悪役令嬢、匿いました。   作:こさきん

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前後編になるのは初めてなので初投稿です。





ある居酒屋店主の1日(後編)

「交信開始」

 

自室に戻ったサチは丸い握りこぶし大の水晶に手を掲げ、魔術を唱えた。

この魔術は遠く離れた相手との連絡手段が取ることのできる唯一の魔術である。

連絡を取りたい相手が水晶の近くにいないと受信できないという欠点はあるが、

それでも電話などの手段がないこの世界においては重要な魔術だ。

 

しばらくすると、水晶から驚いたような声が聞こえた。

 

「これはこれは、誰かと思ったらサチじゃないか!君の方からかけてきてくれるなんて。明日は大雪かな?」

 

「うるさいわね、切るわよ」

 

どうやら相手はサチからかかってくることが相当珍しかったようで、それを茶化してみせた。

 

「ほんの冗談さ。それで、君からわざわざ交信してくれるってことは…何か良からぬことがあったね?」

 

「…ええ、本当はあなたに頼りたくなかったんだけど、背に腹は変えられないわ」

 

「水臭いなぁ、ボクの方はいつでも歓迎するよ。…それで、ボクは何をしたらいい?」

 

 

サチは水晶の向こうにいる相手にメアリーが来てからの顛末を説明した。

 

 

「なるほどそういうことか。かなり難しいよそれは…ボク以外ならね。とりあえず今から言う材料をそちらで用意しておいてくれないかい?」

 

相手から必要な『材料』を紙にメモを取るサチ。その顔は一字一句聞き逃すものかと、真剣そのものであった。

 

「わかったわ。あとは何か必要なものはあるかしら」

 

「そうだな…別れる前にしたボクとの『約束』をきちんと果たしてくれるならあとは要らないさ。君なら大丈夫だと信じているよ」

 

「…覚悟は出来ているわ。」

 

サチは、思いつめた顔で相手にそう伝えた。

 

「大丈夫大丈夫、大切に扱うよ。こちらも色々工作をしないといけないから、そちらに着くのは転移陣を使っても明日になるだろう。それまでに準備をよろしく頼む」

 

「了解。それじゃ切るわよ」

 

「ちょっと待ってくれたまえ!せっかく久しぶりに話したんだ、こちらの状況も君の耳に入れておきたいんだよ…結構面白い事になってるよ?」

 

「…仕方ないわね、少しだけよ?」

 

「…」

 

「…」

 

サチが相手と話すことみっちり3時間。外の夕日がそろそろ沈みかけているのに気づいた。

 

「もうこんな時間。そろそろメアリー様の護衛が来る頃だからここらで切るわ」

 

「付き合ってくれてありがとう。たしか君の子猫ちゃん達だっけ?明日会えるのを楽しみにしているよ。それと…

 

 

この術を使うということは、君の『()()()()()』を危険に晒すことになるよ。

君は今まで温室で大切にして育ててきたようだが…君にその覚悟はあるかな?」

 

「…ええ、大丈夫よ。私にも残された時間は少ないわ」

 

「…悲しいね。じゃあまた明日」

 

相手が辛そうな顔を見せたがそれも一瞬で、何事もなかったかのように交信を終了する。

 

「ええ、じゃあね」

 

相手との交信が終了し、サチがため息をついた。

 

 

「そう、時間がないのよ…バカヤロー」

 

 

それはサチが普段使わない、ひどく汚い言葉だった。

 

 

*********************************

 

 

三人娘を交えた騒がしくも楽しい夕食が終わり、各自が眠りにつこうとしている頃。

サチはメアリーの部屋を訪れるため3階へと上がった。

 

部屋の前で警備をしているスィと目が合う。

 

「サチ姐さん、どうされました?」

 

「ちょっとメアリー様とお話ししたいことがあったのよ。

悪いけど席を外してもらえるかしら?」

 

スィは特に疑問を持たず、「いいですよ」と隣の警備用の待機室へ入っていった。

 

「メアリー様、お休み前に少し宜しいでしょうか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

メアリーに促されるままに部屋に入るサチ。その顔はかなり深刻そうな顔をしていた。

サチは覚悟を決めたようにメアリーに語り掛ける。

 

「メアリー様。先ほどはお伝えできなかった話をお伝えしなければなりません。

これからするお話は、あなたの今後の人生を大きく左右するお話です。

もし、受け入れられないと感じたらどうかその場で申し付け下さい。

すぐにこの話は無かったことにさせて頂きます」

 

唐突にそう話し始めたサチにメアリーは少し面食らったが、その表情で何となく察した。

 

「サチさん、どうか顔をあげて?

私がここに来たのは偶然ですが、今では()()()()()()()()()()()()()、そんな感じがするんですの。

自分でもよくわからないのだけど」

 

メアリーは少しだけ笑って話を続けた。

 

「一度決めたことは最後までやり抜くのが私のポリシー。

他人にどう思われようが私は死ぬ最後までお母様から『逃げて』いく所存です。

どんな手を使ってでも」

 

「ですから、サチさん。あなたの協力が必要よ。私に出来ることがあったらどんな事でも言って頂戴な」

 

メアリーの覚悟を持った言葉に、サチも覚悟を決めた。

 

「…ありがとうございます。では、お話します。

今回の作戦で重要な『メアリー様の死の偽装』と『メアリー様自身の偽装』についてですが…

 

これには、禁忌の魔術『幻術』を使用します」

 

幻術、という言葉にメアリーは耳を疑った。

 

「…幻術!?たしか幻術を使えるのは世界でも数人で、国で厳重にその使用を管理されていると聞きましたが…」

 

「そのとおりです。その希少性と、悪用された場合あまりにも危険なため国で管理されています。

無断で使用したことがわかった場合…関係者は問答無用で死罪です」

 

「っ…」

 

メアリーはサチが冗談でなく本気でこの話をしていると実感した。

サチから放たれる鬼気迫るオーラが、実感せざるを得なかった。

 

「リスクは大きい。だからこそ、それに見合うだけのチャンスもあります。

幻術はその希少性から、どんな魔術なのか詳細を知るものはごくわずかです。

ここに偽装のチャンスがある」

 

たしかに、偽装するにはもってこいの方法だ。

魔術をそれなりに勉強したメアリーでさえ、幻術についてはほとんど知られていない。

だからこそ気になることがある。

 

「…なるほど、ですが気になることが一つございます。

幻術による遺体の偽装はなんとなくですが理解できます。あくまでなんとなくですが…

ですが、私の偽装についてはいくら幻術でも無理でしょう?

だってどんな魔術でも永続して効果が継続することはないのですから…」

 

魔術の効果には限りがあるということ。

魔術を学ぶ際は誰もが教わることくらいの初歩の初歩だ。

この原理はどんな魔術でも変わることはない。

 

「おっしゃる通り、幻術にも限界がございます。

偽装し続けるには、一定の間隔で常に術をかけ続けなくてはなりません。

ですので、メアリー様には憶えて貰わなければならないのです…幻術を」

 

サチがとんでもないことを言い出した。

禁忌の幻術を…学ぶ…?

馬鹿げていると一笑に付すことは簡単だ。

だがメアリーにはできなかった。

 

「そんな…禁忌の魔術を、私が…?」

 

「はい、禁忌の魔術の修得条件はご存知ですか?」

 

「え、ええ、かつて聞いたことがございますわ。…確か、一旦自身の魔力をゼロにする、と」

 

メアリーは昔授業で習った事を思い出した。

確か教師もうろ覚えで説明していた、ような気がする。

 

「はい、その通りですが、もう一つ条件がございます。自身の魔力の素質を消すのです。そこまでしないと、この危険な魔術は修得できないのです。」

 

「…つまり、他の魔術が使えなくなると言う事ですね?」

 

魔術の素質は生まれながらに女性がもっている『体質』のようなものだ。

多少の変化はあるが、意図的にそうしない限り素質は消えることはない。

 

「私が聞いた中で例外はございませんでした。私の友人も同様です」

 

今までの内容が突拍子もなさ過ぎて、頭の中で必死に整理するメアリー。

失敗の可能性があまりにも多すぎる。そしてその先は『死』が待っている。

危険すぎると本能が告げる。

 

「そう…確かにこれは危険な賭けね。

ですが、サチさん。あなたがここまで自らの危険を省みずに提案してくれているのです。

私が怖気づいたらレッドスナッパー領家の名が廃りますわ。…やりましょう」

 

メアリーは自分の境遇に感謝した。

ここまで恐ろしいことに対して毅然と立ち向かえるのは、『矜持』が自分にあったからだ、と。

 

「でもその前に一つ聞かせて頂戴。

ここまで危険を冒してまでするあなたの決意、その本当の訳を聞かせて貰えるかしら?

…まさか、ただの『親心』などでは無いのでしょう?」

 

サチは俯いた。

メアリーから匿う理由を聞かれたときとっさにそれらしく繕ったが、やはりメアリーには疑われていたのだ。

だが、今はまだ真実を話す時ではない。サチは正直に彼女に伝えた。

 

「…今はまだ言えません、お許し下さい。ただ一つだけ、これは私の『復讐』なのです」

 

「…復讐?」

 

「はい、これはメアリー様の人生を、私の復讐の為にめちゃくちゃにしてしまうことです。…騙して、ごめんなさい…」

 

サチは自分がどんなに虫のいいことを言っているか嫌になった。

メアリーは勇気を出して曝け出してくれたのに。

俯いたままでいると、メアリーがサチに告げる。

 

「…あなたの人生はそんな復讐のためのちっぽけなものなの?と言いたいところですけれど…

意地汚く逃げ回る私が言える道理では御座いませんわね」

 

メアリーは少し笑ったあと、一呼吸置き。

 

 

「あなたが私に命を掛けてくれたように、私もあなたに命を掛けましょう。

…言ったでしょう?私、借りを作るのが大嫌いなのよね。

あなたも誰かに復讐しなければならない大きな『借り』があるようですし…

その借りはきちんとお相手に返しなさいな」

 

ああ、このお方はなんてお優しいのだろう。

『借りを作らない』

この言葉の真意は、「対等でありたい」の裏返しなのだ。

私の醜い復讐すらも、不器用に、対等に受け止めてくれるのだ。

 

「メアリー様…あり、がとう、ございます…」

 

そう思うと、サチは目から出る涙を止められなかった。

 

しばらくして落ち着いたサチは、顔をあげた。

メアリーはプッと小さく笑った。

 

「あなたもそんな顔をするのね。モンドさんは知らなさそうですわ?」

 

「もう、ここでモンド君の名前を出さないでください!」

 

「フフ、良い顔よ?」

 

メアリーが、改めてサチに伝える。

 

「サチさん、いいこと?

ここまで来たら私は()()()()()()覚悟は出来ているわ。

だから、あなたも遠慮はせずに私を使いなさいな」

 

「ありがとうございます、メアリー様」

 

「さ、明日に備えて早く寝るわよ。夜ふかしは女性の敵よ?」

 

「ふふ、わかりました。ではまた明日」

 

そうして部屋をでるサチ。

 

サチもメアリーも、これから命を懸けた大博打をするというのに、どこか晴れ晴れとした表情をしていた。

 

 

 

 

 

 





もうサチさんが主人公でいいんじゃないかな(呆れ)


モンド君要る…?要らなくない…?

次回はモンド君出します。


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