目標:謎のフレンズと話す。
現在地:さばんなちほー西部/半乾燥地域/「さばんな屋敷」1階
時間帯:夕
近接武器:黒曜石のナイフ
所持品:結束バンド/植物繊維のロープ/水筒/ビニール袋/使い捨てライター
同行者:-
ヒント:動物園のオリに入れられている動物達の視点では、我々ヒトのほうこそ、「不自由な環境」に閉じ込められているように見えるのかもしれない……。なにしろ彼らはヘタなヒト以上に、大事に扱われている場合も多いのだから……。
第6話 ニンゲン、ゲットだぜ!
赤い西日が窓から差し込む。
天井から吊り下げられた電灯の暖色の光は、意図的に光量を下げられているようで、居間の四隅にうっすらと陰ができ、傷の多い丸いちゃぶ台を照らしている。
薄暗いタンスの上には……円筒形の郵便ポストの形の貯金箱と、プラスチック製の裁縫箱。その赤*1はほの暗く、青*2は際立って見える……。そして、造花の植木鉢の葉の色あせた緑や、密林の動物たちを描いた油絵の彩り豊かな緑*3……。赤色と緑色のちがいがはっきり認識できるということは、私には赤と緑の色覚異常*4は無いらしい。
二階から降りてきたフレンズは、居間でじっと立ち尽くしている……。
彼女(ロングヘアーやスカートからの推測)は私よりも頭一つ分ほどは背が高い、長身のフレンズ……。
逆光で顔や服装がよく見えないが、特徴的なシルエットを光の中に浮かび上がらせていた。アメリカ先住民の装いを思わせる頭部の翼と羽の飾り……。あれはアクセサリーではなくて、レイヨウのフレンズのように、髪の毛の一部なのだろうか?
小脇には、何冊かボロボロになった本を抱きかかえている……。
彼女の
もしかして、彼女は「鳥類のフレンズ」だろうか?
障子の影から様子をうかがう私と、目が合う。
お互いしばらく黙って見つめ合う……。
彼女は、携えている本を*5テーブルに置き、その中で一番大判の本*6のページをパラパラとめくりはじめて、とあるページを開いて私に見せつけてこう言い放った。
「キリン! ゾウ! ライオン! シマウマ!」
……予想だにしない反応に、私は戸惑った。
彼女の言葉は……どうやらその開いたページに書かれている項目と一致しているようだが……。
「あ、あの……すみません……」
「レイヨウ! カバ! イボイノシシ! ハイエナ!」
鳥フレンズは気にすることなく続けた。
円周率や駅名の暗唱のような……写真を見てキャプションを読んでいるわけだから、それとは違うが……。
「あのぅ……なんのことか、分からないんですけれど……」
「ほ~ぅ?
鳥フレンズはそう得意げにつぶやく。
「バス! ひこうき! ふね! でんしゃ!」
今度は別の本*7のページを私に見せつけて、その内容を私に朗読してきた。
こ、この行為はいったい……何の意図があるのか……?
「……ふふふ、お困りのようですねぇ~……?」
「は、はい……。まあまあ反応に困ってます……」
「お困りのあなたに、今から説明してあげますでしょう!」
「……お、お願いします」
「失礼、自己紹介がまだでしたわね。わたくしはヘビクイワシ*8と言います。この辺りでは、みんなに知恵をさずけるフレンズ……ちょっとした
そう言ってヘビクイワシは部屋の明かりのもとに進み出てきた。
「私はハナコといいます。私の友達が話していた『先生』ってフレンズは、あなたのことだったんですね……」
白と黒の長髪……赤いフレームの眼鏡からは、長いまつ毛がのぞく。カラカルやキリンと比べて、大人びた顔つきで――人間の女性で言うなら、年齢は二十代前半ほどに思える。
白い軍服のようなスーツを着ていて、肩に下がる金飾緒*9の先には筆記用具をぶら下げている。ビジネスウーマンのような装いだが、スカートのレギンスが活動的な印象だ。
髪の毛の先の飾り羽や、お尻から生えている尾羽はやはり鳥のそれであり、さっきの自己紹介どおりワシのフレンズらしい。
「説明しましょう! この、ぺらぺらした葉っぱのようなのが集まってるものは、『本』と言います。
ヘビクイワシが説明をはじめたが……。
え、えぇ……? まずそこの説明から入るのぉ……!?
「つまりこの『文字*11』からその音が分かれば……誰かの『声』を聞いているのと同じなのでありますゥ! さらに、ぎゃくに自分の『声』を文字に変えれば、いつでもどこでも、誰かに『お話』できるわけですぅッ! ……どうっ? どう~っ? 本とは、喋る葉っぱ*12なのです! すごいでありましょ~?」
ヘビクイワシは自信に満ちた態度で話を続けた。
「い、いえ、はい……あの……そ、そうじゃなくて……」
「ふっ……このすごさが分からないと、そうおっしゃるのでしょう? では、この絵も何だか分からないでありましょうね……?」
この
「これらの絵は『のりもの』と言うのですっ! ジャパリまんではなく、『でんき』というかみなりを食べて動くのです。あの
「あの……『本』も『文字*14』も『乗り物』も知ってますが……それより、どうしてあなたは……」
「なにぃっ! それはどういうことでありますか! あなたは見かけない顔だから、最近生まれた子でしょう? なのに、こーゆーことを知ってるだなんて……ううう、ウソおっしゃい! そ、それなら、これを読んでみてよ!」
彼女はひどく狼狽した様子で、ファイルを開いて私に見せてきた。
その記事*15。は、このジャパリパークの開発経緯に関する興味深い文章で――。
ぱたん。
……と、音読していたら、いいところでヘビクイワシに本を閉じられてしまった。
「……前に『博士』が言ってた事と、だいたい同じようなこと言ってるはず……。どーしてあなた、こんな難しいお話がすらすら読めるのですかぁっ!!」
あれ、何だか彼女はずいぶん
「このわたくしでさえ……難しい『かんじ』は読めないのにぃ!」
む、このパターンは……イヤな予感が……。
「ぐぐぐ、ぐやじぃ~! なんで、そんなにカンタンに読めちゃうのよう! わたくし、『ひらがなかたかな』をがんばって練習して覚えたのにぃ~……!!」
「ううう~~っ……うわああぁぁーん! ゆうざい!」
……うう……泣かせてしまった*16……罪悪感が……。
悪いことしたかな……いやでも有罪って……文字が読めることが罪*17だなんて、おかしいけれど……。
「す、すみません……気分を悪くしたのなら、ごめんなさい! 私は生まれつき文字が読めるフレンズみたいで……。私よりも、頑張って文字を覚えたヘビクイワシさんのほうが、すごいですっ!」
「ぐすっ……ホ、ホント? 本当にそう思う?」
「はい。できないことをできるようにするほうが、すごいです!」
「そ、そうよね。わたくしはすごいのですよ。なんてったって『先生』と呼ばれてますからね。先生が『せいと』の前で泣いてちゃダメでありましょう」
今泣いた
「そうですよ。先生が生徒の前で鼻水を出してちゃダメです」
よく怒ったり泣いたり笑ったりする、
「でも……よく考えたら、生まれつき文字が読めるなんて……?? あなた、何の動物なのでしょう……? !! ままま、まさか……!?」
元気を取り戻したヘビクイワシだが、様子がおかしい。
「……まず、耳がふたつしか無いのが大きな特徴でありましょう……。ゴリラかチンパンジーか、ボノボみたいな『れいちょうるい』の一種、それも『るいじんえん』じゃないかと思うけど……。でもあなたの毛皮は緑色だし、ナマケモノのかのうせいも……?」
ヘビクイワシはキリンのように推理を始めた。
「も……もしかして、
「は、はあ……どうやら『そのまさか』のようで、
私の傷口からは不思議な虹色の「サンドスター」の粒子が噴き出たり、「サンドスター」を経口摂取して怪我が治ったりするのは、まさしくその証拠か……。
今朝目覚めてから、はじめのうちは……アフリカかどこかで、何らかの犯罪に巻き込まれて記憶喪失になった日本人なのでは……とも考えたが……。やはり今までの出来事からすると、私は今朝生まれた「ヒトのフレンズ」である……らしい。まだ、その辺あまり実感がわかないのだが……。
生物は無から発生しない*18――それと同様に、この「私」の
「だって……『文字』が生まれつき読めるのは、ヒトの特徴だもの!」
ヘビクイワシはそう言うが、これは言いすぎ*19……。
……イヤ、さっき私が自分でそう言ったのか。
私たちの間に、しばしの沈黙の空気。
ぽてぽてとした足音が聞こえてきて、その静寂が破られる。
「ハナコぉ~どしたの~?」
「あ~、先生じゃない! やっぱり『村』にいたのね、私の推理どおり!」
「スプリングボックさんたちは寝ちゃいましたよ~」
「あの子たちは『やこうせい*20』じゃないからね」
「え-、そういうキリンさんだってそうでしょ~?」
「ふふふ……キリンは『はくめいはくぼせい』! それに名探偵というのは、ぜんぜん寝ないものなのだよ、アードウルフくん!」
キッチンでだらだらと
カラカル、キリン、アードウルフの三人が居間にやってきた。
「ちょうどよかった、みなさん! わたくしの知識と経験によると、どうやらこの子は……あのマボロシの
自分の仮説を三人に説くヘビクイワシ。
「おお、やっぱ先生もそう思う? このハナコは、あたしもヒトじゃないかと思ってたのよねえ」
カラカルが得意げに言う。
なんか以前にも同じようなことを言っていたが……パークにヒトがいないからどうこうって。
……今、
そ、そうか、そういう場所か、パークは……。
「人がいない」程度のレベルではなく……
ジャパリパークはまさに「けものの王国」というわけだ……。
「ハナコ、もしあなたが
ヘビクイワシが迫ってきて言った。
「ハナコ、あなたを『さいばん』にかけるのであります!」
「え゛!!」
思わず変な声が出た。
ど、どういう展開だこれ!
「おおーうっ! あの『さいばん』ごっこか! 『しょうせつ*21』で読んだことがあるわ! ハナコが『ひこく』ね……じゃあ私が『はんじ』になるわ! みんなは『ばいしんいん*22』というのになってね!」
おいこらキリン! わくわくしてゆーな! なんだその、運転手は君だ車掌は僕だ、みたいな電車ごっこのノリは!
「『さいばん』ごっこかぁ……それはおもしろ! いい動物か、わるい動物か、みんなで話し合って決める遊びよね。ハナコを『さいばん』しましょう! わるいフレンズなら、みんなで『しょけい*23』しちゃおう!」
助けてカラカルさん……と思った私が間違いでした。
「そ、そんな! ハナコさんを『しょけい*24』するだなんて……!」
アードウルフが慌てて言う。
ありがとう……私の味方はキミだけだよ……。
「かわいそうですから、私が優しく『しょけい』します!」
なんでやねん! 大人しそうな子のまさかのリンチ発言! どうして有罪前提で話すのか!
「では、ハナコには地面の下にある『ろうや』に入っていてもらいましょう」
ヘビクイワシが宣言する。
……え、牢屋なんてあるの、ジャパリパーク……。
「よおし! 逃げちゃダメよ! ひぎしゃかくほー!」
「ぎゃあ!」
おもむろに私の身体に、キリンがマフラーを巻き付けてくる。
セルリアンとの戦いで見せた、あの「マフラーさばき」が私の脳裏をよぎって、思わず背筋がぞっとしたが……今回のマフラーの扱いはたいへん優しいものだったので助かった。
私はマフラーで簀巻きにされて、フレンズたちに担がれて家の外へと運ばれていくのだった……。
「よいしょーこらしょー♪ ヒトを『ろうや』に運ぼう♪」
「ハナコを『さいばん』しよう♪」
拘束された私を運びながら、フレンズ達が陽気に歌う。
なんだか緊張感がないが、その無邪気さがまた不気味でもある。
……いや、フレンズ達が
彼女らフレンズ達のことは善良で友好的な人々だと思ってきたのは……私の思い込みに過ぎなかったのでは……?
その「優しさ」は仲間に対して与えられるものであり、
「でもって、わるいフレンズなら、さいごに『しょけい』しよう♪」
「よいフレンズでも、おまけについでに、『しょけい』しちゃおう♪」
げえっ! 悪い予感しかしない! どうやら法治国家の裁判じゃないぞ!
これは本当に「裁判ごっこ」だ!
「タッケテー! タッケテー! 無実だあっ!! 私は悪くねえっ!! 弁護士を呼べーっ!!」
「犯人はみんなそう言うっ!」
頭の下からキリンがそう叫ぶのが聞こえたが、う~ん、それは確かにその通りだな……。
で、でも……私を、いったいどこに運ぶつもりなのよ、みんな~!?!?
【参考資料】
◆プルキンエ現象 心理学用語集サイコタム
https://psychoterm.jp/basic/perception/purkinje-phenomenon
◆プルキニェ現象 いろいろ【まっち】んぐ
https://plaza.rakuten.co.jp/machi2406/diary/200901300001/
◆新撰組の制服とお葬式にまつわる話。 オヤノタメ活動アドバイザー 竹友孝行
http://iioyakoukou.com/%E5%B0%82%E9%96%80%E5%AE%B6%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%83%A0/osousikisinnsenngumiseihukuasagiiro
◆アンリ・ルソー-夢- サルヴァスタイル美術館
http://www.salvastyle.com/menu_impressionism/rousseau_dream.html
◆光のすがた 光を学ぶ Photonてらす
https://photonterrace.net/ja/photon/category/
◆光と色の話 第二部 第14回 ヒトの色覚と動物の色覚 シーシーエス株式会社
https://www.ccs-inc.co.jp/guide/column/light_color_part2/vol14.html
◆サルの色覚が教えてくれること 日経サイエンス
http://www.nikkei-science.com/page/magazine/0610/monkey.html
◆三上章允「霊長類の色覚と進化」 京都大学霊長類研究所 東京公開講座
http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/official/tokyo2004/index.html
◆なぜ霊長類はまた3色型色覚を獲得したのか:日経ビジネス電子版
https://business.nikkei.com/atcl/report/15/227278/021700042/
◆色覚の進化 第2回 「色」は光にはなく、脳の中にある ナショナルジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/16/012700001/012800002/
◆色覚の進化 第4回 なぜ霊長類はまた3色型色覚を獲得したのか ナショナルジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/16/012700001/020300004/
◆色覚の進化 第6回 「正常色覚」が本当に有利なのか ナショナルジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/16/012700001/020500007/
◆「カラーユニバーサルデザイン」って知ってますか? - ITmedia NEWS
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0703/15/news002.html
◆色盲の人にもわかるバリアフリープレゼンテーション法
https://www.nig.ac.jp/color/gen/index.html
◆カラーユニバーサルデザイン機構CUDO
http://www.cudo.jp/sikumi/
◆北海道カラーユニバーサルデザイン機構
https://www.color.or.jp/
◆MOZIの歴史
http://contest.japias.jp/tqj14/140391/
◆表意文字と表音文字に含まれる七つの文字体系の分類の総まとめ TANTANの雑学と哲学の小部屋
https://information-station.xyz/3571.html
◆世界の文字 世界言語博物館 - 世界の文字
http://www.chikyukotobamura.org/muse/writing_systems.html
◆【よく使う20文字のカタカナ】 - ドラゴンクエスト大辞典を作ろうぜ!!第三版
https://wikiwiki.jp/dqdic3rd/%E3%80%90%E3%82%88%E3%81%8F%E4%BD%BF%E3%81%8620%E6%96%87%E5%AD%97%E3%81%AE%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%80%91
◆カンボジア、クメール・ルージュによる虐殺の現場プノンペンの「キリングフィールド」を徹底解説! - タビナカマガジン
https://tabinaka.co.jp/magazine/articles/34304
◆【カンボジアの悪夢】独裁者ポルポトが残したものを肌で感じてきた旅レポート TRIPLER
https://tripler.asia/kannbojia/
◆ポルポトの墓 – APEXカンボジア
http://apex-cambodia.com/main/pol-pots-grave/
◆パスツールの実験 クリップ NHK for School
https://www2.nhk.or.jp/school/movie/clip.cgi?das_id=D0005300448_00000
◆WritingとReading JT生命誌研究館
https://www.brh.co.jp/salon/shinka/2018/post_000011.php
◆ディスレキシア 1 JT生命誌研究館
https://www.brh.co.jp/salon/shinka/2018/post_000012.php
◆人間から逃れるため哺乳類の夜行性化が進んでいる(米研究) カラパイア
http://karapaia.com/archives/52261346.html
◆夜行性から昼行性に完全移行した初の哺乳類は霊長類 恐竜絶滅後 研究 AFPBB News
https://www.afpbb.com/articles/-/3149581
◆大久保ゆう訳『アリスはふしぎの国で』青空文庫
https://www.aozora.gr.jp/cards/001393/files/57320_57183.html
◆山形浩生訳『不思議の国のアリス』プロジェクト杉田玄白
https://www.genpaku.org/alice01/alice01j.html