"天剣"は鬼を斬る   作:青めだか

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修正に修正を重ねた結果、
やたら心情表現が多くなってしまった続きです。





"五歩手前"

 

 

「………ッ、此処は…」

 

 

 目が覚めると周囲は闇に包まれていた。頭痛も治まり感覚が徐々に戻る内に、土や生い茂る草木の香りがする事に気付く。どうも自分が倒れている場所は黄泉の国ではなく、何処かの山奥のようだ。

 宗次郎は即座に飛び起き、刀に手を添え臨戦態勢に入る。時刻は真夜中、何者かが半日以上掛けて此処へ運んだのだろう。感覚を研ぎ澄ませ周囲の状況を確認するが…人の気配は全くしない。

 

「………?」

 

 何かが妙だ。四肢を拘束されておらず、身ぐるみを剥がれた形跡も無い。どうやら手配書を読んで追って来た刺客や野盗の仕業ではないようだ。現在(いま)の状況が全く解らない。一体誰が何の為に此処へ連れてきたのだろうか?神隠しにでもあった気分だ。

 

 

(それとも、あの"声"が何か……?)

 

 

 気を失う直前に微かに響いてきた、何者かの声が関係しているのかもしれない。幻聴と決め付けるには早いと本能で感じ取っている。ともかく今の状況…具体的には現在地と時刻、そして日付が分からねば今後の方針が定まらない。

 周囲を探るべく宗次郎は真上に高く跳び、太い樹木の天辺に着地する。どの方角に行けば人里があるか高い場所から確認する為だ。視界を覆っていた闇は晴れて、雲から漏れた月明かりが山の表面を美しく照らす。この一帯はかなり標高が高いらしい。

 

 

「町や村は、無いなぁ。…………おっ」

 

 

 自分の真正面に聳え立つ立派な山、その麓の方で微かに音がした。荒々しい、何かが暴れているような轟音(ソレ)に慄いた鳥達が一斉に飛び去っていく光景が見える。何が起きていようが、取り敢えず人里を探す手間は省けた。普通に歩くなら一時間は掛かるだろうが、"縮地"を発動すれば三分弱で事足りる。

 

 

「さて、行きますか」

 

 

 

♦︎

 

 

 

「こんばんは。突然ですが、道をお尋ねしても良いですか?」

「————ッ?!!?!」

 

 

 鍛治狩りは瞬時に距離を取り、振り返って声の主を睨み付ける。其処には刀を所持した青年…新手の「鬼狩り」の出現。 

 

 

 ———何故、()()()()()()()!?

 

 周辺への警戒は怠らなかった筈だ。人間は鬼と違って如何に気配を隠そうとしても、呼吸音や微弱な気の流れが漏れ出てしまう。故に相手が奇襲を仕掛けようとも、先に勘付いて迎撃出来る。それが生物としての絶対的な「差」であり…覆す事は不可能なのだ。

 だが、目の前の鬼狩りは気配どころか()()()()()()すら感じ取れなかった。過去に葬ってきた鬼狩りとは一線を画する…"未知"との遭遇に、鍛治狩りは激しく動揺する。

 

 

 

「あぁ、すみません。いきなりで驚いたでしょう?」

 

 一方で、"感情欠落"により気配を皆無に等しい段階まで消す事が出来る宗次郎は、人前での自身の悪癖に少し反省していた。

 

 

(……それにしても、凄い見た目の人だなぁ)

 

 背丈は安慈和尚より少し高いぐらいだろうか。上半身が裸体な上に、鋼色の筋肉が金属の如き光沢を放っている。額には角らしき物体が三本生えており、伝承に見られる鬼のような形相だ。だが、()()()()の外見で驚いたりはしない。

 かつて所属していた「十本刀」が、"破軍"の二人や"丸鬼"などの個性的な者達が多数を占めていたからだ。かく言う自分も、周囲から見れば風変わりな人間だったかもしれない。

 

「ところで、ここが何処か教えて頂けませんか?山の名前でも地方名でも良いですよ。あ、日付と時刻も教えてもらえると嬉しいです」

 

 

 

 …鍛治狩りは臨戦態勢を解かぬまま、考えを巡らせる。声を掛けられるまで存在を認識出来なかった相手だ。迂闊には手を出せない膠着状態を自ら作っていた。攻撃を仕掛ける機会はあっただろうに…敵に存在を知らせて何を企んでいるのか。

 

(………!)

 

 恐らくは時間稼ぎ。この鬼狩りが何らかの手段で仲間と連絡を取り、此処の位置を知らせているとすれば…。奴は気配を消す事しか能の無いとんだ臆病者だ。折角背後を取ったは良いものの、己の肉体が刃を通さぬと察知して決心が鈍ったか…。

 

 

「そんな難しい顔しなくても、知らなければ遠慮なく仰って下さい。その場合は、少し先で倒れてる人に尋ねますから」 

「…………」

「安心して下さい。僕はあなた方の事情に関与する気はないですし、誰にも言いませんよ。そろそろどうなのか聞きたいんですが」

 

 

 いつでも自分を殺せるという余裕の表れなのか…どちらにせよ奇襲は回避出来た。今までも機転を利かせて上手く立ち回って来れたではないか。今回もいつも通りに対処するだけだ。冷静さを取り戻した鍛冶狩りは、改めて相手に隙がないかを観察する。

 相手は話に夢中で、未だに刀を抜いていない。奴が抜刀して構えるよりも———先に仕留める。

 

 

「…では貴様がこれから向かうべき場所を教えてやろう」

「へぇ、それは?」

 

 

 

 

 

 

「———()()()だよ。

 ———————血鬼術、『金剛槍』!!!!」

 

 右手全体が槍状に変形し、標的の胸を貫かんと発射される。刀鍛冶の足に刺したものとは比較にならない程の特大の槍は、宗次郎がいた周辺の木々と地面をまるごと抉り、ドォォォォン!!!!と爆音を出して大量の土煙を上げた。

 

 

「……殺ったか…」

 

 

 ほぼ零距離からの投擲。抜刀する隙を与えずに鬼狩りの身体を貫いた……間違いない。この鬱陶しい土煙が無くなったら、呆けた死に顔を拝んでやろう。尤も、原型を留めているか定かではないが。

 やがて土煙が晴れ、そこには愉快にぐちゃぐちゃになった死体が………

 

 

 

 

 

「…………?……………ぁ?」

 

 

 思い描いていた情景が、瞬時に崩れ去る。死体どころか血の一滴すらも落ちていない。その事実のみならず、目の前に広がっている光景に違和感を覚えた。

 

 

 ——何故()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ……いや、自分自身が逆さまになっている?左を見てみると、己の胴体が見える…頚が、ない……?

 頚、、くび、、!??!!?

 

 

 

 

「はは、予想通り過ぎて少し拍子抜けだなぁ。正当防衛なので悪く思わないで下さいね。それでは〜」

 

 

「が………アっ……馬鹿、な、いつの間に…」

 

 

 激痛で頭が狂いそうになりながら、頸を斬られた鍛冶狩りは、そう言い残して去っていく青年の後ろ姿を…ただ眺めている事しか出来なかった。

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

「………ぅぐ…あ?」

「動かないで、応急処置をしてますから」

 

 刀鍛冶の男が目を覚ますと、刀を持った青年が己の傷付いた足を止血し、薬を塗って包帯を巻いてくれていた。別の隊士が助けに来てくれたと確信し、自分の命が助かった事に安堵する。そして思考の矛先は直ぐに…あの憎き鬼に切り替わった。

 

「……ッ!奴は!!鍛冶狩りはどうなった!?」

「貴方を襲った人ですか?彼なら僕が斬りましたよ」

「!!…そうか、ついにあの鬼をやったか!!よっしゃああああ!!」

 

 その感極まる喜び具合を宗次郎は眺める。この奇妙なお面を付けた男も、自分と同じく殺されかけたに違いない。可能なら場所や日付を聞き出したかったが、怪我の具合がかなり悪い。一度落ち着いた場所へ移動して治療を優先すべきだろう。

 しかし、鬼と述べたのは比喩表現なのだろうか。そう考えていると、喜びの余韻に浸っていた面の男が此方の手を掴み…固く握り締めてきた。

 

「あんた、本っ当にありがとよ!礼を言うぜ!これで死んじまった仲間達も報われる……後で弔いに行かなきゃあな…。此処へ来た隊士はあんただけか?他に誰もいないのか?」

「僕以外は誰もいませんけど、それより何か勘違いしてませんか?」

「おいおい、一人で殺ったのか!?凄ぇな……あんたもしかして新しい柱……、!」

「……?」

 

 

 此方の質問には応えず延々と話していたかと思えば、今度は突然黙りこくって自分を…正確には腰に差している愛刀を凝視してきた。被っているお面に覗き穴らしき部分は見当たらないのだが、視覚に問題は無いらしい。

 

「…あんた、その刀見せてみろ」

「えっ、何故ですか?急に「いいから早く見せてみろ!!」

 

 男は半ば強引に刀の柄を握って、鞘から引き抜く。そして刀身を暫し眺めると同時に、身体が極端に震え始めた。隠し切れない動揺が面越しにも伝わってきた。

 

 

「お、ま…ッッ!!!これ()()()()じゃねぇか!!日輪刀はどうした?!!」

「…どうしたも何も、僕は普通の刀(それ)しか使ってませんよ」

「———この大馬鹿野郎がァ!!!もしこの刀で斬ったんなら、奴は()()()()()()()!」

「はぁ?」

 

 人の刀を無理矢理奪った挙句、とんでもない妄言を言い始めた。背後の木に衝突した跡があるので、きっと頭を強打して一時的に混乱しているのだろう。

 

 

「落ち着いて下さい、遺体ならあの場所に、、 

  …………え?」

 

 

 

 

 

 ————()()()()

 

 

 其処に横たわっている筈の男の遺体は、まるで最初から何も無かったように消え失せていた。頚を斬った際に出た大量の血痕だけが、生々しく地面に齧り付いている。

 

 慌てて集中力を高め、極限まで感覚を研ぎ澄ませる。…………いた、確かにあの男の気配だ。凄まじい速度で此処から遠ざかっている。この山林地帯から抜けるのも時間の問題であろう。

 

 

「…………!!!」

 

 

 今度ばかりは流石の宗次郎も驚いた。少なくとも旅を始めてからの三年間で間違いなく一番、だ。頚を斬った人間が蘇るという事象を誰が想像出来ただろうか。……それ以前に、彼は本当に「人間」であったのか…?

 

「クソがっ!逃げちまったか!!漸くあいつらの仇が死んだと思ったのに…クソぅ…!!!」

 

 

 面の男はがくりとうなだれ地面に蹲る。その様子を見る限り、余程悔しかったらしい。当然それがどういうものかも理解出来ない。

 「楽」以外の感情がない自分には、彼の悲しみと悔しさを共有する術など持ち合わせていない。"あの人"ならどうしただろう。傍に寄り添い、気持ちを汲んであげただろうか。

 

 

「…あのー、にちりん刀、でしたっけ?今手元にありますか?」

「……あの辺りに弾き飛ばされた日輪刀がある筈だ。だが未完成のナマクラが奴の皮膚を通す訳がねぇ…。何もかも手遅れな『僕がやりますよ』……ぇ?」

 

 普段なら、絶対に関わらない面倒事に参加しようとしている。一種の気まぐれと言っても良い。情報を聞き出す為にこの男の存在は不可欠だし、未知の化け物にも興味がある。最初はその程度の理由だった。

 

 

「それで斬れば絶命するんでしょう?僕が貴方のお仲間の仇を取ってきます。大丈夫ですよ…脚の速さには自信あるんで」

 

 

 

 その選択によって、三年間滞っていた己の歯車が再び動き出した事にも気付かずに…群青色の着物を靡かせて宗次郎は駆け出した。

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

「ハァッ、……グ、、ハァ」

 

 鍛冶狩りは無我夢中で走っていた。向かう場所など当然決めておらず、ただあの場所から…あの鬼狩りから距離を取りたかった。

 

 

 ーー死んでいない、何故俺は生き延びたのだ!!

 

 

 あの鬼狩りは自分の目にも留まらぬ、否()()()()()()速さで槍を避けて頚を斬ったのだ。何が起こったかも認識出来ないまま、一瞬で殺られた。刃を通す筈のない肉体も、何の意味も為さなかったのだ。

 絶対に敵わない相手であったと、手遅れな状態で理解した。初めて抱く「恐怖」を感じながら、消滅するのを待ったのだ。

 

 ところが幾ら待ってもその瞬間は訪れない。不審に思っていると、身体が再生可能である事に気づく。分からない、訳が分からない。

 有り得ない事象に戸惑いを隠せないが、あの鬼狩りが刀鍛冶に気を取られている内に距離を取らねばと判断し、即座に逃げてきたわけだ。間違ってでも不意打ちを狙おうとは思わなかった。また頚を落とされるのが目に見えていたからだ。

 

 

「はぁっ、くそがっ、くそがぁぁあ!!」

 

 

 獲物を追っていたつもりが、立場が逆転した現在の状況に屈辱感を抑えられず、口を噛み締める。しかしあの場所から既に山を二つ分は越えた。如何にあの鬼狩りが速くとも、流石に追って来れる距離ではない。安堵が訪れると同時に、自分をここまで追い詰めた張本人に対する激しい憎悪の感情が湧く。奴のおかげで全てが狂ってしまった。あの鬼狩りさえ現れなければ、今頃刀鍛冶が拷問により口を割っていたかもしれないのだ。

 もう良い……完全には把握できなかったが、このままあの御方の元へ赴き大まかな里の位置を伝える事にしよう。そして血を授かり十二鬼月となって必ず復讐してやる。あの貼り付けたような笑顔が絶望に染まる瞬間を妄想するだけで心地良い。

 

 

「クク……。——————!?」

 

   

 

 

 ふと、本能的な恐怖を感じて咄嗟に背後を見やる。何も無い漆黒に包まれた森が延々と続いているだけだ。得体の知れぬ不安感が全身を襲い……この一瞬でも距離を稼がなければいけないのに、眼は闇一点に縛られて離れない。有り得ない…絶対に有り得ないと半ば自身言い聞かせるように説いた願望は……

 

 

 

 

 

 

 ーー現れた蒼い影によって、見事に砕かれた。

 

 

 

 

「わぁ、本当に生き返ってる。どんなカラクリを使ったのかとても気になるけど、此処でもう一度殺しますね?」

 

「———ッ!!?ちくしょおおおお!!!!」

 

 

 

 こんな極短時間で、必死に開けた距離の差を縮められた。決死の逃避行は何の意味も為さなかった。

 鍛冶狩りは絶望に満ちた表情で喚きながら、何十本もの金属の槍を放ち接近を妨害する。だが宗次郎はそれらを舞うように空中で躱し続け、木から木へと飛び移り確実に距離を詰めていく。そして大きく跳躍しようした瞬間、全方位から自分を囲むように特大の槍が大量に出現する。

 

 

「串刺しになれ!『千本櫓』ッ!!!!!」

 

 

 

 迫りくる無数の槍を前に、宗次郎はいつもと変わらぬ笑顔のまま抜刀し、"縮地"の構えを取る。

 

 …この三年間で、戦闘において成長したのは剣の腕だけではない。年月を重ねる内、身体的な成長と度重なる鍛錬の末脚力は飛躍的に上昇し、縮地が()()()()()()()()。今の縮地"三歩手前"は三年前の"縮地"の速さに相当し、"二歩手前"以上ともなるとあの飛天御剣流奥義"天翔龍閃"をも凌駕する「超神速」を発揮できるようになったのだ。

 

 

 

「———————縮地"五歩手前"」

 

 

 

 如何なる体勢からでも初速から一気に最高速度まで達する事が出来る。前方の槍を体を一捻りするだけで躱し、包囲網を容易に抜け出す。勢いは衰えぬまま鍛冶狩りの元まで一直線に駆け抜け、刃が閃光となって鬼に牙を剥いた。

 

 

 

 

 

 

 

「……………ご、ッ!!?」

 

 

 

 鍛冶狩りは己の頚が再び宙を舞ったのを自覚し、苦悶に満ちた表情で悟った。この鬼狩りに遭遇した時点で既に、詰んでいたのは「自分」であったと。

 

 

「畜生…化け、物、が…………」

 

 そして今度こそ、刀鍛冶含む鬼殺隊関係者に百人以上もの犠牲を出し、猛威を振るった凶悪な鬼"鍛冶狩り"は、ごく普通の青年の手によって、討伐されたのだった。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 その肉体が塵となって消えゆくのを見届けると、宗次郎は面の男の元に戻るため、歩き始める。

 

 

 今し方斬った()()()()()()()。その存在を唯一斬る事のできる「日輪刀」と呼ばれる特別な刀。

 どうやら、現在地や日付以外にも色々と聞く必要があるらしい。そして其れはもしかすると、自分自身の真実へ近づく手掛かりとなるものかもしれない。そんな期待を胸に抱えながら、まだ薄暗い闇の中へと、身を投じた………。

 

 

 

 

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