ラフムに憑依していたのでシドゥリさんを救いたいと思います。 作:赤狐
誤字報告ありがとうございます
「───
「───ここまでか!
「……茨木童子さん!?わたしとマスターを掴んで、何を─────っ!?」
「うわわわっ!?」
「口を閉じろ!舌を噛むぞ!」
「ふん。まさしく獣か」
珍しく鎧を身につけたギルガメッシュが抑揚のない声で呟く。
「追っ手をかけますか、ギルガメッシュ王?」
振り返って玉座に戻る王の表情からも感情を伺いしれない。
「よい、捨て置け。あれはああいうモノだ。矜恃も名誉も顧みることなく、ただ生きるために、その他の全てに背を向けられる。それのなんと醜く、なんと浅ましく、なんと美しいことか」
口をとざす寸前の僅かの間、細められた双眸から伺い知れたのは懐かしさだろうか。
しかし、余程のことでない限り、具体的には王が旅に出た時以外の事であれば祭司長は知っているはずだが、彼女の記憶にはない。
「───ッ」
瞬間、彼女の頭に突如として痛みが走る。
それは、彼女が知り得ないはずの記憶の断片。
朧気で、少しでも意識を他の事項へ向けてしまうと二度と浮上することの無い細い糸。
しかし、その記憶が確かに実在していたものだという確信が彼女にはあった。
「……思い出した、故に
「はぁ……。では、王の宝物庫を狙ってきた罪についてはお咎めなしということで?」
シドゥリが霞んだ記憶を手繰り寄せようと試みた刹那、再び頭痛が彼女を襲う。
まるで彼女に思い出すな、と告げるように激しさを増すその頭痛は一向に止む気配がない。
頭蓋が割れんばかりの苦痛に晒されながら脳裏をよぎるのは先程の青年。
盗賊にしては派手であり、この国の装いでないことはひと目でわかる。
けれど、彼女をざわつかせたのはその行為でもその異装でもない。
黄色い衣を纏った小柄な人物に首根っこを掴まれ、人ならざる跳躍で空を舞う中で一瞬目が合った。
素性の
「獣と言ったであろう。あれは宝物庫の肉の匂いに惹かれ、扉の前をうろついていた野犬に等しい。わざわざ巣穴まで追って殺すこともあるまい───。再び来れば容赦なく踏み潰すがな」
彼に何かを伝えたかった、伝えなくてはならなかったはずなのに。
「…………」
「……シドゥリ」
「ッ!は、はい」
頭痛に苛まれる中、青年の見せた笑顔の真意を図っていた為か、ギルガメッシュの声に反応がワンテンポ遅れる。
急いでシドゥリが俯いていた顔をギルガメッシュの方に向けると、ギルガメッシュが感情の起伏の無い瞳で静かに彼女を見つめていた。
「その調子では我の職務に支障をきたす。今日はもう良い、下がれ」
「!い、いえ、王、私は───」
「これは王の
「……はい、失礼します」
表情と声色を変えることなく、淡々と告げるギルガメッシュに深々と一礼し、その場から歩み去る。
その姿は他の者なら違いが分からないが、ギルガメッシュは彼女の背がいつもより小さく見えた。
そして、彼女の背が完全に見えなくなり、この空間に一人きりとなった王は低く呟く。
「これが、貴様の成した功績の結果だ、藤丸。命無いはずの者が存在し、無いはずの記憶がその者の内に宿っている」
「───だが、その中に貴様はない。だというのに、貴様はあのような顔をするのだな」
「気づいておるか、そのあり方は決して人ならざるものだ。それを何も持たなかったお前が───」
「なんと歪なものよ」
× × ×
ジグラットを後にしたシドゥリ、しかし彼女の思考を占拠しているのは先程の失態であった。
怪我をした訳でもない、病に侵されていた訳でもない、だというのに彼女はギルガメッシュ王への返答に遅れた。
これまで一度たりとも執務中に集中力を欠かしたことの無い彼女にとっては有り得ない出来事だ。
なぜ彼女が普段なら有り得ないミスを犯したのか、それはそれ以上に有り得ない出来事が起こったからだが、
つい先ほどまで掴みかけていた霞んだ記憶も、実際に目にした異国風の青年たち一団のことも彼女の記憶には残っていない。
生み出された記憶の空白は違和感を抱いてもおかしくは無いが、その正体を突き詰める前になんでもないものとして時間に圧縮されるであろう。
その証拠に、今のシドゥリは頭痛に苛まれていない。
いや、そもそも頭痛に苦しんでいたことすら今となっては
答えの出ない問題に頭を悩まし続けるシドゥリは思考の隙間で今いる道がいつも使う道と違うことに気づく。
この先なんて
一瞬、彼女の脳裏を何かが掠めたような気がしたが、それに意識を向ける前にふわりと甘い香りが彼女の鼻腔をくすぐる。
香りが漂ってきた方向へとシドゥリが意識を向けると、色鮮やかな花々が凛とした様子で並べてあり、その後ろには華やかなそれらに似つかぬがっしりとした男性が立っていた。
そのミスマッチ具合に思わずくすりと笑みを浮かべ、花々が飾ってある屋台に近づいた。
「あぁ、いらっしゃい……って祭司長様じゃないですか」
やや驚いたようにシドゥリを見つめる主人らしき男。
一般のウルク市民同様に何も羽織っていない上半身は兵士ほどとは言わずとも鍛えられており、勤勉な労働者のそれであった。
「こんにちは、あなたがここの主人なのですか?」
「あー、本当は俺のおばあ……祖母がやってる店なんですがちょいと熱が出たもんですからうちの女房に看病を頼んでいます。んで、俺がおば……んん、祖母の代わりにやってる訳です。……やっぱ男が花屋ってのはおかしなもんですかね?」
「いえ、立派だと思います。お祖母様想いなのですね。ところで、このお花たちはあなたが?」
「えぇ、そうです。先日エリドゥからの帰り道……あぁ、普段は商人をしているものですのでその為に。それで、その帰り道にふと何かに誘われるように道から外れた場所へと視線が釘付けになりまして」
「今まで気にもかけなかったんですが、あの時はなんでか強烈な既視感が襲い、まるで吸い込まれるように馬を止めて向かいました」
「しばらくすると、鬱蒼とした森林の中とは信じられないほどの場所に着きまして、そこで見たことの無いほど美しい花畑が広がっていたので幾つか摘んできた次第です。それがこっちの方ですね」
照れたように早口で説明する男を前に、シドゥリは男が指さした花たちに視線を移す。
淡いピンクや澄んだ薄紫、時折混ざっている白い花々は見ているものに安らぎを与え、その香りはほんのりと甘い。
けれど、シドゥリは顔を困惑の色に染めていた。
話を聞く限り、彼女が見知った場所でもなければ見た事のある花ではない。
だというのに、その香りは彼女の心を絶え間なく揺らす。
どこか、懐かしいものとして。
「……」
「それが気に入りましたか?良ければ貰っていってください」
「え、えぇ、はい……あ、あぁ、いえ、お代を支払わなければ」
意識の外からかけられた声に反射的に応えしまう彼女だが、自分にかけられた言葉の意味を飲み込んだ後に急いで言い直す。
「いいんですよ、朝からこの大通りでやってるんですがこの顔ではからっきしでして。それに、花たちも愛でてくれた人がいた方が喜びますよ」
「……では、お言葉に甘えて。本当に、ありが───」
「……?」
男のいかつい笑顔と善意を受け取り、感謝の言葉を返そうとした刹那、シドゥリは目を見開く。
───あぁ、これだ、これだったのだ。
「どうかなされました、祭司長様?」
「……いえ、なんでもありません、なんでも」
誰にかは忘れてしまった、どうしてなのかも覚えていない。
───けれど
「本当に、ありがとうございました」
この言葉を伝えたかったのだ。
顔も名前も思い出せないあなたに。
受け取った花束を抱え、彼女は帰路に着く。
その表情は花にも負けぬほど華麗な笑顔であった。
スイートピーの花言葉
「門出」「別離」「優しい思い出」「永遠の喜び」「私を忘れないで」
お久しぶりです。遅くなりました、申し訳ありません。
というのも、FGOやらないで書いててもいいのか?という思いつきに突き動かされ本編を進めていたためです。お陰様で2部5章(後半13説で辛い)まで来ることが出来ました。
もう1話+おまけ?で終わりの予定です。