ありふれない騎士団で世界最強・リメイク 作:ムリエル・オルタ
ヴィルヘルムを除く殆どの生徒は結局戦争参加を表明した。イシュタルはヴィルヘルムに対して一瞬だけ危険な目を向けたが他のクラスメイト達が居る手前直ぐに好々爺然とした表情で取り繕い王城へと向かった。その光景はヴィルヘルムの懸念を確信させるのに十分だった。天から舞い降りる神の使徒そしてそれに付き従う様に侍る聖教教会教皇。王城に行けば教皇を立って迎える王族たち。教皇が差し出した手に口付けをする国王は見るに堪えない。
この世界はあまりにも歪で異端だった。元の世界のキリスト教ですら内部で割れていたのだ。世界規模の信者が居る聖教教会が一枚岩に近いのはあまりにも歪過ぎた。そして、権力の大きさもである。一国の国王が教会の人間を立って出迎える。元の世界では考えられない光景だ。これでは聖教教会の方が国王より偉い事を証明していた。
そして晩餐会の時、ヴィルヘルムは他の人間の目を逃れる様にテラスへと出て行った。しかし、ヴィルヘルムは少しばかり急いでいたのか完全に周りから抜け出せず、数名ほどヴィルヘルムの不審な行動に首を傾げたりしていた。そして、その中でも三名はその後を追っていた。
テラスには夜風が程よく吹いており背後からは晩餐会の楽しそうな声が聞こえる。ヴィルヘルムはテラスの端、晩餐会の会場からの光すら届かない所まで移動すると胸を押さえだした。
「あぁー、この世界でちゃんと使えるか確認しねぇとな。だが、まともなの居ねぇしなぁ。仕方ねぇ、あいつ使うか。聖槍十三騎士団が十三席カール・クラフト、変換」
その言葉と同時にヴィルヘルムの体に変化が生じた。その姿は青みがかった長髪の美丈夫が現れた。彼の名をメルクリウス、カール・クラフトやカリオストロ等様々な偽名を使い世界を放浪する
「うむ、問題は無いようだ。それにしても…………素晴らしい。未知とはこれ程までに甘美なものだったとは。私も耄碌したものだ。取り合えずこの空気を時間軸から切り離してでも保存しておかねばなるまい。あぁ、それにしても久々に思ったよ終わって欲しくないと。さて、これで我が三千八百四十二番目の未知コレクションは新たな潤いを見せた。永劫回帰も彩られた、これで後六京回帰しても耐えられよう。いや、誇張し過ぎかな?うむ、半分の三京回帰は耐えられるだろう」
「あ、あのぉ?」
「あ…………」
メルクリウスは完全にトリップしていた。原点であるメルクリウスがニートであり屑であり宇宙規模の変態である様に、この体を使った場合彼も引っ張られ原点程でないにしろウザく変態チックになってしまうのだ。ついでとばかりにトリップも良くする。
メルクリウスが振り向けばそこにはドレスに身を包んだ一人の少女が居た。彼女の名はリリアーナ・ハイリヒ。この国の王女だった。メルクリウスは瞬間でその事を思い出し、笑みを浮かべながら礼をした。
「これはこれは王女様、私に何ようかな?」
「いえ、こちらに向かわれるのを見たので。それで、貴方は?神の使徒の一人ですね?」
「然り、聖槍十三騎士団第十三席カール・クラフトと言う。よろしくお願いするよ」
メルクリウスの言葉にリリアーナは首を傾げる。異世界から召喚された神の使徒たちはその世界では学生だったと聞かされた。しかし、今彼は何と言っただろう。騎士団、そう言った。
「申し訳ありませんが、そのような騎士団は存じません。それはどの様な?」
「ふむ、まぁ、私は本人ではない。問題ないだろうから回答しよう。私たち十三人で騎士団なのだよ。一人一人が一騎当千。聖槍に集いし十三人の魔人で構成された最低災厄最恐の集団ですよ。私はそこの副頭領とでも言いましょう。……………………おっと、お喋りが過ぎたようだ。私は退散するとしよう」
「え、まっ………………え?」
メルクリウスは好き勝手言った挙句リリアーナの横を通り過ぎる。すかさずリリアーナが追いすがろうとしたものの、すでにそこには人は居なかった。そして、リリアーナとメルクリウスの会話を聞いていた人物が二人。
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晩餐会の翌日、座学と戦闘訓練が開始された。一度メルクリウスに変化していたが、クラスメイトと言う大衆が居る手前メルクリウスで最初から居るのは不味いと思い、ヴィルヘルムへと戻った。戦闘訓練や座学を行う前に全員が集められ、一人一枚銀色のプレートを渡された。騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。
何故騎士団長直々に説明するのかと聞くと、これから背中を合わせて戦うのだから、半端の者に預けることは出来ないだそうだ。それでいいのか騎士団長。最もメルド団長本人も、「むしろ面倒な雑事を副長(副団長のこと)に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていたくらいだから大丈夫なのだろう。もっとも、副長さんは大丈夫ではないかもしれないが。今頃ストレスで頭皮の心配か胃痛に悩まされている事だろう。
「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
そう言いながら笑うメルド。余りにもフレンドリーすぎて少しばかり引いているクラスメイト達だが、メルドの「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と言う言葉にクラスメイト達の緊張が少しばかり解れた様な気もした。
「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。『ステータスオープン』と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」
「アーティファクト?」
この世界特有の単語に光輝が疑問の声を上げた。
「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」
一部男子が先走り「ステータスオープン」と言い、メルドから「血を垂らすか、擦り付けて自分専用にしなければ出来ない」と苦笑い交じりに言われ赤面したりと和気藹々としながら遂に男子生徒念願のステータス提示が始まった。
少しばかり気後れしながら指に針を刺し、プクリと膨らんだ血をステータスプレートに擦り付ける。ヴィルヘルムもそれに習い、小さめに形成した針で自分を刺し、出てきた血をステータスプレートに塗る。すると火にあぶられて現れる文字の様に、ステータスプレートに文字が浮かび上がってきていた。
ヴィルヘルム・エーレンブルグ **歳 男 レベル:**
天職:聖槍十三騎士団(串刺し公)
筋力:9600
体力:8000
耐性:9250
敏捷:6300
魔力:5200
魔耐:7600
技能:ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ/櫻井戒(条件下のみ使用可)/ヴァレリア・トリファ/ヴィルヘルム・エーレンブルグ(使用中)/ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン/櫻井螢/イザーク・アイン・ゾーネンキント/氷室玲愛/ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン/ルサルカ・シュヴェーゲリン/エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ/ロート・シュピーネ/リザ・ブレンナー/ウォルフガング・シュライバー/カール・クラフト/■■■(使用不可)/言語理解
となっていた。日本に来て知ったサブカルであるゲームのステータス画面に似ていると思いながらそれを眺めていた。技能欄にある名前。全て知っている。分かっていた。一部は使用不可となっていたりしているのは現状のヴィルヘルムでは昇華出来ないからだろう。何が条件だろうか。そんな考察をしているとヴィルヘルムの目の前にメルドが来ていた。
「次はお前さんだ。お前さんは勇者や他の奴とは行動したくはないが戦争はすると聞いているが正気か?」
「正気も何も当たり前だろうが、てめぇは前線で新兵に背中預けれるのか?あいつらが言ってる事は所詮は綺麗事だ。朝いた戦友が昼には肉片に、この前まで帰る場所だったところが焼け野原に。そんなのがよくある戦争に行くんだ。あんな偶然手に入った力で世界を救うだなんだとほざく輩と一緒に居れるかよ」
そう言いながらメルドの差し出した手にステータスプレートを渡そうとしないヴィルヘルム。その行動にメルドは首を傾げながらヴィルヘルムに問うた。
「何故ステータスプレートを渡さない?」
「そんなの決まってんだろ。俺はテメェらとは別行動するって言ってんだ。場合によっちゃ共闘もあるかもしれねぇけどよ、だからって手の内を明かすのは違うだろ?」
「言っている事は最もだが、訓練にもそれぞれの個性を生かせるようにだな」
「だったら今ここで戦ってやろうか?ここに来る前と今の俺は
クラスメイトも興味津々で聞き耳を立てている。愛子先生も露骨ではないにしろ、気になっているようだった。しかし、話が思っていた方向と確実に違うため皆一様にギョッとした顔でメルドとヴィルヘルムを見ていた。
そこまで言ってヴィルヘルムは一度言葉を区切る。メルドやクラスメイト達はそれを固唾を飲んで見守る。その姿はさながら宝くじの当選番号を黙って聞いている人のようだった。って、言うかこいつら何やってるんだ。と、ヴィルヘルムは少しばかり困惑していたのは内緒である。そして、ヴィルヘルムは口を開いた。
「折角だ、ブチ殺しはしねぇがそれなりに本気で行ってやるよ」
その言葉と同時にヴィルヘルムの姿は変わり始めた、制服は黄金の粒子を全身に纏わせるかのように変化しその姿を現した。そして、そこに居たヴィルヘルムはかつて大戦の時に悪名を轟かせたナチスドイツを彷彿とさせる軍服を着ていた。その変化にクラスメイトは息をのみハジメは頭の片隅から出てきた「中二病」のTシャツを着ているミニハジメが「呼んだ?」と出てきていてそれどころではなかった。
「さあゃ殺ろうぜ。まさか、今更怖気づちまったなんてねぇよな?」
「しかし、まさか、こんなことが存在するとは……」
メルドは驚いたようにヴィルヘルムを見る。ヴィルヘルはそれに物おじせず、見つめ返す。そして、ヴィルヘルムは口を開いた。
「服装が変わったのが気になるのか?簡単だよ、コレはテメェらが言う魔法とかそういう部類のものだ。一々そんな事気にしてると禿げるぞ?」
「それは余計なお世話だ。戦争で人を殺す覚悟のある者の戦いと言うものを見せてもらおう。全員下がれ、此処からは俺と此奴の戦いだ」
メルドがそう言えばクラスメイト達は興味津々であるがこれから始まるのが殺し合いに近いものだと察して直ぐにその場を離れ始めた。一瞬止めに入ろうとした光輝は龍太郎と雫によって引き摺られながら下げられた。その姿はさながらドナドナされる子牛であり、哀愁を誘った。
「まずはテメェから来いよ。どっからでも魔法を撃っても良いぜ?先手は譲ってやる。そっちの方が分かりやすいだろ?」
「うむ、そう言われるとなぁ。困るんだが………………仕方がない。分かった、先手は貰うぞ。ぬんっ」
メルドは両手で剣を構え、真っすぐ下に振り下ろす。狙うはヴィルヘルムの脳天。ヴィルヘルムは反応せずすのまま棒立ちしている。メルドはギョッとして寸止めしようとした瞬間、かち上げられるようにメルドの剣は弾かれた。メルドがヴィルヘルムを見ればヴィルヘルムは白い手袋をはめた拳を丁度メルドの剣があった場所に振り上げていた。
「遅ぇな」
「ぬわっ!?」
その言葉と同時にヴィルヘルムは地面を蹴りメルドに迫る。速度はそのままにヴィルヘルムが繰り出した拳は真っすぐにメルドの持つ剣の横っ腹に殴りいれた。勢いよく繰り出された拳はメルドの持つ剣に吸い込まれるように向かって行きそのまま剣に当たり剣を粉々に砕け散りさせた。
「どうだ?まだやるか?やっても良いが、これ以上は手加減出来ねぇぜ?」
「いや、実力は把握した。馬鹿げた力だ、本当に惜しいな」
メルドは悔しそうにしながら剣を持っていた腕を振りながらそう言った。剣を砕かれた時の衝撃が大きく、未だ腕全体が痺れている様だった。
ヴィルヘルムはそんなメルドを一瞥するとそのままその場を後にした。背後から感じる目線を無視しながら。
少し馬鹿り、文章を付けたし前作との差別化を図りました。といっても、微々たるものですけどね。