"天剣"は鬼を斬る   作:青めだか

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お久し振りです……そして宣言します。
次は今回より早く投稿するとぉ





"四歩手前"

 

 

 零余子の全思考が停止した。…目を充血させ、言葉にならない呻き声を上げながら消滅していく()()()()()()を見つめて。

 

 

(なに、これ……嘘でしょ…)

 

 

 幻覚の血鬼術を扱う自分ですら、目の前の光景が幻なのではないかと再三の疑いをかけてしまう。だが思考が戻っていく内に、これは現実なのだと認めざるを得なかった。

 

 

 

「あぁ、上手くいきましたね」

「!!!」

 

 

 近づいてくる足音、未だに漂う大量の瘴気の中から響いてきた余裕とも取れる声。本来ならば首が飛んでいた側であった筈の鬼狩り、瀬田宗次郎が目の前に姿を現した。

 

 

 

 

 ーー何故、生きている!!?

 

 

 迎え撃つなり逃走するなり迅速に対応せねばならないのに、圧倒的な驚愕に脳を支配された零余子の身体はぴくりとも動かない。無防備に突っ立っているその様子を不思議に思っていた宗次郎は、やがて相手が今の状況を理解できていないのだと納得し口を開いた。

 

 

「あの幻影の血鬼術は本当に面倒でしたよ。僕が刀を振った時には本体と入れ替わりで出てきて場を掻き乱して…。埒が明かないので一芝居打たせてもらいました」

「………芝居、だと?」

 

 

 聞き捨てならない言葉を耳にした零余子は、激しく動揺した顔を歪ませて困惑する。一体いつ、そんな仕草をしていたのか。全く見当が付かず頭を垂れ、下げた視線に映ったのは……鬼狩りの「脚」。

 

 

「……!()()()()か!?」

「あ、気付きました?体勢を崩したフリをしてあなたの相方が距離を詰めてくるように誘発させたんですよ。時々脚を引きずらせて怪我してるように見せるのも大変だったけど…如何でしたか?」

「…ッ、おのれ……!!」

 

 

 淡々と話すその様子は己を殺す余力がまだ十分にある事に他ならない。絶望に近いものを感じ、零余子の思考は加速していく。この状況をどう覆せば良い?次に奴が攻撃態勢に入るまであと何秒残されている!?もうじき話が終わる、その瞬間に自分の命は刈り取られてしまうのか……。

 

(——————ッ!!!)

 

 

 

 

「それに頭部だけを執拗に狙ってましたよね?お陰で動きも容易に読めましたよ。不注意というか単純というか……あの、聞いて———」

 

 

 ゴゥ!!!!!と、

 

 

 突如目の前の鬼が()()()()()()()()飛び掛かって来た。宗次郎は咄嗟に構え刀を……

 

 

 

 ーー抜かなかった。

 

 

 

 やがて攻撃が届く範囲に迫った彼女はその腕を胸に目掛けて放つ……が、宗次郎の衣類に触れた途端に彼女の姿ごと()()()()()。その際に生じた煙を払いつつ宗次郎は今度こそ"本体"を叩き斬らんが為に低姿勢で力強く地面を蹴り前方へ飛び出す。少し離れた正面には鬼が後方へ退きながら片手で人差し指を立て何やら力んでいる。術を発動する仕草だろうか。

 

 

 

(———縮地、五歩手前)

 

 

 

 懐に入り込みそのまま前から斬る…と見せ掛けて僅かに身体の重心を傾け臨戦態勢に入っていた彼女の右側を高速で横切り、背後にあった壁を蹴って速度を落とさぬまま跳躍。がら空きの背後から抜刀し斜め上から一閃、決め手ともいえる一撃を放つ。

 

 

「ぐっ……!!」

 

 

 

 

 しかしなんと、彼女は()()()咄嗟に屈んだ。その結果頸を通る筈だった斬撃は右肩を抉り、押し殺した苦悶の声が耳に響く。宗次郎は空中で目を丸くして驚いた。己の動きを察知され、その上で五歩手前の速さを破られるとは思っても見なかったからだ。

 

 

 

「血鬼術、"狂幻乱舞"!!!」

 

 

 右肩を押さえ苦し紛れに言い放った彼女の言葉を皮切りに、煙幕と同時に辺りに再び大量の幻影が出現する。その数は約三十程だろうか。一瞬で何処かへ姿をくらました本体と入れ替わって一斉にこちら目掛けて突撃してきた。

 

 

「今更そんな———っ!!」

 

 

 

 バキィ!!!と轟音を立てて宗次郎の身体が吹っ飛んだ。空間に浮いていた部屋の襖を突き破り奥の壁に激突する。ゴホ……と舞い上がった砂埃を取り込んでしまい咳をしつつも体勢を立て直した。防ぎきれずに少し食らってしまったが戦闘をするのに大きな支障は無いようだ。

 

 

「……成る程」

 

 

 

 ーー"幻影の実体化"。

 

 

 恐らくこの場にいる三十体程全てが…。分身とでも言うべきか、これが彼女の切り札なのだろう。おまけに本体の消耗具合とは関係無く全個体が万全の状態らしい。今食らった一撃の速さと威力も本物よりは劣るが、それでもかなりの強さである。

 宗次郎が着物に付いた埃を払い終わった頃には、部屋の中に七体の幻影が入り込み周囲を取り囲んでいた。

 

 

 

 ーードンッ!!!

 

 

 

 "標的を殺す"という単純な命令のみで動く幻影達は、間を置く事もせず問答無用で首を刈り取るべく一斉に飛び掛かってくる。今までこの血鬼術に敗れ散っていった数多の隊士達は、直前に己の命が終わる事を悟り絶望したであろう。無数の手が自らの首に届くまでほんの僅か。瞬きすら許されない刹那の瞬間……

 

 

 

 

 

「————縮地、"四歩手前"」

 

 

 

 余裕なまでの笑みを浮かべ、彼はそう宣言した。

 

 

 

♦︎

 

 

 

 部屋の外側、戦闘の中心地から最も離れた場所で先に突入した七体の様子を眺めていた幻影、本体から指揮を任された個体は今起こった出来事に目を疑った。彼女達の攻撃が届くか否かの瞬間に、標的の姿は掻き消え代わりに幻影四体分の()()()()()。残った三体に加え新たに部屋に入った七体も鬼狩りの姿を捉えんと周囲を見渡す。

 此処は十二畳程の空間であり、決して標的を見失う筈が無い。現に足音は常に聞こえているのだ。しかし…

 

 

 

 ーー()()()()

 

 

 "全方位"から不規則に着地音、床を蹴る音がして姿を捉えられない。その余りにもの脚力に床の畳は崩れ、天井は一部が決壊し崩落していく。その時に舞う埃も相まって視覚は勿論、聴覚ですら標的の位置を認識する事は不可能であった。ガッ!!と真後ろで足音がしたかと思い振り向けば反対側から膝下を斬られ、身体が傾いた瞬間に頸をやられる。感覚で放った蹴りを容易に躱され、上半身ごと真っ二つに斬られる。倒された個体の方へ目を向けた時には自分の頸も宙を舞っている。そうして一体、また一体と何の抵抗も出来ずに消滅していく光景を見て、感情を持たぬ筈のその幻影は"不安(ナニカ)"が己の内で渦巻くのを感じた。

 

 

 ……このままでは不味い。

 

 

 幻影は既に半数を切りかけている。閉鎖された空間内では相手が圧倒的に有利なのは火を見るより明らかだ。外へ、天井や壁が無い場所で戦わねば…。そう決断するや否や、仲間内でしか伝わらない思念を送ろうと自分の右手————

 

 

 

 

 

 

「—————?」

 

 

 

 ———を構えようとするが、途端に身体がぐらつきドサリ、と無様に尻餅をついた。自分の身に何が起こったのかも分からず足元を見やると……

 そこには両脚があった。光の粒子となって段々と消滅していくソレを呆然と眺めていた彼女に、一つの影が近付いて来た。

 

 

「油断したら駄目ですよ。でないとこうなりますから…」

 

 

 気付かぬ間に室内から飛び出し外にいる多数の個体の警戒網を神速で強引に潜り抜け、最も奥に位置していた司令塔の元までやって来た"彼"はそう一言呟くと、倒れた状態から抵抗を試みた彼女の肩を右足で踏み抜くように強く押さえつけ固定する。反応が遅れて残った個体が動き出したのも虚しく……

 

 

 その刃は、喉笛に深々と突き刺された。

 

 

 

♦︎

 

 

 

♦︎

 

 

 

♦︎

 

 

 

「はぁ………あ、」

 

 

 無限に広がる空間内を息も絶え絶えに走り続けた零余子は、遂に力尽き構造物を支えている柱を背もたれにして座り込んだ。朦朧とした意識の中、滴り落ちていく自分の鮮血を虚ろな眼で見つめていた。

 

 

 ーー血鬼術、狂幻乱舞。

 

 

 果たして己の奥義であの鬼狩りを完全に仕留められたかどうか。答えは「否」である。この血鬼術は自分自身(本体)が発動させた場所で実体化させた幻影達を直接操作し波状攻撃を行うのが基本だ。その際体力を大幅に消費し無防備となるが、周囲に護衛を五、六体程配置する事で防御面は解決できる。攻守共に非常に優れた術だという自負はある。しかしこれは表向きの使い方であり、通用するのは自分と実力が拮抗している相手まで。そう………

 

 

 ーー()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 "指揮を幻影の一体に任せ、その他全ての個体を敵にぶつけている間に本体(じぶん)は逃走する"。当然護衛に割く幻影もいないので追撃されれば確実に終わり、半ば運任せである。これが狂幻乱舞のもう一つの使い道だ。今宵の敵…"半透明の刀"の鬼狩りは、隙を突いたとはいえ己より格上の下弦の参をいとも容易く屠った。尋常でない"速度"から繰り出される剣術、最初の幻影を見抜いた洞察力。先程の斬撃を避けれたのは本当に()()()()()()だ。まず正攻法では勝ち目は無いだろう。幻影は頸を斬らずとも一定以上の損傷を与えれば消滅する。必ず全ての個体を打ち倒して追ってくるに違いない。

 

 

「参った…わね…」

 

 

 逃走に徹する方法で狂幻乱舞を使用したのはこれで二度目だ。一度目、あの"炎を彷彿とさせる髪"をした鬼狩りに遭遇した時以来か…命からがら逃げた記憶は今でも鮮明に覚えている。だが今回は場所が結界内であるが故に、あの時のように複数の追手はいない。なので落ち着いて休息し、且つ次の作戦を練らねばならない。のだが………。

 

 

 

「………ぐ、っ!!」

 

 

 どうした事か、いつまで経っても右肩の傷は治らず今でも悲鳴を上げ続けている。正確に言うと()()()()()()()()()。時間的には完全に塞がっていてもおかしくは無いのに、まだ半分も再生できていない。血鬼術の使用で体力は底を突きかけ、傷口から絶え間無く感じる激痛に苛まれ正気を保つ事すら怪しくなってきた。十中八九あの鬼狩りが持つ"半透明の刀"が関係しているに違いない。

 

 

(っ、そう……いえば…)

 

 

 ずっと疑問だった。何故あの御方が首筋の傷を再生させずに姿を現したのか。傷…即ち醜態を配下に晒すなどあってはならないだろうに。恐らく、再生しなかったのではなく()()()()()()()()。自身であの半透明の刀に斬られて理解した。全ての鬼の始祖ですら修復に手間取っている事実に戦慄する。

 だが一つの疑問が解消されたからといって、状況が好転する訳でも無い。どれだけ回復力が衰えていようと、束の間でも休息して態勢を整えねばならない。敵を屠る以外に…生き残る道は残されていないのだから。零余子はより楽な姿勢を取る為、身体を横へ倒し耳を床に——————

 

 

 

 

 

「——————!」

 

 

 

 

 

 

 記憶に無い"足音"が聞こえる。あの鬼狩りとは歩幅が異なり、数は少なくとも三人以上……新たに送られた増援だろうか?

 

 

 

  

 

 ………いや、違う!!!!

 

 

「鬼狩りッ…!!ガッ、、あ……!!」

 

 

 長年の経験から得た直感が、接近してくる集団は味方では無いと警告を鳴らす。しかも無闇に動いてはおらず、確実にこちらの位置を捕捉して近付いてきている。結界内(ここ)にどうやって侵入してきたかは敢えて気にしない。気にする暇があるのなら、一歩でも遠くに離れて傷を癒さないといけない。そう思い何とか上半身を起こして咄嗟に立ち上がろうとするも、血鬼術の使用と肩の負傷、更には度重なる逃走で限界を既に越えていた身体は言う事を聞かず、腕の一本すら動かすのも思い通りにいかなかった。

 

 

 

 

「…………………」

 

 

 

 

 

 

 ……ここまでか。

 

 

 

 決して折れなかった零余子の脳内に遂に思い浮かんだ"諦め"の二文字。前回は五体満足であったから追撃を振り切れたのだ。しかし右肩を深く抉られていては全身に力が入らない。この最悪の状態で捕捉された時点で運命は決まっていたのかもしれない。

 自分自身で気持ちの整理がつくと、張り詰めていた感情が徐々に和らぐのを感じた。

 

 

 そして遂に足音の主達は零余子の元へ辿り着き…

 

 

 

 

 

 

「——動くな!そして俺の質問に答えろ!!!」

 

 

 

 

 

 中央にいた額の大きな痣が特徴的な鬼狩りが、抜いた刀をこちらの頸に突き付けそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 




無限列車編まで一ヶ月を切りましたね。ネタバレを食らわぬよう努力?した甲斐があったぜ……


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