「このズゴッグ達は無人機、のようね」
「無人機……」
と、この金色の髪をしたケイ・ニムロッドに言われても、あれほど自分が苦戦した相手が無人機だとは、ラ・ミラ・ルナには納得がし難い。
「あれほど私のズザが苦戦したのになぁ」
「それは単にあんたの腕前の問題でしょ」
「そんな、酷いです……」
「ま、それはともかくとして」
ケイという名らしき女性、彼女はそのショボくれたラ・ミラ・ルナに向かって豪快に笑いかけると、そのまま。
「このモビルスーツ達、回収しないとね」
「……何に使うんですかぁ?」
「そりゃ、色々さ」
と、ジメッとした目を自分に向ける彼女に対して、片目を瞑ってみせる。
――――――
「また、借金かあ……」
「レイチェル、少しなら貸せるぜ?」
「いいよね、ジュナスは」
大した働きもしないうちに自機ザクウォーリアを中破させてしまったレイチェル。もしかしたらこのGシステム警護の為に雇われた組合から出されるお金、それも減額されるかもしれない。
「あーあ、このまま娼婦にでもなろうかしら?」
「お、おいレイチェル……」
「こんな稼業、命が幾つあっても足りないわ」
そのレイチェルの言葉にドキマギしてみせるジュナス、しかしレイチェルにしてみればこう軽口でも叩かないとやってられない。
「楽な道を選ぼうかしらねー」
「あ、あのお前が身を売ったら……」
「な、何よジュナス?」
「俺が買いに行くから……」
ともあれ、時おりこのジュナス・リアムという少年は相手の気持ちを汲まない事を言う場合がある。その場合は大抵。
パァン……!!
このようにして、相手から頬を張られる。
――――――
「シェルド、貴方は全く!!」
「だっ、だってマリア姉さん……」
「だっても何もありません、勝手にガンダムに乗って!!」
そのせいで彼シェルド・フォーリーの姉であるマリア・オーエンスはギルド長から散々こっぴどく絞られたのだ。
「私たちは専門のモビルスーツ乗りではないわ!!」
「で、でも僕だって少しはモビルスーツ・パイロットとしての才能が……!!」
「おだまり!!」
「は、はい……!!」
マリアがここまでおかんむりなのは、単に無断でシェルドがガンダムという機体に乗ったからではない。ガンダムとの生体リンクがシェルドとの間で成立してしまったのだ。
「だ、だけど姉さん!!」
「……このままだと、私達でガンダムを買い取らなくてはならなくなる」
「そ、そうなの?」
「そんなお金、どこにあるっているの?」
「あ、あう……」
生体リンクが成立してしまうと、このガンダムには彼シェルド以外には誰も乗れなくなってしまう。となると自然にこのガンダムはシェルドの物となるわけで。
「……どうしようかしら、これから」
と、マリアは深く頭を抱えている。
――――――
「これからどこへ行くの?」
「さあなぁ……」
そのレイチェルの問いにマーク・ギルダーはその手に持っていたタバコを灰皿で潰しながら、ぼんやりとした声を彼女へ放つ。
「取りあえずは、ニホンに行こうと思う」
「ニホン……」
「あそこにはモビルスーツの情報が沢山取れるんだよ、坊や」
坊や、と言われてムッとするのがこのジュナス・リアムという少年の若い所であろう。まあ彼ジュナスといえどもこのマークに遠慮をする理由はないのだが。
「ここいらじゃ、Zガンダムのパーツも手に入らない」
「取りあえず元気で、と言っておくわ」
「言わない方がいい、次に会うときには敵かもしれないからだ」
「そうね、金次第で誰にでも付くろくでなしさん」
「言ってくれるね、嬢ちゃん……」
そう言いながらマーク・ギルダーは軽く彼女とジュナスの間に割って入ると。
「ひゃん!?」
「お、おいオッサン!!」
軽く彼女レイチェルの尻を撫でたマーク・ギルダーはそのまま、不敵な笑みを浮かべると。
「次に会うときには良い女になれよ、レイチェルちゃんよ?」
「も、もう!!」
と、そのまま彼女達の目の前から姿を消していく。
「何なの、あの人は……」
――――――
「なあ、レイチェル」
「何よ、ジュナス?」
外は雨、今日の雨は有害な為に皆が皆家だか店の中に閉じ籠っている。
「さっきのマーク・ギルダーの野郎の言葉じゃないけどよ……」
ミート・スパゲティを食べているジュナスはそこで一つ言葉を切ったのち、そのまま姿勢を正して言葉を継ぐ。
「お前がモビルスーツ乗りをやっている理由は何なんだ?」
「……」
「い、いや言いたくなければ良いけどよ」
チーズグラタンを食べていたレイチェルはそのジュナスの言葉に少しため息混じりの吐息を発したのち。少し乱暴な手つきでグラタンを頬張りながら。
「村の人、そして両親の敵討ちよ」
と、雨煙る光景が店の外に広がるなかそう言い、そのまま目を伏し目がちにしながらグラタンをガツガツと食べている。
「敵討ちかあ……」
今日の天気は薄暗く、何か陰鬱な気分になる日だ。
「そういうあんたはどうなのよ、ジュナス?」
「あ、ああ俺は……」
その時、追加の注文として運ばれてきたサラダ、と言っても合成野菜のサラダだがに手を付けながら、ジュナスはその目を微かに瞬かせてみせた。
「知り合いの女の子を探しているんだ」
「恋人?」
「違う違う!!」
サラダの味は悪く、何かドレッシングを掛けないと食べれない程だ。その合成サラダに塩味のドレッシングを掛けながら、ジュナスはその声を低くし。
「俺は親の顔も知らない、その子しか昔の俺を知っている人はいないんだ」
と、小さく述べた。
「……ふーん」
グラタンを食べ終えたレイチェルはそれ以上は聴かず、ただジュナスからサラダのおすそわけをもらう。
「だ、だからよレイチェル」
「何よ?」
「も、もし俺で良かったら……」
サラダを巡る手、二人のその手が軽く擦れ。
「協力するよ、レイチェル」
「……」
二人の視線も軽く合わさる。
「……」
「……」
暫しの間無言でサラダを頬張る二人。そのサラダを摘まむジュナスの手にレイチェルのその褐色の小さな手が軽く重なり。
「ありがとう、ジュナス」
と、若き二人の心も小さく擦れる。
ザァア……
外は毒の雨、なお止まずにただオーストラリアの地を打ち付けるのみ。