けもののきろく(第2版)   作:大きさの概念

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あらすじ:戦車のセルリアン! 被弾()たれたハイラックス!
  目標:彼女を救え!

 現在地:さばんなちほー中央部/熱帯大草原地域/「広告大看板」前廃車ヤード
 時間帯:深夜

近接武器:黒曜石のナイフ/ネイルハンマー/高枝切りバサミ(壊)
 所持品:結束バンド/植物繊維のロープ/水筒/ビニール袋/使い捨てライター

 同行者:イワハイラックス/ラッキービースト?

 ヒント:ヒトが「ヒトらしい生き方」をしているとは限らないし、その逆もまた有り得る。


第12話 ヒトの証明 [▲]

 とっさに負傷したハイラックスをより危険性の低い場所まで引きずって退避させる! コンテナと車両とで、2重の遮蔽物のある所だ。だがここも、敵にいつ撃たれるか分かったものではない!

 

 例のL型ライト*1(これは通信装置でもあるのか?)を手に取ると、光源付近のレンズ状のパーツから、謎の「ラッキービースト」さん??の声がまた流れてくる……。

 いや、それは()()()な声で……もしかしたら「彼女」なのかもしれないが……。

 

『ぼくノ本体ヲ……ソノ()()()ヲ 負傷箇所ニ 向ケルンダヨ』

 ラッキービーストが機械音声のような平坦な声で語りかける。

「了解……こんな感じでいいですか?」

『OKダヨ』

 

 私はフラッシュライトのレンズ(これはカメラにもなっているのか?)を、悲痛なうめき声を上げるイワハイラックスの体に向け、水筒の水を使って患部を洗浄する。

 

『……左大腿部ノ大量出血*2ガ 一番ノ重傷ダネ。キミガ、救急処置*3スルシカ ナイケド、デキルカイ?」

「もちろん……やるっきゃないですッ!」

 

『良イ返事ダネ。ジャ、手順ハ ぼくガ 教エルヨ』

「あなたの指示に従う! さあ早く!」

『マカセテ』

 ……未知の世界ジャパリパークのことを、少しは分かってきたと思ったら……いきなり現れたのは「ラッキービースト」と名乗る、敵か味方か分からない未知の存在……。

 

 だがハイラックスの怪我はひどい出血で、素人目に見ても、放っておけばすぐに失血死に至る重傷! つまり、仮にこの「ラッキービースト」に悪意があれば、()()()()()()()などとは言わない……ハズ……??

 

 そ、そのはず?だよな……と一瞬考えたものの、はっきりした結論など出ない!

 しかし! ハイラックスを救命(たす)けるためには、ここは彼に頼るしかないのだっ!

 

『……日時時刻:不明。場所:不明。対象:民間(シビリアン)フレンズ。救急救命(ファーストエイド)・標準(スタンダード)手順(プロシージャ) 開始シマス』

「ラッキービーストさん、頼みますっ!」

『ぼくノ声ト、キミノ手デ、彼女ヲ 助ケヨウ!』

 

 ……あなたが()()()()()――名前通りの()()()()であってくれるように……。

 

 

 

『意識有リ。大腿動脈・静脈ニ 重度ノ爆傷*4ヲ確認。大腿骨・未損傷(インタクト)ノ為、止血帯*5ヲ 適用シマス。……()()ノ キミ、何カ 使エソウナ物 持ッテナイカイ? 縄ヤ 紐ノヨウナ物……ねくたいヤ べるとナンカノ、止血帯*6ニ ナリソウナ物……』

「このロープでは? 服やベルトも使えそうだけど?」

『材質ヤ長サヲ 考慮スルト……ソノ『ろーぷ』ガ 向イテイルネ。ソレヲ 使オウ』

 

 私はラッキービーストの指示*7に従い、「植物繊維のロープ」をハイラックスの太腿にきつく巻き、「高枝切りバサミの柄」でぐるぐると締め上げて「結束バンド」を使って固定する。

 

「ぐぐぐ……! い、いだだだ……!」

 止血処置のあいだ、苦悶の声を上げるハイラックス。

「ハイラックスさん、すまん! 痛いけど我慢してくれ!」

『喋レルノハ、肺ガ ヤラレテイナイ証拠ダヨ』

 

 私は彼女の手を握って励ます。

「ハイラックスさん、キツイけどこれで血が止まるからね!」

「あ、ありがとう~……」

 そう彼女は無理に笑顔を作って言う。

 

「うかつだった……私の責任だ……。あの時、あなたを……」

「いやぁ、自分を責めることないよ~。わ、わたしが……()()()()()()()せいだから……。『流れた血は戻らない*8』って誰かが言ってたよぉ~……」

「すまない……! もう喋らないで……! あなたは私が絶対助ける! また壁をぺたぺた歩かせてあげる!」

 

 そして!

 

『ヨシ! 救命止血、完了! コレデ 20分ハ、時間ガ出来タ*9ヨ! 残リノ負傷ノ治療ハ、彼女(ハイラックス)ヲ 「安全ナ場所」マデ搬送シタ後ニ、続行シヨウ!』

 

 私はハイラックスをひっぱって*10広場のほうまで移動させていく。

 ここもいつ「砲撃」が飛んでくるかもしれないが……さっきの端っこの場所よりは、はるかに安全だ。

 

 カラカルやキリンや他のフレンズ達が私たちを迎える。

「あ! ハナコ! 何、さっきのものすんごい音と悲鳴は……!?」

「ハイラックス!! あなた、どこへ行って……って、ひ、ひどいケガじゃない!!」

 

 するとL型ライトの光がぴかぴか点滅し、ラッキービーストが再び話し始める。

『サア、安全地帯マデ 到着シタネ。救命処置ヲ 続行シヨウ』

 

「みんみっ! にゃんだぁ、こいつぅ~っ!? 光るし、喋る~!?!?」

「ひ、光が、しゃべ――光が()()()()()()したぁ~!」

 彼が話すとフレンズ達もびっくり仰天。

 

「みんな、彼はラッキービーストって言って~……。えーっと、なんて言ってたかな……? ……まあ、とにかく、私たちフレンズの()()()()()()なのだっ! 私が保証する!」

 

 もちろん保証なんてできっこないのだが……ここでフレンズを不安にさせたくないのだ。

 そう、今までの言動からして彼は……味方だと判断してもいい……はずなのだ。

 

『ソウダヨ。頼リニシテネ。デモ、今ハ ぼくノ事ヨリ、マズ 怪我人ノ治療ガ優先事項ダヨ!』

「そうですね……! さあ、ハイラックスさん、ケガの手当ての続きをしますからね!」

「よ、よろしく~!」

 

 こうして私たちは、フレンズたちにも手伝ってもらって、ハイラックスの残りの怪我の治療を続けた。

 

 腹部のキズは幸いにも重要臓器を逸れていたので、見た目よりもずっと軽傷であった。

 この傷の処置としては、水で洗って湿らせたビニール袋を、ハイラックスの手足の裏から分泌される粘液*11で接着させて被覆する。

 

 その他の比較的軽いキズは、ガーゼや包帯で止血*12したり、結束バンドや接着剤で治療*13したり、アリの大アゴで縫合*14したりなどの処置を取った。

 

 治療が終わった後は彼女を楽な姿勢*15にさせる。ちょうど経口補水液の粉末*16を持っていたフレンズがいたので、これを水筒の水に溶かして飲ませる。

 

『脈拍・体温・呼吸・血圧・血中酸素濃度・瞳孔反射チェック』

 ラッキービーストの指示で、彼の「本体」(細いストラップがついたレンズがついた腕時計のようなパーツ)をフラッシュライトから外し、ハイラックスの手首などに当ててセンサーでバイタルサインを計測する。……ウェアラブルデバイスのような原理だろうか?

 

『……ばいたるハ、徐々ニ 正常化シテイッテイルネ。命ニ別状ハ無イヨ』

「よかった……」

『キミガ 手早ク、一番ノ重傷ヲ処置デキタ オカゲダヨ』

 

 

 

『……トコロデ 聞イテナカッタケド、キミノ名前ハ?』

 治療が一段落して、ラッキービーストが尋ねる。

 

「私? ……『ハナコ』と呼ばれてます。()()()()()()()()()()()()()()()()()名前です」

 そう答えると、カラカルが「ちょっと!」と反論を挟んできた。

 

「アンタ、さっきも言ったけど! ハナコって名前は()()()()()()()んじゃない!」

「え? ……そう言われれば、そうだったけど……。いや、()()()()()()()()()()()()のような、なぜかそんな気がして……。う~ん、記憶障害があるのかなぁ、私は……。つーか、もともと記憶喪失だしなぁ……」

 

 

 

承認(アファーマティブ)。個体名「ハナコ」ヲ 「民間人リスト」ニ 登録(エンロール)シマス。「部隊リスト」ノめんばーハ 不在ノ為、本ラッキービースト個体ハ、今ヨリ、「ハナコ」ノ指揮下ニ 入リマス』

「そ、そりゃ大げさな……ところで『リスト』って何?」

「アクセス拒否(ディナイド)。該当ノ情報ハ れべる2 以上ノ登録者ノミニ 制限サレテイマス。『ハナコ』ノ 現在ノ『せきゅりてぃ・くりあらんす・れべる』ハ(ゼロ)デス。……ツマリ 話セナイ事ダヨ」

 ヒカリは丁寧語交じりの口調で言った。

「なんだか分からんけど、それならしかたないですね」

『ゴメンネ』

 

「おお! それは、探偵の()()()()()! この『しゃべる光』は探偵なのねぇっっ!」

 キリンが話に首を突っ込んできた。

否定(ネガティブ)、ぼくハ 探偵ジャナイヨ』

「いいえ、むしろ今の大活躍はまさに『医者』のそれ! あなた、この名探偵の私の『でんきさっか』ね、わとすんくん!」

『違ウヨ、違ウヨ』

 あいかわらず支離滅裂なことを言う子である。

 

 ぐいぐいと喋るキリンのおかげで親密な空気が流れ、それを機に他のフレンズたちもラッキービーストと話し始める。

 

「あなたは何のけものなの?」

『けもの違ウ。ぼくハ ラッキービースト ダヨ』

 

「え、え~! ラッキービーストって……()()()がよく言ってる名前でありますが……つまり、あなたは()()()と同じけものなのですか!?」

「でも、()()()とは()()()()()()()()()()()()よー。こんなに小さいし。じゃあ、同じ名前だけど、別の種類のけものなんでしょうかね?」

「たしかに。君みたいなおしゃべりな子は珍しいわねー」

「そうよね、たいていはすごく無口なのに。こうしてアタシたちとふつうに喋る子は初めて見るわねー」

 フレンズたちは何事もなかったように状況を受け入れている。

 

 彼女たちの会話によると、みんなラッキービーストのことを知っているらしい。

 そしてこの彼は、「一般的なラッキービースト」とは違うそうだが……。

 

「えーい、同じ名前じゃまぎらわしいっ! あなたは光るから……じゃ、ヒカリちゃんにするわね!」

 キリンが勝手に命名している。

 

 

 

「あ、そういえば、まだ言ってなかったけど……ありがとう、ラッキービーストさん……いえ、私も()()()()()と呼んだほうがいいですか?」

『個体名ナンカ、何デモイイヨ。ぼくハ ヒトニ従ウ機械。()()()()ニ 名前ハ 要ラナイヨ』

「そ、そうなんですか……? しかしロボとは言ってたけど、実際あなた、何者なんですか……?」

『具体的回答:オブジェクティブ・インディビジュアル・コンバット・サポーティングシステム――個人主体戦術支援用システム・特殊工作型ラッキービースト。存在目的:ヒトノ保護、ヒトノ命令ヘノ服従、可能ナ限リノ自身ノ保存』

「よ、よく分からんのだけど……」

『他ノ詳細な情報ハ……機密事項(コンフィデンシャル)ダカラ 話セナイヨ』

「ああ、さっきの情報制限とかいうアレで……」

 

『ゴメンネ。ア……デモ、ぼくニモ 前ハ「からだ」ガ アッテネ……。スゴク、カッコイイろぼっと ダッタンダヨ』

「そ、そうなのぉっ……!? すっ、すごくかっこいいロボット*17だったの……(どきどき)」

 

『ハナコ、今ノ ぼくハ、キミニ従ウもの ダヨ。命令シテ。ぼくノ 次ノ任務ハ、何ダイ? ぼくニ 出来ル事ナラ、何デモスルヨ?』

「任務……というか、()()()になるけど……ヒカリさんも、あのセルリアンを一緒にやっつけるのに協力してほしい!」

了解(ロジャー)。作戦目的:せるりあん討伐。ぼくハ イツデモ ハナコノ命令ニ従ウヨ』

 

 

 

「……『ヒカリ』って、アンタも言ってること、よく分からんわね……。ま、なんにせよ、ハナコが大したケガじゃないみたいでよかった……」

 そう言うカラカルの瞳孔は大きくなって尻尾や毛は逆立って、動揺している様子が見て取れる。

 

「でも、ハイラックスさんがこうして身代わりになって……」

 まるでミイラのように包帯で体をぐるぐる巻かれた、痛々しい姿の彼女を見る……。

 

「だから~、そんなに気にしないでよ~。さっきも言ったけど、わたしのほうが、不注意だったからさ~。……それよりも、あのセルリアンは()()()()()()ヤツだよね~!」

 ハイラックスが明るく笑って答える。

 

「そうねえ……。くっそ~、あのセルリアンめ……いつもと様子が違うけど、これからアタシたち、どうしたらいいのかしら……?」

 

「うむ! 私の長い()()()()()()()()でも、こんなのは初めてね……。だが! こういうピンチの時こそ! ほーむずさんのように、()()()()()()()で真実を見つけ出して……! ポワロさんのように、灰色の『のうさいぼう』を働かせなければ!」

 キリンが耳や尻尾を振って興奮しながら言う。

 

 おかしなことばかり言うキリンだが、今回ばかりは私も彼女の意見に賛成だ。

 今こそフル回転で頭を使わなければ……!

 

 

 

 まず手始めに私は「戦車セルリアン」を観察して分かったことを皆に説明して、情報を共有することにする。

 

「あのセルリアンは危険(ヤバ)すぎる! 逃げようとして遠くに離れても、ヤツの『砲弾』で撃たれてしまう!」

「ハナコの言う通り……。いや()()()は、よくわからんがな……。だが逃げるより、戦って倒せれば、それが一番だと我も思う。奴を放っておけば、あれを知らない(フレンズ)がやられるかもしれんと思うとな……」

 バーバリライオンがそう言って、他のフレンズたちも「戦うこと」じたいには賛同してくれる。

 

 そして私は、セルリアンは色々な種類の砲弾を撃ってくることも説明したのだが……やはり銃や大砲や戦車など知らないフレンズたちには、どうもうまく理解してもらえない。ケガした本人のハイラックスも、うまく説明できない。

 

「あの、ヒカリさんは、フレンズさんに上手く説明できます……? ほら、サバンナの動物のたとえ話とかで……」

 私は胸ポケットに入れたL型ライトのラッキービーストに尋ねる。

 

『ソノ命令ハ 難易度 高イネ。高性能ナAIノ ぼくデモ、比喩ヤ類推ハ 苦手ダヨ』

「ヒカリさんでも苦手なことがあるんですねー。それはロボだから……? いえ、でもこうして流暢にお話ししてると、ぜんぜん機械とは思えないけどなー(声だけメカっぽいけど)」

『ソレニネ、ぼくニハ、専門ノ「動物解説ソフト」ガ いんすとーるサレテ無イカラネ。ソウイウ「動物解説」ハ、ぼくジャナクテ 飼育員さんヤ 「ぱーくがいど・ろぼっと」ノ 業務ダヨ』

「う~ん、それは困ったなぁ……」

 

 そこへ!

 

「そーいうお困りの時はぁ~わたくしぃ~っっ!」

 ヘビクイワシが斜め45度ぐらいの勢いで飛び出してきた。

「わ! びっくりした!」

 

「さばんなちほーの『せんせい』であるこのヘビクイワシの出番でありましょうッ! 今のお話、わたくしが代わってお話ししますっ!」

「そ、それじゃ、よろしくお願いします!」

 彼女にフレンズたちへの解説を頼むことにする。

 

 

 

 そして!

 

「さあ、おべんきょうの時間ですよ~! みんな、今日は元気かな~?」

 ……ヘビクイワシは、教育番組のお姉さんのようなパフォーマンスを始めた。

 

「ハーイ!」

「我も元気である」

「うみゃみゃー!」

「キリンは昼も夜も元気よ!」

 フレンズたちも慣れたノリで返す。

 

ハイラックス(わたし)も元気ぃ~!」

『人工知能:正常。末端センサー:刺激無シ。運動機能:最悪。体ハ無イケド、ぼくモ元気ダヨ』

「あなたがたは元気とは言えないでしょ」

「そういえば~」

『言ワレテミタラ ソウダネ』

 

「よしっ! まずはみんなで頭の良くなる『鳥さん体操』を――」

「あの、ヘビクイワシさん、今回はそういう前置きは省略でお願いします」

「え? こういう時こそ、頭が良くなる体操が必要では?」

「いえ、気持ちは分かりますが、ここは巻きでお願いします。体操は後ほど」

「そうですか~……しょうがないですねえ……」

 今にも踊り出しそうな勢いのポーズ*18のヘビクイワシを私はなんとか説得すると……彼女は「くえぇーッ!」と咳払いして声を整えてから、満月夜の青空教室で()()()()()()()を始める。

 

「みなさん! サバクツノトカゲ*19って知ってます? 怖くなると、目から血の涙をビュルルーっと! 同じようなことをする、ネズミみたいなセルリアン*20もいますよ!」

 この質問に対し、フレンズたちの反応は「知ってる」と「ぜんぜんわからん」の声が半々くらい。

 

「……じゃあ、クジラ! クジラは鼻が頭の上にあって、鼻水をズビビーっと! ……知らない子もいますか……。じゃ、さばくのラクダや、こうざんのアルパカのツバ吐き! 知りませんか……? では、ゾウ! ゾウのみずでっぽう! 長い鼻で水を吸って……ドバババーっ!!」

 こっちの説明に対しては、「なるほど!」「かんぜんにりかいした!」「わかる」という納得の声があがる。

 

 この「さいばん」に集まった面子(フレンズ)は、サバンナやジャングル出身の子たちなので、ゾウには馴染み深いのだろう。……でもちょっと雑な説明じゃないかなぁ……?

 

「セルリアンのあれは、『すっごく強いみずでっぽう』なのでありましょうっ!」

 

 彼女は説明を続け、うん、うん、と頷いて納得するフレンズ達。

 銃は知らないが、「てっぽう*21」がどういうものは知っているらしい……。

 

「いえ、水鉄砲というかぁ~……言うなれば、『火山の噴火』の小さいヤツかな~?」

 と私が言うと、ざわめき出すフレンズたち。

 

「なぬ!? かざん!!でありますか!?」

「『かざんのふんか』をあやつる!! このキリン(わたし)のたぐいまれなる記憶力によると……それはまさに『かばんさん』の習性のひとつ!!」

「そいじゃあハナコ、アナタやっぱりひとなのかしら……」

 

 フレンズたちがとても驚いた顔をしている……。

 

 あの例のカバンサンも、銃火器を使っていたらしい……。やはり()は、パークの警備員や軍人かなにかであったのだろう。

 

 

 

 というわけで、納得した顔のフレンズたち!

 

 ……しかし、けっこう大雑把な説明*22なんだけど、ホント分かってるのぉ~、みんな……?

 

「あぁ~っ! ひとつのことを、こうしてみんなで理解ッ! 『ことば』とは、ほんとうにスバラシイ『はつめい』でありましょう~っ!」

 

 こうしてフレンズたちも、あの危険なセルリアンの性質がだんだんと分かってきたが……。

 

 さて、ヤツと戦うか逃げるか……。

 どちらにしても、犠牲者が出るかもしれない……動物、フレンズの別を問わずに……。

 

 フレンズらの瞳に「理解の光」が灯ったのもつかの間……焦燥、不安、恐怖、怒り、暗い感情に変化していく。

 

 ざわめくフレンズ達を代表するように、ヘビクイワシが改まった調子で私に語りかけてきた。

「あの、ハナコさん……。やはり貴女は『ヒト』かもしれないと、わたくし思います。セルリアンを、ああやって『かんさつ』して、『ことば』で説明して……というのは、ヒトの習性でありましょう」

 

「うむ。すなわち、お主は『かばんさん』と同じ『ヒトのフレンズ』なのやもしれぬ……。かばんさんも、そして『動物のヒト』もみな、フレンズたちを率いてセルリアンと戦ったと、我はそう聞くが……。ハナコ、お主も()()()()()()()なのか?」

 バーバリライオンが言う。

 

「……あの、ところで私たち、さっきまで『裁判』をしていましたよね……」

 その質問に対して、私はワザと話題を変えて言った。

「……なぜ、今そんな話を?」

 バーバリライオンの当然の疑問。

 

「あなたたち、『しけいにする』とかなんとか言って……さんざんおどかしてくれましたね?」

 私は、カラカルやキリンたちに向きなおって言った。

 

「……もしかしてハナコ、怒っちゃってる……?」

()()()()()()()()のは、ヒトの裁判のルールだと聞いてたからね! ……もしかして、違うの……?」

 カラカルとキリンが瞳に暗い表情を覗かせる。

 

「いえ、そうじゃないです。あなたたち、フレンズさんのことは……こうして話したりして、よく分かってきた……つもりだし」

「それじゃあ、なんで……?」

 

「……私は()()()()()をしたい」

「え?」

 

「つまり私の『いい考え』で、()()()()()()()()()()()()()()せれば……! それで、さっきの裁判でみんながやりたがってた『ヒトの証明(あかし)』……ってコトでどうかな?って思って」

「そ、それって、つまり……ハナコ!」

 

「……そうっ! これから私の作戦で、セルリアンをやっつけてやる!」

 そう言うと、フレンズたちが嬉しそうな声をあげる。

 

「……にゃははは、もうっ! いじわるねっ! ヒトは話が長いんだから!」

 カラカルが自分の服を舐めながら*23言った。

 

「あなた、そういうまわりくどいところ……! 名探偵の素質があるわねっ!」

 キリンも嬉しそうに言った。

 

「さ、さすがハナコさんっ! アードウルフ(わたし)を助けたときみたいに、さくせんを作ってくれるんですねっ!」」

 アードウルフも目を輝かせている。

 

「『ヒト』は……とくにハナコさんは、すっごく強い『ヒト』だから……アイツを倒せるんですねっ!」

「それは違いますよ、アードウルフさん。私のチカラだけを考えて言ってるんじゃない。すっごく強い仲間たち(フレンズ)もふくめた、とっておきの作戦です……」

 

 私は続けた。

「私には『カバンサン』みたいな『英雄』じみたチカラもワザもないけれど……」

 

「あ~、それは、たしかにな~」

「背も低いし、腕も脚も細いから、かばんさんとは大違いね」

「ついでにハナコさんはおっぱいも小さいですよねー」

 カラカルとキリンとアードウルフがツッコミを入れる。

 

「おいっ! 茶化さないでくださいっ! マジメに言ってるんだからっ!」

 

 ……気を取り直して私は続けた。

「……残念ながら私はカバンサンじゃない。でも、私はもちろん、みんなを助けたいと思ってる! これが私の正直な気持ちです! 私は弱い生き物で、独りじゃ何もできないけど……だから、アイツを倒すために、みんな力を貸してほしい!」

「うにゃあ!」

「やろうよ!」

「ぱおーん!」

「みんなでチカラをあわせよう!」

「パッカァーンとアイツをやっつけちゃおう!」

『ぼくハ ハナコノ指揮ニ イツデモ従ウヨ』

 フレンズたちの瞳に「反撃の光」が灯る!

 

 

 

「ふふふ……。ハナコ、アンタ……助けてほしいなら……そうならそうと、はっきり言いなさいよねッ! 回りくどい言い方しなくても、もちろん助けてあげるのに決まってるじゃない!」

「あ、ゴメン、カラカル。……う~ん、もしかして、ちょっといじけたかな?」

 

「いや! おもしろくなってきたわね、って! ヒトって、いろんなことをするし、いろんなことを話すのね、って思って。ま、アンタが()()()()()()()()()は、まだはっきり分からないんだけどね」

「よし! じゃ! 今から()()()()()()()()()()()()から!」

「そりゃあ楽しみね! おもしろい! おもしろい!」

 

 

「安心して。セルリアンは大丈夫、絶対何とかする!」

 最後に、私はフレンズたちに……そして自分自身に……言い聞かせるようにそう言った。

 

「ふふふ……! ハナコ、頼りにしてるわよ!」

 カラカルが笑って言った。

 

「私を頼ってくれるのは……うれしいけど……それは、やっぱり私が『ヒト』だから? たしか前に、カラカルそう言ってたでしょ?」

 

「え? イヤ、そんな理由じゃないわよ。アンタがヒトなのかどうか……()()()()()()()()()は、今もよく分からないけれどぉ~……」

 

 彼女は一呼吸おいてから、話を続ける。

「でもセルリアンを倒したり、『さくせん』を立ててアードウルフを助けたり、ああしてハイラックスのケガを治したり……そういうのを見てきたから、だから頼りになるなって思うのよ。アタシの場合は、だけど」

「そうか……。そりゃありがたい言葉だ……」

「頼りにしてるから……! だから、あのおっかないセルリアンを、アタシたちでなんとかしようっ!」

「おうッ!」

 

 

 

 カラカル……「人を助けることが当然」のあなたは、もう忘れてるかもしれないけど……生まれてすぐ死んでいくはずだった私を、助けてくれたのは、あなただ……。

 

 今こそ、その「お返し」をしなければ……生きている甲斐が無い!

 一度無くした命、あなたやフレンズのために使いたいと思ってる……!

 

 さあ、ここが正念場!

 漢の命の捨てどころ!(男じゃないが)

*1
【L型ライト】アウトドアの定番、棒状の本体に垂直に光源部分がついた懐中電灯(フラッシュライト)だ。手に持つだけでなく、平坦な場所に置いたり、付属するクリップで衣服のポケットやベルトに固定することもできる。この形状の懐中電灯は第二次世界大戦の頃から米軍に使われているそうだ。このジャパリパークタイプのヒョウ柄迷彩ライトは小型軽量だがLED・赤外線・エレクトロルミネセンスと光源を切り替え可能な優れものだ。光量や角度の調節も可能で、光源部分をクルッと回転させたり引き出したりして、一般的な棒型ライトの形や、360度を照らせるランタンの形にもできる。強度も高いので警棒やクボタンのように打撃武器として使えるぞ。さらに拳銃やライフルなどの取り付け台(ピカティニー・レール)に装着可能――照明用途のほか、閃光で敵をひるませたり、赤外線モードで光量を絞って簡易レーザー照準器(サイト)としても運用できる。そして問題の彼、戦闘用のラッキービーストの「本体」は、光源付近に取り付けられており……光を向けた物体を分析したり、望遠・赤外線視・暗視装置・人間の輪郭や顔の識別…などの機能で索敵したりと、その性能を活かして所持者のサポート役として活躍していたようだが……。

*2
【大量出血】成人の体には総量4~5Lの血液が存在し、その1/3を失うと致命的である。そして、イワハイラックスの大腿動脈からの大出血は、生命力に優れるフレンズでも非常に危険な状態だ! ※出血の目安として、床や衣類の3()0()c()m()()()()()()()()が約100mLだ。出血が起こると健康な人体であれば血管が収縮し、血液中の血小板が傷口で凝固しはじめ、約3分後まず一次血栓を形成、そして5~10分経過でさらに安定性と持続性のある二次血栓が作られて止血が完了する。だが出血が多すぎる場合は、この二次血栓が形成されずに押し流されてしまうのだ。フレンズの肉体を構成する超生命物質「サンドスター」は、「保存と再現」の性質を持ち、生物の恒常性(ホメオスタシス)を強化して血液凝固作用を助ける働きがあるが……傷口で()()()()()()()()()()()性質が問題となり、体外への大量出血の場合は「ふつうの動物」と同様に命の危機なのである。※なお、念のためもう一度書いておきますが、このお話はジャパリパークを舞台とするフレンズに関するフィクションであり、本編やTIPで記述される救命医療等の知識の正確性や合法性等を作者は全く保証しませんし、本小説内の情報によって損害を(こうむ)っても責任は一切取れません。

*3
【救急処置】「医の原点」と言われる救急医療……今までの日本国内の救命講習では、このような大量出血への対処よりも「心肺蘇生法」のほうが重要視されてきたが、2019年からは止血講習が復活した。従来の「カーラーの救命曲線」の概念では大量出血は3()0()()()()()()5()0()%()とされているが、これは血液が体内に留まったまま心臓や呼吸が機能し続けることを想定しており、戦場や事故現場、テロ現場などで致命傷を負って、急激かつ大量に失血して生命維持機能が低下する緊急事態には当てはまらない。銃砲や爆弾などによる重傷を負った人間は3()0()()()()()()()()と言われている。こんな短い時間では、戦場の前線では衛生兵(メディック)を呼ぶことはできない(というか小隊にひとりしかいない貴重な衛生兵は、攻撃の届かない所で治療するものであり、昔の戦争映画のように銃弾をかいくぐって負傷者を救護することはない)し、街中でも救急車や近所の医者が来ることすらかなわない。つまりこういった重傷は、そばの人間や負傷者自身が即時、救命処置を行うしかない。たとえば、手足にライフル弾を受けると()()()()()()()5()0()%()にも達するが、すぐ適切な止血ができれば90%は失血死を回避できるという。()()()()()()()()を待ってるヒマなどなく、自分や仲間の命は自分自身で救うしかない! なお作中では、まずケガの評価をしてから止血処置を行っているが……アメリカ軍では「30秒で安全な場所に退避+60秒で止血帯を取り出す+15秒で使用」と、2分以内に完全なマニュアル対応で止血を行うよう訓練されている。

*4
爆傷(ばくしょう)】爆発による損傷(ダメージ)のこと。医学用語では「(そう)」は皮膚表面の損傷(切創・銃創など)を指し、「(しょう)」は体内の損傷(打撲傷・脳挫傷など)を指す。※この小説内ではあまり区別されていません。爆発物による負傷では、体内への衝撃ダメージのほうが致命的になりやすいために爆「傷」表記となる。では、一般的な爆発物の威力についてだが……銃の場合は、例えば大腿部の動脈・静脈をライフル弾(速いものは弾速約1,000m/s)で損傷すると1分で50%が死亡・3分でほぼ100%死亡する致命傷だが……爆発物の場合、秒速数千mの超高速で破片が爆散するため、ボディアーマーなしで近距離で直撃すれば、ライフル弾の()()()()()()となる! なお「爆発」には「爆燃」と「爆轟」の2種類がある。前者は()()による燃焼速度の遅い爆発で、衝撃波が発生しないために威力は比較的低い。対して()()が燃焼する「爆轟(高速爆轟)」は音速(約340m/s)を遥かに超える3,000~9,000m/sの膨張速度(炎の伝播する速度)により、衝撃波(ショックウェーブ)を伴い、時には数百m~数kmの広い範囲に被害をもたらす――例えば、2018年の札幌でのガス爆発事故では「爆轟」が発生して、爆発音は20km先にも届き、時速約1,200kmの衝撃波が発生したと言われている。……しかしこういった知識は、平和な日本では無用の雑学……というわけでもなく、爆発物が本当に簡単に製造できることは一般常識レベルで有名であり、また前述のとおり燃料などの爆発事故もあり、むしろ銃器よりも爆発の被害にあう可能性のほうが大きい。事故やテロ被害に備えて正確な知識を身につけておきたいところ。

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止血帯(ターニケット)(その1)】心肺停止への処置器具であるAEDに対して、上腕・大腿から先の()()()()()()()に対する医療品が「止血帯」だ。現代の戦争やテロでは自動小銃やIED(即席爆発装置、米軍通称:車爆弾(カーボム))の高性能化が進んでいるし……テロや戦争とは(海外と比べれば)幸いにも縁の薄い平和な現代日本でも、手足に大怪我を負う事故や災害時には止血帯が必須となる。19世紀の南北戦争以来、兵士のカルテを永久保存しているアメリカ軍によると、ベトナム戦争の死者数約5万8千人の約6割が「四肢からの出血死」であったが、その後の止血帯の支給と止血法教育の普及により、1/5の割合の12%まで減少したというデータがある。現代の米軍においては1人2本以上の止血帯を、取り出しやすい位置の左右ポケットに分散携行することが義務付けられている。一つの重傷に対して2本使う場合もあって、一人の負傷に対しては平均して2.25本の止血帯を使うという統計結果になっている。ところで止血帯は重い後遺症が残る可能性があり、「善きサマリア人の法」が導入されていない日本の場合、医療従事者でない者が使ったら医師法(第17条)違反にならないの?と思えるけれど……消防庁や厚生労働省によると「緊急事態」で「使用者が止血帯講習を受けて知識がある」場合は、使用が完全に合法であるということだ。

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【止血帯(その2)】かつては「悪魔の器具」と呼ばれた止血帯は、使い方を誤れば重篤な障害が残ってしまう。出血の95%は「直接圧迫止血法」(※第0章のTIP参照)で止血できると言われるが、それでは救命できない致命的な四肢の出血に対しては、「止血帯止血法」(旧名:緊縛止血法)が必須となる。統計的に見ても止血帯は効果がとても高く、アメリカの対テロ戦争において、激戦となったイラク・ファルージャの戦闘(2004年)以降、米軍で止血帯の支給+使用法教育がされるようになってから、四肢出血での死亡率が26%→10%と激減したという結果がある。そうして止血帯はアメリカの救急車の標準備品にもなったが、実はあまり有用とは言えない――救急車は()()()()()()()()()()ため、止血帯を要するほどの重傷者は()()()()()()()()()()()()()()からである。それよりも、作中のようなロープや三角巾・衣服などの「非認可の止血帯」が大きな効果を上げてきた。2014年のボストンマラソン爆弾テロ事件では、止血帯が使われたのが27件、その1/3のものが即席の止血帯であったという……。他にも、2012年の米国小学校銃乱射事件などの影響もあって、現在では日本含め各国で、止血帯は空港や学校などの公共施設でAEDや包帯といっしょに設置されて、使用法教育が導入されつつある。※なお医療機関や軍隊では()()()()()()()使()()()()()()()されており、作中のような即席止血帯は本来は非推奨となります。

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【ラッキービーストの指示】以下のようなもの。1.準備:血液や体内の組織に触れるから、感染症等を防ぐためまず手袋をしてね。今回は代わりに洗った「ビニール袋」を使えばいいよ(本当は消毒したいところだけど)。2.適用部位:爆傷は()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが多いから、傷のすぐそばではなく、とりあえず足の付け根に止血帯を適用しよう。3.適用法:「本結び」にした止血帯を君の腕に通してから、その手で負傷者の脚を掴んで太腿まで帯を入れていくんだ。この方法なら夜間の暗い場所でも手探りで治療できるよ。そして、止血帯は()()()()()()()()()()()て止血する原理だから、隙間に指が3本入らないくらいに、きつく締め上げないと効果がないよ。大腿部なら350mmHg(家庭用血圧計の加圧の約2倍)以上の圧力が必要だよ。4.制限時間:止血帯の使用は激痛を伴うし、後遺症を防ぐためにも、使用は20分が限界だよ。5.がんばれ!:でもフレンズの強靭な生命力なら、致命傷を止血してサンドスターの体外流出さえ食い止めれば、すぐにケガは治癒するはず……『君ナラ絶対、大丈夫! サア、ガンバッテ!』

*8
【流れた血は…】ジャパリパークのことわざ。太公望の故事に由来する「覆水盆に返らず」や、英語圏の"It is no use crying over spilt milk."(こぼしたミルクを嘆いてもムダ)と同じ意味。(ボウル)に水を入れたり、牛乳を飲むフレンズは少ないが……。だがしかし「流れた血は戻らない」の意味は、誰でも分かる。彼女らも私たちと同じ、温かい血が流れる生き物なのだから……。ところで牛乳と言えば……他の動物の乳より乳糖(ラクトース)が多く分解しにくい牛乳を、イヌやネコに与えてはダメなことは有名。これは哺乳類全般において、離乳期以降は腸内の乳糖分解酵素(ラクターゼ)が減っていき、牛乳でお腹を壊す「乳糖不耐症」になるため。だがヒトの場合は哺乳類として異例なことに、()()()()()()()()()()()()が異常に多いのが特徴。これは遺伝子が変化したためとも、牛乳が広く飲まれる食習慣のおかげとも言われている。なお、とくに北ヨーロッパの民族などは乳糖不耐症に非常になりにくいが、逆にアジア人などはお腹を壊しやすい人の割合が多い……これは人種・民族・牧畜習慣などが関係しているようだ。で本題だが、動物が「ヒト化」したフレンズの場合は、上述の「ヒト全体としての牛乳耐性」を受け継いでいるのだが、乳製品そのものがこの荒廃したパークではレアで飲む機会が少ないのであまり意味がない。ちなみにフレンズの主食(ごはん!)である「ジャパリまん」には、自給生産性と倫理面の理由により牛乳由来の成分は含まれていない。

*9
【時間ガ出来タ】(死ぬまでの)時間ができた、ということ。言い方こそアレだが、最近の救急医療ではこういうbuy the time(時間を稼ぐ)という概念が一般的になってきている。日本の救命講習でよく用いられる前述の「カーラーの曲線」は、黄金の1時間(ゴールデン・アワー)プラチナの10分間(プラチナム・テンミニッツ)など、時間の概念を分かりやすく伝えるものだが……計算式が不明瞭・出血量を考慮していない・実は医学的根拠は不明、などの欠点があり、現場では実用レベルではないとされている。そういう「~分以内に!」の概念よりも、「~分の時間を稼ぐ!」というのが現代的な救命医療の考え方。2000年代以降に欧米で多発するテロに対しては、従来の救命方法では同時多発する負傷者全員に対応できないため、軍隊式の「数をこなす」救命戦術が平時の救急医療にも導入されたわけである。

*10
【ひっぱって】普通の救助活動とは違い、今は高い姿勢でハイラックスを搬送するのは危険すぎる! セルリアンに見つかれば、また砲撃の餌食になるかもしれない! そこで、以下のラッキービーストの指示……。手順1:自分の着ていたポンチョ(一枚布のコート)を広げて「布の担架」を作り、その穴金具(ハトメ)にロープを通して、輪を作っておく。手順2:搬送者は仰向け状態になり、負傷者の脇の下に後ろから両脚を差し込み()()()()()()()()「担架」に載せる。手順3:搬送者は匍匐(ほふく)状態になり、ロープを肩で引っ張って負傷者の載った担架を引きずっていく。くるまの牽引や船の曳航みたいな要領で、遮蔽物に身を隠ながらの匍匐搬送法だ。全身の筋肉を使って引っ張れるため、小柄な人間でも大柄な負傷者を運ぶことができる。また搬送者は両手が空くので、銃を使ったりなど別作業ができるのも利点。敵さんの例の「潜行弾」は非常に怖いが……このように隠蔽(いんぺい)して移動すれば、向こうも砲撃を的確に当てることは容易ではないだろう。

*11
【粘液】イワハイラックスの粘液は動物のそれよりさらに便利で、自分の意志で粘着力を調整できる優れもの。全くの別物だが、「ナメクジの粘液」の性質に似ているかもしれない。農家さんやご家庭のガーデニングでの嫌われもの、あのナメクジの分泌する粘液には滑り止め成分が含まれており、雨で濡れた垂直な壁でも昇り降りできる。また粘液をロープのようにして高所から降りることもできる……お次はターザンときたわ! しかも粘液には抗菌力があってとても衛生的なのだ。そして大ピンチの時には、めったなことでは剥がれない超強力粘液を大量に出して捕食者を攻撃するという……。このナメクジ粘液の性質をヒントに研究中の、医療用「ナメクジ接着剤」は、既存の医療用接着剤の3倍の接着力を持ち、濡れたものでもくっつき、そして人体に無害で、術後に体内で分解させることもできる! まさに心臓などの内臓の手術へピッタリなのだ! 長らく「嫌われもので役に立たずの不快な農業害虫」と人間に思われていたナメクジに、こんなすごいヒミツがあったなんて……よく言われる「生物多様性を保ちましょう」というセリフは、たんなる生物学者のキレイゴトではなく、実際に我々人類の進歩と繁栄のためでもあるのです。他にもナメクジさんはなぁ、ビールと発泡酒の臭いを区別したり、脳が傷ついても再生したりなどと、色々とスゴイのだぞ! なお、さばんなちほーに棲息する超大型のナメクジ「サバンナシマシマオオナメクジ」からは大量の粘液が採取でき、かつてパークにいた研究者がそれを集めて、強力接着剤を実験開発していたとかしてなかったとか……。

*12
【ガーゼや包帯で止血】フレンズたちの衣服(彼女たちは毛皮や羽毛と呼ぶもの)を、フレンズのツメや黒曜石のナイフで裂いて、ガーゼや包帯状にしたものを巻いて治療。イワハイラックスは、もとの動物はウマ類やゾウ類に近縁と考えられているので……アレルギー反応を最少にするため、今回はシマウマやゾウのフレンズの服の布地を使用している。フレンズの衣服に含まれるサンドスターには止血効果があり、ただ巻くだけでも、軍用のエマージェンシーバンデージ(イスラエルバンデージ)や包帯状止血剤(コンバットガーゼ)(クイッククロットやセロックスなど)以上の治療効果がある。ちなみにガーゼや包帯による「直接圧迫止血法」とは、止血帯のように圧力により血流を止めているのではなく、布という「異物」を傷口に強く接触させて負傷者の自然治癒を促進するものだ。そのため傷口表面を押さえるだけでは効果が薄い。痛々しいが、()()()()()()()()()()り、()()()()()()()()()()()()()()()()して、患部に「詰め物」と「圧迫」を施し、内部の体組織が異物に最大面積で接触するように処置している。

*13
【結束バンドや接着剤で治療】四肢や胴体の軽傷には、ハイラックスの手足の裏の粘液を「接着剤」として、結束バンドを接着させて締めたり、傷口を直接くっつけるという治療法がとられた。ちなみに結束バンドをキズに貼り付ける『ZipStitch』なる救急キットは実在し、傷口の皮膚をピタッと直接くっつけるので、通常の縫合より傷跡も残りにくいそうだ。またシアノアクリレート系接着剤(アロンアルフアなど)が、医療用にも使用されることを考えれば、直接キズをくっつけるのが効果的なのも納得のいく話だ。※注意:医療用でない結束バンドや接着剤を治療に使うのは危険ですので真似しないでね。工作用の接着剤には()()()()()()()()()()も含まれている可能性がありますし、CA系接着剤は綿()()()()などに貼りつくと急激に1()0()0()()()()()()()()して危険なのです。似たような医療品としては液体絆創膏なんかがあるので、そういう専用のモノを使ってネ。

*14
【アリの大アゴで縫合】その辺で捕まえてきたアリに傷口を噛み付かせて閉じる――要は、医療用スキンステープラー(ホッチキス)と同じ原理だ。大きなアゴを持ち、一度噛んだら離さない攻撃的な兵隊アリのなかま(グンタイアリやサスライアリ)が使われる。アフリカや中南米などの熱帯ちほーで実際にある治療方法で、紀元前1000年前のヒンドゥー教の文献にも記述があるという。メル・ギブソン主演のマヤ文明が舞台の映画『アポカリプト』でも同様の治療シーンがある。

*15
【楽な姿勢】負傷した側を下にして横向きにさせ、上側の片脚を直角に曲げて仰向けにならないようにする「回復体位」という姿勢。横向きにさせることで、意識を失って舌が落ちたり嘔吐物が詰まるのを防ぐ。また、兵士や警官などボディアーマーを装着している場合はその重量を逃がせるのでとくに有効となる。

*16
【経口補水液(ORS)の粉末】食塩・ブドウ糖・クエン酸などの混合された、水に溶かして飲む粉末ジュース。経口補水液は水1Lに対して塩約3g(ひとつまみ)と砂糖約40g(ひとつかみ)の割合で、ふつうのスポーツドリンクよりも塩分が多めだ。発展途上国の病院や戦地では輸血は難しいので、こういった長期保存しやすい経口補水液での治療がとても有効。小腸経由で電解質とともに水分を通常の水の25倍という速さで吸収させて、体内で血を作らせて循環血液量を増加させる効果がある。ちなみにこの粉ジュースは「さばんな駄菓子屋」の店主からもらったものらしい……。彼女はなぜか名古屋弁を話すロバのフレンズで、じゃぱり商人組合(ギルド)に所属する「行商フレンズ」である。

*17
【すごくかっこいいロボット】彼女の今の「脳内イメージ」がどんなものなのかは、読者のご想像におまかせします。しかし、これはおそらく、世代や個人の嗜好によってその想像図は十人十色に分かれそうです。……あなたの思う「すごくかっこいいロボット」は、どんなロボット?

*18
【今にも踊り出しそうな勢いのポーズ】ヘビクイワシ、舞踏のポーズ。ヘビクイワシは求愛の際にダンスを踊ることが知られているが、1羽だけの時でも(その目的は不明だが)華麗に踊る姿が目撃されている。そして彼女ヘビクイワシのフレンズも、テンションが高くなると、クラシックバレエとも武術の演舞とも似たダンスを踊る習性がある。美形のお姉さんが宝塚のごとく喋りながら華麗に踊る光景はちょっとシュール。

*19
【サバクツノトカゲ】イグアナ科ツノトカゲ属サバクツノトカゲ(Phrynosoma platyrhinos)。カナダ南部、アメリカ西部、メキシコ、グアテマラにかけての砂漠地帯に生息する全長10cm前後の小型の爬虫類。本種は頭から体へと戻る血流を首の筋肉で締めて止め、顔面の血圧を高めて、眼の毛細血管を破裂させて涙腺から()()()()()()()。この「血の涙ビーム」の射程は1~2mにおよび、約10回まで連続発射できる! さらに飛ぶタイミングや方向を制御でき、左右の目で撃ち分け可能! しかもオオカミやコヨーテなどの捕食者が嫌う成分が含まれているぞ! しかしこれ、最大で体内の全血液を1/3の量を放出してしまうワザ。数日で血液量が元通り回復するとはいえ、獲物の少ない砂漠では体力を回復できすに衰弱死してしまうこともあるとか……。まさに最後の防衛手段だ! この奇妙なトカゲはジャパリパークにも生息していて、「さばくちほ~」というエリアで見ることができる。

*20
【ネズミみたいなセルリアン】「注射器型セルリアン」のこと。第2章2~3話に登場。ソーセージ形の胴体に、手術器具のような大顎の中には注射針状の隠し顎、トビネズミのような長い脚を備えた、吸血とジャンプが得意なにくいやつ。一列になって前の個体のお尻にかみついて、数珠つなぎになって移動したり、ムチのようにしなって攻撃するという変な習性がある。

*21
【てっぽう】フレンズ用語。「遠くへ素早く飛ぶもの」の意味。

*22
【大雑把な説明】確かに正確な解説ではないのだが……簡潔で分かりやすいたとえ話だ。こういう緊急時には、正確さよりも()()が求められる場合があるから、まあ、そういうことで……。ちなみにヘビクイワシが言ったツノトカゲ・クジラ・ラクダ科の反芻動物・ゾウの話は()()()()()()()()()するという点で共通しており……サル類が石や果物などを投げる「投擲」や、ヒゲワシやエジプトハゲワシが石や獲物を掴んで落とす「投下物」とは、ちがう現象だと、彼女はきちんと区別して理解していることが分かる。

*23
【自分の服を舐めながら】ネコで言うところの毛繕い(グルーミング)。動物にもフレンズにも「転位行動」というものがあり、これは何らかの葛藤があるときにする一見意味不明な行動のこと。カラカルの毛繕いは「な、なんだ、びっくりしたなぁ~もう」の照れ隠しであるし……ハナコの遠回しな表現も「大好きなあなたたちフレンズのために、わたしは戦いたい!」と、はっきり言うのが最初恥ずかしかったからという、こっちも照れ隠しである。直球な言動をする「いぬてき」なフレンズさんが多い中で、カラカルとハナコは「素直じゃない」のが共通点だ。つまり彼女らふたりは「ねこてき」なのです。(実際ひとりは本当にネコだし)




【参考資料】

◆L型 フラッシュライト。 のんびりと行こう。
https://ameblo.jp/m1918a2/entry-12404853790.html

◆パイル二等兵の露営日記 米軍L型ライト
https://privatepyle.naturum.ne.jp/e965772.html

◆『イラストでまなぶ! 戦闘外傷救護 -COMBAT FIRST AID- 増補改訂版』照井資規/ホビージャパン/2020

◆「はんぱない」止血器具の半端なく危険な勘違い TACMEDAブログ~有事医療を考える~
http://blog.livedoor.jp/speranza_raggio-ranger_medic/archives/1076013657.html

◆現在の救命の尺度とは~世界が挑戦 市民への統合型救命教育~2 NEXT MEDIA Japan In-depth
https://japan-indepth.jp/?p=44236

◆TACMEDA 資料(※閲覧注意。凄惨な銃創のカラー写真あり)
 銃創の恐ろしさと基礎知識(※閲覧注意)
 止血帯による出血制御が可能な部位
 戦死・戦傷死の減少と防ぎえた戦死原因の変化
 致命的外傷とカーラー曲線との比較
http://tacmeda.com/dl1.html

◆日本では導入されていない「善きサマリア人の法」とはどんな法律なのか? - シェアしたくなる法律相談所
https://lmedia.jp/2015/07/07/65772/

◆関西エアポート、テロ・災害時等の対策で止血帯「ターニケット」を関西国際空港内に導入 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP515212_U9A720C1000000/

◆止血帯 Combat Application Tourniquet; CAT 説明書の日本語化 Pseudo技術研究所
http://pseudo-trdi.jugem.jp/?eid=349

◆ペットのために知っておきたい! なぜ牛乳を飲ませると下痢するの?【栄養学】|ペットライフ|獣医師や動物看護師が贈るペットコラム
http://www.petjpr.com/column/news-bin/Detail.cgi?rgst=00000392&CatgM=2

◆ナメクジの粘液から内臓の止血を行う強力な接着剤が開発される(米研究) カラパイア
http://karapaia.com/archives/52243421.html

◆傷口を塞ぐためのナメクジの粘液をヒントにした新種の外科用接着剤 EurekAlert! Science News
https://eurekalert.org/pub_releases_ml/2017-07/aaft-5_1072417.php

◆米軍も採用、最強の“イスラエル包帯” Narinari.com
https://www.narinari.com/Nd/20171046430.html

◆イスラエル包帯 Erastic Bandage, Israeli bandage; ETB 使用法の日本語化 Pseudo技術研究所
http://pseudo-trdi.jugem.jp/?eid=351

◆コンバットガーゼ Combat Gauze 止血剤付きガーゼ Pseudo技術研究所
http://pseudo-trdi.jugem.jp/?eid=350

◆貼るだけ簡単。怪我の手当てに役立つ緊急縫合キット「ZipStitch」
https://sakidori.co/article/356553

◆パクっと開いた傷を閉じる救急ツール。縫合レベルでも自分で対処できる ライフハッカー
https://www.lifehacker.jp/2019/05/lht-zip-stitch.html

◆強力瞬間接着剤が「接着剤」の域を超えて核兵器の組み立てや兵士の治療に役立ってきたという話 - ライブドアニュース
https://news.livedoor.com/article/detail/10896142/

◆ちょっとした切り傷には「瞬間接着剤」が効く。アメリカ軍のお墨付き ライフハッカー
https://www.lifehacker.jp/2019/01/instant-glue-is-good-for-cut.html

◆「傷口に瞬間接着剤」の人体実験 意外と死ねちゃう家庭の化学 code-G
https://code-g.jp/chemistry/113170524-015.php

◆アリは有能な外科医。アリを使って傷口を縫い合わせる施術 カラパイア
http://karapaia.com/archives/52194114.html

◆経口補水液の作り方 かくれ脱水JOURNAL
https://www.kakuredassui.jp/stop/knowledge/care/care06

◆ヘビクイワシのダンス その2 東アフリカ とりぐらし
https://ameblo.jp/satwata/entry-11755158992.html

◆血の涙で攻撃! ツノトカゲ、驚異の護身術 ナショナルジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/061700225/

◆ツノトカゲ ナショナルジオグラフィック動物大図鑑
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141218/429007/

◆サバクツノトカゲの目に要注意! ナショナルジオグラフィックTV
https://twitter.com/natgeotv_jp/status/1133976332096774144

◆サバクツノトカゲ・防御手段3段階! 川崎悟司 オフィシャルブログ 古世界の住人
https://ameblo.jp/oldworld/entry-10159703839.html

◆「目からビーム!トカゲの仰天護身術」 - ダーウィンが来た!・選 - NHK
https://www.nhk.jp/p/ts/96XM1R4PQR/episode/te/ZP6WLNZW71/

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