拝啓 お父様、お母様
そちらは変わりなくお過ごしでしょうか。
どうやら俺は最近流行の異世界転生と呼ばれるものに巻き込まれてしまったようです。俺が愛していた小説のような世界が、今の私が住んでいる世界になっております。
そして確信はありませんが、そちらに帰ることは難しそうです。お母様の期待していた孫の顔は見せられないですね、ごめんなさい。
こちらの世界ですが、異世界によくある剣と魔法のファンタジーな内容となっております。ただしちょっと特殊なのが、魔法使いはほぼ女性に限られるということでしょうか。この世界は、女性が活躍する社会のようです。
そして異世界転生名物である『特殊能力』や、『チート』といったスペシャルな特典ですが、残念ながら俺には全く備わっておりませんでした。
そんな俺ですが、何度か命の危険に遭いながらも何とか生き延びています。これも丈夫な体に育ててくれたお父様、お母様のお陰です。
また、こちらでは料理人として暮らしており、前世の知識と経験が役に立っています。同じく料理人のお父様に怒られないよう、こちらでも精進して参ります。
それでは、お体に気をつけて。
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異世界転生から3年。
転生当初は住所不定無職童貞だった俺、大木主水(おおきもんど)も、なんやかんやありながら何とか住むところと仕事を見つけ、異世界の生活に馴染むことができた。
ちなみに童貞は未だに守り抜いている。ふっ、堅守のモンドとは俺のことよ…。
後一年守り抜けば晴れて魔法使いの仲間入りである。辛いです…
今の職場はノア国レッドスナッパー領にある小さな居酒屋【サチコ】で料理人として住み込みで働いている。ちなみに従業員は店主と俺の二人だけである。
「さて、明日の仕込み終了…っと」
我ながら段取り良く仕事できたな、ふふふ。
と一人でニヤニヤしていると。
「モンド君おつかれ様。いやーちょっとしか外に出てないのにびしょ濡れ!ひどい天気だから、もう今日は店閉めちゃいましょう」
そう言って玄関から入ってきたのは、店の主であるサチさん。
この世界では珍しいハーフエルフで、異世界から来た俺を助けてくれた命の恩人だ。
エルフ族の特徴であるスラリとしたモデル体型は残しつつ、出るとこは出ている。控えめに言って女神でしょ。
そんな彼女が「水も滴るイイ女」で俺の目の前に出てくるもんだから、そりゃ頭から脚までガン見しても許されるよね? はー眼福眼福。
時間にして数秒後、サチさんが「どうしたの?」と尋ねてきたので慌ててタオルを渡す。
「サチさんお疲れ様です。外すごいですね、さっきから窓がガタガタ震えてますし。…今日は全然お客来ませんでしたよ。食材余っちゃったなー」
今日は開店前から雨が続いていたため、いつもより客の入りが悪かった。天気に大きく影響を受けるのは飲食業の辛いところである。
「こういう日もあるわよ。明日は買出しいらないわね。…それより話があるんだけどいいかしら?」
サチさんがウェーブのかかったサラサラの銀髪をタオルでパタパタしながら聞いてきた。かわいい。
いや待て。この雰囲気は…あの『お願い』が来るパターンだ。
「店主の引き継ぎ以外でしたらどうぞ」
「うっ…。モンド君もうちに来て3年経つんだし、そろそろ腹くくってよ〜!」
猫なで声で俺を説得しようとしたな?(一ヶ月ぶり2回目)だが無意味だ。
「お断りします。」
「いいじゃない〜。やることは今とほとんど変わらないわよ?」
(店主になる気は)ないです。
「いいですか、前も言ってますが店主なんて柄じゃないですし。…それにサチさん店主やめたらどうするんでしたっけ?」
「私、冒険者になりたいの!!小さい頃からの夢で」
「駄目です」
「即答?!」
「ええ、危なっかしくて見てられません!心配すぎて食事も一日3回しか喉を通らないです」
「日常じゃん!!」
ぷんぷく怒ってるサチさんかわいいなぁ。
初めてサチさんからこの店を継いでほしいと言われたときは、そりゃあ少しいいかなって思ったよ。
でもこの人冒険者になるって言うんだよ?駄目に決まってるでしょ。
サチさん結構おっちょこちょいだし人懐っこいからな。
悪い奴らの見本市みたいな冒険者ギルドに入ったものなら、俺が最も嫌うNTR物みたいになっちゃうんだよ!!(誤解)
まあサチさんは俺の彼女でもなんでもないんだが、
彼女は俺の女神だ。守護らねば(決意)
「まあ冗談はさておき、俺は今の生活とても満足していますし。まだ恩を返しきれていないですし、しばらくはサチさんの下で働かせてくださいよ」
そう言って店じまいをしようと玄関のドアに手をかけたその時
「モンド君あぶない!」
サチさんの忠告も間に合わず、バァン!と大きく扉が開かれたその衝撃や凄まじく、俺は勢いよく吹き飛ばされ派手に尻もちをついた。
「うおぁっ! 痛ったぁ…!」
そこに立つのはフードつきローブを纏った一人の人間。
その人間は外の天気がよくわかるくらいびしょ濡れで肩で息をしている…ここに来るまでに相当走ってきたようだ。
「…ハァハァ…ここは、まだ営業中、かしら?」
「いえ…ちょうど店じまいするところですが…」
「そう、ハァ、失礼したわね。…まだ店の明かりがついていたものですから」
いきなりの事で面食らってしまったが、この声の感じは女性のようだ。だが、フードに隠れて肝心の顔がまだ見えない…。
と、サチさんがかばうように俺の前に出てきた。やだイケメン…!じゃなかった、それは俺の役割だ。
「モンド君、怪我はない?」
「はい、ちょっとびっくりしただけですから」
俺とサチさんの会話で、フードの女も自分のしたことに気づいたようだ。
「あ…扉をぶつけてしまったようね。ごめんなさい」
「いえ、大丈夫ですよ…っと」
立ち上がるまでに少し冷静になった。この状況を脳内で分析してみる。
嵐の夜。
フードの女。
扉越しにごっつんこ。
これは…まさしく運命の出逢いなのでは…?
もしかしたらフードの奥は超絶美少女の可能性もある。あってくれ(叶わぬ願い)
最初はこんにゃろ何しやがんでぃっ!(江戸っ子)って怒ろうとも考えたが、ここは落ち着いて紳士的に振る舞おう。
「それより、こんな嵐の中よくいらっしゃいましたね。どうされましたか?」
「ええと…話せば長くなりますので、端的に申し上げます。」
そういうと彼女はおもむろにフードをあげた。
現れたのは、整った顔立ちの中に気の強さが滲み出る赤い瞳。肩まで伸びた艶のあるブラウンの髪。
その顔は一言でいうと超絶美少女だった。
…だったが、一番出会っちゃいけないタイプの人だ。
彼女はメアリー・レッドスナッパー。
レッドスナッパー領にいるなら知らぬものはいない、領主の跡取り娘。
勝ち気でワガママ、黒い噂は数しれず。絵に書いたような【悪役令嬢】である。
サチさんも彼女の顔を見た瞬間、固唾を飲んだ。
そしてメアリーの一言が
「ワタクシを匿ってくださる?」
あっ、俺死んだわ(確定)
あれ、異世界グルメのはずがまだグルメ描写してない…