天海志騎は勇者である   作:白い鴉

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刑「さて、今話で二年ぶりにあいつが戻ってくる。今の勇者達との共闘はもう少し先になるだろうが、その時まで首を長くして待っていてくれ」
刑「では第三十七話、ご覧あれ」


第三十七話 果たされるreunion

「銀?」

 自分を呼ぶその声で、三ノ輪銀は目を覚ました。どうやら自分は腕を枕にして眠ってしまっていたらしく、両腕が痛い。まだ頭には眠気が残っており、上手く考えがまとまらない。ただ窓から差す光や自分が座っている席などから、今は夕暮れ時で、自分はどうやら学校の机で眠っていた事だけは分かった。

 こしこし、と目をこすって銀が真正面を見ると、そこには今自分を呼んだ人物が自分の顔を怪訝そうに見ていた。

「ったく、寝過ぎだろ。昼休みにあんなにはしゃぐからだよ。何やっても起きないから、安芸先生も呆れてたぞ」

 呆れたように言ったのは、水色がかった白髪という特徴的な髪の毛をした少年だ。彼----自分の幼馴染である少年、天海志騎の顔を見て、銀は何故か両目を限界まで見開く。

「……おい、どうした? 何幽霊でも見るような目で見てんだよ」

 突然驚愕の表情を浮かべた銀に志騎が怪訝な口調で尋ねる。しかし銀はその問いに答えず、かすれた声で志騎に尋ねる。

「……志騎? 何で? お前、死んだんじゃ……」

「はぁっ?」

 志騎は何言ってるんだお前? と言いたそうな表情で彼女の顔を見てから、やれやれと肩をすくめ、

「何寝ぼけてるんだよ。悪い夢でも見たのか?」

「夢……」 

 その言葉に、銀はしばらく呆然としていたが、やがて力の抜けた笑みを浮かべた。

「……そう、だよな。あんなの、夢に決まってるよな」

 我ながら酷い夢だっだと思う。

 須美は自分達に関する記憶を全て失って別人となり、園子は志騎の記憶を失って一生歩けない体となり、自分は園子と同じように一生歩けない体になって誰とも会えなくなり、そして志騎は死んでしまった。本当に、今思い返してみると悪夢だと思う。

 でも、それは全て夢だったのだ。だって志騎は目の前で呆れた表情を浮かべながら自分を見ている。何故か今の銀には、彼のそんな表情ですらひどく愛しかった。

「それより、早く俺の家に行くぞ」

「……? 今日、何かあったっけ?」

「お前、マジで言ってるのか? あんなに楽しみにしてたのに……」

 そこで志騎ははぁ、とため息をつくと、

「今日はハロウィンだろ? だから俺の家でパーティーするって言ってただろうが。須美と園子はもう一足先に行ってるし、鉄男と金太郎も待ってるぞ。何なら俺のスマホ見てみるか? 園子からのパンプキンパイ催促メールとコスプレ衣装の写真が山ほど送られてきてるんだぞ。須美の奴も意外とノリノリだし……」

「あ……ああ! そうだったな! ごめん、ちょっと寝ぼけててさ」

「どんだけ寝てたんだよ……」 

 本当は、まだ思い出せていない。

 そもそも今日がハロウィンだった事など、今志騎から聞くまですっかり忘れていた。

 しかし、そんな事はどうでも良かった。

 須美がいる。園子がいる。そして、志騎がいる。それだけでそんな些細な疑問など、銀の頭からすっかり吹き飛んでしまっていた。銀は急いで立ち上がると志騎の手を掴んで、

「よし! 行こう、志騎!」

「いや、さっきまで寝てたのはお前……。ああ、もういいや」

 志騎は再びため息をつきながらも、銀の手に引かれて彼女と共に走り出す。

 そして、銀が教室から出た瞬間。

 三ノ輪銀の意識は、夢の世界から現実世界へと戻ってきてしまった。

「………」

 何も見えない暗闇の世界で、銀は辺りを見回す。

 両目が見えないので何も見えないが、それでも両目の視力を失ってしまってから二年間経ったからか、周りの気配や空気にすっかり敏感になってしまった。だからこそ自分がいるのが、過剰なまでに自分を奉る神社のような病室という事を銀は感じる事が出来た。

 ふぅ、と息をつくと銀はベッドに背中をつける。

「……ま、大体こんなオチだよな……」

 今のような夢を見るのは初めてではない。この二年間、数えるのを諦めるぐらい幸せな夢を何回も見た。内容も様々でハロウィンパーティーをするもの、夏休みに四人で海や祭りに行くもの、春に桜の木の下でお花見をするもの、冬に雪合戦をしたりと、バリエーションだけは無駄に豊かな夢を何回も見た。その夢を見るたびに、銀は一時の幸福感と半日にも及ぶ強い虚無感を味わった。

 しかしそれはまだ良い方で、酷い時には須美や園子、志騎が体中傷だらけで血を流しながら、樹海に横たわっている夢を見る時もあった。三人の半開きの虚ろになった瞳は、自分にこう語りかけていた。

 どうして助けてくれなかったのだと。

 三人がそう言うはずがないとは頭で分かっていても、それでも湧き上がる罪悪感は拭いきれるものでは無い。夢を見た後は決まって、胃液を全て吐き出した。もう食事をする事もできないというのに。

 なのでいつものように、銀が強い虚無感に襲われようとしていると、病室の中に変化があった。扉が開いていないのに突然気配が出現し、自分に近づいてくる。まるでホラー映画のワンシーンのようだが、銀は思わず心の中で舌打ちする。そのような登場の仕方をする人物に、銀は心当たりがあるからだ。最も質の悪さで言えば、その人物は悪霊とさほど変わりはないのだが。

「今度は何の用だよ、刑部姫」

 しかし現れた人物----刑部姫は特に言わず、ただ黙って銀の目前までやってくるとようやく口を開いた。

「東郷美森が壁を壊した」

「……須美が?」

 銀が呟くと、刑部姫はベッドに座り、

「恐らく乃木園子から今の世界の成り立ちと壁の外の真実を知り、今の状況がずっと続く事に耐えられなくなったんだろう。奴から直接聞いたわけではないが、最近の勇者部の動向と乃木園子の接触等を考えると、それが一番可能性が高い」

 刑部姫の言葉に銀はしばらく黙っていたが、やがてはっと皮肉気に笑う。

「大赦の自業自得だろそんなの。全部黙ってたんだから」

 東郷が壁を壊したと聞かされても、銀に動揺は無かった。大赦は自分達に満開の真実やこの世界の事を何も知らせずバーテックスと戦わせ、少女達の体を生贄にしてきたのだ。むしろ、いつこうなってもおかしくはなかったと言うべきだろう。

「それに関しては私も同意見だな。今回は完全に大赦の油断が招いた事だ。お前達を生き神などと無駄に崇めているからこうなる」

「……意外だな。お前の事だから、怒り狂うかと思ってた」

「私はこれでも散々忠告してきた。それなのにこんな状況になったのは大赦の詰めの甘さだ。ここまで来ると怒りを通り越して呆れるしかない」

 はぁ、と刑部姫はため息をつくと、そこで初めて銀に視線を向けた。

「それで、お前はどうする? 三ノ輪銀」

「……どうするって、何がだよ」

「東郷美森は壁を壊した。となると、壁が壊れた事によって星屑と形成途中のバーテックスがこちらに向かってくる。今はまだ樹海で勇者達が対応しているが、神樹を破壊されればこの世界は終わる。おまけに今は東郷美森が神樹を破壊する側についているから、危険性は増しているだろう。それをわざわざお前は見過ごすのか?」

「それ、須美と戦えって言ってるのか?」

 ギロリ、と殺意が込められた瞳が刑部姫に向けられる。今の彼女の口ぶりだと、このままにしておくとバーテックスと東郷美森によって世界は終わる。そのためにバーテックスを倒し、東郷美森を止めて来いと言っているように銀には聞こえた。銀はぷいと刑部姫から顔を逸らす。

「言っておくけど、アタシはやらないからな。須美が壁を壊したのは、お前達が勇者を散々騙してきたからだろ。なのにそれを止めるために、須美と戦え? ふざけるのも大概にしろよ」

 と、そこで銀はある可能性に至り、はっとした表情を浮かべると刑部姫を睨みつける。

「まさか、大赦は園子にまで須美と戦えって言ってるんじゃないだろうな……!」

 刑部姫が銀にこのような事を言うという事は、園子の方にも手が回っている可能性がある。もしかしたら今頃、大赦の神官達が園子に東郷と戦って欲しいと詰め掛けているかもしれない。

「ああ、だろうな」

「……っ!!」

 怒りで体を起こす銀とは対照的に、刑部姫は落ち着いた口調のまま、

「だが、きっと乃木園子は吞まない。奴もお前同様、自分達を散々利用してきた奴らのために動くほど馬鹿じゃない。親友と戦うぐらいなら、東郷美森の意志を尊重して静観する事を選ぶだろう」

 大体、と言いながら刑部姫は銀にちろりと視線を向け、

「勘違いしているようだが、私はお前に東郷美森と戦えと言いにきたわけじゃない。そんな事を言ってもお前はてこでも動かないだろうし、今回の出来事は大赦の詰めの甘さが招いた事だ。その責任を取るために動くつもりはまったくない」

 予想外の言葉に銀は一瞬面食らいながらも、すぐに表情を険しくして尋ねる。

「じゃあ、何しに来たんだよ」

「簡単な事だ。お前には露払いをやってもらう」

「露払い?」

 銀が怪訝そうに尋ねると、刑部姫はああと言って、

「現在東郷美森は壁を壊し、結城友奈達がそれを防ごうとしている。だがその過程で、間違いなく奴らは世界の真実を知るだろう。そうなった場合、東郷美森を止めるどころか奴に同調、あるいは戦意を無くす可能性が考えられる」

「………」 

「私は正直今の世界がどうなろうと興味はない。私が大赦に協力していたのは安芸が大赦の人間だったからだし、戦いの結果人類が負けたとしてもそれは相手が上手だっただけの話だ。だから本音を言うと、東郷美森が壁を壊して世界を滅ぼそうが、勇者達がどう動こうと私にはどうでも良い」

 だが、とそこで刑部姫は一度言葉を区切り、

「確かに勇者がどう動こうが私にはどうでも良いが、生憎バーテックスを殺す事のサポートは私の仕事の一つなんでな。結城友奈達と東郷美森がぶつかり合い、何らかの結論を出すのは良いが、それまでに星屑がこちらの世界に悪影響を与えるのまで見過ごすつもりはない。だからこうしてお前に、露払いをするように伝えに来たというわけだ」

 刑部姫の言葉に、銀はじっと彼女を見つめながら彼女の意図を探る。つまり、彼女が言いたいのは、

「……つまり、須美や友奈達が答えを出すまでに、アタシには星屑を倒し続けろって事?」

「正解」

 銀の言葉に、刑部姫はにやりと楽しそうな笑みを浮かべた。とは言っても、銀からしたら楽しくもなんともない。

「勇者達がぶつかり合った結果、東郷美森が心変わりをしたらそれに協力すれば良いし、全員が世界が滅ぶ事を選択してお前もそれに同意するというのなら好きにしろ。東郷美森と戦えとは言わんし、世界を守れとも言わん。お前がするのは、奴らが結論を出すまでに星屑を殺してこちらの世界への影響を極力減らす事だ。結論が出たら後はお前の好きにしていい。この世界を救おうが見放そうが、全てはお前達の自由だ」

 つまりやり方は違えど、園子同様親友の選択を見届けろと言っているようだ。が、それを聞いても素直に頷く事は出来ない。今の刑部姫の話には気になる箇所がある。

「待てよ。お前が世界の事をどうでも良いって言うのは何となく分かるけど、一体どういう風の吹きまわしだ? お前にとって、アタシがはいそうですかって素直に言う事を聞いて星屑を倒しに行くって本当にそう思ってるのか?」

 確かに襲来してくる星屑によって現実世界に悪影響が及び、罪なき人達が傷つくのは銀も良い気分はしないが、それでもやはり自分達を散々利用してきた大赦のために戦う事には抵抗感がある。銀がこのような反応を示すのは刑部姫には分かり切っている事だろうに、何故彼女はわざわざこんな事を口にしたのだろうか。すると、刑部姫はつまらなさそうに銀を見て、

「最初から世界を滅ぼすつもりで動くならまだ良いが、まだ結論が出ていないとなると困るんだよ。あとでやはりこの世界を守ろうと考えを改めた時、バーテックスの襲撃の影響が大きければ大きいほど後始末が面倒だし、何より死人でも出たら東郷美森のメンタルのダメージが大きくなる。クソ真面目で頑固な奴の事だから、自分が壁が穴を空けたせいで多くの人間が傷つき、ましてや死人まで出たと聞いて心に強いショックを受けたとなれば、有事の際に影響が出ないとも限らない。こんな所で手札が少なくなるのは避けたいしな」

「……つまり、全部打算かよ」

「当然だろう? じゃなかったらこんな所には来ない」

 悪びれる事もなくいけしゃあしゃあと言うが、別にショックを受けるつもりもないし、刑部姫の事だからそんな事ではないかとすら思っていた。

「ってか、それを聞いてアタシが素直に戦いに行くと本気で思ってるのか?」

「別に行きたくないなら行かなくて良いんだぞ? 事態が落ち着いて死人が出たと分かった時、東郷美森に人殺しの罪を着せたいならな。で、どうする? 何度も言うが別に私はどっちでも構わないぞ? 行くか、行かないか」

 ギリリ、と銀は奥歯を噛み締めて刑部姫を鋭く睨みつけていたが、やがてチッと大きく舌打ちした。悔しいが、自分は目の前の精霊ほど冷酷でもなければ、園子ほど達観できているほど人間ができているわけではない。

「……お前、絶対にロクな死に方しないぞ」

「実際病気で早死にしたからな、否定はしない。で、答えは?」

「行くよ。だけど最終的に須美がどんな結論を出してもアタシは須美の味方だ。須美が頭がはちきれるぐらい考えた結果がどんなものでもアタシはそれを肯定するし、須美の敵にだけはならない。それで良いか?」

「ああ、構わん。ではよろしく頼むぞ勇者様」

「うっさい。それより、そうなると問題が一つあるだろ」

 銀の言う問題とは、シンプルにして重要なものだ。当然その問題点は刑部姫も把握していたようで、あっさりとそれを口にする。

「分かっている。勇者システムだろう?」

 そう、戦うには勇者システムが必要となる。しかし銀の端末は二年前に大赦に回収・改造され、今は夏凜のものになっている。端末が無い以上、銀は勇者になれず、戦う事も出来ない。しかし何故か刑部姫はにやりと笑い、

「生憎だが、解決策が無ければこんな話はしない。ほら、お前専用の端末だ」

 そう言って刑部姫は銀の目の前にスマートフォンをぽとりと落とした。それに思わず銀が両目を見開くと、彼女は低い笑い声を漏らした。

「私を誰だと思っている? お前の端末が回収される際、システムを丸ごとコピーして別の端末に移し替えていた。おまけに志騎と私が使う勇者システムと同じ機能も組み込んでいるから、省エネルギー高出力で戦う事ができる。精々泣いて感謝しても良いんだぞ?」

 口では簡単に言っているが、そんな事はきっと他の大赦の科学者では誰も出来ないだろう。刑部姫----氷室真由理という神世紀最高の科学者だからこそできた事だ。こればかりは、さすがの銀も目の前の存在を改めて天才と思うしかない。銀がスマートフォンに近づくと、目の前にニ十体を超える数の精霊と彼女専用の精霊、鈴鹿御前が出現する。

「……久しぶり」

 例え見えなくても気配で分かるのか、銀が口元に笑みを浮かべると鈴鹿御前はスマートフォンを持ち上げてこくりとお辞儀する。すると精霊の一体が銀の片手を持ち上げて、鈴鹿御前によって持ち上げられたスマートフォンの画面をタップさせる。

 すると勇者システムが起動、銀の体は大量の花びらに包まれ、次の瞬間には彼女の体は山吹色の勇者装束を身に纏っていた。そして彼女の失われた体の機能を補うように、体のあちこちに戦闘・移動補助の装備が装着されている。

 銀が変身すると、銀と刑部姫の周囲に花びらが舞い散り始めた。銀が勇者に変身した事で、樹海に転送されようとしているのだろう。

「では、行くか」

「お前と一緒って言うのが気に食わないけどな」

「はっ、抜かせ」

 互いに視線を合わさぬまま、一人と一体は樹海化に備える。

 やがて光が二人の視界を完全に満たし、二人は樹海へと転送された。

 

 

 

 

 

 

「……樹海に来るのは、二年ぶりだな……」

 目の前に広がる光景に、銀が呟く。二年もの間戦いから離れていたため樹海に来る事は無かったが、肌に伝わってくるピリピリとした感覚とこの神秘的な空気を忘れた事は一度も無い。こうして立っているだけで四人一緒に戦った日々も、自分達の運命が激変してしまった二年前の戦いも、全て思い出す事ができる。

 しかし、追憶する暇などない。現れた銀に狙いを定めるように、周囲から星屑達がやってくる。銀の肩に乗っていた刑部姫がふわりと宙に浮き、自分達を取り囲む星屑達を見渡す。

「全方位から星屑。大量の武器と精霊バリアがあるとはいえ、油断したら押しつぶされるぞ」

「言われなくても分かってるよ。……須美が答えを出すまでは、もたせるさ」

 二年もの間視力を失い暗闇の中にいたからか、銀の第六感というものは小学生の時よりも鋭敏に鍛えられていた。実際刑部暇から言葉を掛けられなくても、今の彼女なら周囲にどれほどの数の星屑がいて、どのような動きをしているかが手に取るように分かる。

「バーテックスはいないみたいだな」

「ああ。幸いと言うべきか星屑のみだ。とは言っても、長引くと壁の穴から出てくるだろうがな」

「……そんな事させるかよ」

 銀が言った直後、彼女を取り囲んでいた星屑達が一斉に口を開けて銀に襲い掛かる。巨大な口が過去に多くの人々を食い殺してきたように、今まさに少女の柔らかな体を食いちぎろうとした瞬間。

 ザン!! と突然現れた何本の斧が銀の周りを旋回し、襲い掛かろうとした星屑達を一斉に切り刻んだ。光を失いながらも、怒りと敵意の感情を目に宿しながら、銀が低い声で呟く。

「星屑もバーテックスも全部、倒してやる」

 そして銀はその場から高く跳躍すると、星屑目掛けて突進した。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 雄たけびを上げながら大量の武器を自分の周囲に展開させて、自分に向かってくる星屑を次々に切り刻んでいく。銀を攻撃しようとして返り討ちにあう星屑もいれば、銀に突っ込まれて何の抵抗をする暇もなく輪切りにされる星屑もいた。

 今の銀は目が見えないがそれを補う第六感があるし、第一敵は銀を見つけるなら突っ込んできてわざわざ切り刻まれてくれる。相手の所に向かうよりもはるかに手間が省ける。

 が、それでも今樹海を襲来している星屑の数は生半端では無かった。

 それも当然だろう。壁に穴が空いたという事は、壁の外にいる星屑達が一斉にこちらに雪崩れ込んできているのだ。数は多くて当然だし、何よりこれはまだ序の口にすぎない。今からさらに時間が経てばより多くの星屑達が襲来するだろう。

(でも、そんなの関係ない!!)

 自分目掛けて突進してきた星屑を切り伏せ、それを囮にしてきた別の星屑の攻撃を跳躍してかわすと、その星屑の体に着地すると共に大量の斧で星屑を一気に串刺しにする。

(アタシの役目は、須美が答えを出すまで星屑を倒し続ける事!! その答えが出るまで、星屑を倒し続ければ……!)

 ふと、そこまで考えた所で。

 銀の頭の片隅で、冷たい声が響いた。

(その先は、どうするんだ?)

 それに思わず、銀の体が止まる。戦場だという事も忘れて銀がその場に棒立ちになっていると、さらに声が彼女の脳に響く。

(仮に須美がこの世界を守ろうと思い直したとしても、その先はどうするんだ? 樹海に来ている星屑とバーテックスを倒して世界を救ったとしても、何も問題は解決しない。ただ、振出しに戻るだけだ)

 そこで初めて、銀はその声が自分と同じ声だと言う事に気づいた。それに最初気づけなかったのは、あまりにも声の温度が自分とはかけ離れているからだ。いや、もしかしたら他人から聞いた今の自分の声は、もしかしたらこんな風に聞こえているかもしれない。明るさを取り繕って、実態は絶望と諦観だけが込められた、冷たく暗い声。

(園子はまたベッドの上の一人ぼっちに逆戻りだし、須美や他の勇者達も呪われた運命に縛られたまま。しかもアタシはこうして勇者に変身して戦っているわけだし、もしもこんな事を大赦に知られたらまた端末を没収されて、しかも今度は誰にも会えないように今以上に徹底した監視の下で管理されるかもしれない。だったら……今ここで、世界ごとみんな消えた方が良いんじゃないか?)

「それは、須美達が決める事だ。アタシが、決める事じゃない!」

 自分の声を否定するように、銀は再び襲来してきた星屑を薙ぎ払う。しかし銀に追い打ちをかけるように、再び自分の声が彼女の頭に降ってくる。

(本当にそう言い切れるのか? 世界がどうなるかを選択するのは須美達だけで、自分はそれを見届けるだけ。……本当は、違うんじゃないのか? そもそも二年前須美や園子が記憶を失って、志騎が死んだ瞬間から、お前はもうこんな世界消えた方が良いのかもしれないって思ってたんじゃないのか?)

「--------」

 思いもがけない言葉に、銀の体が再度止まる。その最中にも銀を星屑達が襲い掛かるが、自動的に斧が動いて周囲の星屑達を寄せ付けない。しかし頭の中の声は止まる事無く、銀の心をまるで甘い毒のように蝕んでいく。

(あの日、アタシは全部失った。家族も、大切な友達も、大好きな幼馴染も。そして残されたのは動く事もできない不自由な体と、生き神様っていう望んだわけじゃない立ち位置。そして園子は自分と同じように苦しみ続け、須美は二年間の記憶を失って、今ああして壁を壊すほどまでに追い詰められた。……お前は思っていたんじゃないのか? 友達を、幼馴染を犠牲にしてまで残り続けるこの世界に、本当に価値なんてあるのかって)

「違う……」

(今はこうして刑部姫に言われるがままに戦ってるけど、本当はもう全部放り出したいんじゃないのか? 当然だよな。勇者になっていなければ、お前は今も幼馴染や友達と一緒に楽しく過ごしていたはずなんだから。もうお役目も世界も全部放り出して楽になりたい。お前はそう思っているんだろう?)

「ち、が……」

 だが、言い切る事は出来なかった。それは紛れもなく、この二年間自分が心のどこかで抱き続けた想いだった。

 二年前、自分達の戦いと志騎の死によってこの世界を守る事ができた。それなのに大赦は志騎の存在を無かった事にし、さらに自分達だけでは飽き足らずさらに友奈達を生贄にしようとした。無論それが私利私欲のものではなく、あくまでも人類を護るために必要な事だとは分かってはいる。分かっては、いるのだ。

 だが、バーテックスが存在する限り勇者達も存在し続ける。つまり自分達を苦しめる地獄は、これからも続くという事だ。何も知らない少女の体を犠牲にし、神樹の寿命が尽きるまで。おまけに本当に天の神から世界を奪い返せるかは分からず、もしかしたら神樹の寿命の方が先に尽きるかもしれない。そんな先の見えない事のために、新たな犠牲ばかりが生み出されていく。

(だったら----、今ここで、全部消えて無くなった方が良いんじゃないのか?)

 そうすれば、文字通り全て無くなる。

 この世界も、命も、大赦も、犠牲も、苦しみも。

 誰ももう何かを犠牲にする事は無いし、誰も傷つく事は無い。

 だったら……その方が良いのではないだろうか。

「………」

 トン、という軽い音と共に銀の両膝を地面につく。同時に彼女の周りを旋回していた斧が一斉に消え、銀を護っていたものが全て無くなる。銀の両目にあった怒りと敵意はもう消えており、ただ虚ろな闇だけを両目に宿していた。

(……ああ、もう、良いや……。疲れた……)

 須美が最終的にどのような結果を選ぶかは分からない。

 本当にこの世界が無くなる事を選ぶのか、それともやはりこの世界を守ろうとするのか。

 だが、それすらも心折れた銀にはどうでも良かった。

 仮に世界を救ったとしても、今のような地獄がまた続く。友達には会えず、須美は記憶を取り戻さず、死んだ者は生き返らない。このような理不尽が、最悪な運命がこれからも続くと言うのならば、もうここで楽になってしまった方が良いかもしれない。銀は心の底から、そう思っていた。

 二年前の銀ならば、例えどんな窮地に陥ろうとも選びはしなかった選択。しかし孤独に過ごした二年間という月日は、彼女の心をすっかり弱らせていた。

 一方、上空で刑部姫はそれを何も言わず眺めていた。

(……ついに折れたか。まぁ、よく持った方だな……)

 もしかしたらこうなるかもしれないという事は、三ノ輪銀の病室に来た時にすでに予感していた。それでも彼女の手を借りようとしたのは、少々癪でも自分の仕事を全うするには彼女の力を借りるのが一番手っ取り早かったからだ。風と戦った時のように自分が変身して戦うという手段もあったが、それだと神樹に負担がかかり、崩れてしまった壁に何らかの悪影響が及ばないとも限らない。なのでこうして彼女と一緒に星屑を倒しにきたというわけだが……、結果は見ての通りになってしまった。

(それに、もしかしたら世界は本当にもうだめかもしれないしな) 

 ちらりと刑部姫は自分が握っているスマートフォンを見る。

 スマートフォンのマップには勇者達のアイコンが表示されていた。風と樹が一緒にいて、友奈と夏凜が一緒、そして壁を破壊した東郷美森は単独行動をしていた。これはつまり、まだ誰も東郷美森を止められていないという何よりの証拠だった。

 だがそれも無理はない。今回の一件で勇者達はそれぞれ大赦に不信感を抱き、勇者部の絆も揺れている状態だ。このままでは本当に彼女達が結論を出すよりも、神樹が破壊される可能性がある。

 しかしそれも仕方ないだろうな、と刑部姫は思っていた。彼女にとって人間とは、今かいずれ死ぬ生き物程度の認識でしかない。そのいずれが、今日だっただけの話だろう。仮に彼女達が世界を終わる事を選んだとしても、刑部姫にそれを止める気はさらさら無かった。それは親友である安芸も同じなのか、彼女に勇者を止める旨の連絡は一度も来なかった。彼女も、勇者達が選んだ結末に見届けるつもりなのかもしれない。

(ま、あいつが護ろうとした世界を見殺しにするのは少し夢見が悪いが……。そんな都合の良い事は言えないか)

 そんな事を思いながら刑部姫は再び下にいる銀に視線を向ける。武器を消した銀の周りには星屑達がじりじりと距離を詰め、すぐにでも襲い掛かれる体勢に入っている。一方、銀はついにかすかに残っていた生きる気力まで無くしてしまったのか、ピクリとも動かずただ静かにしゃがみ込んでいる。

 そして次の瞬間、星屑達が一斉に口を大きく開けて、生きる気力を無くした銀目掛けて食らいつく。

 だが、その時。

 銀に襲い掛かった星屑達が、何者かに薙ぎ払われた。

「何っ……?」

「………?」

 予想外の展開に刑部姫は目を見開き、銀はきょとんとした表情を浮かべる。

 視力を失った銀には分からないだろうが、上空から俯瞰していた刑部姫には何が起こったか分かっていた。

 星屑達が一斉に銀に襲い掛かろうとした瞬間、銀の目の前に何かが着地してきて、周囲に展開して星屑を手にしていた大刀で薙ぎ払ったのだ。そのおかげで銀には傷一つつかず、星屑の何体かは消滅した。

 突然現れた存在の正体を目にして、刑部姫は驚愕で目を見開きながらその存在の名前を口にする。

「アンノウン……!?」

 そう。銀と刑部姫の前に現れたのは、この前圧倒的な実力で友奈達と互角以上の戦いを繰り広げ、絶体絶命の彼女達にとどめも刺さずどこかへと消えた未知のバーテックス……アンノウン・バーテックスだった。

 星屑を薙ぎ払ったアンノウンが油断せずに大刀を構えていると、味方であるはずの星屑達がアンノウンに襲い掛かる。しかしアンノウンは襲い掛かってきた星屑の内の一体を大刀を振り下ろして両断すると、横から襲い掛かってきた二体の星屑目掛けて大刀を振るう。大刀から羽状の刃がいくつも放たれ、星屑達を蜂の巣にした。

「………」

 だが、アンノウンを目の前にしても銀は何故かぽかんと口を開けたまま動かなかった。アンノウンの方も銀には一切危害を加えず、周囲に星屑がいないか確認しているようだった。

「よぉ、命拾いしたな。まぁ、こいつが相手となるとまだ分からんが……」

 上空から銀の目の前にやってきた刑部姫が口を開くと、ようやく銀が口を開く。

「刑部姫……。こいつ、何なんだ? この気配、バーテックス……だよな?」

「ああ。アンノウン・バーテックス。先日私と結城友奈達の前に現れた未知のバーテックスだ。言っておくが、強いぞ」

「………」

 しかし何故か刑部姫からの説明を聞いても、銀は攻撃態勢を取ろうともしなかった。構えなければ、いつアンノウンに攻撃されてもおかしくないというのに。そこで刑部姫は、ある事に気づく。

(……どういう事だ? こいつ、何故攻撃しない?)

 銀は武器を持っておらず、自分も戦闘時の姿になっていない。つまり、アンノウンにとっては格好の餌なのだ。なのにアンノウンは攻撃の意志すらも見せず、ただ突っ立っている。この前友奈達を前にあれほどの実力を見えたのが嘘であるかのようだった。

 一方、

(……何だろう、これ……。バーテックスの気配なのに……どこかで、感じた事があるような……)

 目の前に突然現れた存在に、銀は戸惑いを隠せなかった。目の前の存在からは、間違いなく星屑やバーテックスと同じ気配が感じられる。それなのに、何故かその気配に混じって別の気配が感じられるのだ。

 それも初めて感じる気配ではない。昔感じたような……。懐かしいような、温かいような……そんな気配だった。どうしてそんな事を感じるのか分からず、銀はただひたすら困惑するしかない。

 銀と刑部姫が行動を起こせずにいると、アンノウンがようやく動き始めた。とは言っても攻撃行動を取ったわけではなく、ただ足を動かして自分達の元から立ち去ろうとしているだけだ。

 その背中を前にして。

「--------あ」

 銀はようやく、その気配が何なのかに気づいた。

 正確には、その持ち主が誰なのかを思い出した。

 が、銀にはとても信じられなかった。信じる事が出来なかった。

 だってもう、会えないと思っていたから。

 どれだけ願っても、会う事はもうないと絶望していたから。

 そして銀は、困惑と疑念を抱えながらアンノウンの背中に呼び掛けた。

 

 

 

 

「--------志騎?」

 

 

 

 

 直後、ピタリと。アンノウンの歩が止まった。

 それはまるで銀の言葉が正しい事を何よりも証明しているように。そして、その言葉に衝撃を覚えた存在がもう一人いた。

「………何?」

 それは銀の横にいた刑部姫だった。彼女はアンノウンと呼ばれる存在と銀に交互に視線をやっている。一方で銀は、補助装備を動かしてどうにかアンノウンに歩み寄ろうとしながら、かすれた声で語る。

「志騎、だよな? 生きてたのか? なんだよアタシ、ずっと死んだと思ってて……。なぁ、なんとか言ってくれよ……。どうして、バーテックスなんかになっちゃってるんだ……?」

 それでもアンノウンから返事が返ってはこなかった。さすがの刑部姫もこれを放っておく事はできなかったのか、銀の肩に手をやりながら、

「おい、落ち着け。忘れたわけじゃないだろう。奴は……志騎は二年前に死んだ。私が切り捨てた」

 が、銀は首を横にぶんぶんと激しく振って、

「違う! こいつは志騎だ! 目が見えなくなっても、間違えるはずがない! アタシと志騎はずっと一緒だったんだ! 例えずっと離れてたとしても、アタシが志騎の事を間違えるもんか!」

 そう言われて、刑部姫は思わず言葉に詰まる。実際一緒にいた期間だけ見れば、須美や園子と一緒にいた期間よりも長いのだ。その彼女が言う言葉には、かなりの説得力があった。

(だが、仮にそうだとしても疑問点は残る。こいつが志騎だとしたら、何故壁の中に戻ってこなかった? 何故結城友奈達に襲い掛かってきた? 何故人間の姿に戻らない? いや、そもそも……何故、私や三ノ輪銀の姿を見て、何の反応も示さない?)

 仮にアンノウンが志騎だとしても、自分はともかくとして銀の姿に何も反応しないのはありえない。いや、彼女の声に止まったのを反応したと見る事も出来るだろうが、それにしても反応が薄すぎるように思われる。刑部姫は自分の脳をフル稼働して、目の前の存在の正体、一連の現象の理由について自分なりに考察し、理由を組み立て、真実を見つけ出そうとする。

 そしてついに、

「………まさか」

 刑部姫はそれらについての理由と真実について、自分なりの推理を頭の中で作り出す事に成功するが、それに刑部姫は思わず困惑の声を上げた。

「何か分かったのか?」

 普段は険悪な仲であったとしても、刑部姫がどれほどの天才かはもう嫌というほど分かっている。銀が尋ねると、刑部姫は苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべた。

「……ああ。大体の予想はついた。あくまでも私の推理に過ぎないが、恐らく当たっているだろう」

「聞かせろ」

 銀が言うと、刑部姫は立ち止まっているアンノウンを見たまま話し始める。

「結論から言うと、こいつはお前の言う通り志騎だ。それ以外に考えられないというよりは、そう考えれば色々と辻褄が合う」

「辻褄?」

 銀が思わず漏らした呟きに、刑部姫はああと頷いて、

「この前こいつと結城友奈達が戦った時、こいつは明らかに人間の武器、戦い方を熟知していた。おまけに東郷美森を攻撃する際には、弓矢まで使っていた。サジタリウス・バーテックスなどの例はあるが、あれは直接を矢を放ち攻撃するというある意味合理的な攻撃手段だ。なのにこいつはわざわざ人間が使う武器である弓矢を形成して攻撃した。いくらバーテックスでも、弓矢に関する知識がなければあんな事はできない。だが、今まで人間として過ごしてきた志騎の知識ならば弓矢を形成する事も出来るだろう。あいつ、弓道もやってたしな」

 そこで銀は、自分達が小学六年生の時に志騎から聞いた話を思い出した。彼は育ての親である安芸から色々な習い事に通わされたと。生け花にお琴に書道、そして弓道。そう考えると確かに、アンノウンが弓矢を形成して攻撃したという事にも説明がつく。

「だがそこである疑問が残る。何故アンノウンが私達に反応せず、しかも結城友奈達に攻撃したという事だ」

 自分達の知る天海志騎ならば、勇者に攻撃など絶対にしないし、自分達を無視したりもしない。勇者がバーテックスと交戦していれば間違いなく加勢するだろうし、こうしている今も自分達に何らかの反応を見せるだろう。それなのに……どうして何も、言ってくれないのだろうか。

「恐らく二年前、志騎は勇者システムを失いながらもバーテックスの力のみでひたすらバーテックスと戦い続け、戦いで自我を失いつつも襲い来るバーテックスを全滅させる事が出来た。しかし戦いの中で恐らく壁の外に行ってしまったんだろうな。生体反応が消えたのは恐らくそのせいだ。で、壁の外は星屑と形成途中のバーテックスしかいない世界。そこで戦い続けるうちに志騎は自我を完全に無くし、完全にバーテックスの姿と成り果て今に至るまで戦い続けていたんだろう。……二年間もの間、ずっと」

「二年間……」

 刑部姫の推理に銀は呆然と呟く。しかしそこである疑問が頭に浮かび、刑部姫に尋ねる。

「で、でもどうして志騎は友奈達に襲い掛かったんだ? 友奈達は人間だし、バーテックスじゃないのに……」

「こいつも最初は襲うつもりはなかったんだろう。あの時現れたのは恐らく、ジェミニ・バーテックスを追ってきたからだ。それでジェミニ・バーテックスを倒して後は壁の外へ再び戦いに戻るはずだったんだろうが、結城友奈達がこいつを倒そうと攻撃を仕掛けてきた。つまりあの時のこいつの行動は、単なる防衛に過ぎなかったんだ」

 考えてみれば、あの時先に攻撃を仕掛けたのはこちらからだった。

 まず風が大剣での攻撃を仕掛け、彼女を倒した後は怒りに燃えた樹がワイヤーでアンノウンを攻撃し、次に東郷が狙撃で攻撃し、夏凜が切りかかって攻撃、最後に怒りに震える友奈が攻撃した。アンノウンの攻撃は全て、それらに対する防御反応に過ぎない。最後彼女達にとどめを刺さなかったのは、彼女達が積極的に攻撃を行うのをやめたからだ。つまりあの時は、友奈達が攻撃せずじっとしていれば、アンノウンは戦闘せず勝手に壁の外へ向かっていたという事だ。友奈達は勇者であるので仕方ないと言えるが、悪い言い方をすると必要のない戦いをして傷ついたという事になる。

「これらの理由から、こいつは志騎だという結論を出す事はできるが……。それだけだ。こいつにはもう志騎だった時の記憶や人格はもうない。今私達の目の前にいるのは、幾たびもの戦いで人格や記憶が摩耗した、自分と同じバーテックスを殺し続けるだけの人形にすぎない」

 冷酷に刑部姫は断じたが、一つ銀にはある事が気にかかった。

「……でもさ、どうして志騎は……二年間ずっと戦い続けてきたんだ? そうなる前に、こっちに帰ってくる事だってできたはずなのに……。自分が自分じゃなくなる前に逃げる事だってできたはずなのに……どうして……」

 そうすれば、自分を無くす事も無かったのに。大切な友達の事まで忘れてしまう事も無かったはずなのに、どうして彼はここまで戦い続けたのだろうか。

 と、何故か刑部姫ははぁとため息をついた。

「……お前も案外鈍いな。本当にこいつの幼馴染だったのかよなっさけねぇ」

「じゃあ、お前分かるのかよ」

 刑部姫の暴言に銀がムッとした口調で聞くと、刑部姫は目の前のアンノウン……かつて志騎だったものを見つめながら、どこか悲しそうな口調で、

「そんなの決まっているだろう。……お前達を護るためだ」

「えっ……?」

「焼け石に水なのはこいつもよく分かっていただろう。だがそれでも、こいつは壁の中に戻るより壁の外で戦い続ける事を選んだ。壁の外で星屑やバーテックスを殺し続ければ、もしかしたら少しはバーテックスの襲来を抑える事ができるかもしれない。そうしたら、勇者の被害を抑えることができるかもしれない。……さっきも言った通り、こいつにはもう志騎だった時の記憶も人格もない。それでもこいつは、壁の中にいる多くの人間達を……お前を護るためにずっと戦っていたんだ」

 例え、人間だった時の記憶を全て失ったとしても。

 例え、自分がどうして戦っているのか忘れてしまったとしても。

 彼は、今を生きる人々を護るためにずっと戦い続けてきた。

 確かに記憶や人格は失われてしまったのかもしれない。

 だが、意志は変わらずに残っていた。

 今を生きている人々を、大切な少女を護るという、強固な意志だけは。

「…………」

 刑部姫の話を聞いた銀は、よろよろとおぼつかない足取りでアンノウンに近づく。

(アタシは一体……何しようとしてたんだよ……)

 歩み寄りながら、銀は先ほどの自分の行動がどれだけ愚かだったか考えると共に後悔する。

 あともう少しで自分は、志騎が自我と記憶を失ってまで守ろうとしていたものを全て投げ出す所だった。志騎がこんな姿で生存していたのを知らなかったとはいえ、許される事ではない。他の人間全員が諦めようとも、志騎の幼馴染だった自分だけは決して彼の気持ちを蔑ろにしてはいけないはずだったのに。

 銀は奥歯を噛み締めると、アンノウンに呼び掛ける。

「志騎」

 すると、アンノウンがゆっくりと振り向いた。向かい合う一体と一人を、刑部姫は真剣な表情でじっと見ている。

 アンノウンが天海志騎だった時の記憶と人格を失っているのは間違いではない。

 なのに銀の声に反応しているのは、恐らく反射だろう。 

 まだ言葉が分からない赤ん坊が母親の声を聞いて微笑むように。

 家にいる犬が飼い主の足音を自然に記憶し、足音を聞いて玄関で待っているように。

 動物は特定の声や音を聞くと、何らかの反応を示す事がある。

 ならば、アンノウンが銀の声を聞いて立ち止まったり振り向いたりするのも一種の反射ではないか。

 そしてそれは----まだアンノウンの中に、天海志騎という少年の心が残っている証拠ではないか。

 そう思う刑部姫の前で、銀はようやくアンノウンの目の前に辿り着く。銀は力の抜けた笑みを浮かべながら、アンノウンに言う。

「ごめんな、志騎。アタシ、もう少しでお前が護ろうとしてたもの全部台無しにするところだった。……でも、言い訳になっちゃうかもしれないけど、アタシの話を聞いてもらっても良いかな」

 そこで一度言葉を区切ると、再度口を開く。

「……あのさ、志騎。この二年間、本当辛かったんだ」

 当然、アンノウンは何も答えない。とは言っても興味が無いのではなく、ただじっと銀の言葉に耳を澄ませているように刑部姫には見えた。

「父ちゃんや母ちゃん、鉄男に、金太郎には一度も会えなくて。須美や園子にも会えなかった。何回も楽しかった時の事を夢に見て、血だらけの須美と園子とお前の姿を夢に見て、何回も吐いた。何でアタシが生きてるんだろうって思って。何十回も園子と須美に会いたいって思って、何百回ももう一度お前に会いたいって思った。何千回もまた四人で過ごしたいって思って、数えきれないぐらい死にたいって思った」

 この二年間、溜まりに溜まった感情を吐き出す銀の声に涙が混じる。

「それでも……どうにか今まで生きてきたんだけどさ……。もう本当、限界なんだ……。自分でも、こんなに弱いなんて思ってなかったんだけど……。どうもアタシって意外に、寂しがりやみたいなんだよ……。だからさっき、もう全部諦めようとしちゃったんだ……。ごめんね、志騎……。でもアタシはさ……、鉄男に金太郎……須美と園子……そして志騎……皆が……」

 ポタリと。

 樹海の地面に、銀の両目から流れた涙が落ちる。

「……お前がいないと寂しいんだよ……」

 それは二年間、銀が誰にも打ち明ける事の無かった彼女の心の内だった。

「なぁ志騎、頼むから帰ってきてくれよ……。さっきの事はいくらでも謝るから……何でもするから……。勝手な事言ってるって思われるかもしれないけど、もう一度お前と手を繋いで歩きたいんだ……。もう一人は嫌なんだよぉ……。だから……」

 そこで銀は顔を上げると、アンノウンの顔を見た。

 涙でくしゃくしゃとなってしまった顔で、心の底から願うように言う。

「----もう一度アタシの名前を、呼んでくれよ……」

 その、直後。

 アンノウンが左手で頭を抑え始めた。

「志騎っ!?」

 突然の行動に銀が焦った声を上げ、刑部姫も表情を強張らせる。

 二人の眼前で、アンノウンは左腕を震わせながら頭を抑え続け----。

 

 

 

 

 

 

 アンノウンと呼ばれるバーテックスは、目の前の少女が何者か分からなかった。

 いや、そもそも自分がどういう存在なのかすら分からなかった。

 気が付いた時には赤い炎の世界にたった一人で、自分と同類であるはずの存在と戦っていた。どうして同類であるはずの存在と自分が戦っているのか理由は分からない。

 ただ、これだけは分かっていた。

 目の前にいる存在を倒さなければならない。これ以上何も奪わせるわけにはいかない。それだけが、自分の体を動かすたった一つの原動力だった。それ以外に自分の体を動かす理由なんてないはずだった。

 目の前の少女の、声を聞くまでは。

 記憶も無いアンノウンには、当然目の前の少女の事など知らない。何故少女が涙を流しているのか、どうして自分に向かって何か喋っているのかも分からない。なのに、どうしてかこの少女の声を聞くと立ち止まらずにはいられなくなる。それにこの少女の泣く姿には、違和感がある。

 違う。この少女に似合うのは泣き顔などではない。この少女に似合うのは、もっと別の、太陽のような笑顔だったはず----。

 そこまで考えた所で、アンノウンは初めて困惑という感情を覚えた。この少女と会った事など無い。言葉を交わした事など無い。なのにどうして……そんな事が分かるのだろう?

 アンノウンが静かに戸惑いを覚えていると、少女がくしゃくしゃになった顔でアンノウンに言った。

「----もう一度アタシの名前を、呼んでくれよ……」

 直後、アンノウンの頭に鋭い痛みが走った。初めて感じる痛みにアンノウンは思わず左腕で頭を抑えるが、痛みは治まらない。左腕が奇妙に震え、頭に何やらノイズが走り始める。

 痛みのあまり視界を閉じると、一瞬でアンノウンの見ている世界が暗闇に閉ざされた。しかし徐々に暗闇の満ちた世界にも奇妙なノイズが走り始め、どこからか誰かの声が聞こえてくる。

『----き。--------し--------き』

 そして。

『----志騎!』

 少女の明るい声と共に、彼女の顔が自分の視界に映し出された。

 少し幼く髪も短いが、間違いなく涙を流していた少女と同一人物だ。

 しかし決定的に違うのは、今自分の目の前にいる少女はまるで花のような笑顔を浮かべているという事だ。

 シキ、と自分を聞きなれない名前で呼んだ少女は自分の手を握ると勢いよく走り出した。なお、彼女に引かれた自分の手はいつの間にか彼女と同じ人間の手になっていた。彼女に手を引かれた自分は、様々な場所を走り回る。その最中、彼女以外の色んな人間達が名前を呼んできた。

『志騎にーちゃん!』

 どこか銀と似ている、まだ小さな少年がいた。彼の腕の中には赤ん坊が抱きかかえられていて、笑顔を浮かべて自分に向かって手を伸ばしている。

『志騎』

 眼鏡をして髪の毛を後ろで軽く束ねて女性がいた。彼女の目と言葉には、どこか愛しさのようなものがつまっているように感じられた。

『志騎君』

「あまみん』

 自分の手を引く少女と同じ服を身に纏った、真面目そうな少女とぽんやりとした雰囲気の少女がいた。自分の手を引くと少女は彼女達に向かって軽く手を振って、スミ、ソノコと彼女達に挨拶していた。どうやらそれが彼女達の名前らしい。

『志騎』

 黒髪を背中まで伸ばした、モデルのような体型の女性がいた。肩には彼女そっくりのぬいぐるみのようなものを乗せている。口の端を上げて笑う彼女は、ひらひらと志騎に向かって手を振っていた。

 そして、最後に少女が振り返ってにこっと笑った。

 初めて----否、何回も見た彼女の笑顔を見て、アンノウンはようやく少女の名前を口にした。

「----ギン」

 思い出した。

 三ノ輪銀。

 自分の幼馴染。自分が大橋市に引っ越してきて初めてできた自分の幼馴染。ある一件で仲良しになり、それ以来ずっと一緒だった少女。自分が生きていて欲しいと願った少女。

 すると彼女の事を思い出したのを引き金とするように、失われていた記憶が次々と復活していく。

 彼女の弟である鉄男と金太郎。

 自分の育ての親であり教師の安芸。

 自分や銀と同じ勇者であり親友、鷲尾須美と乃木園子。

 自分を作り上げた天才であり母親、氷室真由理。

 今まで出会って来た人達、その人達と過ごしてきた記憶。それらが空っぽだったアンノウンを満たし、自分が何者だったかを思い出させていく。

 銀に手を引かれながら、アンノウンはふと横を見る。

 そこには何かの店舗があり、その店のガラスに自分の姿が映し出されていた。

 どこかの学校の制服に中性的な容姿、水色がかった白髪。

 それを見て、アンノウン----少年はようやく自分が何者であったかを思い出す。

 アア----ソウダ----オモイダシタ。

 ジブンハ----自分は----。

 ----俺は----!

 そして、アンノウン----否。

 天海志騎は、目を覚ました。

 

 

 

 

 

 自分の目の前で震えていたアンノウンに銀が何もできず困惑していると、アンノウンの動きがピタリと止まった。アンノウンは自分の頭から手を離してだらりと両腕を下げると、何故か銀の顔をじっと見る。

 すると、次の瞬間アンノウンの体が純白の光に包まれた。

 驚愕する銀と刑部姫の前で、アンノウンの体の形状が変化していく。

 鋭い爪が生えた両腕と両手は、丸みを帯びた人のものに。

 小さな翼が生えた体は、人間の少年のような体に。

 硬質な頭部は、さらさらとした髪の毛が生える人間の頭部に。

 やがて体の形状が変化し終えると、光が収まり銀と刑部姫の目の前に一人の少年が現れる。

 幾たびの戦いであちこちが焼き焦げた神樹館の制服。

 二年前と比べると少し成長した体。

 人外である事を示すような、水色がかった白髪。

 少年----天海志騎はゆっくりと目を開けると、二年間離れ離れだった銀に笑いかけた。

「----よぉ、久しぶり、銀。ちょっと太った?」

 そんな、冗談交じりに放たれた言葉に対して銀が行ったのは。

 彼の体に、無言で寄り掛かった事だった。

「……馬鹿志騎……。どう考えても、二年間会えなかった幼馴染に対して言う事じゃないだろぉ……!」

「うん。まぁそうだな。……ごめん」

 ごめん、というのは今の言葉に対してのみじゃない。

 何も語らなくても、今の銀の姿を見るだけで何が起こったか想像する難しくない。

 二年前と比べると伸びた髪の毛。絶望と悲しみで彩られた瞳。補助装備が無ければ動く事も出来ない体。さっき自分に語られていた言葉。

 あれだけで、この二年間この少女がどれほど孤独だったのか分かる。自分や須美達に会えなくて、どれほど寂しくて悲しかったのか分かる。

 あの時の自分の選択が間違っていたとは思わない。

 でも、自分の選択が原因で幼馴染をこんな風にしてしまったのは紛れもない事実。

 あれほどこの世界を守ろうと頑張っていた少女を、ここまで追い詰めてしまったのも事実。

 だとしたら、例え許される事は無くても、彼女にきちんと謝らなければならない。

 それだけは、分かっていた。

「……二年間、一人にしてごめんな。……本当に、ごめん」

「謝る必要なんて、ない……。アタシはもう少しで、全部諦めようとしたんだ……」

「それはお前のせいじゃない。お前は悪くなんてない。責められるべきなのは俺の方だ。だから、責めるなら自分じゃなくて俺を責めろ」

 もう聞けないと思っていた少年の声が、二年間孤独だった銀の心を少しずつ癒していく。そして銀は涙で震える声で志騎に言う。

「……もう会えないって思ってたんだぞ……! もう話す事もできないって……! もう一緒に学校に行く事も出来ないんだって……! 本当に……本当に! 悲しかったんだぞ!」

「うん」

「須美や園子もお前の事を忘れちゃって……! 覚えてるのはアタシだけになって……! 天海志騎なんて本当はいなかったんじゃないかって何回も不安になって……! どれだけ怖かったか、分かってんのかよぉ……!」

「それは分からないけど……。でも、大丈夫だよ。今は確かにお前と一緒にいるだろ? だから、大丈夫。俺はここにいるよ」

「ううううううう………! うぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 銀は泣いた。

 二年間の孤独と悲しみと痛みをひたすらぶちまけるように。

 ここが樹海の中であり、世界滅亡が迫っているという事すらも忘れて、ひたすら泣いた。恐らく彼女がここまで泣くのは、人生で初めてだろう。

 一方腕の中でひたすら泣く幼馴染の背中を、志騎は赤ん坊をあやすように優しくぽん、ぽんと叩いていた。まるで彼女の孤独を悲しみを受け止めるように。笑顔が似合う少女だった銀が、少しでも早く泣き止む事ができるように。

 短い間ではあったけれど、樹海に少女の泣き声が響き渡った。

 やがて銀の泣き声が聞こえなくなると、銀が志騎の腕の中で小さく呟いた。

「……志騎。ごめん、離してもらって良いか? もう大丈夫だから……」

「ん」

 短く応えて銀が志騎の腕の中から解放されると、さすがに恥ずかしかったのか銀は少し頬を赤らめて、

「……何か、悪い。ひたすら泣いちゃって……」

「別に構わないけど、お前なんか俺の前でだけ泣き虫じゃないか? 俺以外の人間の前だと泣かない癖に」

「それは、その……お前の前だけはその、泣けるっていうか……。アタシの感情とか全部吐き出せるって言うか……」

「………?」

 ごにょごにょと銀が呟くが、志騎は困ったような表情で首を傾げるだけだった。それから志騎は樹海を見渡しながら、

「それより、悪いけど状況を説明してくれないか? 星屑を追って壁の中にまで来たのは何となく覚えてるけど、そもそもどうして星屑が壁の中にいるんだ? 一体何が起こってるんだよ」

 すると、ようやく銀も今の状況を思い出したのか、あわあわとした口調で、

「そ、それがだな志騎。結構大変なんだよ。東郷さんが壁を壊して、それで星屑とバーテックスが大量に入って来て。あ、東郷さんは元々須美なんだけど、今は須美が東郷さんになってて……」

「まったくわけが分からねぇんだけど」

 慌てふためいて状況を説明しようとするが、焦りのせいで銀も上手く状況を説明する事が出来ず、彼から呆れ半分のジト目で見られてしまった。と、それまで蚊帳の外に置かれていた刑部姫がようやく志騎に近づいてくる。

「よぉ、久しぶりだな志騎。まさかまだ生きていたとは、喜ばしいが少し驚いた。お前も結構しぶといね」

「ああ、久しぶり刑部姫。きっと自分の性格と知能を精霊に移した誰かに似たんだろうよ」

「はは、なるほど。説得力があるな」

 軽口を叩く志騎に、刑部姫がケタケタと笑う。二年ぶりの再会にしてはやや軽すぎるように感じられるかもしれないが、それが二人の関係性を見事に表している。相手が無事に生きているのであれば、それに越した事は無いのだ。

「一応聞くが、まずはどうする?」

「まずは星屑を減らしたいな。数が多すぎる」

「なら話は星屑を倒しながらするとしよう。その後の行動はそれからだ。ほれ」

 そう言って刑部姫は何かを志騎に投げた。受け取ったそれらを見て、志騎と銀は思わず目を見開く。

 刑部姫が投げてよこしたのは、二年前の戦いで半壊した志騎のブレイブドライバーとスマートフォンだった。刑部姫の手によって修理されたのか、新品同然になっている。

「何かに使えるんじゃないかと思って修理・アップデートしておいたんだ。今のお前でも問題なく使えるはずだぞ」

 そうは言うが、これを使えるのはバーテックス・ヒューマンである志騎だけだ。何かに使えるという事はまずないし、彼女は非合理な事に時間を使うような人間では無い。

 なのに修理し、さらにアップデートまでしていたという事は、心のどこかで志騎が生きているというゼロに近い可能性を捨てきれなかったのかもしれない。だからブレイブドライバーとスマートフォンをいつでも使えるようにしていた。万が一志騎が生きていた時に、これを渡せるように。

 志騎は腕の中のブレイブドライバーをじっと見ていたが、やがてふっと笑みを浮かべる。

「刑部姫」

「何だよ」

「今初めて、お前が俺の精霊で良かったと思ったよ」

 それに思わず刑部姫がかすかに目を見開き、志騎はブレイブドライバーを腰に巻く。ドライバーが腰に自動的に装着され、志騎の身体データを読み取って彼をドライバーの持ち主と認証。以前と同じように自動的に志騎の腰に出現するように設定される。

 志騎がスマートフォンを起動し、画面に表示されている三つのアイコンの内一つをタップする。

『Brave!』

 女性の音声と共にドライバーから光線が志騎の目の前に照射され、変身用の術式を展開する。志騎が両腕をゆっくりと頭の上にまで伸ばしてから目の前まで交差させると、ドライバーの変身待機音が鳴りやみ音声が発せられる。

『Are you ready!?』

 当然、答えなど決まっている。

 志騎はスマートフォンを握る手を顔の横に持ってくると、音声に答えるように力強く叫んだ。

「変身!」

『Brave Form』

 スマートフォンの画面をベルトの装置にかざし、術式が志騎の体を通過すると志騎の肉体の細胞が戦闘用に変異し、身に纏う服が焼き焦げた神樹館の制服から純白の勇者装束に切り替わる。

 そして二年ぶりに、勇者に変身した天海志騎が樹海に復活した。

「じゃあまずは、少し掃除しないとな。行くぞ、銀、刑部姫」

「ああ!」

「よし」

 銀が力強く応え、刑部姫が返事をしながら志騎の肩に乗る。

 そして二人と一体は跳躍し、樹海を飛び回る星屑目掛けて飛んで行った。

 

 

 

 




 執筆、見直しをしていたら投稿日が偶然銀の誕生日になった……。という事でこの後、志騎は刑部姫から教えてもらったレシピを読んでシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテを銀のために作りました。

※シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ……『黒い森のさくらんぼケーキ』という意味のドイツのチョコレートケーキ。

さて、ようやく志騎と銀が再会する事が出来ました。刑部姫も言っていましたが、勇者達との共闘はもう少し先になります。もうしばらくお待ちください。
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