やっと料理風景が書けたので初投稿です。
喧しい夕食が終わり、各自部屋へ戻った後の居酒屋サチコの調理場にて。
一人立つモンドは少し憂鬱な気分になっていた。
「はぁ…あのズッコケ三人娘がしばらくここに滞在すると言うことは、常に飯を強請られるということ…アイツらわがままだからなぁ〜」
先ほどサチさんから、ケルプ、ベリィ、スィがメアリー様の護衛任務に付くにあたり、ここの二階〜三階部分の空いている部屋を彼女たちに使わせることになったと聞いた。
つまり、しばらく彼女たちと暮らすことになるという事で、それは俺が彼女たちの食事を作ることを意味していた。
くそっ、おちおち自分のペースで食事作りなんて出来やしない。
彼女たちは総じて野菜嫌いなのだ。
ケルプはニンジン、ベリィはトマト、スィはピーマンが大の苦手だ。出された料理に嫌いな野菜が入っていようものなら、小言の一つや二つでは済まされないほどネチネチ愚痴られるのだ。
最後にはその様子を見かねたサチさんに『めっ☆(物理)』してもらっているのでそれ以上酷くなることはないが、これが毎日続くと思うとため息も出るもんだ。はーつっかえ(クソデカ溜息)
これからの食事のメニューをどうしようか考えていると、メアリー様がスィを連れて1階に降りてきた。
「あら、モンドさん」
「うゎ、ど…モンド君」
こいつ今メアリー様の前で童貞野郎って言おうとしたな!
訴訟も辞さない!法廷で会おう!
しかもこいつメアリー様の後ろに隠れるとか、それでも護衛かよ?
まぁ俺が言わなくてもメアリー様が何も言ってないってことは、別に気にしてないんだな。
スィよ、メアリー様の寛大な心に感謝せよ。
「メアリー様、こんな時間にどうされました?」
「ちょっと喉が乾いたので水を貰いに来たのよ。いただけるかしら?」
「ええ、今お持ちしますから椅子に座ってお待ち下さいね」
メアリー様はありがとうと言うと、流れるようにテーブルに移動し、スーッと音を立てず椅子に座った。流石貴族様の振る舞いは格が違った。
「私には眠気覚ましに効く強めの酒を頂けるかしら」
とスィが寝惚けたことをほざいたのでそれを華麗に無視。
ただ水を飲んでもらうのも味気ないと思い、ひと工夫して出すことにした。
コップにレモン半個分の果汁をしぼり、そこに冷たい水を入れ軽く混ぜる。
最後に香りのアクセントとして、ミントの葉を手で叩いてコップの上へ。
たったこれだけでお手軽レモン水の完成だ。
レモン水をメアリー様とスィに渡す。
メアリー様がコップに口をつけ一口飲む。
あぁ、飲む姿も高貴だ…(恍惚)
メアリー様がすぐに気づいたようだ。少し驚いていた。
「モンドさん、これはレモン水ね?」
「ええ、ただお水を渡すだけでは味気ないとと思いまして。
お口に合わなかったら言ってくださいね」
「いいえ、とても美味しいわ。ミントが爽やかね?ありがとう」
メアリー様からお褒めの言葉を頂く。
あぁ〜堪らねぇぜ(歓喜)
メアリー様の言葉で明日も頑張ろうって気になるなー。
「美味しいんだけど、ちょっとアルコール薄くない?てか入ってない!これ喝よ喝!」
スィお前は何を言っているんだ。
「文句言うならもうあげませんよ。はーあ、レモン水は美肌にもいいって聞いたことがあるんだけどな、まぁスィは興味無いみたいだし」
「素晴らしい風味ですね、おかわりを所望します。はよ」
美肌にも良いと聞いた瞬間ゴクゴクと飲み干し机をバンバンとたたいておかわりを要求するスィ。お前の手のひらグルングルンだろ…
そのやり取りが可笑しかったのか、メアリー様はクスクスと笑い始めた。俺とスィは呆気にとられた。
ああ、やっと、メアリー様が笑ったんやなって…(成仏)
メアリーさまが笑った顔を見れたのは領内を探しても数えるくらいであろう。俺は幸運だ!
「ふふ、お二人とも仲がよろしいのね」
するとスィが青い顔をしている…どうした?
「っ、メアリー様、すみませんが先に部屋に戻ります。失礼します」
スィはそそくさと階段へ向かった。
えぇ…(困惑)
俺と仲がいいって言われたのがそんなに嫌だったん?…悲しいなぁ(涙)
「…スィさんの気に障ることを言ってしまったみたいね、ごめんなさい」
いや、これは勝手に護衛せずに帰ったスィが悪い…悪くない?
どんな事があっても対象を守るのが護衛だろ…
「メアリー様は悪くないですよ。さ、もう夜も遅いですから、寝ましょうか」
とりあえずこのなんとも言えない空気から逃げたかったのでそう告げるとメアリー様は頷き、部屋へと戻っていった。
まあ細かいことは気にしない。とりあえず明日も早いし寝ますか。
翌朝5時
モンドは時計の音で目を覚ます。
この世界には電池が存在しないが、蓄魔力装置と言う便利なものがあり、それが電池の代わりになっている。この世界は魔術が生活の一部となっている。俺は直接は使えないが、便利なものだ。
身支度を終えた後、早速一階の調理場へ行く。今日の朝食の準備をするぜ。
今日の料理はホットサンドとコーンスープにした。
まずはコーンスープづくりから。
生のトウモロコシはまず種の部分を包丁でざっくりカット。芯の部分も後で一緒に煮るので捨てずにカットしておく。
種の部分はみじん切りにする。これが結構大変な作業だ。前の世界ならフードプロセッサーで一発だったんだけどなあー。
鍋に多めのバターを入れ温める。小麦粉を少しずつ入れ焦がさないように混ぜ混ぜ。まとまったら、牛乳をこれまた少しずつ入れ伸ばしていく。
本当は生クリームを使うとさらにコクが出るが、残念ながら切らしていたので牛乳で妥協しよう。
そこにみじん切りしたコーンと芯の部分を入れ、味付けにストックしていたコンソメスープと塩を少々。味見をしたらコーンの甘みが少なく感じたので砂糖を追加する。
10分ほど煮立たせたら一旦火を止め、濾し器で種の皮と芯の部分を除く。最後にもう一度味見をして完成です。
次にホットサンドの準備を…と思ったら誰かが階段前の扉が開く。誰か来たようだ…ってメアリー様!?
「モンドさんおはよう。早いのね?」
「お、おはようございます!朝食の準備をしてました。メアリー様も早いですね」
びっくりした。こんな朝早くにメアリー様のご尊顔が拝めるとは…
早起きは三文の得、はっきり分かんだね。
「ちょっと早く起きてしまったの。お水頂けるかしら?」
「ええどうぞ、昨日みたくレモン水は作れませんが」
「もちろん構わないわ。…いい匂いね」
メアリー様がカウンター越しからこちらをじっと見ている。照れるんですが…
「あ、コーンスープがちょうど準備できた所です。あと数品できたら完成ですよ」
そういってコップに水を注ぎメアリー様へ渡す。
メアリー様がありがとう、と受け取り言った。
「少しこのまま見させてもらってよろしいかしら?」
ファッ!?ただの料理してる絵面みても面白くないでしょうに…何より見られてると俺が緊張して手元が狂いそう…!
「ただ料理してるだけですよ?あまり面白くないと思いますので…」
メアリー様が近くにいるのは嬉しいが、調理に支障が出てはまずいので申し訳ないがお帰り願おう。
「いえ、私には新鮮ですわよ?調理風景というものは見たことが無いものですから。…お邪魔かしら?」
うっ、そんな事を言われたら「いえ、大丈夫ですよ!」しか言えないじゃないか…!
仕方ないがこのまま調理を続行しよう。
続いてホットサンドの準備に取り掛かる。
ホットサンドは俺が作る居酒屋メニューの中でも、隠れた人気メニューだ。具材によっては意外と酒が進むのである。
まずは具材の準備から。
今日の具材は3種類にする。まずは一番お手軽なハムチーズから。
冷蔵庫(動力は勿論蓄魔力)からハムとチーズを取り出す。
ハムもチーズも薄くスライスする。
食パン2枚にバター、マスタードを塗ったら、ハム、チーズをのせてサンドし準備完了。早い(確信)
次の具材は卵。こいつが一番手間がかかる。
俺はスクランブルエッグが好きなのでまずはスクランブルエッグづくりから。
ボウルに卵を割り入れたら牛乳、塩、胡椒を入れ泡立てすぎないように混ぜる。
ある程度混ざったらバターを細かく切りそこへ投入。
そしてここからがポイント。
今日のスクランブルエッグは、炒めずに『湯煎』で作る。
沸騰しない程度に温めたお湯の上にボウルを浮かべ、ヘラでひたすら混ぜ混ぜ。程よく固まるまでに15分くらいかかるため、時間は掛かる。だが、この作業が炒めるよりもクリーミーでリッチな仕上がりになるのだ。
「随分と手間がかかるのですね。私のイメージは料理というのはもっとシンプルな印象があります」
混ぜ混ぜしているとメアリー様から質問が来た。
「ええ、本当はもっと簡単につくれますよ。これなんかは殻のままお湯に入れて固めるのが一番楽ですかね。でも俺はこうして作るほうが好きなんです」
楽したいときはゆで卵を細かく刻んでしまうのが一番。だけど、折角メアリー様に食べてもらうなら手間を加えたいよね。
メアリー様も納得したようで、それ以降は静かに卵を混ぜる音が調理場に響いた。
「そういえば、モンドさんはいつからこちらで働いていらっしゃるの?」
ついに来た、この質問が。
俺が転生者だということはもちろん誰にも言えない秘密だ、もちろんサチさんにも。
一応聞かれたときの答えは用意してある。
「丁度3年前くらいですね。俺、サチさんに拾ってもらったんですよ」
「拾ってもらった?」
「ええ。
俺、ここに来るまでの記憶が一切ないんです」
「えっ」
メアリー様が言葉を失う。
「多分事故か何かだと思うんですが、それもよくわからなくて。広場の女神像の前で倒れてたみたいです。それをサチさんが助けてくれたんですよ。」
記憶が無いというのは嘘だがある意味事実だ。
だって転生してきたんだから、ここの世界の記憶は無い。
そういうことも含め、記憶がないと答えるのが一番しっくりくるのである。
転生直後、俺が目を覚ますとそこは広場の女神像の前だった。
俺は前の世界の服装だったもんだから目立ってしまい、挙動不審な言動も相まって通報されてしまう。
職務質問しにきた憲兵に対し、俺は訳がわからずモゴモゴしていると憲兵に連れて行かれそうになった。
そこへたまたま通りかかったサチさんに助けてもらったというわけだ。
つまりサチさんは俺の命の恩人。その時俺には女神に見えたよ。
メアリー様が憐れむように俺を見る。
「そう…大変だったわね。」
「まあ何で記憶が無いのかは分かりませんが、ここで働かせてもらってるだけで俺は幸せですよ?」
そんな事を話しているとメアリー様が少しホッとする。
良かった、俺の哀れな話でご飯が喉を通らなかったら一大事だからな。メアリー様にはちゃんと食べてもらわねば(使命感)
そうこうしていると卵がいい感じにふわふわになってきた。最後に味を見て完成。
するとサチさんが扉を開けて入ってきた。
「おはようモンド君。あら、メアリー様も起きてらしたんですね」
「ええ、おはようございます。少し早く起きたので、モンドさんの調理風景を見学しておりました」
「楽しいですよね?私もよく見てるんですよ!手際が良くて惚れ惚れしちゃうんですよねー」
ふふ、サチさんよせやい…
「確かに興味深いですわ…
ところで、今モンドさんがこちらに来るまでの経緯を聞きました…
サチさんがモンドさんを助けたと」
「あ、聞きました?私もあの時は驚きましたよ」
そういえばサチさん、俺を助けてくれたとき何かよくわからない言葉を発してたもんな。
「何で」とか、「生きてる」とかだったか?
もしかしたら昔の生き別れた恋人とかに似てたりして…まぁ有り得ないか。
「あの時は私も色々あった時で…モンド君も記憶をなくして大変だったみたいで、ほっとけなくてつい助けちゃったんです」
そうそう、つい助けてくれたんですよ。つい…
あれ、俺サチさんの気まぐれが無ければ最悪死んでね?
あかん、冷静に考えると怖くなってきた…
料理に専念しよう。
最後はストックしておいたパスタ用のミートソースを具材にする。
残り物を上手く使えるのもホットサンドの魅力だ。
これであとはホットサンドメーカー(仮)を使って両面をしっかり焼けば完成。
ちなみにこのホットサンドメーカー(仮)は、常連の一人である鍛冶屋のおっさんにお願いして作ってもらった特注品だ。前の世界の商品の形状を覚えていたので、なんとかそれらしい代物になっている。
そういえば、何だかサチさんとメアリー様仲良くなってない?すごく楽しそうに談笑しているんだが…
俺の知らぬ間に何かあったのだろうか。まあいっか。
そうこうしているとズッコケ三人娘が降りてきた。
ケルプ、ベリィはいつもの調子で挨拶してきたが、スィは心なしか元気がなさそうだ。
そういえば昨日も突然部屋に帰ったな。もしかして体調悪いのか?だとすれば心配だ。俺は一応声をかけた。
「おはようスィ、もしかして体調悪いか?」
するとスィは驚いて返事をした。
「ち、違うわよ!体調は、大丈夫…」
「なら良かった、なんか調子悪そうだからさ。食欲無かったら言ってくれよ?スープでも作ってやるからさ」
スィは呑兵衛のどうしようもないエロバカだが、今日は随分と大人しい印象を受けた。違和感ありすぎてこちらもつい心配してしまう。
「う、うるさいわね大丈夫だって言ってるでしょ?!余計なお世話よ童貞野郎っ」
スィが今度は顔を赤くしていつもの調子で俺をディスる。良かった、いつものスィだな。
「さ、朝食もうすぐ用意できますから、皆さん座って下さいね」
安心した俺はみんなに呼びかけ、料理の仕上げにかかる。
後はホットサンドメーカー(仮)で順番に焼いていく。
パンの両面に美味しそうな焦げ目がついたら取り出し、食べやすく四等分にして皿にのせる。
温めたコーンスープを器に盛り、完成だ。
「さ、食べましょう!頂きます!」
俺の号令と共にみんなが「頂きます」と合わせて唱和し、食事に入る。
みんなが思い思いにホットサンドを選び、口に運ぶ。
どうやらみんな夢中で食べてくれているようだ…ふふ、それで良いんだよそれで。
「これは…旨いな」
「ええ、何というか、気持ちが穏やかになりますね」
「……」
ベリィとケルプが珍しく大人しく食べている…?
よく見るとスィも黙って食べている…お前たちどうした?!
するとメアリー様がコーンスープを召し上がってこちらを向いた。
「先ほどサチさんと話していましたが、納得しました。モンドさんの料理は、ちょっと次元が違うわね」
メアリー様、嬉しいこといってくれるじゃないの。
「さすがモンド君、今日もとても美味しいわ!これからも宜しくね!」
サチにそんな事を言ってもらえるなんて…嬉しすぎる!
「喜んでもらえたみたいで良かったです!まだありますからたくさん食べてくださいね」
本心が駄々漏れてしまったが、まぁ大丈夫だろう。みんなもっと食べてくれよな〜、頼むよ〜
「そうそう、モンド君。お店のことなんだけど、メアリー様の件があるから、今日もお休みにするわね。明日から営業再開と言うことで」
「わかりました。じゃあ今日のお昼にでも明日の分の食材を買いに行きますね」
「ありがとう。あともう一つお願いがあるの。今日の夕方に客が一人来るので、その人に夕食を作ってほしいのよ」
「お客様ですか?」
「ええ…メアリー様の偽装工作をしてくれる人よ。ただ厄介な人でね、食べ物の好き嫌いが激しくて。モンド君には、それを克服する手伝いをしてほしいのよ」
メアリー様の偽装の目処がどうやらついたようだ。それは良かったが、何なのだこの胸騒ぎは…
「…ちなみに、嫌いなものは何ですか?」
俺が尋ねると、サチさんが気不味そうにテーブルに両肘を付き手を組んだ。
「…モンド君、怒らないで聞いてくれる?」
俺が思う確かなことはサチさん!あんたのセリフを次聞いた瞬間、俺はたぶん・・・プッツンするだろうということだけだぜ。
「彼女、魚嫌いなのよね」
俺はプッツンした。
料理描写難しすぎィ!!