刑「今回も合同合宿である事に変わりはないからな。せめてバーテックスが攻めてくれれば私もやる気が上がるんだが……」
志「やめてくれないか物騒な事言うの!?」
刑「そういうな。では第五話、張り切って行ってこい」
合同合宿、二日目。
志騎は刑部姫と一緒に、旅館の近くの海水浴場へと来ていた。とは言っても銀達がいる場所とはだいぶ離れているので、ここから彼女達がどんな連携訓練をしているかは彼も分からない。
「では早速、訓練の説明をするぞ」
「ああ」
タブレットを手にして宙をふよふよと浮かびながら言う刑部姫に、志騎が返事をする。志騎の姿はすでに勇者に変身済みであり、いつでも訓練が開始できるようになっている。
「まずはあれを見ろ」
刑部姫が指さした先を志騎が見てみると、砂浜の上に巨大な装置がいくつも置かれていた。装置は上部が長く、下部には四角い穴がぽっかりと開いていた。穴の部分をよく見てみると、ローラーが上下についている。それを見て、志騎はその装置の名称を口にする。
「……まさかあれ、ボール射出装置?」
「正解」
志騎の答えに刑部姫はにっと笑いながら、説明を続ける。
「今からお前は様々なゾディアックフォームに変身して、一定時間内飛んでくるボールを迎撃しろ。一定時間後に赤いボールが飛んでくるから、そのボールを打ち落としたら別のゾディアックフォームに変身して同じ事を繰り返す。その間一回でもボールがお前に直撃したらアウト、また始めからだ。当然、赤いボールが飛んでくるまでの時間もリセットされるから、クリアできないといつまでも同じゾディアックフォームのままだから気をつけろよ」
「……キツイっちゃあキツイけど、そんな訓練で本当に良いのか? 他の訓練とかはしないのか?」
延々とボールを防ぐのは大変かもしれないが、この訓練内容ではゾディアックフォーム最大の特徴である対応力を活かすための判断力等を鍛える事はできない。もう少し別の訓練もした方が良いのではないだろうか。
「今日の訓練の目的はゾディアックフォームに慣れる事だ。各ゾディアックフォームの力がどんなものか、どのような特性を持っているのか……、昨日頭で学んだ事を実戦を通して体で学ぶのが今回の訓練の趣旨だ。そして学んだ事を頭だけでなく体にも完全に叩き込む事ができれば、連携においてより素早い判断ができるようになる。今日はまずその一段階目といった所だな」
「つまり、体で覚えろって事か。お前、銀みたいな事言うね」
「あんな単純馬鹿と一緒にするな。私はきちんと理論を立ててから実践している。あいつの場合は何の考えもなしに突っ走っているだけで、何の合理性もない精神論だけの----」
「はいはい」
本当に不快そうな表情を浮かべて熱弁をふるう刑部姫を志騎はひらひらと手を振って流した。流された刑部姫はやや不満そうな表情を浮かべながらも、それどころではないと思ったのかすぐに思考を元に戻す。
「……まぁ良い。特訓を始めるぞ。まず、アクエリアスからだ」
「了解」
志騎はスマートフォンを取り出すと、『Zodiac』のアプリを押してその中の『Aquarius』という文字と、星座のみずがめ座のアイコンが表示されたアプリをタッチする。
『アクエリアス!』
そして紋章が画面に表示されると、画面を腰のベルトにかざす。
『アクエリアス・ゾディアック!』
音声が流れると同時、突如志騎の体の周りに画面に表示されたみずがめ座の紋章と同じ紋章がいくつも現れ、それらが一気に志騎の体に吸い込まれると志騎の姿が変わった。服の色は純白から青色になり、両手には青色の二丁の拳銃が握られている。
志騎がアクエリアス・ゾディアックに変身したのを確認した刑部姫は少し離れた場所にあるパイプ椅子に座ると、大声で志騎に叫ぶ。
「準備は良いな!?」
「良いぞ!」
「よし! はじめ!!」
刑部姫の掛け声が発せられた直後、射出装置から次々とボールが志騎目掛けて飛んでくる。志騎が二丁拳銃の引き金を連続して引くと、銃口から水で形成された弾丸が次々と発射され飛んでくるボールを叩き落としていく。さすがに全てのボールを叩き落とそうとしては対応が間に合わなくなるので、自分に向かってくるボールのみを正確に視認して拳銃で打ち落とす。
だが普通ならば、いくら中に自分に当たらないボールがいくつかあったとしても、大量のボールが一気に自分の方に飛んでくれば大抵の人間は焦り、判断を間違えやすくなる。しかし今の志騎にはどのボールが自分の方に飛んでくるのかが正確に見えてきた。そして、それこそがアクエリアス・ゾディアックの特徴だった。
(……アクエリアス・ゾディアック。特徴は二丁拳銃とブレイブフォームよりも強化された動体視力を利用しての銃撃戦だったな)
向かってくるボールを冷静に打ち落としながら、志騎は昨日学んだアクエリアス・ゾディアックの特徴を頭の中で思い出す。実際今の志騎の目は、視界に入っているボールの動きを全て捉えていた。そのおかげで、どのボールが自分に向かってくるボールなのか、どのボールが放っておいても問題のないボールなのかが良く分かる。今よりも集中すれば視界のボールの動きはさらにゆっくりになるだろうが、今のボールの速度ならば問題はない。
志騎が順調にボールを打ち落としていると、射出装置の一つからついに赤いボールが志騎めがけて放たれた。しかもその速度は先ほどから放たれていたボールよりもかなり早い。ボールの速度に慣れてきていたからと言って油断していたら、まず間違いなく体のどこかに直撃するだろう速度だ。
だが、志騎は慌てなかった。強化された自分の動体視力をさらに強化すると、赤いボールの速度が少し落ちた。それでも白いボールよりは早いだろうが、今の志騎にとってはそれだけで十分である。冷静に右手の拳銃の銃口を赤いボールに向けると、引き金を引く。銃口から放たれた水の銃弾がボールに直撃し、赤いボールは別の方向へと飛んで行った。それと同時に全てのボール射出装置が停止すると、満足げな表情を浮かべた刑部姫が言った。
「オッケー。まずアクエリアス・ゾディアッククリアだ。では早速次に行くぞ」
「もう次? 随分さっさと行くんだな」
「当然だ。ゾディアックフォームは全部で十二あるんだ。もたもたしていたら全部こなせなくなる。分かったらさっさとフォームを変えろ! 次はライブラ・ゾディアックだ!」
「はいはいっと」
刑部姫の言葉に肩をすくめながらも、志騎はスマートフォンのアプリを操作してまた別のゾディアックフォームにかわる。
こうして志騎と刑部姫の訓練は順調に進んでいき、十二時までにはどうにか刑部姫から出された課題をこなす事に成功するのだった。
午後、刑部姫との訓練を終えた志騎は昨日刑部姫との勉強に使った和室で、銀達と一緒に安芸による歴史の授業を受けていた。四人の手には神樹館の授業で使われている歴史の教科書がある。授業に備えて、安芸がわざわざ持ってきたものだった。
授業を受けるスタイルも四人それぞれで、須美と志騎はぴしっと背筋を伸ばして真面目に授業を受けているが、銀は「合宿なら勉強しないで済むと思ったのに……!」と内心思いながら片手で頭を抱え、園子に至っては「すぴー、すぴー……」と安らかな寝息を立てている。
「こうして神樹様は、ウイルスから人類を護るために壁を作ってくれたのです。ところが何が起こったのか……乃木さんは答えられる?」
と、歴史の説明を行っていた安芸が園子に言うと、タイミングよく園子の鼻ちょうちんがパチンと弾けた。目が覚めた園子はまだ眠たそうに眼を半開きにしながら、
「はい~。バーテックスが生まれて、私達の住む四国に攻めてきたんです~」
「正解ね」
((あれで聞いてたんだ……))
(やっぱ、何気にすごいなこいつ……)
寝ながらも安芸の話を聞くという地味にすごい技を見せた園子に須美と銀は感心半分呆れ半分の表情を浮かべ、志騎はある意味での凄技を見せた園子に内心感心していた。
二日目がそんな感じで終わった翌日、合同合宿三日目。
「はぁ……くそぉ、今日も駄目だったー」
午前中での特訓後、銀は疲れを取るようにぐーんと両腕を真上に伸ばした。そんな銀を励ます様に、園子が言う。
「でも一日目よりはずっと良くなってるよ~。この調子でいけば、明日にはきっとクリアできてるよ」
園子の言う通り、三人の連携は初日と比べるとかなり良くなっていた。最初は中々うまく連携が取れなかったが、この三日間の合宿のおかげで彼女達それぞれが自分の役割と他の二人の役割を把握し、自分に合った役目を果たす事で動きが最適化されているのだ。この調子でいけば、園子の言う通り明日中には安芸からの課題をクリアできる可能性が非常に高い。
だが、そうなるためには一つの問題があった。
「だけど、天海君大丈夫かしら……」
須美の言う通り、三人の今の所の懸念点は今も一人で訓練を続けている志騎だった。基本的に午後の座学の時などは一緒に安芸の講義を受けているが、少年と少女という事もあり三人が合宿中一緒であるのに対し志騎は食事の時なども一人で過ごしている。いくら性別の事もあるとはいえ、この合宿の目的は志騎の勇者システムの把握と四人の連携を深める事だ。安芸の話によると志騎の訓練の方も順調で、明日ごろには三人の訓練に合流できるとの事だが、正直この三日間ほとんど一緒に行動していないのに、明日早速連携を取る事など本当にできるのかと不安に思えてくるのも事実だった。
「そう言えば安芸先生、今志騎ってどんな訓練をしてるんですか?」
「今日は確か……」
と、安芸が言いかけたその時。
ズドォォオオオオン!! という凄まじい振動と爆音が、海水浴場を襲った。
「わっ! なになに~!?」
「もしかして地震!?」
「さ、さすがにそれはないと思うわ! いくら何でも大きすぎる……!」
須美の言う通り、確かに感覚としては地震に近いが、それにしても振動が強すぎるし鳴り響いた爆音の説明がつかない。百歩譲って地震が起こったとして、その影響でどこかの崖が崩れた音だとしても、ここまでの音は出ないだろう。
そして、振動と音が収まってきた時だった。
「……! あれは……!」
「え、先生どうしたんですか……ってええ!?」
「そんな……っ!」
「わ~! すごい水!」
安芸が突然何かを見て驚いたように目を見開き、その視線の先を追った三人もそれぞれ驚愕の声を出す。
三人の視線の先には、ここから少し離れた海水浴場の光景があった。だがその海水浴場ではあまりにも異常な光景が広がっていた。
まるで海の中の何かが爆発したかのように、大量の海水が立ち上っていた。海水はやがて重力に引かれ、けたたましい音を立てながら海へと戻っていく。その際にも大量の水しぶきが飛び、辺り一帯へと舞っていた。さすがに須美達の元へは飛んできてないが、今頃あの辺りの浜辺は海水で水浸しになっているだろう。
と、そこで安芸が何かに気付き声を上げた。
「あの砂浜……! 天海君と刑部姫が訓練している場所だわ……!」
「……っ! 志騎!」
「あ、三ノ輪さん!」
「待ってミノさん! 私達も行くよ~!」
安芸の言葉を聞いて銀が志騎達がいる砂浜目がけて走り出し、須美と園子はその後を追い、安芸もそんな三人の跡を走って追いかける。
そして勇者の身体能力を以て安芸よりも先に大量の海水が立ち上っていた浜辺にたどり着くと、目の前の光景に改めて驚愕する。
「一体何が……!」
三人の目の前に広がっていたのは、自分達がいた場所と比べてすっかり様変わりしてしまった浜辺だった。浜辺の砂は大きく抉られ、空いた場所に大量の海水が入ってきている。おまけに凄まじい風が吹いたのか、辺りには砂ぼこりと水しぶきがまだ舞っていた。何が起こったのかは分からないが、どうやらよほど強力な衝撃波のようなものが放たれたらしい。さすがにこれが自然に引き起こされたものだとはとても思えない。
「確かにすごいけど……、二人共、今はあまみんを見つけよう」
「……! そうね! 安芸先生の話だと彼と刑部姫がここにいたはずなのに、二人の姿が見えないし……!」
「じゃあ軽く散らばって、二人を早く見つけよう!」
銀の言葉に須美と園子は頷くと、三人はそれぞれを散らばって二人の探索を始める。浜辺はそんなに大きくないので、大きな衝撃が起こったとはいえそんな遠くにはいないはずだ。三人は散らばり辺りを見渡しながら、二人の名前を呼ぶ。
「天海くーん! 刑部姫ー!」
「あまみーん! ひめちゃーん! 聞こえたら返事してー!」
「志騎ー! 刑部姫ー! どこだー!」
三人がそれぞれ大声を出すが、二人からの返事はない。それは数回繰り返しても同じ事だった。もしかしたら先ほどの衝撃に巻き込まれ、海まで飛ばされてしまったのかもしれないという想像が銀の脳裏をよぎったその時、浜辺に人影らしきものが倒れていた。
「志騎!」
それは間違いなく志騎だった。銀が駆け寄って様子を見てみると、目立った外傷は無いものの志騎は目を閉じてぐったりとしており、意識が無いのがはっきりと分かる。ちなみに服の色はいつもの純白ではなく、何故か紫色だった。そして銀の声を聞いたのか、須美と園子も二人の元へ駆け寄ってきた。
「三ノ輪さん! 天海君は!?」
「それが気を失ってて……。志騎! おい起きろって!」
銀が必死に呼びかけると、「う……」と呻き声を上げながら志騎がうっすらと開いた。それを見て、銀は心配と安堵が入り混じった声で志騎に言う。
「志騎! 大丈夫か!? どこか痛い所とかないか!?」
「……頭が痛い」
志騎は少し顔をしかめながら後頭部をさすった。どうやら先ほどの爆風で、後頭部を堤防の壁に強く打ち付けてしまったらしい。気絶していたのも、きっとそのせいだろう。
「志騎!」
と、そこに心配そうな表情を浮かべた安芸が駆け付けた。心配しすぎているせいか、須美達の前であるにも関わらず、呼び方が学校で志騎を呼ぶ時の『天海君』ではなく、普通に家で一緒に生活している時の『志騎』になっている。それに思わず須美と園子がきょとんとした表情を浮かべると自分が今放った言葉に気付いたのか、安芸は軽く口を押さえてからこほんと咳払いをした。
「……天海君。大丈夫? 怪我は?」
「大丈夫です。ちょっと頭を強く打っただけで……」
「そう……」
安芸はほっと小さく安堵の息をつくと、浜辺の惨状を見ながら再度聞く。
「一体、何があったの?」
「ヴァルゴのゾディアックストライクを使ったんだ」
答えたのは志騎ではなく、体中砂にまみれた状態で宙をよたよたと飛ぶ刑部姫だった。志騎は疲れた表情を浮かべている刑部姫を見て、
「お前、どこにいたんだよ?」
「お前と一緒で吹っ飛ばされたんだよ。砂に埋もれて中々抜け出せなくてな、ようやく抜け出た所だ」
言いながら刑部姫は着物についた砂をぱんぱんと払う。それを聞いて、安芸はため息をついた。
「刑部姫……。あなた、あれをこんな所で使わせるなんて……」
「仕方ないだろ? 各ゾディアックストライクを使わせるのが今日の目的だったんだ。それに認識阻害の術をかけてあるから、この光景も衝撃も周りには一切伝わってない」
「そういう問題じゃないわよ。はぁ、後始末が大変ね……」
一体何が起こったのかは銀達は分からないが、安芸の言う通りこの惨状を元に戻すにはそれなりの人手が必要に違いない。その手続きをこれからしないとならない安芸の心情を考えると、彼女がため息をつくのもなんとなく分かる。
「とりあえず、三人は今日の午前中の訓練はこれで終了よ。天海君の方は?」
「こっちもヴァルゴで終わりだ。これで明日は予定通り四人での連携訓練に入れる」
「分かったわ。じゃあ四人共、先に旅館に戻ってね」
「分かりました……」
そう言いながら志騎がふらふらと立ち上がると、園子が志騎に言う。
「あまみん、本当に大丈夫? ふらふら~ってしてるよ?」
「ああ、大丈夫……。ほら、早く旅館に戻るぞ」
そう言って志騎は旅館へと歩いていき、三人は少し心配そうな表情を浮かべて顔を見合わせた後、志騎と同じように旅館に戻るのだった。
なお、午後の課題は座禅であり、須美と志騎はまさにお手本のような座禅を見せたが、園子は座禅の途中で寝てしまい、銀に至っては足の痺れに耐えきれず畳をこてんと転がる羽目になった。
夜、旅館の温泉に入り神樹館の男子用のジャージに着替えた志騎は自分にあてがわれた部屋で何かの書類の束を見ていた。
やがて書類から目を離して目の周りを軽く揉むと、部屋の時計を確認してもうすぐ食事の時間である事を確認する。食事とは言っても大広間のような所で行うわけではなく、旅館の従業員がこの部屋に食事を持ってきてくれるのでこの部屋で食べる形になっている。さらに合宿中では、食事をしながら書類を読むのが常になっていた。安芸に見られたら注意されるだろうが、幸いというべきか安芸は別の部屋を借りているのでここにはいない。一人で食事をするのも大した問題ではない。安芸は基本的に夕食前に家に帰ってくるが、学校の仕事などの関係で帰ってくるのが遅くなり、志騎が一人で夕食を食べる事がたまにあるからだ。
志騎は食事のために書類を軽く片付けてぐーんと体を伸ばすと、部屋の扉が開いた。食事を持ってきてくれた従業員かと志騎が目を向けるが、そこにいたのは予想外の人物だった。
「よっ、志騎! もう頭は痛くないか?」
扉を開けたのは、片手を上げて明るく挨拶する銀だった。ちなみに格好は神樹館の女子用のジャージ姿である。
「銀!? それに、鷲尾と乃木まで!?」
突然の幼馴染の登場に志騎は目を丸くするが、背後に園子と須美が立っているのを見て思わず再び驚いた声を上げる。園子は「あまみんこんばんわ~」とのんびりとした口調で挨拶し、須美は少し緊張しているような表情を浮かべながら「こ、こんばんわ」と挨拶をする。
「どうしたんだよ、お前ら。安芸先生からこっちに来るのはダメだって言われてただろ?」
三人と志騎はまだ小学生とはいえ、男と女である。そのため安芸は三人と志騎は部屋を分けられ、睡眠はおろか食事も別々になっていたのだ。ならば夜遊ぶのは良いのではないかと思うかもしれないが、翌日も訓練が待っているので早く寝るようにと安芸から言われているので、三人がこちらの部屋に来る事は基本的に無かった。
「あたしが安芸先生に頼んだんだよ。明日は初めての四人での合同訓練だし、連携を深めるためにも必要だってね。ほら、同じ釜の飯を食うって言うだろ?」
「ついでに一緒に遊ぶ事もお願いしたら、ちょっと悩んでたけど仲を深めるためならって事で認めてくれたんだ~。あとで四人で一緒にゲームしようね~」
「まぁ、一緒に寝るのは駄目だって言われたけどな!」
「「それは当たり前だ(よ)」」
「二人共、息ぴったりだね~」
銀の発言にツッコミを入れた志騎と須美の台詞がハモリ、園子が楽しそうな口調で言った。
そしてその後、旅館の従業員さんが四人の食事を持ってきてくれ、四人は食事を始めた。
旅館で出る夕食は海産物を使った和食であり、しかも大赦のおかげなのかかなり豪勢である。大きな魚の刺身にカニなど、普段の生活では中々食べられない食材ばかりである。しかも全部美味しいときては、もう文句なしである。
「わっしーもだけど、あまみんの荷物も少ないね」
「そうか? 合宿だし、あれで十分だろ」
部屋の隅には、合宿のために持ってきた志騎の荷物が置かれていた。とは言っても荷物は替えの服や歯磨きセット、タオルなど必要最低限の生活必需品だけであるため、園子の言う通り少ないように見える。
「天海君の言う通りよ。合宿なんだから、たくさんは必要ないと思うわ。三ノ輪さんなんて、合宿の初日にお土産をたくさん買ってるし……」
「いや、それを言うなら園子だろ……。もうどこからツッコんで良いのか分かんなかったし……」
「ふっふっふ~、合宿中に、臼でおうどん作ろうと持ってきたんよ~」
「ちょっと待て。まさかマジで臼持ってきたのか?」
「うん、そうだよ~」
「マジか……あの荷物のどこに……?」
少なくとも、園子が持ってきた荷物の中に臼らしきものは無かったように見えたが、一体どんな収納方法を使って持ってきたのか結構気になる。それに臼も相当重量があるはずだが、本当に持ってきているとしたらよく持ってこれたものである。
四人は食事を終えると、銀が持ってきたトランプを用いてのゲームを開始した。トランプを用いてのゲームはたくさんあるが、ひとまず誰もが知っているという事でババ抜きを行う事になった。
「そう言えば、ミノさんとあまみんって仲良いよね。幼馴染って聞いたけど、どれくらいから一緒なの?」
ペアになったカードを捨てながら、園子が二人に尋ねた。須美が園子の手札の中からどのカードを取るか悩むのを見ながら、銀が答える。
「うーん……確か神樹館に入学する時ぐらいだったから、大体六年ぐらいかな?」
「ああ、そうだな」
今度は須美の手札からカードを抜き、ペアになったカードを捨てながら志騎が言う。銀は志騎の手札からどれを抜くか手をうろうろさせていたが、やがて手札の中から一枚を素早く抜く。そしてカードを見て、げっと苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべた。どうやら
「でも、一体何があって二人はそんなに仲良くなったの?」
園子が銀からカードを一枚抜いて再びペアになったカードを捨て、その園子の手札からカードを抜きながら須美が尋ねた。
正直、志騎と銀の性格はほとんど正反対である。明るく活発な性格で好奇心旺盛な銀と、暗いとは言わないが大人しめで冷静な性格、そして何事にもまず理屈を立てて行動する志騎。この二人が一体何がきっかけで幼馴染となり、ここまで仲良くなったのか須美には少し興味があった。
「初めて会ったのは、確かあたしの家の前だったよ。近所に引っ越してきた人が来たって母ちゃんと父ちゃんが言ってきて、それで一緒に玄関まで行って会ったのが初対面だったな」
「へぇ、じゃあ天海君は違う所から引っ越してきたのね。前はどこにいたの?」
外の世界がウイルスのせいで滅亡してしまっている以上、四国のうちのどこかというのはもう決まったようなものだが、それでも自分達の知らない場所というのは興味があるものである。
だからその質問も、他愛もない好奇心からのもので、深い意味などない。
そう、須美は思っていた。
「…………」
だが、何故か志騎の反応は意外なものだった。
問われた志騎は須美のトランプを引こうとした手を止めて、少し目を見開いていた。
しかし須美には、その目が目の前の光景をとらえていないように見えた。まるで、ここではない遠くの景色を見ているような----そんな感じがしたのだ。
「……天海君?」
「あまみん?」
さすがに志騎の様子が少しおかしいと思ったのか、須美と園子が志騎に声をかける。志騎はトランプを取ろうとする手を止めたまま口を開いた。
「----俺、は」
と、そんな時だった。
「な、なぁ志騎! さっさとカード引けよ! 遊ぶ時間が無くなっちゃうだろ!?」
まるで話題を遮るかのように、銀が引きつった笑顔を浮かべながら志騎に大声で言った。
「あ、ああ」
それにびくんと体を震わせた志騎は少し動揺しながらも、須美からカードを一枚抜いてペアになったカードを捨てる。これで志騎の持ち札は残り一枚。次に銀がカードを抜くので、勝利確定だ。
そして銀が志騎の手札を抜くと、笑顔を無理やり浮かべながら、
「いや~、やっぱり志騎は強いなぁ! あたし、昔からお前にゲームとかで勝てた事ないもんな! あ! それとさっきの答えだけど、まぁ志騎が引っ越して来てから色々あって仲良くなったんだよ! なぁ志騎!」
「……ああ」
銀の言葉に志騎が小さく頷いた事で、強制的にその話題は打ち切られた。
だがこれを見ていた須美と園子の頭には、ただ疑念しか無かった。
(色々あったって……)
(どう見ても、それだけじゃないよね~……)
今の志騎と銀の反応は、色々あって仲良くなったというだけで起こるようなものではない。何か、須美と園子が意図せずに、志騎の触れられたくないものに触れてしまった事で原因で起こってしまったような……そんな反応だった。
だが、だからと言ってその理由を無理やり聞き出すわけにもいかない。今の二人の反応を見るだけでも、その理由を話す事があまり好ましくない事は分かる。そんな事をしてこの場の雰囲気を壊したくもないので、須美と園子は今この場ではその話をするのは止めようと思った。
それからゲームは進み、二番目に上がったのは園子、三番目は須美、そして銀は最下位という結果になった。
「うぐぐ……自信あったんだけどなぁ……」
「あれでよく自信があったって言えるわね……」
「お前はまずポーカーフェイスを覚えろ」
テーブルにうなだれながら悔し気に言う銀に須美が困ったように言い、志騎が呆れたように言った。実際銀は感情が顔に出やすいので、手札を読む事が難しくない。運以前の問題として、彼女はまずその点を改善した方が良いだろう。
それから休憩のために志騎は部屋に備え付けられていた四つの湯呑に急須で茶を注ぐと、三人に渡した。ゲームのおかげか、先ほどの妙な空気はすっかり取り払われていた。
四人がゲーム後のお茶をのんびりと楽しんでいると、園子がテーブルのわきにある書類に気が付く。
「あれ? ねぇあまみん、これなーに?」
「ん? ああ、見れば分かる」
そう言われて園子と、ついでに銀と須美が横から覗き込むように書類を見て、その内容に三人は思わず目を丸くした。
「これってもしかして……私達のこれまでの連携訓練の内容?」
「わ~、びっしり書かれてるね~」
園子の言う通り、書類には須美、園子、銀の戦い方から特徴、弱点、さらにはここ最近の訓練でどんな連携を行っているのか、何が良くなってきているのかが事細かに書かれていた。お茶をずず……と飲みながら、志騎が言う。
「刑部姫に渡されたんだよ。いつ四人での連携訓練をしても良いように、戦い方を頭に叩き込んでおけって」
「うわぁ……。なんかこれを見てると、あいつ本当に天才だったんだなって感じるな……」
刑部姫が書いたと言われると何か毒舌交じりの解説などが入っているんじゃないかと思われるが、書類にはそのような記述は一切ない。それどころかただひたすら客観的な視点から見た連携訓練の情報が書かれている。しかもその全てが的確で、間違っている所が一つもない。銀が言った通り、これを見ているだけで書いた本人……つまり刑部姫が本人の言った通り天才だという事が一目で分かってしまう。
しかしそれ以上に、三人には書類に気になる点があった。
「てか志騎……。もしかして一日の訓練が終わった後もこれずっと読んで、あたし達の戦術とか勉強してたのか?」
書類はつい最近渡されたものとは思えないほどくたびれており、しかも書類のあちこちに色付きのマーカーで印付けされている。付けた人物はもちろん、三人の目の前にいる少年だろう。
すると銀の言葉に志騎はこくりと頷きながら、
「当たり前だ。ずっと個人で訓練してたからって言って、お前達の足を引っ張るわけにもいかないからな」
志騎本人はあっさりと言っているが、それは簡単にできる事でもないだろう。何せ彼の勇者システムの学習に加えて、三人の戦術なども学ばなければならないのだ。しかも一日の訓練が終わった後に行うのだから、疲労も溜まっているに違いない。
しかしそれでも志騎は、万が一にでも三人の足を引っ張るわけにはいかないと、こうして書類を読みふけり三人の戦術や行動パターンなどを頭に叩き込んでいたのだろう。
「まぁ、今まで別行動してきたわけだから信じられないだろうけど……明日はお前達の足を引っ張らないように努力する。だから、その……明日はよろしく」
ややバツが悪そうに言いながら頬を掻く志騎だが、今の三人は志騎の心の内がもう分かっていた。三人はにっこりと頷くと、三人それぞれ志騎に言う。
「うん! 明日は一緒に頑張ろうね、あまみん」
「私達はもちろんだけど、天海君もこの合宿で頑張ってきたんだから、きっと上手くいくわ」
「そうそう! よーし! 四人力を合わせて、訓練クリアするぞー!」
「お~!」
「お、おー」
「……おー」
銀が力強く拳を高く掲げると、それに園子がテンション高く乗っかり、須美も少し恥ずかしそうにしながらも拳を上げ、志騎は小さな声で言いながら拳を掲げた。
「んじゃ、明日の訓練の連携のためにも次のゲームするか! 次は何にする?」
「はいは~い! 七並べ~!」
「えーと、じゃあ……神経衰弱とか?」
「銀が圧倒的不利だな」
「おいおい志騎、それはどういう意味だ? 理由によっては、さすがのあたしも泣くぞ?」
と、三人が楽し気な会話をしている部屋の外で。
「良いのか? 少しはしゃぎすぎだが」
「四人の連携のためにも必要な事よ。ここに来てから四人揃って何かする事なんて無かったし、別に構わないでしょ?」
そんな会話をしているのは、寝間着に身を包んだ安芸と旅館の着物らしき服に身を包んだ刑部姫だった。安芸は四人がいる部屋の扉をちらりと見ながら、
「一+一+一を十にするのが鷲尾さん達の役目なら、十を百にするのが志騎の役目。そのためには、四人の強い絆が必要不可欠になる。そのためなら、これぐらいは目を瞑るわよ。……さすがに騒ぎすぎる場合は止めるけど」
「ま、その心配は不要だろう。最悪志騎と鷲尾須美が止めるだろうしな」
刑部姫はそう言うと、くぁとあくびをした。そんな刑部姫に、安芸は少し不安そうな表情を浮かべながら尋ねる。
「……ねぇ刑部姫。一つ聞いていい?」
「何だ?」
「……鷲尾さん達が一+一+一を十にして、志騎がそれを百にした状態なら……彼女達は、バーテックスに勝ち続けられる?」
安芸の言葉に刑部姫は空中で動きを止めると、くるりと振り返って安芸の顔を真正面から見る。
そして、まるで氷のような冷たい声音で、言った。
「
「……っ」
半ば予想していたが、やはり本人の口から言われるとかなり心にくる。唇を噛み締める安芸を冷徹な瞳で見ながら、刑部姫はさらに続ける。
「確かに四人分の力を百にすれば大抵のバーテックスには勝てるだろう。……だが、鷲尾須美達は人間だ。どれだけ頑張っても、奴らは兵器にはなれない。だからどれだけ連携を鍛えても、百程度の力しか出せない。それに対して、バーテックスはまさに兵器として完成した存在だ。アクエリアス・バーテックスやこの前出現したライブラ・バーテックスならまだ倒せるだろうが、ゾディアッククラスの中でも上位のバーテックス……スコーピオン・バーテックスやレオ・バーテックスには正直今のままでは勝ち目は薄いだろう。何せ、こっちが四人で百の力を発揮するなら、奴らは一体で千はおろか万もの力を発揮する。……このままぶつかれば、確実に三人の勇者のうち一人は死人が出る」
「……志騎は数には入っていないのね」
「もちろん今のままなら志騎も死ぬだろうさ。今のまま、ならな」
刑部姫の言葉を聞きながら、安芸は部屋の扉をじっと見つめる。扉の向こうでは今頃、四人の勇者達が遊びながら友情を深めている所だろう。
「……嫌なものね。こちら側の犠牲を抑えるためには、彼女達と志騎にさらに強くなってもらうしかない。だけどそうするとその過程で、志騎は志騎で無くなってしまうかもしれない……。私達は、本当にあの子達に、残酷な選択をいつも押し付けている」
「なんだ。今更そんな事で悩んでいたのか?」
「………」
刑部姫の言葉に安芸が黙り込むと、刑部姫ははぁとため息をついた。
「鷲尾須美達はともかく、志騎がいずれそうなる事はお前も分かっていたはずだ。それを分かっていたからこそ、お前はずっと志騎を育ててきたんだろう。それなのに、何故」
「私は」
それはまるで、刑部姫の言葉を遮るようであった。
「私は少なくとも、それだけが目的であの子を育ててきたんじゃない」
「……そうだったな。それは、かつての私の願いでもあったな」
かつての私、という言葉に安芸の顔がかすかに歪む。それは今まで安芸と一緒に暮らしてきた志騎でも見た事がないほどに切なく、悲しい表情だった。
「……確かに私が志騎を育ててきたのは私達の……大赦の思惑もあるわ。だけど同時に彼女と志騎の願いのためでもある。それはあなたも分かっているはずでしょう?」
「まぁな。それは私も十分に分かっている。……だが同時に理解しているはずだ。 もしもその時が来たら、志騎は確実に今までの生活には戻れなくなる。それだけは頭に刻み込んでおけ」
安芸はその言葉に一度自分を落ち着かせるようにすっと瞳を閉じると、静かに目を開ける。そこにはもうさっきまでの悲しそうな表情を浮かべていた安芸の姿はなく、代わりにいつも志騎達の前で見せる冷静沈着な大人の女性である安芸の姿に戻っていた。
「安心して頂戴。それは私も十分に分かっているから。……だけどあなたも本当に昔から変わらないわね。いつも人が言いにくい事を、何のためらいもなく言うんだから」
「生憎そういう性分でね。それに真実をいつまでも隠し続けてそこに何が残る? 私に言わせれば、真実を隠し続けた組織に残るのは疑念と不信感だけだ。……大赦もそうならないようになると良いな?」
「……まったく、あなたって人は」
非常に悪い笑みを浮かべている刑部姫を肩に乗せた安芸は一度ため息をつくと、志騎達の部屋から離れて自分の部屋へと戻っていくのだった。
二時間後。
「むにゃむにゃ……。えへへ~、こんなにたくさんのうどん食べられないよ~」
「なんてテンプレな台詞を……。おーい、園子ー、寝るなー。寝るのはあたし達の部屋に帰ってからだぞー」
「う~ん……は~いお母さん……」
「乃木さん、三ノ輪さんはお母さんじゃないわよ……」
志騎の部屋の前でうつらうつらと船をこぐ園子に銀が言うと、園子は半分夢の世界に旅立ちそうになりながらもどうにか返事をした。
現在の時刻は夜十時。もうすぐ就寝時間だ。四人は今志騎の部屋の前におり、園子が立ちながら眠たそうな表情を浮かべ、そんな園子の手を須美が握っている。須美は園子が転ばないように気を付けながら、部屋の前に立っている志騎に言う。
「じゃあ、おやすみなさい天海君。明日はよろしくね」
「ああ、二人共おやすみ」
「うん、おやすみあまみん……」
どうやら半分夢の世界に行きながらもちゃんと志騎の声は聞こえていたらしい。園子は眠たげな声で返事をすると、自分の手を引く須美と一緒に自分達の部屋へと帰って行った。そしてその場に残されたのは志騎と銀だけとなった。
「じゃあ、あたしも部屋に戻るな志騎」
「ああ、おやすみ」
だが、志騎が言っても銀は何故か中々部屋へと帰らなかった。それに志騎が怪訝な表情を浮かべると、銀は少し心配そうな表情を浮かべながら、
「あ、あのさ志騎。さっきの話だけど……」
「ああ、あの事か」
銀が言っているのはもちろん、須美が志騎に元々はどこに住んでいたのかという話だろう。どうやら彼女はその話題を終わらせた時から、内心ではその事をずっと気にしていたらしい。銀らしいな、と志騎は内心思いながら苦笑を浮かべて言う。
「別に俺は気にしてねぇよ。だからそんな顔するなって。な?」
「……あ、ああ」
志騎の安心させるような口調に、心配そうな表情を見せていた銀は少しぎこちないが笑みを見せてくれた。そんな彼女に志騎が安堵を覚えると、ふとその視線が彼女の花の髪飾りに向けられた。
「そう言えば、お前まだその髪飾りしてるんだな」
銀はその言葉に一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、やがてああ、と言いながら髪飾りに触れ、
「当たり前だろ? ……これはあたしにとって、すごく大切なものだからな」
優しい声で言いながら、銀は愛し気に髪飾りを撫でた。その言葉を聞き、志騎は思わず目を逸らして頬を掻く。すると自分が何を言ったのかようやく理解したのか、銀は少し顔を赤くして言った。
「じゃ、じゃあ志騎! 明日も早いし、あたしも部屋に戻るな! おやすみ、志騎!」
そして銀はさっと身を翻すと、照れ臭いのかスタスタスタと素早い動きで自分達の部屋へと戻っていく。志騎はそんな銀の姿を見送ると、頭を掻きながら部屋に戻り扉を閉めるのだった。