「…気を失ってただけか」
ズキズキと痛む頭を抑え、辺りを見回す。
先程とは打って変わって鉄屑となった建造物には大穴が開き焼き焦げている。
見た事の無いロボットの様な残骸がこちらに銃口を向けたまま機能停止しているのも気になるが…
一番問題なのは俺を庇う様な姿勢で覆いかぶさっている
「おい…大丈夫か!?返事をしてくれ!!」
…いや確証は無いんだが轟沈ってカードが燃えるように消える演出が入っていた筈だ、動画で見た事しか無いから断言は出来ないがもしこの世界でも同じなら肉体は消えるのでは無いか?…いや俺がそう思いたいだけか。
彼女の身体の彼方此方に無数の鉄の杭の様なものが突き刺さっている。
鉄の杭自体に相当な熱が込められていたのか肉が焼け、幸いにも流血は無いようだ。
と言ってもここまで無残な状況では流血していないから問題ない訳がない、動かない時点で危ないだろう。
「どうすれば…いいんだ…?」
ここには俺一人、ゲームのように妖精さんが見えるわけでも無ければ頼れる明石も居ない。
ボタン一つで入渠させる
鉄屑の残骸塗れの家がある。
正式にはあるかも知れない、気絶している間に何があったのか知らないが建造物は焼け焦げ翔鶴はこの有様だ。
残っていないかも知れないのが事実、だが信頼できるマイホーム(?)なら生き残って(?)いると信じるぜ!
…家が残っていた所で翔鶴を治す手段が思いつかないが。いや“一つだけ”思いつくのだがそれがこの世界で通用するのか分からない。
「翔鶴、ボロボロだな…もしかして俺を庇って…」
翔鶴を抱き抱え、改めてその身体を見てみると可憐で華奢な体には似合わない傷が無数に付けられていた。
弾痕や裂傷、火傷に力なく垂れ下がる右腕。骨が何本折れているのかなんて考えたくも無い。
瓦礫の山を走り抜け、先程よりも決壊した家の扉を蹴り飛ばして風呂に向かう。
水の溜まっていない浴槽に傷だらけの翔鶴をゆっくりと寝かせる。
…水道は止まっている、まず一つ目の可能性はとざされた。
こうなれば“コレ”しか思いつかないが賭けるしかない。
ポケットの中に入っていたクシャクシャの1000円札を天井にかざしながら俺はこう叫ぶ。
「ポイントチャージ!」
虚しく風呂場に俺の声が反響する…
「…よし、ビンゴ!」
事も無く、手の中の1000円札は跡形もなく消えていた。
課金システムはどうやら生きているらしい、なんで生きてるかとか俺にも分からないけど。
「高速修復材を購入!」
〔「「手続きが完了しました」」〕
頭の中で機械音声がそう囁く、俺の腕の中にはゲームの中でいつでもお馴染みだった緑の万能バケツさんだ。
足元に5つバケツさんが置いてある、購入されたのは300pの通常セットらしい。言ったら出てきてしまう事を考えるとあまり購入購入言うのは避けた方がいいかも知れない。
「これってどうやって使えば良いんだ?」
アニメだとお湯に溶かして使っていたか、だが今はそのお湯さえ貼られていない空の浴槽。
…頭からかけて大丈夫なのか?不安は残るがこの状態のまま翔鶴を放置する訳には行かない、可哀想で仕方がない。
「頼む神様、翔鶴を治してくれぇえええぇ!!!」パァン!
翔鶴の頭から黄緑色の液体を優しくかけると両手で持てるサイズのバケツからはあり得ない量の液体が溢れ出し浴槽を満たす。
俺がやれる事は迫真の全力合掌、全身全霊で神頼みを繰り返すのみ。
時計君が刻んでいた時間によればそれは10秒にも満たないような出来事だったらしいが俺にとっては永遠の様に感じる時間だった。
その永遠の時間は女神の声で、止まっていた時間が再び動き出す様な錯覚をしてしまう。
いいや俺の時間は動き出したのだ、間違えでも何でもない。それが真実なのだ。
「…提…督」
「目が覚めたか翔鶴!」
…この目で見るのは初めてだがバケツさんと言う物は凄まじい効力を持っているらしい。
突き刺さっていた杭は跡形も無く消え、彼女の体には傷一つ残っていなかった。
一番良く分からないのは服までじわじわと治って居るがどう言うギミックなんだ。
ンな事はどうでもいい、目の前にいるのは最愛の彼女だ。画面越しじゃない彼女は今ここに居る。
意味不明な世界なのが悔やまれるが彼女とラブラブ生活を送れる日は近いって言うか今じゃない?
「結婚しよう!翔鶴ゥゥゥゥゥゥ!!」
「…えっと、提督…。もう私達…してますよね?」キラキラ
いよっっしゃあああああ!!!!!!任務クリア指輪兄貴続投ゥゥゥゥゥゥ!!!
ギンギラギンに輝く指輪は俺達の愛の結晶!圧倒的すぐる愛の結晶なりいいい!!!!!
ゴホン、取り乱した。彼女の指にはめられている指輪は俺が最初に獲得した、大本営から送られてきた指輪だ。
“カッコカリ”とか言う名称が気に食わな過ぎて大声で叫んだ時期もあったが彼女はバリバリ結婚に応じてくれた。
いやぁ最高だよ翔鶴ェ…
「いや最高だよ翔鶴ェ…」
「提督、居ない間に何があったんですか…」
「俺はんなぁにも変わっていないさ翔鶴ぅ…、君の為だけに俺の命はある」
強ち嘘では無い。と言うのも俺は凄まじい飽き性である。
モチベーションが下がっても艦隊これくしょんと言うゲームを未だ続けてこれたのは間違えなく翔鶴の存在が大きい。
と言うか最近は彼女に会いに行く為にログインをしていた気がする。
「…ん?居ない間?、俺毎日ログインしていなかったか?」
「ログイン…と言う言葉はわかりませんが提督は2年前に消息不明になられたではないですか」
「私も瑞鶴も…他の皆さんも凄く心配していたんですよ…」
「へ?俺が二年間未ログイン?」
…そんな筈はない、最低でも昨夜ログインの筈だ、ファミレスで梶木に翔鶴を自慢した記憶が俺の中にはある。
それに翔鶴の表情を見ても嘘を付いている様には見えない。
「…今は何年だ?」
「確か…2168年だった気がしますが…どうかしましたか提督…?」キョトン
「2168年ンン!?」
いやぁ翔鶴の仕草は全てが可愛らしい…じゃなぁい!2168!?2020年から何年後だよ!知らないよww
え?あれって近未来じゃあ無いのかい?いや全部ユーザー次第で決まっていた気がするしこんな正確な数字が出るのはおかしくないか?
「提督…本当に大丈夫ですか…?休まれた方がよろしいのでは?」
「俺は大丈夫…だと思う」
「いや翔鶴こそ休め、あんな傷だらけだったんだ。傷が無くなったとは言え無理はして欲しくない」
「提督…」
いやそんな悲しい表情をされると…唆るぜこれはぁ…!!
じゃなぁい、うぅむ、詳しい事情が分からないのはかなり痛いな。
「そうだ翔鶴、第一艦隊の皆はどうしているんだ?」
俺は単艦放置はしない(腐れ外道)
いや一人で翔鶴を待機させて演習でボロ負けさせるのは可哀想でしょうがなかったのだ。
だから最高戦力を第一艦隊に配置して放置していた。
最初期から現在まで、辛い時や楽しい時も
同じく初期メンバーにして長く苦しいイベントを共に乗り越えてきた川内。
参入こそ遅かったがイベントや通常海域のどちらでもその火力を存分に発揮してくれた長門。
改二駆逐として遠征も演習も出撃も全て一人でこなして来た夕立。
事実上の俺の妹であり叢雲や川内と並ぶ初期メンバーの瑞鶴。
そして俺の妻であり最高レベルを携える最強の空母…翔鶴。
最強の第一艦隊は俺の誇りであり無敵の艦隊だった。
だからこそ翔鶴が一人で居ることがおかしいのだ。
二年間の謎のブランクで何かあったとしか考えられない。
「随伴艦の皆さんは全員無事です。…今は」
「今は…?」
今、この言葉は不安しか残らない。
「提督が居ない間に大本営は深海棲艦の掃討作戦を計画しました、列強国も妖精事業に参入する一大計画です」
「掃討作戦…」
梶木が聞いたらブチ切れそうなイベントだなぁ。
「優秀な艦娘は振り分けられ、連合艦隊の旗艦を任される事になります」
「まさか振り分けられたって言うのか?」
「…はい、その通りです、提督が居ない間に皆さんは優秀な艦娘として無数の艦隊に振り分けられました。」
うっそーん。え、人の艦娘を勝手に持ってくか普通?
「…あれ?翔鶴は何で振り分けられてないの?一番強いよねウチの艦隊で」
「提督不在のケッコン艦は保留、と言う事で大本営が決定しました。指揮権はケッコンした提督にあるとの事ですとかなんとか。」
「じゃあ提督が居たらどうなってた?」
「それはその提督次第らしいです、私が見たのは俺が指揮するなら良いとおっしゃっていた提督とか…」
そこは意見を組むのか。いや全部組んでくれよ(絶望)
「…それじゃあ皆はもう出撃したのかよ!?」
「いいえ、深海棲艦の新型空母に爆撃されて計画は延期になりました」
新型。ひぇっ、ロクなもんじゃない未来が見える見える…
「星の名を冠した者、
星姫?棲姫じゃ無くて水姫でも無くて星姫?いやどこ行くねーん。
(イベント海域天の川とか求めて)ないです。
「じゃあその新型をぶっ壊せば俺の艦娘達は帰ってくるのか?」
「…いいえ、作戦を止めるには深海棲艦の司令塔を叩かなければなりません」
「司令塔ってもう見つかったの?え?深海提督きたの?」
「終焉創世姫、それを叩かなければ深海棲艦を止める事は出来ません…」
【悲報】この世界、俺の知っている艦これの世界じゃ無い。
最初に合流するとしたら?
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川内
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瑞鶴
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長門
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叢雲
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夕立