風霊のレイチェル   作:早起き三文

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第7話「燃えるオーストラリア」

  

――逃げて、レイチェル!!――

――母さん!!――

 

 半裸のまま、燃え盛る炎の中を逃げ回るレイチェル。しかしその彼女に。

 

――ウ、グゥ……!?――

 

 異形の者が、強くのし掛かる。

 

 

 

――――――

 

 

 

 この空に見える星は綺麗だというのに、レイチェルは先程見た夢のせいであまり気分は良いとはいえない。

 

「レイチェル」

 

 その、ぼんやりと夜空を見上げている彼女にジュナス、夜の警備についていた少年が小さく声をかけた。

 

「夜は冷える、天幕の中に入りなよ」

「ありがとう、ジュナス」

 

 ガゥン……

 

 そのレイチェル達の背後、すり鉢状に拓かれた岩肌の中で、静かにGシステムが作動する音が聴こえる。

 

「何でも、ガンダムとやらが出来たみたいだな」

 

 ジュナスのその話はレイチェルも聴いている。先のアリーナでマリア達が持ってきた荷物、それにガンダム・タイプの情報が詰まった「とれーでぃんぐかーど」や、そして「ぷらもでる」が入っているのをレイチェルはその目で見たのだ。

 

「ガンダムを、どうするつもりだろうな、レイチェル……」

「さあ……」

 

 と、ジュナスに生返事をしなからもレイチェルにとっては、今のこのご時世では単純な兵器としてしか見られない。

 

「遠い異国では、政府とやらもあるみたいだけど」

 

 しかしあくまでも風の噂だ、少なくともこのオーストラリアでは、ただ人はその日その日を過ごす事しか出来なくなっている。

 

「それよりもさ、レイチェル」

「何、ジュナス?」

「あの噂、聴いたか?」

「だから、何よ」

「誰も人が乗っていない、無人のモビルスーツが人を襲っているって」

「……」

 

 それもレイチェルは昔から噂で耳にする。彼女は遭遇をしたことがないが。

 

「ジュナス、あなたは出会った事があるの?」

「一回会ったぜ、やり合った」

「どうだった、ご感想は?」

「んーと……」

 

 レイチェルにとっては、相手の言葉尻を取った遠回しである性的な言い回し、背伸びした言葉であったが。

 

「何かよく解らない、不気味な相手だったよ……」

 

 ジュナス・リアム、この純朴そうな少年には届かなかったようだ。

 

 

 

――――――

 

 

 

 朝日が海から照りつける荒れ野原、ジュースを飲みながらそれをじっと見つめるレイチェルの耳に。

 

 ガシュウ……

 

「あれが、ガンダムとやらが起動した音かしら……?」

 

 Gシステムからの重音、それが独特的な唸りをあげて飛び込んできた。

 

「……」

 

 ガンダム、といえば先日に戦ったアリーナでの相手、それもガンダム・タイプであったし。

 

「はあ……」

 

 昔、彼女レイチェル達を業火に突き落としたモビルスーツ達、それを率いていたのも「ガンダム」である。

 

「ガンダムには、あまり良い思い出がないのよね……」

 

 ため息を付きながら、レイチェルは軽く背伸びをしつつ自機ザクウォーリアを見上げる。本来ならどこか改良の一つでもしたいのだが、生憎と今の彼女には先立つものがない。

 

「ん?」

 

 その時、レイチェルは何かを、遠く離れた場所で何かが光るのをその目にした。

 

「何かしら……?」

 

 ジュースを一息に飲んでから、その方向をじっと見つめるレイチェル。その時。

 

 ドッ!!

 

 Gシステム、発見されたそのシステムの基部に着弾するような音が聴こえた。

 

「奇襲!?」

 

 そのまま慌てふためいたレイチェルはジュースのカップを投げ捨て、ザクウォーリアが配備されている場所にと駆け出した。その時レイチェルが目にしたもの、それは。

 

「ズゴッグ……!!」

 

 そのモビルスーツ、海の中から這い出てきた機体の名前をレイチェルは知っている。水中用のモビルスーツである。

 

 ドゥ……!!

 

 そのズゴッグが放ったミサイルだかロケットが近くのテントに着弾し、その中から人々が悲鳴を上げて飛び出してきた。

 

「ひ、人がいるのに!!」

 

 レイチェルが漏らしたその呻き声は、無論の事に謎のモビルスーツ達には伝わらず、彼らズゴッグはそのままGシステムがある丘に向かっている様子だ。

 

「この!!」

 

 レイチェルの褐色の顔が太陽の光を浴びて凛と冴え、彼女はその脚を駆けさせながら自機「ザクウォーリア」へと急ぐ。幸いな事にその脚を跳ねさせる彼女にズゴッグの群れは気がついていない様子である。

 

 ゴゥウ!!

 

 その時、そのズゴッグ達の内一機がGシステムの支援に駆けつけたモビルスーツの手により勢いよく吹き飛んだ。

 

「ジム!?」

 

 レイチェルがその口に述べた「ジム」というモビルスーツ名。しかしそれは決して強くないモビルスーツだ。だがそのジムに混ざって。

 

「お前達、何者だ!?」

 

 ジュナスの駆るジェガン、その両手にビームサーベルを構えた雄々しい姿が、支援のジムに対してそのズゴッグの「手」であるクローが。

 

「ジュナス、戦えるの!?」

 

 ズゴッグというモビルスーツ系統が持つ接近戦用の手先、あたかも甲殻類のようなシルエットを持っている機体のクローアームが攻撃を仕掛けた所でジュナスの駆るジェガンにより阻まれ、そのままズゴッグはジュナス機の頭部バルカンによって機体を強く叩かれた。

 

「わ、私だって!!」

 

 そのままレイチェルは自分のザクウォーリアが留めてある野外ハンガーに駆け、彼女は近くのメカマンに手を振りながら、自分の身をヒラリとザクウォーリアのコクピット内へ飛び込ませる。その時近くで大きな爆音が鳴った。

 

「……僕だって!!」

「……おい、やめろ小僧!!」

「……モビルスーツに乗れるんだ!!」

 

 無線機に飛び込むのは誰の声だろう、そうレイチェルは思いつつも、一つ気合いの声を上げながらザクウォーリアの動力に火を入れる。

 

 ボォウ……!!

 

「……!!」

 

 発進したザクウォーリアの隣へ砕かれたジムが滑り込む。その機体に少し気を取られながらも、レイチェルは信頼性の極めて低いレーダーにその目を移す。幸いな事に今日のミノフスキー粒子濃度は薄い。

 

「青点三つ、一つはジュナスであとは何だろう……!!」

 

 そして黄色点が複数に、これま複数の赤点がチラホラとレーダー上を踊っている。黄色は「友軍」機のジム、そしてもちろん赤点はズゴッグ達、だろう。

 

「ん……!?」

 

 その時、彼女レイチェルの目の前に一機のズゴッグが立ちはだかり、その機体は手からバルカンのような物を発射する。

 

 カァン……!!

 

「くぅ!?」

 

 幸いな事にそのバルカンはザクウォーリアの肩シールドで阻まれたが、続いてその青いズゴッグは頭、胴体と一体化している頭部の辺りからロケット弾をレイチェル機に向けて放った。敵の段幕は厚い。

 

「きゃあ!?」

 

 ズゥウ……

 

 いつの間に背後へ突かれたのか、見慣れぬ形をした水陸両用モビルスーツがその手をかざし、完全なる奇襲をもってレイチェル機ザクウォーリアの左脚を細いミサイルのような物で撃ち抜いた。

 

「地面から出てきたって言うの!?」

 

 慌ててレイチェルが振り向いた先には数機の「たけのこ」が、グレーの塗装が施された三角形型の機体が次々にその姿を現す。

 

「あう!?」

 

 そして、その大きな隙を作ってしまったレイチェルのザクウォーリア、それの右腕が先のズゴッグが放ったクローアームによって粉々に砕かれる。

 

「ええっ!?」

 

 突然訪れた絶命の危機、それにレイチェルは慌てたような声を上げながらも、必死で機体を立て直そうとしたが。

 

 バァウ……!!

 

「こ、これで終わり!?」

「レイチェル!!」

「ジュナス、助けて!!」

 

 まだ私は故郷の皆達、それの敵をとっていないどころか、その「敵」の正体すらも暴れていない。こんな所で死ぬ訳にはいかない。そう彼女は思いつつも。

 

 グゥ!!

 

 しかし、そのレイチェルの願いも空しく地面から生えてきた「たけのこ」だか「もぐら」はその胴体からレーザーのような物を発し、ザクウォーリアの頭部を粉砕した。

 

「い、嫌だ……!!」

 

 悲鳴を上げる暇もない。そのままコクピット回りへズゴッグからのクローが跳ぼうとしたとき、そのコンマ僅かな差で。

 

 ビィウ……!!

 

 レイチェル機目の前のズゴッグが、突然のビーム射撃によって破壊される。

 

「味方!?」

 

 慌てて辺りを見渡すレイチェル、その彼女の視線の先には。

 

 スゥ……!!

 

「ガ、ガンダム……!!」

 

 その両手でビームライフルを保持した、一機の白いモビルスーツの姿がそびえたつ。

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