天海志騎は勇者である   作:白い鴉

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刑「今回で戦いは終わり、次の話で一応結城友奈の章は終わる。それから少しまた間を開けるかもしれないが、そうしたらついに最終章といった予定に今はなっている。ま、それはともかくとしてとりあえず今起こっている志騎と結城友奈達の話を楽しんでくれ」
刑「では戦いの終わりとなる第三十九話、ご覧あれ」


第三十九話 ワタシを忘れないで

 大量の星屑とレオ・バーテックスが壁の中に入り込み、満開した東郷がまるでレオと星屑を誘導するように移動する。その前に立ち塞がるのは、友奈、志騎、銀の三人。

「東郷さん」

「友奈ちゃん……」

 不思議な気分だった。別れたのはついさっきのはずだったのに、会うのが久しぶりに感じられる。

 しかし二人の再会に水を差すようにレオ・バーテックスの体が左右に分かれ、左右に分かれた体の間から炎に包まれた星屑達が友奈に殺到する。

 が。

『サジタリウス!』

『サジタリウス・ゾディアック!』

 どこから音声が流れた直後、友奈に襲い掛かろうとしていた星屑達に大量の光の矢が突き刺さり、星屑達は瞬く間に光を上げながら消滅した。

「お前達の相手は俺だっての」

 そう言ったのは左手にボウガンを構えた志騎だった。オレンジ色だった彼の勇者装束は、今は水色に変色している。

 サジタリウス・ゾディアック。その特徴は無数の矢を発射する事ができるボウガンによる広範囲射撃と、弓矢を使用しての強力な遠距離射撃。無数の矢は多数の敵を一気に攻撃できる代わりに攻撃力がやや低いが、星屑程度の耐久力ならば簡単に倒せるようだ。

 志騎は立ち止まっている友奈を見て、声を張り上げる。

「結城友奈! 星屑とバーテックスは俺と銀がどうにかする! お前は東郷を止めろ!」

「はい!」

 彼の言葉に友奈は勢いよく頷きながら、東郷目掛けて跳躍する。

 正直、志騎が何者かは今来たばかりの友奈には分からない。だが、彼が自分なら東郷を止められると信じ、任せてくれているのだけは分かる。ならば、その期待に必ず応えてみせる。

 東郷目掛けて飛んでいく友奈を見ながら、志騎は横にいる銀に確認するように尋ねた。

「いけるな?」

「当たり前だろ」

 にっと銀が何年ぶりかに浮かべた力強い笑みに志騎はふっと笑みを返すと、二人は星屑の群れに突進していった。銀は周囲に斧を展開して迫る星屑を片っ端から切り刻み、志騎はサジタリウスの無数のボウガンで星屑達を蹴散らす。しかしいくら多数の敵を相手取るサジタリウスでも、これだけの数の星屑が相手だと骨が折れるようで、

「くそ、やっぱ数が多すぎるな」

「おまけに壁の外からどんどん湧いてくる! これじゃあ友奈の方に星屑が行っちゃうぞ!」

「ちっ、犬吠埼風と犬吠埼樹は何をしているんだ?」

 刑部姫が苛立ち交じりに舌打ちしながら風達がいるであろう方向を見ると、そこには制服姿の風がばたりと倒れ込むのが見えた。どうやら先ほどの東郷の攻撃で完全にスタミナが切れてしまったらしい。あの様子だと今すぐ戦うのは無理だろう。

「悪い知らせだ、志騎。しばらくお前達二人でどうにかするはめになりそうだ」

「はっ、上等だ。ここで親玉を潰せば良いだけの話だろ!」

『サジタリウス! ゾディアックストライク!』

 サジタリウスのアイコンを一度タップしてベルトにかざすと音声が高らかに鳴り、志騎の左手に巨大な弓が出現する。さらに右手に高密度の霊力で形成された矢が出現、その矢を弓につがえて炎を纏った星屑を生み出すレオに狙いを定める。

「----しっ!」

 そして右手を離すと矢が勢いよくはなたれ、途中で星屑達を何体も打ち砕きながらレオへと迫る。

 だが、その一撃は東郷の戦艦から放たれた霊力の砲撃によって進路を変更され、矢はレオには当たらずあらぬ方向へと飛んで行ってしまった。志騎がチっと舌打ちすると、友奈がまっすぐ東郷へと向かう。

「東郷さん!」

 しかし友奈が接近するのを防ぐように、東郷が自分の周りを飛んでいるビットを友奈に放つ。

「そいつが辿り着いたら、私達の世界が無くなっちゃう!」

「それで良いの。一緒に消えてしまおう……?」

 それに対する友奈の返答は簡潔だった。

「良くない!」

 そう言って友奈がレオに突撃しようと瞬間、レオから追尾式の火球が放たれ友奈に直撃する。

「うわぁっ!」

「友奈!」

 精霊バリアによって致命傷は避ける事が出来たが、攻撃によって友奈は東郷から再び距離を離されてしまう。その間にレオはさらに追尾式の火球と星屑の群体を放ち、志騎達を攻撃する。無論東郷の方にも星屑と火球が放たれているが、彼女は戦艦の砲撃を使って自分への攻撃を防ぎながらレオを神樹へと誘導しているようだった。志騎はどうにか無数の矢で星屑を蹴散らし火球を防いでいるが、サジタリウスは遠距離戦闘と多数の敵には強いものの近距離専用の武器が皆無という弱点がある。このまま責められれば、ジリ貧になってしまう。

「なら、こいつだ!」

『アインソフオウル・アインソフ・アイン!』

 画面のアイコンをタップし、目の前にリンドウを模した紋章と背後にセフィロトの樹を模した図形が出現する。そして素早くスマートフォンをドライバーにかざすと、二年ぶりに聞く音声がドライバーから発せられた。

『ユニゾンセフィロティック!』

『Evolution to Infinity! Sephirothic Form!』

『It's over the ultimate』

 十一のセフィラとリンドウの紋章が志騎と一体化し、勇者装束が白銀に変化。そして胸部のリンドウの紋章を囲むように十の円が円状に配置され、紋章から伸びる金色のラインが全身の部位へとまるで血管のように張り巡らされる。

 これこそが友奈達の『満開』に相当する志騎の姿であり、セフィロトの樹と一体化した姿、セフィロティックフォームだ。変身した直後、周囲の星屑達の動きが急速に停止し、志騎が右手を前に突き出してぎゅっと拳を握ると星屑達が圧縮、爆散し多色の光を上げながら消滅した。

「……言ったはずだぞ。これ以上お前達には、何も奪わせないってな!」

 バーテックスの罪を背負った志騎の、決意の言葉。

 それに彼の中のバーテックスの細胞が呼応し、更なる進化を遂げる。

 志騎の胸部の紋章が光り輝いたかと思うと、志騎の目の前に光が移動する。そしてみるみる光が膨れ上がり、次の瞬間ガラスが砕けるような音と共に光が砕け散り空中に一本の白銀の長剣が出現した。

 刀身の柄側の部分には志騎の胸部のものと同じ紋章が刻まれ、さらに鍔には折りたたまれた天使の翼の意匠が入っている。

 志騎が長剣を手にすると、紋章に配置された十の円の一つが赤く輝き、長剣が深紅の業火を刃に宿す。そして刃を星屑目掛けて振るうと業火が放たれ、空中にいた星屑達を一斉に焼き尽くした。しかし志騎の攻撃はそれだけにとどまらず、さらに十の円の別の一つが黒く輝くと、今度は志騎の周囲に彼の持つ長剣とまったく同じものがいくつも展開し、次の瞬間それらが一気に星屑へと向かい串刺しにする。それを彼の肩に乗って観察していた刑部姫は、思わず口元に笑みを浮かべた。

(……なるほどな。今までの志騎のセフィロティックフォームはいわば未完成。あの剣を持つ事で、初めて完成するってわけか……!)

 志騎が宿すセフィラは神の性質・属性を司ると同時に、それらに一体ずつ守護天使が存在する。

 メタトロン、ラツィエル、ザフキエル、ザドキエル、カマエル、ミカエル、ハニエル、ラファエル、ガブリエル、サンダルフォン。あの剣が志騎の体に宿るセフィラの力によって生み出された事、そして鍔の天使の翼の意匠から天使に関係する力を持っているのは想像に難くない。

 つまり、刑部姫が予想した通り今までの志騎のセフィロティックフォームは未完成体。天使の力を象徴するあの長剣、名称を付けるとすれば『セフィロティックセイバー』を手にする事で、その真価は発揮される。

 志騎が剣を振るうと剣の刀身が分裂して鞭のように変形し、近くにいた星屑達を切り刻む。

 そして元の剣の形状に戻すと、柄を力強く握って攻撃を仕掛けてくるレオ・バーテックス目掛けて突進する。迫りくる星屑達を切り伏せながら目の前まで接近し、その巨体に強力な斬撃をお見舞いする。

 志騎の一撃を食らったレオの巨体のほとんどが砂に還り、体の中から御霊が出てくる。

「クソっ! 浅い!」

「だが御霊が出た! こいつを壊せばお前の勝ちだ!」

「----駄目!」

 が、とどめを刺そうとする東郷が志騎に砲撃を放ち、予想外の攻撃に志騎は剣を盾にして防ぐが再びレオとの距離を離され落下していく。さらに星屑達もレオに攻撃を仕掛けようとする志騎を殺すために、わらわらと湧いてきて志騎に突進してくる。頼みの綱の銀も、この数を前に苦戦しているようだ。

「先にもう東郷美森を殺した方が良いんじゃないか!?」

「馬鹿言うな!」

 志騎の肩に必死に掴まりながら刑部姫が苛立ち交じりに怒鳴り、それに志騎も怒鳴り返す。落下しながらどうにか迫りくる星屑達を切り伏せていくが、そんな志騎に追い打ちをかけるように東郷が悲し気な瞳をしながら志騎に砲撃を仕掛けようとする。それに思わず、ギリ……と志騎が歯噛みした時。

「東郷さん!」

 満開し、左右に巨大な巨腕が追加された友奈は東郷目掛けて突進し巨腕の一撃を放つ。東郷は間一髪攻撃先を友奈に変更して砲撃し、友奈が攻撃を防御する。それによって志騎はどうにか東郷からの攻撃を受けずに済んだが、レオの御霊には大量の星屑が群がっている。うかうかしていたらすぐに再生してしまうだろう。

 共に満開した友奈と東郷は真正面から向き合うと、友奈が口を開く。

「……東郷さん。何も知らずに暮らしてる人達もいるんだよ。私達が諦めたらだめだよ! だってそれが」

「勇者だって言うの!?」

 友奈の言葉を遮るように、東郷が叫ぶ。それに思わず友奈が言葉に詰まると、東郷は今にも泣きだしてしまいそうな苦しい表情で、

「他の人なんて関係ない! 一番大切な友達を護れたいのだったら、勇者になんかなる意味がない! 頑張れないよ……!」

 東郷の言葉に息を呑む友奈の目の前で、レオから放たれた炎に包まれた星屑達が宙を舞う。壁の外からも星屑達が無数に入って来て、銀と志騎の二人がそれらを必死に迎撃している。今はまだ二人のおかげで戦況が保っているが、早く東郷と決着をつけなければいつ最悪の事態に発展しても不思議ではない。

「友奈ちゃん……あのままじっとしていれば良かったのに……。眠っていれば、それで何もかも済んだのに……。もう手遅れだよ……」

 直後、東郷の戦艦から巨大なレーザーが友奈目掛けて発射される。両腕を交差させてレーザーを防ぐ友奈に、東郷の諦観のこもった言葉がさらに続けられる。

「戦いは終わらない……。私達の生き地獄は終わらないの……!」

「東郷さん!」

 しかし迷いの消えた友奈の言葉が東郷に響き、東郷は思わずはっと目を開いた。レーザーに必死に耐えながら、友奈は親友に言葉を投げかける。

「地獄じゃないよ。だって、東郷さんと一緒だもん! どんなに辛くても、東郷さんは私が護る!」

「大切な気持ちや想いを忘れてしまうんだよ!? 大丈夫なわけないよ!」

 戦艦から再びレーザーが放たれ、友奈は今度はもろに攻撃を受けて樹海の根に叩きつけられてしまう。

「結城友奈!」

 星屑を倒していた志騎がそれに気づき、銀も志騎の声と今の爆音で友奈が東郷の攻撃を受けた事に気づいたのか、二人は急いで友奈の元に駆け付ける。レオの方は今はまだ再生中だし、どのみち東郷がレオを守っている以上、友奈が東郷を止めなければレオを仕留める事も出来ない。

 友奈は苦しそうに表情を歪めていたが、精霊バリアのおかげでそこまで大したダメージは負っていない。しかしそれでもすぐには立ち直れなさそうだった。

「友奈ちゃんや皆の事だって忘れてしまう……。それを仕方がないなんて割り切れない! 一番大切なものまで無くしてしまうくらいなら……」

 それに対し、ゆっくりと起き上がりながら友奈が力強く返す。

「忘れないよ!」

「どうしてそう言えるの!?」

 それに対して、友奈は何の迷いも、何のためらいもなく答えた。

「----私がそう思っているから。めっちゃくちゃ強く思っているから!」

 友奈の言葉に、東郷は表情をくしゃっと歪める。彼女の視線は友奈から、彼女の左右にいる志騎と銀に向けられた。かつての親友であり、自分が忘れてしまった親友達を。そして脳裏に浮かぶ、乃木園子の笑顔。東郷は涙をこぼしながら、言葉を絞り出す。

「私達も……きっと、そう思ってた……」

「須美……」

 彼女の表情に、銀は思わず悲し気な声を出す。実際、まだ自分達が満開の事も壁の外の真実も何も知らず戦っていた時、自分達は心の底からそう思っていた。自分達はずっと友達だと。この先何があっても、互いを忘れる事なんてありえないと。

 だが、二年前の戦いでそれらは呆気なく崩れた。鷲尾須美は二年間の記憶を全て失い、乃木園子は志騎に関する記憶を失い、天海志騎は戦いの中で自我と記憶を失った。志騎は記憶を取り戻す事ができたが、東郷と園子は未だ大切なものを失ったまま。しかも東郷に関しては、今こうしてかつて大切だった存在を前にしても、何も思い出す事が出来ない。それはどれだけ辛い事だろう。

「今はただ、悲しかったという事だけしか覚えていない……。自分の涙の意味が分からないの!!」

 彼女の悲しみを表すように、戦艦からの砲撃が辺りに乱射される。それは狙いも何もない無茶苦茶なものだったが、強力な威力を持つ乱射というものはそれだけでも十分に脅威だ。三人は一斉に散り攻撃をかわしていくが、東郷の悲しみは止まらない。

「嫌だよ! 怖いよ! きっと友奈ちゃんも、私の事を忘れてしまう! だから、こんな世界……!」

「----ふざけた事を言うな、須美!!」

 悲しみで辺り一面に攻撃をする東郷に叫んだのは、自らも攻撃を避けながら東郷から視線を外していない志騎だった。そんな彼の表情は、いつも彼と一緒にいた銀ですら見た事が無いほど怒りに染め上げられている。

「志騎……!?」

 彼の表情に思わず銀が目を見開いていると、彼は自分に迫りくるレーザーを能力を使用して別の方向に弾きながら、東郷に叫ぶ。

「確かにお前は二年間の記憶を全て忘れてしまった! だからお前がそうやって悲しむのは当然だし、何も忘れないなんて幻想で、友奈も勇者部やお前の事を忘れてしまうかもしれない!! だけど! それでも残るものは確かにあるってどうして分からない!!」

「何が残るって言うの? 大切な人の記憶も想いも失うというのに、一体何が残ると言うの!?」

 東郷が志騎に極太のレーザーを放つが、それに対する志騎の対応は目の前に長剣の切っ先を軽く突き出す事だった。刀身の紋章にある円の一つが白色に光り、目の前に純白のエネルギーで形成された盾が出現する。盾はいとも簡単に東郷のレーザーを防ぎきると、志騎は盾を消しながら静かに告げた。

「心だよ。例え記憶を失っても、誰かを大切に思っていた心は消えない」

「心……? そんな曖昧なものが、一体何の役に……!」

「じゃあ何でお前は、園子から渡されたリボンをずっと着けてたんだよ」

「……っ!」

 志騎の言葉に、東郷は思わず黙り込む。

 東郷は忘れてしまったが、志騎と銀は覚えている。あれは自分達四人が最後に戦った時に、園子が東郷に渡したものだったのだ。彼女の親愛の証であり、自分達はずっと友達だという事を証明する大切なもの。記憶を失っても、東郷はそれを肌身離さず着けていた。例え記憶は無くても、それがとても大切なものだという事を東郷が----正確には、彼女の心が覚えていたのだ。

「確かに大切な人の記憶も想いも全て忘れてしまうかもしれない。けど、その人の事を大切に思っていた感情は、その人を護りたいという意志はずっと心に残り続ける。何もかも忘れてしまうなんて事は無い。……現に俺だって、お前達の事は全て忘れちゃってたけど、四国を……そこに住む人を護りたいっていう心と意志は消えていなかった。だから銀の声を聞いて帰ってくる事ができたんだ」

 チラリと、どうにか東郷のレーザーを避け切って自分の横に着地した銀を横目に見る。それから再び東郷に視線を戻すと、

「そして、大切な人を護りたいという心があるから人はどこまで強くなれるって事を俺に教えてくれたのは、銀と園子、そしてお前だ。お前達がいなければ、俺はとっくの昔に理性も何もない、人を殺すだけの殺戮兵器に成り下がってた。人の心が持つ強さを、お前達は俺に教えてくれたんだ。そんなお前が、心を否定するな!!」

 その迫力に、東郷が思わず息を呑む。それによって戦艦から放たれていたレーザー攻撃も一旦止み、彼女に隙が生じる。そしてそれを、天海志騎は見逃さない。

「----結城友奈! 行け!」

 直後、東郷に接近する機会を伺っていた友奈が一気に東郷に接近する。はっとようやく友奈から気が逸れていた東郷がようやく気付き戦艦の砲台を友奈に向けようとするが、友奈は左右の巨大な巨腕で戦艦の砲撃を全て掴み上げると、巨腕に繋がっていた部分から自分の両腕を分離して一気に東郷に駆け寄る。

「東郷さん!」

 東郷が迎撃のためにビットを友奈に向けようとするが、近距離で友奈に適うはずもない。友奈は一気に東郷の懐に潜り込むと、拳を引いて東郷の左頬に強烈な右ストレートを放つ。掌に伝わる感触に友奈が歯を噛み締めながら拳を振りぬくと、東郷はその場に倒れた。倒れた彼女を優しく抱き上げると、優しくも力強い声で東郷に言う。

「忘れない」

「嘘……」

「嘘じゃない!」

「嘘……」

「嘘じゃない! 私の頭も心も、何も忘れない。勇者部の事も、東郷さんっていう大切な友達の事も、私の全部が覚えてる!」

 するとまるで氷が解けたように、東郷の両目から涙が溢れ出した。

「……ほんとう……?」

「うん。私はずっと一緒にいる。そうすれば、忘れない」

 嗚咽を漏らしながら、東郷は友奈の背中に手を伸ばし、

「友奈ちゃん……! 忘れたくないよ! 私を一人にしないで!!」

「うん」

 優しく返答しながら、友奈はゆっくりと東郷の頭を撫でる。和解し、抱き合う二人を見て志騎と銀がほっとした表情を浮かべ、その場にわずかに弛緩した雰囲気が漂い始めたその時。

 凄まじい熱波が四人の体を襲い、四人は熱波が来た方向に視線を向ける。

 そこには。

「何……?」

「太陽……?」

 目の前に現れたそれに友奈と東郷が呟く。

 突如四人の目の前に現れたそれは、東郷の言う通り太陽としか言いようが無かった。今まで相対してきたバーテックスが小さく見えてしまうほど巨大な、炎を纏った星。現れた太陽を見て、志騎が呟く。

「これまさか……レオの御霊か?」

「御霊……って事は、バーテックス!? 原型留めてないじゃん!」

 志騎の言葉に銀が悲鳴じみた声を上げると、志騎の肩に乗っていた刑部姫が苦々し気な表情を浮かべながら、

「恐らくバーテックスの体を作り上げて攻撃するよりも、星屑を全て集めてこのまま突撃する事を選んだんだろう。確かにこのサイズが相手だと、正直止めるのは不可能に近い……!」

 そして刑部姫の言葉を証明するように、太陽が神樹目掛けて動き出す。それもゆっくりとした動きなどではなく、先ほどレオが志騎達目掛けて放っていた火球ほどの速度だ。何も手を打たなければ、神樹はすぐに破壊されて終わりだ。

「私……何て事……」

「東郷さんのせいじゃない! あいつを止める!」

「はい……!」

 そして二人は太陽目掛けて高速で移動し始める。高速で飛び去って行く二人を見て、銀が志騎に言った。

「志騎! あたし達も!」

「分かってる! 俺の背中に乗れ! その方が早く……」

「----いや、大丈夫だ」

 え? と志騎が声を上げた次の瞬間、志騎の目の前で橙色の巨大な花が出現し、銀の姿が変わる。

 彼女の姿は友奈や東郷のように荘厳なものになり、爪にあたる部分が全て斧の刃となっている四足獣のような乗り物。それを見て、志騎は思わず絶句した。

「----馬鹿! お前なんで満開した!? また何か失うぞ!!」

 彼女の今の姿は、間違いなく彼女が満開した姿だった。となると彼女は巨大な力を得るが、その代わり体の機能をまた一つ失う事になる。すると、銀は何故かニッと笑みを浮かべて、

「大丈夫だよ。須美がこの世界を守るって決めたんだ。だったら親友のアタシも一肌脱がないと駄目だろ?」

「だけど……」

 さらに志騎が何か言おうとするが、銀は志騎を柔らかい眼差しで見つめて、

「……それに、例え体の機能や記憶を失っても大丈夫だよ。今のアタシには、お前がいる。お前がいれば、アタシのいる場所がどんな所だって地獄じゃない。だから……大丈夫」

「----」

 銀から向けられる信頼と愛情に銀は思わず黙り込むが、すぐに髪の毛をくしゃくしゃと掻くと叫んだ。

「……ああもう! さっさと行って終わらせるぞ!」

「ああ!」

 銀が力強く応えると、二人は友奈と東郷の後を追って太陽へと高速で飛行する。友奈と東郷、少し遅れて志騎と銀が太陽の前に回り込むと、友奈は巨腕、友奈の戦艦、志騎のセフィロティックセイバー、銀の四足獣というそれぞれの武器で太陽を止めようとする。

「「止まれぇええええええええええええええええええええっ!!」」

 友奈と銀が叫び、志騎は自身のセフィロティックフォームの力を全開にして太陽を押しとどめようとする。

 が、

「ぐ、う……!」

「止まら、ない……!」

「クソが、大きさと質量が桁違いすぎる!」

 四人の総力にも関わらず、太陽はまったく止まらなかった。セフィロティックフォームの力を限界まで使う志騎の両手の指が切り裂け、血が溢れる。並大抵の攻撃ならば届かないはずの空間操作の力が通じていないという事実が、目の前の太陽がどれほど規格外であるかを表していた。

 しかしここで四人が諦めるわけにはいかない。もしも諦めてしまえば、それは世界の終わりと同義だ。

「絶対に、諦めな……い……」

 だが、四人の中で先に限界が来たのは友奈だった。彼女の全身から力が抜け、通常の勇者装束となった彼女はゆっくりと樹海に落下していく。

「友奈ちゃん!」

 東郷が叫ぶが、友奈の落下が止まる事は無い。志騎も能力を友奈に回せるほど余裕がない。

 そして友奈の変身が空中で解除され、友奈は樹海の地面へと着地した。

「こんな……ところで……!」

 荒く息をつきながら友奈はどうにか体を起こそうとするが、そこで自分の体のある異常に気づきはっとした表情を浮かべる。

 両足が、動かない。何故なのかはもう分かり切っている。しかし今重要なのは両足を奪われた事よりも、移動ができないという事だ。これでは東郷達と一緒に神樹を守る事が出来ない。

 一方、東郷、銀、志騎の三人は全力で太陽を押しとどめようとしていた。が、三人の全身全霊の力でも太陽を止める事が出来ない。太陽をどうにか押しとどめようとする銀が志騎に叫ぶ。

「志騎!! 何か良い手は無いのか!?」

「無いわけじゃない! だけど、正直手が足りない!」

 志騎の言った通り、奥の手が無いわけではない。だがそれを実行するためには人手が足りない。せめて

あと一人か二人、勇者がいれば……。歯を食いしばりながら志騎がそう思った瞬間。

「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 勢いよく声を上げながら、二人の勇者----満開した風と樹が太陽に突進した。そのおかげで太陽の速度が、ほんの少しではあるが遅くなる。

「樹ちゃん……!」

 東郷が自分の右隣の樹に視線を向けると、返事のつもりなのか彼女は笑みを東郷に向けた。

「ごめん! 大事な時に!」

 さらに東郷の左隣に風が並び立ち、東郷に謝罪する。東郷は表情をくしゃっと泣きそうに歪めると、

「風先輩……私……」

 東郷の言葉に風は東郷の顔を見ると、優しく告げた。

「おかえり、東郷」

「………っ! うぅ……」

 先ほどの事などまったく気にしていない風の笑顔と言葉に、東郷は改めて自分のした事に押しつぶされそうになりながらも、どうにかその心を奮い立たせる。彼女達に謝りたい気持ちも泣きたい気持ちもあるが、今はそんな事をしている場合ではない。

「行くよー! 押し返す!」

 直後、三人の目の前に巨大な光の結界が形成され、太陽の速度がさらにゆっくりとなる。 

 が、

「このぉおおおおおおおおおおおおっ……!」

 それでも太陽は止まらなかった。速度がゆっくりとなったとは言っても、それはあくまでも焼け石に水に過ぎない。このままの状態では、太陽が神樹を破壊するのは時間の問題だ。

「く……五人でも……」

 しかし、忘れてはならない。

 讃州中学勇者部には。

 頼りになる、五人目の勇者がいる事を!

「そこかぁあああああああああああああっ!!」

 上空から勇者に変身した夏凜が飛んできて、手にした二刀で太陽に切りつける。

「夏凜!?」

「勇者部を、舐めるなぁあああああああああああああああああああああああっ!!」

 さらに満開をし、力がさらに増大する。友奈以外の勇者部が全員揃ったのを確認し、風は全員に号令をかける。

「よぉおおおおおしっ! 勇者部ぅうううう……!」

「「ファイトぉおおおおおおおおおおおおっ!!」」

 四人の力が集い、巨大な花弁状の結界を形成。ついに太陽の動きが停止する。

「志騎っ!!」

「ああっ!!」

 ようやく停止した太陽を確認して銀が志騎に呼び掛け、志騎は太陽から離れるとセフィロティックセイバーを握りしめる。剣の十の円が全て光り輝き、十の天使の力が結集する。

 そして両足の機能を奪われた友奈はどうにか起き上がると、ギリリ……と奥歯を強く噛みしめて太陽を睨みつける。

「ぐ……うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 友奈の体の周りに術式が展開すると、スマートフォンを使っていないというのに彼女の体の左右に満開時に現れた巨腕が出現、さらに空中に飛び上がると彼女の姿が満開時の姿に変わる。

「私は! 讃州中学勇者部!」

 満開し、拳を振りかぶる友奈に、勇者部と銀の声が響く。

「友奈!」

「……っ!!」

「友奈!」

「友奈!」

「友奈ちゃん!」

「勇者! 結城友奈ぁあああああああああああっ!!」

 友奈の拳と太陽がぶつかり合い、辺りに激しい炎と熱風が吹き荒れる。当然友奈の拳もただでは巨腕が壊れていき、無理な変身のせいか勇者装束がボロボロと崩れていく。

「----フィニッシュだ!!」

 そこに加わる、七人目の勇者の声。志騎は紋章が光り輝く剣を持ちながら左手にスマートフォンを持つと、アイコンをタッチしてドライバーにかざす。

『マキシマムセフィロティックストライク!!』

 剣に十のセフィラと天使の力が集結して巨大な光の刃を帯び、鍔の天使の翼が勢いよく開く。志騎は柄を力強く握ると、太陽に勢いよく叩きつけた。

「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 十の守護天使とセフィラの力が宿った斬撃は、まさにこの世の理そのものを斬る必殺の一撃。 

 友奈の全身全霊が込められた拳と志騎の斬撃を受けて、原形を留めていられる存在などこの世にない。

 結果、太陽は見事に切断され中心にある御霊が露になった。

「行っけぇええええええええええええええええええええええええっ!!」

 最後の力で志騎は友奈の周りの空間を操作すると、彼女の体がまるで弾丸のように御霊に飛ばされる。巨腕が砕け、勇者の変身が解除されても、友奈の勢いは止まらない。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 志騎の力によって飛ばされた勢いのまま友奈の右手が、今まで隠されていた御霊に触れた。

 瞬間、志騎によって切り裂かれた太陽が光り輝き、巨大な爆発を起こした。神樹の目の前で爆発したものの、幸いその爆発が神樹に届く事は無く、バーテックスが消滅した時に生じる多色の光が天へと昇っていく。

 そして爆発が止み、静寂が戻った樹海に志騎は倒れていた。彼の反対側に銀が倒れており、上から見るとまるで頭頂部をそのまま合わせて倒れているように見える。二人共変身が解除され、ボロボロになった神樹の制服姿と病院の寝巻着の姿に戻っている。志騎は真っ白な空をぼんやりと見ながら、銀に言った。

「……終わったのか?」

「たぶん……」

 先ほど満開したとはいえ、どうやら失ったのは声の機能ではないらしい。その代わり別の何かを奪われているのだろうが、今は生き残った事を喜ぶべきだろう。折角二年ぶりに会えたというのに死に別れするというのは、あまりにも笑えない結末すぎる。

「友奈達も、大丈夫かな……」

「大丈夫、だろ……。ああ、少し疲れた……」

 ようやく自我を取り戻せたと思ったら星屑・レオとの連戦だ。二年間戦い続けていた志騎もかなり応えた事だろう。現実世界に戻ったら、ゆっくりと休みたい。

「そうだな……帰ったら寝まくろう……。ああ、そうだ。志騎……」

「何だよ」

 顔は見えなかったが、銀は笑ったようだった。彼女は笑みを浮かべたまま、志騎に言った。

「お疲れ。あと……おかえり」

「……ああ。ただいま」

 それに志騎も口元にうっすらと笑みを浮かべながら、銀に返す。

 こうして、神世紀300年最大の戦いは、幕を閉じたのだった。

 

 

 

 




 今回志騎のセフィロティックフォームがやや苦戦気味でしたが、この結城友奈の章はあくまでも結城友奈が主人公であるため、志騎の活躍は少し抑え気味にしました。また、セフィロティックフォームはあくまでも万能が特徴のフォームのため、純粋な戦闘能力ではキリングフォームの方が上という事情もあります。それとちょっとした小話になってしまいますが、セフィラは十一あるのにどうして紋章の円形が十しかないかというと、十一番目のセフィラであるダァトは志騎のリンドウの紋章と一体化しているためです。
 さて、今回の話で戦いは終わり、次の話で結城友奈の章は終わりとなります。それが終わったら刑部姫が言った通り、最終章となる『天海志騎は勇者である -勇者の章-』に入る予定になっています。それまでまた時間がかかってしまうかもしれませんが、その時までどうかお待ちください。
 それと、新しいイラストノベルである『結城友奈は勇者である 勇者史外典』がついに11月30日に発売されますね。自分も今から楽しみで、発売日に早速買いに行きたいと思います。
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