"天剣"は鬼を斬る   作:青めだか

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今年はるろ剣も鬼滅も熱い!何とか頑張ります。
あと北海道編の宗次郎待ち遠しいです





激戦

 

 

 張り詰めた緊張感に包まれた空間に、軽快な脚音が響く。一定の間隔で刻まれる予備動作(それ)は、得体が知れずとも直感で「危険」だと最大限の警戒を抱かせた。依然として笑みを浮かべる宗次郎の瞳が…僅かに鋭さを増した、その瞬間—————

 

 

 

 

 

「————ッ!!!!!」

 

 

 

 

 ーー()()()()()()()()()()

 

 

 目にも止まらぬ速度の突撃。置き去りにされた轟音が遅れて鼓膜を刺激し、突風が全身を激しく揺り動かす。瞬きをする暇も無くガキィ!!!!と刀同士が火花を散らし、影と同時に交差した。勢いを殺さぬまま大きく背後へ回った相手に、煉獄は瞬間的に全身を反転させ……息を大きく吸って弾丸の如く突進する。

 

 

「"炎の呼吸"壱ノ型———『不知火』ッ!!!!」

 

 

 誠に炎が吹き出す勢いで剣が熱く震える。横に振り抜かれた灼熱の如き一閃を、宗次郎は僅かに身体を逸らしただけで躱す。刃渡と間合いを正確に読み取らなければ出来ない芸当だ。避ける動作を最小限に抑えられる程、行動の選択肢を無尽蔵に与えてしまう。生じた猶予で繰り出したのは斜め方向の袈裟斬り、死角を正確に突いた反撃が荒々しく迫る。

 しかし煉獄も間髪入れずに真っ向から炎の呼吸を放った。二度目の激突から派生して、互いに無数の斬撃を繰り出し捌き始めた。十…二十……四十と、極短時間で尋常ではない回数を切り結ぶ内に両者の剣舞は一層激しさを増していく。

 

「ッ……、ハァッ!!!!!」

 

 熱気を払い除ける強烈な追撃を躱した相手は再び残像となり、縦横無尽に空間内を駆け巡る。強靭な脚が連続で畳を踏み抜く度に轟音が鳴り響き、決壊した足場が空中で次々と霧散していく。剣道場は瞬時にして嵐が巻き起こったかのような惨状を呈していた。

 

 

(何と、凄まじい脚力……ッ!!!!)

 

 

 これは何らかの「歩法」だ。踏込からの独特な脚の運び方で初速から最高速度に一気に達している。前後左右全ての方向から不規則に脚音が響くのは、何処からでも仕掛けられる証拠だ。全集中の呼吸とは全く異なる未知の技能に煉獄は唸った。

 最早微塵も出し惜しみする理由は無い。受け身のまま翻弄されては確実に詰んでしまう。相手の速度に引けを取らず攻勢に転じるには"常中"を限界まで行使する他ないだろう。初手で強烈な印象を残してくれたが故に、挑戦し甲斐があるというもの。紅蓮の闘気を宿した煉獄は脚に力を込め……自らも残像となり標的目掛けて突っ込んだ。

 

 

 

♦︎

 

 

 

「………!!!」

 

 

 炭治郎は目の前の光景を疑った。視界の先を目まぐるしく飛び交う()()()()()()。人の原型を留めないそれらは、うねり交差する度に凄まじい轟音を鳴り響かせ…空間全体を大きく振動させる。

 隣に佇むしのぶの様子を確認すれば、彼女は激しく移動する二つの軌道を正確に捉え眼をしきりに動かしていた。その更に隣にいる派手な格好の柱も、他の場所に立つ柱達も……皆同様に二人の激闘をその瞳に捉えて離さない。

 

 

 ———自分だけが、眼で追えていないのだ。

 

 

 ある程度は覚悟していたつもりだった。天賦の剣才を持つ宗次郎と、鬼殺隊最上位である煉獄()との戦いなのだ。間近で眺めれば歴然とした力量差を終始痛感するに違いない。そう理解していて尚、想定を遥かに上回る攻防……文字通り次元が異なる戦闘を前に、只々圧倒されるしかなかった。己の動体視力を歯牙にもかけぬ加速、旋風の中で生じているであろう千差万別の駆け引き。下弦の鬼を追い詰めた()()()()()では、姿を捉えて学ぶ事すら赦されないというのか。

 

 

 …仮に、どちらかが「鬼」であったなら。稽古ではなく命の奪い合いを目的に、この次元の戦闘が行われていたら……今の自分では到底介入出来ないだろう。助力どころか足手纏いに成り兼ねない。いつも和やかに話す青年の戦闘を初めて本格的に見たが、改めて雲の上の存在なのだと認識する。己の不甲斐なさを痛感して無意識に拳を握り締めていた。

 

 

「………ッ」

 

 

 強くなりたい。彼のように襲ってくる敵全てを撥ね除けられる力が欲しい。それは周囲の大切な存在を守る事にも直結する。打ちひしがれる暇があるなら、少しでも得られる情報を元に自分の成長を促すのだ。彼等の脚元に喰らい付く気概で、現時点で自分に理解出来る事を取り入れるだけで良い。

 

 

(………蒼い影、宗次郎さんが少し速い…)

 

 宗次郎の方が、素早く変則的な動きで撹乱しているように見える。しかし対する煉獄も惑わされず同じ速度を保って衝突を繰り返している。その領域にいつ到達出来るのか解らない程の高度な攻防。

 …だが何故だろうか。自分程度に判断出来る筈もないのに、両者の戦い方には何処か()()()()()()があるように思える。剣術や読み合いがどうかという類ではなく………もっと根本的な何かが。

 妙な感覚を拭えないまま、意識は二人の激戦に引き込まれていく。

 

 

 

♦︎

 

 

 

 "炎の呼吸"は圧倒的な「威力」が特徴の型である。大地を踏み締め、足の推進力を利用した強烈な一撃を敵に叩き込む技が多い。更に煉獄自身の技量も加わり、大振り気味の技の欠点は皆無に等しい。肉体が全盛を迎えておらずとも、「至高の領域」に限りなく近い戦闘能力を有している男は文字通り鬼殺隊の"柱"であったのだ。

 

 柱稽古で鍛錬を重ね続けて迎えた最終日。自分だけが特別に例の青年と稽古する事になった。折角の貴重な機会、他八人とは違った闘いを噛み締めようと悠長に構えていたのは始まる直前のみ。戦闘中は相手を実際の"敵"と想定し、切り替えて挑まねば稽古の意味を成さない。そしていざ剣を交えて、今までの情報が紛れもない"事実"であった事を全身で感じ取っている。

 

 

「『不知火』ッ!!!!!」

 

 

 己の炎剣は現在悉く受け流され、掠りすらもしていない。素早い歩法で巧みに此方(こちら)の技の焦点をずらしているのだ。加速を継続している状態でも全く目は回らない様子で、空間での把握力が非常に優れている。側面()を当然の如く走り抜け舞うように熾烈な斬撃を浴びせて来るのだ。空中さえも支配して閉鎖された空間内を自在に駆け巡る相手にとって、此処は独擅場に等しいかもしれない。

 

 

 移動しながら複雑に絡み激しく斬り合う。両手で剣を握り締め戦う自分とは違い、彼は主に片腕のみで剣を振るう。速度はそのまま"重さ"となって上乗せされ、異常な威力の斬撃を捌かねばならない。

 互いの一文字斬りが交差し、余りの衝撃で両者共身体が吹っ飛ぶ。後方に跳び素早く体勢を立て直した煉獄は直ぐに顔を上げるも……

 

 

「————何ッ!?」

 

 

 在る筈の人影が無い。気配も感じず脚音も響かぬ異様な一瞬の間の中、煉獄は弾けるように()()()()()()()。其処には既に自身目掛けて照準を定め、今にも天井を蹴って地面に突き落ちる寸前の青年の姿があった。先程の反動を利用して舞い上がったに違いない。不味い—————!

 

 

「弐ノ型!『昇り炎天』ッ!!!!!」

 

 

 唸るようにかち上げた炎剣が、脚力を利用した強烈な兜割を迎え撃つ。凄まじい衝撃が刀から全身に伝わり、バキィ!!!と両脚が畳にめり込んだ。僅かに反応が遅れた事により体幹が崩れてしまう。着地した宗次郎はその隙を逃さず煉獄の懐に潜り込み、凄まじい低姿勢で刀を連続で振るう。

 

「く、、ッ!!!」

 

 後退しつつ剣を捌くも、猛攻に押され壁の突き当たりまで追い詰められる。相手は前のめりの姿勢を起こすと同時にその勢いを存分に利用、無慈悲な斬撃が大きな弧を描いて下から煉獄に迫っていく。

 

 

『気炎———万象ォ!!!!!!』

 

 

 命中寸前で間に合わせた呼吸で"参ノ型"を行使。斬撃を相殺どころか宗次郎をも捩じ伏せんと豪炎を纏った刀が力強く振り下ろされる。重い衝撃が音となって悲鳴を上げ、技の余波のみで足場が砕かれ粉々に散っていく。しかし煉獄の視線は既に正面、当然の如く技を避けて周囲を駆け巡る蒼き軌道を追って自身も加速した。

 

 

 語るまでもない彼の異常な"速度"。絶大な推進力を乗せて放たれる斬撃は、受け止めて尚煉獄の体幹を大幅に崩してくる。柔軟でいて、且つ敵を両断するような鋭さ……緩急を付けた流麗な剣捌きに攻めあぐねていた。

 まさに変幻自在の刃、「型」を主軸とした全集中の呼吸とは全く異なる戦い方だ。身体の一部を動かす程度の気軽さで容易に、宗次郎の発想次第で無限に等しい攻め方を構築出来ている。定まっている呼吸の技は既に見切られていると考えて良い。ほぼ完封されている状態で如何に攻略するか…。

 

 

「———ッ!!!!」

 

 再び何の脈絡もなく反転した影が、亜音速で斬り掛かってきた。『不知火』で応戦するも、穿ち舞い上がった宗次郎はそのまま縦方向の回転斬りを仕掛け、遠心力を利用した強烈な斬撃を脳天に叩き込んだ。最低限の動作で繰り出されたその一撃を完全には防ぎ切れず、鈍い痛みが上半身を襲う。

 

 

「ッ、、フゥッ!!!」

 

 

 またも反応が遅れた。一度大きく距離を取りつつも相手を視界から意地でも剥がさない。…そう、煉獄を苦しめている最大の要因は特異な歩法でも剣捌きでも無い。宗次郎の動きが()()()()()()()()()()事なのだ。闘気だけではなく"殺気"すらも斬撃に含まれていないのが理由である。

 

 

 極論を述べれば、刀は対象を傷付ける為の武具。大小の差はあれど、自ら握って戦闘を行えば如何なる者でも胸の内に殺意が宿る。殺傷能力が皆無の模造刀だと理解しても、殺気(ソレ)を完全に消し去るのは不可能なのだ。剣客にとっては決して切り離せず、気配を読み取る上で必要不可欠な要素となる。

 だがこの青年からは微塵の殺意も感じ取れない。稽古が始まる直前でも何も感じ取れなかったが、戦闘中でもそれは依然として変わらない。闘気や殺気といった気力全般は人間の感情に起因する。意図的なのかは分からないが、恐らく想像を絶する方法で()()()()()()()()()のだ。

 これが彼の"素の状態"であれば厄介極まりない。何も読み取れない結果、事実上の『先読み封じ』が生じるからだ。戦闘中は常に未来(さき)を予測して動かねばならない。優れた剣客が相手ならば尚更で、先読みが出来なければ前提が成り立たないのと同義である。機先を制し続ける者が正義の世界で、それは余りにも大き過ぎる障害であった。

 

 

 

 歩法・剣技・先読み封じ、この三つの要素が絶妙に合わさり「完璧な戦術」が完成している。実力者である煉獄ですらも驚く程看破出来ず、後手に回らざるを得なかった。刹那の判断力も恐ろしく高く、気を抜けば一瞬で刈り取られてしまうだろう。

 

 

(だが、俺も慣れるしかないッ……!!)

 

 

 しかし煉獄とて数多の場数を踏んでいる。相手の特性を学び最適解を導き出し、灼熱の刃で敵を幾度も屠って来た。「全集中の呼吸」が生み出す可能性を引き出してこの青年を乗り越える。

 "常中"を継続すれば瞬発力と反応速度を極限まで高められる。熟練度が高い程その時間は長くなり、最高位の柱が扱う"常中(ソレ)"は一般隊士の比では無い。鍛え抜かれた感覚は、体感時間を圧縮し過ぎて敵の動作が鈍く見えている程だ。ほぼ()()()()の感覚的な反応と積み重なる戦闘経験で得た直感を活かして、宗次郎の攻撃に対応出来ていた。

 

 しかし重要なのは、身体に負担を掛ける呼吸法を全力で駆使してようやく()()()()()()()()()()事。余力を残す暇など皆無に等しく、既に本気に近い状態で戦闘を継続している。過去から現在まで戦った敵味方を含め、その強さは確実に五本の指に入るだろう。噂に違わぬ、否それ以上の逸材だと断言出来るからこそ……彼の全てを把握して勝利したい。煉獄の眼は依然として気高く滾っていた。

 

 

 戦闘が始まってから一定の時間が経過している。そして、何度目になるか解らない激突の直後…

 

 

 

 

 

「———そろそろ、慣れてきましたか?」

 

 

 交差する間際に耳元で囁かれた。振り向くと同時に軸足を回転させて強烈な横薙ぎを繰り出すが、虚しく空を切った。空中で後方に向かって回転しながら華麗に着地した青年を()()()()正面から見据える。感じ取ったのは嵐が来る前のそよ風、熾烈な戦闘中に生じたひと時の"幕間"の気配。宗次郎は刀を肩に掛けると一息をついた。

 

「やはり想像以上にお強いですね。鬼殺隊に来てからは貴方が一番だ」

「それは光栄だな!君こそ凄まじい強さだ!!!」

 

 常識から逸脱した存在達は、臨戦態勢を解かぬまま互いを称賛する。それだけを言い残して、空気は再び重く両者に伸し掛かった。多くを語るのは刀で良いと言わんばかりに互いの眼は鋭さを増す。

 

「次は、かなり速くなりますよ」

「受けて立とう!」

 

 宗次郎は先程よりも明確に()()()()で脚先を地面に打ち付け始めた。それでも何ら変わらぬ笑顔を浮かべる青年を見て、逸脱した"その先"を身を以て知る事になるだろうと煉獄は悟った。どのような結果になろうと全力で立ち向かうのみ、その心は常に炎を宿し爛々と燃えていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

 熱を灯した剣圧が、未だ頬に燻っている。

 

 

 見慣れた水の呼吸を"柔"の剣とすれば、炎の呼吸は正しく"剛"の剣。豪快な技をまともに受けたら確実に再起不能に陥り勝敗は決してしまうだろう。"五歩手前"の時点で此方の速度が上回っており、手数も多いが……決め手となる寸前で斬撃が阻止される。先読みが出来ない筈なのに"常中"を駆使して五感を極限まで底上げし、驚異的な反応速度で「紙一重」を延々とやってのけているのだ。それでいて防御のみに徹せず、積極的に接近し技も繰り出して来る。

 

(はは、凄い人だ)

 

 鍔迫り合いの音、剣先で生じる高度な駆け引き。並外れた速度に張り合い、何より先読みを封じられている状態でここまで喰らい付いて来る。武具を持たず、欲望と本能で動く「鬼」では到底成し得ない超級の戦術。己に為す術なく斬られてきた有象無象とは違う、本物の「剣客」と相対しているのだと認識する。

 

 ーー久しく忘れていた、()()()()

 

 思い返せば大正時代(こちら)に来てから異形ばかりを相手取っていた。元いた時代、幕末の動乱に時計を逆戻りさせんと明治維新に牙を剥いた頃が懐かしい。度重なる要人暗殺に数多の報復……血で血を洗う大規模な争い。その名残故なのか、やはり対人戦は身体に非常に馴染む。

 大きな流れに身を投じ続け、その最果てに待っていたのは『彼』との決着。あの時と比べて現在(いま)は何も憂う必要は無い。前に突き進む限り、真実は必ず手に入ると信じているから。しがらみから解放された鳥のように身体が軽く、脚が躍動する。絶好調と言い表しても相違ない状態であった。より速くなった予備動作に気付いた相手は、鬼気迫る闘気を宿して刀を構えている。

 

 貴方は強い。けれど()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「——————"四歩手前"、行きますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

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