今更ですが、るろ剣実写最高でした!
己の正面に、顔見知りの刀鍛冶が座している。家屋の中である筈が周囲は不自然な程に暗く、無機質な闇が果てしなく広がっている。
『……なぁ、一つだけ聞いていいか』
『何ですか?』
『…この刀で、人を斬った事はあるか?』
『数を覚えきれない程度には。それが何か?』
最終選別の三日前くらいに全く同じ問いを彼から受けた気がするが、上手く思考が働かず口が勝手に言葉を述べていく。自分が喋る様子を客観的な視点から眺める感覚に違和感を覚え、やがてこの光景は「現実」ではないという自覚に至った。
『…そうか。いや、そうだな。明治初期は刀の規制がまだ行き届いていない頃、幕末の名残もあった。お前が身を寄せていた"環境"も何となくは理解できる。不躾な問いを投げかけて悪かった』
だがこれだけは言っておこう、と。不意に出現した愛刀"菊一文字則宗"を見据えながら刀鍛冶は静かに言葉を紡ぐ。
『"
ーーーーーーー
ーーーー
ーー
「…………」
頰にひんやりとした冷気を感じて目を覚ます。視界に映る白銀の景色が、敷き詰められた砂利であると気付くのに数秒時間を要した。周囲の明るさから鑑みれば半日以上は深い眠りの底にいたらしい。夢幻の中で何故あの日の出来事を追体験したのか不明だが、元来
「————あら?ようやくお目覚めですか」
見覚えのある蝶模様の羽織がふわりと、視界を鮮やかに遮った。
♦︎
♦︎
♦︎
最初に感じたのは微かな倦怠感と手足の違和感だ。身体中を蝕んだ毒の症状は幾分かは和らぎ呼吸も正常に出来ているが、四肢は未だ自由に動かせない。その原因…もとい違和感の正体は後ろ手と脚の両方に付けられた鍵穴付きの「拘束具」だ。鉄製の頑丈な作りで簡単に外れそうにもない。
何とか上半身を起こして周囲を見渡せば、古き時代の伝統美を感じさせる荘厳な庭園が広がっており、背後を向けば視界に入りきらない程の巨大な屋敷が見える。これ程の立派な代物を拝んだのは
ーーこちらを見下ろす、"六人の男女"だ。
うち至近距離に佇む女性は、昨晩の再現かの如く同じ体勢で屈みこちらの顔を覗き込む。
「通常よりも拘束を強くしてますが、貴方には必要だと判断したので悪しからず」
「そうですか…で、ここ何処です?」
「此処は鬼殺隊の本部です。隊律違反を犯した貴方は最高指導者である『お館様』によって裁判にかけられるんですよ。私達"柱"も同席します」
「……!」
"蟲柱"胡蝶しのぶ。彼女の背後に並ぶ者達も、鬼殺隊最高位の剣士だという事か。確かに今まで出会った隊士達とは雰囲気そのものが異なり、例に漏れず各々が相当な威圧感を放っている。
「後は、お館様がお見えになる前に…あちらの収拾が付けば良いのですが」
彼女が溜息混じりに視線を寄越した先に、三人の男達の姿が見える。勿論気付いていたが、何やら修羅場と化しているので敢えて認識から外していた。
「そこぉ退けよ冨岡ァ、斬られてぇのか!!?」
「…もう十分だろう。刀を納めろ」
揉めているのは、両手を縛られた炭治郎を庇うように前に立つ冨岡義勇と、真正面から怒鳴り声を出す顔中傷だらけの男だ。後者は今にも飛びかかりそうな雰囲気で、炭治郎自身も妹が入った木箱を背に必死に男を睨みつけている。やはりと言うか、彼女絡みの争いらしい。そして彼等の状況を木の上で頬杖を突きながら窺っている男が見える。
何故か首元に蛇を巻き付けており、時折頭を撫でて非常に仲睦まじい様子である。…彼も加えれば丁度九人で数が合致するが、
すると耳元できゅぽん、と栓か蓋を開ける音がしたのでしのぶの方を向けば、彼女が何らかの液体が入った袋を口元に近付けて来るではないか。
「水、飲みま『別にいいです』……は?」
彼女から提供される物は正直信用出来ない。言い切る前に断られた事が余程気に入らなかったのか、笑顔のまま青筋をビキリと立てている。剣呑な空気を漂わせて、そして無理にでも飲まそうと押し付けてくるのを受け流していると……
「————ハッ、信用されなくて当然だ。えぇ胡蝶さんよぉ?」
突如ケタケタと笑いながら口を開いたのは、集団の中でも一際派手な格好をした白髪の男だ。宝石で飾られた額当てと豪華な耳飾りを付け、左眼には緋色の紋様が塗られている。恵まれた体格を揺らしてこちらに歩み寄って来ると、隣にいる胡蝶しのぶと同じ体勢で屈んで此方の顔をまじまじと見始めた。
「どなたですか?」
「ほぉ…この"
「宇髄さん、彼は今期に入隊した新人ですよ」
聞き覚えのある名前だ。昨晩、意識が朦朧としている時に彼女が呟いていたような気がする。
「ああ、動けるまで一日かかったとか…」
「その通り、俺も最近こいつに
もはや肯定も否定もしなかった。彼女の矛先が明確にこの男に切り替わったのを感じ取ったからだ。巻き込まれるのは御免被りたい。
「貴方が妹達に手を出した罰です」
「あぁ?何度も説明したろ任務に女手が必要だったと。派手に人聞きの悪りぃ事抜かすな!」
「私の承諾も無しに勝手に連れ出そうとした方が悪いんですよ」
向こうの怒気に触発されたのか、瞬く間にこちらの口論にも火がついてしまった。目の前で起こった言い争いに残りの者達は様々な反応を示すも、小競り合いの内と判断したのか本気で止める意思は無いらしい。
改めて各々に視線を移せば、染めているのかと疑う程の鮮やかな髪色や派手な装飾の者、挙動が少し変わっている者など、外観も相まって曲者揃いと断言できる。だが同時に、異能を操る鬼達と日々戦っているだけあって……
ーー「質」が
十本刀の要である"天剣"・"盲剣"・"明王"。戦闘面においては他七人の追随を許さない「三強」に、恐らく
前提として、
「…………」
それはそうと、一向に裁判が始まる気配が無い。お館様と呼ばれる指導者の到着が遅れているのだろうか。いい加減、極刑を免れる為の対策を考えるのも飽きてきた。
柱達の内輪揉めも延々と続いており、怒号が益々凄みを増すばかりである。混迷を極める状況の中、不自由な身体で天を仰いだ、その時———。
『—————お館様の、御成です』
透き通った二重の声が、庭園の敷石に染み込むように美しく響き渡る。瞬間、正面にいた宇髄と呼ばれる男に突如頭を鷲掴まれ、その勢いで向きを反転させられた上で地面に押し付けられた。いきなり何事かと視線を上げれば……
「……!」
柱全員が迅速に列に並んで、片膝を突き頭を垂れている。私語が飛び交っていたのが嘘のように辺りは静寂に包まれる。あの野蛮な男でさえ口を閉じて平伏する中、屋敷の中央…奥側の長廊下から複数の足音が聞こえてくる。
最終選別の監督役であった白髪と黒髪の双子に両脇を支えられ、壮年の男性が姿を表した。
———彼が、「お館様」か。
和装に包まれた細い身体、顔面は皮膚が焼け爛れたように変色しており、色素が抜けた眼の瞳孔は風景を映しておらず盲目である事が窺える。双子の補助が無ければ倒れそうな程に足元は心許なく、僅かな動作で命の灯火が消えてしまいそうな…儚さを彷彿とさせた。
想像していた姿とは異なっていたが、受ける器量の大きさの印象は変わらない。穏やかな顔立ちに似合わぬ強靭な「意思力」を感じられる。
「……おはよう、皆。今日は良い天気だね。半年前と変わらない顔触れを見れて何よりだよ」
その声が響いた途端、
「…お館様におかれましても御壮健で何より、益々の御多幸を切にお祈り申し上げます」
「ありがとう、実弥」
知能の欠片も感じられなかった男の口から、懇切丁寧な挨拶が述べられて内心度肝を抜かれた。態度や口調から読み取れる絶対的な忠誠心、信頼と尊敬の眼差し。野蛮な者も含め、その圧倒的な威厳で柱達を完全に掌握しきっている。
ーー彼も同じく、人の上に立つ存在なのだ。
「先ずは、禰豆子について話していこうか」
♦︎
結論から言うと自分達には何の咎めも無かった。禰豆子が鬼殺隊の任務に携わる事はお館様が当初から容認しており、何も問題は無かったらしい。加えて炭治郎の育手らしき人物から届いた手紙で、彼女は決して人を襲うような鬼ではないという弁護が為された。信頼の厚い人物からの擁護が更に有効な裏付けとなったのだ。
しかし柱達が簡単に認める筈も無く、尚反対の意見を述べる者は多かった。特に例の気性の荒い男は筋金入りの鬼嫌いで、自身の血で禰豆子を挑発するというとんでもない強硬手段に出たのだ。流石に籠絡されると思われたが、意外にも彼女は誘惑を振り切り…今度こそ有無を言わせぬ形で身の潔白を証明したのだった。
「…さて、君には連絡しておきたい事があってね。もう少しだけ時間を取らせて貰うよ」
無事裁判が終了し、竈門兄妹は胡蝶しのぶの指示で"隠"に診療所へ連れて行かれたのに……依然として自分だけは解放されていない。冨岡義勇と同じく免罪の対象に入っている筈なのだが、連絡しておきたい事とは一体何なのか。
「瀬田宗次郎。君の階級を癸から"
『!!!!』
宗次郎以上に動揺したのは柱達だった。入隊して僅か一ヶ月強で、自分達を除けば最上位に位置する階級まで昇り詰めた者は極稀である。これほど圧倒的な早さで昇格したのは"霞柱"時透無一郎を除いて存在しないだろう。何事にも無頓着な彼も珍しく反応しており、虚な瞳を話題の張本人へと向けた。
「先程、炭治郎と宗次郎の両名は鬼舞辻と遭遇していると言ったね。…実はその際に、宗次郎は彼に重傷を負わせたんだよ。直後に刺客として送られた下弦の鬼二体も討伐している」
今度こそ、一同は驚愕し耳を疑った。昨晩に下弦の"伍"が討伐されたのは、鬼を庇ったという事実確認の過程で件の青年による手柄だとは知っていた。だが
「今までの階級に釣り合わぬ働きに感謝するよ。今後は相応の支援を行うから、より鬼の討伐に励んで欲しい」
「はぁ、分かりました」
(…すごい睨まれてるなぁ)
己を射抜く視線の一部が鋭くなったのを感じ取り、宗次郎は鬼舞辻に出会った日を思い出す。確かに彼との遭遇は予想だにしなかった。鬼舞辻が人間の親子と街を往来していると誰が想定できようか。
「それともう一つ、君が良ければの話だが…」
「———柱同士の稽古に、参加してみないかい?」
「……!」
「普段から柱は集結する機会が少ない分、柱合会議が終わった後数日間に分けて手合わせを行うんだ。君も最高位の剣士から様々な事を学べるし、対等に勝負出来ると判断した」
"柱"は基本的に下級の隊士に稽古をつけないと、宿泊先である藤の家の管理人が話していたのを思い出す。彼等は警備担当地区が広大な上に、遂行する任務の数も次点の"甲"と比べて桁違いに多い。常に多忙の身なので、自身の後継者として才覚が認められた"継子"と呼ばれる弟子のみを集中して育成するそうだ。
けれど柱達には互いに剣を交える機会が設けられているらしい。確かに彼等程の実力者が更なる剣技向上を目指すなら、力が拮抗している者と戦うのが効率的だろう。
「だが勿論、各々に任務があるので総当たりで稽古をする時間は無い。なので今回は彼等から一人を選別して割り当てるよう調整するが……どうだい?」
「…では、参加させて頂きます」
提案を受け入れるとお館様は満足げに頷き、良い返事だ!と柱の一人が叫んだのを切っ掛けに外野も騒ぎ始めた。不敵に笑う者、観察するような視線を送る者など様々な反応を示している。
「では、その日まで炭治郎達と共に診療所で休息すると良い。しのぶ…彼も任せられるかい?」
「はい。……それでは、連れて行ってください」
彼女が手を叩き合図を送ると、先程と同じ二人の隠が再び屋敷の側面から姿を現し周囲に一礼しながら足早にこちらへ駆け寄ってきた。息を切らしている辺り、竈門兄妹を送り届けて間髪入れずに戻って来たのだろう。
「…おぉ」
体格が大きい方の肩に担がれて、身体が宙に浮く新鮮な感覚に僅かながら高揚する。自らの脚で
♦︎
「自分で移動してないのに景色が変わっていくのは新鮮ですねぇ。ほら、団子屋さんありますよ」
「……そうかい」
存外楽しそうな様子に、隠の男はげんなりと溜め息を吐いた。風柱に頭突きを食らわした痣の少年も大概だが、この青年が蟲柱にしでかした云々を聞かされた時は卒倒する寸前であった。己の大罪を自覚し猛省して欲しいが、その気配は皆無である。
「ああそう、これ外して頂けませんか?」
「無理だ。鍵は診療所に置いてある」
「酷いことするなぁ」
宗次郎は背後の景色を眺めつつ、時折太陽光に反射する両手首と両脚の金属に眼を移した。
炭治郎を縛っていたのは簡易な縄で、しかも手首だけだった。彼は脚も自由に動かせていたのに、この差は何だろうか。鍵が診療所にある辺り
「あぁ!?お前だろ胡蝶様に
「そうよ!アンタのせいで五年は寿命縮んだ思いしたんだから!!」
本日何度目になるか分からない沸点の突破に二人は怒号を浴びせ空いた手で宗次郎の身体中を叩きまくる。凄まじい剣幕と暴行を前にしても笑顔のままぴくりとも表情を変えない様子を見て、直ぐさま息切れを起こした。本当に心臓が保たない。
「はぁそれは、申し訳ありません」
「フンッ!まぁさっきの奴より軽くて運びやすいから、それに免じて許してやろう……ゴホッ」
「そうですか」
そんなやり取りを終えた辺りで、隠の男は徐々に走る速度を緩めていく。どうやら既に目的地は目と鼻の先らしい。実際人を抱えている割にはかなりの速度で走っていたし、日頃から負傷した隊士を運ぶなどの裏方仕事を任されるだけあって、人並み以上の体力は備わっているようだ。
「さぁ着いたぞ。蝶屋敷だ」
「……へぇ、凄いな」
此処が、彼女の経営する診療所か。先程と同じく立派な屋敷に加え庭には沢山の蝶が舞っており、鮮やかな色彩と花の甘い芳香に溢れる風景に思わず目を奪われる。柱との対戦を控えた今、毒の影響で麻痺した身体を本調子に戻す為に何処かで休養を取ろうとは考えていたが…その場所が元凶の私邸とは。
「ここの病室は静かで清潔だし、心に余裕が持てる。ゆっくり療養して————」
『————ぎゃああああああああああ!!!!!』
『こら!動いては駄目と言ったでしょう!』
『五月蝿ぇぞ紋逸!!!』
…その割には、随分と賑やかな場所だが。
♦︎
♦︎
♦︎
日は沈み、宵闇の刻が訪れる。昼間に裁判が行われた鬼殺隊の本拠地…産屋敷邸の中央広間に、再び柱達は集結していた。彼等の向かい側に座すのは、鬼殺隊"当主"産屋敷耀哉。その身を蝕む病魔は一族相伝であり常に苦痛を伴い続けている。それでも症状を微塵も感じさせず毅然とした態度を見せる姿に…鬼殺隊屈指の猛者達は敬意を払い、己が主に眼を向けた。
「さて、知っての通り鬼の被害は日々増加の傾向にある。人々の暮らしを守る為、より鬼殺隊員を増やそうと考えているが…皆の意見を聞こう」
半年に一度の「柱合会議」。近況の報告、警備担当の見直しや提案を中心に検討し合う。産屋敷の透き通った声が響くと行灯の火が僅かに揺れて、各々の顔を朧げに映し出した。
「先ず、隊士の質が信じられない程に落ちている。中堅の鬼ですら束で挑んでも倒せない。あれ程使えないようでは…育手の目が節穴だ」
先陣の切り口を開いたのは"風柱"不死川実弥だ。その全身に刻まれた古傷は数多の修羅場を潜り抜けてきた証であり、同時に歴戦の風格を醸し出す象徴とも言えよう。
「…左様。その大半は鬼狩りの血統の者でも、愛する者を惨殺され入隊した者でもないであろう。それらの者達に並ぶ、あるいは相応の覚悟と気迫を以て鬼と対峙しなければ到底敵うまい」
嗚呼、残酷だ…と両手を擦り合わせて不死川に応えたのは"岩柱"悲鳴嶼行冥。現柱の最古参且つ筆頭であり、その桁外れの実力も相まって他の柱達からも一目置かれる存在である。
二人が述べている事は誰もが理解しており、隊員の質の低下は今回の那谷蜘蛛山の攻防でも顕著に表れていた。無尽蔵に増え続ける鬼を討伐する為には人手がいるが、増えれば増える程統率が難しくなっていくのも事実。古株の育手も、昔とは様変わりした
「だが、昼間の二人は使えそうだったな。特にあのヘラヘラした野郎は……
腕を組み話を聞いていた"音柱"宇髄天元は、その派手な装飾品を揺らして含みのある笑みを零す。彼の発言で、この広間に座る全員の意識は一人の青年に向けられた。
『…………』
—————瀬田宗次郎。任務を共にした隊士達からの情報を集めれば、今期入隊したばかりにも関わらず鬼を瞬殺出来る程に剣技が優れており、仲間は出る幕すら無かったという意見も多い。大幅な戦力上昇と捉えれば素直に喜ぶべきだが、何かが引っ掛かる。話によれば「全集中の呼吸」も習得していないらしいが、育手に何も教わらない筈は無い。
そんな柱達の心情を察したのか、産屋敷は今回最も青年と接触したであろう
「しのぶ、君から見て彼はどう映った?」
"蟲柱"胡蝶しのぶは、主の問いに言葉を詰まらせその端整な顔を僅かに歪ませる。宇髄の言う二人の片割れである竈門炭治郎は、鬼になった妹を元に戻したい一心で未来へと突き進む…純粋で心優しい少年だ。彼の場合は判りやすかっただけに、対する例の青年は余りにも掴み所が無さ過ぎた。
「曖昧な表現で申し訳ないのですが、彼は……私達とは
柱達は心中で彼女に同意した。今宵の裁判で顔を拝んだ際、彼の"異質さ"を半刻にも満たないあの時に本能的に見抜いていた。判決次第では処刑される可能性もあった筈なのに、彼は
表情のみで人間の内を測る事は不可能だと理解はしているが、妙に脳裏に焼き付いて離れない。
「……奴はどうも胡散臭い。呼吸も無しに鬼舞辻に傷を負わせて下弦二体を圧倒しただと?過去に何をしていた?」
嫌悪の顔色を示した不死川は舌打ちをする。「全集中の呼吸」あってこその鬼殺隊士、肉体を何の強化もせず不死身の化け物と戦うなど正気の沙汰では無い。その凄まじい剣術を、一体何処で培ったというのか。甲ともなれば今後自分達と連携を取る任務も多くなるだろうが、果たして背中を任せて良い存在なのか…不確定な要素が浮かんでは宙を漂う。
「…そうだね。確かに彼は鬼殺隊の歴史から鑑みても"異例"だ。実弥がそう感じるのも無理はない」
産屋敷は、そんな彼等の反応を
「けれど私はね、鬼舞辻が初めて見せた尻尾を掴んで離したくない。その為には彼の力が必要になる」
鬼舞辻無惨は仇敵ながら用心深く、巧妙に姿を隠し裏で様々な鬼を使役して人を脅かしている。ここ数十年は動向すら掴めなかった筈なのに、彼等の活躍で直接姿を捉えた上に負傷させる事まで出来た。彼奴にとっても想定外だったに違いない。下弦の鬼を複数仕向けたのが動揺している証拠だ。
今宵新しい風が吹き込んだ事で、鬼殺隊と鬼の永きに亘る戦いに大きな転機が訪れようとしている。宗次郎と竈門兄妹、そして歴代でも随一とされる九人の
「丁度機会も良いし、皆には宗次郎について話しておこうか。重要な事だから心得て欲しい」
柱達は改めて身体を引き締め、一言一句違うまいと真剣に聞き入る姿勢に入る。
「———————特に、杏寿郎」
「はい!!!」
「君は彼と剣を交える予定だから、頼んだよ」
主の静かな呼び掛けに呼応した『男』は、燃え盛るような炎髪を靡かせ、灼熱の如き緋色の瞳を見開く。かの若き新参者は一体どのような剣技で挑んで来るのか。己も学ぶ要素が有れば尚良しと、来たる対戦の日に向け熱き"心"を燃やして……
「承知した!!!
この俺にお任せ下さい!!!!!」
ーー"炎柱"煉獄杏寿郎は、声高らかに叫んだ。