日刊短編集   作:速川渡

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今回の登場人物の年齢設定は高校から大学生くらいを想定しています。


恋するあなたに恋をした

 私の好きな人は私の親友の彼氏だ。

待って欲しい。言い方が非常に端的過ぎたのは否めないし誤解されても仕方ないが、ドン引きするのはやめて頂きたい。

分かった、もう少し具体的かつ正確に言おう。私は親友とイチャ付いてる親友の彼氏が好きだ。

ああもちろん好き(LOVE)の方である。要するに横恋慕ではあるが、親友が居なければその横恋慕は成り立たない。親友のことが好きで一途な彼に私は恋をしている。

 故に、この恋愛は破綻している。私を愛して欲しいのではなく親友を愛している彼というものに私はトキメいたのだ。一般の恋愛観から大きく外れ、他人を好いている人を好きになるという異常者が私だ。しかし、この歪んだ恋愛観で何が悪いのか。私は恐らく生涯独身で居るだろう。彼ら彼女らが結婚まで行くかはさて置き、恋愛対象が自分でないこと(もっと正確にいうと私の親友に恋している)が相手を好きになる条件な私ではまともなカップルにはなれないだろう。

 

だから、この()()は受けられない。

 

「あなたが好きです。お付き合いしてください!! 」

「ごめんなさい。私は貴方とそんな関係になる程仲が良いとは思わないわ」

 

 断った。しかも、相手に深く突き刺さるであろう言葉で。その男の子は、話が合い友達で居るくらいが丁度いいと思える人だった。しかし、その時間を私は否定した。実のところ、そんな感情を自分に持ってくれる事が少し嬉しかったが、私は恋人をつくるつもりはさらさらない。明日から、会うのが気まずいな。そんな事を思いながらその場を後にしようと踵を返し──

 

「わかった。でも諦めないから! 好きになってくれたら、いつでも言ってね!! 」

 

 なんという、楽観的思考回路(ポジティブシンキング)か。いや、図太さと言うべきか。

それから、事あるごとにその男の子は私に自身の話をしてきたり、私の前でカッコつけようとしたり、再度告白してきたりと私にとってかなり鬱陶しい存在になりつつあった。ただ、その男の子のこと自体が嫌いになった訳ではないむしろ前より仲良くなった程である。アピールがうるさい友人というのが今の彼への印象である。

 

 そんなある日、転機が訪れた。

 

「ねえ、【私の名前】さんって【男の子の名前】のこと好きなの? 」

 

 そんなことないよ。ただの友達だよ。そんな風に奇妙な関係性を誤魔化す。そして帰って来た言葉は

 

「私......【男の子の名前】のこと、ちょっと良いなぁと思っててさ。協力してくれないかな、仲良いんでしょ?」

 

 私は光明を見た気分だった。当然のように肯定の意を述べた私の胸は、小さく、本当に小さく正体不明の不快感を覚え始めたのだった。

 

 

 

 

 私に告白して来た男の子を好きになった女の子。思えば私も恋をしている人に惹かれている。だから彼女の気持ちもよく分かる。

色々愛の告白のシチュエーションを整えて彼女を送り出した後、酷く胸がザワついていた。この正体不明のザワつきは何なのだろうか。

私には彼女の行末を見届けられるだけの精神的余裕が湧かなかった。まあ、一緒に行ったところで邪魔になるだけだ。

 

 そんなことを考え(に胸を傷め)ながら帰路につき──

 

「待ってくれ! 」

私は振り向いた。心無しかまたぎゅっと胸が痛い。

 

「何? どうしたの? 貴方を好いてくれる可愛い女の子はどうしたの? 」

 

相変わらず意地の悪い事を言ってしまう。しかし、今日は胸の痛みで機嫌も悪いので、仕方のない事だ。

 

「......いや、あの子の告白は断った」

 

その言葉を聞いて、一瞬頭が真っ白になって、私の気持ちやらあの子の気持ちやらを、踏みにじったこの男に対して激情に駆ら──れそうになった次の瞬間私は固まった。

 

「やっぱり、君が好きなんだ。俺にそういう風に皮肉やら悪態ついてくるところも、澄まし顔で淡々と話すようすも。どうしても諦め切れないから」

 

そんなセリフが飛んで来た。胸の痛みは消えていた。

 

ああ、もしかして。私も、きっと────




構想自体は前からあったものです。
ただ、形にするとなると意外に難しくて、実際難航しました。
登場人物は皆恋をしている誰かに恋をするというお話でした。
名前を作らなかったのは、そういう表現の練習と名前考えるのが面d......って感じです。


この後どうなったのかは、言わぬが花。読者様方の想像にお任せします。

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