桃香放浪伝   作:にゃあたいぷ。

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第十四篇.会遇

 青州から幽州へ、そしてまた青州に戻る。それなりに長い旅路を経て、私達は平原へと戻ってきた。

 城を出た時には更地だった土地も今は開拓が進んでいる。遠目から見ても前来た時よりも活気に満ちていた。黄巾の賊徒が暴れている影響もあってか、他の土地からも人が集まっているのかも知れない。カッポカッポと街道沿いに馬を歩かせれば「劉備様じゃねえか、帰って来たんけ?」と道行く人に笑顔で話しかけられる。そんな彼ら彼女らに手を振り「また来ます、後で話を聞かせてください」と笑顔と笑顔を振り撒いて先を急いだ。城門まで辿り着けば、門番に取り次ぎ、「話には聞いています。どうぞお入りください」と丁寧な礼節と共に場内へと迎え入れられた。

 やはり、城内は以前と比べると活気に満ちていた。今を生きるだけで精一杯だったあの時とは違って、ちらほらと商店が再開しており、寂れた通りには人が住み着くようになっている。私達の他にも商隊が訪れているようだ。きっとあの時、平原に残ってくれた鳳統ちゃんが越ちゃんと一緒に上手くやってくれたに違いない。知識を齧っただけの門外漢とその道の専門家では、これだけの差が出るという事だ。

 早く会いたいな。と鳳統ちゃんと越ちゃんがいるはずの政庁に向けて歩を早める。

 

「ふむ、勝手知ったる我が家の庭と言ったところか」

 

 ふと槍を携えた白装束の少女が私達の前に歩み出る。

 

「ようこそ、平原にいらした。いや、帰ってきたと言うべきかな? 平原の戦姫、その活躍ぶりや耳に胼胝ができるほど聞き及んでおります」

 

 少女は拱手を持って、深々と頭を下げてから自らの名を口にする。

 

「我が姓は趙、我が名は雲。我が字は子龍と申します」

「趙……子龍って、常山の!?」

「如何にも常山の趙子龍とは私のこと。此度は劉備殿の案内役を買って出たは良いが、劉備殿が入った城門とは違う場所を張っていた為に遅れ申した。どうか御容赦願いたい」

 

 改めて頭を下げる彼女に「ううん、大丈夫だよ」と頭を上げるように促す。

 

「おお、なんと寛大なことか! 風聞に聞いた噂に違わぬ懐の広さ。この趙子龍、感服しますぞ」

 

 趙雲さんは大仰に喜んでみせた後、ふむ、と舐めるように私のことを見つめる。

 

「えっと何か?」

「いや、平原の戦姫が如何なる人物であるのか。ずっと興味を持ち続けていただけのこと」

「私も貴女の噂はよく聞いてます」

 

 心強いです。と私が笑顔を向けると、趙雲さんは複雑そうに唸り、寂しそうに笑い返す。

 

「……貴殿は武人ではないのだな」

「はい?」

「いや、なんでもない。それならそれでも構わない」

 

 趙雲さんは吹っ切るように笑顔を作り、片手を差し出してきた。

 

「平原の戦姫が味方となれば心強い。これから暫くの間、よろしく頼む」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

 私達はギュッと握手を交わして、改めて政庁へと赴くのだった。

 

 

「この書類にまとめられた通りに実行すれば、間違いはない。分からないところがあれば、聞いてくれても構わないが自助努力は尽くすように」

 

 そう言うと徐庶という女は長椅子に寝転んでしまった。

 鳳統が出払ってから一週間、彼女がまともに働いたところを見たことがない。幾つか書類を押し付けたところで意にも介さず、働かざるもの食うべからず、と言い放てば、(こう)芙蓉(ふよう)という奴婢に書類仕事を任せる始末だ。彼女が言うには「奴婢は自分の所有物であるから彼女の仕事の成果は、つまり私の成果だ」とのことだ。今も寇芙蓉に仕事を押し付けており、徐庶本人は朝から晩までだらだらと食っちゃ寝の日々を送り続けている。

 本来、武人の私ですらも書類仕事に忙殺されているというのに、どうして此奴はこうもぐうたら出来るのか!

 

「そもそも私は軍師希望であって、文官を希望している訳ではない。軍師とは軍の師と書いて軍師だ。この遠征軍の方向性については提示するが、こんな才能の多寡にも触れぬ雑事などを私に煩わせるな。義理あって姫を使ってやってるが本来、これらは下っ端の文官がやるべき仕事ではないか?」

 

 そして口を開けば、こうである。

 此奴の物言いには腹が立つ。しかし困ったことに此奴は鳳統が認めるだけあって、兎にも角にも口が立つ。ちょろっと愚痴を零せば最後、理屈と理論、それから前例と知識を畳み掛け、ぼろっかすに言い負かされる結果に終わる。後に残るは徐庶に対する苛立ちだけで生産的なことは何もない。あの温厚な鳳統が、能力は群を抜いて高いがおすすめしない、と言っていた意味がよく分かった。こいつは糞だ、屑である。居るだけで他人を不愉快させる才能があった。

 あゝ、早く首を切り落としてやりたい。

 

「へぇへぇ、それで軍師様は何をしていらっしゃるので? 無駄に糧食を食い荒らすのが仕事でして?」

 

 それでも憎まれ口のひとつも叩かねば、気が済まない。

 無駄だと分かって喧嘩を売る。我が事ながら堪え性がないことだ。

 徐庶は大きく溜息を零し、吐き捨てる。

 

「公孫賛殿は、もう少し器が大きいことを期待する。いや、妹がこれでは望みが薄いか?」

 

 今、ここで叩っ斬ってやろうか? 私の手が届くところに刃物があれば、抜いていたところだ。

 

「仕方ないな。馬鹿との話は無駄が多くて好まないが、この私が馬鹿にもわかるように懇切丁寧に教えてやる」

 

 そう言うと徐庶は長椅子に座り直し、私に向かい側の椅子に座るように手で促す。癪に思いながらも彼女の言われるがままに腰を下ろせば、横から茶が差し出される。横を見上げれば、寇芙蓉が小さく頭を下げる。できた人だ、徐庶にはもったいない人物である。

 

「先ずは現状確認から始めよう、認識の擦り合わせというものだよ。凡百の人間が天才の思考に付いていけるとも思えないのでな、天才の私が君に擦り寄ることで初めて会話というのは成り立つ。喧嘩もまた然り、大凡、交流と呼べるものの大半が同じ格でないと成り立たん、故に天才とは何時も孤独なものなんだ」

 

 うんうん、と頷く徐庶に「寂しがりやの癖に」と寇芙蓉が零して書類が積み重なる机に戻っていった

 

「して現状だが、青州に棲息する黄巾賊は少なく見積もっても十万は固い。とはいえ、戦闘要員だけで語ると半分以下になるだろうが――対する我らは幽州軍は三千五百、内五百が騎馬隊だ。青州で募った民兵を合わせても五千が限度。北海国の平昌城を拠点にしているという徐州軍も五千程度。力は蓄えているだろうが、今の御時世だ。八千……いや、七千もあれば御の字だ。官軍はまだ青州の地まで来ておらず、我らの戦力は足しても一万二千に過ぎぬという計算になる」

 

 此処まではわかるか? という問いに私は首肯する。

 黄巾賊は少なくとも五万の兵力があり、対する我ら、幽州と徐州の連合軍には一万二千という兵力がある。黄巾賊は戦って分かったが烏合の衆だ。奴らは作戦行動を取ることもできなければ、まともな軍事行動を取ることもできない。

 取り囲まれることだけに注意すれば、討伐することは充分に可能だろう。

 

「そう思っていたのだがな。士元(鳳統)の情報によると違うみたいだぞ?」

「……士元がそう言ったのか?」

「言ってはいないが、気付いてはいただろうよ。なんせ奴は、この私が認めた傑物の一人だしな」

 

 私には劣るがな、と徐庶は自信たっぷりに言い放ってみせる。

 

「数ヶ月にも及ぶ、一週間に一度あるかないかの散発的な襲撃。奴らの用兵はお粗末だが、それだけ攻撃をし続けられるってことには裏があるんだよ。少なくとも前線の奴らは誰かの支援を受けている。支援を受けられると云うことは拠点がある。しかし此処は青州、周りは海だ。対黄巾賊戦線を組んでいる徐州はシロだ、もちろん幽州もシロ。そうなると物資を持ってこれるのは冀州になるが、此処も可能性は低いだろうな。何故なら袁紹が躍起になって、黄巾賊退治に勤しんでいる。揚州の船も徐州に接岸せずに青州まで来ることは難しいだろうよ」

 

 つまり他州から青州黄巾賊を支援する勢力はない。そうなると必然、敵の生産拠点は――

 

「――青州内にある?」

「当たりだ。まあ答えられなければ、馬鹿を通り越して、文字通りの脳なしだがな」

 

 相変わらず、一言が多い徐庶の言葉を聞き流し、続く言葉に耳を傾ける。

 

「前線の兵は脳なしだが、裏で叛乱を手引きしてる奴はいる。そいつには多少の組織運営の心得があり、どうにかこうにか組織改革を四苦八苦しているところだろうさ」

「敵にも頭脳がいると云うことか? それにしては兵にまとまりがなさ過ぎると思うのだが……」

「たぶん首謀者は死んでるか、拘束されてるか。それが内輪揉めによるものか、知らずの内に討ち取ってたかは知らないが――いずれにせよ、無力化されていることには間違いない」

「何故、そう言い切れる?」

「自分で答えを言ったじゃないか。兵にまとまりがないのが、その証左だ」

 

 私が首を傾げれば、徐庶は大きく溜息を零して口を開いた。

 

「此度の叛乱は意図的なものだ。大陸全土で民衆を蜂起させることで漢王朝の処理能力を破壊しようとしている。事実、漢王朝は散発的に起こる民衆の反乱に手が回らず、各州における現場の収拾能力に委ねているのが現状だ。これは漢王朝の威信を失落させるには、実に理に適った戦略になっている。時は奴らの味方だ。中国全土を荒らしに荒らして、荒らすだけ、民心は漢王朝から離れて行き、いずれ大陸は漢王朝の支配から解き放たれることになる。その為には叛乱を鎮圧させない為に各地の黄巾賊を指揮する存在が必要なのだが――しかし、その為の存在を用意できておらず、未だに黄巾賊は賊であり、軍隊としての変革がまるで進んでいないではないか」

 

 これは奴らの失態だ。と徐庶は告げる。

 

「奴らは今、組織の変革に手いっぱいで軍事にまで手を回していないのさ。何処かで暴発した、詰め込んだ火薬が誤って爆発してしまったのか、せざるを得なかったのか。そこは分からないが、入念に準備をしてきた割には仕掛けが時期尚早だ。黄巾賊はただの賊であるからに、州刺史や将軍からの裏切り者は未だに出ていない」

 

 黄巾賊は叛乱軍ではない、黄巾賊はあくまでも賊に過ぎないんだ。と徐庶は言う。

 

「とはいえ奴らも馬鹿ではなかったようだ。今は拠点を整備し、組織を変革、いずれ前線の賊徒も軍としての体裁を整えてくるはずだが――少し遅過ぎたな。賊と認識されてしまった奴等には、もう世論を覆すことは難しい。このまま順当にいけば、いずれは奴らの敗北だ。しかし討伐に手間取れば、今度は漢王朝の威信が失われる。その先にあるは両倒れ。漢王朝の威を失った大陸は群雄割拠の時代を迎え、戦国乱世に突入するだろうな」

 

 うんうん、と徐庶が頷いてみせる。

 

「突飛な発想ですね」と寇芙蓉は言う。

「いやいや、これは必然だ。このまま漢王朝が手を拱いているようであれば、辿り着くべき終着点だ」

 

 くつくつ、と徐庶は肩を揺らして不遜に笑った。その姿を見て、私は確信を抱かずにはいられなかった。

 

「我らが見据えるは、その先だ。戦国乱世の環境で、どのように立ち回り、如何にして未来を勝ち取るか。気付く者は気付いている。公孫越、この世界は既に回り始めているぞ。それも加速度的にだ! 対応できず、付いて行けぬすべての者を置き去りにする! そんな世界がもう間もなくやってくる! 貴殿に乱世を生き抜く気概はあるか? 大陸を赤色で染めるような地獄の釜で、尚も姉に忠義を尽くす気概はあるか? 私のような天才と違って、貴様は凡夫だ。今から準備を始めなくては、とてもじゃないが間に合わないぞ?」

 

 漢王朝の行く末を案じる様子もなく、その先にある利益だけを見ている。これは問題児と言われる訳だ。

 心底、楽しそうな表情で笑い続ける徐庶に、寇芙蓉は呆れた表情を浮かべている。私も彼女には付いて行けそうにない。あまりにも価値観が違い過ぎる相手を、許容し続けられるほどの器が私にはない。そういう人物と割り切るのが関の山だ。

 面倒なことは全て偉い人に、彼女の真価を推し量るのは姉に任せてしまおうと考えを改める。

 

「徐庶殿、よろしいでしょうか!」

 

 外からの呼びかけに「ああ、入ってもいいぞ」と徐庶が告げる。我が軍の兵士、どうやら伝令のようだ。

 

「あっ、公孫越様! 失礼致しました!」

 

 そう畏る彼に「構わないよ」と嗜めた。

 

「それで、漸く来てくれたのかな?」

「はっ! 平原の戦姫、劉備殿が平原まで戻られました!」

「よし、これで私もこの優れた頭脳を働かせることができそうだな」

 

 徐庶は「謁見の準備を進めるように伝えてくれ」と告げた後で「ああ、そうそう」と伝令の男に問い掛けた。

 

「その劉備に供している人物が居るはずだ。確か名を糜竺と言ったかな? そいつも謁見の間に来るように言っといてくれ」

 

 伝令の男は「はっ!」と拱手で答えると、そのまま何処ぞへと駆け出してしまった。

 

「おい、幽州軍の長は私なんだが?」

「この程度のことで目くじらを立てるな、程度が知れるぞ? それに二度手間を省くだけのことだ」

 

 そう言って徐庶は太々しく足を組むと「姫、茶が欲しい」と告げる。

 

「現在、誠に心苦しいのですが貴女様の奴婢は両手が塞がっておいでです」

「これだよ、可愛くないだろう?」

 

 徐庶が困ったように肩を竦めてみせる。

 彼女よりも、むしろ寇芙蓉に共感を抱いてしまうのは必然というものだ。

 私を見つめて、なにかを察した徐庶は脱力するように息を吐き捨てる。

 

「やはり天才と凡夫の間には、絶望的に隔たる壁があるようだな」

 

 いや、鳳統とは普通に話せたけどな。

 

 

 趙雲に案内されて政庁まで辿り着いた私、桃香(とうか)は客間にて暫しの休憩を取った後で遠見の間へと通される。

 白蓮ちゃんがいる幽州(けい)県にある城の謁見室と比べると、幾らか質素な造りになっているが、それでも見劣りするという程ではない。私の右隣には柳香(簡雍)がおり、左隣には子仲(糜竺)ちゃんが怯えている。そして謁見の間の奥にある椅子の隣には公孫越が立っており、他にも私の見知らぬ少女がひとり、じろじろと値踏みするように私達のこと見つめてくる。

 子仲ちゃんが怯えるのも、それが原因のひとつにあるようだ。

 

「ふむ、まあ色々と話したいこともあるが、先ずは自己紹介から始めさせて貰うよ」

 

 少女は自らの胸元に手を当てると、不敵な笑みを浮かべて、尊大に、そして雄大に自らの名を告げる。

 

「我が姓は徐、名は庶。字は元直。水鏡女学院きっての鬼才とは私のことだ」

 

「水鏡女学院?」と私が首を傾げれば「士元の先輩だよ、私は」と彼女は心底、呆れ果てたように答える。

 

「その学問所の名前は聞いたことあるよ」

 

 代わりに答えてくれたのは子仲ちゃんだった。

 

「荊州にある男性禁制の学問所。俗世からは隔離された環境で数年間、勉学に励むことを強制させられるんだっけ?」

「如何にもだ。それなりの情報の伝手があれば、水鏡女学院の名を聞かぬことはありえないからな――ということは貴様が劉備の頭脳か?」

 

 そう問われて「えっ? 私が?」と子仲ちゃんが聞き返せば、ふむ、と徐庶は顎を撫でながら興味を柳香(りゅうか)へと移す。

 

「私と話が出来るのは貴様か?」

「私に学はないよ。これからの話をしたいなら私達の中では玄徳が適任かな?」

「……この抜けた小娘とか?」

 

 徐庶は再び私に視線を合わせると、むむむ、と眉間に皺を寄せた後で「まあいい」と仕切り直す。

 

「単刀直入に訊く、どれだけの物資を買い込んでくれたのかな?」

「えっ?」

「おいおい、本当に大丈夫なのか? わざわざ最短経路を通らずに寄り道をしていたことは分かっている。行商をしながら物資を蓄えてくれたのか、もしくは策があり、その為に必要なものを買い込んで居たのだろう? その為に商家として名高い糜氏の者を……おい、まさか、おいおいおい、お前達、まさか小遣い稼ぎの為に寄り道して来た訳ではあるまいな?」

「……えっと、その?」

 

 私が言い澱んでいると「しょ、商家の人間は利益にならないことはしたりしないもん!」と隣の子仲ちゃんが声を張り上げた。

 

「貴様は馬鹿か。ここで公孫賛に恩を売って自らの能力を示しておけば、大口の取引先を手に入れることができるだろうが。小さな労力で後の大きな利益を買うんだよ。目先の小銭で満足しているような奴が商家を名乗るな、馬鹿者。いや、愚か者め。好機と遭遇するには運が絡むが、好機を好機と知り、好機を掴み取るは純粋な実力だ。その頭にしっかりと脳を詰め込んでから出直して来い」

 

 うわ、酷い言いようだ。子仲ちゃん涙目になってる。「その辺りにしておけ、徐庶」と彼女の後ろから旧友の面影を持つ越ちゃんが割って入る。

 

「平原の統治は劉備殿に移譲される。近々、私は異民族からの守りを固める為に幽州へと戻らなくてはならない」

「……その話、私は聞いていなかったのだが?」

「話すのも面倒だったからな」

「立場的にはお前が上に立つべきだ」

「幽州からでは青州を治めることはできない。そして私は武人だ、文官の真似事はできない、統治なんてとんでもない。精々、数ヶ月も維持するのが限度だ。それに私には幽州の地で果たすべき使命もある。討伐後に私が幽州に戻る事も考えると早いうちに劉備殿が旗頭になるのが一番なんだよ――と、御姉様が送ってきた書簡に書かれていた」

 

 それまで黙っていた越ちゃんが私を見据えて、心持ちすっきりとした顔付きで告げる。

 

「劉備殿、この徐庶という者は性格こそ酷いが能力は本物だ。使い熟してみると良い。そして徐庶、御姉様への紹介が欲しければ此処で功績を立ててみろ」

「……公孫越殿、その紹介は軍師待遇としてだな?」

「それに見合う功績を立てられるのであれば、だな」

 

 徐庶は暫く越ちゃんを睨み続けた後で「場所を変えるぞ」と皆に告げる。

 

「このまま軍議に移行する」

 

 何処までも身勝手な振る舞いであったが、公孫越は困ったように肩を竦めただけで彼女の後ろを付いて歩いた。

 彼女が付き従ったからには私達も後を追い掛けざるを得なかった。

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