ありふれない騎士団で世界最強・リメイク   作:ムリエル・オルタ

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取り合えず、やりたいことは出来た。満足、満足(完成度から目をそらしながら)


訣別の時 後編

ヴィルヘルムによってロックマウントは倒された。しかし、もう一体確実に残っている。そして、気色の悪い飛込をかましたロックマウントに香織たちは顔を青くしていた。そして、ここで空回りの義憤を燃やす莫迦が一人。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。彼女達を怯えさせるなんて! と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする光輝。それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。何処からどう見ても広域攻撃用の輝きだ。だが、思い出してほしい。此処は迷宮、地下だ。そんな場所でそんなものを撃てば………。

 

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

メルドの声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを消し飛ばし、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 

パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った光輝。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ! と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。それもそうだろう、光輝がやった事は地下塹壕で手榴弾を爆発させたようなものなのだ。迷宮が頑丈だったからいいものの脆かったら此処に居る全員仲良く瓦礫の下で圧死だろう。それも、地味にステータスが高い所為で苦しみながら死ぬことになる可能性が高い。

 

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

メルドからこっぴどく叱られている光輝を見ながらヴィルヘルムは周囲を警戒していた。ヴィルヘルムからしてみれば光輝の行動は予想の範囲内。大きな子供な為、その行動を予測するのは容易い。

光輝が怒られているのを目尻に捉えながらふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

メルドはグランツ鉱石について簡単に説明した。グランツ鉱石は言わば宝石の原石みたいなものであり。特に何か効能があるわけではないものの、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

「素敵……」

 

香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとヴィルヘルムに視線を向けた。もっとも、雫と本人、それともう一人だけは気がついていたが……。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。香織に良いところを見せたいがための行動だった。それに慌てたのはメルドだ。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

メルドは、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

「団長! トラップです!」

「ッ!?」

 

しかし、メルドも、騎士団員の警告も一歩遅かった。

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏がある。世の常である。

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

メルドの言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

部屋の中に光が満ち、クラスメイト達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。クラスメイト達は空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 

ヴィルヘルムはどうにか尻餅を着くことは無かったが体制を少し崩していた。周囲を見渡せばクラスメイトのほとんどは尻餅をついていたが、メルドや騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

どうやら、先の魔法陣は転移させるものだったらしい。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。一応言うが、ここに現代の魔術使いと言うか、魔法使いの魔女と変態は含まれていない。

 

ヴィルヘルム達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

 

橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。ヴィルヘルム達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

それを確認したメルドが、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。それを冷静に見ながら動かないヴィルヘルム。この時ヴィルヘルムは此処に居れば面白い事が起きるとちょっとした啓示じみた直感を感じていた。

 

しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現しからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルドの呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

「まさか……ベヒモス……なのか……」

 

橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は一メートル位の大きさだが、その数がおびただしい。

 

小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物トラウムソルジャーが溢れるように出現した。空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は、既に百体近くに上っており、尚、増え続けているようだ。

しかし、数百体のガイコツ戦士より、反対の通路側の方が面白そうだとヴィルヘルムは感じていた。

 

十メートル級の魔法陣からは体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が出現したからだ。もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスだろうか。ただし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているという付加要素が付くが……。

 

メルドが呟いた『ベヒモス』という魔物は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

 

その咆哮で正気に戻ったのか、メルドが矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、最強と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

メルドの鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる光輝。大した正義感だ。しかし、それを発揮するタイミングでは無い事位自覚してもらいたいものである。

 

どうにか撤退させようと、再度メルドが苛立ちながら光輝に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。

 

そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」

 

二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ。

 

衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

 

トラウムソルジャーは王宮の図書館にあった本によると三十八階層に現れる魔物だ。今までの魔物とは一線を画す戦闘能力を持っている。前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配に生徒達は半ばパニック状態だ。

 

隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。騎士団員の一人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。

 

その内、一人の女子生徒が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

 

「あ」

 

そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。

死ぬ――女子生徒がそう感じた次の瞬間、トラウムソルジャーが砕け散った。トラウムソルジャーの後ろに居るのは拳を振りかぶった後のヴィルヘルム。普段付けているサングラスを外し、赤い目が爛々と輝いている。それこそ、一瞬見ただけなら新たな敵かと思うくらいには輝いていた。

 

そのまま女子生徒に歩み寄るヴィルヘルムは片手で女子生徒を片手で起こす。そしてそのまま荷物を抱える様に抱きかかえ始めた。

 

「え?」

 

状況がいまいち分かっていない女子生徒は驚きの声を上げている。ヴィルヘルムはそんな事お構いなしに走り出し、片っ端からトラウムソルジャーを粉砕していく。抱えられた女子生徒の悲鳴なんてヴィルヘルムには聞こえていないのだ。

退路を作ったヴィルヘルムは片手でトラウムソルジャーを粉砕しながら叫んだ。

 

「さっさと、隊列く見直してこっちにこい!パニックになって魔法を乱射するな!てめぇらは味方を殺したいのか!?」

 

そう言いながら、次々とトラウムソルジャーを粉砕しているヴィルヘルムの所にちょうどいいタイミングで光輝が走ってきた。

 

「皆!落ち着いてくれ!俺が来た!もう安心してくれ!」

「はっ、まるで三文芝居を見てる気分だ。だがまぁ、ちょうどいい」

 

そう言って光輝の横をヴィルヘルムはすり抜けメルドとハジメ、雫や香織が居る前線へ向かった。因みに、件の女子生徒は未だ抱えられている。ヴィルヘルムの動きがあまりにも激しすぎたが為に伸びているのだ。

 

「楽しいことしてんじゃねぇか。混ぜろよ!」

 

そう言いながらハジメに襲い掛かろうとしていたベヒモスの頭を蹴り上げる。下から蹴り上げられ体勢を崩したベヒモスの腹に拳を打ち込む。ベヒモスは砂埃を上げながら後ろに下がっていった。

 

「オラ、テメェらもさっさと下がれよ。指揮系統乱れてんだからさっさとしろ」

 

そう言いながら獰猛な笑みを浮かべベヒモスを見るヴィルヘルム。それに対して光輝より説得は難しいであろうし、そもそも自身で止めれないことが分かってしまったメルドは「すまない」と言って騎士と一緒に後方でトラウムソルジャーと戦っている光輝達に合流しに行った。その際、「自分たちは此処に残る!」と言った香織と雫はメルドとハジメの説得によって渋々メルド共に後方に下がった。ヴィルヘルムは女子生徒を持っている事を忘れている。というか、誰も突っ込まないの?既に混乱している戦場ではそんな些細な事は気にされていなかったのだ。

 

「なぁ、ハジメ。何か策があるのか?」

「うん、あるっちゃあるよ。ただ、それはただの足止めにしかならないし。希望的観測だから実際やったら無理な可能性の方が高いんだ」

 

そう言ってハジメから提示された作戦はハジメの『錬成』によってベヒモスの足元を固めベヒモスの動きを止めその後、後方のクラスメイト達によって魔法を撃ちあわよくば奈落の底に落とす作戦だった。ヴィルヘルム一人ならばベヒモスをこの場で殺そうとしただろうがここには負傷者と戦闘で疲労した者が多くいる。先ほどのパニック状態より幾分かマシになったとはいえ不安は残る。ヴィルヘルムはハジメの考えに賛成し、ハジメが錬成できる隙を作るためにベヒモスの前に躍り出た。

 

「さぁ、楽しませてくれよ……………デカブツゥ!」

「あ、ちょっと降ろしてぇぇぇぇ」

 

形成などしない。単純な身体能力のみでベヒモスに殴りかかる。並の人間ならば骨と肉片の散弾が出来上がる一撃を受けても両面が凹み血が吹き上げるだけ。異世界の魔物は元の世界の人間より硬い。その事実がヴィルヘルムをより一層楽しくさせる。ついでとばかりに目覚めた女子生徒の悲鳴が響く。

同じ様に拳で戦う龍太郎等及ばないレベルの打撃。一撃がベヒモスに入るごとに洞窟内を鈍い音が響かせる。

 

「エーレンブルグ君!」

「了解っと」

 

始めの合図に合わせてヴィルヘルムは下がる。それと同時に橋の上で怯んでいたベヒモスの脚に橋からハジメの錬成で作られた拘束具擬きが絡みつく。弱ったベヒモスではそれを直ぐに振りほどけずそのままその場で暴れる。それを横目にハジメとヴィルヘルムはメルドたちが居る場所まで走る。しかし、腐っても異世界最強の冒険者(当時)を倒した魔物。直ぐに拘束を振りほどきハジメとヴィルヘルムを追い始めた。

 

「前衛組! ソルジャーどもを寄せ付けるな! 後衛組は遠距離魔法準備!アイツらが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

「あ、まだ持っていたな。すまねぇな。ま、安心しな、アイツは俺が殺してやるからよ」

 

ビリビリと腹の底まで響くような声に気を引き締め直す生徒達。中には階段の方向を未練に満ちた表情で見ている者もいる。無理もない。ついさっき死にかけたのだ。一秒でも早く安全を確保したいと思うのは当然だろう。しかし、メルドの「早くしろ!」という怒声に未練を断ち切るように戦場へと戻った。

ヴィルヘルムは、ようやく自身が女子生徒を抱えたままであることを思い出し、丁重に降ろして乱暴に頭を撫でるとそのまま前線へすっ飛んでいった。

 

魔法を放とうとしている後方組に檜山もいた。自分の仕出かした事とはいえ、本気で恐怖を感じていた檜山は、直ぐにでもこの場から逃げ出したかった。

しかし、ふと脳裏にあの日の情景が浮かび上がる。それは、迷宮に入る前日、ホルアドの町で宿泊していたときのこと。

緊張のせいか中々寝付けずにいた檜山は、トイレついでに外の風を浴びに行った。涼やかな風に気持ちが落ち着いたのを感じ部屋に戻ろうとしたのだが、その途中、ネグリジェ姿の香織を見かけたのだ。

 

初めて見る香織の姿に思わず物陰に隠れて息を詰めていると、香織は檜山に気がつかずに通り過ぎて行った。気になって後を追うと、香織は、とある部屋の前で立ち止まりノックをした。その扉から出てきたのは……ハジメだった。

檜山は頭が真っ白になった。檜山は香織に好意を持っている。しかし、自分とでは釣り合わないと思っており、光輝のような相手なら、所詮住む世界が違うと諦められた。

しかし、ハジメは違う。自分より劣った存在(檜山はそう思っている。って言うかそもそも勘違いしている)が香織の傍にいるのはおかしい。それなら自分でもいいじゃないか、と端から聞けば頭大丈夫? と言われそうな考えを檜山は割と本気で持っていた。

 

因みに、事の真相は予知夢の様なものを見たのもあるが異世界に来て最もヴィルヘルムに会っているであろうハジメに情報提供をしてもらうためである。これは召喚される前から行われており、ハジメが香織に初めて出会ったのは店員によってエロゲコーナーから雫共々締め出されたときである。これは酷い。

 

溜まっていた不満は、すでに憎悪にまで膨れ上がっていた。香織が見蕩れていたグランツ鉱石を手に入れようとしたのも、その気持ちが焦りとなってあらわれたからだろう。

 

その時のことを思い出した檜山は、ベヒモスを抑えるハジメとヴィルヘルムを見て、今も祈るようにハジメを案じる香織(檜山視点)を視界に捉え……ほの暗い笑みを浮かべた。

その頃、ハジメはベヒモスから全力で逃げていた。その横では涼しい顔で走るヴィルヘルムが居る。そんな中ヴィルヘルムはチラッと背後を見るまだベヒモスとの間はそれなりに明いている。前を見れば隊列を組んで詠唱の準備に入っているのがわかる。

ヴィルヘルムに負わされた怪我によってうまく追いつけず、怒りの咆哮を上げるベヒモス。ヴィルヘルムとハジメを追いかけようと四肢に力を溜めた。

だが、次の瞬間、あらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。

 

夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。ダメージはやはり無いようだが、しっかりと足止めになっている。

 

すぐ頭上を致死性の魔法が次々と通っていく感覚は正直生きた心地がしないが、流石にFF(フレンドリーファイア)等のミスをするはずないと思い駆ける。ベヒモスとの距離は既に三十メートルは広がった。流石にこれならハジメでも逃げられるだろうとヴィルヘルムは横を走るハジメを見る。ハジメも視線に気が付きやり切った笑みを浮かべた。

 

しかし、その直後、ハジメの表情は凍りつきヴィルヘルムは頬を引き攣らせた。

無数に飛び交う魔法の中で、二つの火球がクイッと軌道を僅かに曲げたのだ。

 

……ヴィルヘルムとハジメの方に向かって。

 

明らかに二人を狙い誘導されたものだ。

 

(意図的なFFか!?)

 

怒りや困惑、驚愕が一瞬で脳内を駆け巡り、ヴィルヘルムはは愕然とする。

 

咄嗟に踏ん張り、止まろうと地を滑るハジメを蹴りで退かしヴィルヘルムはの眼前に飛んできた火球を耐える。ハジメは火球をもろに受けはしなかったが着弾の衝撃波をモロに浴び、来た道を引き返すように吹き飛ぶ。爆風だけしか受けていないので内臓などへのダメージもないが、三半規管をやられ平衡感覚が狂ってしまった。

 

フラフラしながら少しでも前に進もうと立ち上がるが……。

ベヒモスも、いつまでも一方的にやられっぱなしではなかった。ハジメが立ち上がった直後、背後で咆哮が鳴り響く。思わず振り返ると三度目の赤熱化をしたベヒモスの眼光がしっかりハジメを捉えていた。それを見てヴィルヘルムはハジメの手を掴みメルドたちが居る方向に向かって投げる。

 

標的をハジメからヴィルヘルムへと変えたベヒモスは赤熱化した頭部を盾のようにかざしながらヴィルヘルムに向かって突進する!

迫り来るベヒモス、遠くで焦りの表情を浮かべ悲鳴と怒号を上げるクラスメイト達。

 

ヴィルヘルムはベヒモスの攻撃を難なく避ける。直後、怒りの全てを集束したような激烈な衝撃が橋全体を襲った。ベヒモスの攻撃で橋全体が震動する。着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走る。メキメキと橋が悲鳴を上げる。

 

そして遂に……橋が崩壊を始めた。

度重なる強大な攻撃にさらされ続けた石造りの橋は、遂に耐久限度を超えたのだ。

 

「グウァアアア!?」

 

悲鳴を上げながら崩壊し傾く石畳を爪で必死に引っ掻くベヒモス。しかし、引っ掛けた場所すら崩壊し、抵抗も虚しく奈落へと消えていった。ベヒモスの断末魔が木霊する。

 

ヴィルヘルム流石にコレは不味いと撤退しようとする。しかし、ベヒモスからそこまで離れていなかったヴィルヘルムの足元も既に崩壊しておりジャンプして撤退するにも足場が不安定でどうしようもない。前方では確かに助けたはずのハジメがヴィルヘルムより先に奈落へ落ちている。それにヴィルヘルムは驚き一瞬固まってしまう。その瞬間に足場も完全崩壊し、ヴィルヘルムも奈落へと落ちる。崖から香織が手を伸ばしているように見えるがヴィルヘルムはそれどころでは無い。

 

一緒に落ちる瓦礫に飛びつき徐々に壁に向かう。先ほどはクラスメイトの手前躊躇したが流石にこの状態でヴィルヘルムも躊躇することは無かった。

 

形成(Yetzirah)

 

異世界に来て初の形成。それは奈落への墜落を阻止するために使われた。ヴィルヘルムの体から無数の棘が生え棘は崖に深々と突き刺さった。ヴィルヘルムの落下もそれに伴い止まった。

 

「全く、やってくれるな。しかし、丁度いい理由付けにはなった。これで諸手を上げて王国から出ることが出来る。まぁ、その前にこの崖を登らなくちゃいけないが…」

 

ヴィルヘルムとしてではなく元の人間としての口調でそんな事を呟きながら上を見上げる。そこまで落ちていないとはいえ、落ちた場所からさす光が小さく見える。先に帰られて死亡報告でもされた場合は上から出ることが出来なくなる。それを考えたヴィルヘルムは早めに上に上がらねばならないと決意し、生やした棘を戻し、別の場所に手をやりそこでもう一度棘を生やし、登って行った。

 

崖を登りつ続けること数十分。どうにか登り切った。しかし、既にそこにメルドたちは居らず未だ湧き続けるトラウムソルジャーがヴィルヘルムに迫ってきているだけだった。

 

「………………邪魔だ。そこを退けぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

形成で生えた棘を使いトラウムソルジャーを倒しながら前へ進むそして暫く進むとメルドたちと合流することが出来た。それと同時に形成を辞め、穴が少しばかり開いた武装親衛隊の服のまま合流した。

 

「エーレンブルグ!?生きていたのか!」

「あんなので死ぬわけねーだろうが!さっさとここから帰ってきっちり事情を説明してもらうからな!」

 

驚くメルドに若干どころでは無いがキレ気味に叫ぶヴィルヘルム。その間も魔物を倒し、その戦いぶりはまさに鬼神のごとし。その戦いぶりにはメルド達すら引き、クラスメイトは絶対にケンカを売らないでおこうと心に誓うほどだった。

 

誰から見ても怒り心頭なヴィルヘルムの後ろ姿に落ちたけど大丈夫なのか、どうやって戻ってきたのか、疑問や心配等から声をかけようとした雫を躊躇わせた。因みに、光輝はヴィルヘルムの戦闘の余波で吹っ飛んでいる。

ヴィルヘルムはそんな事お構いなしに突き進み、心の中で絶対に問い詰め、それをダシに王国から出て行ってやると誓っていた。




今日中に何処までリメイクして更新できるかなぁ…。
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