"天剣"は鬼を斬る   作:青めだか

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様々なアドバイスありがとうございます。
ちょくちょく修正いれていくぅ。





最終選別

 

 

 志々雄真実という大きな存在の庇護の下、絶対的な信念に身を委ねて生きてきた。そして彼が隠世へと旅立った後、自身の脚で踏み出した外の世界は……想像よりも遥かに広大だった。触れる事象の全てが真新しく、幾度も形を変えて自分を迎える。

 そして突如迷い込んだ未知の世、人を喰う「鬼」とそれを討伐する「鬼殺隊」の存在。今まで最も奇想天外な"事象"が訪れている。此処で得られる経験は、以前とは全く異なってくるに違いない。故に新たな視点から"真実"を見出せるのではないか。

 

 

「鬼殺隊に入る事は可能ですか?」

「…ほう、自由だとは言ったがそう来たか…」

 

 

 宗次郎の言葉を聞いた途端、重吉は面越しでも分かる程神妙な顔つきで此方を見てきた。先程の暴れ具合が嘘のようだ。彼の心情を表すかの様に太陽が雲に隠れ、家全体が徐々に暗くなる。

 

「鬼殺隊に入る動機ってのは大方決まっている。家族や友人、恋人を鬼に喰い殺された奴がその復讐をする為に、だ。命懸けるには十分過ぎる理由だが…あんた自身は違うんだろ?」

「ええ、たった今鬼の存在を知ったので」

 

 

「…なら何故だ?常に死と隣り合わせになるんだぜ。もう二度と普通の日常には戻れねぇ」

 

 

 重吉は静かに問う。

 

 

「生半可な覚悟で入隊すると死ぬぞ。そりゃあ、あんたの剣の腕が尋常じゃないのは認める。鍛冶狩りを未完成の刀(ナマクラ)で仕留めちまったんだ。だがな、奴とは比較にならねぇ程強力な鬼が世の中には五万といるんだ。興味本位ってんならやめときな」

「……ああ」

 

 

 —-——なんだ、()()()()()

 

 

 ここまで聞いて、彼が警告をしているのだと気付いた。入隊したら今まで通りではいられないから辞めておけと述べているのだ。だが宗次郎はそれを聞いて()()()()。急に雰囲気が変わったので深刻な内容かと予想していたが、拍子抜けだ。 

 元より普通から逸脱した人生を歩んできた。家族や親戚に疎まれ虐待を受け、下手に機嫌を損ねれば即座に殺されるような家庭。"死"は常に己の側で息を潜めてその瞬間(とき)を待ち構えている。志々雄一派に所属していた頃は勿論、組織が崩壊した後もそれは変わらない。残党として指名手配された己の命を狙って、旅の道中でも辻斬りや野盗…果ては暗部組織の刺客までもが幾度となく強襲してきた。

 故に、彼が述べる"普通の日常"の基準が違う。

 

 

 

「慣れてるので大丈夫ですよ。…それに興味本位なんかじゃない、僕は自分自身の真実(こたえ)を確かめる為に鬼殺隊に入ります」

 

「………」

 

 

 

 

 重吉には、宗次郎が述べた「真実(こたえ)」がどのような意味を帯びている言葉なのか理解出来ない。だが、未来ある若者が己の成長を促す為……敢えてこの渦中に飛び込む覚悟でいる事は伝わった。

 

「………ハッ、良い目してやがる。あんたの覚悟、しっかりと受け止めたぜ」

「それは良かった」

 

 

 認めてもらえたと分かると緊張感がほぐれて、宗次郎は無意識に身体に入れていた力を抜く。

 

 

「よっしゃあ!そうと決まれば早速説明するかぁ」

「今からですか、じゃあお願いします」

 

 

 

♦︎

 

 

 

 今日から数えて十日後に始まる「最終選別」。

 それは鬼殺隊隊士を目指す者が、何年もの血反吐を吐くような修練を経て挑む最後の試験。その内容は何十もの鬼が閉じ込めた藤の花の結界内で、七日七晩生き残るというものだ。重吉曰くこの選別はかなり過酷で、最後まで生き残れる者は毎回二割を下回るらしい。

 

 

「へぇ、案外厳しいですね」

「ああ。だが、選別に使われるのは人を二、三人喰った程度の鬼だ。血鬼術を使う個体は存在しねぇよ」

「そうなんですか?じゃあ僕、自信ありますよ」

「自信あるって、お前なぁ……」

 

 

 あっけらかんとした様子の宗次郎に呆れつつも、重吉は『そりゃそうだろ…』と心の中で呟く。鍛冶狩りは少なくとも百人以上は人を喰らっており、選別の鬼達よりも遥かに脅威的だ。それをこの青年は隊士でもないのに余裕で倒してしまったのだ。鬼の存在を初めて知ったという事は、当然「全集中の呼吸」を会得している筈もなく………。

 改めて宗次郎の強さを再認識する。呼吸を会得せずに選別に挑むなど前代未聞だが、入隊する前から既に"柱"と同等以上の実力があるのなら話は別だ。長年数々の隊士達を見続けてきた自分の直感が、そう告げている。

 

 

「まあ、あんたなら心配はいらねぇか………よし!決めた。無事生き残る事が出来たら、俺が直々に日輪刀を打ってやる」

「え、良いんですか?」

「おうよ、命の恩人の新たな門出だ。手助けくらいしないと申し訳が立たねぇからな。それに日輪刀が何色に染まるのかも気になるしな」

 

「そっちが本音かぁ。けど黒曜さん、特殊な呼吸法を会得していないと色は変わらないって言ってませんでした?」

「馬鹿野郎!僅かな希望を抱いても良いじゃねぇか!全集中の呼吸が使えなくとも、何かしらの作用で変わるかもだろ?……変わらなかったら殺す

「あのー聞こえてますけど」

 

 

 小声で殺害宣言をしたり、人の刀を自分の物だと豪語して返さなかったりと、鬼殺隊の刀鍛冶は皆揃って物騒なのだろうか。重吉が基準だとしたら相当危ない集団だが、そうでない事を祈るしかない。

 

 

「それと言い忘れていたが…選別が終わるまでの約二週間、菊一文字則宗は俺が預かる。隅々まで調べてそいつと見分けが付かねぇような日輪刀を作ってやるぜ」

「え〜、それはちょっと…」

「当然だろうが。選別には仮の日輪刀を貸してやるよ。色が変わらない試作品だが、先日のよりはマシだから安心しろ」

 

 

 確かに鬼を屠れない刀など選別では役に立つ筈もなく、暫く重吉に預けておくのが妥当だ。しかし先ほどからのこの男の行動を鑑みるに、非常に面倒な事態だけは避けたい……。

 

「ほらよっと!」

「あ………」

 

 だが説得をする暇もなく、宗次郎の手から刀が掠め取られる。取り返すのは造作も無いのだが、再び駄々をこねて暴れられてはこちらの体力が保たないので好きにさせておくことにした。

 当の本人は我が子を抱く母の様に頬擦りを始め、気味の悪い声で笑い始める。

 

 

「…そんな顔で俺を見つめるな、自覚はある。だがな宗次郎、これはあんたの為でもあるんだよ」

「それは興味深いなぁ。是非理由を聞かせて下さい」

「言えんな!」

 

 

 笑いながら不平を口にする宗次郎を横目に、重吉は顔に影を落とす。

 

 

 

 ーーまた、()()()()()をするのだろうか……。

 

 

 

♦︎

 

 

 

♦︎

 

 

 

♦︎

 

 

 

 ーーお前は昔から他人に情を移しすぎなんだよ。身体が保たねぇぜ。

 

 

 

 鋼鐡塚から事ある毎に注意を受けていた。分かっている。選別を生き残れる確率はほぼ零に近い。死ぬのが当たり前と言ってもいいくらいだ。

 重吉は烏から送られてきた訃報の紙をぐしゃり、と潰す。そこには、つい先週この工房を訪ねて来た者の名前が書かれていた。

 

  

 

 育手により選別に挑むことを許された若者が何人、何十人此処を訪れただろうか。最近は隊士志願者自身が里へ赴き、自らの刀を打ってくれる刀鍛冶を選ぶ傾向が強くなった。わざわざ里から離れた山の奥にある自分の工房まで足を運んでくる物好きは、冗談交じりに生意気な口を叩く奴らばかりだった。……しかし、此処を訪ねて来た者が今まで生き残って帰ってきたことは、一度もない。

 

 特に印象に残っているのは、選別の前日に一晩泊めて欲しいと訪ねてきたあの二人……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何だよその背中の文字は?変わった趣味してんのな』

『コレか?かっこいいだろ〜。俺の親父が書いてくれたんだぜ』

 

 一人は背中に「惡」という文字が入った羽織を着た強気な少年だった。

 

『おーかっけえかっけえ』

『あぁ!?おっさん適当に言ってるだろ!』

『仕方ないよ。僕も初めて見た時変だと思ったし』

『おい心弥!初耳だぞ!?』

 

 もう一人は十にも満たないのではないか、かなり若いおっとりとした少年だった。

 

『で、あんたは何でそんなボロっちい竹刀を持ってんだよ?常に持ち歩いてんのか』

『これは父さんが子供の頃から使っていた大切な竹刀だよ。唯一の形見なんだ…』

 

 

 ーーどちらも強い。今まで自分を訪ねてきた若者の中で一番だ。

 

 

 剣を持つ手や佇まい、僅かな仕草などから重吉は二人の熟練度を的確に見抜く。事情を聞けば彼等は本当の兄弟ではなく、昔からの馴染みらしい。そして互いの両親は、自分達を鬼から庇って殺されたという。

 

 

『知るのが遅すぎたんだ。親父達を殺したのが『鬼』だって。不死身だって解っていたら………くそっ!』

後朔(ごさく)兄ちゃん……』

 

 

 よくある話だ。如何に武芸に長けていても、鬼の対処法を知らなければ為す術もなく殺される。胸が引き裂かれるような悲しみと地獄の様な鍛錬を乗り越え、二人は自らの足でこの工房まで辿り着いたのだ。ならば自分に出来るのは、その誠意に応えることのみ。

 

 

『……よし、あんた等の刀、責任を持って打つぜ』

『あぁ、よろしくなおっさん。俺達は必ず鬼殺隊士になる』

 

 後朔と呼ばれる少年は決意を口にする。横にいる心弥と呼ばれる少年もゆっくりと、力強く頷いて此方を見た。一体何度、そう言い残して出て行く後ろ姿を見送っただろうか……。

 

 

 

『ハッ、言ってくれるな。そんじゃあ景気付けに今夜は牛鍋にでもするかぁ!!』

 

 

 

 

 だが、鍋をつつき始めてから一時間も経たない内に、二人に言うまいと思っていた心の声を漏らしてしまう。本当は不安で仕方がない、あんた等もどうせ帰って来ないんだろ?などと。酒の勢いとはいえ、明日選別へ向かう相手に酷い言葉を投げ掛ける自分に嫌気が差す。

 

 

『『………』』

 

 

 しかし二人はその間、鍋をつつく手を止めて文句も言わずに静かに自分の罵詈雑言を聞いていた。そして顔を見合わせて小声で何かを喋ると、突然後朔は羽織を脱ぎ、心弥は背中に固定していた竹刀を外し、それらを自分の手に渡した。

 

 

『おっさん、コレ預かってくれよ。選別が終わるまでさ』

『…はぁ?何言ってんだよ!!こんな大事な『だからだよ』…!』

『これで僕達は、()()()()()()此処に戻らないといけなくなった』

 

 

 衝撃で言葉が出ない重吉をおいて、二人は尚も続ける。

 

 

『俺達はそんなにヤワじゃねぇ。あらゆる壁を二人で乗り越えてきたんだ。今回だってそうだ!なぁ心弥!』

『うん!だから、もう悲しまないでおじさん。また直ぐに逢えるから……お留守番宜しくね』

『成し遂げた暁には、立派な刀を頼んだぜ!』

 

 

 人を思いやる優しさと、決めた事を貫き通さんとする強い意志。こんなにも眩しく……久しく失っていた希望を見出してくれる。張り詰めていた心が、徐々に和らいでいくのを感じた。

 

 

『……ッ、上等だ!こちとら久々に腕を振るいたくて仕方が無えからよォ、必ず生きて戻って来い!最高の相棒を打ってやるからなぁ!!!!』

 

 

 次の日の朝、仮の日輪刀を持ったまま手を振り遠ざかって行く二人を、穏やかな気持ちで見送った。

 

 

 こいつらなら大丈夫だ、今度こそ……

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

ーーーー

 

ーー

 

 

 

 選別が始まってから七日目の晩が終わり、八日目の朝。重吉は()()()()()()()この一週間を何も食わずに過ごし……通達を静かに待っていた。信念を懸けた選別に挑んでいる後朔と心弥(あのふたり)が戻るまで、絶対に動かない。何も喉に通らない程、無心で無事を祈り続けていた矢先……

 

「——————ッ!」

 

 バサバサ、と烏の羽音が耳に入ると、ふらつく足で玄関の戸まで走る。そして二人の知らせを………

 

 

『………………………』

 

 

 

 

 

 居間まで戻ってきた重吉は付けている面を投げ捨て、おもむろに置いていた卓袱台(ちゃぶだい)を思い切り引っくり返す。

 

 

『ッああああああぁ!!!!!!』

 

 

 

 ドタン!!と大きな音を立てて卓袱台は逆さまになって倒れる。その上にあった「惡」という文字が書かれた羽織とボロボロの竹刀が、畳に投げ出された。

 

 

 

『はぁっ!は……クソがァァ!!!!』

 

 

 何故だ……有り得ない!!あれ程の覚悟と信念、そして優しさを兼ね備えた二人を()()()()()『鬼』など、藤襲山に存在する筈が無い!!!深く心に刻みつけておいて、形見を遺したまま……二度と届かぬ場所へと逝ってしまうのか。

 

 

『こ…こんな………俺が持ってたら駄目じゃねぇかよ!!テメェ等生きて取りに戻るんじゃなかったのかよ!!!なぁ……!』

 

 

 慟哭は虚しく居間に響いた。力無く崩れ落ち…手元にあった羽織を強く、強く握り締め顔に当てる。その「惡」という文字が(にじ)んでぐちゃぐちゃになるまで、涙は止め処なく溢れ続けた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーあんたでも駄目だったら、()()()()()()()()()()

 

 

 

「…どうされました?急に黙り込んで」

「いや、何でもねぇ。話し続けて腹も減った事だし……今夜は牛鍋と酒だぁ!!!」

 

 

 菊一文字則宗を奥の箪笥へ仕舞うや否や、重吉は大きな声で叫ぶ。

 

 

「あぁ、何か作るなら手伝いますけど」

「そいつはありがてぇ申し出だが、あんたは客人且つ命の恩人だからな。ゆっくり休んでてくれや」

「そうですか、じゃあお願いします。茶菓子以外の食事なんて何ヶ月振りでしょうか…」

「俺の牛鍋は絶品だぜ?楽しみにしてろよ。あんたも酒飲むよな?」

「いえお酒は結構で『飲むよな?』……分かりました飲みますよ」

 

 

 

 その日の夜、黒曜重吉の工房はいつもより賑やかになり、満月が周囲を優しく照らしていた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

♦︎

 

 

 

♦︎

 

 

 

 緩やかに時は流れ……最終選別の日の早朝。

 

 

 

「よい、しょっと」

 

 

 

 いつもの履き物を足に付け、仮の日輪刀を腰に差して宗次郎は家から外へ出る。山の空気は冷え込み、呼吸をする度に白い吐息が出る。

 そして見送りをする為に重吉も厚着で外へ出てきた。怪我をしていた足は、治療所へ行ったお陰でほぼ完治しているとの事だ。

 

 

「うおぉ寒いな〜。どうだ、忘れ物はねぇか?地図は?」

「母親ですか貴方は。大丈夫ですよ、ちゃんと持ちました」

「そうか…」

 

 重吉は一歩宗次郎に近付き、両手を肩に置く。

 

 

「宗次郎……生きて帰って来い。鍛冶狩りを倒したからって決して油断するんじゃねぇぞ。あんたは元の世に帰る場所がないと言っていたが、今は()()が帰る場所だ。…それを忘れるな」

「……!はい、そうですね」

 

 常に笑顔を絶やさなかった宗次郎が目を見開き少し驚いている。そんな表情も出来たのかと思い、重吉は満足げに笑うと、青年をくるりと後ろを向かせて思い切り背中を叩く。

 

 

「さぁ、行ってこい!!!」

「…ええ、それでは行ってきます。黒曜さん」

 

 

 宗次郎はいつもの笑顔で応えると、振り向かずに歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……帰って来いよ」

 

 

 

 

 震えるような寒さの中、重吉はその後ろ姿が見えなくなるまで立ち続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




るろ剣のop「1/2」で志々雄と十本刀のシーン(ロウソクのとこ)あるじゃないですか。
それを無惨と十二鬼月に変えて想像してみて下さい。
………めちゃカッコよくないか
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