ありふれない騎士団で世界最強・リメイク 作:ムリエル・オルタ
ヴィルヘルムが鬼神の如き快進撃を繰り返したおかげで帰りは早く、その日はホルアドに宿泊。翌日に朝一番の高速馬車によってメルド達は王国へとんぼ帰りすることとなった。
王国に着くとヴィルヘルムはすぐに王国上層部に対し、
不機嫌なヴィルヘルムに王国関係者やクラスメイトは恐ろしくて近づくことが出来ない。この時ばかりは、突撃少女香織が現れることを切に願った。しかし、とうの少女はハジメとヴィルヘルムが奈落に落ちた瞬間を見て錯乱その場でメルドにより意識を失わされてから一度も目を覚まさない。雫としては早く香織にヴィルヘルムの無事を報告したいが、ハジメは戻ってきていない。その事もあり素直に喜ぶことが出来ない状態で看病している。
光輝と龍太郎は目の前で助けられず寧ろ助けられてしまった事が悔しかったらしく昼夜訓練に明け暮れている。ヴィルヘルムは図書室と自室を行き来しつつ、たまに訓練場に現れ地面を荒らして帰って行く。整地に魔法を使わないといけない程の威力にクラスメイトは恐怖するばかりであり、助けられた女子生徒は不安そうにヴィルヘルムを見ていた。
メルドの土下座するような勢いでのもう一度オルクス大迷宮へ同行して欲しいと頼まれ日程も既に組まれており殆ど事後報告に近い状態であったため、ヴィルヘルムは渋々了承することになった。
そして王宮もに静まる真夜中。ヴィルヘルムは自室から出て来て
「誰が俺に撃ったのか分からねぇが、意図してコッチに撃ってきたのは間違いねぇ。そんなクソ野郎が居る場所に何時までも居るのも癪だが、こうするしか手がねぇからな」
そう現状に愚痴りながら廊下を歩き、大広間に出た。大広間はそれぞれ神の使徒として召喚されたクラスメイト達の部屋に繫がっており大広間は彼らが集まる場所となっている。今は夜中なので誰も居ないが。
明かりも最低限に留められ、その中で光るヴィルヘルムの赤い目はホラーが苦手な人間には失神モノだろう。ヴィルヘルムはそんな事気にもとめず大広間に付けられているベランダに出る。夜風が吹き少しばかり肌寒く感じるが武装親衛隊の服は厚手のため寒くはない。
「あぁ~、元の世界ならもっと暇をつぶせるモノがあったんだがなぁ」
軽く軟禁状態な現状では夜中に出歩いても何もすることがない。だからといって昼間に動くのはヴィルヘルムとしては辛い上に周りの目が鬱陶しい。一応は夜中であるために音を立てないようにベランダから出ながら城の内部図を頭に思い浮かべる。そして、近くに寝泊まりする場所がない中庭があったと思い出す。ヴィルヘルムはそこに向かって行った。
月明りが照らす中庭は異世界というフィルター越しで見ているせいかとても幻想的に見えた。ヴィルヘルムはその光景に内心少しばかり感動しながら自身の魂の一部を形にする。異世界に来る前から既に数えるのも億劫な程人間を殺し、その魂を回収したヴィルヘルム。その魂の一部を使いバイオリンを作り出す。
静かにヴァイオリンを構え、演奏を始めた。曲は『Rozen Vamp』本来様々な楽器を使って複数人で演奏するべき曲なので少しばかり寂しく感じたが、ヴィルヘルムはただの暇つぶしにそこまでしなくていいだろうと考え、そのまま観客の誰もいない演奏会は続く。
誰もいないと思われた中庭にヴィルヘルム自身以外の気配を感じ演奏を止め、そちらを向いた。そこには薄着で佇んでいるリリアーナだった。クラスメイトの誰かだと当たりをつけていたヴィルヘルムは予想が外れ、意外そうな顔をした。
「こんな夜中に何の御用でしょうか、王女サマ?」
「あ、いえ、眠れなくて此処に来たら丁度演奏していたものなので、お邪魔でしたか?」
「いえいえ、とんでもない」等と白々しく呟くヴィルヘルムはリリアーナを見る。リリアーナは優雅な足取りでヴィルヘルムの近くまで来ると興味深そうにヴィルヘルムの持っていたバイオリンを眺めた。
「それは私物ですか?でも、そんな物持ってませんでしたよね」
「あー、なんて言ったらいいんですかねぇ。魔法だとでも思っといてくれればいいですよ」
「魔法ですか」と、恐らく自身の覚えているであろう魔法の中にそんなものがあったかどうか思い出しているのだろう。ヴィルヘルムはそんなリリアーナを見ながらふと懐かしさを覚えた。昔、似たようなシチュレーションがあった気がする。それこそ、この狂気とすら言える既知感を感じるよりずっと昔。しかし、思い出せない。そんな思い出そうにも思い出せないなんとももどかしい感覚がヴィルヘルムを襲った。
ヴィルヘルムはその感覚から逃れる様にバイオリンの演奏を再開させた。その際、リリアーナへの目くばせをした。当のリリアーナは今から行われる演奏を心待ちにしているのかヴィルヘルムの視線に気が付いていなかった。ヴィルヘルムはそんなリリアーナを一瞥するともう一度演奏を始めた。それと同時にヴィルヘルムの頭にノイズの走った映像が流れた。
「ヴァイオリンなんか始めたんだー」
「そうだね、ベイの曲をヴァイオリンでやるっていいと思わない?」
「あー、確かに。まぁ、私はシュライバー派だけど」
「両方とも仲悪いじゃん」
「ホントにねー」
頭によぎったそれと同時に頭痛が起こる。それを表すかのようにヴィルヘルムの手元も狂い、ヴァイオリンは不協和音を出した。それに若干眉をひそめながら、ヴィルヘルムは考える。今頭によぎった会話は何だったのか。自身の記憶にないその会話にヴィルヘルムは心地よい、それこそぬるま湯に漬かる様な感覚を覚えた。ヴァイオリンを弾く手も止まり、聞いていたリリアーナも不思議そうにヴィルヘルムを見る。
「今日はおせぇですし、ここらでお開きにしましょうや。よい夢を~?」
「なんで疑問形なんですか…」
どうにもこれ以上弾く気にもなれなかったヴィルヘルムはそう言ってリリアーナから離れその場を後にした。その後姿をリリアーナは半目で見ながら、なぜか感じるデジャヴ間に首をかしげながら丁度来た眠気に身を任せるため、自室へと戻っていった。ヴィルヘルムの擦れた過去の願望はもう一度、彼を狂気へと落そうと迫っている。
また、とある一室では一人の少女がベットの中で悶々と悩んでいた。少女の名前は園部優花。ヴィルヘルムに抱えられながら振り回された被害者である。無事に帰ってこれたのは良かったが、もう一度出られるかと聞かれれば怖さで足がすくみ、無理であると言えるであろう。しかし、彼女にはとある悩みが生み出されていた。
「あの目、あの笑み…かっこよかったなぁ」
そう。彼女はこともあろうかヴィルヘルムに一目ぼれしたのだ。此処に第三者が居れば吊り橋効果だ、一時の迷いだと正気に戻すために奮闘するだろうが、残念ながらここには優花一人であり、突っ込みなしの状態だった。
結構雑な扱いをされていた筈なのにこの様な感情を抱いているのには訳がある。そもそも、助けた後優花は気絶しており次に目が覚めた時にはベヒモスを相手に自分を抱えながら善戦している所だった。
恐怖よりも、その強さを見せられた事による安心感。その後にガシガシと乱暴に撫でられたのが決め手となった。…決め手になってほしくなかった。
この戦闘時のヴィルヘルムはサングラスを外しており、その赤眼を真正面から見た優花はその目に魅了されていた。因みに言うが、ヴィルヘルムの目に魅了とかそんな便利な能力は無い。
つまり、完全に優花が一人で舞い上がっている訳である。そして、優花はヴィルヘルムのある部分を思い出し、身もだえし始めた。
「あぁ~!あの鋭い歯で首元を噛まれたら………控えめに言って最高ね」
現状の優花は控えめに言って最低である。もう、変態への道を全力で走り始めていると言っても過言ではない。ここに、一人の吸血鬼に魅了された哀れな少女が爆誕した。それは、誰も祝わず。後に、関係者全ての頭を抱えさせる事態へと発展したのだった。
あ、優花さんが変態枠に落ちてる気がする…。まぁ、普段常識人枠のキャラもこういったのも良いでしょ?(自己弁護)