刑「何? 影が薄くてもキャラが結構強烈だからちょうど良い? やかましいわ! おい安芸! 何で苦笑いしてるんだ!」
刑「はぁはぁ……。ああ、済まなかった。今回は志騎にとっての分水嶺とも呼べる回だ。今回で、志騎はどのような答えを出すのか?」
刑「では第十九話、ご覧あれ」
神樹館を出た三人は志騎にスマートフォンを届けるため、志騎の家へと走っていた。一刻も早く辿り着くために全速力で走っているが、息苦しさなどはまったく感じない。これもきっと常日頃勇者として鍛えてきたおかげだろう。必死に足を動かし酸素を体中に巡らせながら、銀は勇者として鍛えていた良かったと心の底から思った。
そして、三人が前から歩いてくる女性の脇を走り抜けようとした瞬間。
銀の視界に、突然時が止まるかのように動きを止める女性の姿が映った。
「二人共!」
「これって……!」
須美と園子の予感を裏付けるように、大橋の方から巨大な光が立ち上り、無数の花びらが世界を覆いつくす。三人の視界が光に包まれた次の瞬間には、世界は神樹が作り出した結界である樹海と化していた。
「そんな、こんな時に……!」
「どうしたら……!」
須美と銀が樹海化した世界に動揺していると、大橋の方向をじっと見つめていた園子が素早く判断を下す。
「まだバーテックスは見えてない。バーテックスが来る前に、早くあまみんを見つけよう。あまみんのお家があった位置はそんなに離れていないはずだから、変身して走れば一分もかからないはずだよ!」
「もしも、志騎君を見つける前にバーテックスが来たら?」
「その時は私とわっしーがバーテックスの足止めをして、ミノさんはあまみんにスマホを渡してあげて!」
「了解!」
方針が決まったら、あとはもう実行するだけだ。
三人はスマートフォンを取り出して勇者システムを起動し勇者に変身すると、高く跳躍して志騎の家がある方へと走りだす。園子の言う通り、変身した自分達が全速力で走れば志騎の家があった場所までそんなにかからないはずだ。
(志騎……!)
この樹海にいるであろう幼馴染の顔を思い浮かべながら、銀はまるで風を切り裂くような速度で樹海を走り抜けるのだった。
一方その頃、志騎は樹海化した世界で一人行く当てもなく歩いていた。樹海化したという事はもうすぐバーテックスが襲来するという事だろうが、勇者に変身するためのスマートフォンを持っていない自分ではバーテックスが来たとしても戦う事ができない。それに、仮に勇者に変身できたとしてもまたバーテックスに操られて銀達を襲う可能性だってある。なら、このまま勇者に変身せずに樹海をさ迷っていた方が幾分マシかもしれない。
(……いっそ、バーテックスが目の前に現れてくれたら楽なのにな。そうしたら……)
と、死んだ魚のような目で緩慢に足を動かしていると。
「志騎ー!!」
突如自分の名前を呼ぶ声が後ろから聞こえ、振り返ると勇者の姿に変身した銀、須美、園子の三人が自分目掛けて跳躍してくるのが見えた。三人が志騎の目の前まで辿り着くと、息も絶え絶えになりながら銀がほっとしたような笑顔を志騎に向ける。
「はぁ、はぁ……。良かった、ここにいたんだな……!」
「……どうしたんだよ、お前ら」
三人を傷つけてしまった負い目もあり、彼女達から目を逸らしながら言うと銀が何かを握って志騎に突き出した。目を向けてみると、握られていたのは志騎のスマートフォンだった。
「刑部姫がお前の勇者システムに新しいプログラムを入れたんだ! これでもう、お前がバーテックスに操られる事はないって!」
「……刑部姫が……」
性悪精霊の顔を志騎が頭に思い浮かべていると、銀が続けて志騎に言った。
「志騎。あたし達にお前の気持ちは分からない。いや、きっと簡単に分かるだなんて言っちゃいけないんだと思う。あたし達を傷つけちゃった悲しみも痛みも、志騎だけにしか分からないものだから。だから軽々しく分かるだなんて言えない」
「………」
「でも、お前の手を繋ぐ事ぐらいはあたしにもできる。一人が辛いなら、絶対にお前の手を離したりなんかしない。戦う時も手を繋いでいたいっていうなら、手を繋ぎながらでも戦ってやる! まぁ、さすがにちょっと戦いにくくなるかもしれないけど……」
口の中でゴニョゴニョと呟いた後、銀は志騎の顔をまっすぐ見た。例えどんな事態が起こったとしても、もう志騎から目を逸らしたりなんかしないと言うように。
「----とにかく、あたしは決めたんだ。お前の悩みが解決するまで、あたしはお前のそばにいる。だから志騎にも信じて欲しいんだ、あたし達を。……そして何よりも、志騎自身を」
「あまみん……」
「志騎君……」
三人の視線が志騎に向けられ、志騎は無言で銀の顔を見つめる。だがすぐに彼女の顔から視線を外すと、苦し気な口調で言う。
「……無理だ。俺はお前達と一緒に戦えない」
「志騎君……。私達が信じられないの?」
須美の悲しそうな言葉に、志騎は首をふるふると振りながら、
「違う。お前達の事は信じてるさ。銀もきっと俺が本当にそばにいて欲しいって言ったら、いつまでもそばにいてくれるんだろう。……でも駄目だ。それはお前達の優しさに甘える事になる。そうしたらまたお前達を傷つけるかもしれない」
「それは大丈夫だよ~。そのために、刑部姫があまみんの勇者システムを改良してくれたんだし……」
「本当に大丈夫だって言えるのか? もしかしたらバーテックスはまた別の手を使って俺を操ろうとしてくるかもしれない。そんな可能性だって否定しきれないだろ。……俺は、お前達といちゃいけないんだ」
「じゃああなたはずっと一人ぼっちでいるつもりなの?」
そんなのは、あまりに寂しすぎる。今では覚えていないとはいえ、かつて友達が欲しいと言った志騎がそのような目に遭うのは納得できない。
しかしそんな三人の心境など露知らず、志騎は自嘲するような笑みを浮かべながら、
「……それはそれで良いさ。いや、それ以前の話だ。死ねば良いんだよ、俺みたいな奴は」
「----志騎お前、それ本気で言ってるのか?」
ビリ、と空気が張りつめるような感覚がして志騎が銀の顔を見てみると、彼女は傍目からでも分かるほどの怒りの表情を浮かべて志騎を睨んでいた。しかし志騎も彼女の怒りに圧倒される事無く、吐き捨てるように言う。
「本気に決まってるだろ。俺みたいな奴は、死んだ方が良いんだよ」
「お前、ふざけ……!」
「----死んだ方が良いに決まってるだろ!! バーテックスなんだよ俺は!!」
叫ぼうとした銀の声をかき消すように、志騎の怒りの咆哮が樹海に響き渡る。それに三人が目を見開くと、志騎は溜まりに溜まっていた自分の感情を一気に吐き出した。
「バーテックスがウイルスと一緒に、どれだけの人を殺した? どれだけの人の未来を奪った? どれだけの幸せを奪った!? 今だってそうだ!! 神樹様を壊そうとして、この世界を滅ぼそうとしてる! いなくなれば良いんだよバーテックスなんて! 俺も含めてな……!」
血を吐き出すような言葉だった。それほどまでに強烈な自己嫌悪と自己否定が、今の志騎を支配している。家に引きこもっていた志騎に会うために覚悟はしていた銀達だったが、彼の姿に思わず言葉を失ってしまう。
やがて少し冷静になった志騎は再び銀達から顔を逸らし、
「……怒鳴って悪い。だけど、もうこれで良いだろ? 俺の事はもう放っておいてくれ」
と、志騎が三人に背を向けた時。
「……二人共、あれ!!」
突然須美が大橋の方を指差しながら驚愕した表情で叫び、それに他の三人が大橋の方を見てみると、そこには巨大な怪物----バーテックスが樹海化した影響で変形した大橋の上を浮遊しながらゆっくりとこちら側に来ていた。しかし、そのバーテックスの姿に須美だけではなく志騎達も目を見開く。
何故なら、
「どういう事だよ……。あれ、前にあたし達が撃退したバーテックスじゃんか!」
そう。そのバーテックスは四人が初めて戦ったバーテックス----水を操る力を持つバーテックス、アクエリアス・バーテックスだった。何故前に一度撃退したはずのバーテックスが、再び襲来してきたのか。
疑問が全員の頭を支配していた時、一番先に冷静さを取り戻したのはやはりと言うべきか園子だった。彼女は頭の中の疑問を振り払うと、須美と銀に指示を出す。
「今はとにかく戦うよ~! 私とわっしーが援護するから、ミノさんは攻撃をお願い!」
そう言うと、園子はこちらに来るバーテックス目掛けて駆け出し、彼女に続いて冷静さを取り戻した須美も園子の後に続く。銀も二人に遅れてようやく我を取り戻すと、自分の後ろで立っている志騎に顔を向ける。それから困ったように志騎とバーテックスに交互に視線をやると、奥歯を噛みしめて彼に駆け寄り右手にスマートフォンを握らせる。
「と、とにかくあたし達はバーテックスと戦ってくる! 一応志騎はこれを持ってて! 危ないと思ったらどこかに隠れてるんだぞ! ……じゃあ、またあとでな!」
そう言って銀は二人の後に続き、バーテックス目掛けて走り出した。一人残された志騎は銀の後ろ姿を見送った後、自分の右手にあるスマートフォンに視線を落とす。
銀は今、志騎に戦えと言わなかった。本当なら一緒に戦って欲しいはずなのに。きっと自分の願いよりも、今の志騎の状態を案じてくれたのだろう。ここでバーテックスに負けたりしたら、本当に世界が滅びかねないのに、彼女は志騎の事を考えてくれた。
ああ、本当に。
本当に、優しい少女だと思う。
彼女だけではない。
須美も園子も、心の底から誰かの事を思いやれる少女達だと思う。
そんな彼女達だけに、戦わせて本当に良いのだろうか。
この戦いで彼女達が死んでしまったら、自分は後悔しないだろうか。
否、もしも彼女達が死んでしまったら、自分は絶対に後悔する。
だが自分が戦ったら、またバーテックスに操られてしまうかもしれない。
そうなったら、自分が彼女達を殺してしまうかもしれない。
だとしたら、自分は行かない方が良いのでは----。
「……くそっ」
頭をくしゃくしゃと掻きながら、志騎は舌打ちすると右手のスマートフォンを強く握りしめる。
自分がバーテックスに操られてしまうかもしれないという恐怖はある。
それで彼女達を殺してしまうかもしれないという可能性はある。
だが、だからと言って放っておけない。
志騎は迷いを抱えながらも、彼女達の助けになるためにバーテックスへと向かって走り出すのだった。
志騎から別れた三人はバーテックスの真正面に辿り着くと、目の前のアクエリアス・バーテックスを観察する。
姿形は前と比べて変わっていない。恐らく能力も以前と同じだろう。ならば、油断せずに前と同じ戦い方をすれば勝てるはずだ。そう考えて園子が指示を出そうと口を開きかけると、アクエリアス・バーテックスの片方の水球の一部分が歪み出したように見えた。
そして、次の瞬間。
水球の歪みだした部分から超高速で水の弾丸が放たれ、銀にぶち当たった。
「銀!!」
「ミノさん!!」
弾丸の攻撃を受けた銀は大きく吹き飛ばされ、樹海を数メートル転がりようやく止まった。二人は急いで銀の所に向かうと、彼女は仰向けに倒れながら顔をしかめ、
「いてて……。危なかった……。斧で防いでなかったらまともに食らってたよ……」
どうやら当たる直前、銀は攻撃を自分の二つの斧で防いでいたらしい。そのおかげで直撃は免れたらしいが、防御してなお銀がここまで吹き飛ばされるとはどれほどの攻撃力を秘めているというのだろうか。須美と園子が弾丸の威力に戦慄していると、アクエリアス・バーテックスの水球の一部分がまた歪みだしているのが見えた。
「二人共、私の後ろに!」
槍を傘状に変形させ、園子が二人の前に立った直後、水の弾丸が三人に発射された。
弾丸が凄まじい速度で園子の槍に直撃し、あらぬ方向に吹き飛ばされる。一方、攻撃を防いだはずの園子の槍は防いだ際の衝撃でビリビリと震え、槍を握る両手に痛みが走る。
「ぐ、ぐぅうううう~。すごい威力だよ~!」
攻撃の威力も速度も、前回と戦った時に比べて大幅に向上している。さっきは前と同じ戦い方をすれば勝てると踏んでいたが、園子はその考えがどれほど甘いものだったかを痛感し顔を険しくする。
だが、そんな園子の目にさらに信じがたい光景が飛び込んできた。
水球に発生している歪みの数が、さっきよりも増えている。しかもそれは今攻撃を放った水球だけではなく、もう片方の水球にも同じ数の歪みが次々と発生している。三人の目の前で二つの水球に発生する歪みは数を増していき、ついには目では数えられないほどの数にまで増えていく。
「二人共、伏せて!!」
園子が焦った声で叫んだ直後。
数えきれない数の水の弾丸の嵐が、園子の槍を襲った。
「あ、ああああああああああああああああああああああああああっ!!」
まるで巨大な砲弾を次々と受けているような衝撃だった。
弾丸の攻撃を槍で受けるたびに手に激痛が走り、腕の骨が軋むような気がする。槍に弾丸が着弾する轟音で鼓膜が破けそうになり、足は常に力を入れていなければ今にも吹き飛ばされてしまいそうだった。
園子は弾丸の嵐を奥歯が砕けんばかりに噛み締めながら必死に耐えるが、嵐はまったく止む気配が無い。そして両手の痛みが頂点に達しようとした時、須美と銀の二人の両手が自分の槍を一緒に支えてくれるのを感じ取った。
「園子! 大丈夫だ! あたし達がついてる!」
「ここを耐えきって、一気に決着をつけましょう!」
「二人共……うん!!」
三人は懸命に槍を握りながら、弾丸の嵐を耐える。
だが。
三人の必死の抵抗は。
前回よりも進化した
「--------あ」
それは一体、誰の声だったのだろうか。
襲い来る猛攻に、ついに体が限界を迎え体から力が一瞬抜ける。
ほんの一瞬、されど確かに生じてしまった一瞬。
その間に三人の手から槍が無理やりもぎ取られ、三人の体は槍と一緒に空中を舞う事になった。
空中に舞い上げられた三人の体に。
恐るべき威力を持った大量の弾丸が、一気に叩きつけられた。
ドガガガガガガガガガガガガガッ!! と。
耳を塞ぎたくなるような轟音が三人の体を襲い、少女達の小さな体を散々に打ちのめす。
そしてようやく攻撃が終わる頃。
地面には、三人の少女達が虫の息の状態で横たわっていた。
「須美……園子……かはっ……!」
二人の無事を確かめようと銀が苦し気に声を出すが、その口から鮮血が吐き出される。二人の胸がかすかに上下している事から呼吸自体はできているようだが、銀の言葉に反応しないのを見ると体に走るあまりの激痛に声を出す事すらできないのかもしれない。銀自身もどうにか声を出す事は出来ているが、今も気が遠くなりそうなほどの激痛が彼女の体を襲っている。本当ならばすぐに斧を手にして抗戦すべきなのだろうが、それすらもできない。銀が歯噛みしてせめてもの抵抗と言わんばかりにバーテックスを睨みつけるが、当然そんな事を目の前の怪物が気にかけるはずもない。死にかけの勇者にとどめを刺すかのように、アクエリアス・バーテックスが三人にゆっくりと近づいてくる。
が、それを遮るように一つの人影が銀達の前に現れる。
まるで銀達を護るようにアクエリアス・バーテックスと真正面から向き合うその人間の背中を見て、銀は苦し気に呼吸をしながらどうにか声を絞り出す。
「……志、騎?」
「三人共、大丈夫か?」
後ろからではよく分からないが、彼の声には心配そうな声音が混じっている。恐らく彼の顔を真正面から見たら、きっと彼女達の体を心配する志騎の表情が見れた事だろう。まぁ、バーテックスの攻撃でこうして倒れている今の自分達では無理だろうが。
「動けるなら下がってろ。何とかする」
「待って志騎……。あいつは、今までのバーテックスとは違う……!」
「それは今のお前達を見れば何となく分かる。良いから喋るな。あとは任せて休んでろ」
後ろで倒れている銀に良いながら、志騎がアイコンをタップすると腰にブレイブドライバーが出現する。そして別のアイコンをタップして勇者システムを起動する。
『Brave!』
音声と同時に目の前に志騎を勇者に変身させるための光の線で形成された術式が展開し、志騎は両腕を伸ばして頭の上までゆっくりと動かしてから体の前で軽く両腕を交差させる。それから右手を軽く回転させてから顔の横で構えてブレイブドライバーにかざそうとした瞬間、ベルトからあの言葉が響いた。
『Are you ready!?』
ベルトから響いた言葉を聞いた時、志騎の動きが止まる。
いつも何も気にせずに聞いていたその音声が、何故か志騎の耳から離れない。
「----」
銀は刑部姫が志騎の勇者システムに新しいプログラムを入れたと言っていた。それならばもう、志騎がバーテックスに操られる事は無いだろう。それで銀達を傷つける事ももうないはずだ。
だが、もしも。
バーテックスの力が、刑部姫の想定以上に強かったら。
バーテックスが、自分達の思いもよらない方法で志騎を操ろうとしてきたら。
そうなってしまったら、自分は本当に銀達を殺してしまうかもしれない。
今度こそ自我を取り戻す事無く、心までバーテックスになってしまうかもしれない。
それを分かっていてなお----自分は、勇者として戦えるのか?
迷いと不安が志騎の心を支配し、スマートフォンを握る手がカタカタと震える。
しかし、迷っている時間などない。志騎は奥歯を噛みしめると、迷いを誤魔化すように叫ぶ。
「変身!」
そして、スマートフォンがベルトの装置にかざされる。
すると音声が鳴り、術式が志騎の体を通過して志騎は勇者へと変身----。
『Error』
しなかった。
「はっ?」
ドライバーからいつも聞きなれた音声は発せられず、それに志騎が思わず間抜けな声を上げてしまった直後、志騎の前に展開されていた術式が消滅した。
「そんな、何で……!」
突然の現象に志騎は驚愕で目を見開きながら再度スマートフォンを操作すると、再び目の前に術式が展開され音声が鳴り響く。
『Are you ready!?』
「変身!」
『Error』
が、またスマートフォンをベルトにかざしても結果は同じだった。術式はまるで志騎を変身させるのを拒むかのように目の前から消滅してしまう。恐らく再度繰り返しても、結果は同じだろう。
「何でだよ……! 何で変身できないんだ!!」
このまま変身できなければ、銀達は本当に殺されてしまう。しかし、どうして変身できないのか理由が分からない。志騎の頭が混乱に支配されていると、アクエリアス・バーテックスの体の部分に黒い太陽のような紋章が浮かび上がる。その瞬間、
「ぐ、ぐあああああああああああああああっ!!」
志騎の頭を凄まじいほどの激痛が襲う。その痛みは、前にピスケス・バーテックスが志騎を操ろうとした時に感じたものを同じだった。つまり今度もバーテックスは、志騎を操ろうとしているのだ。激痛に頭を抑えながら志騎はどうにかバーテックスからの干渉をはねのけようとするが、痛みはまったく消えずそれどころかますます強くなっているような気さえする。
「志、騎……!」
それに銀が志騎の元に駆け寄ろうとした直後、志騎に干渉しているアクエリアス・バーテックスがそれを防ぐように水の弾丸を銀目掛けて発射する。今の傷だらけの銀では、その攻撃を防ぐ事もかわす事もできない。銀の体に、弾丸が情け容赦なく襲い掛かると思われた刹那。
さっきまで倒れていた園子が槍を傘状に展開して弾丸を防ぎ、残りの弾丸を須美の矢が迎撃した。残念ながら矢の威力は弾丸に負けてしまい弾丸を消す事は出来なかったが、矢に衝突した事で方向が逸れた弾丸は四人とは別の方向へと飛んでいく。アクエリアス・バーテックスを睨みながら、須美が銀に叫ぶ。
「銀! 志騎君を連れてここから離れて! 距離が開けば、少しはバーテックスの干渉を防げるかもしれない!」
「で、でもそれじゃあ二人が……!」
二人はどうにか戦闘行動を取れているように見えるが、はっきり言ってそれは単なるやせ我慢に過ぎない。その証拠に園子の両腕と須美の弓にかける指から今も血が流れているし、呼吸も荒い。いつ倒れてもおかしくない二人を置いて、志騎を連れて離れるなど銀にはどうしても決断する事が出来なかった。
すると、迷いを抱く銀を須美が大声で叱咤する。
「銀!! あなたは、今までずっと志騎君のそばにいたんでしょ!! 幼馴染としてずっと志騎君を見てきたんでしょ!? そんなあなたがそばにいてあげなくてどうするの!! 今彼を助けられるのはあなたしかいないのよ!!」
「須美……」
「ここは私達が絶対に止めてみせるから、あまみんをお願い、ミノさん!」
「園子……」
二人の大切な友人に背中を押され、銀はぐっと唇を噛むと、激痛の走る体に鞭を打って苦しむ志騎を抱えて叫ぶ。
「ごめん二人共、任せる!」
「大丈夫、任せて!」
「早く行って!」
最後に銀は力強く頷くと、志騎を抱えて跳躍していった。須美と園子はそれぞれの武器を構えながら、目の前の巨大な敵を睨みつける。体には激痛が走り、鉛のように重いが、二人の目に宿る力強い光は決して衰えはしない。
「また志騎君を……私達の友達を操ろうとするなんて……! あなた達だけは絶対に許さない!!」
「ここから先は、通せんぼだよ~!!」
それを皮切りにして。
アクエリアス・バーテックスと満身創痍の状態の二人の勇者の戦いが始まった。
志騎を抱えた銀はアクエリアス・バーテックスが見えるギリギリの位置に到着すると、着地して志騎を地面に下ろす。あまりアクエリアス・バーテックスから離れすぎると、須美と園子を助けに入る際間に合わなくなる可能性があるからだ。
しかし、須美と園子の二人も気になるが今一番気にしなくてはならないのは志騎の方だろう。
「志騎、大丈夫か!?」
「が、ぁあああああっ……!」
今の志騎の状態は見るに堪えないものだった。
あまりの激痛に目を限界まで見開きながら頭を抑え、体をまるで胎児のように丸めて口の端から涎が出ている。返事もしないところを見ると、銀の言葉も届いているか分からない。アクエリアス・バーテックスから距離は離したもののバーテックスによる干渉はいまだ続いているのだろう。
銀が不安と心配と焦りが入り混じった目で見ていると、さらなる異変が起こる。
突然志騎の両目に深紅の幾何学模様が浮かび上がったのだ。それを見て、銀は思わず心臓を鷲掴みにされたような不安に襲われる。それは志騎の中のバーテックスの本能が目覚めた時の合図のようなものだからだ。
幸いと言うべきか幾何学模様はすぐさま消えたが、銀に安堵している暇など無かった。志騎の両目の深紅の幾何学模様は現れたり消えたりと点滅を繰り返し、銀にはまるでそれが志騎の意識が塗りつぶされていく証明のように見えてならなかった。
「志騎、駄目だ……! バーテックスなんかに負けちゃ駄目だ!!」
しかし銀の激励も空しく、志騎は彼女の声に答えずただ地面をのたうち回るだけだった。
一方、バーテックスの干渉を受けている志騎の人間としての精神は崩壊寸前となっていた。
「あ、あああああああああああああああああああああああああああっ!!」
頭はまるで割れるように痛く、誰の声も届かない。一瞬でも気を抜いてしまえば、自分の中のバーテックスの本能に飲み込まれてしまう。そんな恐怖の中、志騎は必死に痛みに耐えていた。
だが、それももう長くは持ちそうになかった。
頭の痛みもそうだが、原因はそれだけではない。
志騎を苦しめるもう一つの原因。それは----。
(これは……記憶、なのか……?)
志騎を苦しめているのは、物理的な痛みだけでは無かった。
今志騎の精神には、過去の歴史のようなものがなだれ込んできていた。
時代や場所はバラバラで、中には明らかに四国以外の国の光景もある。
しかしそれらには一貫して共通しているものが一つだけある。
それは、人間の『悪意』だった。
人間同士が憎み合い、殺し合い、傷つけ合う歴史。今志騎の頭には、有史以来人間が生み出してきた無数の悪意の記憶が叩きこまれていた。
剣で互いを傷つけあう人々がいた。
銃で相手を撃ち殺す男がいた。
自分の子供の首を絞める母親がいた。
空から降り注ぐ無数の爆弾で壊される街があった。
凶悪な爆弾の威力で死に絶える人々の姿があった。
全身が焼きただれ、水を求めながら死んでいく無辜の人々の姿があった。
自分ではない誰かが傷つく姿を肴にして笑いながら酒を飲む、豪奢な服に身を包む人間がいた。
自分達の歪んだ願望を満たすために、女を嬲り犯し殺す男達がいた。
集団で一人を殴り蹴り嘲笑う少年達の姿があった。
自分達の利益のために、嘘偽りが混じった情報を流す者達がいた。
自分では正義だと思い込んで、ネット上で誰かを非難中傷する顔のない誰かがいた。
(これが……こんなのが、人間なのか?)
自分の精神になだれ込んでくる悪意に満ちた人間達の姿を見て、志騎は思う。
こんな、見ているだけで吐き気を催すような生き物が、今まで自分達が必死に護ってきた人間の本当の姿だと言うのか。
こんなものを護るために、銀達は傷ついてきたというのか。
するとそれに応えるように、どこからか声が聞こえてきた。
とても優し気に聞こえるのに、何故か人間という存在を見下すような冷たい響きを伴っている。
その声が、志騎の心をまるで毒のように侵食する。
----そうだ。それが人間だ。
少し進化しただけで、自分達は最も優れていると思いあがっているくだらない生き物。
他の生き物より進化した知能は自分以外の存在を傷つけるために。相互理解などせず、同族であろうとも自分の利益のためならば蹴落とす事もためらわない薄汚く生きるに値しないものの名前。
----そんなものに、存在している価値などあると思うか。
----そんなもののために、戦う必要などあるのか。
----お前に命じるのはただ一つ。
殺せ。
コロセ。
すべてを殺せ。
目に映る人間が、この世から全て消えるまで----。
(……ああ、ソウダ。コロソウ)
どうせバーテックスが襲来しなくても、人間達は互いを憎み合い、傷つけ合い、最後には自分達もろとも全てを滅ぼしていただろう。人間とは、その程度のくだらない生き物だ。
だったら、今ここで自分が彼らを殺しても何も変わらない。
最後には全て消えてしまう命なら、今殺しつくしても結果は同じだ。
ならば---今ここで殺してしまった方が良いだろう。
殺そう。コロソウ。コロシツクソウ。
メニウツルスベテガ、コノヨカラキエテナクナルマデ。
イマイキテイルスベテノニンゲンノイノチノトモシビガ、キエルマデ。
ナゼナラソレガ、ジブンノウマレタイミナノダカラ----。
彼の精神になだれ込む人間の闇の歴史が、少年の心も記憶も全て暗闇に閉ざし、少年が完全にバーテックスと化してしまうと思われた時。
声が、暗闇に響いた。
「----志騎!!」
直後、暗闇に覆われていた志騎の心に一筋の光が差した。それに気が付いた志騎が暗闇に閉ざされていた自分の心の中からゆっくりと現実の世界に意識を戻すと、彼の目の前には自分の右手を必死で握る銀の姿があった。志騎の右手を握る彼女の両手は、柔らかくて暖かかった。まるで、自分の闇に閉ざされかけていた闇に差した一筋の光のように。
「……銀……」
「志騎! 良かった……! 返事が全然無かったからもう駄目かと思った……!!」
返事をした志騎に銀は安堵の息を漏らすが、まだ油断はできない。その証拠に志騎の両目にはまだ深紅の幾何学模様がうっすらと残っている。まだ志騎がバーテックスに操られてしまう可能性は残っているのだ。ここで気を抜く事は許されない。
銀が必死に志騎の手を強く握っていると、ようやく意識を取り戻した志騎が苦しそうに口を開く。
「銀……ここから、離れろ……。ここにいたら、駄目だ……」
「嫌だ!!」
しかし志騎の警告を銀は真正面から却下した。そればかりか、志騎の右手を握る手の力をさらに強くする。それに志騎が戸惑うと、銀は志騎の顔を真正面から見据えて叫ぶ。
「バーテックス・ヒューマンだとか! バーテックスを殺すための兵器だとか! そんな事はどうでも良い!! 良く聞けよ志騎! お前はあたし達と同じ勇者で、あたしの大事な幼馴染だ!! だから例え何があっても!!」
叫びながら銀は、血に濡れた両手で志騎の手をさらに強く握った。
「----この手だけは、絶対に離さない!!」
「--------」
銀の必死の叫びが、願いが、バーテックスの本能に支配されかかっていた志騎の心に響く。
直後。
『志騎』
目の前の少女の優し気な声と共に、志騎は少女と過ごしたささやかだけれど温かな日常を思い出す。
彼女に手を引かれ、近所を日が暮れるまで走り回った事もあった。特に変わったものなどは無かったはずなのに、何故か彼女と一緒に走り回るだけで楽しかった事は覚えてる。
子守を頼まれ、彼女と苦労しながらも弟をあやした事もあった。自分の腕の中で、笑顔を浮かべながら自分に小さな手を伸ばしている赤ん坊の姿に口元を綻ばした事は今でも覚えてる。
神樹館の遠足で、彼女と一緒にお弁当を食べた事もあった。いつもは見ない風景を見ながら笑顔の彼女と食べるおにぎりは、何故かいつも食べるおにぎりよりも美味しかった事を覚えてる。
こうして思い出すだけでも、彼女との思い出は本当に楽しかった。
だけど楽しかったのは、彼女と過ごした思い出だけではない。
『志騎』
再び志騎の頭に、女性の声が響く。しかしその声の持ち主は幼馴染の少女のものではない。今まで自分を育ててくれた、自分達のクラスの担任の女性、安芸のものだ。
安芸と二人で過ごす生活はそこそこ大変だったが、彼女は懸命に自分を育ててくれた。だから自分は例え親がいないと聞かされても、疎外感を感じる事は無かった。
何か新しい事を覚えて彼女に伝えるたびに、安芸は小さく嬉しそうに笑って自分の頭を撫でてくれた。その時に感じた手の暖かさは今も覚えている。
昔彼女と一緒に夏祭りに行って花火を見ていた時、疲れのため途中で眠ってしまった事がある。次に目を覚ました時、自分は彼女の背負われて家に帰っている最中だった。あの時の彼女の背中の暖かさと心地よい揺れに、再び眠りこけてしまったのは今では良い思い出である。
そして六年生に上がって勇者となり、須美と園子と友達になった。最初はあの二人に馴染めるかと不安だったが、今では大切な友人である。照れくさくて言いずらいが、彼女達と出会えて本当に良かったと心の底から言える。
こうして考えてみると、彼女達からは本当に色んなものを受け取っていたのだとつくづく思う。
いや、彼女達だけではない。
今まで自分が出会ってきたたくさんの人達。彼らから受け取ってきたあらゆるものが自分の血肉となり、自分はこうして生きている。
否、きっと自分だけでは無いだろう。
この四国に生きる全ての人達が、自分以外の人達やその人達が紡ぐ繋がりから様々なものや想いを受け取り生きている。そして受け取った人達はまた別の繋がりを作り出し、そこから生じた想いをまた別の誰かが受け取り、また繋がっていく。
それが生きていくという事。
それができるのが、人間という生き物。
(----ああ、そっか……)
志騎がそれを悟った直後、視界が切り替わる。
そこは、暗闇に満ちた空間だった。そんな寂し気な空間の中で志騎は一人佇んでいる。すると、誰かが背後からゆっくりと歩いてくる気配を感じ取った。志騎が振り返ると、そこに立っていたのは須美だった。しかし志騎にはそれが須美ではないと一目で分かった。須美の姿をしたその何かは無感情な瞳で志騎の顔を見据えると、彼に問う。
「----どうしてあなたはバーテックスと戦おうと思ったの? 命を懸けてこの国を護りたいっていう、義務感のために?」
そう尋ねてから一歩踏み出して志騎に近づくと、目の前の何かの姿が須美から園子の姿へと変わる。
「それとも、勇者になって戦うのは名誉な事だってたくさんの人達に言われたから?」
そして再度志騎との距離を詰めると、園子の姿がまた別の少女のものに変わる。
しかし変化した少女の姿は、志騎が今まで出会った事が無い少女のものだった。後ろで軽くまとめられた黒髪を背中まで伸ばし、どこかの学校の制服の上から赤い上着を身に纏っている。あと、これは志騎の気のせいかもしれないが----目の前の少女の顔立ちは、何故か自分や刑部姫と似ているような気がした。
「----それとも、自分は勇者だって、誰かに認めてもらいたかったから?」
どこまでも静かな声を出す少女を前にして、志騎は真正面から少女の顔を見据える。
----人間が心に悪意を持った生き物だという事は昔から分かっていた。
人間が昔から争いを起こしてきた生き物だという事は分かっていた。
誰かに教わらなくとも、自然と理解していた。
だけど。
それだけの生き物ではないという事を、彼女達から教えてもらった。
誰かを愛し、思いやる心を持つ生き物なのだと教えてくれた。
結果、志騎の心にはバーテックスにはない、強い想いが芽生えた。
今まではその想いの正体に気が付かなかったが、今なら分かる。
その想いを胸にして、志騎は少女へと叫ぶ。
「----違う。俺が戦っていたのは義務感でもなければ誰かに認めてもらいたかったからでもない! 俺が戦っていたのは----!!」
志騎の言葉と共に、意識が暗闇の空間から現実へと帰ってくる。頭が凄まじい頭痛に襲われる中、志騎は奥歯を砕けんばかりに噛み締めると、銀の手を強く握り返し喉の奥から咆哮を上げる。
「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
空気をビリビリと震わせる咆哮を上げながら、志騎は無理やり自分の中のバーテックスの力を開放。無理やり解放された過剰な力によってバーテックスの干渉が押し返され、次の瞬間力と力の衝突に耐え切れず、バギン!! とガラスが砕けるような音と共にバーテックスの干渉が途切れた。荒い息をつき大量の汗をかきながら志騎が目を開けると、両目にはもう深紅の幾何学模様は無く、代わりに左目に青い幾何学模様がはっきりと浮かんでいた。
「志騎、大丈夫か!?」
「……ああ、もう大丈夫だ。……ありがとな、銀」
そう言いながら志騎は銀の頭をくしゃくしゃと撫でる。突然の行動に銀は驚きながらも、ようやく自分の幼馴染が返ってきた事にくしゃっと笑みを浮かべた。が、二人の雰囲気を引き裂くように何かが二人の近くまで飛ばされてきた。それの正体を見て、銀が悲鳴じみた声を上げる。
「須美!! 園子!!」
飛んできたのは体中に傷を負い、鮮血を流す須美と園子だった。銀の呼びかけに二人がうっすらと目を開け、銀のそばで目を見開いている志騎の姿を見ると園子がほっとしたように言う。
「あまみん、良かった~……。元に、戻ったんだ~……。心配、したよ~」
「ええ、良かったわ……。本、当に……」
しかし二人の体からすぐに力が抜け、二人は気を失ってしまった。こんなになるまで、彼女達は志騎と銀を護ろうとしてくれたのだ。彼女達の想いに、志騎は唇を強く噛みしめる。
そして二人が飛んできた方向を見てみると、そこにはアクエリアス・バーテックスが自分達目掛けて向かってきているのが見えた。前までは神樹の破壊を優先していたのに、今はまるで四人を先に始末しようとしているかのようだ。前に撃退された事を根に持っているのか、それとも邪魔者は先に排除した方が良いと判断したのか。まぁ、バーテックスの行動パターンから考えて、後者だろう。彼らに根に持つなどという感情は存在しない。
「銀、二人を頼む」
志騎は短く言うと、アクエリアス・バーテックスの前に立ち塞がる。銀は慌てて、
「ま、待てよ! いくら何でも一人じゃ……。それにお前今変身できないんだろ!?」
「変身できるとかできないか関係ない。例え手足がもがれても、こいつはここで止める」
「志騎……?」
銀は思わず戸惑いの表情を浮かべながら志騎の背中を見る。何故かは良く分からないが、今の志騎はさっきまでの志騎とは違うと感じたのだ。あえて言うならば----そう、迷いのようなものが消えたように銀には見えた。
すると銀の疑問に気付いたように、志騎が口を開く。
「分かったんだ。俺の戦う理由が」
バーテックスを睨みつけながら志騎はそっと自分の胸に手を当てる。まるで自分の戦う理由とも呼べる芯を確かめるように。
「俺が戦っていたのは、義務感や使命感のためじゃない。須美や園子には悪いけど、俺はそんなもののために戦えない。……まぁ罪悪感はあるけど、それだけじゃない。俺が戦っていたのは、四国で生きている人達を護りたいという想い……」
そして、告げる。
自分の心に生まれた彼の、彼だけの戦う理由。
それは。
「----ああそうだ。人を愛しているから、俺は戦ってるんだ!!」
すると、その意志に応えるようにポケットに入っていたスマートフォンが振動する。スマートフォンを取り出すと、勇者システムのアプリが強く発光していた。それを確認した志騎が画面に表示されているアイコンをタップすると腰に光と花びらと共にブレイブドライバーが出現する。さらに続けて別のアイコンをタップすると、スマートフォンから力強い音声が発せられる。
『Brave!』
音声が発せられた直後、目の前に光の線で描かれた不思議な図形の術式が展開される。志騎が変身の時の構えを取ってから両腕を眼前で交差させると、ドライバーから再びあの音声が発せられる。
『
----よくよく考えてみれば、さっきまでの志騎はずっと自分から逃げていたのだろう。
何故ならば、自分がバーテックスだと認めるという事は、
けれど、真実から逃げようとしても自分がバーテックスだという事実は生きている限りずっとついて回る。そして逃げている間に銀達が傷つき、人が死ぬというならば。
自分は、もう自分がバーテックスという事実から逃げない。
バーテックスが犯した罪も、奪った命の重さも全部背負って前に進む。
きっとそれが----天海志騎という
スマートフォンを握る手をくるりと回し顔のすぐ近くまで持ってくると、少年は力強く叫ぶ。
それは、覚悟を決めた証。
例えこの先どのような事が待ち受けていたとしても、もう自分から逃げないと決めた誓いの言葉。
「----変身!!」
言葉と共にスマートフォンがドライバーの装置部にかざされ、音声が鳴り響く。
『Brave Form』
音声が鳴り響き、術式が接近して志騎の体を通過する。瞬間、身に纏う服が勇者装束に変わり、志騎は勇者へと変身を遂げた。そして目の前のアクエリアス・バーテックスを見据えながら腰のブレイブブレードを静かに引き抜くと、柄を力強く握りしめてアクエリアス・バーテックスへと勢いよく走りだした。
次回、志騎にある変化が起こります。
ヒント。これらのフォームに共通する事は?
ジーニアス
アルティメット
ハイパー
サバイブ
※数が多すぎるので、これらは一部になります。