天海志騎は勇者である   作:白い鴉

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今話は初戦闘、および志騎の勇者システムの力の一端が出る話になります。


第二話 初戦闘

「いつつ……」

 ガララ、と瓦礫を押しのけながら銀はどうにか立ち上がった。彼女の体には、先ほど志騎と出会った時よりも傷が少しばかり増えている。

 現在、三ノ輪銀、鷲尾須美、乃木園子の三人はバーテックス相手に苦戦を強いられていた。三人はこれが初戦でまだ戦い慣れていないというのもあるが、バーテックスの能力が三人の予想以上に強力なのも理由の一つだった。

 須美の主要武器である矢はバーテックスに対しては威力が足りず、銀の斧は威力は高いもののバーテックスの持つ豊富な遠距離攻撃の前では中々近づけない。園子は色々な状況に対応する事の出来る槍が武器であるものの、強力な攻撃の前では防御一辺倒になってしまい中々攻撃にうつれていない。

 つまり、三人はピンチになりかけていた。

 そしてバーテックスは立ち上がった銀に気づいたのか、触覚にある水球から再び小さな水球による攻撃を繰り出そうとする。それに銀が両手に持つ斧を構えて攻撃に身構えたその時。

「はぁああああああああああっ!!」

 ザン! と声を上げながら突然勇者らしき誰かが手に持った剣らしき武器でバーテックスの胴体部分を切り裂いた。不意打ちを食らったバーテックスの胴体には斬撃の跡が残されるが、やはりすぐに再生し元に戻る。

 それを見た銀は一瞬同じ勇者である須美か園子が助けてくれたのかと思ったが、すぐに違うと気づいた。須美の武器は弓矢だし、園子の武器は斬撃にも使える槍だがさすがに剣と見間違えるほど短くない。つまり、銀の知る中で剣を武器にする勇者はいない。

(じゃあ、一体誰が助けてくれたんだ? もしかして、新しい勇者? でも先生は、あたし達以外の勇者がいるなんて言ってなかったし……)

 そんな事を思っていると、助けてくれた誰かが自分の目の前に降り立ってくる。勇者は胴体部分を再生したバーテックスを眺めながら、落ち着いた声音で一人呟く。

「やっぱり再生するか……。あれを倒すとなると、もうちょっと威力のある攻撃が必要か……」

 その声と、目の前の勇者の姿を見て、銀は思わず大声を上げた。

「志騎!?」

「ん? ああ、銀か」 

 そんな事を言いながら、先ほど助けた幼馴染の少年----天海志騎は銀の方を見た。

 銀の目の前にいる志騎はいつもの彼の姿とは違っていた。彼の特徴とも言える水色がかった白髪はいつも通りだが、その服は神樹館の制服ではなく、あちこちに鎧が付けられた純白の戦装束になっている。右手には機械でできた片刃の剣が握られていた。銀は志騎に駆け寄ると、思い浮かんだ質問をまるで機関銃のように志騎に浴びせる。

「お前、どうしてここに!? 隠れてたんじゃ……! ってか、その恰好、もしかして志騎も勇者だったのか!? でも志騎は男だし……勇者はあたし達だけのはずだし……ああもう! 一体何がどうなってるって言うんだよー!」

 叫びながら髪の毛をぐしゃぐしゃと掻く銀を半眼で見ながら志騎はため息をつくと、

「そんな事より、今はあのバーテックスってやつを倒さないといけないんだろ? 俺とお前だけじゃ手が足りない。確か乃木と鷲尾がいたよな? あいつらは?」

「え、えっと……園子はさっきあいつに吹っ飛ばされて……鷲尾さんは……」

 そう言いながら辺りに視線を巡らせていた銀だったが、突然何かを見つけたのかこわばった表情を浮かべる。その方向に志騎も視線を向けてみると、そこには呆然と立ちすくんでいる須美の姿があり、しかもその彼女に向かってバーテックスが水球を発射しようとしているのが見えた。

「あいつ、何ぼさっとして……!」

「危ない!」

 それに気づいた銀が須美に向かって疾走し、彼女を押し倒してどうにか攻撃を回避する。

「動いてないとあぶな……!」

「銀! もう一発来るぞ!」

 しかし時すでに遅く、バーテックスから放たれた水球が銀の顔を直撃した。

「三ノ輪さん!」

 須美の声が響き渡った直後、銀ががばりと体を起こす。彼女の顔は先ほどの水球によって閉じ込められてしまっている。銀はどうにか水球を顔から外そうともがいているが、その彼女を狙ってバーテックスが再び水球を発射しようとする。

「させるかよ!」

 志騎が叫んだ直後、まるで志騎の意志に呼応するかのように彼の持つ武器が輝く。その現象に志騎が驚くと、剣の刀身の部分が折りたたまれ、持ち手の部分が軽く折り曲げられる。そして次の瞬間には、剣はまるで銃のような形態に変形して志騎の手に収まっていた。

「これ、銃にもなるのか……!」

 しかし銃が変形した直後、バーテックスから水球が銀と須美に向かって発射される。志騎は素早く水球に向かって刀身が折りたたまれた事で出現した銃口を向けると、持ち手にある引き金を連続して引く。純白の霊力で形成された銃弾が銃口から発射され、水球をそれぞれ打ち消した。

 銃弾を次々と発射してバーテックスを牽制すると銀の水球と格闘する須美の元に駆け寄る。

「鷲尾!」

「え、天海君!? ど、どうしてあなたがここに!?」

「細かい説明はあと! それより、これ外せないのか!?」

「だ、駄目! これ、弾力があって……!」

 驚きながらも説明してくれた須美の言葉を確かめるように志騎も水球に手を当ててみると、確かに弾力があり簡単に水球を取り外せない。こうなったら、イチかバチかで二人の腕力でこいつを外してみるか、と志騎が思った時だった。

 呼吸ができず苦しんでいた銀が、いきなりくわっ! と目を勢いよく見開く。

「えっ……?」

 須美が声を上げた次の瞬間、銀は口を大きく開けてなんとゴク、ゴクと水球の水を飲み始めたのだ。普通ならばすぐに限界が来そうだが、身体能力が強化されている影響か銀はごくごくと水を飲み続け、彼女の呼吸を阻害していた水球もだんだんと小さくなっていく。

「ええー……」

「嘘だろ、こいつ……」

 須美と志騎は目の前の光景に、呆然とした声を上げるしかなかった。そんな二人の背後に、バーテックスの攻撃で意識を失っていた園子が降り立ってきた。

「ミノさん、大丈夫?」

 園子が声をかけると、銀は「ぷはぁっ!」と声を上げながらついに水球を飲み干した。

「全部飲み干した……?」

「どんな胃袋してんだお前……」

 驚いている二人の前で、銀は口元を拭いながら、

「はぁ……神の力を得た勇者にとって、水を飲み干すなど造作もないのだ!」

 と威勢よく言うが、直後に口元を抑えて、

「う……気持ち悪い……」

「うん、だろうな」

 当然の結果に志騎は幼馴染を見ながらそう言った。

「ミノさんすごーい! お味は?」

「え、そこ気にするとこなのか?」

「最初はサイダーで、途中でウーロン茶に変化した……」

「味あんの?」

「不味そ~。あれ? 天海君だ~。やっほ~」

「いや、やっほ~じゃねぇから。てか俺がここにいる事スルーか?」

「……? あ、そういえばそうだね~」

「………」

 ゆったりとした園子のペースに、志騎は思わず額を抑えた。するとようやく現状を思い出したのか、須美が表情を引き締めた。

「そうだ! そんな事より、バーテックス!」

 須美が声を上げた瞬間、バーテックスが四人に向かって攻撃態勢にうつるのが見えた。右の巨大な水球に、力が溜まっているのが見える。

「またさっきのでかいやつを撃つ気だ!」

「鷲尾! 先に仕掛けられないか!?」

「駄目……! 私の矢じゃ、あいつにダメージを与えられない……!」

「うーん……私の槍でも、あれはちょっと厳しいかも……」

 銀の斧では届かず、須美の矢ではダメージを与えられず、園子の槍では防ぎきれない。かと言って志騎の銃でも、あれを防ぐには威力が足りないだろう。

「くそ、どうする……!?」

 四人がバーテックスの攻撃に足踏みをしていた、そんな時だった。

 

 

 

『ふふん、どうやらピンチのようだな、志騎!』

 

 

 

 本日二回目になる、姿なき声がその場に響き渡った。

「わっ!?」

「え、な、何!?」

「い、今の声どっから!?」

 園子、須美、銀の驚いた声が響く中、志騎は苛立ち交じりにスマートフォンのアプリをタップ。するとそれに合わせて四人の前に自称『天才美少女精霊』、刑部姫が花びらを舞い散らせながら出現した。

「うわっ、なんだこいつ!?」

「わ~! この子可愛い~!」

「も、もしや物の怪の類!?」

 目を見開いて驚く銀、目をキラキラと輝かせる園子、何やら変な勘違いをして身構える須美と反応は三者三様だった。それに刑部姫はふっと鼻で笑いながら、

「初対面の人間にしては不躾だな。育ちが知れるぞ、三ノ輪銀。なかなか良い目をしているな。褒めてやる、乃木園子。誰が物の怪だ、殺すぞ鷲尾須美」

 と、三人に向かってそれぞれ言う。どうでも良いが、志騎に対しての反応と比べると若干棘があるのは志騎の気のせいだろうか。特に物の怪呼ばわりされたせいだろうか、須美に対しての対応がかなり厳しい。そもそも殺すぞとは、自称とはいえ『天才美少女精霊』が言って良い言葉なのだろうか。さすがの三人も刑部姫からそんな言葉を言われるとは思っていなかったのか、三人共呆気にとられた表情を浮かべている。

 しかし今はそんな事にいちいちツッコんでいるような場合ではない。志騎は今にも舌打ちせんばかりに刑部姫を睨みつける。

「何の用だよ、今こっちは忙しいんだが」

「む、そうだったな。志騎! お前のスマートフォンの中にある『Zodiac(ゾディアック)』のアプリを押せ!」

 そう言われ、志騎はスマートフォンを取り出すと『Zodiac(ゾディアック)』のアプリを押す。すると画面に十二ほどのアイコンが一斉に表示された。

「その中の『Cancer(キャンサー)』ってアプリを押してベルトにかざせ! 早くしろ!」

「ああもう、分かったよ!」

 バーテックスの攻撃にさすがの刑部姫も焦っているのか、その声には焦燥の色がある。志騎は言われた通り『Cancer』のアプリを押すと、スマートフォンから女性の機械音声が流れる。

『キャンサー!』

「し、志騎! なんか良く分からんけど早く!」

 銀の声にバーテックスに目を向けると、そこには今にも攻撃を放とうとしているバーテックスの姿が目に入った。

「くそ、間に合えよ!」

 志騎は焦りながらも、言われた通りにスマートフォンをベルトにかざす。

 と、それと同時にバーテックスから強力な高圧水流が放たれた。園子が三人の目の前に立ち槍をまるで傘のように変形させ、攻撃を防ごうとするが、これほど強力な攻撃だと吹き飛ばされてしまう可能性が高い。

 そしてついに高圧水流が迫り、園子の防御もろとも四人を吹き飛ばす。四人全員の脳裏にそんな未来がよぎった時、異変が起こった。

 四人に迫っていた高圧水流が突然あらぬ方向に弾かれ、まったく別の方向に飛んで行ったのだ。弾いたのは、園子の槍ではない。槍を握る手にまったく衝撃が伝わっていないので、それは間違いではない。

 高圧水流を弾いたのは、空中に浮かぶ奇妙な形をした板のような物だった。それと同時に、志騎のベルトから再び女性の機械音声が発せられる。

『----キャンサー・ゾディアック!』

 よく見てみると、志騎の周りにも同じようなものが五つふよふよと浮かんでいる。目の前の板を呆然と見ながら、銀が口を開く。

「志騎……これってお前が……って、お前姿変わってないか!?」

「あ~、本当だ~!」

「え……?」

 銀と園子の反応に志騎が自分の姿を確認してみると、確かにその姿は先ほどと変化していた。

 純白を基調にした先ほどの姿とは違って赤色を基調にしたものになっており、服もさっきと比べてやや鎧の比重が多くなっている他、布面積が多くなっている。まるで防御を重視した衣装のようだ。腰のベルトの装置には、さっき志騎が押したアイコンと同じ紋章が表示されている。

「って、また来る!」

 さらなる追撃を行おうとしているのが、バーテックスの触手から再び水球が四人に向かって放たれる。志騎が自分の武器で迎撃しようとすると、まるで志騎の意思に反応するかのように六つの板が動き水球を防御した。それを見て銀が興奮した声を出す。

「すごい……! ねぇ! これなら攻撃を防ぎながらバーテックスに近づけるんじゃない!?」

 しかしそこで反論をしたのは戦況を見ていた須美だった。彼女は口元に手を当てながら険しい顔で、

「確かにあの水球なら志騎君の板で防げるだろうけど……それでも、やっぱりさっきの水流が厄介ね。もしもあれ以上の攻撃で来られたら……」

「だな。見た感じ、俺の板でもさっきの水流ならどうにか方向を逸らす事ができると思うけど、あれ以上はたぶん突破される。だとすると、やっぱり園子の槍が一番有効だけど……」

 それだと、水流に対する力の問題になってくる。が、そこで志騎はある異変に気付いた。

「なぁ……気のせいかもしれないけど、あいつ俺達から遠ざかってないか?」

「……っ! 本当だわ……!」

 志騎の言う通り、バーテックスは水球を放ちながら四人から段々と遠ざかっていた。とすると、この水球もきっと攻撃のためではない。あくまで牽制をして、志騎達を自分に近づかせないようにするためだろう。須美は樹海の空を見ながら焦った表情を浮かべ、

「分け御霊の数がすごい……! 出口が近いんだわ!」

「出口……大橋か。大橋から出たらどうなるんだ」

「追撃できなくなって、最悪世界が無くなる!」

「マジかよくそ……!」

 さすがにもう二人の言葉を疑う段階ではない。世界が無くなるという言葉に、さすがの志騎も焦った表情を浮かべる。

「はやく追撃を!」

「でも、効かなかったもんね……」

「でも、早くしないと奴が大橋から出てしまうわ!」

「出たら撃退できなくなるもんな……なら、根性でもう一回!」

「落ち着け銀。根性で突っ込んでも策がないならさっきの二の舞だ。他に何か手は……」

 三人が口々にそんな事を言っていると、会話を聞いていた園子が「あっ!」と声を上げた。その声に三人が園子に視線を向けると、彼女は人差し指を立てながらいつもと同じ明るい声で言う。

「ぴっかーんと閃いた!」

 

 

 

 

 

 樹海の中を、バーテックスは悠々と飛んでいた。先ほど志騎達に放っていた水球はもう放たれていない。彼らと十分に距離を離したため、もう牽制の必要すらないと考えたのかもしれない。

 と、そんなバーテックスの後部に突然矢が突き立ち、その箇所にへこみができる。その攻撃でバーテックスは距離を詰めてきた襲撃者に気付いたのか、ゆっくりと後ろを向いた。

「気が付いた!」

「こっち向いたよ~!」

 そこにいたのは先ほど矢を放った須美、そして銀、園子、志騎の四人だった。そして襲撃者達を確認したバーテックスの周囲の蔦が焼けていき、銀が警戒の声を上げる。

「来るぞ!」

「天海君、お願い!」

「了解!」

 志騎が返した直後、バーテックスから水球が次々と放たれる。しかしその攻撃は志騎の意思によって自由自在に動く六つの板によって、次々に防がれていく。そして攻撃を防いでいる間に、須美が矢を次々と放つ。

「志騎、便利ー!」

「人を家電製品みたいに言うな!」

「このまま前進!」

 だが志騎の隙を突くように、バーテックスは左右の巨大な水球の一つから高圧水流を発射する。水球で手がいっぱいの志騎では、攻撃を防ぐことができない。

 とすると、この場で攻撃を防ぐ事ができるのは一人しかいない。

「乃木! 頼む!」

「うん!」

 園子は三人の前に立つと即座に槍を傘状に展開、攻撃を防ぐが凄まじい衝撃が園子を襲う。須美、銀、水球による攻撃を板に任せている志騎は園子の後ろに立つと彼女の背に手を当てる。

「乃木さん大丈夫!?」

「勇者は根性! 押し返せー!」

 銀のその号令で、四人は高圧水流を傘で押し返しながらゆっくりと前に進み出す。

「オーエス! オーエス! オーエス!」

「オーエス! オーエス! オーエス!」

「オーエス! オーエス! オーエス!」

 銀のその掛け声に続くように、園子、志騎も気合を入れるために掛け声を出し始めた。銀は隣で無言で園子の背中を押す須美に声をかける。

「ほら、鷲尾さんも!」

「えっ?」

「やっとけ。意外に馬鹿にできないんだよ、これ」

「わ、分かったわ……オーエス! オーエス! オーエス!」

「「「「オーエス! オーエス! オーエス!」」」」

 四人の掛け声が一つになり、ゆっくりとだが確実に前へ前へと進んでいく。

 そして、ついにその時がやってきた。

 高圧水流の勢いがだんだんと弱くなっていき、やがて四人を襲っていた高圧水流は完全に停止した。

「今! 突げ……!」

 突撃の声を上げようとした須美の声が、唐突に止まった。その理由はすぐに三人にも分かった。

 今まで高圧水流を放っていた水球は反対側にある、もう一個の水球。その水球に水流を放っていた水球以上の力が溜まっているのが目に入ったからだ。

 つまり、バーテックスは高圧水流を目くらましにして、もう一個の水球から四人の目を逸らしていたのだ。膨大な力を溜めて、四人を完全に粉砕するために。

 それを見て須美が何か叫ぼうとしたが、もう遅い。水球から先ほどは比べ物にならない高圧水流が四人に放たれる。圧倒的な力を持った攻撃に、四人が飲み込まれそうになった時。

 志騎の耳に、またあの精霊の声が聞こえてきた。

「もう一度『Cancer』のアプリを押して、ベルトにかざせ!!」

 もう返事をする暇もなかった。

 志騎は瞬時にスマートフォンを取り出すと、即座にアプリをタッチ、まるで流れるような素早い動きでベルトにかざす。

『キャンサー! ゾディアックストライク!』

 音声と共に、六つの板が四人の前に展開し六角形を形成すると、その六角形が赤色の光を帯びてバリアのようなものを形成する。そのバリアめがけて、高圧水流が怒涛の如く押し寄せる。

「ぐ、ぐぅうううううううううううっ!!」

 バリア越しでも感じる凄まじい圧力に志騎はうめき声を出しながら、どうにか周りに視線を巡らせると、須美、園子、銀の三人も圧力に険しい表情を浮かべながらも吹き飛ばされる事なくその場に立ち続けている。それに志騎がほっと安堵の息を漏らすと、目の前のバリアにある違和感を覚えた。

(……これ、防いでるというよりは、まるで攻撃を吸収しているような……?) 

 そう。目の前のバリアは高圧水流を防いでいるというよりも、まるで迫りくる高圧水流を吸い込んでいるように志騎には見えた。やがて高圧水流がだんだんと弱まっていき、完全に止まった次の瞬間。

「うおっ!?」

 轟!! と爆音を上げながら六角形のバリアからバーテックスが放っていた高圧水流が先ほど以上の攻撃力と速度を伴ってバーテックスに放たれる。当然バーテックスにかわせるような攻撃ではなく、高圧水流はバーテックスに直撃しその左半身を大きく損壊させた。

 すると、志騎のそばに先ほどから姿を消していた刑部姫が再び現れてバーテックスを指さす。

「さぁ今だ! ぶっ潰せ!」

「てか、あんな便利な技があるならもっと早く教えろよ! ----全員!!」

「「「「突撃ぃいいいいいいいいっ!!」」」」

 先ほどの高圧水流で一瞬ピンチに陥ったが、もうその心配はない。今度こそ反撃の始まりだ。

 四人が高く跳躍すると、バーテックスが反撃と言わんばかりに触手から水球を次々と放つ。

「鷲尾さん! 天海君!」

「分かっ……!」

「待って天海君! あなたは三ノ輪さんと一緒に攻撃して! 私が絶対に止めるから!」

 その言葉に志騎が須美に目を向けると、彼女は強い覚悟を秘めた瞳でまっすぐバーテックスを見据えていた。それに志騎がこくりと頷くと、六つの板を足場にしてバーテックスに接近する。

「ミノさん! 振り回すよー!」

「行っちゃえー!」

「うーんとこしょーっ!!」

 気合の声と共に、園子は宣言通り強く握った銀の手ごと彼女の体を振り回し、勢いよくバーテックスめがけてぶん投げた。さらに須美が矢を迫りくる水球に向けて放ち、水球による攻撃を防ぐ。

「三ノ輪さん! 天海君!」

 須美が攻撃に移る銀と志騎に叫び、そしていつの間にか志騎の近くまで飛んできていた刑部姫が志騎に叫んだ。

「一度最初に変身した姿に戻れ! それから……!」

「全部言わなくて良い! 使い方は大体分かった!!」

 志騎は最後の板を踏んで高く跳躍すると『Brave』のアプリを素早くタップし、ベルトにかざす。

『Brave Form』

 現れた術式を通過して再び元の純白の戦装束に戻ると、もう一度『Brave』のアプリをタップして再度ベルトにかざす。

『ブレイブストライク!』

 音声が鳴り響くと同時に、志騎の持つ剣に純白の力が宿る。それを両手で力強く握ると、真正面のバーテックスを睨みつける。そこに体を回転させて勢いをつけた銀が合流し、志騎に叫んだ。

「あたしは右!」

「なら俺は下!」

 それを合図とするかのように、銀の両手の斧の円形の部分に紋章が出現し激しく回転すると、そこから業火が噴き出す。

「だぁああああああああっ!!」

「はぁああああああああっ!!」

 銀の業火をまとった双斧がバーテックスの残りの巨大な水球を、志騎の剣がバーテックスの下部分を破壊する。銀はどうにか着地する事に成功したが、志騎は受け身を取るのに失敗しごろごろと凄まじい勢いで蔦を転がる。

「志騎!」

「構うな! ぶっ壊せ、銀!!」

 一度地面を転がった志騎に視線を向けた銀だったが、その志騎の言葉に力強く頷くと再び高く跳躍して残ったバーテックスの本体へ突撃する。

「行かせるかぁあああああっ!! おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおりゃあっ!!」

 体を鋭く回転させながらの銀の連続攻撃(ラッシュ)が、バーテックスの体を破壊していく。そしてついにバーテックスの青い本体部分に強打を与えると、勢い余った銀の体が樹海の蔦に衝突する。

「ミノさん!」

「銀!」

 蔦に衝突した銀に園子と志騎が声を上げ、須美が息を呑む。一方、衝突した銀は片腕をぐっと片腕を力強く突き出した。

「どうだぁ!!」

 直後、樹海に変化が起こった。

 下から真っ白な光が立ち上ったかと思うと、樹海全体が純白の光に満たされていく。さらに上から無数の花びらが樹海全体を覆い、さらには大ダメージを受けたバーテックスの体をも包んでいく。

「これは、一体……」

「『鎮花の儀』だ」

 答えたのは、しゃがみこんでいる志騎のそばに座っている刑部姫だった。

「鎮花の儀?」

「弱ったバーテックスを壁のあちら側に送り返す儀式だ」

「って事は……これで終わり?」

「一応、な」

 その言葉に志騎は再び刑部姫から上空のバーテックスに視線を戻す。真っ白な光が樹海を満たす中を桃色の花びらが舞い散るその光景は、激闘を終えた志騎の目にはとても美しく見えた。

 そして花びらが舞い散る中、その身の大部分を損傷させたバーテックスは、上空からすっとその姿を消した。

「消えた……」

「壁の向こうに帰ったんだ。これで鎮花の儀は完了した」

 刑部姫の言葉を証明するかのように、真っ白な光と花びらが消え去り、世界はついさっきまでの樹海の姿に戻った。

「静まった……」

「撃退……」

「できた……?」

 一方で、戦いを終えた須美はバーテックスがいた場所をじっと見つめ、銀と園子は呟きながら顔を見合わせ、

「「やったー!」」

 案面の笑みを浮かべると、両手で嬉しそうにハイタッチを交わした。

 そんな二人の姿を見ながら、志騎は疲れたため息をついた。

「はぁ……やっと終わった。まったく、何がどうなってるやら……」

「ははは、よくやったな志騎。初めてにしちゃよく戦えてたんじゃないか?」

 嬉しそうに笑う刑部姫に、志騎はひらひらと手を振りながら、

「冗談はやめてくれ。もう疲れた。帰って寝たい……」

「気持ちはわかるが、そういうわけにはいかないぞ」

 はっ? と刑部姫の言葉に志騎が訝し気な表情を浮かべた瞬間、樹海全体がまるで地震のような振動に包まれ、さらに色とりどりの木の葉が舞い始める。

 そして気が付くと、志騎は元の神樹館の制服を着た姿に戻り、大橋の近くにある小さなお社の前に立っていた。横にはついさっきまで一緒に戦っていた須美、園子、銀がいる。志騎の体はついさっき衝撃に着地に失敗したせいで傷だらけだったが、彼女達の方も志騎に負けず傷だらけだった。

「ここって……大橋の近く?」

「そっかぁ。学校に戻るわけじゃないんだ~」

「ん? あ! やっべー! 上履きだ!」

「あ、本当だ~」

 どうやら彼女達は学校にいた時に、あの樹海とやらの世界に来たらしい。その証拠に登校途中にあの世界に巻き込まれた志騎は、今も普通の靴を履いている。

 と、そこで銀は「あっ!」と何かに気付くとスカートのポケットに手を入れて、

「ふふーん。樹海撮ったんだったー」

「え、本当か?」

「本当本当。見てろよー」

 志騎が銀が取り出したスマートフォンをのぞき込み、銀が得意げにスマートフォンを操作して写真フォルダを呼び出す。

 が、

「あれ……? 樹海じゃなくなってる!?」

 スマートフォンに映し出されていたのは、ごく普通の香川の町並みだった。それに園子も銀のスマートフォンをのぞき込みながら、

「映らないんだねー」

「そういう仕組みになってんのか……」

 どうやら、あの樹海とやらの風景は電子機器には一切映らないようだ。仮に写したとしても、銀のスマートフォンに映っている写真のようになるのだろう。

「……ん~? おーい、鷲尾さーん」

 と、そこで園子が三人の会話に加わらずにどこか遠くの方を見つめている須美に気が付いた。園子は彼女に近づきながら、

「須美さーん? ……すみすけ」

 最後に優しい声で何やら珍妙なあだ名を呼ぶが、それでも須美は険しい表情を浮かべてじっと動かなかった。そんな二人を志騎が見つめていると、ふよふよと浮かびながら刑部姫が言う。

「さて、もうすぐ迎えの人間が来るだろうからあとはそいつの指示に従え」

「……なぁ、刑部姫」

「ん? 何だ」

「色々教えてくれた事は感謝する。けど、本当に何が一体どうなってるんだ」

 頭をくしゃくしゃと掻きながら、志騎は顔をしかめる。

 今日は本当に朝から奇妙な事が起きすぎた。変な世界に巻き込まれたり、そこでバーテックスと戦う銀達を見たり、ついには変身して銀達と一緒にバーテックスと戦ったり……。正直、今日起きた事だけでもう志騎の頭の容量はパンクしそうである。

「悪いが今は全ては教えられない。後であいつらから聞くと良い。……では、またな」

「はぁ? またなって……」

 しかし志騎の言葉は最後まで続かなかった。刑部姫が、最初に会った時のような笑みを浮かべながら、花びらと共にその場から姿を消したからだ。一人残された志騎は刑部姫の消えた空中を見つめながら、今日何度目かになるため息を再びつくのだった。

 

 

 

 翌日。

「----昨日お話しした通り、四人には神樹様の大切なお役目があります。だから昨日のように突然、教室からいなくなる事もありますが、慌てたり騒いだりせず、心の中で四人を応援してください。皆さんには----」

(……何でこんな事に)

 謎の生物、バーテックスとの戦闘から一日経ち、志騎と須美、銀、園子の四人は教室で黒板の前に立っていた。無論何かの罰則ではなく、安芸先生による『お役目』とやらの説明のために立っているのだ。

 どうやらそのお役目とやらはかなり重要な事らしく、クラスメイト達から好奇の視線が四人に注がれている。その視線がどうもくすぐったくて、志騎は思わずクラスメイト達から顔を逸らすと説明をしている安芸に視線を向ける。

 昨日、志騎達を迎えに来たのは安芸だった。彼女は須美達と一緒に志騎がいた事に一瞬動揺したような表情を浮かべながらも、すぐに四人を病院に連れていった。それから帰宅した後に安芸に事情を聞いたが、彼女からは後日説明するといった返答しか返ってこなかったので、仕方なくその日はそれ以上の追及は止めた。彼女は一度口にした事は必ず守る女性なので、彼女がそう言うからには後日本当に説明してくれるだろうと思ったからだ。なお、その日の夕食がいつもよりピーマン多めで安芸が涙目だったが、それは事情を説明されなかった八つ当たりなどでは決してない。

(……あの時先生は、銀達がいた事に驚いていなかった。俺を見た時は動揺してたけど、すぐに冷静になってた。つまり、先生にとって俺がいた事は驚く事ではあるけれど、まったくの予想外じゃなかったって事か? 俺があの世界に行く事を、いや、行くかもしれない事を、先生は知っていた? くそ、分からん……)

 安芸の事を必死に考えてみるが、やはり情報の少ない今ではどれだけ考えても答えなど出ない。ここは諦めて安芸が説明してくれるのを待とう、と志騎はクラスメイト達の視線にさらされながら思った。

 それからその日の授業を終え、志騎が帰りの準備を進めていると、お役目について気になっていたのか女子達が銀に話を聞きに来ていた。

「ねぇねぇ、お役目って大変なの? 痛いの?」

「いやー、話しちゃダメなんだよねー」

「えー? ケチー、教えてよー」

 女子からやや不満そうな声が出るが、さすがにお役目の内容が内容なだけに話すわけにもいかない。まぁ、話したとしてもきっと信じてもらえないだろうが。

 そして志騎がランドセルに教材を詰め込み、帰ろうと立ち上がろうとした時、それまで静かに席に座っていた須美が突然立ち上がった。彼女は一度咳ばらいをすると、やや緊張した声音で言う。

「ねぇ、乃木さん、三ノ輪さん、天海君。良ければ……その……これから、祝勝会でもどうかしら?」

 緊張しながら発したためか、その声はいつもと比べると固い。だがその提案に銀と園子は嬉しそうな表情を浮かべて、

「お、良いねー!」

「うん! 行こー行こー!」

 と即合意した二人の笑顔が今度は志騎の方に向かう。

 その二人の反論のしようもない笑顔に志騎は肩をすくめながら言った。

「ああ、俺も別に構わないぞ」

 そして三人から同意を得られた須美は、ほっと安心したような笑顔を浮かべるのだった。

 

 

 

 須美の提案を受けて四人が向かったのは志騎達の住む街にある巨大ショッピングモール、イネスだった。イネスには生鮮食品売り場から衣料品、家電類などあらゆるものが揃っており、大抵のものはここで買えるほどである。なお、銀は自他ともに認めるイネスマニアであり、志騎もたびたび彼女に連れられて来た事があった。

「え、えーと……。きょ、今日という日を、無事に迎えられた事を、えー、大変、嬉しく思います。えっと、本日は、大変お日柄もよく、神世紀298年度、勇者初陣の祝勝会という事で、お集りの皆様の、今後ますますの繁栄と明るい未来を……」

 イネスのフードコートのテーブル席で、固く緊張した声でわざわざ用意してきた原稿を読んでいるのは志騎達を誘った須美だった。正直志騎は彼女のこういった生真面目な性格は嫌いではないが、さすがにこれは固すぎる。どこの祝い事の会場だ、とツッコみたいのを必死にこらえるのが精一杯である。

 さすがに銀も同じ感想だったのか、目の前に置かれている飲み物が入ったカップを掲げながら、

「固っ苦しいぞ? かんぱーい!」

 そう言ってカップのストローに口をつけて美味しそうに飲み物を飲み始めた。その様子を楽し気に眺めながら園子は須美に言う。

「ありがとね、すみすけ。私もね、すみすけを誘うぞ誘うぞって思ってたんだけど、でもなかなか言い出せなかったから、すごく嬉しいんだよ~」

「うん。鷲尾さんから誘ってくるなんて、初めてじゃない?」

「実はそうなんだよ~」

「合同練習も無かったしなー。なのにあたしら、初陣よくやったんじゃない!?」

「ねぇ~。私も興奮しちゃって、ガンガン語りたかったんだよ~」

 確かに銀の言うように、彼女達の動きはややぎこちない所はあったものの、志騎のように本当に初めて戦う人間の動きではなかった。恐らくお役目とやらのために、何回か個人の訓練のようなものはあったのだろう。最近用事とやらで銀と一緒に帰る事が出来なかった事が数回あるので、その時に訓練をしていたのだと考えれば納得がいく。

 二人の言葉に須美は紙を丁寧に折りたたんで椅子に座ると、恥ずかしそうに顔を俯かせながら、

「私も……実はその……話をしたくて……三人を誘ったの」

「話?」

「ええ……。私ね……三人の事をあまり信用してなかったと思う」

「そりゃあこいつらはともかく、俺は当然だろ。俺はお前達と違ってお役目の事とか全然知らなかったし、お前ともあんまり話した事なかったし。警戒したり、信用しづらいのはおかしな事じゃないだろ」

 あまり話した事がないという点では銀と園子も同じ条件かもしれないが、志騎に至ってはお役目の事を本当に知らなかったわけだ。須美がお役目の大切さと責任をまったく知らない志騎の事を信用できないのは仕方がない事である。

「ち、違うの! 信用してなかったのは、天海君がお役目の事を知らなかったからじゃないし、ましてや三人が嫌いだからとか、そういうわけじゃなくて……。私が、人を頼る事が苦手で……」

「すみすけ……」

「……でも、それじゃ駄目なんだよね。一人じゃ……私一人じゃ、何もできなかった。三人がいたから……。あの……だから、その……これから私と、仲良くしてくれますか?」

 その須美の言葉に三人は顔を互いに見合わせると、銀と園子は笑顔を須美に向け、志騎は頬をポリポリと掻く。

「もうすでに仲良しだろ?」

「えっ?」

「嬉しい~。私もすみすけと仲良くしたかったんだ。ほら~、私も友達作るの苦手だったから」

 そう言えば確かに、志騎から見て園子は基本的に誰かと過ごしている事があまりない。それは彼女の少し天然な性格もあるだろうが、彼女の家柄もその理由の一つかもしれないと志騎は思った。

「乃木さん……」

「すみすけも同じ気持ちだったんだ~。嬉しいな~すみすけ~」

 と、そこで須美はようやく彼女の自分に対してのあだ名に気付いたのか、少し困ったような笑みになりながら、

「あ、あの……乃木さん……」

「は~い!」

「その……いつの間にか言ってる、すみすけっていうのは何?」

「ああ~いつの間にかあだ名で呼んでた~」

「自覚なかったのかよ……」

「てか、何故にすみすけ……」

 本気で志騎はあだ名の由来が気になったが、案外単純に呼びやすいからという理由かもしれない。実際あだ名の大半の法則は、大概そんなものである。

「う、嬉しいけど……その、それ、あまり好きじゃないかな」

「じゃあ、ワッシーナは? アイドルっぽくない?」

「もっと嫌よ」

 今度のあだ名は半眼の須美によって即却下され、園子は「えー」と残念そうな表情を浮かべた。

「乃木さんも、ソノコリンとか嫌でしょ?」

「わぁ、素敵!」

「ごめんなさい、忘れて……」

 まさかの予想外の反応である。やっぱりこいつ読みにくいな……と志騎は園子を見ながら思った。

「あ! 閃いた! じゃあ、わっしー! どう?」

 新しく出た園子のあだ名に須美はうーんと悩む素振りを見せたが、目をキラキラさせながら自分を見つめる園子に根負けしたのか、「まぁ……それで良いかな」と渋々といった感じで認めた。

「よろしくね、わっしー!」

「あ……うん」

 しかしそれでも須美が自分のあだ名を受け入れてくれた事がよほど嬉しかったのか、園子は満面の笑顔で須美に言うと須美も先ほどのように困ったような笑みを浮かべながらも頷いた。

 一方、志騎が再びジュースを飲んでいると、銀がにやにやと笑いながら、

「ほらほら、志騎もなんか言えよ。お前にとっては巻き込まれただけかもしれないけど、これから一緒に戦うかもしれないんだからさ!」

「えー……? こういうのは苦手なんだけどな……」

 ため息をつきながら、志騎は改めて須美と向き直った。

「まぁ、正直俺は巻き込まれたようなもんだし、知らない事だらけだけど……お前達が困ってたりしてるんだったら、力を貸してやりたいとは思う。だからその……これからよろしく頼む」

 そう言いながらすっと志騎は右手を差し出した。それに須美も笑みを浮かべると、

「ええ。これからよろしくね、天海君」

 そう言いながら自分の右手で、志騎の右手を握り返した。するとその様子を見ていた園子が、少し驚いなような表情で言う。

「でも、ちょっと意外だね~」

「え? 何が?」

「天海君って、あんまり笑わないし喋らないから、人と関わるのが好きじゃないのかな~って思ってたんだけど……実はそうでもないのかな?」

 すると園子の言葉に銀が何故か笑うと手をひらひらと振りながら、

「ああ、そういうわけじゃ全然ない! そりゃあこいつはあまり笑わないけど、人と関わるのが嫌いなわけじゃなくてただ単に口下手なだけだよ。そこを気にしなければ良い奴だから、須美も園子もバンバン志騎に話しかけてくれ。きっと喜ぶぞー」

「何適当な事言ってんだお前は……」

 志騎が半眼で銀を見ると、彼女ははははと誤魔化す様に笑いながら志騎の肩をパンパンと手で叩いた。すると志騎から軽く睨まれるが、銀はその視線を軽く流すと園子に言う。

「そうだ! なぁ園子、志騎にも何かあだ名をつけてやってくれないか? できたら親しみのあるものをプリーズ!」

「おい、何勝手な事を言ってやがる」

「そうだね~。天海志騎だから……。う~ん、う~ん……」

「お前も話に乗るな!」

 志騎が園子にツッコミを入れるが、もう遅い。少しの間悩んでいた園子はやがて何かを閃いたように目を輝かせると、自分の思いついたあだ名を発表した。

「あまみんだ~! あまみんあまみんあまみんみん~!」

「おお! いいなそれ! アイドルみたいで!」

「ふざけんな取り消せ! あとどっちかっていうとゆるキャラ!」

 志騎が猛抗議するが、もう遅い。銀は志騎のあだ名にノリノリだし、園子は園子で「よろしくね、あまみん!」と非常に可愛らしい笑顔で言ってくる。もうこうなってしまったら、そのあだ名を取り消す事はまず不可能だろう。志騎はがっくりとうなだれながら、あまみんというあだ名を承認するのだった。

「わ、私は良いあだ名だと思うわよ? 天海君」

「できれば別のあだ名を提案して欲しかったよ、鷲尾……」

 自分を励ますように須美が言ってくれるが、今の志騎にそれは何の励ましにもならなかった。

「志騎のあだ名も決まったし……。よし! じゃああたしの事は銀って呼んでよ鷲尾さん! 三ノ輪さんはよそよそしいな~」

「そうだね~」

「え、えっと……」

 しかしさすがにいきなり名前予備は恥ずかしいのか、須美は照れて中々銀の名前を呼べない。銀もそれは分かっていたのか、あはははと笑いながら、

「まぁいっか! よーし! それじゃあ今日という日を祝って、みんなでここの絶品ジェラートを食べよー!」

「……へっ?」

 予想外の提案に、須美は思わずそんな声を出してしまった。

 その後、四人はジェラート店でそれぞれ選んだジェラートを購入すると、テーブル席に戻ってジェラートを食べ始める。

 ジェラートを一口食べた園子は、よほど美味しかったのか満面の笑顔で頬に手を当てた。

「はふぅ、幸せ~。ほうじ茶アンドカルピー味大正解~。ミノさんのは?」

「しょうゆ豆ジェラート!」

「何それ~? でも美味しそうだねー! あまみんのは?」

「カスタード」

「わぁ、それも美味しそ~!」

「そうだな……。志騎、あたしのジェラート一口あげるから、お前の一口ちょうだい!」

「いや、普通に嫌だよ……。てか銀、お前口元にジェラートついてるぞ」

「え、本当?」

「本当だよ。まったく……ほら、拭いてやるから動くな」

「ああ、サンキュー志騎!」

「ふふふ、二人共仲良しさんだね~」

 そんなやり取りを三人がしている横で須美は購入したジェラートをスプーンですくって一口食べると、ぱっと表情を輝かせた。

「……っ! 美味だわ……! この、ほろにが抹茶が織りなす味の調和が絶妙だわ……!」

 と、初めて食べるジェラートの美味しさに須美が感動していると、目の前に園子が笑顔で口を開けているのに気付いた。

「あーん」

「……? 何?」

「そんなに美味しいなら、あーん!」

 そこで園子の考えに気付いたのか、須美は恥ずかしそうにジェラートをスプーンで軽くすくう。

「えっと……こういうのは初めてで……」

 そう言いながら園子にジェラートを食べさせると、園子は笑顔で頷きながら、

「うん! 美味しい! 初めての共同作業だね!」

「えっ!?」

 初めての共同作業、という言葉に須美は顔を真っ赤にして固まってしまった。

「言葉の意味がおかしいぞー……」

「それだと別の意味に聞こえるな」

 天然な園子の発言に、銀と志騎二人のツッコミが飛んだ。

「あはは、友達とこんな事してみたかったんだ~。わっしーは?」

「えっ? 私も……。あっ、いや……!」

 肯定しかけた直後に慌てて否定しようとするも、それが本心ではない事はすでに銀と園子には丸わかりである。銀と園子はそんな須美の反応にあははと楽しそうに笑い、須美もまんざらでもなさそうに小さな笑みを浮かべる。志騎はそんな三人を見ながら、再びカスタードのジェラートを食べるのだった。

 

 

 

 神世紀二百九十八年。

 これは、四人の勇者の物語。

 神に選ばれた少女達と少年のおとぎ話。

 バトンを受け継いできた少女達が、未来を取り戻す物語。

 そして。

 罪にまみれた偽物の少年が、未来を作り出す物語。

 

 

 

 

 

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