悪役令嬢、匿いました。   作:こさきん

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某兄貴リスペクトなので初投稿です。



みんなはわかるかな?


ある居酒屋店主の1日(前編)

メアリーの追手を退けた翌日の朝5時前。

街が少しずつ明るくなりだそうとしている頃、サチは目を覚ました。

今日は冒険者ギルドに出かけ、メアリーの護衛を依頼しなければならないため、いつもより少し早く起きた。

 

サチは起きてすぐにベッドの上であぐらをかき、両手をダランと足の上に置いた。

そのまま目をつぶり深呼吸すると、彼女の体が薄っすらと白く光りだした。

自分の体内に流れる魔力を感じながら、精神統一を行う。

この行為は、彼女の毎朝の日課となっている。

数分後、彼女の周りを覆っていた光が消え、彼女は目を開けた。

 

「…やっぱり、魔力が減ってきているわね…時間がない」

 

彼女は小さい声で呟いた。

 

 

その後サチは簡単に身支度を整えると、昨日の騒動の張本人であるメアリーの部屋へ。

ノックしても返事はなかったが、こっそりとドアの鍵を開け、そのまま部屋の中に入る。

 

メアリーはベッドの上でぐっすりと眠っていた。

昨日は魔力を使い果たしたから、しばらくは起きないだろう。

そう思っていると、彼女がつらそうな顔をしてうめき声をあげた。…どうやら悪い夢を見ているようだ。

「…お母様、ごめんなさい、ごめんなさい…」

 

そう言いながらウンウンとうなされている彼女をサチはこれ以上見ていられず。

少しはだけた毛布を肩までかけ直し、軽く頭を撫でて部屋を去った。

 

そしてサチはそのままモンドが寝ている部屋へ。

 

モンドはメアリーとは対照的に、安らかな顔で眠っていた。口からヨダレを出しながら。

その顔にサチはプッと小さく笑い、彼の毛布をかけ直す。

 

そしてしばらくベッドの横で彼の寝顔を見ると、サチはフゥとため息をつく。

 

「ホント、寝てる姿まで若い頃のあなたと同じね…ボンド」

 

サチは独り言をつぶやく。

 

 

「大丈夫、あなたとの約束は守るわ。…命に替えても」

 

 

そう言い残し、サチはモンドの部屋を出ていった。

 

 

*********************************

 

 

レッドスナッパー領の北部にある山岳地帯は魔物の温床となっている。また洞窟も各所に点在している。

山岳地帯や洞窟からは、小規模だが魔物たちがのべつ幕なし人間達の生活地帯へ侵入してくる。

国の管轄である軍警察では大規模な襲撃以外は対応できないため、冒険者たちが魔物たちの撃退をしているのだ。

 

冒険者ギルドは街の中心部に存在しており、朝7時から夜の6時まで開かれている。

サチは朝一番で任務を依頼するため、営業開始すぐを狙いギルドに入ろうとした。

 

が、ここで問題が発生した。

 

いつもは営業開始前は閑散としているのに、今日に限って入口に人がたくさん集まっている。

 

サチは今日が週に一回の討伐依頼更新日だったことを失念していた。この日は新しい依頼を求めて冒険者たちが我先にと集まる日なのだ。

時間ずらせば良かったな…と心の中で愚痴を吐きつつ、ギルド内に入るまで20分ほど待たされることとなった。

 

ギルド内に入るとその喧噪はより一層大きくなる。

実入りの良い依頼を奪い合うもの、それを囃し立てるもの、仲間を集めようと大声を張るもの。

やはりいつ来ても冒険者ギルドは中々に趣深いものがある。サチは見当違いにそう感心していた。

 

サチはこの喧騒を満喫しながら「依頼用カウンター」へと足を運ぶ。

この時間は依頼を受けるものがほとんどで、依頼を出すものはごくわずか。

そのため受付の前には誰も人がおらず並ぶことなくカウンターへと進むことができた。

 

受付にはピンク色の髪をポニーテールにした、活発そうな女性が立っていた。

 

 

「サチさん!お久しぶりです、お元気でしたか?」

 

 

胸元の名札に「モモ」と書かれている受付嬢から、よく通る声で元気いっぱいに声をかけられる。

 

 

「ええ、あなたも元気そうね?」

 

モモはサチの店にも時々顔を出してくれる。

モンドが思い付きで作ったシフォンケーキを食べて以来、彼の作る甘味の虜になったようだ。

 

 

「はい!そういえばモンドさんの新作甘味はいつになるんですか?!

絶対行くので必ず声かけてくださいね!!今度は抽選に勝たなきゃ…!」

 

「まだ材料が揃わないから作れないって言ってたわよ?もう少しの辛抱ね」

 

モンドの作る思い付き甘味シリーズは、街の甘味に目がない女性たちから絶大な支持を得ている。

以前その料理食べたさに、店の外で客同士の小競り合いが発生してしまって以降、抽選制という形をとっている。

残念ながらモモは前回の抽選に外れたようだ。ちなみに前回は『プリン』だった。

サチは店主特権で毎回食べられるので、モンドの甘味に特別な贅沢を感じていなかったが…

 

やはり甘味は人を狂わせるのね、とサチは変な方向に納得していた。

 

ガクッと肩を落とすモモに労いをかけると、モモがガバッと顔をあげた。

 

「あ、今日の要件を伺ってなかったですね!ごめんなさい!」

 

冒険者指定の(指名)依頼に来たわ。依頼用紙はこちらよ」

 

サチは彼女に依頼書を渡した。

ギルドへの依頼には、誰でも受けられる『フリー依頼』と冒険者を指定できる『指名依頼』の二つに分けられる。

指名の場合は指名料をギルド仲介料に上乗せしなければならないため、よほど難度の高く早期に解決したい時に限られる。

 

「はい、お預かりします。…『鮮血の旋風』の方々ですね?たしかいつも9時頃にはこちらに顔を出しているはずですが、こちらで待たれます?」

 

サチが指定した『鮮血の旋風』は、ケルプ、ベリィ、スィの三人組の二つ名である。

三人娘はレッドスナッパー領の冒険者ギルドでも一目置かれる上級冒険者だ。

彼女たちを指名依頼するとなると、通常であればとんでもない金額の指名料が必要になる。

…が、サチからの依頼だけは「絶対にサチ姐さんから金を受け取るな」と三人娘からきつく言われており、ギルド長も黙認しているので、おとなしく仲介料だけもらっているのであった。

 

「いえ、一旦家に帰るから彼女たちに渡してくれるかしら。」

 

「最近サチさんからの依頼がなかったですから、彼女たち喜びますよ!」

 

モモは知っている。サチの依頼を受けるときの彼女たちのテンションの高さを。

 

 

「あ、そういえばうちのギルド長がサチさんがきたら顔出してほしいって言ってました!

今ちょっと席を外してるんですが、そろそろ戻ってきてるはずです。

すみませんが、そこの待合席で待ってもらってもいいですか?」

 

「わかったわ」

 

「じゃあ、ちょっとギルド長の部屋を見てくるのでまた後で」

 

そういってモモは受付カウンターの上に『離席中』の札を置き、奥の扉へと消えていった。

 

ベンチに座ってモモを待つサチ。

メアリーをどうやって匿い続けるか…頭の中でいろいろと作戦を考えていたその時、

 

「ちょっと失礼〜!美女がこんなところにいて大丈夫か?

()()()()依頼の紙が見えちゃったんだけど…護衛の依頼?良かったら俺達が守ってやるぜ。

金はいらねえからさ、代わりに俺達とデートしない?」

 

しまった、とサチが気づいた時にはもう遅かった。

サチの目の前にはセンスの悪いギラギラの魔武具をつけた冒険者と思われる野郎が4人ほど。

考えごとに夢中で依頼書を机の上に置きっぱなしにしていたのを見られたようだ。

 

ニヤニヤと気味悪く振る舞う冒険者たちにサチはため息をついた。

 

「ごめんなさい、あなた方に依頼を頼むつもりもないし、これからギルド長に会う約束をしてるのよ。その誘いは受けられないわ」

 

「まぁそう言うなって!護衛って結構な依頼額じゃん?お金は大事だよ?」

 

「人の持ち物を勝手に盗み見するなんて、素敵な趣味だこと」

 

護衛の依頼は総じて通常の依頼に比べ依頼額が高くつく。

『対象を守ること』と『危害を排除する』という2つのことを同時に行わなければならないためだ。

サチは今回の依頼内容を「護衛者:秘匿、期限:危害が排除されたと確認できるまで」と期限を設けなかったため、

通常の護衛よりも高い金額となっていたのだ。

 

 

このチンピラ冒険者をどうしようか迷っていたところに、一人の女冒険者がスッと現れた。

 

 

「やめなさい嫌がってるでしょう」

 

彼女は一見冒険者らしくない軽装をまとってはいるが、彼女の立ち居振る舞いを見ても初心者ではないことが見てわかる。

小柄ではあるが華奢ではなく、短めの銀髪に長剣を携えている彼女には隙が見られない。

おそらくこれが彼女に合った戦闘スタイルなのであろうとサチは見定めた。

 

 

「何だテメェは、ガキはすっこんでろ」

 

「ここは冒険者ギルドだナンパするなら他所へ行け」

 

「…オメェ俺達が『阿修羅団』だってわかってて口出ししてんの?」

 

「そんなものは知らない」

 

 

その女冒険者が以前どこかであった気がして、サチは声をかけた。

 

「えーとあなたは…?」

 

「何度か女将さんの店にお世話になっています私はルーティアと申します。」

 

「あ、やっぱり!見たことある顔だなって思ってたの!()()()()ね?」

 

サチはこの小柄で早口な冒険者、ルーティアのことを思い出した。

月に数度お店の開店と同時に入店し、モンド特製の牛丼を咽ながらも光の速さで食べると、

用意していた代金を机の上に置き、ダッシュで帰っていくのだ。

 

彼女はモンドが牛丼を出す日は必ず来店していた。

違う料理もあるのよ?と勧めてみたが、「これが一番早くでてくると聞いたので」

と。事実居酒屋サチコで一番早く提供される食事メニューは牛丼だった。

 

なぜそこまで早く食べるのか訊いたら、「速さこそ全てです」

と口にご飯粒を付けたまま、食べながら答えてくれていた。

 

そういえば、なぜかモンドも彼女の食べ方には一切文句をつけていなかった。

「俺のやりたいことわかってくれてるんで」と訳の分からないことをいいながら。

 

そんなちょっと(?)風変わりな彼女のことを思い出していると、

喧しい声が響いた。

 

 

「お前ら俺達の存在忘れてねぇか!いい加減にしろ!」

 

…サチはすっかり忘れていた。

面倒だったので、助太刀してくれたルーティアの信念に敬意を表して、

最速でこの人らに穏便に退場してもらおうとサチは提案した。

 

「ハァ…ねえ、あなた達。私と勝負しない?

負けたらデートでも何でもしてあげるわよ。

私が勝ったらここから出ていくっていうのはどうかしら?」

 

「お、その気になってくれた?いいぜ、どんな勝負だ?」

 

「あなた、篭手の魔武具持ちね?じゃあ『腕相撲』でどうかしら。

…勿論魔武具はつけたままで」

 

 

サチの一言に男たちは顔を見合わせ、笑い出した。

 

「プッ…わははは!お嬢さんマジでいってんの?」

 

「もちろん。こう見えても私、結構力あるのよ?

それに私も魔術を使うから、それでおあいこということで」

 

「…いいぜ、あとで泣き言言うなよ」

 

サチの口から『魔術』という言葉を聞き、篭手の男も真剣な表情になる。

 

 

冒険者ギルドに所属する冒険者の男女比率はほぼ半々だ。

純粋な腕力であれば男性が断然強いが、魔術を使えないのは大きなハンデだ。

その男性が冒険者の半数を占めているのには、そのハンデを克服する『魔武具』の存在がある。

彼のように魔武具と呼ばれる魔力コーティングが施された武具を装備することで

女性の魔術に対抗できるというわけである。

 

「ルーティアさん、審判お願いできる?」

 

「もちろんです流石女将さんです多分これが一番早い決着だと思います」

 

ルーティアはサチのお願いに目を輝かせていた。

 

 

 

サチと篭手の男がテーブルに座り、腕を出す。

 

その様子に周りに徐々に観客が集まってきた。

すかさずどちらが勝つか賭けを始めるものも現れ、一種のショーと化していた。

 

 

「それでは両者手を組んで」

 

お互い肘をつき、右手を出し握り合う。

 

「はい、よーい、スタート!」

 

ルーティアの号令が発せられた瞬間、テーブルにドンっ!と手がつく音が響いた。

 

…篭手の魔武具が勢いよくテーブルに当たる音であった。

 

あまりの速さに篭手の男も自分が負けたことに理解できていなかった。

 

「な、な、な」

 

「はい、私の勝ち。デートできなくて残念ね」

 

一瞬にして沸き立つ観客。大半が男に賭けていたのだろう、ため息も聞こえた。

 

篭手の男が我に返り、顔を赤くして立ち上がった。

 

「お前ぇ!何かイカサマしただろ!ありえねぇ!」

 

「女将さんはイカサマしてないよ審判の私もしっかり見てた」

 

ルーティアが面倒くさそうに早口で言う。

 

「うるせぇ!そうかお前もグルだったんだろ!そうに違いな」

 

 

「おい」

 

「ひっ」

 

納得できないと子供のように駄々をこねる男にサチは我慢できず…

 

男の首を手でつかみ、グイッと自分の顔の前まで力強く引っ張った。

 

そして他に聞こえない小さい声で彼の耳元で囁く。

 

 

「泣き言言うなよっていったのはどこのどいつだ?これに懲りたらナンパは人を見てやれ」

 

 

何事かと観客がざわざわとしていると、小さな拍手をしながら一人の老人がサチの前に現れた。

 

 

「ふぉふぉ、さすがサチさん鮮やかですな」

 

「すみませんギルド長、朝からお騒がせしました」

 

彼はレッドスナッパー領の冒険者ギルドを束ねる、ジジである。

 

高齢にもかかわらず背筋はピンとしており、紳士の佇まいをしていた。

 

「いやいやとんでもない。待たせたみたいですまんの、ではちょっと儂の部屋まで来てくれるかの?」

 

 

そうしてギルド長とサチは部屋の奥へと消えていった。

 

ルーティアも用済みと言わんばかりにそそくさといなくなり、ショーが終わったと感じた冒険者たちも解散。チンピラ4人衆だけがその場に取り残された。

 

 

篭手の男が自分の魔武具を見てつぶやく。

 

「何なんだよ、あいつ…」

 

彼女と腕相撲をした右手の魔武具には、強力な魔術を受けたかのような

()()が無数に入っていた。

 

 

*********************************

 

 

「さて…何から話せば良いかの。

…お主まずいことになっとるな?お主の依頼を見て確信したわい」

 

「…さすがギルド長、話が早いですね。」

 

ギルド長室に入り、上質なソファに座るなり開口一番に放たれたセリフである。

サチもこれには驚いた。もう知れ渡っているのか、と。

 

「いや、儂も知ったのがつい先程じゃ。ほれ、これを見てくれ」

 

「これは…!」

 

そこには、大きい文字で『捜索願』と書かれた一枚の紙にメアリーの人物画が書かれていた。

 

「この『捜索願』をこれからギルド内に掲示せよとの領主からのお達しじゃ。

うちだけじゃなく、軍警察にもお触れが来ておるそうじゃ。

さすが領主様、かわいい娘のためならなんだってするのう」

 

「その話ですと、恐らく今日中には領内に行き渡りますね」

 

「うむ、そしてサチ殿…匿い続けるのも限界があるぞよ?」

 

やはり、ギルド長にはばれてしまっているようだ。

隠し事はできないと諦め、サチは頭を下げた。

 

「…ギルド長、この件はどうかご内密に」

 

「儂とそなたの仲じゃろう?そこは心配するな。

…ただ、噂というものは恐ろしい病じゃ。思いもよらないところから凶悪なものに変異するからの。そこは儂にもどうにもできんぞい」

 

「心得ております」

 

「儂にできることがあったら言っておくれ。公にはできんが、何らかの形でサポートするぞい」

 

「ありがとうございます。感謝します」

 

…どうやら冒険者ギルドを敵に回すことにはならないな、とサチは安堵した。

 

 

「まだまだこれくらいじゃ恩は返しきれないぞい?儂は受けた恩はきっちりと返さないと死んでも死にきれんからの」

 

「ふふ、それが長生きの秘訣ですか?」

 

 

先ほどの緊張した空気が嘘のように和やかな会話が続く。

 

 

「ふぁふぁ。ところで、モンド君は元気かの?」

 

「ええ、おかげさまで」

 

「儂もモンド君の料理食べてみたいのう…皆口々にうまいと言っておるしな」

 

「ふふ、いつでもお待ちしてますわ。…ですが、モンド君は恥ずかしがり屋さんなので、お忍びで来てくださいね?」

 

「うむ、そうしようかの」

 

平和に終わったギルド長との会話のあと、帰宅したサチは目が覚めたモンド、メアリーと昼食をとり、メアリーの経緯を知ることとなった。

残された時間がないと知ったサチは、その場ですぐに作戦会議を開くことにした。

 

 

「メアリー様にはこの世から消えてもらいます」

 

 

この作戦は、メアリーの死の偽装、メアリー自身の偽装の両方が成功しなければ失敗に終わってしまう。

それにはとある人物なしでは成功しない。

 

サチは部屋に戻りある人物との交信を開始した。

 

 

 

 

 






ルーティア=RooTiA=RTA

そういうことだよ。


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