有給使って書いたので初投稿です
モンドは静かに立ち上がった。
「すみませんがやることができましたので、ちょっと部屋にこもります。食べたものは後で片付けるので洗い場に置いておいてください。」
「う、うん。よろしくね」
そういってそそくさと階段を上がっていくモンド。
その様子に誰も声をかけることが出来なかった。
「あの、モンドさんはどうされたのですか?怒ったような、悲しいような顔をされていましたが」
メアリーが困惑してサチに問いかけた。
「彼、昔に魚嫌いの女の子と色々あったみたいです。…モンド君はあまり言いたがらないんですけど」
サチもお手上げといった感じで答えるしかなかった。
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モンドは昔から料理好きだったわけではない。むしろ嫌いだった。
モンドの家は先祖代々から続く料亭。モンドは物心つく頃から家の仕事を毎日手伝い、怒られた。辛く、何度も家出をしようと思った。
それでもモンドが料理をやめなかったのは、彼の料理を喜んで食べてくれた人がいたからである。
彼女は城崎千里と言うオールバックにカチューシャが似合う女の子で、モンドが中学生時代の同級生だった。
彼女の家は貧しく、ギャンブル依存症の父親と彼女の二人だけだった。母親は蒸発したらしい。
彼女の父親はなけなしの金をギャンブルに使い、すぐにスッカラカンになっていた。
そして頻繁に彼女に暴力を振るい、満足に食事を与えなかった事も多々あった。
そんな彼女に料理を食べてもらうきっかけは、些細な事だった。
学校給食が食中毒で出されなくなり、しばらくの間、各自家から弁当を持ってくることになったのだ。
モンドは自分が作った練習作を弁当に持ってきたが、たまたま隣の席の彼女を見ると、菓子パン一つだけしか持ってきていなかった。どう見ても少ない量だ。
モンドは今まで彼女となんの接点も無かったが、なんの気無しに彼女に「よかったら食べる?」と提案した。
彼女は最初遠慮していたが、モンドが「自分が作ったものを評価してほしい」とお願いすると、彼女は納得しそれを受け取った。
彼女は一口弁当を食べると、無言で黙々と食べ続け、あっという間に食べ終え少し恥ずかしそうにはにかんで言った。
「ごちそうさま。これ主水君が作ったの?すごいね!」
「うん、でも親からはまずいっていつも怒られるんだ。自信なくなっちゃってさ」
「そんなことないよ!主水君のお弁当、私すごい好きだよ!」
モンドは自分の料理で喜んでくれることがすごく嬉しかった。
それからモンドは給食が出ない期間お腹を空かせていた彼女に、自分の練習作をこっそり食べてもらっていた。
彼女はいつも申し訳ない顔をしていたが、モンドの料理を食べるときはとても幸せな笑顔をしていた。
笑顔の彼女がモンドは好きだった。
彼女は魚が苦手だった。だが「主水君の作る魚料理は何だか頑張って食べられる」と努力してくれた。
彼女の魚嫌いを克服しようと、モンドは熱心に料理の勉強をするようになった。
だが、その関係は長くは続かなかった。
ある日の放課後、いつものように彼女に弁当を渡そうとすると、
「主水君、もうお弁当は大丈夫だから。今までありがとう」
と、無表情の彼女に突き放された。
「ど、どうしたの?何があったの?」
「…お父さんにね、怒られちゃったんだ。勝手に人から食べ物を貰うなって…」
「っ…、そんな!」
モンドは納得できなかった。
食べ物も碌に彼女に与えてないやつが、どの口で言えるのかと。
「…千里ちゃん、お父さんに会わせてほしい」
「だめだよ、お父さん何するかわからないから」
「大丈夫、話をするだけだから。千里ちゃんは何もしなくていいよ」
その後も彼女は父に会わせないと譲らなかったため、モンドは一度作戦を考えるため彼女と別れ、家に帰った。
家に帰ると珍しく両親が居間で待っていた。モンドは嫌な予感がした。
父が開口一番モンドに言った。
「主水、もう彼女に関わるのはやめろ」
「…なんで」
モンドは父を睨みつけた。
「…あそこの家はな、うちのご贔屓のお客様の結城家、その分家さんだ。
お前と分家の娘さんが仲良くしてることが、どこからか結城家にバレたらしい。うちに抗議の電話が来たぞ。あそこの分家は本家から勘当されたから関わるな、とな」
「…どうでもいいでしょ、そんなもの」
「主水、冷静になれ。結城家はうちのパトロンだぞ?大物政治家とのコネもある。そこからの支援が無くなることにどんな意味があるか考えろ。お前はここを継いで守っていくんだ」
モンドは父のあまりにも冷酷な言葉に我慢出来なかった。
「だからって!何もせずに見捨てていいのかよ!?このままじゃ飢え死にしちゃうんだよ城崎さんは!!」
モンドは初めて親に大声で怒鳴った。
「…主水、城崎さんのことは私達から学校に連絡するわ。だから、安心して?」
母はそうモンドに優しく問いかけた。
そんなことで解決するならとっくに解決してる。
彼女の父を説得しない限り彼女を救うことは出来ないと、モンドは考えていた。
「…分かりました。大声だしてごめんなさい」
モンドは冷静になったフリをして、自室に籠もった。
その日は結局眠れなかった。
翌朝学校に行くと、いつも早く来ていた彼女の姿が無い。
モンドが不安に思っていると、ホームルームが始まり担任が授業前にみんなに告げた。
「突然ですが、城崎さんは家庭の都合で転校することになりました」
クラスがざわざわする。モンドは担任の言っていることが理解できなかった。
「城崎さんから手紙を預かっているので読みますね。
『突然このような形で転校することになりました
みんなにお別れの挨拶ができなくて悲しい気持ちでいっぱいです
思えば皆には迷惑ばかり掛けていましたっけ
2年間ありがとうございました、皆も体に気をつけて』」
モンドは目の前が真っ暗になった。
放課後、モンドは何とか意識を保ち職員室に向かった。彼女の残した手紙がどうしても欲しかったのだ。
担任に手紙の件を伝えると、あまりにもあっさりとそれを譲ってくれた。担任に彼女の転校先を聞いたが、学校にも伝えずに行ってしまったようで結局分からず終いだった。
モヤモヤした物を心に抱えながらモンドが下校しようと下駄箱を開けると、一通の手紙が入っていた。
モンドは不思議に思い封を開けてみた。そこに書いてあったのは千里がモンドに宛てた手紙だった。
『モンドくん、突然こんな形でお別れになってしまってごめんなさい!
モンド君の作ってくれた料理、とっても美味しかったよ。モンド君の手料理、ずっと食べていたかったな。なんてね!
私の魚嫌いも克服しようと手伝ってくれたよね?とうとうそれは叶わなかったけど、いつかモンド君の魚料理を美味しく食べられるように、私なりに頑張ってみるよ!
それではまたどこかで。いつかまた会えるといいね。 千里より
p.s.クラスのみんなに書いた私の手紙も、モンド君に持っておいてくれるとうれしいな。』
モンドは彼女の笑顔を思い出した。
そして、最後の文章を読み終わると、モンドはその場で涙を零した。
彼女の行方は結局わからなかった。
ならばせめて、彼女と再会できたときに笑われないような料理人になろうとモンドはその時決意した。
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「懐かしいな、思い出しちゃった」
モンドは自室に戻って一人呟いた。
あの出来事以来、魚嫌いの人がいると聞くと、いてもたっても居られなくなる。自分でも頭がおかしいと思うが、もはやどうしようもないな。
…あれから俺は、彼女を満足させられるような料理を出せているだろうか。
俺は転生してしまったからもう彼女には会えない。
だけど、どこの世界だろうが、俺のできることは料理で誰かの心を満たすことだ。
だから、今日の客人にも俺の変態的な思いを真正面から受け止めて貰おうか…ふふ、覚悟してろ。
そういって部屋の中で一人不気味に微笑む姿は、完全にヤベー奴なモンドであった。
ちなみに転校した城崎千里は、転校先で始めた居酒屋バイトから異例のスピードで出世し、日本で有数の居酒屋チェーンの社長に登り詰めたのだが、それはまた別のお話。
誰か何と言おうとこの物語はコメディです、それだけははっきりと真実を伝えたかった。