不定期刊短編集   作:速川渡

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創作のリハビリテーション。

私の夏のイメージは爽快感と喪失感です。
ひと夏を過ごして、遊んでいる時が楽しい爽やか。

夏の終わりが近づいて、楽しい時間が終わってしまう喪ってしまう。

そんな夏のお話で楽しんでいただければ、幸いです。


君のいない、夏の終わり

 今年も、また、夏が終わる。

 あいつがいないまま。終わってしまう。

 

 あの輝かしい夏の思い出が、昨日のように錯覚する。もう、数年は経っているのに、私の夏は終わってくれない。

 意味もないのに、もう終わった話が脳裏に繰り返し、繰り返し、蘇る。

 

 

 

 今年もまた夏が、来た!

 高校生2度目の夏。夏季休暇は学生に与えられたオアシスのような自由期間であった。

 夏休みをどうやって過ごそうか、友人の彼を自分ちの自室に招いて相談をする体でくだらない駄弁りをする。最近好きな曲とか、読んで面白かったゲームとか、見て楽しめたアニメの共有とか、あるいはとりとめのない発展性も皆無な雑談とか。

 

「海行くのはどうよ、折角近いんだしさ」

「いーけどさぁ。駅2つ分くらいの距離だし、でもクーラー効いた部屋でのんびりゲームで遊ぶってのが、現代の賢い遊び方だと思うけどねえ」

「かっーー! イカン、イカンのよ。夏は外遊びはした方が思い出になるやろがい。そんなゲームしてばっかりで思い出一つないのは悲しい人生だよ」

「思い出って、まだ高2だぜ。そんなもんは今後いくらでも作れるだろうに」

「甘いな、高2は実質的に高校最後の夏だよ」

 

来年は受験もあるし、それに────

 

と、言葉が止まって、違和感を抱く。なんだ今の間、気になるようなわざとらしく開けたような。あるいは、言おうとして思い留まったような、不穏な間だった。

 だからその続きを聞こうとした。聞こうとして、さえぎられた。

 

「それにって、なんの────」

「楽しむために行きたいんだよ。地元の近くだけど海岸のごみ拾いボランティアとかでしか行かないしな」

「────あぁ、まあそうだな。行こうと思わないからなあ」

 

 続いたその言葉に納得した、海と聞いたら普通は観光とか海水浴とかだろうが、地元にあるとゴミ拾いのボランティア活動で行く場所の候補の一つくらいで、遊び場という認識が薄かったりする。

 アクティブで遊びに行っている奴らもいるけど、正直何が楽しいのか、どう遊ぶのかよくわからないから行かないという自分のような人間も多い。というか、ここで駄弁っている二人はまさにそうであった。

 

 そうして予定を立てて、たまには遊びに海に行くのも良かろうと海水浴をしようということになった。

 

 

 

 その日の海水浴で遊んだ時の事を、詳しく覚えていない。

 

 いや、何をしたかは思いだせる。浮き輪の上に片方が乗って、もう一方がそれを後ろから押して砂浜を俯瞰できるくらいまで沖に出てみたり、砂で山を作って両方から砂を掻いて穴をあけ貫通させたり、波打ち際で立って波に引き込まれる感覚をきゃっきゃと小学生みたいに楽しんだりという遊んだこと自体は思いだせるが、その時の感傷やら気持ちやら想いやらは、多分あの日に置いてきてしまった。

 

 それらを思い出したところで辛いだけだ。その最後に待つものが先に過ってしまう。

 

 

「は、お前。いま、なんて」

「来週には引っ越しだって言った」

 

 帰り道、サイダーとコーラの350缶を飲み干して手持ち無沙汰に持っていたのを、地面にカランカランと落とすほどの衝撃だった。そんなそぶりは、そんな話は全く知らなかったのだから。

 

「学校の連中にはもう伝えて別れも済ませた。お前には、今日。今伝えた」

「いきなりどうして────」

 

 理由を聞きただし答えを受けたが、記憶の中ではぼんやりしている。家族の都合とか、聞いてもいない詳しい所まで実に誠実な回答をもらった気はするがどうでもよかった。そんなことを聞いているんじゃあなかった。その友はいるのが当然のような存在だった。

 当たり前が、こんなに虚しく、簡単になくなるなんてことを知るわけがなかった。

 

 

 その後、どんな話をしたかも、どんなに涙を流したのかとかも、彼がいなくなるのがどれだけ嫌なことだったのかも、深い傷にはなっているが覚えていない。

 

 そのまま疎遠になって。

 今日。

 

 この日まで、それをずっと引きずっている。

 

 夏が終わる。終わってしまう。

 あいつがいないまま、自分は立ち上がれないまま。

 

 ポロロンっとスマホが鳴り響き、液晶にメッセージが浮かぶ。

 エアコンの効きすぎでいやに涼しい部屋で、その画面をみると。

 

『明日そっち行くから、海行こうぜ』

 

 なんともまあ。こちらの事なんて、全く考えていないような。あるいは気遣っているような。そんな、晩夏の夜にアプリを起動して返信する。

 

『えぇー。いいけどさぁ。もう夏も終わるぜ?』

 

 直ぐに返信が返ってくる。

 

『ようやくこっちが落ち着いたの!お前と遊びたいんだよ!』

 

 その返答に、終わらない夏がようやく終わらせられそうな、そんな爽やかさをかんじた。





ご拝読いただき感謝です。

今後は、週に1回日曜に投稿をしようと思います。
出来なくとも、月に1本以上は書きます。

お気に召したら、感想までいただけますと幸いです。
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