"天剣"は鬼を斬る   作:青めだか

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前編後編とかやってみたかった……!






元凶 《前編》

 

 

 人知れず悪しき鬼を斬る「鬼殺隊」。その組織の中で今、ある一人の隊士が噂となっていた。共に任務を遂行していた者達の証言によると、例の隊士は()()()()()()()()()()らしい。彼が鬼と相対しているのを目撃し、加勢しようと意気込んだ時には既に鬼の頚が落とされていた。その手にはいつ抜いたかも分からない半透明の日輪刀を握っていたという。

 眼にも止まらぬ剣技の速度…そして終始笑顔を崩さない独特の雰囲気も相まって、新しい"柱"候補ではないか、或いは「始まりの呼吸」と何か関連を持つ者ではないか、などと根拠の無い憶測が飛び交っていたのだ。  

 

 

 

 様々な階級の者から現在進行形で注目の的となっているその隊士は今………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじちゃん、この桜餅(特大)十個ください」

「ええっ!?正気かお前……」

 

 

 

♦︎

 

 

 

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 鬼殺隊の隊士として任務をこなし始めてから早一ヶ月。宗次郎は激務に追われる日々に少し疲れていた。こうして茶屋でゆっくりと過ごすのも随分久しぶりに感じる。毎度通達を知らせに来る鎹鴉——もとい梟は見た目の幼稚さからは想像も出来ない程優秀であり、数多くの任務を的確に捌いている。しかし宗次郎の脚が異常に速い事を理由に、平気で一つの都道府県を跨ぐ程の距離を歩かせようとする。可愛らしい雛鳥なのに、基本的に容赦が無い。

 現時点ではあの"鍛治狩り"を超える強さの鬼を依頼された事は無いので、任務自体は一瞬で終了するのだ。それ故に与えられる数は多くなり移動距離も増やされていく。九州で鬼を討伐した数日後には四国へ急行するような経験もあった。同期で馬車馬の如く働かされているのは自分だけなのか…と思いながら桜餅を包んだ袋を抱えて茶屋を出ると、昼間よりも更に人通りが多くなっていた。

 

 

「わぁ……これは凄いや」

 

 

 

 今回の任務の場所は此処、東京府の浅草だ。十本刀に所属していた頃に何度か仕事で訪れた機会はあったが、あの時代(明治)よりも更に町は発展している。他国との親交が深まった影響か、西洋風の出で立ちをした人や初めて見る名前の飲食店などがちらほらと確認できる。三十四年の間に様変わりした文化や政治に関する知識は、重吉の家で文献を読み漁っていたのである程度は理解しているつもりだ。

 「腕は立つのに頭はパーなのねぇ」と、駒形由美(由美さん)に頻繁に指摘されていた。確かに元服の年齢を過ぎている身で無知なのは少し不味い。なので、旅を始めてからはなるべく雑学や歴史文化には手を付けるようにした。

 

(カレーにオムレツ……そしてアイスリーム。僕の知らない物ばかりだ)

 

 まだ口にしたことのない洋食の店を見て周りながら浅草を散策する。本当は今すぐにでも入店して未知の味を堪能したいのだが、今夜は人と会う約束があるのだ。なので買った桜餅を頬張って我慢する。

 

 

「クルックー!」

 

 

 既に十個あった内の六個目の餅に手を出そうとした時に、丁度飛ばしていた梟が戻ってきた。そして定位置になりつつある宗次郎の肩にとまると、首を器用に反転させ背中の羽の手入れを始める。

 

「お帰りなさい。…で、何処にいました?」

 

 その問いに応えるかのようにまた一声鳴いた。恐らく他人からしたら鳩の声にしか聞こえないだろうが、一ヶ月を共に過ごした自分なら言葉として意味を捉えられる。

 

「町外れのうどんの屋台か…。あまり離れていなくて良かった」

 

 そこを待ち合わせの場所と定めるや否や、宗次郎は目的地に向かって歩を進めるのだった。

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 人で賑わっている都市の中心地から離れた通路。其処にポツンとあった屋台のうどん屋に、目的の少年は座っていた。

 

 

「あっ、宗次郎さーん!こっちです!」

 

 

 お茶の入った容器を持ち、年相応に元気に手を振る少年…今夜会う約束をしていた竈門炭治郎だ。互いに選別を乗り越え隊士となって以来、定期的に鴉達を通じて連絡を取っていた。今まで一度も任務を共にした事がなかったが、今回は場所が重なったので合流するよう取り決めたのだ。手を振り返し、彼の前まで歩み寄った。

 

 

「やぁ。久し振りですね」

「ええ、本当に。お元気そうで何よりです!」

 

 

 屈託のない笑顔で、相も変わらず快活に喋る彼の様子を見ていると…溜まっていた疲労感が抜けていくのを感じる。

 

 

「道中で桜餅を買ってきたんですよ。炭治郎君も一つ食べます?良かったら……そこの妹さんも」

「あっ!…紹介が遅れましたね。妹の禰豆子です」

 

 

 宗次郎が目を移したのは、炭治郎の肩にもたれ掛かり静かに眠る少女。麻の葉文様のしっとりとした着物を着込み、兄と同じく朱色が混ざった綺麗な黒髪をしている。見た目は艶やかな雰囲気の少女だが、事前に聞かされていた通り間違いなく「鬼」だ。その鋭い牙を隠す為なのか竹筒を咥えている。

 

「へぇ……綺麗な妹さんですね」

「そうでしょう!町でも評判だったんですよ」

 

 そう言って胸を張り誇らしげに自慢する彼を横目に、じっくりと禰豆子(彼女)を観察する。…確かに、他の鬼には無い特別な"何か"を感じ取れる。この目で見るまでは実感が湧かなかったが、彼女には人間を襲う気配が全く感じられない。他ならぬ正直な炭治郎君が言っているのだ。

 

「…まぁ、彼女なら心配ないかな」

「…大丈夫です。禰豆子は決して人を傷付けたりしません」

「そんな不安な顔をしなくても分かってますよ。君は心配性だなぁ」

「あはは…。けど、俺以外に理解してくれる人ができてとても嬉しいです」

 

 

 禰豆子の紹介が終わると、宗次郎も座ってうどんを注文する。出来上がるまで時間があるので、買ってきた残りの桜餅を炭治郎と分けてとりとめのない談話を始めた。彼女にも分けようとしたが、気持ちよさそうに眠っているのでまた今度の機会に菓子を与える約束をした。

 

「それにしても大きいですね…この桜餅。一つだけでお腹一杯になっちゃいそうですよ」

「そうですか?僕はここに来るまで八つは食べたんだけどなぁ」

「えぇ!?本当ですか!!?……凄い」

「この一ヶ月は茶菓子しか食べてませんし。次は西洋の菓子を買う予定ですよ」

「…食事は栄養に偏りがないように心がけないとダメですよ?」

「別に大丈夫だと思うけどなァ」

 

 案外子供っぽい部分がある宗次郎を眺め、炭治郎はまたこの人の新しい一面が見れた…と内心嬉しく思いながらも無意識に長男力を発揮していた。

 

「けど、鬼殺隊にも宗次郎さんみたいに茶菓子が大好物の方がいれば良いですね!」

「確かに、その人とは色々気が合うかも」

 

 

 それからも会話は弾み、一日あたりの任務の量を彼に尋ねて見ると、なんと自分の三分の一にも満たなかったのだ。やはり己の任務量は明らかに多い。旅で慣れているので体力的には問題無いものの、ああも過剰に任務で予定が埋め尽くされては心のゆとりが持てない。本部は本当に自分が最下級の隊士だと理解しているのか怪しくなってきた。

 また、炭治郎も梟の言葉が理解できたことが判明した。過去に何度も任務を共にした隊士に試していたのだが、"クルックー"という一音節だけの鳴き声を言葉として捉えられたのは彼が初めてだ。何故この子の言葉が理解できないのかが理解できない、と名言みたいに述べる彼に自分も同意だ。

 

 会話が上手なのか、彼自身が生まれつき持っている特性なのかは不明だが、この少年と喋っていると何処か落ち着くのだ。正直今夜はずっと談話していても良いくらいだと、思い始めている自分がいた。

 

 

「そこで、俺は鱗滝さんから全集中の呼吸を教わったんですよ!」

「ああ、噂の呼吸法ですか。僕は教わらなかったんで代わりに教えて頂けませんか?」

「ええ、もちろん!先ずはこうやって………」

 

 

 

 

 

 

 ……………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 ………だが、それは唐突に終わりを告げる。

 

 

「……どうされました?」

 

 

 異変にいち早く気付き、次第に真っ青になっていく彼の顔を訝しげに見詰める。汗が滝のように首筋を(つた)い、呼吸は激しく乱れて全身を上下に荒く動かしている。突発的な何かが、発作でも起こったのかと思う程に深刻な様子であった。

 

 

「ッ……禰豆子をお願いします!!!!!」

 

 

 此方が行動を起こす前に彼はそう言い放つと、弾けるように席を立ち都市の中心地の方へ全力で走り去っていった。

 

 

「…………」

 

 

 

 突拍子な出来事に呆けていたのも束の間、常より冷静な宗次郎の頭脳は素早く回転する。

 

 繁華街を歩いただけで目眩がすると言っていた彼がわざわざ自分から大都市に向かって行った。それだけでも重大なのだが、何より驚いたのは()()()()()()()()()()()事だ。鬼殺隊に入った動機であり、常に傍らに寄り添い決して離れずにいた……「生きる理由」と形容しても差し支えない妹を、だ。

 つまりは彼女以上に優先すべき事態が大都市で起こったのだ。そうであるなら彼の突飛な行動にも納得が行く。……これは只事ではない。

 

 

「はいよー!山かけうどん三杯出来上がったぜ!…ってあれ?あの頭巾の兄ちゃんは?」

「……あー、すみません。この子を頼みます」

「はぁ?…あっ!おい!何処行きやがる!!うどん食ってけやぁああ!!!!」

 

 

 

♦︎

 

 

 

♦︎

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

『どこへ行こうと地獄の果てまで追いかけて、必ずお前の頚に刃を振るう!!!絶対にお前を許さない!!!!!!』

 

 

 

 

 …あの鬼狩りの言葉が、頭から離れない。

 

 

「あなた…さっきの子、やっぱり知り合いなんじゃないの?凄く怒ってたように見えたけど…」

「…いいや、それが本当に心当たりが無いんだよ。本当に、ね」

 

 

 あの"花札の耳飾り"……馬鹿な、一族は雲取山の住処で根絶やしにした筈だ。それが何故?

 

 

(あの場にいなかったのか…)

 

 

 …忌々しい。耳飾りをつけた鬼狩りが未だに存在していると分かった途端に、憤怒などと生優しい言葉では言い表せないドス黒い感情が己を支配するのを感じる。アレは早急にこの世から消さなければならない。

 

 

 そう考えている内に、迎えの車が目の前に止まったが、最早意識は例の鬼狩り唯一人に向いている。今すぐに奴等に命令を下さねば…。

 

 

「あれ?お父さんは来ないの?」

「…仕事があるんです。商談に行かなければなりません。それに先程の騒ぎも気掛かりだ」

「あなた…」

「大丈夫。警官に尋ねるだけですから」

 

 やがて納得し、車に乗った二人を見送ろうと近くに歩み寄る。すると娘が窓枠から顔を出し手を伸ばしてきた。

 

 

 

「お父さん!後でねっ!」

 

 屈託の無い笑顔で伸ばされた手に、こちらもクスリと微笑みその手を握ろうとする。

 

 

「えぇ。それではまた——————」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———————トンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …この瞬間、彼は"耳飾りをつけた鬼狩り"以外の事は眼中には無かった。加えて、仮初(かりそめ)とはいえ目の前には自分の愛する娘。普段とは違う己の姿を晒す訳にもいかなかった。詰まるところ、()()()()()()()()。だからなのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"瞬天殺"」

 

 

 

 

 

 

 

 気配を完全に断ちつつ、超神速……否、()()()()()()()()()()()で此方に向かって飛び込んで来る一つの影。実に、数百年振りに迫り来る『命の危機』に———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——————気付けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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