"天剣"は鬼を斬る   作:青めだか

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どうも。オリ技として『瞬獄殺』という技名を考案しましたが、調べたら既に存在してました。





甘露巡り

 

 

 ずっと後を付けてきた、思わぬ人物の来訪。

 

 

 

「確かめたい事って、何ですか?」

 

 

 ——またか、と宗次郎は内心辟易としていた。自身の剣技や過去に疑問を持つ者が多い、それを承知の上で柱稽古に臨んだ。不死川から詰問を受けたばかりなのに、再び面倒事に巻き込まれる気がする。

 此処に辿り着くまで屋根を転々と飛び渡り、竹林を縫うように駆け抜けて来た。縮地を使用した自分に着いて来れた時点で、彼女は紛れもなく"柱"の一人なのだろう。手荒な事態を招く要因に成り得る実力者、警戒を解かぬまま飄々と真意を尋ねた。

 

 

 

「そう!貴方が言ってた"甘味処"のお話!!!」

 

 

 

 

 

「……はい?」

「それって、紫色の暖簾のお店よね?」

「…ええ、そうですけど」

 

 

 口を開くや否や、想像の斜め上の方向に話が進み始める。情報を抜き取る為に偵察にきたのとばかり考えていた。自身の肯定を聴いた彼女の顔色は、やがて花を咲かすが如く満面の笑みへと変貌し……

 

 

 

 

「———やっぱり、そうなのねっ!!!!」 

 

 

 

 一瞬で、距離を詰めて来た。

 

 

 柱らしい優れた瞬発力で、瞬時に目の前まで移動して来た直後…包み込むように両手を握られる。橋の上まで跳んできたような感覚だ。普通の人間ならその跳躍力に度肝を抜かれていただろう。

 

 

「あの店は知る人ぞ知る名店なの!!!北へ二里って聞いて此処しかないと思ったわ!私以外に通う人がいるなんて、とっても嬉しい!!!」

「はぁ、そうですか」

「名前も覚えたわ!瀬田宗次郎君よね!裁判の時からずっと気になっていたのよ!!」

 

 

 ずい、と顔を更に近付け、彼女は矢継ぎ早に捲し立ててきた。余りにもの遠慮の無さと勢いに、宗次郎は笑顔のまま少々気圧される。

 接近されて初めて、女性にしてはかなり身長が高い事にも気付く。至近距離で目線が合う辺り、自分と殆ど変わらない背丈のようだ。 

 

 

「私は"恋柱"、甘露寺蜜璃!貴方と同じ十九歳なの!下の名前で呼んでも良いかな?」

「別に構いませんが、手を『ありがとう!!宜しくね宗次郎君!早速なんだけど、私もご一緒して良い?お勧めの茶菓子を沢山教えてあげるわ!!!』

 

 

 先程から距離の詰め方が凄い。煉獄とは別の類で暑苦しい彼女に少々圧倒され、先程から半端な返答しか出来ていない。そして距離感以上に驚くべきは…彼女の両手から感じられる常軌を逸した「握力」。何とか振り解こうと力を入れてもびくともしない。このままでは埒が明かないと判断し、彼女の同行を取り敢えず承諾した。

 

 

「一応言ってみますが、予約内容を変更出来るかは知りませんよ?」

「大丈夫!私、あのお店の人と仲が良いから何とかなるわ!」

 

 

 歓喜に満ちた表情のまま、彼女は幼子のように腕を引っ張って先導してくる。本当に"柱"なのかと疑う程に、歳頃の女性らしく活気に溢れていた。

 

 

 

 

「さぁ宗次郎君、早速向かいましょう!!!」

 

 

 

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♦︎

 

 

 

 橋を越えて遊歩道を歩き、程なくして宗次郎達は甘味処に到着した。柳に囲まれた二階建ての大きな老舗で、暖簾をくぐると一階は菓子売り場になっていた。甘露寺は本当に此処の常連らしく、気前の良い店員が二階奥に位置する上等な個室に場所を変更してくれた。

 障子が開けられた窓からは小川が見える。季節関係なく付けられた複数の風鈴が、直接入ってくる風に揺られ嫋やかに静寂を破っていた。街の景観と一体化した空間が、先の激戦の熱を心地良く冷ましてくれる。

 

 

「とても良いでしょ!私のお気に入りの場所なの」

「ええ、落ち着きますね」

 

 

 広い机に向かい合って正面に座る甘露寺は、両肘を突いた手に顔を乗せてニコニコと笑っている。彼女自身も此処に来るのは久々らしく、非常にご満悦そうである。当然お勧めの品も全て把握しており、二人で楽しめる限定品を全て頼んだ。

 

 

 改めて正面に座る彼女に着目すると、はだけた胸元が強調されている。今まで任務を共にした女性隊士は標準の隊服ばかりだったので、彼女独自の仕様なのだろう。その程度の露出は、昔から駒形由美(由美さん)で見慣れた光景であった。

 

 

「どうしたの?…私の胸元が気になる?」

「いえ、懐かしいなぁと思って」

「懐かしい!?」  

 

 

 宗次郎君もやるわね……!と謎の感心を抱く彼女を見つめながら、物思いに耽る。

 

 

 "恋柱"甘露寺蜜璃…もう一人の女性の柱。元々鬼とは無縁の家系で育つが、自らの意思で鬼殺隊に入隊したそうだ。彼女が独自に扱う恋の呼吸は、五大流派である炎の呼吸から派生したらしい。

 そして驚いたのが、彼女が煉獄の元"継子"であった事。指南を受けていく内に自身に合った型を見出した為、独立したそうだ。先程の一方的な熱血振りも彼に影響を受けたのだろう。

 

 甘味処に到着するまでの僅かな道中だけで、これだけの自己紹介をしてくれた。彼女曰く、"柱"には全くの同い年の者がおらず、自分の年齢を聞いた際に親近感を抱いたらしい。以前の裁判の時にも、笑顔が素敵やら何やらで気になっていたそうだ。

 甘味処も付き添ってくれる人はいるものの、茶菓子を進んで好む人間では無いらしい。趣味を含む全ての条件が揃った相手だと嬉しそうに語っていた。

 

 

「それにしても、さっきの煉獄さんとの手合わせ!とっても素敵だったわ!」

「はは、ありがとうございます。本当に強くて面白い人だったなぁ」

「宗次郎君って可愛らしいお顔なのに、あの激しい移動術との落差が痺れたわ!力で対抗する煉獄さんも逞しくて素敵だった!」

 

 

 きゃあ!と両手で緩む頬を押さえて、彼女は身体を揺らしながら悶え始めた。もう一人の無愛想な方とは違い表情豊かで、中々見ていて飽きない人だ。

 

 

「稽古自体はとても良かったですね。最後の問答の方が少々面倒でしたけど」

「不死川さんのことね!入隊したのは自分の為って言ってたけど、何か特別な理由があるの?」

 

 

 宗次郎は軽く思案した後、鬼殺隊士となった簡単な経緯を甘露寺に話した。自分はこの闘いに、復讐心や義務感を待ち合わせていない。あくまで真実を見出す経験を得る為、長い道中の通過点とさえ考えている。三年間の旅では得られなかった視点を、新たな環境に身を置く事で養うのが目的だ。別の世から移転して来た事実は伏せて、大まかに動機を話し終えた。

 

 

「成る程、要は自分探しの旅を続けてるのね!」

「まぁ、そうなりますね」

 

 

 殆どの鬼殺隊士が、大義を抱いてこの闘いに望んでいるだろう。鬼を殲滅したい、人々を救いたいという心構えは特段無いと甘露寺に語る。この時点で非難されても致し方ないと感じたが、最高位の剣士の立場である彼女に尋ねてみたかった。

 

 

「自分の為だけに、鬼殺隊士を続けるのは間違いなんでしょうか。貴女はどう思います?」     

「………」

 

 

 甘露寺は暫し考える仕草をした後…新緑の双眸を再び此方へ向ける。

 

 

「ねぇ宗次郎君、私は何の為に鬼殺隊に入ったと思う?」

 

 

 訪れた唐突な問答に、宗次郎は疑問を感じつつも考えを巡らせる。先程の話を聞いた限り、鬼への復讐ではない事は分かっている。朗らかとしていて、他の柱と比べても一般的な感性の持ち主に思えた。殺伐とした環境に相応しくないと言い表すのが妥当だろう。

 

 

「想像出来ないでしょう?…私は生涯を添い遂げる殿方を見つける為に、入隊したの!!!」

「!……へぇ、変わってるなぁ」

 

 

 やたらと隊士を魅力的に捉えてしまうのも、その動機故なのかと宗次郎は納得する。彼女は特異体質で、その筋力の強さと暴食故に異性から敬遠された過去を語り始めた。常識に合わせる為に、本来の自分を隠す日々は苦痛だったようだ。

 故に、飾り気の無い自分でいられる居場所と異性を求めて、鬼殺隊に辿り着いたそうだ。確かに他では聞いた事の無い理由であった。

 

 

 

(……添い遂げる相手、か)

 

 

 片手に持った湯呑みの水面を眺めながら考える。動機どころか、真実探しの最中においても発想にすら無かった概念。

 

 思えば、志々雄真実(あの人)と最初期から共にいた自分ですら干渉出来ない部分に……由美さんだけが触れられていた。在る意味、国盗りに必要な能力を持たぬ彼女でも、常に側に置く意味があったのだろう。

 あの人と共に旅立ったと聞いたが、最期まで寄り添っていたのだろうか。詳細を知る術はもう無い。別れ際に、色々と話を聴いておけば良かった。

 

  

 

 

 

「鬼と戦うのは大変だけど、鬼殺隊は私が私らしく振る舞える大切な場所なの。此処なら、()()()()を見てくれる人が必ず見つかるわ」

 

 

 彼女も過去の経験から、己が貫き通す"真実"を見出したのだろう。自分が自然体でいられる環境と、相応しい人物を追い求める。一切の迷いなく目標へと突き進む姿勢は、実に鬼殺隊士らしい特徴だ。

 

 

「だからね、私の動機も自分の為。どんな理由であっても、信念を曲げずに人々を救い続けられるのなら…それはとても素敵な事だと思う」 

「………」

 

 

  

「間違ってなんかいない…貴方は正しいわ」

 

 

 

 甘露寺は柔らかく微笑み、言葉を紡いだ。特徴的な色の髪が風で棚引き、桜吹雪が舞うような光景に暫し眼を惹かれる。風鈴が鳴らす音色に乗って、その声が脳裏で反芻された。

 肯定を欲する問答をした訳ではない。純粋に自身の動機を客観的な視点から確かめたかった。真実探しの意義に関しても、自分は周囲の人間とは根本から感性が異なる。故に他者から何と言われようと、実践を繰り返す心持ちでいた。

 それでも、自身の行動理念を認められると不思議な気分に陥る。此処で自由に行動しても良いと、一種の安息感を抱いた感覚だろうか。暫し柔らかな空気が流れ、そして……

 

 

 

 

 

 

 

「はいよ、極彩の盛り合わせ()()()だよ」

 

 

 

 ドスンッ!!!!!と、ソレは台に置かれた。

   

 

「来たわね…!!!」

「へぇ…!これは豪勢だなぁ」

 

 

 宗次郎は珍しく感嘆の声を上げた。甘露寺に至っては、先程の大人びた雰囲気を瞬時に崩壊させ…餌を前にした獣の如き視線を菓子に向けている。漆で塗られた円形の食膳の上には、色鮮やかな餅や団子などが何十個も盛り付けられていた。それが四段重なった特上の品が、正面に座る彼女の首から下を覆い隠している。自分が大食漢だと紹介するだけの"根拠"を垣間見た。

 

 

 

「少し多いけど、私が殆ど食べるから安心してね」

「いえ、二人ならこの量は全然余裕ですよ」 

「——ッ!最高だわ宗次郎君っ!!!」

 

 

 

 

 しかし…そこは甘味に対しての感覚が常軌を逸した者同士。出会う筈の無い二人が邂逅し、新たな絆が生まれた瞬間であった。

 

 

 

 

 

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 その店を出た後も、甘露寺が勧める近隣の甘味処を何ヶ所も巡り続けた。食べては移動の繰り返し、一人の時とは比較にならない量と種類の茶菓子を存分に楽しんだ。やがて彼女と別れ、宗次郎が帰路に就く頃には…空は西日が照らしていた。

 山林に隣接する見晴らしの良い畔道を、ゆったりと歩いて行く。夕焼けに染まった空の彼方には、薄い雲が鮮やかに棚引いていた。

 

 

 

 

 此方の世に来て以来、初めて趣味の合う茶飲み仲間が出来た。甘露寺蜜璃…元の世でも見かけなかった類の人物であり、非常に興味深い。最初こそ面倒だと感じたものの、柱の中では割と好印象という位置付けに終わった。

 彼女と接さなければ、志々雄さん達の関係を省みる事も無かっただろう。以前では気にも留めなかった事柄を意識するようになる。故に、自身と異なる思想・考え方を持つ人間とは関わっていきたい。また甘味処を共に巡る約束も交わしたし、今後とも良い関係を築けそうだ。

 

 柱との稽古も無事終了し、表向きには彼等との関係も構築出来た。蝶屋敷に戻り数日も経過すれば、次の任務が待ち受けている。屋敷を出立する日に備えて色々と準備をする必要があるだろう。

 

 

 

 

 

 

「クルルー!」

 

 

 

 丁度その時、聞き馴染みのある甲高い鳴き声が紅く染まった山に木霊する。暫し立ち止まり夕焼けの空を見上げれば、自分の鎹鴉()が此方に飛んで来るのが見えた。何らかの書簡らしき紙を片脚に括り付けている。

 相方は小さな羽で減速を繰り返し、やがて此方が前に(かざ)した腕にちょこんと止まった。腹部がぷっくりと膨れている辺り、何かを捕食した直後らしい。幼い故に食欲旺盛で、数日前には善逸の鎹鴉(スズメ)を襲いかけた経緯がある。最初に現場を目撃した彼の絶叫が屋敷全体に響き渡ったのはよく覚えている。それなりに注意したが、見境が無いのも困り物だ。

 

 

 

「その文は、任務の通達ですか?珍しいなぁ」

 

 

 任務の詳細は、基本的に鎹鴉から伝えられる。内容の急な変更や追加の依頼など、特殊な場合にのみ本部から通達が来る。事前に聴いた情報では、今回も単独で任務を遂行する予定だった筈だ。

 宗次郎が脚に付けられた文を外すと、幼い相方は右肩に飛び移り休息し始めた。収まりの良い体勢を取ろうと動く毛玉を横目に、文を広げて目を通す。

 

 

 

 

「……成る程、そう来たか」

 

 

 やがて通達を読み終え、全てを把握した青年の表情は……笑顔(物憂げ)であった。任務の補足という点では予想通りだったが、変更内容が少し複雑だ。単独で良かったのに、何故"あの人"が同行するのか。

 遂には肩で寝始めた相方の温もりを感じつつ、溜め息を漏らした宗次郎は再び歩き出した。

 

 

 

 

 

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