"天剣"は鬼を斬る   作:青めだか

16 / 18
お待たせしました、続きです。
北海道編の宗次郎がカッコ良過ぎる





異なる存在

 

 

 "炎の呼吸"最大の奥義を迎え撃つ形で、宗次郎が繰り出した超神速の『瞬天殺』。先程の速度を更に凌駕した歩法は……最早()()()()()()()

 

 甲高い轟音と共に衝撃波が荒れ狂い、瞬く間に両者の衝突は終焉を迎えた。雷鳴が轟くような凄まじい波動が、荒ぶる余波となって観衆達を激しく揺り動かす。交差する瞬間すら視認出来ずに、やがて彼等が眼に映した光景は……互いに背を向け、刀を振り抜いた状態で静止する二人の剣客。 

 

 永遠に続くような沈黙が場を満たす中……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 —————ドサリ、と片膝を突く音。

 

 

 

 力無く項垂れ、胴を押さえながら浅く呼吸を繰り返すのは……煉獄杏寿郎。幼き日の分身である模造の炎刀は、刀身の先から砕け散り最早使い物にならない。それでも炎を冠する柱は満足気な表情を浮かべ、己を下した青年へ賞賛の眼を向けた。

 

 

 稽古の終わり…勝敗が決した瞬間であった。

 

 

 

♦︎

 

  

 

 万全の状態で発動した縮地"三歩手前"。炎の呼吸の最終奥義である『煉獄』と交差する瞬間……流麗な剣捌きで()()()()()()()。抜刀術の長所は圧倒的な初動の速さ。衝突の寸前まで引き付け、炎剣の起動を瞬時に見切り受け流す…神業にも等しい剣撃を可能にした。その勢いのまま胴を閃光の如く一閃、有り余る"速度"の差が明確に勝敗を分けたのだ。

 渾身の技を放った余韻が、流れ落ちる水のように抜け切ると…宗次郎は姿勢を戻し刀を納めた。亀裂の入った刀身が激突の壮絶さを物語っている。しかし、見事相手の奥義を破った青年の表情は…普段通りの笑顔(余裕)とはかけ離れていた。

 

(はぁ……こりゃ凄いや)

 

 

 ーー右腕の痙攣が、止まらない。

 

 

 鈍い痛みが麻痺の如く腕全体を駆け巡り、あらゆる動作を反射的に拒んでいる。使用不能に陥る程の衝撃を受けた刀だけに留まらず…剣を握っていた利き腕すらもこの有り様。暫くまともに扱えない(ソレ)を眺め、宗次郎は内心乾いた笑みを浮かべた。

 

 

 完璧に逸らして尚……この絶大な『威力』。

 

 

 肉体的な成長と鍛錬に伴い、此方の技も三年前よりは確実に威力が増している筈。それでも、相手の豪炎を纏った刀身に触れた瞬間……圧倒的な"破壊力"と"気迫"に呑み込まれそうになった。

 志々雄真実(あの人)から「毛利の三本矢」とも称された特性を遺憾なく発揮出来た。その過程全てを、根本から覆し兼ねない程の凄まじい奥義。限りなく限界まで消耗させた筈なのに、一体何処からあれ程の底力が湧いて来たのか。

 

「………」

 

 

 己には縁の無い、"精神"が肉体を凌駕する現象。

 

 人は心が原動力という炭治郎の言葉を思い返す。この場合は自分の方が特殊なのだろう。極限まで追い詰められた経験が少ない上に、欠落した感情()は如何なる状況でも変化を遂げない。対する煉獄は炎の如き熱い精神の持ち主だ。条件が揃い次第で、瞬間的な爆発力を生み出す要因に成り得るのか。三年前の記憶を辿り、敗北の経験と重ねて想起する。

 

 それは飛天御剣流『天翔龍閃』との衝突。当時の精神状態を除けば、やはり技の破壊力が明確に勝敗を分けたのだろう。だが、同時に"彼"の気迫や闘気といった精神力も…煉獄と同様に全身を駆け巡っていた。剣の腕前のみが闘いを完全に制するとは限らない。自身の感情欠落とは真逆に、感情(ソレ)を爆発させて力を得る事も出来ると認識した。

 

 

 真っ向勝負に応じたは良いものの、存外危ない橋を渡っていた事実を改めて自覚する。技の速さが互角であれば、確実に自分の方が地に伏せていた。今後は"縮地"に伴う斬撃の威力向上と、純粋な身体強化を更に突き詰めねばならない。

 

 

 

「———ハッハッハッ!!敗けた!!!君は本当に強いな!!!」

 

 

 起き上がった煉獄が、豪快に口を開きながら此方に歩み寄って来る。彼の方へ振り向いた時には、自然と普段の笑顔(表情)を取り戻していた。稽古前と変わらぬ覇気を纏い、力強く此方の肩を叩いて来る。峰打ちとはいえ、相当の衝撃を与えた筈だが…既に常中を駆使し活動出来る状態まで回復したようだ。

 

 

「色々と学ばせてもらった、礼を言おう!俺もまだまだ鍛錬が足りんな!!!」

「いやぁ、屋内(ここ)が僕に有利な戦場だっただけですよ。貴方も物凄く強かったです」

「そう言って貰えるとありがたい!だが、君の歩法には()()()()()()。先程の技以上の速度を出せるのだろう?」

「………!」

 

 

 速度を抑えて技を放った事を見抜かれ、その鋭い観察眼に宗次郎は少なからず驚いた。確かに縮地はまだ三段階速度を上げられる。それでも、歩法を最大限に活かせる閉鎖空間(剣道場)だったからこそ…地形を駆使して一方的に攻撃出来たのも事実だ。その中で想像以上に渡り合ってきた彼自身にも、見習うべき要素は多々あった。

 呼吸を極める柱との念願の手合わせを終え、今後の課題も明確に定まった。得るものが多い…有意義な時間を過ごせた事に宗次郎も安堵していた。

 

「君のような実力者が鬼殺隊に来てくれて、俺は本当に嬉しく思う!素晴らしい試合を行えた事に感謝しよう!!!」

「僕の方こそ、貴重な経験をありがとうございます」

 

 始まりの際と同様に、求められる握手に応じようと自身の手を動かそうとした瞬間………

 

 

 

 

 

 

 

「—————オイ、待ちやがれ」

 

 

 観衆達の立つ外周から鋭い一声が掛かる。手を下ろした宗次郎はその方角へ向き直り、声を発した対象の姿を捉えた。逆立った白髪に血走る眼光、そして全身に荒々しく刻まれた傷痕。他人に関心の薄い自身の記憶にすら否が応にも焼き付いていた。

 その"男"は剥き出しになった敵意と共に、荒ぶる風の如き視線を真っ直ぐに此方へ向けた。

 

 

 

「テメェ、()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

♦︎

 

 

 

♦︎

 

 

 

 時は遡り、宗次郎と竈門兄妹の裁判終了後に開かれた柱合会議。闇夜が更ける中…鬼殺隊の主である産屋敷耀哉と、九人の"柱"全員を交えて様々な議論が行われた。そして会議が終盤に差し掛かる頃、産屋敷は遂に"瀬田宗次郎"について話を詳しく展開し始めた。事前に重要だと心得ていた柱達は、静かに主人の話に耳を傾け……深い衝撃を覚えた。

 

 

 

「————"真剣"を、所持していた…!?」

「そうだね。恐らく彼は、"表"の剣客なのだろう」

 

 

 驚愕で眼を見開く"風柱"不死川実弥に、産屋敷が静かに応える。剣客……広い意味を持つが、柱達の誰もが「成る程」と納得した。腑に落ちたと言うべきか。彼は鬼殺隊士なら誰もが通る筈の"育手"による訓練過程を省き、呼吸を習得しないまま最終選別を余裕で通過した。それ以前に、入隊前には"鍛治狩り"を単独且つ迅速に仕留めている。元より実戦経験が非常に豊富な証拠だ。只の優れた剣の使い手であれば、懐疑的な眼を向ける必要は無かった。

 

 

「僭越ながら申し上げる!!奴の資格を即剥奪し除隊させるべきです!!危険に御座います!!!」

 

 

 激昂する不死川の言動に含まれる意味を、この場に座す誰もが理解していた。宗次郎が入隊前から()()()()()()()()()事実。それは廃刀令が敷かれた"大正時代"において、尋常ではない事柄である。一般の者が真剣を持ち歩けば、瞬く間に手配され厳しい罰則を受けるだろう。政府からの公的な許可、若しくは鬼殺隊のように特殊な支援を受けなければ…決して有り得ない状況。

 

 

 即ち…何らかの「組織」と通じている可能性が非常に高い。政府公認()の者か、或いは暗部()の者か…どちらでも事態は変わらない。鬼殺隊は極一部の例外を除き、外部組織との干渉を避けている。様々な利権が絡まない()()()()組織だからこそ、現在の活動を維持出来ているからだ。機密情報が必要以上に知れ渡れば、日輪刀や鎹鴉などの独自の技術を利用せんと画策する者が現れるかもしれない。 

 自分達()の中にも特別な出自の者はいる。そんな彼等でさえ外部と接触する機会は皆無に等しい。鬼殺隊が"政府非公認"だからこそ、外から厄介事を運び込まれる危険は避けたいのだ。可能性の域を出ないのは承知の上だが…どうしても身構えてしまう。

 

 

 笑顔が特徴的な件の青年に対して、様々な想像が脳裏を走った。疑心は益々募るばかりだが、彼の情報は既に裁判を行う過程で集め終えたに違いない。主人から更なる詳細が述べられる瞬間を、柱達は逸る心を抑えて待機していた。求められる数多の視線に応え、産屋敷はゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

「宗次郎に関する情報は……

    ()()()()()()()()()よ」

 

 

 鬼殺隊の情報網は伊達では無い。"隠"や"鎹鴉"を始めとした、隠密と偵察に長けた者達を駆使して日々新たな情報を収集している。彼等が本腰を入れて捜査すれば、人間一人の素性など容易に丸裸に出来る筈なのだ。特に裁判の対象となった者は、入隊時とは比較にならない程徹底的に調べ上げられる。

 そして彼自身にも「特別な鎹鴉」を付け、常に監視して本部に動向を伝達させていた。幼いながらも明晰な頭脳を持った稀有な個体である。宗次郎が常識から逸脱した存在だと見抜き、入隊当初から本部の指示で動き始めていた。

 

 

 

 

 ———それでも尚、見つからない。

 

 

 彼の背景を暴く事は疎か、経歴を示す痕跡が全く存在しないのだ。戸籍や血統など、今の時代の人間が最低限有する筈の情報が何故か欠落している。更に非公認の暗部も含めた様々な外部との繋がりを探るも、悉くが空振りに終わった。鬼殺隊の総力を挙げて尚、何者かが把握出来ない事態に陥っていた。

 彼自身に勘付かれない方法で監視を続けても、特に怪しげな行動に移る気配も無い。夜間は鬼殺任務を忠実にこなし、明るい時間帯には街の散策と茶菓子巡りに勤しんでいる。その拍子抜けな調査結果を受け、柱達は無意識に肩の力を抜いた。各々が何とも形容し難い表情を作り、眉間に影が差す。

 

 

 

「…彼は不思議な子だ。最初からこの世に存在していなかったように、何も痕跡が無い」

「ならば尚更………ッ」

 

 

 詳細不明の剣客、ならば余計に警戒すべきと促しかけた不死川は……産屋敷の透き通る眼に諭され口を噤む。荒ぶる心を包み込むような、しかし有無を言わさぬ眼差しに既視感を覚えた。

 

 

「鬼舞辻への攻撃と下弦の鬼の討伐。それに彼が関わった任務において、追加の犠牲者は一人も出ていない。我々が求める以上の"信頼"を…既に明確な形で残してくれている」

『………』

「それにね、裁判前に彼の刀鍛冶からも"手紙"が届いているんだ。後で読み上げるが…信頼されない者をあれ程までに擁護出来ない」

 

 重い沈黙を溶かすように、柔らかな声で産屋敷は言葉を紡ぐ。耳が痛いと錯覚する程に、不死川を含む柱達の脳裏に直接響いていた。先刻も似たような流れで諭されたのを思い出す。

 これは竈門禰豆子()の件と全く同じだ。度重なる調査の結果、宗次郎が裏で他の組織と通じた痕跡は無く、悪事を謀る動向も見られない。在るのは鬼殺隊に貢献したという確固たる"事実"のみ。即座に除隊に追い込む程の、彼の危険性を証明出来る要素が何も無いのだ。鬼を組織に受け入れた手前、強く反論出来る者は存在しなかった。

 

 

「君達には、稽古で宗次郎の戦い方を観てもらいたい。…恐らく、鬼殺を前提とした我々とは全く異なる剣技を使って来るだろう。それを確かめた上で改めて彼を受け入れて欲しい」

 

 

 そして産屋敷のみならず、柱達も意識せざるを得ない事実。鬼殺隊に不利益を齎す可能性を差し引いても…尚有り余る彼の絶大な「戦闘能力」。数多くの隊士を屠り、呼吸を熟知した強力な"鬼"程彼の剣が有効に成り得るかもしれない。実際に自分達の把握しない戦法で数々の功績を残している。

 

 

「私は、宗次郎や炭治郎達が現れたのは偶然ではない気がするんだ。今後、彼等無しでは突破出来ない苦難が必ずやって来るだろう。……鬼殺隊(私達)に必要不可欠な存在となる」

 

 

 其処まで言い切る産屋敷に、柱達は何も返す言葉が無かった。代々鬼殺隊の長を担う"産屋敷一族"の人間は、神がかり的な『予知』を可能としている。その先見の明を以て、幾度と無く組織の行末を導いてきた。最早この御方の意思に速やかに従うのみ。彼と連携を取って任務を遂行する機会も増えるだろう。先ずは圧倒的と称されるその力量を、実際に確かめなくてはならない。  

 たとえ彼が如何なる剣技を使おうとも、共に鬼を屠る同志として迎え入れる。風の音すら聞こえぬ静かな夜の中、鬼殺隊の主の下で柱達は誓った。

 

 

 

♦︎    

 

 

 

 外周から中央に入り込んだ不死川は、ドスの利いた声を出して宗次郎を睨め付けた。煉獄との激戦を見終わり、この男の闘い方はほぼ把握した。異常な速度から繰り出される剣技に今し方見せた抜刀術。全集中の呼吸とは根本的に異なる凄まじい戦法。

 

 

 

  —————紛う事なき、「殺人剣」。

 

 

 世に存在する全集中の呼吸以外の剣術が、必然的に()()()()()()()()事は理解している。鬼舞辻を含む上位の鬼に対抗出来ると同時に、"柱"を殺せる事が証明されたのも事実。煉獄を下した時点で、青年への警戒度は限りなく高まっていた。

 言うなれば「諸刃の剣」。扱い方次第では鬼殺隊全体の脅威になりかねない。不安の芽を摘み取る為にも、この男の動向は今後も注視するべきだろう。

 

 だが…お館様も全てを考慮した上で、彼の鬼殺隊士としての活動を認めている。新しい角度から鬼に対抗出来る絶大な戦力として、数々の重要な任務を託される事になるだろう。隊律違反を犯す確証が現状無い以上、何を言おうと排除する術は無い。 

 故に、敢えて過去を掘り起こすような真似はしないと決めた。ならば最低限、鬼殺隊に入隊した動機を暴いておきたい。以前とは異なる環境の中で剣を振るう理由は何か、人を助ける為などと抜かせば即座に仕掛ける心持ちで問い掛ける。それが不死川の中での最大限の譲歩であった。 

 

 

「テメェのような人間が、鬼を殺す組織で何を企んでやがる。率直に応えろッ!!!」

「……あぁ、成る程。そういう事か」

 

 何となく察した雰囲気を醸し出して、青年は平然と応じた。表情筋の一つも動かさない、貼り付けたような笑顔が癪に障る。

 

「まぁ、有り体に言えば"自分の為"ですね」

「……ハッ、自分の為に鬼殺隊を使い潰そうってワケか?なァオイ、全く解答になってねェんだよクソ野郎が!!!」

 

 変わらぬ笑顔にあっけらかんとした返事。青年を形成する態度の全てが不死川の神経を逆撫でた。何より、表情の割に()()()()をして応えられたのが逆に気に入らなかったのだ。行き場の無い鬱憤が、全身に刻まれた傷を内側から疼かせる。

 

「短気な人だなァ…糖分足りてます?丁度これから甘味処に行くので、貴方も一緒に来ますか?」

「………あぁ?」

「此処から北へ二里程歩けば、有名な茶菓子屋さんがあります。其処でゆっくり話しましょうよ」

「…ふざけてンのかテメェ……!!!!」

 

 他人に話の主導権を握られ、調子を崩されるのが堪らなく我慢ならない。その飄々とした態度に、抑圧された衝動が引き摺り出される。握り拳に青筋を浮かべ、笑みを浮かべる青年の胸ぐらを掴まんと更に距離を詰めかけたが……

 

 

 

「————其処までだ、不死川」

 

 

 煉獄が割って入り、行く手を阻んだ。

 

 

理解(わか)っているだろう。…いい加減冷静になれ」

「………ッ」

 

 普段の熱血漢とした雰囲気ではない、しかし芯の通った声色で(いさ)める。不死川は瞬間的に視線の矛先を煉獄へ向けたが…自身を抑え、軽く舌打ちをしながら宗次郎達の横を通り過ぎた。これ以上此処にいれば、理性が吹き飛び盛大に暴れかねない。

 出入口の襖障子を乱雑に開けた直後、目線のみを背後に向けて今一度宗次郎(標的)を射抜いた。

 

 

「妙な真似をすれば、俺が直々に叩き斬る」

 

 

 そして吐き捨てるような一言を放ち、剣道場から去っていった。後に続くように、他の柱達も続々と襖を通り抜けて大広間から去っていく。各々観るべき物は終わったと言うべきか。しのぶや炭治郎に他数名の柱も、自分達の最後の挨拶を待っていた。

 

 

 

 

「…いやぁ、凄かったですね」

「気にする事は無い、彼なりに君を認めた証拠だ。本来なら真っ先に拳が飛び出す奴だからな!」

 

 あれで抑えていた方と煉獄から補足を受け、宗次郎は興味なさげに相槌を打つ。評判に違わぬ、正に暴風のような男であった。

 

「大方、僕の素性を調べていたんでしょう?」

「ほう、鋭いな!!確かに俺達は入隊以前の君を何も知らない。だが()()()()()()()

 

 裁判の事もあり、色々と裏で調べられていたのは何となく想像が付いた。しかし、視線を出入口から此方に戻した煉獄は、そんな事は関係無いとばかりに今一度豪快に話し始めた。

 

 

「君が自分なりの信念で入隊した事は先程の問答で伝わった!改めて"俺達()"は、君を受け入れ歓迎しよう!!!今後の活躍にも期待している!!!」

「…はは、貴方は凄い人だなぁ」

 

 

 裏表の無い…清々しい程真っ直ぐな心意気に、宗次郎も感銘を受けていた。その灼熱の如き精神は、今後の真実探しで参考になるかもしれない。いつか共に任務を遂行出来る日を楽しみに待とう。互いに感謝の意を込めて、先程やり損ねた握手を再び交わした。

 

 

 

 

「———また逢おう!!瀬田少年ッ!!!!」

 

 

 

 こうして、炎の幕は閉じられた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

♦︎

 

 

 

♦︎

 

 

 

 炭治郎達には先に蝶屋敷へ帰るように伝え、宗次郎は甘味処に向かっていた。予約を済ませた早朝とは違い、完全に昇り切った太陽からは緩やかな光が流れている。疲れた身体を極上の茶菓子で癒したい一心で、川沿いの遊歩道を歩き続けた。

 此処は都市の端に位置する城下町。先程までは少しでも早く到着する為、街道を避けて「近道」を強引に通って来たのだ。衣類に付着する植物の葉を払い除けながら走り続け、一瞬で目的地の近隣に辿り着いた。お陰で自分の想定する時間帯には菓子にあり付けそうであった。

 

 

 不死川()から詰問された時、問答が長引き二戦目に突入するだろうと内心覚悟していた。口先ばかりの懐柔では到底抑えられぬ、己が"否"とする対象を徹底的に追い詰める人物。先の裁判の様子で彼の人柄は良く理解していた。相手からすれば、稽古は自分に牙を剥く絶好の機会だったに違いない。 

 それが意外にもあっさりと引いてくれた。恐らくお館様辺りが事前に彼を説き伏せたのだろう。後で確認を取り、事実であれば何らかの御礼を考える必要があるかもしれない。だが、全ては甘味処で食事を済ませた後の話だ。

 

 

 屋敷と柳が織り成す古風な街並みの中を暫し歩き続けると…小川に掛かる立派な橋が見えた。元々都市の中央から離れた地域であり、時間帯も相まって人通りは極端に少ない。太陽光を煌びやかに反射させる清流のせせらぎの音だけが、鮮やかに耳を奏でていた。此処まで来れば到着したも同然、向かい岸に渡って再び川を辿れば店が見えて来るだろう。

 後一息、記憶した品書きから頼む物を考えながら橋を渡り始めた……その時。

 

 

 

 

 

 

 

「—————待って!!!!」

 

 

 

  鈴の音を転がすような、甲高い声色。

 

 背後からの呼び掛けを受けた宗次郎は、()()()とばかりに短く溜め息を吐いた。実は道場を出立して以来、一定の距離を保ちながら"己の背後を付ける者"がいた。最初は目的地の方向が同じだけだと思い気にも留めなかったが、縮地を使用して「近道」を通る最中でさえ寸分も違わず追って来たのだ。疑念は確信へと変わり、それでも敢えて無視し続けていたが……遂に接触を図って来たらしい。

 丁度良い、店に到着する前には対処しようと考えていた所だ。立ち止まって話す内容を想定し、声の主を振り返りながら一瞥した。

 

 其処には両膝に手を突き、息を切らして苦しげに呼吸を整える"女性"。俯いた頭から伸びる鮮やかな桜色の髪が此方の眼を惹き付ける。

 やがて息を落ち着けた彼女は、勢い良く顔を上げ爛々とした双眸を覗かせる。そして漸く声を掛けれたと言わんばかりに、元気良く口を開いた。

 

 

 

 

「私っ、貴方に確かめたい事があるの!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。