けもののきろく(第2版)   作:大きさの概念

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あらすじ:あなたハナコ! ここジャパリパーク! あいつセルリアン! アタシカラカル!
  目標:カラカルの助言に従い「村」へ向かえ。

 現在地:さばんなちほー中央部/熱帯大草原地域/けものみち
 時間帯:昼

近接武器:先割れスプーン/ブラックジャック
 所持品:ガラスのかけら

 同行者:カラカル

 ヒント:世界が優しくはないことは、その住人も同様であることを必ずしも意味しない。


Chapter 1-1:サバンナのルール
第1話 英雄カバンサンの伝説


 未知の世界にひとり生まれた、未知の私の名前は「ハナコ」に決定した。

 現地の住人のカラカルと私は「避難所」を出発して、フレンズ達の「大きな村」へと向かう。

 

 鉛筆でメモ帳に、気になる事を書き留めていこう……。

 カラカル、セルリアン、ジャパリパーク、サバンナ地方、サンドスター……。

 

 それはただ単に、自身の喪失した記憶の手掛かりを探るプロセスというだけではなく、「手記」という物質的な形にすることで――後に残る()()という、確かな証拠を積み重ねていくことで――この何も分からぬ世界で、精神的な安心感を得ようとする作業でもあるのだ。

 

 

 

 カラカルと一緒に昼下がりの熱帯草原を歩き続ける。

 

 真昼を数時間過ぎて、太陽光による地熱の放射が一番激しい時間帯を過ぎた。

 

 しかしまだまだ乾季らしきサバンナ*1は熱く、埃っぽく、そして乾燥していた……。

 

 熱中症には気を付けて、木陰や岩場の陰で休憩しながら、歩きやすいルートを構築して進む。

 

 道中の観察で特筆すべきは、カラカルのジャンプ力ぅ……ですかねぇ……。

 時折彼女は木の上に跳び上がって、周囲の地形の確認や、野生動物や、異形の怪物「セルリアン」を警戒してくれる。

 数mは軽くひとっ飛びの、すさまじき跳躍。人間、過酷な環境で鍛えればああいう芸当もできるのか……!?

 

 水筒に()んだ水道水を飲んで、適度に水分補給しておく。水分不足には注意だ。

 カラカルにも分けて上げると、ぺちゃぺちゃと舌をすすって猫のように飲んでいた。

 

 

 

 移動中もずっと空と木の影を観察していたのだが、太陽が時計回りに動いている*2

 つまり、この「ジャパリパーク」は北半球に位置しているということになる!

 

 

 

 さっきの「避難所」の洗面台の水の渦の回り方*3は……全然アテにならないか。

 

 それよりも、日が落ちたら星を観察したいな。もしここが日本から離れていれば、変わった星座*4が見られるはずだ……。

 

 

 私たちは西に向かっていますね、目的地まであと何kmくらいですか? と私が尋ねると、カラカルは「にし」とか「なんきろ」とかいう言葉が分からないけど、お日様の沈む方へあと少し行けば水場よ、と答えた。

 

 

 

 この土地に慣れていれば動物やセルリアンがさほど恐ろしくないのも納得できるが、それにしても、彼女は恐怖心や警戒心が乏しそうに……というか、やたらに嬉しそう、機嫌が良さそうに見える。

 

 怪訝に思い、何故かと理由を尋ねたら「面白そうな子を見つけたからね」と、子どもが珍しい昆虫でも発見したかのように言った……。

「面白そうな子」ってやっぱり私のことだよな~……。

 

 カラカルが木陰の草むらにうつ伏せになり、腕立て伏せをする姿勢のように両腕を伸ばした。……肩甲骨や背骨、股関節の凄まじい柔軟性。

 

 やっぱりすごく猫っぽいぞ、この人~!?

 

「ハナコはやっぱり面白いわよ。自分のことは何一つ分からないのに、他のことは色々知ってるなんて」

 

 ハナコ……と、先ほど決定した仮名(かめい)で呼びかけられて一瞬戸惑ったが、彼女の疑問はもっともである。むしろ、当人である私が一番不思議に感じているのだ。

 

 私の記憶喪失は、目覚める以前の「自分」に関する記憶が完全に抜け落ちているという症状……。

 

 人の記憶を、ひとつの「本棚」に例えるならば、私の記憶の本棚には、一般的な知識――動物図鑑やドキュメンタリー番組のビデオなどは存在する。しかし、日記や写真アルバムなどの「個人の記録」が抜き取られている……。

 

 いや、無くなってしまったわけではなくて、何らかの理由によって「隠されていて」思い出せないだけなのでは? ……そうだとしたら、今後()()()()()()()()()()()のだろうか……。

 

「なんで、思い出せないんでしょうか……? 他の色々なことは覚えているのに……」

「さあ? ただ単に、思い出したくないから、とかじゃない? なんかイヤなことでもあったんじゃないの? アンタ、ツメもツノもキバもなくて弱そうだし、イジめられたとか~?」

 

 カラカルは冗談めいた口調で言う。……私自身が()()()()()()()()()()……。

 意外と事実は、案外そんな単純明快な理由かもしれない。

 

 

 

 道中で、一体のセルリアンに出会った。

 

 極彩色の、大きくて角ばった不気味な物体……大型車両ぐらいの大きさの、公園の遊具のような、まるっこいもの……が横倒しになっている。

 かと思ったら、下から蹄の有る脚(厚底のブーツを履いた人間の脚にも見える)が何十本と出てきて、そのままぞろぞろと、ムカデなどの多足類のような規則的な脚の動きで歩いて、動き回るのである。

 

 まるで巨大ダンゴムシ……。

 あるいは、草原を走る()()といったところか……。

 

 その上部には「眼」……戦車の球形砲塔*5のように、直径1m以上もありそうな大きな眼球が鎮座している……!?

 

「眼球」が三六〇度ぐるぐる回転しながら、「眼」がぎょろり、ぎょろりと動いて、周囲を警戒している。

 生物とも非生物ともつかない外見の、おぞましい怪物……。

 私は見るだけで私は鳥肌が立つのだが、カラカルはあまり気にしていないようだ。

 

「アイツはべつに危険じゃないよ。放っておいて、離れた所を行きましょう」

 

 ()()は草食性のセルリアンらしい。

 フレンズや動物を襲うことはまれで、いつも地面に生えている草を食べるのだという。たしかに、あの横長の瞳孔……視野は広いようだが、距離感は分かりにくそうである。

 

 前部の装甲?には、ハコガメのようなフタ構造が有って、そこが蝶番のように開いて一本の触手が出てきた。

 その触手の先端に大きな「顎」がついているが、それは以前に私を襲ったセルリアンのように犬歯があるのではない。

 前歯は無く、平たい奥歯が発達した構造を。「顎」自体も幅広で下向きについており、地面の草を食べやすい造り。

 シロサイやジュゴンなどの、下草や海底の海草*6を食べる動物の口に似ている。

 

 あれは基本的には大人しくて緩慢なセルリアンだが、怒らせたり驚かせたりすると、脚を引っ込めて突進してサイやゾウも跳ね飛ばしてしまうという。

 本気での走りはけっこう速いし、口から大きな何かを飛ばして攻撃してくる。死角へと回り込んでも、尻尾?から、細かい何かを飛び散らせて反撃もするらしい。

 

「のろまそうだからって、アイツにイタズラしないほうがいいわよ。ひどい目にあうから」

「そ、それはまるで……前にチョッカイかけたことがある*7ような口ぶりですね~……」

「よく分かるわね~」

 

 

 

 そうこうするうちに、二人目のジャパリパークの住人――「フレンズ」に遭遇した。

 

 我々が立ち寄った水場、そこで水を飲んでいる先客……だが、その飲みっぷりがまた変わっているのである。

 

 脚を大きく開いて立った状態から、両手を地面について、そのままの姿勢で首を下へ伸ばすようにして、湧き水をごくごくと飲んでいる……何故そんな苦しそうなポーズを?

 

 そして、開脚して前のめりになるその体勢だと、自然とスカートの中が露わになるではないか!? ……非常に目のやり場に困る。

 

「こんにちは、キリン*8

「むぐ……あら、ごきげんよう、カラカル」

 

 そのキリンと呼ばれたフレンズ……私やカラカルより頭一つ分以上は大きい長身……。170cm以上はあるだろうか?

 

 さらさらの金髪、パッチリとして切れ長の、知性の光を宿した青い目、長いまつ毛、首に巻いた長いマフラー(日除けや砂除け用だろう)……。

 裕福な家庭に生まれた品行方正の深窓の令嬢、といった第一印象の少女だ……。今さっきの奇行に目をつぶればの話だが。

 

 髪の毛や、学生服のような衣装には、サバンナを象徴する動物、キリンのアミメ模様の装飾が施されている。

 さらにキリン特有のツノ、タテガミ、耳、尻尾などのアクセサリー。

 

「フレンズ」は、動物をモチーフとした衣服をまとうようだが……。

 自然の風景に溶け込む、擬態目的のためと思っていたが……それとも自然のパワーを得るといった呪術的な意味合いがあるだろうのか……?

 

「こんにちは、キリン。アンタ、水飲むのにも大変ね。普通に飲めばいいのに」

 そう言うカラカルのほうは、身を屈め舌を伸ばして、ぴちゃぴちゃと猫のようにすすって水を飲んだ。

 

「やっぱり()()()()()()()()()が抜けないのよね……そちらのお連れ様はどなたかしら? この辺で見かけないお顔だけど?」

 キリン少女が私に話しかけた。その前に、何やらよく分からないことを言ったが……。

 

 

 

「どうも初めまして。私は『ハナコ』と言います」

「初めまして。私はふつうの『ただのキリン*9』よ。『ざっしゅ?』とか、『こうざつ?』とか、言うらしいけど……」

 やはりキリンは不可解な事を言う。

 

「昔はキリンも色々いた*10らしいけどね。今は、()()が言うには、キリンはみんなただのキリンなの。よろしくね」

 

 このジャパリパークでは「トーテム信仰*11」が、言語や習慣に根付いているのだろうか?

 

 彼女ら「フレンズ」の、動物を模した衣服も……動物と自分達を同一視する文化なのか……?

 

 そして、日本語の日常会話でも――私は××の動物、動物だった頃の記憶――などの、共同体の外部の人間には理解できない表現が含まれているのでは……?

 

 

 

「で、ハナコ、あなたは何の動物なの?」

 私が返答に困っていると……。

 

「それがね、キリン。ハナコは、前の記憶が全然無いんだって」

 カラカルが気を利かせて説明した。

「そうなの……アナタ、『みすてりぃー』なフレンズね……。じゃあ、私があなたの過去について推理してあげる!」

 キリンの「推理」……? 彼女は、私の過去のことを何か知っているのだろうか……?

 

 

 

 キリンは整った顔を近づけて、私を時間をかけてじっくりと眺めた。

 髪の毛がふわりと風に揺れるたびに、良い匂いがする。大きい胸が近づく……。

 

 どうしてだろう、女の子どうしなのにドキドキする。

 

 それに、自分の手入れされていない髪の毛や、ぼろぼろの汚れた地味な服が、彼女のものと比べられるようで……なんだか恥ずかしいが……。

 

 観察が終わると、キリンはしばし考え込んで……「さて*12」と言った。

 「私が真実を突き止めるまでの筋道には……三つの証拠があったのです」などと、しかつめらしい顔*13で言って、指を三本立てた。

 

「まず、第一の証拠は……あなたのあごのあたりに垂れ下がっている毛皮、それが大きなヒント……」

 私の帽子に付属してる、後頭部から口元までを覆える「日除け用の布地」のことらしい。今はボタンを締めていないので、首のあたりにぶら下がっている。

 

「第二に、体の毛皮。全身の毛がそれなりに長い……。つまり、ある程度寒いちほーに住むけものという、明らかな()()()()*14と言えるわ……」

 私は一枚の布をポンチョのようにして、日除けのために着ている。確かに、カラカルやキリンと比べると重装備だが……。

 

「そして、第三にして最も大きな証拠ォ! あなたが常に持っている、好物の『紙』ぃ!! これらの証拠をそうごうすれば、導かれる真実は一つ!! ひっきょうするに*15……()()()()()()()()()()!!」

 

 

 

「ぜ、全然違うわい!!」

 ……シャーロック・ホームズ*16が依頼人の服装からその職業を推理するような、真面目な推理を期待していたのだが……。突拍子もないことを言われたので、思わず大人げなく突っ込みを入れてしまった。

 

 

 

「ぐぬぬぅっ……!! しょ、証拠は? 確かな証拠が無いじゃない!! ヤギじゃないなんて……そんなの、あなたの身勝手な思い込みよ!! ヤギじゃない証拠がなければ、あなたの推理は認められないわ!!」

 キリンは、推理小説での真犯人の最後の抵抗*17のごとく意地を見せた。

 

「それは悪魔の証明*18ですよ!」と、私はムキになって反論した。

「なんだとぉ!? クマがどうしたのよっ!?」

 

「仮に『白いキリン*19がいるか』と考えたら――」

「うるさい! 白いキリンはいるもん! あくま! おにひとで*20!」

 

「そ、それはそれとして……証拠は、あなたの方が出さないといけないんですっ!」

「証拠ならあるもん! うわぁーん! うわぁーん! はんにん! ようぎしゃ! うれないさっか!」

 うぅ~……この子、泣いちゃったよ~……。

 

 そして、そばのカラカルは、おろおろと泣くキリンと、おろおろしながら反論する私とを見比べるようにして、ただ無言でにやにや笑いを浮かべるのみ。

 あーあ、泣かせちゃって……と、目が語っているように思える……。

 

 イヤ、なんで私が悪者みたいな雰囲気になってるの?

 

 

 

「うあっはっは! ういっひっひ! 二人とも~……すっごいおもしろ!」

 議論が完全な膠着状態を迎えた私たちに、だしぬけにカラカルが吹き出した。

 

「ぐすんっ! なな、なによう! じぇっ、全然(じぇんじぇん)おもじろくないんだがらぁっ! こんのヤギぃ、自分の非を認めないのよぅっ!」

 キリンが鼻水をすすりながら訴えた。

「ひ、『非』って……私、何か悪いことした……?」

 

「あぁ~、キリンの『すいり』は……違うと思うけどなぁ~。私もヤギの子には何人か会ったことあるけど、みんなツノが生えてたし、瞳の形*21が私とは違う感じだし。それに、あの子たちは山に棲んでるわけだから、このさばんなちほーでフレンズになるのはおかしいわよ~。だいたい、キリンの『すいり』は、今まで合ってた試しがないし……」

「ぐぅっ……なんてろんりてきな反論っ……!」

 

「ハナコ、アンタ、あたまが固いわね~……。あたまでっかちよ! こういう子には、マジメに突っかかるんじゃなくて、テキトーにごまかしたり、聞こえの良いことを言ったりしないと……」

「そうよ! ぐすっ! 私には、テキトーにごまかして、聞こえの良いことを言いなさい!」

 ……そ、それでいいのか、キリン……。結構ヒドイ感じに言われているけど……。

 

 

 

 それにしても、カラカルは……頼りになるなぁ……。

 

 あ、でももうちょっと早く仲裁して欲しかったかなぁ~?

 ……楽しんでたでしょ、あなた。

 

「すみません……熱くなってしまって……」

「こちらこそ、頭に血が上っちゃって*22、ごめんなさい。認めたくなかったけど……この私も、時には間違うことがあるのよね……」

「どうぞ、これからよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、仲良くしてね」

 こうしてキリンと私は、カラカルが間に入ってぶじに仲直りした。

 

 

 

「ハナコ、私の『すいり』を言ってもいいかしら? 何の動物か当ててあげるの」

「え……?」

「おもしろいわ! 私とカラカルの推理合戦ね!」

 

 私が面食らったのも無理はない!

 今度はカラカルがそんなことを言うのだ。

 

「ハナコ、アンタは()()()()()()()()のが珍しいわよね。ナマケモノとか、ゴリラとか、上の耳の無いフレンズもいるらしいけど、みんな『じゃんぐるちほー』に棲む子なのよね」

 ジャングル地方……? やはりジャパリパークには「サバンナ」以外の気候区分も存在するらしい。

 

 そして、カラカルの推理だが、キリンの()()より、真っ当なものである予感が……。

 

 

 

「サバンナ生まれの、上の耳の無いフレンズと言ったら……アンタ、もしかして『ヒト*23』なんじゃない?」

 

 

 

 ……。

 はい、分かってます。私は人間です。

 I am a human…….

 

 ……何を言うかと思ったら……真っ当すぎた。期待していたら、当たり前すぎる事実が返って来たので、なんだか拍子抜けしてしまった。

 

 だが、キリンが大変驚いた様子で言う。

「ええっ!! そんなまさか!! 『ヒト』って言ったら、あの『かばんさん』の仲間じゃない!!」

 

 っていうか、カバンサン……って、何?

 

「なーんだ、全然ビックリしないわね~、ハナコ。ああ、そりゃそうか、アンタ生まれたばかりだから、『かばんさん』のこと、ぜんぜん知らないものね」

「『かばんさん』はねぇ、偉大なのよ~! すごいフレンズなのよ! ()()()()()()()なのよ、『パークのえいゆう』なんだから!」

 そう……なのか……?

 いったい何者なんだろう、『カバンサン』って人は?

 

 

 

 それから、ふたりに『カバンサン』のことをたっぷりと聞かせてもらった。

 

 かばんさんというのは、ジャパリパークに伝わる、()()()()()()らしい。

 いや、もしかしたら大昔に()()()()()()()()()()のだが、その英雄的な活躍ぶりがまた、凄まじいものなのである。

 

 私がふたりのフレンズから聞いたのは、以下のような伝説である。

 

 まず、「ばす」という、ゾウよりもクジラよりも巨大な動物に「命」を与えて、上に飛び乗って、これを自由に従えたという(「ばす」とは何の動物だろう? 口伝えするうちに名前が変わってしまったとか? そしてゾウやクジラよりも大きいというのは、さすがに「尾ひれ」が付き過ぎた伝説である)。

 

 たぶん、ウシだかウマだかの乗用になる野生動物の病気を治して、飼い慣らしたというのが実際のところではないだろうか。いや、それでもかなりすごい人間だ……。

 

 さらに、平原を通りかかった時に、悪しき心を持った獣たちが襲い掛かったが、これを調伏せしめたという。

 サイの突進を片手で受け止めると、サイは疲れ果てて斃れた。

 姿を消す能力を持ったヒョウが飛びかかったが、これを心眼で見破り、逆にこん棒の一撃でその頭を叩き潰した。

 また、はるか遠くの草むらに隠れる巨大シカに向かってこん棒を投げ、首の骨を折って絶命せしめた。

 クマの頭を狙って木の実を投擲すれば、その頭が半分消し飛んだ。

 ライオンが眠り込んだすきに、これを寝技で絞め殺した……などの数々の武勇伝。

 

 うち倒された「悪の心をいだく獣」たちは、改心して生まれ変わって善い心を持ったフレンズになり、以後はカバンサンの忠実なしもべになったという……。

 

 うーん、まるでヘラクレス*24である。まあ、仮に実際に起こった事件に由来しているとしても、その事実はものすごく誇張されているはずだ。

 暴走する様々な野生の猛獣を、銃などの武器を使って戦って倒した……というのが真実だろうか。カバンサンが実在したとすれば……レンジャー部隊の軍人かなんかなのでは?

 

 そして、自分の信頼する仲間が、山よりも大きな(これも誇張表現……だと思うが)セルリアンに食べられそうになった時には激怒し、フレンズの大軍勢を率いて、炎を起こして敵を焼き、火山を噴火させて溶岩で敵を沈めたと伝えられている。

 

 これはなんだか、一番ありえそうな話である。やはり実際のカバンサンは軍の指揮官で、現地の部族を率いてセルリアンと戦ったのであろう。炎や火山というのは、銃火器や爆弾など、パークに存在しなかった近代兵器を身近な例えを使って描写しているに違いあるまい。

 

 他にも……大きな川に差し掛かった時に、道よあれ、とカバンサンが言うと、目の前に道が現れた。高い山を登るときに、魔法で空を飛んだ。地下洞窟で襲ってきたセルリアンが、カバンサンの唱えた呪文により、突然の地割れに飲み込まれた。雪崩のように突撃するセルリアンの群れが、カバンサンの魔力により、二手に分かれて通り過ぎていった。亡霊の正体を魔眼で見破って封印した。火山を三日三晩殴って噴火を止めた。海の上をすごい速さで走った……云々。

 

 誇張と曲解*25がここまでくると……完全に多神教の神や一神教の聖人のレベルである。

 さすがに、こういうエピソードは荒唐無稽すぎて、とてもじゃないが事実に基づくとは考えられない。故意かどうかは分からないが、後の世になって付け加えられた、英雄性を高めるためだけの、根も葉もない創作だろう……。

 

 

 

「キリンは、かばんさんのこと、詳しいのよ」

「そうよ! かばんさんはすっごく強くて賢かったんだから! それよりもね、なによりもフレンズ達のことをいつも考えて、自分のことより、みんなを幸せにするために行動したの! カバンサンのまわりには、いつも笑顔のフレンズ達がいたのよ!」

 

 ……嬉しそうに話すキリン。

 その熱意に押されて、私もカバンサンの実在を信じ始めた。

 

 彼は過去に、近代文明からこのジャパリパークにやってきた漂流者で、この未開の地を開拓して、フレンズ達に文明をもたらした人物なのだろう。その上陸した場所が、サバンナ地方だったのだ。

 

 Kavanson? Cabansan?……どこの国の人なんだろう?

 

 きっと、人一倍体力があり、勇敢で、どんな武器でも使いこなす、何でもひとりで解決してしてしまうような仲間思いの聡明な男性……偉大な指導者。

 

「それでカバンサンは最後にはどうなったんですか?」

「うーん。それがよく分からないんだなあ~……。自分の仲間を探して別の場所へ旅立ったって言うけど、その後の話が全然分からないのよ……」

「自分の仲間を見つけることが出来て、一緒に暮らしたのかしら……」

「あるいは、今もまだ探していて、旅をしているのかもしれないわね!」

「だとしたら、夢のある話ですね!」

 

 

 

 カバンサンは偉大なのだ。英雄なのだ。

 

 ……外の地からやってきて、現地の住民「フレンズ」として生きた、献身的な人間――逞しき異邦人――カバンサン。

 

 私は彼の足元にも及ばないひ弱な人間だが、それでもこのジャパリパークでこれから生きていくためには、彼のチカラのほんの少しでも、あやかりたいものだ……。

 

 私はカバンサンの話を聞いて勇気づけられ、そしてこの「野生の世界」で生き抜いていく決意を新たにするのだった……。

*1
【サバンナ】サバナとも。雨季・乾季のある、乾燥に強い低木・疎林・イネ科植物などで構成される熱帯地方の草原を指す。もしくは、その気候のこと。ケッペンの気候区分での記号では「Aw」。Aは熱帯(低緯度)を表し、wはドイツ語で冬季乾燥(wintertrocken)の意味。年間の気温の変化は少ない。夏に雨季、冬に乾季と降雨量がハッキリと変化する。雨季は豊かな緑の大地だが、乾季には一面が枯草の草原となる。ちなみに「熱帯夏季少雨気候(As)」という、降雨パターンが真逆だがそれ以外はサバナ気候とよく似た()()()()()のちほーも、地球上にわずかに存在する。国内では、日本最東端の小笠原諸島南部の「南鳥島」がサバナ気候である。

*2
【太陽が時計回りに動いている】北半球では太陽は右回り(東→南→西)に動いて見え、南半球では左回り(東→北→西)である。なお、()()()()()()()()()()()()()と言うと……「機械仕掛けの時計」は中国やヨーロッパなどで発達した技術であるから、北半球での「日時計」の影の動き(右回り)が、時計の針の動きとして採用されたから。ちなみにあまり関係無いが、仏教では右遶(うにょう)と呼ばれる、対象に自分の右側を向け続ける(=右回りをする)マナーがある。チベット仏教のマニ車も、右回りで回さないと功徳が積めないと言われる。この仏教の「向きのしきたり」は、古代インドの右手を浄なるものとする概念や、利き腕を相手に見せて敬意や敵意の無さを示すことに由来するらしいが、北半球に位置するインドの古代農耕社会が太陽の動きを尊んでいたから、という説もある。

*3
【水の渦の回り方】水の渦には地球の自転による「コリオリの力」が働き、北半球では左回り(反時計回り)、南半球では右回り(時計回り)になる……というのは、実は俗説である。「台風」ぐらいの大きな規模になるとそうなるけれど、洗面台レベルの渦だと、影響するかどーかは全然分からん、らしい。

*4
【変わった星座】例えば、みなみじゅうじ座。国内では時期によっては、小笠原諸島や沖縄で観察可能。とくに日本の有人島では最南端の「波照間島」でよく観測できることが有名。ギリシャ神話ではとくに語られていない(だって見えないんだから)。実は歴史は浅く、大航海時代の16世紀につくられた星座である。南半球における「南極星」として、この天の十字架(サザンクロス)の加護が、闇の海に迷える船乗りたちを導いたのである。

*5
【球形砲塔】英語では「ボールターレット」と言う。第二次大戦中にアメリカ軍の爆撃機に使われていたものが(戦争映画好きの間で)有名。すごく狭いしパラシュートも無いし、乗組員にめちゃくちゃ嫌がられたそうだ。それとは全然違うものだが、このセルリアンの眼球は、WW2ドイツ軍の対空戦車「クーゲルブリッツ」の球形砲塔に似ているモノだ。

*6
【海底の海草】誤字ではないです、海藻ではなく海草。飼育下のジュゴンが食べるのは、北半球の温帯・亜寒帯の沿岸に生える「アマモ」という海草で、日本各地の沿岸部にも生えている(野生のジュゴンはアマモの分布と生息域が異なるので食べない)。オモダカ目アマモ科の()()()()なので()()()()()()。「リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ(龍宮の乙姫の元結の切り外し)」(最も長い植物名!)という別名もあり、人魚のモデルと言われるジュゴンが、そんな雅な名前の草のを食べるのって……なんだか、ろまんちっく~! しかしジュゴンは偏食でアマモしか食べないため、国内で唯一ジュゴンのいる三重県の鳥羽水族館の「セレナちゃん」は、新鮮なアマモを韓国から空輸してもらうしかなかったのです。食費はなんと年2,000万円! シドニー水族館の子も同様に偏食だったのですが、最近はふたりともロメインレタスも食べてくれるようになったそうです。

*7
【前にチョッカイかけたことがある】ここで回想シーン。カラカルと小型のネコ科フレンズ(そのうち登場します)。「よ~し、からかってやりましょっ!」「うにゃ~、面白そうなのにゃ~」→「うわ~、セルリアンが怒った~!」「にげるのにゃ~」

*8
【キリン】クジラ偶蹄目キリン科の大型けもの(同じキリン科には他にオカピがいる)。アフリカ、サハラ砂漠以南(サブサハラ)の熱帯草原に広く分布。10~20頭の群れをつくる。通説では1種で複数の亜種がいると分類されてきたが……近年のDNA解析によると、キタキリン・ミナミキリン・アミメキリン・マサイキリンなどの複数の「種」に分類する仮説も提唱されている。なお、なぜキリンの頭は小さく首は長いのかと言うと……カンタンに言うと、「高所の葉っぱを食べつつ水場の水も飲める」ように進化した結果。同じ目的に対して、ゾウは「頭は大きいままで、鼻を長くする」進化をした(進化の過程では、アゴも長くなった絶滅種のゾウもいる)。キリン科のけものは中新世(約2300万年前~500万年前)のころに熱帯雨林に出現し、オカピに似た姿の偶蹄類「シヴァテリウム」に似たけものだったようだ。それが鮮新世・更新世(およそ530万年前~1万年前)に、サバンナに適応して進化していった。キリンとオカピの()()()()()()()の、「サモテリウム」などのミッシングリンク化石が近年発見されている。他にもキリンには謎が多く、脳の血圧緩衝器官「奇驚網(ワンダーネット)」や、首-心臓-ノドという()()()()()()()()()()()()()を通る迷走神経の一種「反回神経」など、進化学的に興味深い動物だ。う~ん! ()()()()()()なけものなんだね~!

*9
【ただのキリン】動物園の名前プレートにはアミメキリン、マサイキリンと書いてあるが、実はこれらは「ただの自称」である。模様が混ざっていて、種類がハッキリと分からない子も結構いるのだ。これは、日本の動物園のキリンの多くは出自が米国なのだが……アメリカの動物園では「展示数の確保」のために異種どうしの交雑が進み過ぎて、明確に種類が区別できなくなったキリンが多いからなのだ。なおヒト界におけるこの「血統」の差は大きく、キリン純血種の「価値」が約1,200万円に対して、交雑種は400万円程度だと言われている。

*10
【昔はキリンも色々いた】現代の動物園での繁殖は「亜種同士は交雑させない」のが原則である。この「ジャパリパーク」もそうであり、この(実際のアフリカの生息環境と比べて)比較的狭い「さばんなちほー」で放し飼いされる以上、異なる遺伝子構成の動物を隔離しておく()()()()()のような手段があったハズだが……。ヒトが退去して長期間パークが放置されて……その隔離手段が無くなってしまって久しいと考えられる。

*11
【トーテム信仰】自分の部族や祖先と特定の動植物などを宗教的に結び付けて、信仰対象「トーテム」とする信仰形態のこと。南アフリカのツワナ語だと「シボコ」という。例えばキリンをトーテムとする部族では、キリンを殺すこと=()()()()()()()()となる。部族社会ではトーテミズムは重要な役割があり、お互いのトーテムさえ分かれば出身部族が分かって近親婚が防げるし、また特定の動植物の保護にも役立っていると考えられる。北米インディアンや南アフリカの部族など世界中で、類似するトーテム文化が見られ、かつてはヒトと動物とを区別できない愚かな「未開の価値観」だと考えられてきたが……人類学者レヴィ=ストロースによれば、「世界を分かりやすく考えるため」に()()()()()()()()()()として、動植物が用いられているのだとされる。たとえば、対立する部族のA族とB族がいたとして、そのA族とB族の内部でもA1族・A2族、B1族・B2族と各派閥が対立して分かれていたとしよう。この社会構造を()()()()()()()()……クマ(A1)族・ヤギ(A2)族・タカ(B1)族・ハト(B2)族……となる。まずA族とB族の対立関係1(陸と空の対立関係)があり……A1族とA2族の、そしてB1族とB2族の対立関係2(それぞれ自然界での捕食・非捕食の関係)があって……これだとすごく分かりやすいでしょ? そう考えると、この「野性の思考」は野蛮人の未熟な考え方……などではなくってぇ……たいへん合理的で発達した思考形式だと言える。

*12
【さて】探偵がよく使う言葉。「名探偵 皆を集めて さてと言い」という詠み人知らずの川柳もあったり。キリンは『優秀な探偵ほど、まどろっこしく芝居がかった話し方をするものだ』と、なぜかそう思い込んでいる。

*13
【しかつめらしい顔】探偵がよくしている表情。真面目ぶった、もっともらしい表情という意味。漢字だと「鹿爪らしい」と書くが当て字で、しかつべらし((しか)る+つ+べし+らし)「いかにもそうらしい」という古語から来ている。「しかめっつら」は、響きが似ているだけの全然関係ない言葉で、元の「(しか)める」は縮こまるの意味。

*14
【しょうさ】漢字だと「証左」。証拠のこと。なぜ「左」なのかと言うと、これは←方向の意味はなく、「左」の象形文字の「右手を支える」という語源に由来し、「根拠を支えるもの」という意味。

*15
【ひっきょうするに】畢竟するに。「畢」「竟」のどちらの漢字も「終わり」の意味があり「要するに」「結論を言うと」の意味。キリンはこういうもったいぶった言い回しをとても好む。それに対して、短く簡潔な表現を好むカラカルは「何に影響されたか知らんけど、いつも話が長いのよね~」と思いながら推理を拝聴している。

*16
【シャーロック・ホームズ】みなさまご存じ、19世紀ヴィクトリア朝時代英国の稀代の名探偵。実は「この帽子は大きい→持ち主の頭蓋骨は大きい→だから知能が高い人間だ!」(「青い紅玉(ガーネット)」より)、「ヘビにミルクを飲ませて飼っていたのだ!」「〇〇で〇〇を操っていたのだ!」(「まだらの紐」より)など……現代の科学から見ると、いや当時からしても超ガバガバな推理が結構ある。……あるいはまさか、この辺の描写は一流の英国紳士の冗談だったりするのだろーか? そういう考証はともかく、見事な人物描写や手に汗握る物語展開、テンポの良さ、後世への影響などもふまえての、元祖・名探偵シャーロック・ホームズなのである! ……イヤ、ホントは「オーギュスト・デュパン」という人が世界最初の名探偵なんだけどね……。

*17
【真犯人の最後の抵抗】いろんなパターンがあります。「あははは……そんな突拍子もない考えを思いつくなんて、あなたは小説家に向いてらっしゃる……」「いい加減にしてよ! あの人が犯人に決まってるじゃない!」「それはあなたの憶測じゃない! 証拠は……確かな証拠はあるの!?」→このへん、よくあるパターンですね。「ふふふ……たかが●●人で、俺を逮捕できると思ったか……こうなりゃ一人殺すのも全員殺すのも同じよッ!!」→これは犯人がすっごい強くて関係者を皆殺しにして証拠隠滅、という本当に滅多にないパターン。

*18
【悪魔の証明】「無いこと」の証明が非常に困難であること。たとえば「白いカラス」がいるかどうかを証明したいとして……聞き込みで目撃者を探す、古い文献を調べる、生物学者に聞くなど、「いることの証明」は色々な手がかりがあるが、「いないことの証明」は有効な手がかりが無く非常に難しい。また、この言葉とは関係ないが「私はコレコレ言い出したが……その確かな証拠はそっちが示せ!」と、()()()()()()()()()()キリンの理屈は、完全に詭弁である。今回はハナコは「合理的な疑い(法律用語)」を投げかけているので、「疑わしきは罰せず(疑わしきは被告人の利益に)」のルールにのっとり、「ヤギだと立証できないけものは、ヤギでないと判断する」のが、名探偵的には正しいっ!(一体なんのこっちゃ……)

*19
【白いキリン】い ま す。「参考資料」のリンク先の画像を参照。だが、ハナコはそんなこと(多くの動物種で白化個体(アルビノ)や白変種が出現すること)は分かっていて、前述の「ヤギでないこと証明の難しさ」や「言い出した側の説明責任」について話したいのだが、頭に血が上ったキリンがそうはさせないのである。

*20
【おにひとで】ヒトデ綱アカヒトデ目オニヒトデ科オニヒトデ属の一種。日本では沖縄のほか本州でも確認されている。サンゴ礁に生息し、大きなものは30cmにもなる大型のトゲだらけのヒトデで、ヒトでも死に至らしめる毒を持つ。成体はサンゴまでも捕食するので、サンゴ礁の消滅と形成のサイクルに大きく関わっている。しかし、大量発生して完全にサンゴ礁を食いつくしてしまうという環境問題があり、これは肥料や生活排水などによる「サンゴ礁の富栄養化が原因」という説が有力である。……さて、あまり海に縁が無さそうなキリンがなぜこんな発言をしたかと言うと、ハナコの発言につられて『悪魔!』と言ったあとに、悪口を言い慣れていないのでまちがえて『鬼!』と『人でなし~!』が混ざっただけなので……この長い解説はぜんぜん意味が無いんじゃ……?

*21
【瞳の形】瞳孔の形状は動物によって異なる(筋肉である虹彩に囲まれている「穴」の部分が瞳孔。光はココを通って、眼球内側の網膜に投射される)。ヒトの瞳孔は円形、ネコやヘビやワニでは縦長の楕円形、ヤギやヒツジなどは横長の楕円形である。楕円形の瞳孔は円形のものより開閉差が多く、夜行性動物が夜間に「少ない光量をできるだけ取り込む」ためではないか?との説がある。また「縦長」の瞳孔は、物体の()()()()()()()()()()、肉食動物の多くがそうであることの説明がつく(ライオンやトラの瞳孔は丸いけれど、サイズの違いによるものか?)。それに対して「横長」瞳孔は視野を広く取れる。多くの動物が、草を食べるため頭を下げても()()()()()()()()にでき、さらに()()()()()5()0()()()()()()()()()()()()()ため、つねに周りを警戒できる。このように、瞳孔の形には、動物の生態と進化が深く関わっている。そして野生動物がヒトに変化した「フレンズ」の瞳孔の形は()()()()()ではなく、「元の動物と同様の形」を受け継いでいる。

*22
【頭に血が上っちゃって】キリンの心臓は、体重に対してそれほど重いわけではない(体重に対する比率で心臓が最も重い動物は実はイヌ)。しかしキリンの心臓の構造は特殊で、肺に血液を送る「右心室」の壁が厚さ1.5cmに対して、全身に血を送り出す「左心室」の壁は8cmもある! これは、2m以上も高いところにある頭部へと血液を登らせるため。最高血圧が260㎜Hg、最低血圧が160㎜Hgと、()()()()()()()()! こんなに高血圧だと脚部や下げた頭の血管が破裂してヤバいのでは……と思えるが、枝分かれした頸動脈、静脈にはたくさんの逆流を防ぐ弁、うっ血(むくみ)を防ぐ脚の皮膚と筋肉、そして脳の急激な血圧変化を防ぐ緩衝機構「ワンダーネット」など、高血圧からカラダを守るしくみがたくさんある。「フレンズのキリン」もそんな特徴を受け継いで、ヒトより長時間逆立ちできたりする。また、怒る時は一気に怒る、泣く時はものすごい勢いで泣くなど「頭に血が上りやすい」性格も、元動物の生態に由来するものなのだろうか?

*23
【ヒト】現代人類、ホモ・サピエンス・サピエンスのこと。この『けもののきろく』では、それなりに書き方を区別している。「ヒト」とカタカナで書くと、生物種としての現生人類かあるいは化石人類を指していることが多い。「人間」だと、文化・民族・人格などの部分に着目している。「人」「ひと」は、一般的にフレンズの間で、誰かを指す時に使われる言葉である。ハナコのセリフでは「伝説の人」、フレンズ達のセリフは『伝説の「ヒト」』と書かれている。こういう意識の違いによる細かい言葉遣いに注意すると、今後面白いかもですね。……ところで、ジャパリパークのフレンズ達にとっては、「自分たちのこと」を指す「一般名詞」が、同時に「伝説上の神話生物」の呼び名でもあるのが興味深い。「フレンズによく似ているらしい『ヒト』……それにしても、変な名前~!!」と多くのフレンズ達は思っているのだろうか? 我々()()の感性で言うと……南極のUMA「ニンゲン」と同じような語感か?

*24
【ヘラクレス】めっさ強いギリシャ神話の英雄。いろいろな武勇伝があり、平たく言うとやたら戦ってばっかりの筋肉モリモリ、マッチョマンのヘンt……神様(cv玄田哲章)。イメージで言うと、アーノルド・シュワルツェネッガー氏……っていうか、実際に『SF超人ヘラクレス』(1970)でシュワちゃんが演じているし! 英語で言うとハーキュリーズで、フランス語だとエルキュール……こちらはベルギー人の名探偵だ。暴力ではなく「叡智」に優れ、「灰色の脳細胞」を持つ「小さな英雄」である。

*25
【誇張と曲解】「イヌイットの言葉には100個もの雪の名前がある」という有名な話がある。よく「サピア=ウォーフ仮説」(※第0章の「虹色」の話参照)とともに語られるが、実はコレ……真っ白な嘘なのである。人類学者フランツ・ボアズのオリジナルの論文では「イヌイットの言葉には()()の雪の名前がある」としか書かれていないし、イヌイットの雪を表す言葉は実際は、少なくとも4~6個で、多めに見積もっても16~20個ほどらしい。だが! 伝言ゲームで雪だるま式にドンドコ話が盛られて、その数がとうとう100にまで膨れ上がってしまったのだ! イヌイットの専門家がほとんどいなかったため、言語学者でさえ正確な事実を把握できなかったのである。つまり現代の知識層でさえも「身近ではないことがら」については、いともたやすく事実が誇張曲解されてしまうのである。誰も見たことが無い「ヒト」などは、フレンズ達によって、そりゃもう際限なく武勇伝を盛られまくりなのです……。




【参考資料】

◆中3理科【天体】各地の太陽の動き(日周運動) まいにちマナブ
https://manab-juku.me/science/diurnal-motion-of-the-sun/

◆「時計の針」はどうして右回りになったのか? - ねとらぼ
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1902/21/news011.html

◆『SPAZIO』 no.63 「時計回りの文化、反時計回りの文化(1)」
https://www.nttdata-getronics.co.jp/csr/spazio/spazio63/tokeimawari.html

◆第76回 プラネタリウム「南十字星にあいにいこう」 スタッフだより大阪市立科学館
https://www.sci-museum.jp/staff/?p=78

◆アマモ 海藻海草標本図鑑
http://chibadai.flier.jp/algae/algae/kaisou/kusa/amamo/amamo.htm

◆超偏食なジュゴンが認めた唯一の野菜はロメインレタス 動物おもしろ雑学集
https://zooing.honpo21.net/archives/17

◆血統登録上は「アミメキリン」は存在せず、すべて「キリン」扱い PEACE
https://animals-peace.net/zoo/girraffe-studbook.html

◆動物園の人気者 いくらで飼える? GOLDDUST
https://golddust.jp/zoo-animal-fujitamakoto/

◆【トーテミズムとは】リベラルアーツガイド
https://liberal-arts-guide.com/totemism/

◆レヴィ=ストロース野性の思考とは。コテンto名著
https://kotento.com/2018/02/25/post-1139/

◆「鹿爪らしい・・・」の鹿爪の語源を教えて下さい Yahoo!知恵袋
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q141600544

◆珍しい白いキリンの写真を公開、タンザニア ナショナルジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/012700027/

◆珍しい!全身真っ白なキリンの親子 ナショナルジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/091500353/

◆ASCII.jp:細長い瞳孔は動物の生態に大きく依存しているという研究
https://ascii.jp/elem/000/001/037/1037976/

◆心拍数1200から重さ180kgまで、動物の驚異の心臓 ナショナルジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/a/021600010/

◆高血圧なキリンの体を守るものすごいしくみ レタスクラブニュース
https://www.lettuceclub.net/news/article/170694/

◆『キリンの高血圧、象の巨大心』 公益財団法人 日本心臓財団
https://www.jhf.or.jp/publish/bunko/54.html

◆謎の巨大生物、UMA「ヒトガタ・ニンゲン」とは? カラパイア
http://karapaia.com/archives/51076795.html

◆エスキモーの雪の名前は何種類?【隙間リサーチ】 ちりつもFILE (β
https://trtmfile.com/2018/03/17/post-544-2/
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