けもののきろく(第2版)   作:大きさの概念

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あらすじ:フレンズは超すっご~い生物。けもの道、進む。フレンズの村?に到着。
  目標:「大きな村?」を探索せよ。

 現在地:さばんなちほー西部/半乾燥地域/「さばんな屋敷」前庭
 時間帯:夕

 所持品:黒曜石のかけら

 同行者:カラカル/キリン/アードウルフ/スプリングボック

 ヒント:創意工夫の心得されあれば、単純なモノほど使い道があるものだし、目的に十分適ってさえいれば、シンプルであるほどより使いやすいだろう。


第5話 熱帯草原の小さな一戸建て

 突如現れた日本家屋の庭園の様子は……!?

 

 百聞は一見に如かず。

 フレンズたちの話を聞く前に、まずは自分で調べてみるか……。

 

 

 

 民家の玄関へと続く庭石の脇には、松の木*1が何本か植えられている。和風に剪定されているが……アカマツやクロマツなどではなく、日本のものとは()()()()()()()()マツだが……何という種類だろう?

 

 そして注目すべきは、最近になってきれいな樹形に整えられていること……。松だけでなく、庭木すべてに……長く見積もっても数か月以内に、人の手が加わった形跡がある。

 

 そして庭の周囲に張り巡らされたマツ林。

「このマツ*2の林、手入れが大変そうだけど……」

「『ボス』が色々してるのを見たことがあるけど」

 カラカルが答える。

 

「こんなに立派な形にしておくのは、手間ヒマかかりそうだなぁ……」

「ボスが気合をいれるとズバババーッ!て切れる*3のよ」

 フレンズ達に食料を配給する「ボス」さんは、まさに名前どおりパークのリーダー的存在で……さらにこういった施設に定期的に立ち寄ってその管理も行う、忙しいフレンズらしい。

 

 その彼ら(彼女ら?)が、ちょっと前にココにいた名残りがある……。

 

 植込みの陰に、園芸用の結束バンド*4の袋が落ちていた。包装もまだ真新しいモノで、「ボス」さんたちの最近の忘れ物だろう。

 ところでコレは大変便利なので、拾ってバックパックのポケットに入れておく。

 

 

 

 白砂青松*5の景勝に思わぬ形で遭遇したが……だが庭木の多くは、熱帯地方らしい野生的な木々が立ち並ぶ。

 

 人工的に庭木として植えられたらしいものもあれば、実生らしい土着のものなど、様々な植物*6が観察できる。今は乾季のため多くの木々が落葉しているが、雨季になれば青い*7葉が生い茂り、彩り豊かな花を咲かせることだろう。

 

 夕日の逆光のなかで、いちばん目を引く樹形のシルエットは……特徴的なボトル型にふくらんだ幹と、てっぺんにはぐしゃぐしゃの枝……バオバブ*8の木だ。このこじんまりとした民家の庭にふさわしい、小ぶりのサイズのもの。

 

「ん? その木には雨が降るころ、おいしい実がなるのよ! アタシも食べる*9けど、フレンズのカラダは色々なモノがおいしくて、楽しいわよ~!」

 カラカルが説明する。

 

 

 

 バオバブの樹皮を触ってみる……。カラカラに硬い表面だが、ナイフでもあれば剥がすことができそうだ。

「……しかし、勝手に取っちゃマズいですよね……」と、フレンズたちに尋ねる。

「あら? あなた、木の皮をはがして、水を飲むつもり? ゾウさんみたいね」

 キリンが答える。

 

「いえ、この樹皮を編めば、いいロープになりそうだなと思いまして……」

「『ろーぷ』って何です?」

「この木は誰のお気に入りってわけでもないですから、自由に取ればいいと思いますよ」

 スプリングボックとアードウルフが答えた。

 

「じゃ、枯れない程度に……ありがたく使わせて頂きます……」

 

 さて刈り取る道具だが、さっきもらった「黒ぴかぴか石」こと黒曜石で*10を作ろう。

 

 庭石に黒曜石をぶつけて欠けさせて、薄刃のナイフを作成し、それでバオバブの樹皮を剥ぐと、表皮のすぐ下から葉緑素の緑色が見えてくる。ほかの縄に編めそうな植物の葉や茎の繊維やツルも適度に採取しておく。

 

「??……なんだコレ?」

 

 作業中、そばの板塀*11に、たくさんの赤錆びた看板*12がかかっているのを見つけた。

 

 そのうち、いちばん大きな一枚の表面の砂ぼこりをぬぐうと、かろうじて『ヒトの暮らし博物館*13』……と、書いてあるのが読み取れる。

 

 この「民家」って博物館だったのか……? とても外観はそうは見えないのだが……。

 

 

 

 庭をさらに探索すると、さらに有用そうな植物を見つけることができる。

 

「このリュウゼツランのトゲは縫い針にできそう。ああ、これはスベリヒユ*14、食べられるだろうか……?」

「やはりアナタ、ヤギね! 草を食べるなんて!」

「いや、ホントは食べられるかどうかテスト*15したほうがいいかもだけど……それに、せめて水洗いを―― !! うわっ!! び、びっくりしたぁ!」

 

 突然、そばのアフリカゾウを模した置物の鼻から散水が行われたので、ひどく驚かされた。

 

「……まぁ、これはこれは、気の利くお庭ですこと……(もぐもぐ)」

 

 

 

「あはは。そのおもちゃのゾウさんは、時々鼻から水を出すのよ。お日様が出てるときに、何回もね」

 どうやら、あの大きな耳のゾウさんの像は、日中に動作する自動式スプリンクラーらしい。

 

 庭木の水遣り用か……あるいは気化熱を利用した冷却方法――打ち水*16のためだろうか。

 

 家屋の裏手に円筒形のシルエットの建造物が立っている。あれは貯水タンクのようだ。サバンナの住居では必須に違いない。

 

 さらに民家の勝手口近くには、コンクリート製ゴミ箱や、大きなツボ、テラコッタの植木鉢などが置いてある。それらの中を覗いてみると……中には、野菜の腐って干からびたようなものが底にへばりついている。

 

 しかし、これらのゴミ箱やツボは構造が奇妙だ。内側が二重になっていて、内部空間との隙間が砂で満たされている……。もしかして非電化式の冷蔵庫*17か?

 

 そうこう調べるうちに、石灯籠*18や、ガス灯ふうの大きな庭園灯、家屋内部の照明がいっせいに点いた。

 

「あのへんな形の石はですね、お日様が隠れるころに、急に光り始めるんです」

「ウム。私が推理するに、お月様のこどもをユウカイして、あそこにカンキンしているのでは……? これはジケンのにおいがするわね……」

「ホタルとかゆームシが棲んでるのかもですよ」

「キノコというヤツじゃないかしら? 夜光る*19ってハナシじゃない?」

 

 フレンズたちの話によると、どうやら光量の変化を感知するセンサーがどこかにあるようだ。

 レトロな和風家屋と伝統的な日本庭園……だがその「中身」は、見た目ほど古いもの(ローテク)ではないらしい……。

 

 

 

 夕闇があたたかな光で照らし出されると……造園用の大きな庭岩の隙間の暗がりに、()()()()()()()()()()()()()()のに気が付いて、少々ぎょっとした。

 

 彼女も前々からこちらに気が付いていると思うが……。にもかかわらず、瞑想にふける修行僧のごとく、虚空をじーっと見つめながら……と微動だにしないでいる。

 

 色々思う所はあるが……フレンズとは()()()姿()()()()()()()である、人間の偏見やマナーを押し付けるべきではないな……。

「あ、あのぉ……失礼ですが、どうして岩にはさまっているんですか……?」

「ん……? そりゃあなた……それは、わたしが岩にはさまりたいからに決まってるでしょ」

 私を一瞥して、にべもなくそう言った。

 

 そして、ぴょこっと岩の隙間から出てくると……灰色の丸い耳と尻尾をした子だ。

 一見ネズミのような、いやクマか……あるいはウサギ、まさかタヌキ……??

 ……何の動物か特定できない。

 

「ういっす。わたしはイワハイラックス*20だよ」

「あなた、タヌキのフレンズね!」

 キリンが叫んだ。

 

「ううん。イワダヌキとも呼ばれるけどぉ~、イワダヌキとタヌキは、別物らしいのよ」

「ムム! なにそれ! ひとりと見せかけて、ふたり……さては、じょじゅつとりっく*21かしら! たぬきじけん*22というヤツね!」

 

「いや~、わたしは日向ぼっこしてたんだけど。でも暗くなって寒くなってきたね」

 そう言いながら、イワハイラックスは「日本家屋」に向かっていくと、玄関の中へ……ではなく、なんと外壁を登り始めた!

 

 見よ! あのロングセーターの裾から、パンツ*23がチラリと……!!

 ……ではなく! 見よ、あの見事なクライミング能力! 

 

 なんの足掛かりもない壁を、まるで()()()()()()()()()()()かのように軽快に登って、二階の空いた窓から中に入っていく……。あの、玄関と階段使わないの……?

 

 うーむ、やはりフレンズとは人ならざる能力と思考を持つ存在であるなあ……。

 

 ……では気を取り直して、私もこの「巣」にお邪魔させてもらうとしよう……。

 

「お邪魔しまーす」

「え? ハナコさん、ダレのナニをじゃまするんですか?」

 アードウルフが無邪気な様子で尋ねたので、誰の邪魔もしないよと答えた。

 

 

 

 さばんな屋敷……いや『ヒトの暮らし博物館』は、昭和の中流家庭を()()()()()()()()()()()()()()()かのようであった。

 

 黒い瓦敷きの切妻屋根。その端にわたされた緑青(ろくしょう)の青みがかった銅製の雨どいは、ひどく古びているものの、破損している様子はない……。

 玄関のそばの手押し式ポンプは、故障していて押しても水が出ないが……あるいは、もともと単なる装飾用なのか?

 明るい色のレンガと白いコンクリートの、土埃まみれの汚れた外壁は、長い間雨風を受けていることを示すが、これもほとんど劣化していないようだ。窓ガラスも、これまた汚れているが、割れているものは無い。

 

 掃除すれば十分人が住める……というか、今も本当に人が住んでいるのでは? と思わせる、状態の良い物件だが……廃墟特有の人気(ひとけ)を失った空気を感じる。

 

 ……玄関のガラス戸に手をかけると、違和感を感じた――見た目からして引き戸かと思っていたが、観音開きのドアだった……。西洋式のフランス窓のような内開きの玄関ドア*24で、ガラス部分には強化ガラスが使用されている……。

 

 さて、玄関にお邪魔すると……青い石畳の土間の、向かって右に下駄箱。竹製の傘立てには、数本のこうもり傘。右奥には二階へと続く急な階段がある。

 玄関ドアの上部には、ゾウやキリンやアカシアなどの動植物を描いた、明かり採り用のステンドグラス風の飾り窓。

 

 一見、一般的な日本家屋であるが……上り口が無くて、土足のまま入れる海外式になっている点は、非常に違和感があるな……。

 

 入口付近には、金魚鉢風の古びた大きな丸い水槽があり、中には水と金魚が……いや、これは()()()()()だ。水ではない、粘性の高い液体の中に、自律式のロボット琉金*25がどこからか電源を得て、泳いでいるのだ。

 

 階段の横手の廊下を進むと、台所がある。白のタイルづくりの美しい流し台には、レトロな色合いのまほうびんや、ホーロー製の花柄のケトル、塩やみその保存用らしい壺、プラスチック製ビーズの珠のれんなどで、色とりどりに彩られている。

 記憶の無い私にも「懐かしい」と思わせるような、日本人の原風景的に訴えかける古い家庭のキッチン。

 

 さらに電熱線式のコンロ……っぽい見た目のIHクッキングヒーター……。昭和30年代の電気式炊飯器、のようなデザインの自動タイマー付き炊飯器……。やはり古いのは外見だけで、中身はハイテクか……。

 

 

 

 ……それにしても、さっきから気になるのは……キッチンの床に寝転がっているフレンズ……。茶髪から飛び出ている、竪琴状のツノのような前髪、ウシのような耳など……スプリングボックに似ている。

 

 白のブラウスに、シックな褐色の色合いのベストとスカート、スカーフ風タイ……。

 なんとも気品のある格好のフレンズが……床の上に寝っ転がって、シャツとスカートをまくり上げてお腹と下着を見せながら、よだれを垂らして鼻ちょうちんをふくらませて爆睡している……。

 

「おともだちのセーブルちゃん*26です。おおぅ……ここで寝るとぉ、ひんやりして気持ちいいね~」

 スプリングボックが、同じようにお腹を見せて寝転がりながら紹介する。

 

「草食の子が、まわりを気にせずこんなにぐっすり寝られるのも……フレンズになったおかげと、『むら』があるからよね!」

 カラカルは家猫のように、両手両足で台所マットをぐしゃぐしゃにして……仰向け、うつ伏せと体勢を変えて、ごろごろと寝転がる。

 

「私は全然寝なくても大丈夫だけど!」

 キリンはなんと、正座したまま寝始める!?

 

「ここ巣穴みたいで安心します~……」

 アードウルフは、せまくてくらくておさまりのよいところが落ち着く……とばかりに、流しの下の戸棚に入りだす始末……。

 

 ……フレンズというのは、みんな自由だねえ。

 

 

 

 しかし私も、今日は色んな事がありすぎて、疲れたな……。

 

 私は「セーブルちゃん」のお腹が冷えないように、起こさないように注意しながら服を整えてあげた……。

 

 自然と下着が目に入ってしまうが……はたして動物のセーブルも、こんなお尻の模様をしているのだろうか……。

 うう、背徳感が……。いや、見た目は年頃の女の子なのに、無防備に自分の体をさらけ出すフレンズたちのほうが悪いんだぞ……。

 

 

 

 そして、私は食器棚や流しの収納部分の物色を開始する。

 

 が、たいていはがらくたばかり。割れた食器。力任せに開けられたらしい、ひどく変形した缶詰の空き缶。歯形がついているカップ麺の容器の残骸。何かを包装していた紙袋。ビニールの破けて劣化しようなもの……。

 

 まずは、日用品としても自衛用としても、金属製の刃物が欲しいところ……。戸棚扉の内側の包丁立てなどを探したが、一本もない。最初から無いのか……それとも、フレンズが面白がって、持って行ってしまったのだろうか?

 

 持ち運べるものは限られているので……とりあえず、汎用性のある小型の物品から拝借していくか。

 

 気持ちよく、すうすうと寝息を立て始めた連中を起こさないよう……こそこそと、ドロボウのように静かに……いや、実際そうなのか……。

 しょ、しょうがないでしょ! 緊急時だから、この場合は!

 

 ……と、心の中で言い訳しながら、まずは、壁のフックに下がっている、この便利そうなアルミの小ナベと、ホーローのマグカップを頂戴いたしとうございます。

 

 戸棚の奥に、アルマイト加工の小さな水筒もしまってあった。どうやら子供用のようで、サバンナの動物たちが描かれている。フタには安っぽい方位磁石(コンパス)つきだ。布製ストラップで首から下げておく。

 

 保存状態の良いビニール袋も何枚かもらって、バックパックに入れておく。

 

 さらに、シュウ酸アルマイトの急須、花柄の小さなホーロー製ティーポット……。

 

 裸電球ふうのLEDのもとで、それらを眺めていると、とたんに無性にコーヒーが飲みたくなってきた……。

 

 熱すぎるほどの熱湯で淹れたあの味……。濃いブラックコーヒーの、あの健康に悪そうな色……。泥のように臭くて苦み……。

 今の精神的・肉体的な疲労を癒やすのには、アレが最高なんだが……。

 

 戸棚でインスタントコーヒーの粉末パックを発見したが、当然のように開封されてカラだったし……たとえ中身が残っていたとしても、古くて飲めないものであったに違いない……。

 パッケージに刻印された賞味期限の「20XX年」という年号……。これが最近のものなのか、それともはるか昔のものなのか、私にはまるっきり見当がつかないのだ……。

 

 

 

 私は、台所の向かいの部屋へと向かう。そこは玄関から見て、むかって左手に位置している、六畳ほどの居間。さらにそこから、障子でへだてられた仏間へと続いている。

 

 居間はタイル敷きで、和風のタンスや丸いちゃぶ台が置いてあるが、それら全ての家具に西洋風の長い猫脚がついているので、どちらかと言えば中国風に見える。

 

 私は乾燥や湿気で開きにくくなったタンスの引き出しを、力任せに下から開けていく*27

 

 衣類などを期待したが、中にはほとんど何もなかった。引き出しの一つには、黄色に変色した新聞紙があったので、傘つき白熱電球風LEDの薄明かりのもと、読んでみる。ジャパリパーク開園の記事*28のようだ。

 引き出しのひとつには、厚手の風呂敷に包まれた何だか分からない「小動物の骨」があって、大変びっくりさせられた。標本用だろうか?

 

 

 

 隣の仏間も調べる。畳敷きではなくて、石畳の床に仏壇らしきものが置いてある光景は、奇妙な印象がする。

 

 変わった姿のクジャクの描かれた観音開きの扉を開くと……干からびた仏飯や、ぼろぼろの枯れた花が生けられた花筒……さらに中央には、予想していたような仏像や仏画ではなく……たくさんの野生動物やフレンズの古い写真が、写真立てに入ったものや、そうでないものまで……この小さな仏壇には、多すぎるほど飾ってある。

 

 さらに、この家の庭で撮ったらしい古い写真もあった。

 笑顔らしい表情で写真に写った三人の人物。うち二人は、尻尾やけもの耳のあるフレンズ(不鮮明な写真のため、動物の種類は全く分からない)。一緒にいるのは……耳や尻尾がない……それに、動物由来の衣装(けがわ)ではない、明らかに()()()()()を……作業帽と作業服を身につけた……人間……?

 平均的な体格の、メガネをかけた普通の女性に見えるが、この人物は何者だろうか?

 

 ここに写真が置いてあるということは、遺影……? これらの写真の動物やフレンズは、やはりもう亡くなっていると考えていいのか?

 

 

 

 なんだか気になるが……もらえるものを物色するのが先だ。

 

 動物の姿が描かれたマッチ箱……「けものマッチ*29」とライターが置いてある。ぼんぼりや線香立てやろうそく立てはLED式なので、必要無さそうな点火具なのだが。

 

 役に立ちそうなので拝借しておこう……と思ったが、マッチのほうは湿気ってしまっていてボロボロだ。まだ使えそうな使()()()()()()()()*30のみポケットにしまっておく。

 

 ふと上を見上げると神棚があり、フレンズの写真が飾られている。それは、イヌのような耳と尻尾のフレンズ……首輪やリードまでしているのだから、まず間違いない……。犬種までは分からないが……。

 

 フレンズらしからぬ、マジメぶったような、機嫌が悪いような、何とも言えない顔つきで、背をぴしっと伸ばした姿勢で写っている。

 

 そのイヌの、こっちをにらんでいるような顔を見ると、私は突然、心臓を鷲掴みにされるような感情に襲われた。呼吸が速くなり、心臓の脈動が強くなるのを感じる……。冷たい汗がやたらと出てくる……。

 

 誰だか分からないフレンズ……でも私は、この子を知っている……。それもただの知り合いではない……どうしてこんなに心が痛くなって、胸が張り裂けそうな思いが湧き上がるのか……。

 

 そのようなもやもやした感情に心を支配されていると……なんの前触れも無く、二階から階段を下りてくる足音が聞こえてきた。

 

 さっき、外から二階に登っていったイワハイラックスか……?

 

 いや、()()()()()()()()

 私が今まで出会ったフレンズの、()()()()()()()()()()()だ……。

 直感的にそう思う。

 

 

 

 障子戸に隠れて様子をうかがっていると、そのフレンズが居間に入ってきた……。

*1
【松の木】この庭に植えられている松は、日本の公園や植物園ではほとんど見かけない「ラジアータマツ」という種類だ。もとは北米カリフォルニア州の狭い地域に自生する固有種だったが、生長が早く、多くのパルプ・木材が採取できるため、林業用として「世界で一番植林されている松」なのだ。※品質は日本のマツ材より劣るそうだ。造林がさかんな国はニュージーランド、チリ、ケニア、南アフリカなどほとんどが南半球の熱帯乾燥地域。ケニアでもよく植林されていたそうだが、「赤斑葉枯病」というマツの病気が発生したため、近年では完全に植林が禁止されているそうだ。耐病性の育種が研究されているそうだが、あまりすすんでいないらしい――だがこのジャパリパークでは完全耐病種が植林されているぞ。おもな輸出国や原産地の名前をとって、ラジアータマツは別名ニュージランドマツ、チリーマツ、モントレーマツ。そして元の生息地のはずの北アメリカでは、まともな木材になるほど良く育たないらしく……本来の生育環境と全く異なる場所で繁栄しているという、なんとも珍しい植物だ。なおこれほど世界中で植樹されているにも関わらず、故郷カリフォルニアの天然林は絶滅危惧種。

*2
【マツ】マツ科マツ属の樹木。天然分布は北半球のみで、南はインドネシアから、北はロシアやカナダの北極圏まで広く見られる針葉樹。気温の差に強い植物であり、熱帯に自生する種類でも-10℃程度の低温には耐えられる。古くから「一ヶ所に付く針葉の数」で分類されており、日本のアカマツ・クロマツ・リュウキュウマツなどは二葉マツ類。ゴヨウマツ・ハイマツなどは五葉マツ類。前述のラジアータマツは三葉マツ類だ(日本には三葉マツは自生していない)。厳しい環境でも生育できるよう、菌類と共生することが知られ、根っこに生えるマツタケ・アミタケなどの固有のキノコが有名。なおトドマツ(モミ属)やエゾマツ(トウヒ属)など、名前と違って()()()()()()()針葉樹がいくつか知られている。この屋敷を取り囲むマツ林は、防風・防砂林として……あるいは、野生動物やセルリアンの侵入を防ぐ障壁として植えられているのだろうか?

*3
【ズバババーッ!て切れる】フレンズが「ボス」と呼んでいる、施設管理&パークガイド用小型ロボット「ラッキービースト」が標準装備する「底面式草刈り装置」のこと。カタツムリやナメクジ、タニシなどの持つ舌歯(しぜつ)という器官に似た構造をしており、ヤスリやおろし金のように、細かく地面の雑草をこそげ取ることができる。石畳に張り付いたゼニゴケや地衣類も掃除できるスグレモノ。しかも軟体動物のそれと同様にこまめに生え変わる、有機的な修復機能もあるらしい……。また、高枝切りばさみやヘッジカッターのような専用作業オプションパーツが存在し、植木の剪定のときにはこれらを器用に使用する。このサバンナ屋敷の庭の物置小屋にもそういった「ラッキービースト装備」が置いてある。

*4
【結束バンド】「ケーブルタイ」とも言うが、ガーデニング用のものはあまりそう呼ばれない。「タイラップ」や「インシュロック」などというのは商標名。歯車のような噛み合わせのロック機構を持つバンドは、簡単に締められ、一度結束すれば緩まない。使用目的により、材料のプラスチックには、絶縁性・紫外線遮断性・耐腐食性など、さまざまな物理的・化学的耐久性が付加される。本来の用途どおりにPCや電化製品のケーブルをまとめたり、植物の支柱固定用や、他にも様々な作業用途に使われる。またロープやガムテープ、手錠(ハンドカフ)などより安価で軽量、かさばらず使いやすく、それなり丈夫なため……軍隊や警察、犯罪者、SMマニアによって、対象者への()()()として使われることもある。なおコツをつかめば手首などを拘束されても、1個だけなら衝撃や摩擦力でカンタンに外すやり方がいくつかある。犯罪被害者になったときに備えてふだん練習しておくといいかもしれない。

*5
白砂青松(はくしゃせいしょう)】白浜に生える、青々とした松林の美しい風景……を指すのが一般的だが、この場合の「白砂」はジャパリパーク・サバンナ地方の、この周辺の白っぽい砂のことを言っている。これは、火山性鉱物サンドスターが白色に変化し、その砂粒が川により海へ運ばれて……南の海岸線に潮流に乗って打ち上げられ、内陸へ風で飛ばされてくるものらしい――鳥取砂丘の花崗岩の砂みたいなものです。なお松は岩や砂だらけの他の植物の生えにくい厳しい環境にもたくましく生育するからか、東アジアでは神秘的なイメージがあり、日本では「松竹梅」として、中国では「歳寒三友」のひとつとして数えられている。さらに『日本の松の緑を守る会』選定&林野庁認定の「白砂青松100選」というリストがあり、日本三景である「松島」(宮城)や「天橋立」(京都)、日本で唯一ウミウが捕獲される「伊師浜海岸」(茨城)、サーフィン・海水浴で有名な長~い海岸線の「九十九里浜」(千葉)などが挙げられている。

*6
【様々な植物】このお庭の熱帯植物をご紹介しましょう。真っ赤な花を咲かせる2種の木々……マメ科のホウオウボク(別名フレイムツリー)と、ノウセンカズラ科のカエンボク(アフリカン・チューリップ・ツリー)。これらとあわせて熱帯三大花樹に数えられる、ノウセンカズラ科ジャカランダ。奇妙な樹形を戴き、真っ赤な樹脂が高価で取引されるという、ドラセナ属のリュウケツジュ。ロープや、ダーツのマトの材料となる繊維植物、リュウゼツラン交雑種サイザルアサ。ケニアのナクル湖国立公園の森林が有名で、岩山やアリ塚にも生えるという、謎めいた外見を持つ多肉植物エウフォルビア。木なの? サボテンなの? どっちでもないのがディディエレア(カナボウノキ)。他にもアロエ類、ナス科植物、カッシア(センナ)、ハイビスカス、ブーゲンビリア、ランタナ……などなど。日本で見かけるものもあるが、寒さに弱い植物も多く、温暖なちほーや温室でしか見られないものが多め。

*7
【青い】たとえば青菜・青梅・青竹と言うわけで……日本語は古来より()()()()()()()()()()()である。信号機の「青」も……もとは「緑信号」の通称だった「青信号」を法令改定して正式名称にして、さらにランプの緑色も青っぽく変えたほどだ。歴史をさかのぼると、「みどり」という言葉が色の名前として一般的になっていくのは平安~鎌倉時代ごろからで、学校教育で正式に区別され始めたのは戦後になってからのことだ。古代日本語では「赤、青、黒、白」の4色(「~い」と言える色)しか色を表す言葉がなく、「古代(あを)」は灰色・紫・藍・青・緑と、広い範囲の色を示す言葉であったという……。だが()()()()()()()という()()()()()()()()()()()()はずで……その証拠として、言語習得以前の、色覚異常の無い赤ちゃんの脳の活動を調べると、青色と緑色を見せるとそれぞれ違う反応を見せる。つまり日本語での区別の有無とは関係なく、ヒトは()()()()青と緑の光の波長の違いを視認できる。色の判別はできるが、()()()使()()()()()()()()()()()()だけだったのである……。結論を言うと、現代日本語には2種類の青があることになる――現代的な「青(blue)」とともに、古代「(あを)(blue/green)」が慣習的に残っているのだ。なお()()()()()()()()()()()は他にも、ものすご~くたくさんあるが……その話者の()()()()()()()()()()()とは、じつは全く別の問題なのである。

*8
【バオバブ】バオバブとは、アオイ目パンヤ科バオバブ属の樹木の総称。名前の「バオバブ」の由来は、アラビア語で「種が多い」を意味する、など諸説あり。バオバブの仲間は9種ほどあって、アフリカに2種、オーストラリアに1~2種、マダガスカルに6種が分布する。この庭に生えている「アフリカバオバブ」は最も大型のバオバブで、生長すると高さ20m以上、直径10mもの巨木になる。年輪が無いので樹齢はよく分からないが、どうやら数千年も生きるようだ。ラグビーボールほどの大きさの果実と中の多くの種子は、現地のヒトの食用にされ、ビタミンCとカルシウムが豊富。若葉や若木の根も食用になり、種子からは油がとれ、樹皮はロープに加工できる。幹のくぼみに雨水がたまって貯水タンクがわりになったり、巨木の内側の(うろ)は住居や酒場にすることもできる。とにかくヒトにとって有用な木に思えるが……しかし他の樹木に比べて、木材としてはもっとも利用しにくい木である。近年アフリカでは、気候変動が原因らしい、バオバブ古木のナゾの枯死現象が頻発しているとか……。その奇妙な樹形から、「悪魔が逆さにして植えた木」という伝承があり、またサン=テグジュペリの『星の王子さま』では、星に根を張りめぐらして破壊する恐怖の植物――当時世界を席巻しつつあったファシズムを象徴する存在として登場する。

*9
【アタシも食べる】肉食性のネコ科だが、イエネコからライオンまで、その多くが「草を食べる」ことはよく知られている。だがその理由はよく分かっておらず、毛づくろい(グルーミング)で飲み込んだ毛玉を吐き戻すため、消化を良くするため、ビタミンを摂取するため……など諸説ある。フレンズたちは、主要食物「ジャパリまん」のほか、果実なども時々食べるが、これは雑食である「ヒトの食性」の影響が強いからだと思われる。またフレンズ化すると可食できるものが増える――ヒト以外の動物にとっての毒物……ネギやタマネギなどのヒガンバナ科の植物、ナスやトマト、ジャガイモなどのナス科野菜、カフェインやテオブロミンなどの含まれるお茶やコーヒー、チョコレートなどに耐性を得られる――よーするに、ヒトが食えるモノはなんでも食べられる体になる。

*10
打製石器のナイフ【打製石器のナイフ】黒曜石はその割れやすい性質を利用し、薄く鋭利な刃物状にすることができる。石などにぶつけて割ってから、「押圧剥離(おうあつはくり)」と言って|鹿角《ろっかくや骨、木などの柔らかいものを押し付ければ、非常に鋭い薄片が作れる。黒曜石の石器は石器時代や縄文時代には、槍の穂先や矢じりとして使用され、鉄器を持たなかった中南米(メソアメリカ)の文明ではスペインに侵略される15世紀まで使用され続けていた。黒曜石の刃はとても欠けやすいのが欠点だが、その切れ味は非常に鋭く、現代でも手術用メスとして使われることがある。

*11
【板塀】木材や竹・トタン製の簡素なつくりの塀で、雨風砂ボコリを10~20年も受ければ、ボロボロに朽ちてしまうような安普請のもの。だが、こちらも「フレンズたちのボス」が定期的にメンテナンスを行っているらしく、古い板に混じって、新しいものに入れ替わっている部分がある。しかし修理の材料は、どこから調達してくるのだろう……?

*12
【看板】なぜか広告用の看板がたくさん張られている。ここの持ち主の趣味だろうか? 「ネコと和解せよ」「ネコを信じよ」「地と人はネコのもの 」「ネコへの態度を悔い改めよ」「私生活もネコは見ている」「ネコの国は近づいた」「ネコのさばきは突然にくる」……などと、不可解な文句を掲げる黒塗りに白と黄色の字のトタン看板のほか……レトロなホーロー看板も――オロナイン軟膏、アース渦巻、ハイアース、金鳥の広告など。※豆知識:45度傾いている正方形の看板があるが、これは水はけを良くするくふう。余談だが、ヒトの本で「字」を勉強したフレンズでも、こういう「商品広告」という概念をいまいち理解していない者が多く、それらはヒトの「おはなし」のワンシーンやキメゼリフだと思っている。教会のステンドグラスや、ギリシャ正教の宗教画(イコン)のごとく……ジャパリパークでは、大村崑や松山容子は「しんわ」の登場人物で、オロナミンCやボンカレーは「でんせつのアイテム」であると思われているのだ。これらの広告のほかにも、「緊急避難所」「地下シェルター」「健康ランドジャパリ湯」「けもの霊園(セメタリー)」「フレンズともえ学園」など、サバンナ地方の施設へのアクセスが描かれた地図看板もあるが、こちらは雨風と日焼けでペンキが落ちてほとんど判読できない。

*13
【ヒトの暮らし博物館】かつて、人間がジャパリパークにいた頃に建てた「パーク文化施設」のひとつ。人類の「有形・無形の文化遺産」を遺し、そしてフレンズにその重要性を教える目的で建てられた、こういった建造物は、パークじゅうに点在している。それにしても、熱帯草原のド真ん中に昭和風民家をオッ建てるジャパリパークのハコモノセンスはすごい! ……ところで看板に「ヒトの暮らし」と銘打ちつつ、実際は「昭和30年代の日本人の暮らし」限定なので、サバンナ地方のフレンズたちは「ヒトの生態」をかなり誤解しているのではないだろうか……?

*14
【スベリヒユ】スベリヒユ科の多肉植物。アフリカや中東あたりが原産で、古い時代に世界じゅうの熱帯や温帯地域に広まった。日本でもその辺の日当たりのよいところに生えている雑草で、乾燥に強い耐性を持っており、引っこ抜いて放っておいてもなかなか枯れない。一部地域では食用にされ、沖縄県では「ニンブトゥカー」、山形県では「ひょう」と呼ばれて山菜あつかいされている。実際におひたしにして食べてみましたところ、()()()があるホウレンソウのような味で結構ウマイです――生で食べるとちょっとすっぱいかも(作者談)。ヨーロッパでも野菜やハーブとして利用され、かのプリニウスの『博物誌』でも薬草として紹介され、ヒトの手が入ったポーチュラカ(ハナスベリヒユ)という園芸種も存在。なおスベリヒユは「CAM型光合成」という、乾燥地に適応した光合成をおこなう植物の一種だ。※通常、植物の光合成は、昼間に葉の裏の気孔を開いて二酸化炭素を取り込むが、暑い時間帯なので同時に水分も失われてしまう……しかしCAM型光合成植物は、涼しい夜間に気孔を開いてCO₂を取り入れ、昼の光合成用にキープしておくため、乾燥にとても強いというわけ。歴史をさかのぼると、熱帯・温帯ちほ~の食糧不足に悩まされた開拓者たち……たとえば19世紀オーストラリアの「バーク・ウィルズ探検隊」などは、「スベリヒユを食べていれば壊血病(ビタミンC欠乏症)で死ななかったのに……」などと言われている。※なお、ハナコは何でもとりあえず食べてみるクセがあるらしい。

*15
【食べられるかどうかテスト】世界標準可食性テスト(Universal Edibility Test)。手首・肘・太腿の内側など、敏感でかぶれやすい部位や、唇や口の中などの粘膜に野草を触れさせて、皮膚アレルギーを利用し、時間をかけて毒性を段階的に確かめる「パッチテスト」だ。しかしコレ、あくまでサバイバル時の最後の手段であり基本的には、確実に種類を同定できる植物を食べるのが望ましい。なおこのテストは植物用で、キノコには使えない。キノコの場合は、摂取して数日後になってから致死的な症状があらわれるようなヤバイものもあるため。

*16
【打ち水】気化熱での冷却(水分蒸発時の吸熱反応)で涼しさをもたらし、埃や砂塵を抑えて適度な湿気を与える……まさに自然式のクーラー&加湿器&空気清浄機。日本の夏の風物詩だが、湿気が多く住居や木々が密集して風が少ない日本よりも……乾燥していて、風で水分が蒸発しやすいこのサバンナ地方にこそ、ピッタリの仕組みである。打ち水と同様の原理のものはアラビアちほ~にも存在し、「マシュラビーヤ」というイスラム建築の風通しのよい格子窓のそばに、水を入れたツボを置いて、気化熱で建物内を冷やす仕組みだ。このサバンナ屋敷の打ち水には、水道水ではなく貯水した雨水や井戸水などを使うので安上り。また庭に植えられている植物にも、サバンナの厳しい日差しを遮る日陰となり、気孔から蒸発する水分によって気温を下げてくれる、いわゆる「緑のカーテン」効果がある。こうして乾季のこのお屋敷は、日中には涼しさを求めて多くの動物やフレンズが訪れる……憩いの(あるいは狩りの)公共施設なのである。

*17
【非電化式の冷蔵庫】「ジーアポット」とも呼ばれる、Pot-in-pot(二重ポット)式冷蔵庫だ。打ち水と同様に、水分蒸発の原理で気化冷却をする装置で、インドやアフリカ、アラビアなどの乾燥地域に向いている。古代エジプトで発明されていたらしいが、その後はサッパリ人類に忘れられており、現代になって「再発明」された。この冷蔵庫の材料は、大小のツボふたつと砂と水だけ。外側の大きいツボ(素焼きのもの)と内側の小さいツボの間を、砂で充填して水で湿らせる。外側ツボの多孔質の表面から水分が蒸発して冷やすしくみ。とくに風がよく流れる場所に設置すると、蒸発しやすくて冷却効果が高い。ちなみにこのサバンナ屋敷の「冷蔵庫」は、やはり水道水ではなく雨水等を使っているので、とても経済的なのです。

*18
【石灯籠】和風庭園の定番オブジェ。ここにあるのは、大きな笠と低いネコ足がついた「雪見灯籠」という種類のもの。もともと庭池の水面を照らすのに向いた形状の灯籠で、夜目の利かないフレンズのために足元を広く明るく照らしてくれる。明かりを入れる「火袋(ひぶくろ)」部分には、特殊な照明が仕込まれており、ゾウやキリン、ライオン、レイヨウなどの意匠の透かし彫りが彫刻されている。御影石(花崗岩)っぽい質感の石材が使われているが、実はジャパリパーク特有のテフラ(火山砕屑物(さいせつぶつ))の「サンドスター軽石」を加工したもので、見た目よりずっと軽い。竿の高さをネジで調節できるほか……隠しスイッチを押すとモーターで火袋部分がぐるぐる回ったり、照明の色が変化するといったクリスマスツリーじみたナゾ機能も搭載されている。風情のかけらもないが、フレンズやお子様は喜ぶのかもしれない……。

*19
【夜光る】実はフレンズたちのこのウワサ話は、とても的確な推測なのだ。生物が化学反応によって自ら光を放つ現象を「生物発光」と呼び、両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類には生物発光する種はいないが……魚類・無脊椎動物・菌類・原生動物・細菌類(バクテリア)などが、それもおもに海棲生物……とくに深海生物の8割以上が、いろんな目的のために生物発光を行う。身近なところだと、刺身用のイカを放置してたら夜光っててビックリ、というのは増殖してコロニーをつくった発光バクテリアのはたらき。このように海の生物では非常に一般的な発光現象だが、陸上では(ホタルは有名だけど)光を放つ生物はあまりいない。※なおヒカリゴケなどは()()()()()()()()()()だけで、そういうものは()()()()()()()()――太陽と月のちがいみたいなもので、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが生物発光。そのメカニズムは、ルシフェリンという基質(燃料みたいな物質)が、酵素(生体触媒)のルシフェラーゼの助けによって酸化するときに光を放出するという化学反応……ムダな熱エネルギーが少ない()()()()()と呼ばれる「ルシフェリン=ルシフェラーゼ反応」というもの。産業的にもこのふしぎな発光システムの応用が研究されており……この庭の「ジャパリ灯篭」はこういった発光微生物の培養液を使って、物理照明のLED以上に長持ちで電気代のかからない、近未来の生体照明なのだ!

*20
【イワハイラックス】ハイラックス科ハイラックス属イワハイラックス(ケープハイラックス)は、へんなけもの。外見はネズミやタヌキみたいだが、実はゾウやジュゴンの仲間。よく見るとヒヅメのかたちなどは、確かにゾウに似ているかも……。動物の4つの大きなグループのうち、アフリカ獣類(アフリカ哺乳類)というグループに属し、アフリカとアラビア半島で進化したけものたちの仲間だ。サバンナや半砂漠地帯などの乾燥地を好むが、高地や熱帯雨林にも生息。サバンナに棲むものたちは、コピエと呼ばれる岩場を好むぞ。足裏の肉球から分泌される粘着性の汗によって、まるで吸盤のように、岩場にピッタリ垂直に張り付く能力がある。日中よく日向ぼっこをする習性があるが、これは哺乳類のくせに「恒温性」が低い、つまり体温調節がニガテだからだが……でも食べ物は少なくて済むので、必ずしもデメリットというわけではない。小さなけもののわりに、妊娠期間が約8ヶ月と非常に長いのも特徴だが、これは祖先が大型動物であった名残りらしい。

*21
【じょじゅつとりっく】叙述トリック。ふつうのミステリーのトリックは作中で行われるものだが、叙述トリックは()()()()()()()()もの。その上手い例として、ここで具体的な作品名をあげたいところですが(ほら、超有名なアレとか、アノ作家で一番評価高いアレとか、誰もが絶対騙されるアレとか、最後のシーンですごくビックリするアレとか、超くだらなすぎるアレとか)……でも、ネタバレになっちゃうので、なんにも教えてあげませ~ん!

*22
【たぬきじけん】1924年(大正13年)に栃木県で起きた「たぬき・むじな事件」のこと。タヌキの禁猟期間中に、タヌキを捕まえた猟師が逮捕されて「この獲物はムジナだよ。タヌキとムジナって別物でしょ?」と主張して、結局無罪になった事件。「名前がちがう()()()()だと思い込んでいたが、実は()()()()()()だと判明した!」わけなので、「叙述トリック」の例?と言われれば……まあ、そうなのかもしれない。それにしてもキリンはものしり。

*23
【パンツ】日本語は「青と緑を区別しない」言語、という解説がありましたが……同様に下着(パンツ)ズボン(パンツ)を区別しないのが日本語でございます。だがしかし、日本人がパンティー(ショーツ)とズボンの違いを認識できないとか、服飾文化が未発達とか、そんなことは全然なくってぇ……まあでも、アクセントが違ったりはしますが……。しかしそういう()()()()()()()()()()は、「ヒトの衣服」を全部ひっくるめて「毛皮」「羽毛」「うろこ」などとしか呼ばないフレンズたちには、まるっきり縁が無いのです。

*24
【内開きの玄関ドア】日本では、雨仕舞が良くて風やホコリが入りにくい「外開き」構造の玄関ドアが多い。「雨季」があり砂っぽいサバンナ地方でも、本来は同じく「外開き」の方が好ましいはずなのだが……? ひょっとするとこの内開きの玄関は、例の異形の外敵ども「セルリアン」に対する()()()なのかもしれない。ドアが内開きなら、内側に家具を置くなどしてバリケードを作成できるし、ドアの「蝶番」が外に露出しないので破壊されにくい。

*25
琉金(リュウキン)】キンギョ品種の一種。キンギョという魚は「ギベリオブナ」というフナの突然変異で赤くなった個体が、中国などで長い間、色や形などを品種改良されてきた生物。そういうわけで品種がたくさんあって、比較的原種のフナの外見に近いワキン、丸っこい体とひらひらしたヒレが特徴の「いかにも金魚」な見た目のリュウキン、その変種のデメキン(必ずしも黒いワケではない)、高級金魚のランチュウなど。チョウテンガン、スイホウガン、ピンポンパールなど、ものすごくヘンテコな外見の連中もいて、こういう種類はあまりにも()()()()しているので原種に戻る「先祖返り」しやすい傾向があり、そうなると()()()()()()()が落ちてしまう。ちなみに「金魚鉢」は見た目こそ趣きがあるが……ポンプやフィルターを設置しにくい、水の体積に対して水面の面積が狭い(=酸素が水中に取り込まれにくく、酸欠になりやすい)など、比較的大型魚のキンギョの飼育には向いていない容器で……飼育水槽というより、一時的に入れておく「いけす」にすぎない。

*26
【セーブルちゃん】「セーブルアンテロープ」のフレンズ。別名クロレイヨウで、アフリカ大陸の南東部諸国とアンゴラのサバンナや森林に生息する、やや大型のレイヨウ。セーブルとは「クロテン」のことで、オスはその名前どおりに黒いけれど、メスや子供は茶褐色。このセーブルちゃんの髪や衣服は茶色なので、メスの個体や幼体がサンドスターでフレンズ化した子なのだろう。

*27
【下から開けていく】こういう引き出し類は、閉める必要がないように下から順に開けていくのがドロボウ時の基本! 空き巣は時間が命! ……さっきはしょうがないとか思いながら、色々とナチュラルに盗むし……ずいぶんドロボウ慣れしている……。「目が覚めたらサバンナでした」という緊急事態とはいえ、ハナコは窃盗癖――いやよく言えば、物品(アイテム)収集癖があるのでは~?

*28
【ジャパリパーク開園の記事】『20XX年! グランドオープン! 世界初、世界最後、世界唯一のアミューメント・ズー! 世界最大の超巨大動物園「ジャパリパーク」! 天国に一番近い島「中ノ鳥島」ツアーで、動物から生まれた不思議な女の子「アニマルガール」たちと握手!』と、見出し部分はこのように読めるが、記事の部分や画像は紙が劣化しすぎていて、ほとんど判読できない……。パークの地理情報や、日本からのアクセス、飼育動物や園内施設の紹介、法律的な記述や注意書きらしいのだが……。

*29
【けものマッチ】ハナコが名付けたわけではない。箱に表記されている商品名だ。ゾウ、キリン、ライオン、ダチョウなど、サバンナ動物が描かれたマッチ箱で、どれもこれもオシャレなデザインのものばかり。ジャパリパークのお土産として、写実的な絵柄のものや、マイナーなけものが描かれているマッチもあるのが特徴。また、防水・防風のアウトドア加工がされたサバイバル仕様のものも存在する。が、しょせんはお土産なので、普通のマッチとさほど変わらない。なお、使い捨てライターが一般的である現代ではマッチの需要はほとんど無いように思えるが……だが「マッチのほうがタバコやパイプが美味い!」と言う喫煙者の人や、「仏壇ではマッチのほうが雰囲気が出る」と言う人や、ボタンが硬いライターを嫌ってマッチを愛用する人など、そこそこ需要があるようで、コンビニや100円ショップでもよく売っているのを見かける。

*30
使い捨て(ディスポーザブル)ライター】注入式ライター(オイルや液化ガスを燃料補充して再利用できるライター)ではないライターのことで、とくに一般的に売られている「使い捨てガスライター」のことを指す場合が多い。100円ライターとも言う(でも1個100円より安い場合が多い)。「100円ライター」というワードは、東海(『チャッカマン』の会社です)により、1975年(昭和50年)に発売された『チルチルミチル』で有名になったそうだ。なお、ライターの着火方式はフリント式・電子式・電池式と3種類あり、作中で登場したモノは昔からある火打石(フリント)式。フリント式は()()()()のが欠点で、濡れた指で使うとヤスリ部分が濡れて全く点火できなくなるので注意――まあ乾季さばんなちほ~では縁の無い話だが……。かつてはライター側面には宣伝広告が描かれる場合も多かったが、この「ジャパリライター」にも、ペット用蚊取り線香の広告が描かれている。その昔、喫煙が一般的であった昭和の時代には、ライターはどこの家庭にもゴロゴロと転がっていたシロモノだが……近年では加熱式タバコが主流になって、使い捨てライターの売上は下がっているそうだ……。しかしキャンプ用や仏壇・墓地用、花火や蚊取り線香の着火用、あるいは模型作成用などと、まだまだ需要は多い。それにしても乾季のさばんなちほ~は日中の気温が高く非常に乾燥しているため、若干ゃ生えているイネ科の枯れ草に火がついて火事にならないよう、ライターやマッチの取り扱いにはとくに注意を払わなければならない。




【参考資料】

◆ラジアータ・パイン Pinus radiata 岡山理科大学 旧植物生態研究室(波田研)
http://had0.big.ous.ac.jp/plantsdic/gymnospermae/pinaceae/pinus_radiata/pinus_radiata.htm

◆ラジアータマツ 木材の種類と特性 日本木材総合情報センター
http://www.jawic.or.jp/woods/sch.php?nam0=rajiata

◆アフリカの森林寸見 浅川 澄彦 J-STAGE
https://doi.org/10.11519/jjsk.20.0_76

◆カタツムリの歯の本数や形など徹底解説! 情熱的にありのままに
http://lovetalk-info.com/katatsumuri-ha-honsu/

◆白砂青松100選:林野庁
https://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/higai/seisyou.html

◆ホウオウボク(鳳凰木、Royal Poinciana)【かぎけんWEB】
https://www.kagiken.co.jp/new/kojimachi/hana-royal_poinciana_large.html

◆ホウオウボク(鳳凰木) シンガポールの植物
http://lovecross1996.fc2web.com/sandaikaboku/hououboku/hououboku.htm

◆カエンボク(火焔木)【かぎけんWEB】
https://www.kagiken.co.jp/new/kojimachi/hana-african-tulip-tree_large.html

◆カエンボク(火焔木) シンガポールの植物
http://lovecross1996.fc2web.com/sandaikaboku/kaenboku/kaenboku.htm

◆ジャカランダ(Jacaranda)【かぎけんWEB】
https://www.kagiken.co.jp/new/kojimachi/hana-jacaranda_large.html

◆ジャカランダ シンガポールの植物
http://lovecross1996.fc2web.com/sandaikaboku/jakaranda/jakaranda.htm

◆竜が血を吐くドラゴン・ツリー 森のかけら|大五木材
http://morinokakera.jp/?p=862

◆真っ赤な樹液を出す不思議な木「竜血樹(リュウケツジュ)」 - DNA
https://dailynewsagency.com/2011/02/08/a_tree_that_bleeds/

◆緑色なのに「青信号」と呼ぶのはなぜ - 大学教授に聞いてみた マイナビニュース
https://news.mynavi.jp/article/20170427-green_light/

◆日本語における「青」と「緑」の混用、経緯を解明 - 東北大 マイナビニュース
https://news.mynavi.jp/article/20170303-a058/

◆Blue–green distinction in language - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Blue%E2%80%93green_distinction_in_language

◆マダガスカルの神秘的なバオバブの木。キナリノ
https://kinarino.jp/cat6-%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%95%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%AB/18126-%E3%83%9E%E3%83%80%E3%82%AC%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%81%AE%E7%A5%9E%E7%A7%98%E7%9A%84%E3%81%AA%E3%83%90%E3%82%AA%E3%83%90%E3%83%96%E3%81%AE%E6%9C%A8%E3%80%82%E3%81%8A%E3%81%86%E3%81%A1%E3%81%A7%E3%82%82%E8%82%B2%E3%81%A6%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%99%E2%99%AA

◆世界一大きなバオバブの木が南アフリカに! たびこふれ
https://tabicoffret.com/article/74634/index.html

◆アフリカバオバブ 巨樹探訪 木々の移ろい
http://www.plant.kjmt.jp/bigtree/kigi/baobablv.htm

◆アフリカ最古級のバオバブ、過去10年で大量枯死 AFPBB News
https://www.afpbb.com/articles/-/3178192

◆原因不明、アフリカの古木バオバブに迫る危機 ナショナルジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/061300257/

◆時をこえて十勝の川を旅しよう! 第2章先史時代 |帯広開発建設部
 1. 旧石器時代 コラム 黒曜石石器の作り方
https://www.hkd.mlit.go.jp/ob/tisui/kds/pamphlet/tabi/ctll1r00000045bq.html

◆石器部で石器を作ろう! 縄文ドキドキ会
https://jomondoki.com/2017/05/03/4207/

◆石器づくり体験
https://tokachiisi.com/page5/sub6.htm

◆誰も知らない「キリスト看板」(聖書配布協力会)の真実! 銭湯・奥の細道(東北の銭湯巡り)
http://1010meguri.blog.fc2.com/blog-entry-234.html

◆キリスト看板陳列館
http://www001.upp.so-net.ne.jp/monzou/index.html

◆れとろ看板写真館(琺瑯看板)
http://www.retro-kanban.com/

◆琺瑯看板探険隊が行く(ホーロー看板)
http://horotankentai.sakura.ne.jp/

◆【サバイバル知識】現場の自然素材からロープを作る方法とロープを作れる素材を紹介│旅をする記
https://ryo-yasukawa.com/survival-rope-nature-material-hand-made/

◆スベリヒユ 岡山理科大学 旧植物生態研究室(波田研)
http://had0.big.ous.ac.jp/plantsdic/angiospermae/dicotyledoneae/choripetalae/portulaceae/suberihiyu/suberihiyu.htm

◆食べられる雑草の最高峰「スベリヒユ」 デイリーポータルZ
https://dailyportalz.jp/kiji/150821194367

◆リアルに「道草を食う」為の「世界標準可食性テスト」 Qlay
https://qlay.jp/archives/6179

◆【世界標準可食性テスト】 米陸軍サバイバル全書まとめ
https://matome.naver.jp/odai/2136923191397170201/2137066183140071203

◆食べられる植物の見分け方とその危険性 - 火薬と鋼
https://machida77.hatenadiary.jp/entry/20100512/p1

◆氷の実験室 第9回 気化熱の「冷やす力」を知ろう|ニチレイ[こおらす]
https://www.nichirei.co.jp/koras/category/ice/009.html

◆氷の実験室 第10回 「エコ冷蔵庫」をつくろう!|ニチレイ[こおらす]
https://www.nichirei.co.jp/koras/category/ice/010.html

◆[作品9]「浴場から帰るアラブの少女」 豊饒なる埃及絵画展
http://www.aa.tufs.ac.jp/egypt/tenzihin/tenzihin09.html

◆産総研:目指せノーベル賞!じつは謎だらけ「発光生物」のミステリー
https://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/bluebacks/no20/

◆生物発光の色は何故、信号機の色が多い?赤、青、黄色の生物発光色 – ディスカバリーチャンネル
https://www.discoverychannel.jp/0000027032/

◆生物発光 日本生物物理学会
https://www.biophys.jp/highschool/C-24.html

◆「発光生物」 【2007年4月号】 生物学科 東邦大学
https://www.toho-u.ac.jp/sci/bio/column/200704.html

◆マッチの世界
https://www.match.or.jp/

◆燐寸倶楽部
http://www.matchclub.net/

◆Lighter & Smoking MANUAL(ライターとタバコの解説) 一般社団法人日本喫煙具協会
http://www.jsaca.or.jp/

◆100円ライターと言ったらチルチルミチル - 昭和の長屋横丁 もんじゃ酒場ききあし
http://kikiasi.blog.fc2.com/blog-entry-138.html

◆使い捨てライター:昭和生まれだ、文句あっか!
https://bonkura-oyaji.blog.ss-blog.jp/2010-04-30
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