても法律上問題はない。本人たちの合意の上でというのが前提条件であるが……。
「では早速手を貸してもらうぞ」
「は、はいっ、なのですっ」
初めてですけど頑張る―――
「そこに積まれたダンボール箱を1つずつ開封してくれ。中は俺の私物と生活用品や生活雑貨だ」
「ふぇ?」
―――のです?
「長いこと寮暮らしだったから私物は少ないんだがな。にいに(兄)とねえね(姉)が寮を出るなら、あれもこれもとわざわざこちらに送ってきたんだ」
な、何なのです、(大変失礼ですけど)この可愛い生き物は。
にいにって何なのです?
ねえねって何なのです?
こんな怖い人が言うには可愛過ぎる単語なのです。
はっ! というより、勝手にそうだろうと決めつけてごめんなさいなのです! 司令官さんはとっても可愛い人なのです! もう二度とこんな失礼な妄想はしません!
―――――――――
荷解きが終わると、私はすっかり司令官さんの虜になってしまっていました。
だって私物の殆どがぬいぐるみさんだったのです。
お顔が怖くて乱暴する人ではなく、ぬいぐるみが大好きな可愛い人だったのです。
中でもステゴサウルスの『ゴンサレスくん』は一番丁寧にダンボール箱に入れられてました。ぬいぐるみ自体がふわもこなのに、ふわもこタオルで更に包んであったのです。失礼ですけど可愛いと思っちゃいました。電の胸がズマズマされちゃったのです。
「とても助かった。着任早々、こんなことを手伝わせて悪かったな」
「いえ、そんなことないのです♪ 司令官さんのことを知れるいい機会になったのです!」
「そうか……まあ長い付き合いになる。改めてこれからもよろしく頼むぞ、電」
「はいっ♪」
―――――――――
司令官さんが着任して早1か月。
艦隊は人数だけは増えましたが、その6人中6人が駆逐艦でした。
司令官さんは『親の七光り』と周りの方々から呼ばれていて、戦艦や空母または重巡洋艦と軽巡洋艦の着任許可を求めても―――
『現状で十分だと判断する』
―――だけしか言われませんでした。
おかしいとみんなで思いましたが、司令官さんは「なら今のままで結果を出す他ない」とだけ言って、電たちの練度や連携を徹底的に鍛えてくれました。
辛かったです。本当に、辛かったんです―――
鬼月司令官さんを悪く言われるのが
―――心の底から。
電たちは死ぬ気で、時には泣きながら、司令官さんを信じて強くなりました。
周りの方々は鬼だ鬼畜だと散々なことを言います。
厳しいけど、とても優しい……そしてとっても可愛い鬼さんなのに、それを知らないアホたちが多いですから。
それに司令官さんだから、駆逐艦だけの編成で敵空母群を殲滅することが出来たんだと思います。
自分のお金を投げ打って資材を用意してくれました。
自分のお金を投げ打って食料も用意してくれました。
贅沢なんて出来ない状況なのに、司令官さんはいつも自分のお金で電たちに我慢することを許してはくれませんでした。
そんな方を
そんな素敵な方を
悪く言う人たちは心から大嫌いなのです。
―――――――――
電たちが敵空母群を殲滅したことで、泊地総合部に招かれました。
何でもその戦果に勲章を頂けるとのことです。
司令官さんを先頭に、みんなで誇らしい気持ちで総合部の部長さんが待つ部長室へ向かいます。
でも―――
「(おい、あれだろ、鬼ってのは?)」
「(可哀想にな、駆逐艦だけで敵に突撃させたらしい)」
「(血も涙もねぇよ、マジで)」
「(あれ、何人目なんだろうな?)」
「(おいバカ、聞こえるように言うなよ!)」
―――電たちを見る人々は口々に電たちを哀れみ、司令官さんを見る人々は聞こえないように悪口を叩くだけでした。
ふざけるなと、本気で言いたかった。
そもそも総合部の方が電たちだけでなんとかしろとしか言わず、司令官さんは電たちが轟沈しないように徹底的に鍛えてくれたんです。
酷いのはどっちなのですか。変な嫉妬で司令官さんを苦しめて、変な噂だけで司令官さんを悪者にして。
司令官さんがどれだけ電たちのために身を切って、血と涙を流してくれたのか―――
本当の鬼はお前たちだろうが
―――本当に嫌になります。
―――
「鬼月君、此度は本当に良くやってくれた。心から勲章を贈らせてもらうよ」
「ありがとうございます」
「そして本当にすまなかった。僕の力が足りないばかりに、君の要望は全て僕のところに来る前に潰されていたんだ。言い訳に過ぎないが、本当に今後は徹底させるから」
「いえ、自分には頼れる仲間がいましたから」
この方は司令官さんとは前に同じ特殊部隊にいたそうです。
だから唯一、ここでは本当の司令官さんを知っている有能なお方なのです。
「これだけの戦果をあげたなら、もう誰も君に迷惑は掛けない。これからはちゃんと僕のところまで君の要望が通るだろう。もし途中で潰したりしたら、今度こそは僕の権限でその者の立場を無くすよ」
「自分はそういうことを望んでいません」
「知ってるよ。だから君はこれまで通りでいい。君は僕の恩人で、今でも最高の戦友だ。そんな戦友を守るのに何も同じ戦場に立たなくても、やり方は色々あるだろう?」
「………………」
「そういう訳で、早速3日後には君の鎮守府へ金剛型戦艦を四隻、正規空母の赤城と加賀、軽空母の鳳翔と龍驤、高雄型重巡洋艦の四隻、天龍型軽巡洋艦二隻と川内型軽巡洋艦三隻を送るよ」
「それは……」
「多いかな? でも通常はこれくらいの戦力を持ってないと、あの海域は突破出来ないんだよ。みんな君みたいに有能で資金力がある提督じゃないからね。とりあえず急に大人数になるけど、君なら大丈夫だよね?」
「ええ、3日あれば受け入れる準備も整えられますので、問題ありません」
「駆逐艦と潜水艦、それに海防艦なんかも揃えて欲しかったら気兼ねなく申請してほしい」
「その際はよろしくお願いします」
―――
大変なのです。司令官さんが認められて嬉しいですけど、大変なのです。
艦隊が大きくなるのはいいことなのですが、電たちの役目がなくなっちゃうのです。
これは緊急会議をする必要があるのです。
ということで電は鎮守府に帰ってきてから、不知火ちゃん、白雪ちゃん、潮ちゃん、綾波ちゃん、水無月ちゃんを会議室に呼んで緊急会議なのです。
「どうします?」
「どうしますと言われても……不知火は司令の判断に任せます」
「私も不知火ちゃんと同じ意見かな。それに新しく戦艦の人たちが着任しても、私たちの練度は早々抜けないと思うし……」
「確かに白雪の言う通りですね。綾波たちはもう練度88で、改二になれる人はなっちゃってますから」
「そ、それに提督は艦娘が増えたからって、私たちを蔑ろにする人じゃないよ」
「だよね! 現に総合部から帰る途中にこれからも頑張ろうって言ってくれたし、パフェとか色々ご褒美くれたし!」
みんな甘いのです。食べてきたバケツパフェよりも甘いのです。
「そうではなくてですね、電は今後も司令官さんとお話ししたいんです! 皆さんは違うのです?」
そう言うとみんなは揃って『お話ししたい』と言いました。
「……いっそのこと娘になりたいのです」
「ならなっちゃう?」
「水無月ちゃんどういうこと?」
「だから、司令官の娘に水無月たちがなるの」
「具体的にはどうやって?」
「そんなの自称だよ。ほらLOVE勢って言うのも他の人が勝手に名付けた敬称? みたいなものだし、娘勢がいたって何も問題ないんじゃないかと思って。そもそも水無月たちが自称するのは自由でしょ?」
水無月ちゃん天才なのです。
これなら娘として司令官さんのお側にいても許されるのです!
「じゃあそういうことで行きましょうか♪」
「うん。やっぱり娘壱号は電ちゃんだよね」
「では不知火が二番目に着任したので、弐号を頂きます」
「そういう順番なら私が参号♪」
「わ、私が肆号……えへへ」
「綾波は伍号ですね。零号じゃないのがちょっと残念です」
「えへへ、なら水無月が陸号♪」
◇◇◇それから現在◇◇◇
こうして司令官さんの愛娘勢が誕生しました。
今ではその人数も増えましたが、最初に集いし六人は初期メンバーということで―――
「ドーター1(わん)、今日はどうしますか?」
「ドーター2(つー)、今日はいきなり背中に抱きついちゃう作戦なのです!」
―――ドーター(娘)という英語をミスターやミスみたいな敬称として、そのあとにナンバーを付けてます。
因みにドーター1が電で、2が不知火ちゃん、3が白雪ちゃんで4が潮ちゃん、5の綾波ちゃんに6の水無月ちゃんなのです!
みんなには悪いですけど、電たちは司令官さんにいつでも無条件で引っ付いていい上に、可愛がってもらえるのです♪
今もみんなで司令官さんに逆プロポーズする計画を練ってます。娘なのに逆プロポーズってのも変かもしれませんけど、それくらい好きなんです!
「こちらドーター3(すりー)。目標を発見したよ。中庭で喫煙中」
「こちらドーター4(ふぉー)。いつでもいいよ」
「こちらドーター5(ふぁいぶ)、1命令を」
「こちらドーター6。早く抱きつこうよ、我慢出来ない!」
「かかれ! なのです!」
『お覚悟〜!』
「おい、六人同時に引っ付いてくるとは卑怯ではないか?」
「えへへ、隙だらけの司令官さんが悪いのです〜♪」
『そーだそーだ♪』
「…………全くお前たちは、あの頃から何も変わってないな」
司令官さんは苦笑いして灰皿にパイプの灰を捨てて、パイプケースに仕舞ってから電たちの方を向きました。
でもその言葉はそっくりそのままお返しするのです。
だって司令官さんもあの頃から変わらず、優しい鬼さんですから♪
「司令官司令官っ」
「どうした、水無月?」
「水無月たちとケッコンしよっ♡」
「……そういうのは本当にいい相手が現れたら、申し込め。俺なんかじゃ、泣くはめになるからな」
「え〜、司令官だから言ってるのにぃ!」
「何度言おうが無駄だ。俺はお前たちの幸せを一番に考えてる。なら俺とケッコンしないことが最善だ」
司令官さん分かってないのです。電たちは別に『将来パパのお嫁さんになるぅ!』なんてノリのお話はしてないんですから。
「司令、どうして不知火たちの愛を受け取ってはくれないのですか? 何か不知火たちに落ち度でも?」
「落ち度なんてない。ただ俺はお前たちを悲しませたくないだけだ」
ご自分がケッコンカッコカリをすることで、そのケッコン相手が周りから偏った目で見られる。それが司令官さんと電たちを隔てているもの。
こうなってしまったのは司令官さんに嫉妬して、あることないこと言ってるアホ野郎共がいるからです。
「私たちは、司令官と同じで周りのことなんて気にしませんよ」
「白雪ちゃんの言う通りです。潮は、提督だからケッコンしたいんですっ」
「私もですよ。司令官は綾波たちにたくさんの愛情を注いでくれました。だから綾波たちの愛も受け取ってください」
「なのです。鎮守府のみんなが司令官さんとケッコンしたいと思ってます!」
「その気持ちだけで十分だ。何もケッコンカッコカリだけが絆の証じゃないだろう。お前たちと俺だけの確かな絆があれば、それでいい。例え俺が死んだとしても、お前たちとの絆は絶たれないのだからな」
あぁ、これです。この優し過ぎる愛の言葉が電たちを容赦なく襲うのです。
こんなに想われたら、こんなに大切にされたら、人間でも艦娘でも欲張りになっちゃうのです。
「司令官さん……ぐすっ」
司令官さんを困らせたくない。けれど電たちはこの涙を止められません。
大好きなんです。とってもとっても大好きなんです。
だからケッコンしたいんです。
「…………すまないな。泣かせてばかりで」
「ううん、司令官は悪くないよ。水無月たちが勝手に泣いちゃってるだけ……っ」
「そうです……それに例えどんなに泣かされようとも、不知火たちは決して司令を嫌いになりません」
「……ああ、ありがとう」
司令官さんはそう言うと、電たちを抱きしめてくれました。
それはとても嬉しいんですけど、またダメでした。
また逆プロポーズ大作戦が失敗なのです。
むぅ!
「どれ、泣かせたお詫びとしては悪いが、何か食堂でおやつでも作ってやろう。今日は間宮たちが休暇だからな。何かリクエストはあるか?」
「不知火はあの時食べたホットケーキがいいです」
「私も」
「潮も」
「私も♪」
「水無月も♪」
「電もです!」
「お前たちは……よし、なら他にも暇してる者も集めてこい。ホットケーキバイキングを堪能させてやる」
『わぁい♡』
笑って、泣いて、また笑って……こうして電たちはまた司令官さんに愛を募らせるのです。
絶対に諦めない。だって電たちはそんな司令官さんに鍛え上げられた自慢の駆逐艦部隊なのですから♪―――
読んで頂き本当にありがとうございました!