ザクウォーリアは決して悪いモビルスーツではない。少し手を加えれば格上の相手、そう「ガンダムタイプ」ともまともに戦えるだけのポテンシャルを誇る「ザク・シリーズ」と呼ばれる機体だ。
「その上、素材も沢山手に入るしね」
砂避けの茶色フードコートに身を包んだレイチェル、彼女の手の内には「ザク」のデータの元となる「とれーでぃんぐ」カードが数枚、その他必要な手斧等のかさばるパーツはすでにその手の者に頼んで、ザクウォーリア共々エアーズロックのGシステムへと運んでもらった。
「お嬢ちゃん、乗りなよ!!」
「頼みます!!」
レイチェルは男の声にそう返しながら、その古びたトラックの荷台にとその細い身体を飛び込ませる。
「カード十枚にヒートホークの基部、そしてモノアイか……」
そして、Gシステムの管轄者達に手渡す「手土産」と、彼女の準備は怠りない。
「まあ、これだけあれば」
「俺のジェガンも、改良出来るかな……」
「ん?」
先客だ、トラックの荷台にと乗っている、金髪の少年が溢したその声に。
「失礼……」
「何だよ、あんた?」
「いや、別に……」
レイチェル、彼女はその首を軽く傾げる。どこかで聴いたような声であったからだ。
「……」
「……」
トラックの中には他に乗員はおらず、何か気まずい雰囲気が二人の間を包む。
「……コホン」
「……」
「な、なんでもねぇよ……!!」
「何も言ってないわ、あたし」
――――――
気まずい時間が小一時間ほど続き、レイチェルらを乗せたトラックはエアーズロック、昔の世界遺産だか何だかよく解らない巨大な岩々の付近にと立てられたGシステムの近くにとつく。
「んーん……!!」
正直、伸びをしたレイチェルは自身の身体を覆うフードコートを脱ごうかとも思ったが、外の空気は乾燥をしその日差しも強い。
「まあ、しばらくの辛抱かしらね」
「何を言ってんだか……」
「何よ、あんた……」
トラックでの同乗者、金髪の少年はレイチェルの顔に不審げな瞳を一つ投げつけた後、Gシステムふもとに集う「集落」へとその脚を運ぶ。
「あれ、あなたもGシステムに用事が?」
「あっちゃ悪いかよ……!!」
その少年は何か、早足でGシステムふもとへと駆けていく。急いでいるのだろうか。
「あのザクウォーリアに、勝ちたいからな……」
その口ごもった彼の言葉はレイチェルには届かない。そのまま彼女レイチェルは一つ肩を竦めた後、ゆっくりとした足取りで集落を目指す。
バァサ……
強風がレイチェルのフードを跳ね、彼女の美しい顔立ちが日の光の元で露になる。その顔を覆う紺色の髪、それもまた太陽の光を浴びてキラキラとした輝きを周囲にと放っている。
「いい天気……」
確かにレイチェルの言う通り、快晴が良い天気と呼ぶのであればそれは良好な天気なのだろう。実際には強い紫外線が気になる天気なのだが。
フォウ……
それに気がついたレイチェルの事を嘲笑うかのごとく強く風が吹き、そのまま彼女のフードを大きくはためかす。その茶色のフードを頭にと覆わせながら、レイチェルは自機「ザクウォーリア」を取り寄せている集会所にその脚を向かわせる。
――――――
「あら、シェルド君」
「あっ、レイチェルさん……」
「マリアさんはいる?」
「いえ、今仕事中で……」
「そう……」
無論、レイチェルにとってはこの寂れた集会所で顔馴染みである女性に会えなかったのは残念であるが、今はそれよりもザクウォーリアだ。
「ザクウォーリア、届いているかしら?」
「届いているとも、レイチェル」
集会所の顔役、彼の言葉に彼女レイチェルは頷いてからその顔のフードを外し、そのままミルクを一杯注文する。
「軽い酒はどうだい、レイチェル」
「飲めないんです、あたし」
「その歳では、飲めないとバカにされるぜ?」
「ダメなものはダメなのです」
そう言葉を掛けた顔役の大男、彼の声に苦く笑いながら、レイチェルはカップに運ばれてきた羊のミルクにそっとその唇を付ける。
「親父さん」
そのとき先程のシェルド少年、薄茶色の髪が美しい少年が集会所の、モビルスーツ乗り達が集まる集会所の親父役にそっとその顔を近づけ。
「キャラバンが、また一つ壊滅させられたそうです」
「またか……」
何やら、深刻そうな言葉を掛けた。
「キャラバン、盗賊の話?」
「そうです、レイチェルさん」
「へえ……」
もちろん、ここ最近盗賊達の活動が活発であるとはレイチェルも聴いている。そもそも彼女のようなフリーのモビルスーツ乗りにその盗賊退治の依頼が多く来ることからも、その状況が窺える。
「なにやら、盗賊達の中に凄腕がいるらしい」
「凄腕、モビルスーツ乗りですか親父さん?」
「決まっているだろ、レイチェル」
そのままレイチェルはミルクのお代わりを要求しながら、何かをその頭の中で考え始めた。
「……おい、レイチェル」
「……はい」
強い日差しが室内の埃を際立たせる光景、それをボンヤリと見つめているレイチェルは、その「名うて」とやらの話に注意を奪われている。
「大丈夫、無理はしません」
「そいつが知り合いの仇だとも、決まった訳ではない」
「はい」
「それよりも先に、お前さんは」
夕陽が照らし始めた集会所、そのカウンター席で親父は一枚の紙切れを取り出して。
「自分の愛機の手入れだろ」
「そうですね……」
「ザクウォーリア、あの情報パーツならばビーム突撃銃の他にも何かを造れるようだ」
「換装パーツが造れるでしょうか?」
「さあなあ……」
三杯めのミルクをその口の中に流し込むレイチェル、その彼女の浅黒い横顔を、シェルド少年は何かポワリとしか表情を浮かべながら見つめていた。
――――――
Gシステムというものは、無から有を造り出せる夢のような装置である。
「データ、インストールと……」
係員が装置を動かすその手を見つめているレイチェル、彼女の知識ではこのGシステムの造り出せる物に際限はなく保存食からモビルスーツ、人型の戦闘機械まで何でも造れるようだ。
プッ、シュウ……
最も、限度というものはあるのであろう。で、なければこの装置の暴走で「大破壊」とやらが起きた理由が説明出来ない。
「出来ました、レイチェルさん」
ガラス越しに見つめる、目の前の広大な空間、その中には巨人モビルスーツが扱う銃器と、自機ザクウォーリア用と思われる大型ブースターの姿がある。
「ビーム突撃銃、グレネード、そしてカードからブレイズ用のバックパックです」
「ありがとうごさいます」
「いえいえ……」
もしも、世慣れした女であればここで職員に色目の一つでも使って交渉をまとめる手助けにでもする所であるが、生憎とレイチェルはいまだ少女であるのだ。
「あっ、コイツは!!」
その時、レイチェルの次にと並んでいた少年、トラックで一緒になった金髪の少年がGシステム内部のハンガーで佇んでいるザクウォーリアを指差し、驚いた声を上げる。
「あのときのザク!!」
「そうか、やっぱりあのジェガンとやらのパイロット……」
「ここで会ったが百年目!!」
そのまま少年は、少し彼を冷たい視線で見つめているレイチェルに向かって詰め寄ろうとしたが。
「ここは荒事は禁止です、お客さん!!」
「だけどもよ!!」
「変な荒事をしたら、あなたの希望は叶えられませんよ!!」
その職員の言葉を受けて、金髪の少年は今にもレイチェルに掴みかかろうとせんばかりとなっていたその両手を下にと下ろす。
「じゃあね……」
「俺の名はジュナス・リアム!!」
「だから、何ですか……」
「お前を倒すのは、この俺だ!!」
「ハア……」
その言葉を聞き、レイチェルは「バカは相手にしてられない」とばかりにその頭を振った。
「何か、バカなんじゃないですかねこの人……」
「何か言ったか!?」
「何でもありません!!」