まだ飯を食わせていないので初投稿です。
「ワタクシを匿ってくださる?」
メアリー・レッドスナッパー。レッドスナッパー領主の長女であり次期後継者。彼女は領内の市民の間では『氷炎姫』と呼ばれ怖れられている。
その冷酷さ、苛烈さから付けられたそうだ。いいなぁーカッコいい渾名欲しいな俺もなぁー。
しかし、メアリー様と言えば街で月に一度は話題になる人だ。
先月は『気に入らない貴族を没落させた』だったか、先々月は『皿を割ったメイドを血祭りに上げた』だったか。
とにかくヤベー人なのだ。
だが一般庶民の俺からすれば雲の上の人。出会うことなんて一生ないと思ってた。いるよ、目の前に…
「私はここで居酒屋を経営している店主のサチ・マーガレットと申します。貴方様はメアリー・レッドスナッパー様とお見受け致しますが相違ないでしょうか?」
サチさんがいつもののんびりボイスでなく、ハッキリた通る口調でメアリー様に話しかける。これを俺の中で「イケメンサチ」と名付けている。抱かれたい。
「ええ、そうよ」
「では、領主様のご令嬢であらせられる貴方様からのご要望、勿論異論はございません。すぐに必要なものを用意させて頂きます。ですが…」
と、サチさんはひと呼吸置いて、
「このような嵐の夜の中、
こちらで匿うにしても、こちらに来られるまでの経緯を教えていただけないと、不測の事態に対応出来かねます。何卒ご容赦を」
確かにどう考えてもヤバい状況だ。これが普通の人だったら「頼むから出ていってくれ」といっても仕方ないが、相手があのメアリー様だ。何か粗相があれば間違いなく俺達の首が無くなるだろう…そう考えるとサチさんの判断は賢明だと思う。
するとメアリー様は一瞬考えた顔をしたが、すぐに話し始めた。
「…経緯は後で話すわ。
現状を説明すると、追手に追われています。
おそらくお母様からの差し金でしょう。人数は4人。先程何とか撒きましたが、いずれここにも捜索の手がかかることでしょう…目的は、私をモーレイ国へ嫁がせるため」
「モーレイ国って…あの『悪魔城』のある…」
モーレイ国は、レッドスナッパー領から2つほど別の領地をまたいだところにある隣国だ。
何でも他所の国から人間やら魔族やらを攫ってきては非人道的な実験を繰り返しているらしい。
そしてその国王が住む城がおどろおどろしい外観をしており、『悪魔城』と呼ばれている。
メアリー様でも悪魔城は嫌みたいだな。俺だったら失禁するわそんな国。
「そう、あの『悪魔城』よ。…とにかくゆっくり説明している暇はないわ。地下室でも屋根裏でも隠れられるところを提供してくださいな」
サチさんが少し考えたあと、
「でしたら3階に使われていない客間がございます。部屋は施錠できますのでそちらにご案内致します」
「協力感謝するわ。では案内して頂戴。」
よし、何とか断頭台エンドは避けられたそうだ。
「モンド君、悪いけど3階の一番奥の部屋に案内してもらえるかしら?私は1階に待機して、万が一に備えるわ」
「ですが…サチさんを一人には出来ませんよ(キリッ」
とキザっぽくサチさんに話しかけたが、本音はメアリー様と二人きりになるのが怖いんすよ…!
「大丈夫!いざとなったら護身用の精霊銃もあるし、緊急用の装備は万全よ!」
うー!サチさん察して!
と、サチさんとやんややんやしているとメアリー様が待ちくたびれて言った。
「あなた達、夫婦で仲が良いのはいいけれど、早く案内して頂戴」
「「夫婦じゃないです!」」
と二人で強く否定した。
メアリーあんたなーんにもわかってないな。サチさんは女神なんですよ。神と結婚できるわけないでしょ?そういうことだ。
「そ、そう…」
さすがのメアリー様も少し驚いていた。まぁ俺みたいなやつと夫婦にされたらサチさんも可愛そうだし、ちゃんと誤解は解かないとね。
結局俺がメアリー様を部屋まで案内することになった。階段を上がっていくとメアリー様がキョロキョロと周りをみている。
「居酒屋と聞きましたが、建物は随分と凝った造りのようね」
「そうなんです。昔は旅館だったそうですよ。俺が来る前には辞めちゃったみたいです」
よーし、何とか無難に会話をこなしてるぞ…。しかしコートを脱いだメアリー様の威圧感パネェな…
なんというか、「凄み」みたいなやつっていうんですか?メアリー様の周りオーラでてるもん。
でも一つ気になってることがあるんだよなぁ…まあ気のせいかな。
…
いや、やっぱり気のせいなんかじゃない!ここは思い切って提案しよう!もし彼女の機嫌を損ねたら速攻土下座すれば命だけは助けてくれるかも…くれるよね?
「案内感謝します。少し休むから何かあればノックして頂戴」
「わかりました…あの、」
「何か?」
「メアリー様、お腹空いてませんか?もしよかったら、うちのスープがまだ残ってますので…」
俺が提案したのは「飯食おうぜ!」だった。
だって彼女、ガリガリ君なんだもん。
ちゃんと飯食べてるの?貴族って霞でも食べてるの?見てるこっちが不安になるよ。
「…私、毒味役が食べたものしか食べたことがございませんの」
いやそういうことじゃなくて…って確かに貴族って毒殺を避けるために毒味役が必ずいるって聞いたことがあるぞ。
毒味後に食べるんじゃあ出来たてアチアチが食えないってことか…俺なら激おこだね。
「もちろん毒なんて入ってないですし、そんなことしたらうちの店潰れちゃいますよ」
「…それもそうね。じゃあ、せっかくだから頂こうかしら」
よし!何とか約束出来たぞ!怒ってもいないようだし完全勝利だなこれ。
「ありがとうございます!では温め直してお部屋にお持ちしますね」
部屋に鍵がかかったのを確認し、ウキウキルンルンで1階に降りると、そこはもぬけの殻だった。
「あれ?サチさんいないな〜…?」
どこかに行ったのかな?まぁとりあえず準備をしようと鍋に火をかけた。そしてしばらくすると、入口が勢いよく開いた。
「こんばんワ~!お邪魔しまース。あら、まだ人がいたのネ」
今日はもう閉店なんですがそれは…というかドアはもっと優しくあけて、どうぞ。
「ちょっとお客さん、今日はもう店じまいですよ。また明日来てくださいな」
「あら〜、そうなノ?こりゃ失礼」
独特の発音でそう言うとその女性はレインコートを脱ぎ始めた。だからもう閉店だっていってんダルルォ?!
「ん〜、何だかとってもいい香りネ♪お腹減っちゃっタ…そういえばぁ、このお店にフードをかぶった人来なかったかしラ〜?このくらいの背の高さなんだけド」
嫌な予感はしてたが…こいつ追手だな。だがこの感じはまだこちらにいると気づいてないようだ。感づかれないように立ち回るぜ…
「ひどい天気で今日は閑古鳥。常連が数人来た程度ですよ。フードのかぶった奴なんて見なかったです。さ、帰った帰った」
「そうですカ〜残念…」
勝った!第三部完!
「…でもさっきからやたらと匂うんだよネ、この空間から。
…お嬢様の匂いがサ」
はい雑魚乙〜!(自分)バレて〜ら。
しかし、なぜバレた?わからん。
「大人しく引き渡してくれればすぐにここから出ていくワ。私だって無関係の人間に危害は加えたくなイ」
匿った時点で無関係じゃないんだよなぁ…。
どうせ後で難癖つけて連れてかれるんでしょ?俺は詳しいんだ。
とりあえず足止めくらいはしないと…。
恐ろしさ度でいったら、メアリー様≫≫(越えられない壁)≫≫この女だしな。
「どうした?黙っててても解決しないゾ?それともキミは痛めつけられる方が好きなのカ?」
ちょっと痛いくらいならむしろ大歓迎なんだけどなー、でもこの人絶対に加減してくれへんやん…
でもメアリー様のことばらしてもあかんやん…
詰んだ\(^o^)/
「な、何を言っているか分かりません。…これ以上ここに居座るつもりなら憲兵を呼びますよ!」
精一杯脅したつもりだったが、女はニコニコしている。ジッサイコワイ!
「ふふっ、いい度胸だ…嫌いじゃない。
警告はした。ではすこーし手荒なことをさせてもらうヨ」
やっぱ駄目だ!もうこうなりゃヤケだ!
「チクショウ!これでも食らえッ!」
いざと言うときの『秘密兵器』を彼女の顔に投げる。
男の俺は魔術を使えないと舐めてるようだ。くくく、その油断が一瞬の命取り。
彼女は魔術を使わず手を顔の前にかざしてソレを防ぐ。
ソレは卵の殻でできているため簡単に砕け散り、中から大量の粉が彼女の顔にかかった。
「ふん、砂遊びは卒業したゾ?
へくちゅっ! へーくちゅっ!」
どうだ俺の秘密兵器『ペッパーボム』の効き目は!…まぁただ卵の殻の中に胡椒詰めただけなんですがね。
だがこれはまだ序の口。くしゃみを連発している彼女に間髪いれず本命をお見舞いしてやるっ!
「もいっぱあああつ!」
くしゃみで目を開けられない彼女の顔にさらに卵をぶつける。一個は外したが、2個目はヒットした。
「ああああああああ!痛い!熱いいいい!!!」
くくく、モンド流奥義『チリペッパーボム』だ。
…まぁペッパーボムに唐辛子を入れただけなんですがね。
床にゴロンゴロンして悶絶している彼女から逃げ、メアリー様の部屋まで階段を超特急で駆け上がった。
「メアリー様!追手が来ました!」
扉をドンドンとたたきながら緊急事態を説明した。
「っ…やはり撒ききれなかったようね」
メアリー様は起きていたようだ。良かった。
「とりあえず足止めはしましたが、見つかるのも時間の問題です。どうしましょう…」
悩んでいると、ガチャリと鍵が開き、メアリー様がドアを開けた。えっナンデ?
「…仕方ないわ、ここで迎え打ちましょう。屋内なら勝ち目はあるわ」
「そんな!危ないですよ!」
ついに追い詰められてトチ狂ってしまったか?まずいですよ!
「私の魔術属性は『炎』。雨に当たると威力が落ちてしまうけど、ここなら大丈夫よ」
なるほど完璧な作戦っすね〜。って本気で言ってる?室内で炎術使うってことわかってる?居酒屋サチコの焼失だよ?やべぇよやべぇよ…
「ちょっと待って下さい、それは…」
メアリー様を説得しようとした時、突然背中に針が刺されたような痛みが走る。
「っ!」
振り返ろうとしても何故かできず声も出せなかった。
そして痛みは上半身全体を襲う。これは恐らく魔術だ。
「ハァハァ、さっきはよくもやってくれたわネ。お邪魔虫の男は少し大人しくしててくださいナ。」
くそっ。どうやら時既に時間切れのようだ。俺は痛みで立っていられずその場にバタリと倒れ込んだ。
「!…あなた、随分としつこいのね。しつこい女は嫌われるわよ」
「ふふ、お嬢様ほどではございませン」
「そういえばあなたのお仲間は?あと3人ほどいたはずでしょう」
俺は痛みで意識が飛びそうになるのを何とか堪え会話を聞く。
「すぐ合流しますヨ。それよりご自分の心配をされたら宜しいのでハ?随分お疲れの様子、得意の炎術もあと数回といったところですカ」
女にそう言われるとメアリーはフッと微笑みを浮かべた。
「舐められたものね。痛い目に遭いたくなければ…お母様の犬共はそこら辺で虫ケラのように大人しく這いつくばってなさいな」
さすがメアリー様、悪役令嬢感がパネェっす!
あーあ、奴さん見る見るうちに顔が真っ赤になってるよ。激おこプンプン丸だよ。
「…っ、氷縛(アイスバインド)!」
女の持っている細い棒の先端から青白い光線がメアリーへ放たれた。
「炎壁(ファイアウォール)!」
女の魔術が当たる直前で、メアリーの前に炎の壁ができた。
「さすがはメアリーお嬢様、この攻撃を無傷とは。ですがいつまでその壁が保ちます?」
最初はお互いの魔術が拮抗していたが、メアリーの炎の壁が徐々に小さくなっていく。
「うっ、ぐっ…おかしい、こんなはずは…!」
(くそっ、体が動かない…、奴が俺に背を向けてる絶好のチャンスだっていうのに…ちくしょう)
俺は何も出来ない悔しい思いの中、意識を手放した。
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モンドが気絶した後、メアリーの炎壁はついに追手の女に破られ、メアリーは捕縛された。
「さぁ、観念してくださいネ。じゃじゃ馬お嬢様」
「……」
メアリーが天を仰ぎ諦めたその時、入口から堂々と一人の女が入ってきた。
ここの主であるサチ・マーガレットであった。サチはモンドの気絶した姿をちらりと一瞥し、こちらに向いた。
「彼女の拘束を解きなさい」
サチは追手の女にハッキリと通る声でそう告げた。
「誰ですかあなたハ。仕事の邪魔ヨ!氷縛!」
女がサチに対して捕縛の魔術を唱える。
鎖のような形の光線がサチの体に届く瞬間、サチは目にも止まらぬ速さでその光線を
そして、思い切りその鎖の光線をグイと引っ張り…パァンという音と共に
「「なっ…!!」」
衝撃の光景に追手の女だけでなく、メアリーも驚愕した。
魔術の攻撃を防ぐためには、魔術コーティングされた防具か別の魔術で打ち消すしか方法がない。
それを彼女は
常識では考えられない光景に部屋がシン…と静まりかえる。
「聞こえなかったの?…
サチから放たれるオーラに女が一歩後ろにさがる。
サチは一歩前に進みため息を一つ付き言った。
「どこぞのお嬢様がどうなろうが、正直どうでもいい…
だけどね。
この店と、大切な従業員を危ない目に遭わせる奴は、絶対に許さない」
サチは無表情でそう告げた。そこには怒りのようなものはなく、ただ純粋な「殺意」だけがこもっているようで、二人とも何も言えなかった。
「あぁ、それと」とサチは女に向けてキラリと光る紐のような何かを無造作に投げた。
どうやらネックレスのようだ。
それを手にとった女は目を見開いた。
「こ、これは!あいつらノ!」
「あなたのお仲間は外で寝てもらってるわ。こんな天気だし風邪引くから早く連れてってあげたら?」
メアリーはその話の内容にもさることながら、サチの心底どうでも良さそうな顔と、最初に会ったときとのギャップに面食らっていた。
追手の女はゴクリと唾を飲み込み、一瞬考えた後、メアリーの拘束を解いた。
「くっ…一旦退散させてもらうワ。
ですがメアリー様、アナタのお母様に逆らった報いは必ず受けることになるでしょウ。ゆめゆめお忘れ無きよウ」
半ば負け犬の遠吠えのようなセリフを吐き、その女はそそくさと部屋を出ていった。
サチはその様子を一切気にすることなく、モンドに近づき怪我がないか確認した。
「怪我は無いようね…良かった」
フゥ、とサチが安心した後、モンドの体を両手でスッと持ち上げた。所謂お姫様抱っこである。
メアリーはしばらく微動だにできなかったが、ようやく言葉を吐き出した。
「あの…サチさん」
サチとようやく目があったメアリーは、彼女から先程のオーラが消えていたことに安堵した。
「助けてくれて、ありがとう」
そう言うメアリーにサチは少し笑顔を向けた。
「いえ、お気になさらず。それよりメアリー様、先程の戦闘で相当の魔力を消費したはずです。まずは体を休めてくださいね。これからの話は明日お話しましょう」
それと、とサチは話を続ける。
「彼には心配かけたくないので、追手はあなたが退治したということにしてください。宜しくお願いします」
そう言ってサチはモンドを抱きかかえて部屋を出ていった。
部屋に一人残されたメアリー。
とりあえず驚異が去ったことに安堵し、フゥとため息をついた。
だが、先程の追手が去り際に放ったセリフが頭から離れない。
「…お母様…」
彼女は天を仰ぎ。
「救いは…救いはないようね」
誰に向けてでもなく、ただ一人呟いた。
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「モンド君、体の具合はどう?」
「お陰さまで痺れも無くなりました、ありがとうございます。…メアリー様は?」
目を覚ますと外は昨日の嵐が嘘のような快晴だった。
どうやら俺が意識を失ってから半日ほど経ったようだ。そして隣には女神が俺を心配そうに見つめてくる。
あれ?俺実は死んでね?
「隣の部屋で寝ているわ。魔力と体力を使い果たしたからね、しばらくは起きてこられないはずよ」
サチさんによるとメアリー様は追手の女を辛くも撃退したが、魔力が枯渇しそのまま寝てしまったようだ。とりあえず無事で良かった良かった。
「そういえば追手が来たときサチさんの姿が見えなかったんですが、どこにいたんですか?」
「あぁそれね!外で争う声がしたから気になって出てたのよ!憲兵さんに通報したから問題なかったわ〜!」
ちょっサチさん危ないよ!憲兵=サンもすぐ来るわけじゃないからね!
「そうですか…サチさんに何かあったかと心配でしたが無事で良かったです」
「…心配かけてごめんね、モンド君」
そういって眉をハの字にしてしゅんとするサチさん。俺を尊死させる気か!?
「いえいえ、僕も頼りなくてすみません」
「昨日の件もあるし今日はお店開けないから、ゆっくり休んでちょうだいね。私は店のお片付けしてるから」
確かに昨日の今日で店を開けるのは無理だろう。
メアリー様はまだ体調が万全でないし、店を開くとなるとメアリー様を一人にさせてしまう。追手がいつ来るともわからないしね。
「ありがとうございます。あ、昨日のスープ残しておいてくれませんか?メアリー様に食べて頂く約束したんですよ」
「わかったわ。何かあったら1階に来てちょうだいね」
じゃあまたね、とサチさんが部屋から出ていった。さて今日は休みだから仕込みも無いし、もう一眠りといこうか。
うつらうつらとしていると、コンコンと扉がノックされた。
「もし、入ってもよろしくて?」
この声はメアリー様!?
「どどどどうぞ」
ガチャリ、と扉が開けられると、昨日に比べ幾分顔色が良くなったメアリー様が入ってきた。
「あら、昨日は随分と苦しそうにしてたのに意外としぶといのね」
出会って3秒で辛辣ゥ!!守れなくてズビバゼン
でもあまり言葉に棘がないような。疲れかな?
「あはは、体力には自信ありますから。
…それより、メアリー様は大丈夫ですか?」
「失礼ね、あなたと違ってあの程度でへばるほど軟弱に育てられてはいないわ」
疲れていても気品は一級品。さすがですメアリー様。
そうだ、まだお昼にはちょっと早いが昼食を提案しよう!
「失礼しました…
もし良かったら、お食事いかがでしょうか?ほら、昨日話した」
「…そういえばあなたの名前を聞いていなかったわね」
「あ、すみません。俺はモンドといいます」
やべー、そういえばメアリー様に名乗るの忘れてたぁぁぁ!
不敬で処されるのだけは勘弁してください…!
「モンドさん、お気遣い感謝するわ。
ですがこれ以上こちらの方々に迷惑はかけられません。すぐに出発致します」
アイエエエエ!サヨナラ!?サヨナラナンデ!?
待ってくれ、せめて俺の飯を食ってくれ…何でもするから…
「…メアリー様を匿ってくれるアテはあるんですか?」
「…それは…」
メアリー様が口篭る。ほらやっぱりアテないんじゃないか。お嬢様は大人しく俺の飯を腹一杯食えばいいの!役目でしょ。
「こちらでしたら客間も何部屋がありますし、警備をつけたりできますよ。幸い腕の立つ人間も知っていますのd」
「私はっ!これ以上あなた達に借りを作りたくないの!」
メアリー様のあまりの剣幕にそれ以上喋れなくなった…
「っ……」
「…私の周りには借りを作ったことで破滅した貴族達を沢山知っています。…あんな風にはなりたくないのです…!」
…貴族社会は足の引っ張り合いだと誰かが言ってたな。隙を見せたら徹底的に攻撃され、没落させられる。豪華な生活の裏は、その実、腹の探り合いなんだ…
「こちらのお店に入ったのも苦肉の策でしたが、勿論今回の謝礼は後ほど必ずお渡し致しますのでご安心を。貴方に礼を言いたかっただけですから、そろそろ失礼させて頂きます」
俺の返事は聞きたくないと言わんばかりに早口でまくし立て、くるりと振り返ったとき、またもやノックがあった。
入るわよ〜とサチさんが入ってきた。
だからノックと同時に入って来るのは止めてくださいよホントに…!
「あら、メアリー様、お加減はいかがでしょうか?」
「お蔭様で快調よ。」
どう見ても快調ではないやろ…
「それは良かったです。…ですが、メアリー様の件で、まずいことになっています。モンド君も聞いて頂戴ね」
そういうと、ひと呼吸あってからサチさんが切り出した。
「…メアリー様の捜索願が街中に貼り出されています。
しかも、発見者には懸賞金まで出すみたいです」
うーむ、これはマズイですね…お尋ね者か。
「…相変わらずお母様はやることが迅速ね」
「この状況でこの店から出るのはリスクが高すぎるかと。ということで、ここで隠れてほとぼりが覚めるまでやり過ごしたほうが良いと思料します。」
追手に居場所は割れているが、今のところサチさんの提案が最も現実的だろう。
「…あなた達がそうまでして私を庇ってくれる理由は?
あなた達とは昨日出会ったばかりの関係ですわよ」
メアリー様はとことん借りというか弱みを見せたくないのだろう。
孤高の人だよなぁ。格好いいが、人間一人じゃなんにも出来へんで?
と、サチさんがそんな感じに言ってくれると思ったが、少し苦笑して俺を見つめてきた。
…え、俺が喋るの?この状況で?
サチさんは何も言わずアイコンタクトで「やれ」と言わんばかりにこちらを見ている。
あーもうわかりましたよ!どうなっても知らないですからね!?
「…俺、昨日までメアリー様のこととんでもない悪魔のような人だと思ってました。街の噂でもそう聞こえますし、実際ドアで吹き飛ばされましたし」
「でも、実際話してみて分かったんです。…メアリー様は悪魔なんかじゃない。ちゃんと話を聞いてくれるし、匿おうとした僕たちに感謝してくれたじゃないですか」
今までは建前…これからがホンネだ。よ、よし…言うぞ。
「あと、一番気になってるのが…
メアリー様、ちゃんと食事されていますか?」
「えっ…食事…?」
「はい…失礼を承知で申し上げますが、メアリー様の体は今まで見た貴族様の中で一番痩せて見えます。
昨日階段を上がるだけで息が早くなったり、満足に魔術が使えなかったりしていましたよね?おそらくここ数日まともな食事をしていなかったのではないでしょうか」
「…それは…」
早口でまくし立てた。
そう、俺が誰にも言えない秘密。
それは、「女の子の食べてる姿が大好き」ということ。
いっぱい食べる君が好きってことです。
それだけの理由で料理人になったしね。ええ、変態ですとも!!
「メアリー様の事情は私には分かりませんが、まずは一旦腹ごしらえをしましょう。今後のことを考えるのはそれからでも遅くはないと思いますよ」
すると、キュルルルと可愛い音が聞こえた。
メアリー様のお腹がなった。
あ、顔真っ赤。カワイイヤッター!
「…コホン、私は問題を先延ばしにするのは嫌いなの!…でも、今回は一度立ち止まる必要がありそうね。しばらく世話になるわ」
完 全 勝 利 。
敗北を知りたい。
「はいっ!そうと決まれば早速食事にしましょう!俺準備してきます!」
「ふふふ、モンド君元気ね。ではメアリー様、私達は1階で食事の用意をします。準備できたらお呼びしますので、それまで休まれていた部屋でお休みくださいね」
「ありがとう、では宜しく」
さて、メアリー様はろくに食事を取っていないことがわかったので、あまり消化の悪いものは食べさせないほうがいいだろう。とりあえず昨日のスープで様子を見ようか。。。
そして食事の準備が整った。1階のテーブル席が今日の食事会場だ。
「では、みんなで食べましょう!
『頂きます』」
そして俺とサチさんが手を合わせると、キョトンとした顔でメアリー様がこちらを見た。あっやべ、なんか粗相しました!?
「…その儀式は貴方の宗教的なものかしら?」
あっ、そっちね。
「あ、いえ宗教というか…うちの故郷では食べ物に感謝するという意味で、こうして食事前に手を合わせて頂きますと言うんですよ」
そういえばサチさんにも最初不思議がられてたな。今ではいっしょに手を合わせてくれるけど。
そうしてメアリー様は薄っすらと湯気が立つスープにスプーンを入れ掬い、口に入れようとしたとき、
「…あつっ!!!」
あぁ!ヤッちまった俺!メアリー様がお熱いとおっしゃってるぞ!打首だな(白目)
「あ、すみません!スープ熱かったですか?一応食べられる温度にしたつもりですが」
「い、いえ大丈夫よ。…今まで毒味役が食べて時間が経ったものしか出て来なかったから、こんなに温かいものを食べたことがなくて」
…そうだったな、失念してた。俺のバカ…
へこんでいる俺を見かねて、サチさんが助け舟を出してくれた。
「メアリー様、ここでは宮廷のややこしいテーブルマナーもありません。温かいものを食べるときはフーフーと息をかけて適温まで冷まして食べてくださいね」
「そう、では…フー、フー…ぁむ」
いやっっほうぅうぅぅ!(女の子の食事シーン)最高だぜぇぇぇぇぇ!!!
「………」
メアリー様は数口食べると黙ってうつむいてしまった。
もしやおいしくなかった…?
おかしい、サチさんは「今日も最高においしいわね!!」と喜んでくれたんだ…
あれは嘘だったのか…?
「お、お口に合いますでしょうか?」
恐る恐るメアリー様に尋ねると少し顔を挙げた。
その眼には涙があふれ、顔を挙げたことでスッと頬を伝った。
えっそれは…(困惑)
「…っ、ええ、おいしい、わ…。…おいしい…グスッ」
「メアリー様大丈夫ですか!?」
おいしいわけないだろそんな泣いてて!はい、土下座しますね。
「ごめんなさい、自分でもわからないの。体の奥がぽかぽかと暖かくなって、グスッ、それで涙が止まらなくなって…グスッ」
どうやらメアリー様もなぜ泣いてるか分からず困惑しているようだ。土下座は必要なさそうだが、不安だな…
「メアリー様、ハンカチをどうぞ。…私も初めてモンド君の料理を食べたときは美味しくて泣いちゃったな〜」
思い出した、サチさんも最初はわんわん泣いていたっけ…ふふ、女を泣かせる罪な男とは俺のことだ。
そんなどうでもいいことを考えているとサチさんがメアリー様に向かって言った。
「メアリー様、人間って不思議なもので、おいしくて温かいものを食べるととても癒やされるんです。それは回復魔術の『癒し』とは全く違うもの。」
「そして一番大事なのが、『皆で一緒に同じものを食べる』という事。…それだけで、心が癒やされていくんですよ」
サチさんは優しい笑みを浮かべてメアリー様を見る。
やっぱりみんなで飯を食うって大事、はっきりわかんだね。
そのあとは俺とサチさんのどうでもいい話が続いた、それをBGMにメアリー様がスープを飲み干すまで。
この辺にぃ、悪役令嬢に飯を食わせるだけで1万字書く馬鹿がいるみたいっすよ~。
やっぱ好きなんすねぇ~