"天剣"は鬼を斬る   作:青めだか

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どうも、一年あれば完結するだろうと信じてやまなかった系作者です。復活しました





逆鱗

 

 

 那田蜘蛛山。かつては峰が美しく自然豊かな土地として有名であったが、いつしか鬼達の住処へと変わり果て…文字通り網にかかった獲物(人間)を捕らえる蜘蛛の巣と化してしまった。幾度も鬼殺隊士を派遣するも生きて戻った者はこれまで一人もいない。繰り返される攻防の中で危機感を感じた本部は遂に最高戦力「柱」を二名投入する事を決定した。

 今宵も隊士達が死力を尽くして戦っている。那谷蜘蛛山に住まう鬼達との永きに亘る激戦は、今まさに終結を迎えようとしていた—————。

 

 

 

 

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「ぐ……禰、豆子…………」

 

 

 限界に限界を重ねた身体を無理矢理動かして、炭治郎は血を流して倒れている禰豆子()の元へ近付いていく。浅草の騒動から数週間が経った。日々任務を遂行する過程で共に行動する仲間も増え、一層鬼の討伐に精進せんと意気込んだ矢先だったのだ。

 ()()()()の同時討伐。前回の鼓鬼の時とは違い、各々が明確な意思を持って協力し合っている。集団を統率する鬼が"十二鬼月"と判明したのも既に数刻前だ。はぐれた仲間は現在も山の何処かで戦っており、安否も気にならないと言えば嘘になる。しかし、現在最も優先すべきは…自身の想いに呼応し尽力してくれた妹なのだ。

 唯一人残った大切な家族の元まであと僅かの距離に到達した、その時—————

 

 

 

 

 

「—————僕に勝ったと思ってるの?」

「!!!」

 

 

 

 

 そんな……何故生きている!?

 

 

 

 

 振り向けば胴体から切り離された自らの頸を血鬼術の糸で吊り下げた鬼が、激しい怒りの表情を露わにして背後から詰め寄ってくる。頸を斬られた鬼は例外無く灰となって消滅する筈なのに…。想定外の事態に呼吸が更に乱れていく。鬼は再び繋がった頸をコキリ、と鳴らし口を大きく開いた。

 

 

「分からない?刃が届く寸前に()()()()()()()()()()()()()。一瞬でも勝利を掴んだ悦びを味わえて良かったね」

「……!!」

 

 

 鬼の名は累。蜘蛛型の鬼の頭目にして、十二鬼月"下弦の伍"の称号を与えられた強者である。攻守共に優秀な「糸」を巧みに扱う血鬼術は、自身が凄いと評した響凱のそれが霞んで見えてしまう程に強力で、技を見切り避ける事すら至難を極めた。浅草の結界内で"下弦の肆"と相対した際は実感が湧かなかったが、如何に彼女が追い詰められ弱体化していたかを思い知る。鬼舞辻無惨直属の配下、十二鬼月本来の実力を身を以て理解していた。

 だが、「偽り」の関係を正当化し…禰豆子()との絆を引き裂こうとする者などに、断固として負ける訳にはいかなかった。そして激戦の末、己の内に秘められていた"ヒノカミ神楽(ちから)"を引き出し見事に頸を斬り落としたのだが、最終的には相手が一枚上手だった………!!!

 

 

 

 

「———————血鬼術、"刻糸輪転"」

 

 

 突如、累の構えた両手から赤黒い無数の糸が螺旋状に渦を巻いて出現する。不気味に収縮を繰り返し手の中心に収束していく様子を見て、炭治郎の脳が「アレは()()()」と即座に警報を鳴らす。

 

 

「そんなのを"家族"に引き入れようとした僕が馬鹿だったよ。塵一つ残さず消してやる……!!」

 

 

 

(くそっ………動け!動いてくれ!!!)

 

 このままでは不味い。彼は二人同時に始末する為に後方で倒れている禰豆子と自分の位置が直線上になるように術を展開している。己の血を多量に使用した赤黒い糸は、即ち最大の奥義である証……そんな大技に妹が巻き込まれる!!!

 

 

「断言しよう、お前は絶対に避けない」

「ッ、、フゥ……!!!」

 

 その通り、背後の妹を残して避ける事など断じて無い。だからと言って敵に背を向け抱えに行く余裕も勿論無い。あの血鬼術を正面から破るのが兄妹の生き残る唯一の手段なのだ。"ヒノカミ神楽"…もう一度あの技を使用できれば……。

 

 

「フッ!!、、ぅ…!!」

 

 

 駄目だ……肺に酸素が回らない!骨が軋み、身体がこれ以上活動するなと悲鳴を上げ続ける。だが今だけは本能に逆らい、更なる限界を越えなければ……!!

 

 

 

 

「これで終わり。——————死ね」

 

 

 

 

 

 ゴォォ!!!!!!と、

 

 

 

 

 ————遂に、術が解き放たれた。風・木々・土塊…そして肉体も例外ではない、この世の万物を等しく巻き込み塵芥へと変えていく巨大な糸の渦。決死の覚悟も虚しく、迫り来る"絶望"を前に……炭治郎は力の限り()()()

 

 

 

「動けえええええええ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その時であった。

 

 

 

 

 

 眼を閉じた刹那の瞬間、己の想いが体現したかのように『轟音』が鳴り響く。衝撃の余波で一際大きな風が薙ぎ再び世界が静寂に包まれていく中で、炭治郎は咄嗟に顔を上げると……

 

 

 

 

 

「———あぁ、君はいつもボロボロですね」

 

 

 正に風の如く、嗅覚が優れている自分ですら感知できない程颯爽と"彼"は立っていた。肉を削ぐ程の硬度を誇る筈だった真紅の糸は粉々に千切れ、彼の周りで霧散していく。朱に身を染めた姿は偶然にも初めて出会ったあの夜、血溜まりの中で佇んでいた彼自身を彷彿とさせ、何処か懐かしい気分になる。

 

 

「宗次郎さん……!鬼は…」

「安心して下さい。ほら、あの通り」

 

 

 後ろを振り向いた宗次郎の視点を追って、術を放った張本人が立っていた場所を眺める。とはいえ、敵に背を向けない彼が此方(こちら)を向いて現れた時点で何となく察していた。

 其処には頸を飛ばされた胴体が次第に形を失い、消滅していく"下弦の伍"の姿。鬼殺隊に入隊して以来、初めて己の全てを出し切っても倒せなかった強敵の"最期"にしては……余りにも呆気なさ過ぎた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

 今回自分に応援要請が来たのは、十二鬼月が出現したという情報が入ってからであった。県をまたぐ移動距離は正直面倒に感じたが…浅草以来の強力な鬼と出会えるのならばと、僅か数時間で目的の山に辿り着いた。敵は三、四体程らしいが取り敢えず頭を最優先に叩く事を優先し、己の鎹鴉の情報を頼りに一気に頂上付近まで駆け上った。

 鬼の気配が濃くなった瞬間、木々を蹴散らす激しい音と共に赤い衝撃波が視界の大半を覆う。即座に血鬼術と判断し標的の位置を把握した後、術の向かう先を見据えると……幾度も交流を重ねてきた顔見知りが倒れているではないか。次の瞬間には……

 

 

 

(————縮地"五歩手前")

 

 

 力を込めた脚を解き放ち爆発的に"加速"した。体感時間が極限まで圧縮され、四肢が躍動する。急襲の餌食となったのは……鬼だ。

 

 

「………ッ!!!———————」

 

 

 避けられない程の至近距離まで迫られても、何も察知出来なかったらしい。袈裟がけに鬼の頸を捻じ斬った後も勢いを殺さず、軸足で方向転換して血鬼術を背後から追いかける。術が通った跡は障害となる木々が一切無く寧ろ好都合である。身体を捻り回転をかけたまま術に追い付いて衝突し、「中心」を力任せに薙ぎ払った。

 

 

 ――時間にして、僅か五秒。

 

 

 深呼吸一回分程の合間に討伐と人命救助を終えた宗次郎は、顔見知りである炭治郎の上半身を起こす補助をしていた。

 

 

「本当にありがとうございます。俺一人じゃ勝てなかった…」

「大丈夫ですよ、これから強くなれば」

「はい……。そうだ!!禰豆子、、痛ッ!」

 

 

 それを聞くや否や、宗次郎は即座に倒れていた禰豆子を抱えて運び、身動きの取れない彼の真横にそっと寝かせる。彼女の傷も浅くは無いので、兄を救う為に懸命に戦ったのだろう。

 

「ああ、良かった……!」

 

 炭治郎は安堵の表情を浮かべて、彼女を優しく抱き寄せ額を合わせている。暫く見守っていると、喜びに満ちていた彼の表情に唐突に影が差した。自分と違って本当に喜怒哀楽の表現が豊かな少年だ。

 

 

 

「…どうされました?」

「……あの鬼は、家族を欲しがっていました」

「へぇ、意外だなぁ」

 

 十二鬼月にそのような感性があった事に驚く。詳しく話を聞けば、先程の鬼は「家族の絆」に異常な程の執着心があったそうだ。他の鬼に母や姉といった役割を与え、恐怖で支配する"偽りの家庭"を築いていたらしい。竈門兄妹と相対した際は、二人を本物の絆と評価し禰豆子を己の家族に引き入れようとした程だ。

 

「何故あそこまで執着してたんだろう…」

「…もしかしたら、()()()()()を殺したんじゃないでしょうか」

「!!!人間だった頃の…ですか?」

 

 越えてはいけない一線を越えてしまった時、人間は自我の崩壊を防ぐ為必ず何かに執着する。圧倒的な存在、絆、信念……何でも良い。幼かった頃の自分とあの鬼は、案外似ていたのかもしれない。

 

 

「宗次郎さん?」

「あぁ、ただの憶測なのでお気に為さらず。さて、取り敢えず山から………」

 

 降りましょうと言いかけた口を、噤む。

 

 

 

 

 何者かが、明確な殺意を持って此処に向かって来ているからだ。

 

 

 

 

「————宗次郎さん後ろ!!!!」

 

 

 

 怒号にも似た叫喚が耳に届くより先に、宗次郎は身体の向きを反転させ振り向き様に抜刀する。

 勢いがかった刀同士が交差した瞬間、激しい金属音が鳴り響いた。余りの衝撃に炭治郎は思わず目を瞑る。襲ってきた剣士はその反動を利用し、蝶の羽根を模した特徴的な羽織を(なび)かせ華麗に宙を舞い地面に降り立った。

 

 

「あら?」

 

 

 そして透き通るような紫の瞳で、此方を射抜いた。

 

 

 

「鬼を庇うなんて、一体何の冗談でしょうか?」

 

 

 

♦︎

 

 

 

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「坊や、そのお兄さんを説得して下さい」

 

 

 聞く者を惑わす妖美な声色で彼女は炭治郎に言葉を紡ぐと、羽織と同じ蝶の髪飾りを揺らしてじわじわと距離を詰めて来る。

 

 

「——待って下さい!この子は俺の、たった一人の妹なんです!!家族なんです!!!!」

「まぁ、可哀想に……。ではせめて、苦しまないように殺してあげますね」

 

 

 柔らかい表情とは裏腹に、静か過ぎる重圧が議論の余地など無いと語っている。尤も隊士が鬼を狩ろうとするのは当然で、先程の一撃も正確に禰豆子()のみを狙っていた。人を襲わない等の言葉で説得しても俄には信じ難いだろう。仮に事実だと理解しても討伐した後にそんな個体がいた、程度で片付けられる可能性も高い。任務を遂行する上で大事なのは()()()()()事で十本刀(かこ)鬼殺隊(いま)どちらでもそれは変わらない。自分を含めそういう人間の考え方は熟知している。要するに何を言っても無駄なので……

 

 

「炭治郎君、物理的に対処しましょう」

「…えっ!?」

「僕が彼女の相手を務めるので、妹さんを連れて逃げて下さい」

 

「もしも〜し。本人に聴こえてますが」

 

 

 

 仮に炭治郎君が万全の状態だったとしても、この剣士には到底敵わないだろう。歩く際の重心の置き方が並の者のソレでは無いので上から数えた方が早い階級の隊士と見た。相手の動作を伺っていた宗次郎は……

 

 

「——————!」

 

 

 

 即座に、もう一人の気配に気付く。

 

 

 背後に広がる森林の奥から現れたのは、二つの柄を半分ずつ合わせた特徴的な羽織を身に纏う男性の隊士であった。青みがかった虚ろな瞳は、無表情な彼の印象をより暗くしている。一瞥すれば何処にでもいる無愛想な青年に見えるが、やはり彼女と同様相当な実力の持ち主のようで、僅かな仕草でも動きに全く無駄が無い事が分かる。

 

 

 

「遅かったですね、冨岡さん」

「……胡蝶、鬼はその一体だけか?」

「ええ、そうなんですけど…この二人に妨害を受けている最中です」

「そうか、何故庇っている?」

 

 

 

(…んー、少し不味いか……) 

 

 

 この二人を同時に抑えて竈門兄妹を逃がすのは、流石に厳しく感じる。誰かを庇いながら戦う経験など…志々雄一派にいた頃は勿論、三年間の旅の合間ですら皆無であった。任務で鬼の被害にあった者を守りつつ戦い続け、最近慣れ始めたばかりなのだ。

 躊躇いなく殺せる相手ならばと心底思う。最高位の鬼殺隊士を斬れば再び手配されて全国を追われる身に逆戻り…なんて事態も有り得る。久々に組織に入れた手前、その展開は避けたい。疲労状態で申し訳ないが、彼等には全力で逃走してもらうしかない。

 

 

「鬼がその坊やの実の妹らしいですよ」

「………何?」

 

 

「あの、覚えていませんか!?二年前に鱗滝さんを訪ねるよう教えてもらった竈門炭治郎です!!!」

「…………」

 

 そのやり取りを耳にし、浅草で炭治郎に教えて貰った鬼殺隊の入隊動機を思い出した。二年前、誰にも頼らず己の力で妹を守れと諭し、彼に鬼殺隊士として生きる道を示してくれた存在……それが冨岡義勇という名前の男だった。

 

 

「………!そうか、お前達は……」

「冨岡さん、知り合いなら尚更情を移してはいけませんよ。辛いなら私が引き受けますが」

 

 

 

 

「—————いや、その必要はありません」

 

 

 ――今夜は運が良い。

 

 

「思い出したのなら、二人を連れて下山してくれませんか?彼女から暫く引き離しておきたいので」

「何を言い出すかと思えば…。無視ですよ冨岡さん」

「………………」

 

 

 妹を抱き締める腕に力が入った炭治郎を見て、無機質な瞳にはっきりと揺らぎが生じる。他ならぬ自分自身が兄妹を生かし彼等の行く末を決定づけたのだ。この局面で断るような人物であれば、最初から問答無用で禰豆子()を斬り殺していた筈だ。

 

 

「自分から鬼殺隊に引き込んでおいて見捨てるつもりですか?」

「…………分かった」

 

 

 彼が承諾の返事をした瞬間、女の隊士が舌打ちをして動きを見せた。宗次郎は即座に彼女の正面に移動し、仕掛けぬように牽制しておく。

 

 

 

 

「……鬼を故意に逃がすと隊律違反になるのをお忘れですか。罰を受ける上に皆さんから益々嫌われますよ?」

 

 

「………俺は元から、嫌われてない」

「宗次郎さん、ご迷惑をおかけします…!」

 

 

 圧倒的な筋力で竈門兄妹を同時に背負い、冨岡は自分に目配せをした後暗闇の奥へと走り去っていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーー

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 予想外の手のひら返しを受けた彼女の時間は、停止していた。柔らかな表情に潜む怒気だけが、唯一膨らんでいくのを感じ取った。

 

 

 

「……何が可笑しいんですか?」

「いえ、肩の荷が下りたなぁと思っただけです。貴女一人を抑える程度で済みそうなので」

「…随分と自信があるようですね」

 

 

 ハァ……と、本調子に戻った彼女は呆れたような溜息を漏らす。当然彼女は何も間違った行動を取っていない。標的()を速やかに討伐しようとしたら何故か阻止され、逆に自分が悪者扱いを受けているのだ。挙句同胞にまで裏切られて、現状を受け入れ難い気持ちは良く分かる。唯でさえ参っているのに、足止めである自分の存在はさぞかし鬱陶しい事だろう。

 

 

 

「……貴方、お名前と階級は?」

「癸の瀬田宗次郎です」

 

「!……そう、貴方が噂の新人さんですか」

 

 

 名前を聞いた彼女は一瞬眼を丸くし、そして再び不気味に微笑む。組織内で自分の認知度が妙に高いのは自覚していた。その証拠に任務を共にした者の殆どが呼吸の種類やら出自を執拗に聞いてくる。故に誤魔化したり合流する前に先行した回数も少なくはないが…彼女もその類いなのか。

 

 

「刀鍛冶さんから聞きましたよ、入隊前に"鍛治狩り"を倒したそうですね」

「……!」

「処置を終えて間もない脚を振り回して……落ち着きの無い方でした」

 

 

 脚に怪我を負った時の重吉()を知っている。そう言えば当時、鬼殺隊専用の診療所に赴いて美人の所長さんに治療されたと話していた。何でもその所長は医学・薬学に詳しい名医であると同時に類稀なる剣の使い手でもあると。普段は他人の話に然程感心が無い自分でも鮮明に覚えている。

 何故なら、彼女こそが………

 

 

 

「私は"蟲柱"、胡蝶しのぶ。以後お見知り置きを」

 

 

 

 鬼殺隊の頂点に君臨する「柱」だと聞いていたからだ。全集中の呼吸の極致に到達し、十二鬼月とも互角以上に渡り合える屈指の実力を持つ剣士の一人だという事を。柱なら尚更逃がす訳にはいかない。

 

 

「そうでしたか。じゃあ折角なので良ければ僕と『お断りします』……あれ」

 

 遊び(戦い)ませんか?と肝心の内容を言い終わる前に断られ、何とも形容し難い気分に陥る。話している際も彼女の視線が炭治郎君達の逃げた方角に固定されている辺り、本当に自分の事は文字通り眼中に無いらしい。

 

 

「今回の件は任務が終わり次第、上に報告させて貰いますね。それでは〜」

 

 

 言い終わると同時に、彼女の姿が()()()

 

 ――ように見えたが、動きを捉えていた宗次郎は真上を向いた。彼女は太い木の幹を伝って物凄い速さで炭治郎君達の逃げた方角へ向かっていく。今しがた視界から外れた。どうやら隊律に背いた自分を告発する為に身元を確認したらしい。任務が終わり次第と述べた通り、竈門妹の討伐も諦める様子は無さそうだ。

 

 

 

「………つれない人だなぁ」

 

 

 もう飽きているのだ、()()()()()()()

 

 

 

♦︎

 

 

 

 風を切る音を耳にしながら追跡を続ける。あの兄妹を連れて逃走中の彼の気配を捉えると、より一層脚に力を込める。

 

「ほんと……何を考えてるんだか」

 

 

 そもそも冨岡義勇という男の心の内を理解できた例は一度だって無かった。普段から無口な上に感情表現も下手なので、任務を行う際の協調性は限りなく零に近い。必要最低限の事しか会話しない癖に、間が悪い時に何故か余計な一言を口にする。自分は失言していないと譲らないから、不死川さんや伊黒さんと口論になるのだ。

 自覚が無いというのは実に恐ろしい。彼は言葉だけでは飽き足らず自分の行動まで理解出来なくなったのかと懸念する。…しかし、天然(ポンコツ)であろうと彼は"柱"、追跡を命じたあの子の実力では敵わない。自分が抑えている隙に鬼を斬ってもらおう。考えをまとめると更に距離を縮める為大きく跳躍した。

 

 

 

 鬱蒼とした森から飛び出し空中を蝶のように舞う彼女を、月明かりが優しく照らす。

 

 

(さて、一気に—————)

 

 

 体勢を変えて急降下しようとした直後であった。

 

 

「………!」

 

 

 ――突如、()()()()()()()()。 

 

 

 

 月光が"何か"に遮られている。今夜は雲一つ無く光を遮るものなど無かった筈だ。まさかと思った、その直後。

 

 

 

 

「———申し訳ありませんが、落ちて下さいね」

 

 

 ()()()()から発せられた言葉を聞き終える前に、しのぶは刀に手を掛け身体の向きを上空へ向けようとするが………

 

 

 

「———ぁぐ!?!!」

 

 ガツン!!!と頭部に火花が散るかと思う程重い衝撃が走った。余りの激痛にたまらず両手で頭を抱え唇を噛み締める。重力に逆らって転落していく身体を何とか動かそうとするも、麻痺した脳は的確な指示を出そうともしない。このままでは受け身も取れずに地面に激突してしまう。

 思わず目を瞑ってその瞬間を待つが……

 

 

 

 ――空中で何かに引っかかった。

 

 

「………!!」

 

 

 否、()()()()()()()()。確実に、自分の脳天に鈍器を叩き込んで空中から落とした張本人に。地面への着地を確認するや否や、しのぶはその人物の顔を拝む前に攻撃に入った。目星は付いている。

 自身の柔軟性を活かし、身体を思い切り捻って真横にある首に両脚を交差させて締め付けた。少し驚いた声が聞こえる中で、目潰しをせんと右手で高速の突きを放つが……

 

 

「————ッ!!」

 

 

 予測していたのか、彼は放った右手を容易に受け止めた。更に自ら体勢を崩して、こちらの脚の拘束が緩んだ瞬間を逃さず俊敏に抜け出した。

 トドメと言わんばかりに掴んだ手を利用し地面に叩き落とされ、逆に関節技を極められてしまった。

 

 

「あはは、油断も隙もないなァ」

 

 

 うつ伏せで押さえつけられ、己の右腕が軋む音が絶え間なく聞こえる状況。しのぶは激しく抵抗し脱出を試みるが…彼の身体はびくとも動かない。

 

 

(ッ……しまった)

 

 

 今の鬼殺隊には、脚の速さにおいて自分と同等以上の者など八人を除いて存在しないと思っていた。それでも、万が一の事も考慮して序盤は直進せずに方角を幾度も変えて移動したのだ。加えて後方に気を配っていたにも関わらず……この有様。

 最初から自分と並走していたに違いない。それも此方に、()()()()()()()()()()()()。最後は上空を陣取って、がら空きの頭部に一撃を食らわせたといった所か。殴る前に声を掛けるという余裕が何とも腹立たしい。

 

 柱としての矜持を傷付けられた気分になるが、過ぎた事を悔やむ余裕は無い。落としてしまった刀は右斜め前の茂み辺りに目視出来る。青年の拘束を解いて刀を取る算段は一応あるが……その後はどう動くべきか。絶技だと評される彼の剣を実際には見ていないが、既に気配を完全に消したり素早い身のこなしと体術で自分を組み伏せたりと、噂に違わぬ実力の片鱗を示している。正面からぶつかり打破するのは…骨が折れそうだ。

 

 

「…………」

 

 

 

 ――"アレ"を使うしか無い。

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

(……凄いな、こんなに動けるなんて)

 

 上空から急降下し、刀を鞘に納めたまま思い切り殴り付けた。良くて失神、意識が残っても三分弱は脳震盪で碌に動けまいと踏んでいたが…予想以上に復帰が早い。抵抗を続ける彼女から漏れ出る吐息は静かで、打撃を食らった直後とは到底思えない。加えて華奢な細腕から感じる、異常なまでの"怪力"。全身に血を巡らせて筋肉を限界以上に行使しているのだろう。この想定を遥かに上回った抵抗を可能にしている要素は間違いなく……

 

 

 ――"全集中の呼吸"。

 

 

 益々興味が湧いて来た。習得し極めれば単純な身体能力の向上は勿論、機能不全に陥った際の回復力は何倍にも跳ね上がる。やはり"縮地"を完成させる為に必要不可欠な能力だと確信した。現在詳しく教えてくれそうな人物は炭治郎のみ、或いは彼の知り合いを頼っても良いかもしれない。その願いを実現させる為にも妹を含め生き延びて貰わねばならない。真実探しの手助けも兼ねているのだ。

 

 

「いい加減彼等の事は諦めては如何です?僕も腕が痺れて来ましたよ」

「…………」

 

 

 口こそ動かさないが、一向に彼女の抵抗が止む気配は無い。体勢を変えて首を絞め落とす事も考慮には入れているが、腕を緩めれば思わぬ反撃を繰り出してくる可能性があるので…下手な行動は取れない。

 

 

「"常中"がいつまで続くか知りませんけど、力尽きるまで待ちますね」

 

 

 怪力とは評したがきっと彼女の素の筋力は一般の女性並みで、単に全集中の呼吸で一時的に肉体を強化しているに過ぎない。特殊な方法で力を上乗せして足掻こうとも、此方は少し体重を乗せた両腕で抑えるだけで事足りている。正直"柱"の剣技を直接確かめたい気持ちもあったが、楽に済むならそれで良い。そう考えていた——次の瞬間。

 

 

 

 ――突如、真後ろから()()()が鳴った。

 

 

 彼女の得物は正面の茂みに落ちている。刀でなければ一体何だと宗次郎は振り向く。正確には音の発生源である足元辺りを————

 

 

 

「————ッ!!っとぉ」

 

 

 間一髪、彼女の履き物から飛び出ていた"刃物"を目にした途端、即座に腕を緩め離脱する。背中の服が僅かに破けた感触を覚えるも気にせずに跳躍し大きく距離を取って着地した。顔を上げれば、既に立ち上がった彼女が拾った刀を抜き臨戦態勢に入っていた。此方も即座に抜刀し構えを取る。

 

 

「力が無いなどと…そんな事は百も承知です。私は確かに非力で、柱の中では唯一鬼の頸を斬る事が出来ません。だからこそ、()()()()()()()

 

 向けられた彼女の刀を改めてよく眺めると、刀身が非常に細く斬るよりも刺突に特化した形状であった。どう考えてもあんな細剣では鬼の頸を斬り落とせないだろう。

 

(……"毒"か何か仕込んでるな…)

 

 刀集めが趣味の元同僚に色々と特殊な刀を教えて貰っていた。何より彼女自身が非力である事を鑑みれば、日輪刀で毒殺という手段を用いるのは確定したようなものだ。履き物に仕込んだ刃といい、手段を選ばぬと述べた意味が分かった。

 何種類の暗器を身体に隠し持っているのか分からないのが厄介だ。使用者の殆どは暗器(ソレ)に依存しており、優れた剣技や体術を持たない事が多い。闇討ちを用いたり徒党を組んで個々の能力を補うのが常套手段なのだが……単身で敵を正面から殲滅できる"手練れ"が、やはり一定数存在するのだ。

 特に彼女のような暗器使いは侮ってはならない。小細工など本来は必要としない強さを持つ者こそが、最も厄介なのだ。

 

 

「あの鬼を庇う理由は何ですか?同情であれば引き下がる事をお勧めしますが」

「いえ、同情はしてないです」

「…当然ですね。あんな醜い化け物を哀れむなど、以ての外です」

 

 

 先程から思ってはいたが、彼女の言葉の内にある明確な刺々しさ。心と表情が一致していないその姿に違和感を拭いきれない。

 

「一つ、言っておきたい事があるんですが……」

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()

「………無理に、とは」

 

 幾度か言葉を交わして宗次郎は確信した。彼女は自分と()()()()()()()()。人を形成する心を何一つ欠落などしていない、表面を形作っているだけで根底には"感情"があるのだ。紡ぐ言葉の端々から、鬼に対しての怒り・憎しみが滲み出ている。これを上手く利用すれば、彼女の敵意は自分に向けられるのではないか。

 

 

「貴女も家族を鬼に殺されたんですか?両親なのかあるいは兄、姉か……」

 

 

 姉…という言葉に彼女の表情筋が僅かに動く。自覚していない様子だが、最早明言したも同然の反応であった。やはり身内への想いは人一倍強いらしい。彼女や炭治郎、果ては鬼ですらも"家族"という繋がりに囚われている。本来はそうあるべきなのだろうと、宗次郎は他人事のように考えていた。

 

 

「お察しの通り…私は大切な人を奪われました。同じ境遇の人々を見る度に私の心はざわついて、悲哀と憎悪の感情に支配されます」

 

 そしていつの日か……と彼女は言葉を切ると、ゆっくりと胸に拳を当てて力を込める。家族…恐らく姉を殺した鬼への復讐を果たす。話の流れで容易に推測できる事であった。胡蝶しのぶという剣士が生まれた動機と目的は全てその悲願に帰結しているのだと、宗次郎は何となく理解した。それは至極真っ当な理由で、鬼殺隊に所属する大半の者の動機と一致しているだろう。しかし人情に欠ける彼の心の内に生じたのは、純粋な"疑問"であった。

 

 

「何かそういうの、疲れません?」

「………はい?」

 

 

 思った事をそのまま口に出すのは、己の感性を見つめ直そうと旅立ったあの日からなるべく控えていた。だが今回は敢えて神経を逆撫でするような物言いで攻め落としていく。彼女の身体に蓄積されている膨大な"怒り"を一気に解放してやれば、その矛先は間違いなく自分に向けられる筈だ。

 

 

「家族だとしても、もうこの世にいない人間に縛られるのって嫌じゃないですか。ましてや他人の不幸を目の当たりにして自分が苦しむなんて……僕にはホント理解できない」

 

 

 

 

 

 

「そんな感情(モノ)、捨ててしまいましょうよ」

 

 

 その一言を皮切りに……

 

 

 

 

 ――彼女の纏う空気が変わった。

 

 

 

「…捨てろ、ですって?」

「貴方が本当の"笑顔"を取り戻せるように、楽しい事だけを考えましょう。僕のように…ね?」

 

 

 鬼に大切な人を奪われた人々の嘆きの声を、惨殺された姉への想いを、断ち切れと宗次郎は述べる。そうすれば抱えている苦悩が幾分かは減少し楽になるだろうと安易な道を示す。裏を返せば、鬼殺隊における彼女の"生き様"を全否定しているのと何ら変わりの無い言動を投げかけたのだ。当然、彼女の反応は……

 

 

 

 

 

 

 

「—————ふざけた事を、()()()()

 

 

 

 初対面での物腰柔らかな面影は何処へやら、口角が上がっていた唇は今や真一文字を結んでいる。

 人は感情を揺さぶられると、自分があるべきと思っている状態から現状が離れていく。仮面の下に隠され続けていた"本質"が露わとなったのだ。水面()に異物を投げ込まれ瞬く間に不快感という波紋が広がっていく彼女の様子を眺め、宗次郎は三年前の自分自身と姿を重ねる。あの日"彼"との闘いの中で初めて、己の信じていた"弱肉強食(真実)"が正しいのかどうかを判断できずに揺らいだ。

 

 

「貴方のような他人に私の信念を…"私自身"を、壊されてたまるか……!」

 

 

 

 だが彼女は違う。

 

 

 誰かに与えられたのではなく、自分自身で見出し到達した(真実)であるが故に……決してその考えを曲げたりはしない。自分が絶対に「正しい」という確信を持っているからだ。彼女はこれまで通り、隣人を鬼に奪われた人々に寄り添い…共有した怒りや悲しみを糧に復讐の炎を燃やし続けるだろう。最愛の姉を殺した鬼に、己の全てをぶつける未来を夢見て。勝手な価値観を押し付ければ、反応は目に見えていた。

 

 

「無力化したも同然ですが気が変わりました。私が直接手を下します」

 

 

 

 ――それは彼女の"逆鱗"に触れたも同然。

 

 

 

 闘気が彼女の身体を中心に渦巻き刀を持った手に収束するのを感じ取った宗次郎は、片脚を一定の間隔で地面に打ちつけ始める。果たして()()()になった彼等相手に己の"縮地"がどこまで通用するのか、文字通り鬼殺隊を支える九人の「柱」の存在を知ってからずっと気になっていた。遂に、優先順位が高かった目標の内一つを達成出来るのだ。

 

 

 

 

 

「"蟲の呼吸"蜂牙の舞———————」

 

 

 

 

 グンッ!!と低姿勢になった彼女の鋭い眼光が此方を射抜く。刺突を繰り出そうとする構えに情け容赦など存在せず、己の信念を護る為に敵を穿たんと刀の切っ先を此方に向けた。…そう、()()()()()

 互いに標的以外の全ての情報を遮断する。空間で認識出来るのは二人分の静かな呼吸音のみ。数秒の沈黙の後—————

 

 

 

 

 ――()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 巡り逢った「柱」と「十本刀」。選りすぐりの強者達の中でも"最速"の剣技を持つ者同士の熾烈な戦いが今、幕を開けようとしたその時………

 

 

 

 

 

 

 

 

「伝令!!伝令!!カァァ!!!!」

「「————!」」

 

 

 

 

 鬼殺隊士にとっては聞き慣れた鳴き声が、両者を激突する寸前で踏み止まらせた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

♦︎

 

 

 

♦︎

 

 

 

「炭治郎、鬼ノ禰豆子、宗次郎!以下ノ三名ヲ拘束シ本部へ連レ帰レ!!カァァ!!!!」

 

 

 再び距離を取って空を見上げた頃には、山に残っている他の同志にその旨を伝えるべく遥か上空へと飛び去っていった。鎹鴉が姿を現したとなれば後処理部隊の「隠」も此処に到着している頃だろうか。那田蜘蛛山に巣食う鬼は全て討伐し終えたらしい。

突然の出来事に拍子抜けした所為か、身体を上手く動かせずにいた。彼女からの敵意が消え失せている辺り今夜は諦める他なさそうな雰囲気だ。

 

「……これ以上、争う意味はありませんね」

「あれ、良いんですか?……怒ってたのに」

「指令が出たなら従うまで、あの兄妹を含め貴方達を本部に送り届けます」

 

 同じく距離を取り、元の落ち着いた笑顔に戻った彼女は刀を指先で器用に回転させて納刀する。

 その切り替えの早さに宗次郎は驚いた。本質を他人に見抜かれながらも、結局最後まで感情の揺れ動きを制御し…錯乱状態には陥らなかった。逆に己の信念(正しさ)に口出しされた事への純粋な"怒り"を糧に攻撃に転じようとしていたのだ。物事の正誤判断すら碌に出来ず、乱れきった心で剣を握っていたあの日の自分とは雲泥の差だ。

 

 

 ――やはり、彼女は強い。

 

 

 だからこそ余計に戦いたくなった。剣を交え語り合う事で何が得られるのかが知りたかったのだ。名指しの召集は流石に無視出来ないので今回は諦めるしかなさそうだが。…慌てずとも鬼殺隊に所属している限り次の機会が訪れるだろうし、今は身体も随分と重い気がするので体調的にも……

 

 

「………………ッ」

 

 

 

 

 

 

 ————————いや、()()()()()

 

 

 

 急激な脱力感に耐えられず片膝を突き、喉に異物が詰まったかのように正常な呼吸が出来なくなる。日輪刀を地面に突き刺して体勢を崩さずに済むも…己の意思とは裏腹に意識が段々と霞んでいく。

 

 

「……あら?ようやくですか」

 

 

 異変を察知した彼女は、動けずにいる自分の側に歩み寄って来た。互いに触れ合える程の至近距離まで近付いたかと思えば、大胆にも中腰になり顔を覗き込んできた。反撃を全く恐れていない様子を見ると…やはり()()()()らしい。彼女が既に無力化したと述べた理由を身を以て知る事が出来た。

 針などの類か……いや、外傷を受けるような代物を自分が見逃す筈は無い。如何なる方法を用いて、いつ仕掛けられたのか皆目見当が付かない。

 そんな考えを知ってか知らずか、しのぶは懐から何かを取り出す。そして宗次郎の目前でチラつかせたのは、既に蓋が開けられた「小瓶」だ。ほんの僅かではあるが透明の液体が底に残っている。

 

 

「組み伏せられている間に開けておきました。無色無臭で空気に触れた途端に気化し、広範囲に散布するよう調合したのは良かったけれど……人にまで効果が及んでしまうみたいで、困りましたよね」

「…………!」 

「弱い鬼しか麻痺せず効き目が出るのも遅い……言ってしまえば"失敗作"でしたが、日の目を見れて良かったです」

 

 

 今麻痺と言ったか。この全身の機能が一気に奪われていく感覚、呼吸困難……心当たりがあるとすれば"神経毒"だろうか。当然藤の花にそんな毒は無いので、何か別の生物のソレと混ぜ合わせた可能性もある。

 

 

「まあ後日解毒しますけど、暫くはまともに動けないでしょう」

 

 

 宇髄さんでも丸一日掛かりましたし、と流暢に話す様子を見つめる。その知らない人物も過去に犠牲になったらしいが、色と臭いが無い毒を初見で見抜くのは中々に難しい。拘束した時、左腕を野放しにしておいた自分も甘かったかもしれない。腹の下に隠れて完全に死角になり、気が回らなかった。

 本人は何かしらの細工を施しているようで、毒の影響を受けている気配は無い。話を切り上げた彼女は立ち上がり、再び刀を取り出す。そして………

 

 

 

 

 ――引き抜いた鞘の方を手に持った。

 

 

 

 

「…さて、本当に『色々と』やってくれましたね」

 

 

 額と鞘を握りしめる手に青筋を浮き立たせ、大変ご立腹な様子だ。何をせずとも此方は直に崩れ落ちる身なのに……結構根に持つ性格らしい。己の意思と関係なく意識が飛ぶのは()()()に送られた時以来だろうかと、始まりの日を思い返す。

 

 

 

「……では、明日の"裁判"をお楽しみに」

 

 

 程なくして純白の鞘が振り下ろされ————

 

 

 

 

 

 

 

 脳天に衝撃が走った。

 

 

 

 

 




雰囲気が似ているようで本質は全く異なる二人。密接に関わらせていこうと思います


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