艦娘は守るべき、尊き存在だ。
彼女たちがいるから、今の世界がある。
だからこそ―――
彼女たちを泣かす鬼にはご退場願う
―――今日の査察でな。
私の名は近藤 陸羽(こんどう むう)。
学生の頃からのあだ名は鉄兜。個人的には格好良くて気に入っているが、何故か周りのみんなは笑う。理由は知らないが、みんなが笑顔になるのはいいことだ。
61歳厄年で既婚者。妻を愛して40年、娘と息子を可愛がって25年と22年、家族のために日々仕事をする極々普通の父親だ。
私自身も期間は短いながら元は提督であり、数年前から総合部に移って泊地にいるあらゆる艦娘を守っている。
そして今日はこの泊地で悪名高い鬼がいる鎮守府の査察日だ。
査察は毎回担当者が変わる。でないと癒着等の不正が発生するからだ。
かと言って、国に宣誓して入隊する我々軍人がその宣誓を違えることなど本来あり得ない。
だが、艦娘を泣かせているという噂の絶えないその鬼こそ、我々の敵である。
共に査察に行く同じ総合部所属の後輩君(28歳の女性)はずっと怯えきっているし、前に鬼の元へ査察へ行った者たちも口々に『あれは泣くしかない』とまで証言していた。
どんなに狡猾で圧力で弱い者を捻り潰すスペシャリストだろうと、私は屈しない!
「出迎えご苦労。楽にしていい」
「はっ! 本日はよろしくお願いします!」
見た目は確かにそっち系に思えるくらい怖いが実にいい挨拶だ。駆け出しの頃を思い出す。
こんなにも模範的な姿勢と気持ちのいい挨拶が出来る奴が鬼とは……全く人は恐ろしい。まあ見た目相応ということだろうね。怖い怖い。
「では早速我々は我々の任務を遂行させてもらう。君は我々のことなど気にせず、いつものように任務を遂行させてくれ。必要な場合はこちらから尋ねる」
「はっ! 了解しましたっ!」
クッ……先程からこの鬼からは好感しか湧かぬ。
しかしそんなのも今の内だ。
どうせ艦娘たちに尋ねればお前の悪行は全て白日の下に晒されるのだからな!
◇◇◇◇◇◇
私は後輩君と共に先ずは基本的なことから始めた。
査察と言うと難しく思われがちだが、鎮守府への査察は―――
艦娘たちの体調管理等はどのようにしているか
多々あるハラスメント行為に及んでいないか
不正が行われていないか
―――を我々が直に見て判断する。まあ他にもあるが重要なのはこれくらいだ。隠していたとしても、査察した我々が要請すればより大規模な査察が行われる。
しかし仮にも泊地随一の頭の切れる悪者だ。設備管理も艦娘たちの体調管理も徹底していて非の打ち所がない。
そもそも艦娘に対して有給休暇があるとは聞いたこともない。年がら年中、いつ敵が攻めてくるかも分からないこのご時世で、もし艦娘たち全員が同時に有給休暇を使ったらどうするんだ?
そんなことを許していたら敵に攻撃してくださいと言うようなものだ。
「査察官殿、お疲れ様です。どうですか、うちの鎮守府は?」
彼女は……鬼の秘書艦の高雄君か。
日頃こんな真面目で美しい艦娘を侍らせ、無理難題を吹っ掛けては罰等といってあんなことやこんなことをしているとは……早く助け出さねば。
でもその前にこの有給休暇について意見を聞きたい。
「君は鬼月君の秘書艦だったね。どうだい、君から見てここ独自のこの有給休暇というものは?」
きっと最悪のケースを想定しているに違いない。
彼女たちにも休息は必要だが、彼女たちの使命は国を守ることなのだから。
「そうですね……巷で聞く『休みたくても休めない』ということがないので、みんな安心して有給を使う場合は申請してます。寧ろ『休みたくないのに休ませられる』ってところでしょうか」
「は?」
「他所ではどうなのか知りませんが、私たちの鎮守府は提督がああなので仕事一筋になりがちなんです。でも提督が無理矢理にでも有給休暇を取らせてくれるので、私たちは戦争はしていても精神的健康を保っています」
「…………」
「提督があまりにも有能でみんなして提督のために役に立ちたい。しかし提督は私たちが働き過ぎると怒るんです。自分のことを棚に上げて……提督みたいな方にこそ有給休暇制度を導入してもらいたいくらいですよ」
「……全員が有給休暇を使った場合のこととかは考えないのかい?」
「提督が弛まず仕事をしているのに休めるとでも?」
そうか。鬼は自分が働いているんだから、お前たちも働けとそういう無言の圧力を―――
「なのに私たちには隙あらば休め休めと……査察官殿からも言ってください。あなたは働き過ぎだと。査察官殿に言われれば、あの提督だって多少は休むはずです! なのにこれまで来てくださる方々は一言も言ってくださらなくて……」
―――掛けていない、だと!?
◇◇◇◇◇◇
どういうことだ?
自分は無能だからこそやるべき仕事が山積みなのに、艦娘たちがそれを無理に補佐しようとしてくるから命令して休ませてる……だと!?
鬼月君に高雄君から言われたことをそのまま言ってみたら、そんな答えが返ってきた……。
おかしい! 鬼どころかお釈迦様並みの慈悲深さとイエス様並みの謙虚さじゃないかっ! ブッダも泣いて拍手するんじゃないか!?
いや、そう決めつけるのは早計だ。
何しろ高雄君は鬼に最も弱みを握られている艦娘。
いくらでも口裏を合わせる時間はあるし、素直に言い出せないはずだ。
となると―――
「ここがいいだろう」
―――食堂が一番だな。
食堂はみんなが利用する。
ここでは基本的に仲間たちしかない。
よって提督がいなければ愚痴りたい放題だ。
私も提督をしていた頃、私がいるのに周りから色々と私に対する愚痴が聞こえてきたものだ。
悲しかったが、同時に改善点も得られたから気にしたことはないがな。
「お疲れ様です。食堂を任されています、間宮です」
「同じく伊良湖です。とりあえず間宮羊羹と伊良湖最中と冷たいお茶をどうぞ!」
「ありがとう、頂くよ」
後輩君もこれにはとても喜んで甘味を堪能している。
私も彼女たちの気遣いに感謝だ。
「では早速なんだが、率直に君たちから見て鬼月君の評価はどのようなものかな? 勿論彼の耳には絶対に入れないと誓おう」
「提督の評価……ですか?」
「……う〜ん……」
勇気が必要だよな。だが、君たちは孤立無援ではない! 君たちの勇気を私が絶対に無意味なものにさせないぞ!
『鬼……ですかね』
「っ……鬼とは?」
良くぞ言ってくれた! さぁ、奴の悪行を全て我々に教えてくれ!
「提督ってお料理がとてもお上手なんです」
「?」
「そうなんですよ! それにこの前なんて自分のお金で神鷹ちゃんに神戸牛買ったんです!」
「???」
「それも一頭丸々。あ、勿論加工された物ですが、500万円もしたとか」
「?????」
「でも一人だけ贔屓するのは良くないって、結局五頭分も買っちゃって、みんなに牛丼(それぞれの部位で分けた贅沢なやつ)やらビーフシチューやら肉じゃがやらを夜なべして作って振る舞っちゃったんです!」
「………………」
「それが美味しいのなんの……みんなして泣きながら食べましたよ。足りないなら自分の貯金はまだまだ余裕があるから、明日も買ってくるぞとか言い出したんです! 鬼じゃありませんか!? 私たちの胃袋を鷲掴みにして! どこまで惚れさせる気なんですかね!!?」
「査察官さんたちも鬼だと思いますよね!?」
「…………鬼でしゅ(裏声)」
「査察官殿からも言ってください! 私たちのお仕事を奪わないでくださいって! そして所属してる全艦娘とケッコンカッコカリしてくださいって!」
◇◇◇◇◇◇
あれれぇ、おぉ〜かぁ〜しぃ〜ぞぉ〜?
私はちゃんと鬼の悪行を尋ねたはずが、間宮君たちからは寧ろ鬼の善行と惚気しか聞かされなかったぞ〜?
ケッコンカッコカリしてあげないの?って聞いたら、自分のような人間が彼女たちをあの指輪で縛るのは良くないって……いや、君めっちゃ愛されてるよ? だって後半甘味の味しなくなったもん。
本当に噂はただの噂で、彼はいい提督なのかもしれない。
いやいや待て待て、陸羽。
落ち着け、陸羽。
よし、落ち着いた。偉いぞ陸羽。
施設内はきっと鬼の監視下にあるんだ。だからきっと彼女たちは鬼をヨイショしたに違いない。
なんて可哀想なんだ……でも必ず私が助け出してあげるよ!
ということは、各施設内での聞き込みはダメだな。
外でしよう。
外で彼女たちに何の足枷もない状態で聞き出そう。
お、体よく埠頭に駆逐艦がいるな。
駆逐艦は脆いために軽視されがちだ。きっと鬼は戦闘では使えないからと駆逐艦にあんなことやこんなことをしているに違いない。
同じ日本人として、同じ男として、女と見れば跪かせようとする人間は許せないからな!
「君たち、ちょっといいかな?」
「おお、査察官殿。妾たちに何用かえ?」
「お仕事、お疲れ様です」
おお、あの扱い難い艦娘ランク上位(個人的)に入る初春君と満潮君か。
きっと彼女たちならあの鬼の嫌なところをこれでもかと私に言いつけてくれるに違いない!
にしても、ここの二人はとても態度がいいな。私が提督をしていた頃にいた二人は挨拶だけして、あとはすぐに引っ込んでしまう感じだったからなぁ。上が違えば、艦娘たちも違うようだ。実に新鮮だ。
でもこれも鬼が怖いからだろう。可哀想に……。
「(ねぇ、なんか哀れまれてる気がするんだけど?)」
「(大方、噂を鵜呑みしている阿呆じゃ。流すが吉え?)」
「ちょっと質問があってね。君たちから見て、鬼月君はどういう提督かな? 勿論、ここでの話は彼には言わないし、盗聴器等の心配も無用だよ」
さぁ言ってくれ! 存分に奴の不満をぶち撒けるんだ!
「どういうねぇ……そりゃあ、私だって最初は何コイツって思ってたけど、いい司令官よ。すっごく」
「そうじゃのぅ。妾が大破したせいで任務が失敗した時は、何も言わずに一晩中妾のことを抱きしめてくれていた。何でも『お前が生きていることを確かめたい』とか言っておったわ……ほほほほほ♡」
「はひふへほ?」
「司令官ってそうなのよね。私たちが落ち込んでるといつもそう。私たちは私たちで不甲斐ないって思ってるのに、向こうは呼吸していてくれるだけで嬉しいなんて真面目に言うんだもん」
「愛されているとは、まさにこのこと。よって妾たちはあやつを憎く思ったことはない。強いて言えばケッコンカッコカリをしてくれぬことくらいじゃよ」
「…………ケッコンしたいの?(裏声)」
「したいでしょ、普通。こんなに愛情深く接してもらってるのに、ケッコンしたくない艦娘なんていないと思うけど?」
「そうじゃのぅ。なのにあやつは妾たちが湯浴みを共にしても、褥を共にしても、これっぽっちも妾たちを襲ってはくれぬ。そこにだけは不満はあるぞえ?」
「な、なんだって!!!? 君たち、それは本当なのか!!!?」
「ここにいる艦娘ならみんなしてるわよ?」
「あやつの愛情は底知れぬ。故に鬼じゃ……愛の鬼と書いて愛鬼(あいき)かのぅ♡」
これは確かな証言だ!
大丈夫だよ、君たち。もうそんなことを強要されることは今日から無くなるから!
「因みに君たちはそのことについてどう思う?」
「そのこと?」
「だからほら、風呂とか、一緒に寝るとか」
「ああ、それね。そんなの嬉しいに決まってるじゃない」
「…………嬉しいにょ?(裏声)」
「あやつは全く手を出さぬがな。こちらとしてはいつでも抱けと申しておるにもかかわらず、じゃ」
「…………抱かれたいにょ?(裏声)」
「だからここにいる艦娘はみんなそう思ってるわよ。みんな司令官のこと好きだもの」
「左様。好きな時に有給休暇はくれる、こちらの話や妹たちの面倒も見てくれる、料理の腕もある、まさに有能とはこのことじゃ」
「…………」
「そんなに心配なら青葉さんのとこにでも行けば? 青葉さんが鎮守府中にある監視カメラの責任者だから」
「ただし、青葉めに迂闊なことは言わぬ方が良いぞ?」
「分かった。ありがとう」
「(満潮、どちらに賭けるかの?)」
「(青葉さんがキレるに羊羹1本)」
「(なぬっ!? それでは賭けにならぬではないか!)」
「(普通に一緒に食べればいいだけじゃない……)」
「(それもそうじゃのぅ♪)」
◇◇◇◇◇◇
おかしい。
おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい!
何なんだ!? ただの聖人君子なんだが!?
話が違う! どこが鬼だ!
聖母マリアやエロースやカーマも思わず頬を赤らめるくらいに愛情の権化みたいな人間じゃないか!
おいコラ待てコラ陸羽コラ。
早計は良くない。私は此度の査察官。ここの状況を見るのが任務だ。
青葉君ならきっと包み隠さず吐露してくれるだろう。
「査察官殿、お疲れ様です!」
「お疲れ様です。こちらで何をご覧になられたいのでしょうか?」
出迎えてくれたのは青葉君に加えて大天使と名高い古鷹君か。
どこの古鷹君も優しいなぁ。癒やされるなぁ。私が提督の頃にいた古鷹君はシスコンだったのか、何かにつけては妹の加古君と一緒にいたがったが、ここの古鷹君は違うようだ。
十艦十色だなぁ。
「ここでは鎮守府中の至るところにある監視カメラの映像が見れるんだね?」
「はい。敷地内ならどこにでも、トイレにもお風呂にもあります。皆さんそれには了承済みですし、視覚的に計算して皆さんの裸体等は撮影されません。鎮守府内に不審なことが起きないことが大切ですからね。それに何分皆さん、青葉も含めてアレ(提督大好き)ですから、しっかりと24時間監視してますよ。間違いは起こらないと思いますが、念のため。勿論どんな小さな声も拾えます」
「なるほど。因みに過去の映像はあるかな?」
「提督のご命令でこれを導入した3年前から今まで全ての記録が保存してあります」
「なら今から1か月間前の鬼月君の寝室の映像を出してもらえるかな?」
「……何故ですか?」
「念のためさ」
流石に仲間が酷いことをされている映像は見せたくないんだろうね。でも大丈夫だよ。それを証拠に鬼を牢獄に閉じ込めてあげるから!
「少々お待ちください」
「ああ、待ってるよ」
「(落ち着いてね、青葉。アホにこっちからまともに付き合う必要ないから)」
「(青葉は落ち着いてますよ、古鷹。ただ青葉たちの司令官をただの噂で鬼扱いし、それには飽き足らずそういうことをしてると決めつけてるど畜生に青葉がいちいち腹を立てるという非効率なことする訳ないじゃないですか)」
「(あはは……)」
「メインモニターに出します」
「ああ」
◆◆◆◆◆◆
おお、ここが鬼のねぐらか。やけに枕元に置いてある恐竜のぬいぐるみが多い気がするが、あれだなあれ……ぬいぐるみで気を逸らさせて『お前が抱き枕になるんだよ!』みたいな展開に持っていくということだな!
てか後輩君。今キュンってしただろ。あれ、君こういうのがタイプ? この前私みたいな人が好みとか言ってなかった? いやまあギャップっていいよね。私の妻も普段優しいのにキャバクラ帰りは暫く口きいてくれないし。
まあ、そもそも私には家族がいるから好まれても困るんだけど―――
『ほら、これが欲しかったんだろ!? さっさと咥え込めっ!』
―――おお、まさにそれじゃないか!
これは―――
『提督、止めてよ!』
『そうよ! こんな時間にこんな大っきいヴァイスヴルスト食べたら太るじゃない!』
―――ちゃんと美味しい方のソーセージかよぉぉぉぉっ!
む、後輩君。なんか露骨にホッとしたね? そういうシチュじゃなくて良かったってことだよね? 決して鬼がロリコンじゃなかったからホッとしてる訳じゃないよね!?
『どんなに食っても艦娘は太らん! 日々それ以上のカロリーを消費しているんだからな! そもそも食べたいのに我慢していたお前たちが悪い! これは罰なんだ!』
『こんなに立派なの見たことないよ……』
『当然だ。父の知り合いのドイツ人に個人的に頼んで作ってもらった物だからな。お前たちだけに与える罰にはいいだろう。ほら、焼いた匂いがそそるだろう!?』
『クッ……イヤッ!』
『俺は我慢される方がもっと不快だ! お前たちはドイツ艦ではあるが、今は俺の大切な艦娘だ!』
『提督……♡』
『ズルいわ……♡』
うわぁ、レーベ君もマックス君も美味そうに食べてる……てか、ソーセージ咥えてる外国美少女っていいなぁ……じゃなくて! そうじゃないくて!
あれ、後輩君? いきなり乙女ポーズなんかしてどうしたの? あ、君も食べたいってこと? しょうがないなぁ、帰りにドイツ料理のお店にでも連れて行くかぁ。
◆◆◆◆◆◆
『提督、ろーちゃんとせっくすしよ♡』
『またお前か。分かった分かったしてやる』
おお! 今度こそ! 今度こそそうだろ!
何も知らない艦娘を粗雑に使い、使いに使い古して、ボロ雑巾のように捨てる瞬間を―――
『えへへ〜、提督のお布団温か〜い♡』
『二人で入ってれば嫌でも温かいだろうさ』
『ん〜、提督好き〜♡』
『そうか』
『うん! あ、好き♡ 好き好き♡ 好き〜♡』
『うるさい。早く寝ろ』
『は〜い♡』
―――寧ろ歳の離れた血の繋がってない良識人の兄と欲望に忠実な妹みたいなシチュじゃないかぁぁぁぁあ!!!!
◇◇◇◇◇◇
「あ、因みにろーちゃんは日本語がまだ不自由で、せっくすイコール寝ることだと思ってます。司令官も青葉たちも最初はその都度訂正していたんですが、一般の方々に我々の会話は聞かれることもないのでもういいかなとなってます。でもそのご様子だと問題有りみたいですね。今後は徹底して訂正します」
「………………うん」
1か月間、鬼は艦娘たちに酷いことをするどころか、実の娘や妹のように接していた。
私ならきっと何回かは欲望に負けていたと思う。
そうか、彼は確かに鬼だ―――
精神力が
―――鬼なのだ。
そうかそうか、つまりそういうことだったんだね。
私としたことが早計だった訳だ。
みんながみんな彼のような鬼(の精神力)になってほしいところだ。
これは是非とも帰ったら提案してみよう!
誤解をしてきた私なりの罪滅ぼしだ!
くぅ、涙で前が見えない!
◇◇◇◇◇◇
「君は素晴らしい提督だ! 何も問題は無かった! これからもこの調子で頼むよ!」
「はっ! ありがとうございますっ!」
うんうん、我が国の未来は明るい。
こんなにも素晴らしい御仁が最前線にいるのだからね。
あれ、後輩君。なんか連絡先交換してない? 私が前に連絡先交換しようと申し出たら機械音痴でスマホは持ってないって言ってたのに。
まあ細かいところはどうでもいいね! 早速帰って提案しよう!
後日―――
「おい、鬼のところに査察行った人。また懐柔されたっぽいな」
「あんだけ泣きながら鬼を絶賛してればなぁ。でも提案内容は悪くなかった」
「鬼を見てきたからこその、あの提案なんだろうな。きっと本人の良心がそうさせたんだろうよ」
『鬼は査察官をも泣かすのか〜……』
より鬼への脅威は増したとさ―――。
読んで頂き本当にありがとうございました!